以下のファイルは「プライベート」と名の付いたコードで保護されたフォルダで発見されました。このコードはサイト-DE6にて確保された後にスーパーコンピュータによってハッキングがなされました(他のパスワードとは異なり、コンピュータがこのコードをハックするのにかなりの時間(6時間)を必要としたことを明記すべきです)。
コンピュータのブラウザ履歴では技術系・機械系部品が販売されている無数のサイトが発見され、また様々な食料品の宅配サービスのタブが開いていました。購入者を辿ることで、「クラウス・ヴァイルルート」という偽名を用いて購入者が「エディ・パトリック・フォード」と呼ばれており、この2年前から行方不明になっていたことが判明しました。焼け焦げた死体は彼のものと特定されましたが、ケーブルがいかなる目的のものかは判別できませんでした。
最後の指示がアップロードされた直後、チームがサイト管理者に報告し、管理者はD-21511に全ての指示を実行するように命令しました。また、支援のために███博士と██████博士が派遣されました。現在ではその緊急性は最も妥当であったと言われています。実行プロトコルは以下の通りです。
D-21511(以降フォードと呼称)は、██████博士によって尋問室に連行された。同じくSCP-200-DEも部屋に運び込まれ、CP-200-DEの回収中に発見された全てのファイルのコピーが入ったノートパソコンも運び込まれました。フォードにグラス一杯の水と3切れのパンが渡され、██████はボイスレコーダーのスイッチを入れました。
██████: 今から初回調査を実施します。我々はチームを利用してあなたをウェブから連れ出し、現在あなたは拘留されています。まずは1つ目の質問をしましょう。フルネームと出身地、年齢を教えてください。
フォード: エドウィン・P・フォード。チューリッヒ。42歳。
██████: 本名でお願いします。
フォード: 溜息を吐く。 エディ。エディ・パトリック・フォード。
██████: よろしい。2つ目の質問です。発明クラブ「█████」を知っていますか?
フォード: 当然ながら。
█████: それなら確実にこちらのものの起源について話せますね。 SCP-200-DEをグリップツールで持ち上げる
フォード: ああ、クソが。それは失敗作なんだ。過ちだ。他の何でもない。
█████: あなたの「過ち」がどれ程の人の命を奪ったのか知っていますか?
フォード: ちょうど6人。文書を確保してくれていてよかったよ。
█████: 正解です。それでは「世界の進歩」についての全てを教えてください。全ての始まりから話してください。
フォード: それじゃあ。私の名前はエディ・パトリック・フォード。42歳のチューリッヒ生まれ。公式記録では2年前から行方不明になっている。全ては4月31日から5月1日にかけての夜に始まった。その時私はベッドに横になって明かりを消し、しばらくしてから眠りに落ちていた。それから果てしない虚空の中にいた。本物の虚空だ、真空やら何やらじゃない。私には体もなく、物を見る力もなかった。その時は体がなかったから、暗くもなく、寒くもなかった。突然目の前でシンボルが燃え上がった。真っ白だったが、完全に二次元的だった。その記号のすぐ後ろには「=」がくっついていた。それから…
沈黙
█████: それから?
フォード: 次の瞬間には私の周りの全てが大量の数字になっていた、周囲全てに溢れていた。前も、後ろも。私ですらも数字でできていた。それらの数字は「=」の後に列をなし、さらにそこには算術演算子や括弧、分数、小数、指数、十進数、なんでもあった。それはどうやら果てしない長さの蛇を形作っているようだった。痛みを覚えた。地獄のように痛かったんだ。私がいる完全なる虚空の中に、信じられないほど長く、永久に続く列があった。私には全てが見えていた。その時は、何十億、何千兆もの把握しきれない程の記号が私の目の前に現れた。頭が爆発しそうだった。目が刺すように痛んだ。痛みは止まることがなかった。私はどうすればいいのかわからなかった。目を逸らすことはできなかった。あの数列は底なしに醜く、そして最も美しく、最も絶対的な恐怖であり、あれには善悪はなく、想像を絶する程に長く、そして…まさしく全てだった。私が想像しうる何もかもだった。私の頭の中でそれが騒ぎ立てていた。私が今まで知っていた全てが一瞬にしてなくなってしまった。私の記憶にはもう言葉などなく、数字しかなかった。純然たる数字だ。あなたが想像しうる最も純粋なるもの。それからこの高次の存在は自らをバラバラにし始めた。
█████: どういう意味ですか?
