
注記: 以下のファイルは情勢が安定するまでの暫定措置です。
当ファイルは正常性維持連絡会によりロックされ、アーカイブされています。
当ファイルにおける暫定措置はO5評議会および正常性維持連絡会によって随時更新されます。担当管理官は情報のバージョンに注意してください。
Item #: SCP-2001-JP | Level 3/Fallout |
Object Class: Safe | Classified |
特別収容プロトコル: 現在、IK-クラス:世界文明崩壊シナリオが進行中の為、SCP-2001-JPに関する情報を維持する為に割り当てられた各施設は72時間ごとの定時連絡を除き外部への通信を遮断し、地上部の安全が十分に確保されたと判断できるまでは外部との物理的な接触を断ちサイトの閉鎖状態を保ってください。無許可での閉鎖解除が行われた場合、正常性維持連絡会による介入が行われます。
なお正常性維持を目的とした外部残存勢力との連絡窓口に割り当てられたサイトおよび各サイトへの補給物資を配送する為の一部サイトはこの限りではありません。特別封緘命令に基づき適切な処置を行ってください。
収容手順更新 2098/██/██: 第三次世界大戦の開戦に伴いセキュリティロックダウンによる情報封鎖を開始、以後封緘命令を受け取ったサイトを除き全ての収容サイトはプロトコル更新まで外界との接触を禁じます。
収容手順更新 2099/██/██: 現在地上部は短時間における同時多発的な核攻撃によって世界中に拡散した放射性降下物や、そこから発せられる二次放射線によって深刻な汚染状態にあります。各サイトは緊急マニュアルに従い地上部のモニタリングを開始、汚染状況を記録してください。
収容手順更新 2102/██/██: 残存サイトから収集された情報および生存している財団管理の衛星による観測データより安全な物資輸送ルートの確立が行われています。核防護機能を持つ車両を保有する機動部隊がこの任務に割り当てられました。
収容手順更新 2115/██/██: 地上部の汚染レベル低下が確認された為、復興計画が立案中です。人類社会を再興するためのプロトコル-カントリーロードが発令されました。これにより各サイトのロックダウンが解除され地上への帰還が行われます。
説明: SCP-2001-JPは第三次世界大戦によって崩壊した人類文明の記録です。記録は2098年の第三次世界大戦の勃発までに財団が収集し蓄積した記録及び2099年までに正常性維持連絡会によって編纂された全ての情報を指し物理媒体(以後SCP-2001-JP-1)、電子情報(SCP-2001-JP-2)、ミーム媒体(SCP-2001-JP-3)の形で残存する各サイトに割り当てられています。割り当てはサイトの備蓄や生産機能、生存する職員、収容されているオブジェクトによって決定されています。
SCP-2001-JPを異常存在として収容とするきっかけは一つのオブジェクトの観測記録でした。2042年、サイト-17にSCP-1023として収容されていた観測装置により破滅の未来予測を受けました。これは核攻撃による世界同時多発的な爆発を予期しており同様の機器により観測データを受けたマーシャル・カーター&ダーク株式会社より破滅的な危機を回避するためのプランについて打診を受けました。
マーシャル・カーター&ダーク株式会社との会談において財団は危機回避に失敗した際の次善策としての復興計画と資金提供の提案を受けましたが、慎重な検討のうえ協力の打診については破棄することとなり、財団は独自に非異常性の破壊によって人類文明が破壊された際の復興計画を行う事が決定されました。当時老朽化を原因に廃棄が決定していたフランスのタヴェルニー空軍基地、ヤマンタウ山のロシア連邦軍保有の軍事シェルターを中心にユーラシア大陸を結ぶ地下通信網が築かれました。
SCP-2001-JPはかつての世界では異常と考えられるものではありません。人々が当たり前のように生き、日々の暮らしを享受するために積み重ねられた営みの記録であり、人々が積み重ねた技術や文化の足跡です。しかし第三次世界大戦の迫る現在の世界においてそれは伝説や伝承のそれであり、我々は正常性維持機関として世界をかつての世界へ回帰させる為の道しるべとして記録を残す必要があると考えられ、SCP-2001-JPの収容が開始されました。
下記は当時のロシア統合司令部における予算委員会での関連議事録からの抜粋です。この時獲得された予算によって設立された対策委員会が後の正常性維持連絡会となり、現在のSCP-2001-JPの収容における基幹となりました。
予算委員会議事録
対象: コンスタンティ・アレクセイヴィッチ・イヴァノフ