フォード: まあ、所構わず計算がなされたということだ。数字は減っていき、分数はかけられた。頭の中の数字はどれも名状しがたい安心感を与えてくれた。魅了されつつも死ぬ程の痛みを未だに受けながら、私はあの怪物を見つめていた。その名状しがたいサイズのせいで既知の実体にその長さを当てはめることはできなっかったが、私はその終わりを目にできた。安心感は次第に増して行ったが、痛みは残った。怪物はほんの一部分だけバラバラになってはいたが、私が今まで見た何よりも大きかった。それから不意に、虚空がまばゆいばかりの光をまさしく放っていることに気が付いた。この熱は私の存在しない皮膚から骨に至るまでを焼き、同時に両目は見えなくなったが、それでも見ることはできた。それから蛇がバラバラになり続けているうちに次第に光が弱まっていった。寒くなった。私は小さな粒子が虚空を貫き、その粒子それぞれが蛇の中の巨大で膨大な数字の羅列に入っていくのを見た。あの粒子群は虚空を貫き続けた。ほどなくして、粒子が組み合わさって大きな塊を形作った。螺旋形の巨大な構造物が今より満たされた虚空を漂っていた。光球ができあがった。小さな塊が空間を貫いて行った。私は解かれ続けている数列を忘れかけていた。
█████: それで続きは?
フォード: たった数分しか経っていないのに、まるで永遠のようだった。それから少し引っ張られるような感覚がした。星雲や星、惑星や小惑星で埋め尽くされた空間から、遠くにある小さな点へと私は引き寄せられた。古びた虚空にある極小の青い点。それは地球だった。私は大気圏上空から数100kmの場所にいたが、ちょうど人の姿をした小規模な集団を見ることができた。その内の1人は、恐らく最初の人工的な火であろうものを付けようとしていた。炎が燃え上がると唸るような轟音が星々に広がり、見上げると数列の大部分が消えていた。突然、私は落下しているのような感覚を味わった。ヨーロッパ、ドイツのすぐそばに落ちていた。私はもう一度少しだけ上を見た。蛇は散らばるのを止めたわけではなかったが、またしても前と比べて大部分が小さくなっていた。永遠のような長さの中でそれは続けられるだろうが、永遠ではない。それから私が下を見ると、そこには猛スピードで私の家の屋根が近づいて来ていた。そして目を覚ますと、その瞬間がやって来た。
█████: どの瞬間ですか?
フォード: 私が全てを完全に理解した瞬間だよ。あらゆる自然現象を説明できた。ヒナギクの132代目の生け花を正確に特定できた。500年後の天気がどうなるのかを知っていた。全ての言語を話すことができた。過去だけでなく未来の私の家系図を暗誦できた。ブラックホールの仕組みがどうなっているのかを知っていた。幽霊が存在するかどうか、そしてその行動の仕方。私はただ知っていたんだ――すべてを。そして私は全てを数字で把握していた。
█████: その話は、あなたがアルコールや他の怪しげな物質を取り過ぎたかのように私には思えますが。その出来事の証拠はありますか? 私の死を予言できますか? エトナ火山の次の噴火は何時ですか?
フォード: 一度は知っていた、と言い方を変えよう。
█████: 眉をひそめる。 そうですか、なら知らないんですね。
フォード: あー、少し間違った表現をしたかもしれない。それを知っているということだけを知っているんだ。それか、知らないのかもしれない。ほら、その全てのことを私が説明するのに用いた数字…それはここにはない。私が得たどんな知識であっても共有する方法はない。全くと言っていいほどに。
█████: その確信はどこから得たのでしょう? 口を割らせることもできますよ。
フォード: 私がこの知識を書き留めようとしたとは本当に思わないのか? 友人に伝えてないとでも? この知識に基づいて行動すらできない。そこにあるのと同時にそこにはないんだ。
█████: ありがとうございます、もう十分です。後でこの…情報については検討します。さて、もっと重要なことについて話しましょう。形あるものについてね。SCP-200-DEを机の上に置く。 これは何で、あなたやその発明クラブとの間にどのような関係があるのでしょうか?
フォード: 大変申し訳ないんだがね、さっきの話にここからまた戻らなくてはならないな。あーっと。あの瞬間を経験した後、私はベッドに倒れこんでかなり長い間眠っていた。約3日程で目を覚ました。まだ頭は痛んだが、私の中では初めて本当の使命が与えられたような気がした。そう、あの出来事が起こる前の私は本当に優れなかった。金もたくさんあり、友達もいて、安定した職に就いてはいたが、とても無気力だった。それは今や変化したはすだ。私は目標を頭の中に持っていた。私は「夢」の中で見た計算の解決を確認する必要があった。あるいは、少なくともかなり大きくそれに貢献するか。
█████: 話を遮るかもしれませんが、「世界の進歩」とは、その「一部分」が既にどれほど解決されているかを実際には意味しているのでしょうか?