質問者: ワシリー・パヴロフ予算委員会副委員長<記録開始, [2042/09/21]>
パヴロフ: あなたの申請する予算について改めて確認させていただきたい。イヴァノフ: はい、私が提言するのは非異常性の大規模破壊がもたらす正常性の喪失についての対策委員会の設立とそれに伴う各サイトの改修計画です。
パヴロフ: その話は資料から認識しています。しかし、土地の買い上げから地下通信網の敷設に至るまでこれではあまりに巨額にすぎないか?という事です。それにあなたの示唆する非異常性の大規模破壊が実際に起こるかもわからない。
イヴァノフ: ええ、巨額でしょう。ですが30年から40年越しの工期を見た長期計画での分割計上であれば十分に現実的なはずかと愚考します。SCP-1023の観測データを中心にSCP-2214の内部崩壊とそれが指し示す予想被害、SCP-2908の奇妙な占い結果、SCP-990の忌まわしい予言など複数のオブジェクトが2098年ないしは2099年の大規模な破壊と終焉を指示しています。我々は複数の情報筋よりこれが第三次世界大戦によって引き起こされる正常性による世界終焉の示唆であることを確信しています。
パブロフ: だとしても異常性を含まない破壊による終焉は我々の管轄外では?世界がそういう選択をしたのであれば仕方がない事だろう。少なくとも世界は正しく終われるわけだ。
イヴァノフ: はい、現状では異常を伴わない人の手による正常な文明の終焉は確かに管轄外でしょう。しかしそれが起これば今度は我々は今まで正常であった文明そのものを異常として収容する必要が出てくるのです。そうなれば我々はこれを正しく確保し、収容し、保護する必要が出てくるわけです。予想しえる事態なわけですから収容の準備を怠るのは職務怠慢というものです。
パブロフ: つまりこれはあくまで収容の為の予算陳情という体で行うべきということになるわけか。だがそうであれば何が異常となり、何が正常になるのか定義づけしないといけない。かなり面倒な事業になるが本当に可能なのかね。
イヴァノフ: 可能でしょう。ただし40年越しの長期計画となります。それをなすための対策委員会と予算の陳情です。
パヴロフ: なら老い先短い人生せいぜい働いてもらう事になるが覚悟したまえ。まあ、私はともかく他の委員諸君の投票があれば……だがね。
<記録終了>
補遺SCP-2001-JP.1: 2098年10月、想定より6ヵ月ほど遅れる形で第三次世界大戦の開始が確認されました。発端は中東国家通商連合と欧米諸国との経済戦争の過熱によるものであり、ロシア政府による仲介やMC&D社による経済工作などの平和的解決の試みの失敗の後に中東国家通商連合による同時多発的な汚い爆弾1による都市攻撃が行われました。結果的に被害を受けたNATOおよびインド、中国による中東への軍事侵攻が行われ開戦から3か月後の2099年1月、双方は核攻撃による大規模破壊という結末に終わり、かつての人類文明は終焉を迎えました。
以後財団は2045年に取得したフランスの対核機能を備えた西方広域司令部であるタヴェルニー空軍基地およびロシア、ウラル山脈に位置するヤマンタウ地下施設群の東方広域司令部の2か所を中心に情報連結を行いSCP-2001-JPの本格的な収容を開始しました。
以下のメッセージは2099年の核攻撃確認時に緊急警報システムから記録されたものです。この通信以降地上での補給ルートが確立される2102年までの3年間の間財団は組織として活動休止状態となりました。またこの際に何らかのトラブルにより南北アメリカ大陸との連絡が寸断、現在に至るまで南北アメリカ大陸との通信は復旧していません。
一斉通知
核攻撃を検知しました。隔離プロトコルにより地上部との隔離が行われます。
全管区の地上部でオブジェクトの大規模違反が発生しています。
[認識災害により抹消]が実験中に収容を突破しました。
アメリカ大陸との情報接続が失われました。以後ロストしたものとデータ表示されます。
生命維持システム: オンライン ●
電力システム: オンライン ●
対放射性防護: オンライン ●
広域通信網: オンライン ●
原子炉稼働状況: 負荷35% ●
Euclidクラス収容状況: 収容違反確認 ●
Keterクラス収容状況: 収容違反確認 ●
以下は2099年の核攻撃後の広域通信網にアクセスされた各地域の状況です。現在地上部の深刻な汚染により各サイトへの連絡路が寸断されており、接続が認められない管区は暫定的にロストしたものと見なされます。
一斉通知
核攻撃を検知しました。隔離プロトコルにより地上部との隔離が行われます。
日本/中国を中心とした極東管区の一部がオフラインとなっています。
アフリカ大陸との接続が不完全です。エジプト以南の接続がオフラインです。
南北アメリカ大陸との情報接続が失われました。以後ロストしたものとデータ表示されます。
欧州管区: オンライン ●
中東管区: オンライン ●
極東管区: 接続不安定 ●
北アフリカ管区: 接続不安定 ●
オセアニア/環太平洋管区: 接続不安定 ●
南アフリカ管区: ロスト ●
北アメリカ大陸広域司令部: ロスト ●
南アメリカ大陸広域司令部: ロスト ●
補遺SCP-2001-JP.2: 事前発令した封緘命令に基づき、各地で無線監視や小規模の観測隊による調査を行った各サイトの献身的な活動により核攻撃後の地上部において残存する人類勢力及び収容違反したオブジェクトを観測する事に成功しました。下記にその一部を抜粋します。完全な情報へのアクセスを希望する場合は東西いずれかの広域司令部の認可を受ける必要があります。
地上探索映像ログの書き起こし
日付: ████/██/██
探索部隊: 機動部隊Й-11「無毒の蛇」
捜索範囲: ヤマンタウ山近郊、指定エリアE072
部隊長: Й11-CAP
部隊員: Й11-1 ~ Й11-12
付記: 今回の地上部調査は地上通信車両を用いて核攻撃により失われた衛星通信アンテナの代替となる衛星通信拠点を設置し、財団所有の衛星群を通じてユーラシア大陸各地の被害状況を把握する事が目的である。Й-11「無毒の蛇」には対放射線防護パッケージを追加装備した移動衛星通信車『フォボス』、及び秘匿通信機を含む各種通信装置を積載した指揮・幕僚車『ソローカ』2を装備し、各隊員は対放射線防護を施したルデル-ナガン防護服を着用している。また収容違反した異常実体による襲撃などの非常事態に備え、6P60-2機関銃およびAsh-12を含む大口径の銃火器3を携行する。
[ログ開始]
作戦司令部: オンライン接続。
(ヤマンタウ第12番ゲートが解放され13名の隊員を載せた2両の車両が司令部を出発する。周囲は荒涼としているもののガイガーカウンターは比較的安定した数値を示す。)
Й11-CAP: 聞こえているか?
作戦司令部: 確認した。今のところ君たちのステータスに問題はない。
Й11-CAP: 3か月ぶりの地上世界だ。これより通信拠点に適した低汚染地域の探索に入る。
作戦司令部: ドローンによる探索によれば候補地は2か所ある。どちらも車両で到達可能だ、車両のデバイスに既にマーカーをアップロードしてある。今まで地上で収容されていたオブジェクトが地上世界でどうなっているか見当もつかない。警戒は怠らないように。
Й11-CAP: なら無事の成功を祈ってくれ、死の大地じゃ何が起こるか分からない。
(Й11部隊は最初の候補地に向けて移動を開始する。2時間の移動の中で荒廃した台地と大破した残骸、無人の駅などがいくつか確認される。この間に生命の痕跡は認められない。)
Й11-CAP: 放射線量の減衰は想定どおりだ。汚染ステータスは想定範囲内だが、物理的な劣化が酷い。税金をケチったせいだな。
作戦司令部: 政府なんてもうない。それよりも予定ルートの通行は可能か?
Й11-3: 通れるでしょうが不確定要素が多いですね。車両の通行が可能かを徒歩で探索の上での行動を希望します。
作戦司令部: ネガティブ、人的資源の補充は困難だ。ドローンで代替せよ。
Й11-CAP: 了解、ドローンによる道路状況確認の上で移動する。
ソローカよりドローンが展開され、探索と並行して車両が目標地点への移動を再開する。移動速度は目標巡航速度の40%程度に落ち込んだものの、第一目標地点へは2時間の遅れで物理的被害なしに到着する。この際、部隊は重度の汚染地域が点在する泥濘地帯を通過、車両、人員への汚染被害は少なかったものの通過の際は安全の為さらに速度を落として移動する必要があった。
この際、状況確認のために一時的に高度120mまで上昇したドローンが微弱ながら生存者より発信されていると思しき複数の緊急通信を受信する。この通信は司令部により増幅され殆どが公共施設よりリピートされ続けている機械的なものと判明した為、その旨が報告、それ以上の解析を一時停止した。しかし後にこのうちの一件に新モンテネグロ共和国より発信された人為的なものが含まれていたことが発覚している。
Й11-CAP: 第一目標地点に到達。アンカーを設置の上衛星通信施設の敷設に移る。
作戦司令部: 了解、被ばく線量には常に注意せよ。また先ほど行ったドローンによる偵察の最中、微弱な電波送信が複数個所で確認されている。いずれも機械的な送信と確認されたが念のためにドローンによる監視を並行して行え。
Й11-CAP: ソローカの要員を監視に割り当てる。司令部、ドローンが受信した電波に異常があった際は教えてほしい。
作戦司令部: 可能な限りは。何か懸念でも?