フォード: その通り。えー、それで私には目標があった。それを1人では決してできないということがわかっていたので、私には支援者が必要だった。だから私は発明クラブを創設した。私の周りから人を募集したところ、すぐにこのコミュニティには誇り高い4名の会員が集った。まあ、残念ながら問題があったんだが。
█████: 彼らが次第に死んでいったことですか?
フォード: まだその辺りの話じゃない。それで、問題があったんだ。私が「クリエイティブで創意工夫に富んだ人」を採用しても、彼らは石と同じくらいの生産性しかなかった。ほとんど彼らは部室に改装した居間にたむろしていて――。ああそうだ、私が目標を得た後に、偽装パスポートを買って身を潜め、そのために名前を変えて購入した家に住んでいたことを先に説明しておくべきだったかもしれない。えっと、既に言ったように――
█████: 実のところ、自分の家族は心配にならなかったのですか?
フォード: もっと重要なことがあったからな。さて。あの人たちは石と同程度の生産性だった。それでその文書の出番だ。 SCP-200-DEを指し示す。 そもそもあの経験の後に私は全てのプログラミング言語を十分に知っていたことに気が付いた。もちろん以前は断片的なことはちょっとはできていたが、今では全部できるようになった。それが自然な由来ではないことは確かにわかってはいたんだが。そうして私は幾つかプログラムを書き始めた。早い時期に私は気が付いたんだ、これが他のものと…違っていると。私はそれを使って、まだ本来は存在するべきではないものを作ることができた。そうしてあなたが私をインターネットから取り戻したあのプログラムも作成されたんだ。
█████: あなたは…「まだ」と言いましたか?
フォード:: その通り。非論理的なもの、異常なものは何も作れないことがわかったので。
█████: なら、インターネットを通じて自分を送るのは間違いなく異常ですよ。
フォード: あなたにとってはね。こう言おうか、私は進歩を「予測」できる。
█████: いつの日にかインターネットで自分を送れるようになるということですか?
フォード: それで合ってる。ケーブルを使うよりも少し洗練された感じになるだけだが。
█████: どっちみち異常ですよ。ケーブルを口の中に入れて別人に自分を刻みつけるというのは、ただただ異常だ。
フォード: まあ、私も少し驚いている。だが、完全にあなたに真実を話していたわけではないかもしれない。多分あなたにだけではない。だから… 沈黙する。
█████: だから?
フォード: さっき言ったように、私はあの瞬間全てを説明することができた。自分の能力を除いた全てを絶対に説明できたんだ。それがどうやって働いているのかがわからなかっただけだ。だが、それは無視するのがいいと思った。
█████: 後から「能力」を発見したのでは? その瞬間の後に?
フォード: そうだな、知識は残っているんだ。そう。あなたは既に聞いている。加えてさっき言ったようにこの知識は未来にも及んでいる。私は仲間に何度も全ては数字で説明できると示唆し続けていたが、それでもいつの間にか私は罪悪感を抱くようになっていた。死についてではなくて、少し嘘を吐いていたことに関してだ。
█████: 「重要事項.txt」というファイルがあったのはそれが理由ですか?
フォード: ファイルにアクセスしたのか? まさか、不可能だ!
█████: 私は質問をしているのですが。
フォード: ああ、そうだとも、認めるよ。
█████: そうですか。しかしね、数学には「半分正しい」というのはありません。正しい。正しくない。以上です。
フォード: ちょっと待ってくれ! そうだ、私にもわからないんだ。 目に見えて落ち込む。 だが、私は自分のことを「宇宙の計算支援者」だと思っている。それに、恐らく最終的に私は能力を失う。だがさっき言ったように、私にはそれを把握することはできない。それに説明できたとしても、私はあなたに話すことはできないし、前に話したように行動の指示はできない。非常に複雑で、あなたにそれを説明することは決してできないだろう。全体的に考慮して、私は論理的で一般的であり、説明可能な全てを知っていたと言える。間違いなく。そして異常なものを作成する私の力はそれとは関係ない。
█████: なるほど。それで、その「瞬間」にいた「蛇」の解法については何か説明できますか?
フォード: いいや。全くもって。だが、それを発見することが全ての計算支援者の目標だ。
█████: 結構。次の質問です。あなたはインターネットを通じて自分を送ることができました。自分の「プロジェクト」の継続を保証するために、何故単純に自分を複製しなかったんでしょうか?
フォード: なんてことを言うんだ! 自分が説明できないものを複製した方がいいと?