Й11-CAP: ゴルィニチ1-A事案について知識は?
作戦司令部: 待機せよ。SCP-1745に関する収容違反事例か、しかし該当区域まで650kmある、こちらの司令部への影響は今のところ確認されてないが懸念が?
Й11-CAP: 祖父が昔あれの収容担当をしていた。奴は強力な電波発信源に誘導される。長時間の衛星へのデータ送受信が行われるのであれば4第三次世界大戦以降活動を停止していたそれが再活性化される可能性がある。付近の電波発信源をデコイに使う。電波発信が途絶えた方向から奴が来るだろう。
作戦司令部: なるほど、300m内の電子機器を破壊する自律型軍用ヘリ相当のオブジェクトか。発信源のロストを確認した場合はドローンを残し撤退せよ。衛星通信に関する各種設備は部品ストックから考えても再生産可能だ。
Й11-CAP: ネガティブ。奴が再活性化した場合、我々を追跡する可能性がある。司令部への被害を誘発するリスクは冒せない。奴が放射線による広域破壊で行動不能になっていたのであれば、同様の性質の物体を投射する事でダメージを与えられる可能性がある。劣化ウラン弾5による迎撃を試みる。
作戦司令部: こちらであれば迎撃班の配備が可能だ、撤退を容認する。
Й11-CAP: 無理だ、俺たちが帰還するには汚染区域を通る必要がある。進行速度を落として奴から逃げられるほどの余裕はない。他の方法を考える必要がある。nPDN霊体実体化装置6を設置すれば奴に効果があると思うか?
Й11-4: 効果はあるかもしれません、ただしあれは少なくとも2方向から起動して次元を固定する必要があります。奴を効果範囲に押し込んだうえでヘリを落とせるだけの火力をぶつける必要があります。
Й11-5: 一応使い捨てのRPGが2本ありますが誘導性能は期待できません。奴を実体化させたうえでさらにロケットを当てるとなると少なくとも誰かが有効射程距離の150mまで近づいてぶち込む必要があるでしょう。
Й11-4: 実体化させた状態で2方向から同時に攻撃すればチャンスはあります。ただし機会は一回だけです。
(5分間討議が続く、不要なログは削除。)
作戦司令部: もしも危険性が認められた場合迎撃を認める。この際、フォボスを遮蔽モードで隠蔽し最悪の場合は人員の保護を図る事。我々は接続が回復した衛星設備を経由して君たちにデコイとなっている無線機のモニター結果を送信する。諸君らの健闘を期待する。
Й11-CAP: 了解。Й11-2、Й11-3、6P60を設置して対空迎撃の準備を行え。敷設を行っているフォボスの要員がテスト送信を行い次第迎撃態勢に入るぞ、衛星設備の300m以内に入られたら俺たちの負けだ。その場合一時潜伏して安全確認後に撤退する。
Й11-2: オーライ、弾薬の制限は?
Й11-3: 劣化ウラン弾をありったけ叩き込んでも倒せるかわからない怪物だぞ。
Й11-2: 心置きなくってことだな。
各隊員は車両を隠蔽し警戒態勢に入る。この間に衛星設備の敷設は順調に完了し送信準備が整えられる。SCP-1745による破壊を回避するため司令部と接続されていた無線機がオフラインにされ、予備の長距離無線機に切り替えられる。
5つのアンカー設置式nPDN装置がオフラインの状態で設置され、各隊員が起動可能な位置に配置される。またこれに合わせて唯一SCP-1745を物理的に破壊可能と見なされたRPG7が配置される。
(衛星通信設備が稼働され低い駆動音と共に電波の送受信が開始される。計画通り衛星とのリンクが確立され司令部は部分的に衛星とのリンクを回復する。司令部は即座に電波送信が行われている周辺の施設跡のマップデータと送信状況を送信を行う。)
(20分の間状況に変化なし、不要なログは削除。)
(無線送信が行われたいくつかの施設が突然オフラインになる。接続途絶は段階的に進行し、徐々に第一目標地点へと接近している事が確認できる。司令部は軌道上の監視衛星にアクセスし部隊の様子を上空より確認する。)
Й11-CAP: 来るぞ。機関銃の位置調整をしろ、北東からだ。奴に近づかれたら電子機器はみんな破壊されるぞ!各自無線がオフラインになった場合は各自の判断で撃滅しろ!