█████: わかりました、話を続けてください。
フォード: どこからだったか? ああ、そうだ。それで、そんな感じでその文書は作られた。彼らの性能を向上させるために作った。また異常な方法で。だが言ったように、計算には道具を使うこともできる。残念ながら作成時にミスをして、その影響力を正しく評価できていなかったのだが、それに気づくのが遅すぎた。だが失敗は学習の一部であり、進歩の一部でもある。それに、そうだ、私は今では8人になった会員をあの忌まわしい紙から引きはがすことができなかった。彼らが死んでいくのを見ていたが、もうどうすることもできなかった。それでインターネットを通じて、インターネットの中に逃げ込んだんだ。また異常を使って。
█████: また同じことをやろうとしていたのですか?
フォード: そうだな。それがとにかく最重要事項だ。
█████: そして進歩のために屍を越えてゆくと?
フォード: そうだ。
█████: 最後の質問です。全てが間違いだったなら、どうするんですか? あなたの話は、とてもとても穴だらけです。あなたが使うことのできないという知識は非常に非論理的です。一般的に、あなたの話が真実であるという証拠はその能力だけなんですよ。
フォード: 沈黙する。 解決が、終焉が遂に訪れた時、あなたは全てを理解するだろう。
█████: それは非常に脅威に思えますね。終焉とは何ですか?
フォード: 私にもわからない。だが、それは近づいている。感じるんだ。
█████: 協力ありがとうございました。こちらでのあなたの今後の滞在につきましては、現在さらなる対策を講じています。
フォード: 1つ聞いても?
█████: どうぞ。
フォード: どうしてネットから出て来た男をこんなに簡単に受け入れているんだ?
█████: 我々は毎日そんな感じの代物を扱っています。
フォード: どういう意味だ? 毎日? 他にもあるのか?
█████: 何百、何千ものオブジェクトが。 (注: その後█████博士は財団に関する情報を公表しないようにとの警告を受けました。█████博士は安全性の承認に関する一時的な降格処分を受けました。)
フォード: 頭を下げる。机を見つめて膝の上で両手の指を組み合わせる。 何千も?
█████: 何千以上です。
フォード: 呟く。 多分世界も計算違いをしているんだ。恐らくは。
█████: さてさて、必要な情報は得ました。 ヘッドセットを介して警備員にフォードを連れ出すように指示を出す。
20:39 記録終了
プロトコル 200-20██/█3/██に関する注記: 最後の言葉の後、フォードは職員からの指示にそれ以上応じませんでした。彼の目は虚ろで、四肢は硬直していました。それと同時にSCP-200-DEは収容室内で発火し、完全に燃え尽きました。フォードは20時49分に警備員に指定された収容室に連行されました。さらなる研究の後で彼はSCPに分類されることになっていましたが、3日間彼は室内の同じ位置に留まり続けていました。彼はいかなる刺激にも反応せず、飲食すらも取りませんでした。現在フォードは経管栄養で生命維持されていますが、今のところ完全な精神喪失状態にあるため、特異性は検出されていません。よってSCPへの分類は延期されています。しかし、異常な能力が発現した場合、サイト管理者に報告してフォードを分類するための対策を講じます。フォードの転生を可能とするプログラムを載せたウェブサイトはSCP-200-DE-1に分類され、将来的にそう呼称されます。
補遺 200-20██/█3/██: 最近SCP-200-DEでの多数のテストを実行していた████研究員は3週間後にSCP-200-DEの効果に似た軽度の行動を示しました。これは████がSCPのデータベースを「より良く管理する」という主張から、突然公開されていない自作のプログラムを使用し始めたことで判明しました。財団の情報が露見するのではないかという当初の懸念にもかかわらず、データベース、またはこのプログラムからデータの漏洩をもたらすことが非常に困難であることが判明しました。プログラムのコピーは現在、他の発明と保管されています。特筆すべきは、████がそれまで完全に門外漢であったプログラミング言語でアプリケーションを記述していたことです。本人は「新しいことに一度挑戦してみたかった」と主張しています。
補遺2 200-20██/█3/██: さらなるテストの結果、SCP-200-DEの残骸が特異性を保有していることが判明しました。████研究員には2回のクラスA記憶処理が施されましたが、SCP-200-DEから1か月間隔離することでしかその効果を取り除くことができませんでした。フォードは現在、人型生物用に改造された収容室にて生命維持がなされており、SCP-200-DE-1などのフォードの作品の痕跡は、コピーの作成とアーカイブ化がなされた後で削除されています。SCP-200-DEの使用に起因する発明には特異性はありませんでしたが、さらなる調査のために保管されています。