部隊が即座に陣地転換を行う。Й11-2、Й11-3が廃墟となった付近の公民館跡の屋上に陣取り迎撃態勢を整える。またこの際Й11-7、Й11-8、Й11-9が狙撃銃もしくはAsh-12を手にそれぞれ別方向部隊から離れる様子が確認される。同時刻、北東より損傷が激しくおよそ飛行可能と判別できないMil Mi-24D8が衛星設備に向け移動している様子が確認される。
Й11-7: 目標を確認!なんであんな姿でとべるんだよ!後部ローターが丸ごとなくなってるぞ。
Й11-2: オブジェクトだからだ。機関銃の有効射程まで追い込め。Й11-7、お前のVKSが一番射程が長い。
部隊との距離が1.9kmになった時点で部隊より離れていたЙ11-7が目標に向けて攻撃を開始する。スコープに搭載されたカメラにより着弾が確認されるも、弾薬そのものが透過され物理的な影響はほぼないように見える。ただし微かに命中個所に青い燐光が走り何らかの影響がある事を示唆する。攻撃は断続的に行われ目標は迎撃地点へと誘導される。nPDN装置が起動され青い波のような光が効果範囲に走る。対象はそれまでの物理法則を無視した対空軌道から重力や風の影響を受けゆらゆらと不安定な軌道を始める。しかし依然滞空能力が失われたようには見えない。
Й11-CAP: 撃て!撃て!奴を落とさないと衛星リンクを維持できないぞ!
Й11-2: とっくに撃ってますよ!効いてるかどうか微妙ですが!
各隊員からの攻撃により機体の各所から無数の青い燐光を走らせた対象は外見上の姿を変異させながら旋回を行う。機体下部の破損したように見える機銃が稼働したかと思うと白い閃光が奔り、廃墟の影から攻撃を行っていたЙ11-5とЙ11-6が閃光に飲み込まれ消失する。
作戦司令部: 未知の攻撃を確認した、ファイブ、シックスの生体反応をロスト。撤退しろ!それ以上の攻撃は諸君らの生命の保証が出来ない。
Й11-CAP: ネガティブ!今の攻撃は遮蔽物を透過して命中した!撤退しても逃げきれない。当初の計画通り近接してのRPG攻撃を敢行する。
作戦司令部: 容認できない!その手段はスーサイドアタックに等しい。リスクが高すぎる。射手が生還できる可能性は極めて低い。
Й11-CAP: アファーマティブ!私の責任において実施する。指揮権を2に委譲し私の保有する弾頭でのみ攻撃を行う。
対象は機体をゆっくりと旋回させて次の標的へと攻撃を行う。2度閃光が奔り狙撃を行っていたЙ11-7が消失する。Й11-CAPがЙ11-5の射撃地点に設置されていたRPGまで移動を開始する。
作戦司令部: 許可する、ただしもし犠牲が出る場合もЙ11-CAP、アンダーソン、君が最後だ。それ以上の犠牲は許さない。
Й11-CAP: なに、俺だって死にたくない。
Й11-2: CAP、やめてください。奴だってダメージを受けているはずだ。退避して再攻撃に望みを託しましょう。迎撃班を用意してもらえばもっと効率的に倒せるかもしれない。
Й11-2は機関銃による攻撃を継続して行いつつ抗議を行うも、攻撃位置からЙ11-CAPの地点まで到達する事が出来ず行動の阻止には至らない。対象の旋回による再照準が確認できたためЙ11-2はЙ11-3と共に近隣の廃墟へと退避する。この際攻撃地点に残された機関銃が閃光により焼失する。これに伴い付近に設置されていたnPDN装置が破損、奇妙な燐光を迸らせ、出力が徐々に落ちていくのがわかる。
Й11-CAP: 全隊員へ、命令だ。直ちに車両もしくは近隣の建築物へ退避せよ。nPDNのEVEのアスペクト放射によるバックラッシュは大抵の場合高熱の閃光を伴う。俺も攻撃後すぐに飛び込む。
Й11-CAPを除く隊員はすぐさま退避を行い、対象は改めて移動を行うために方向転換を行う。Й11-CAPはこの旋回に際して機動力が落ちたすきを見逃さず、Й11-5の攻撃地点から回収したRPGを発射する。
加速したロケット弾は機体後部に命中し対象は時間が止まったかのように数秒間静止、内側より膨張をはじめ中心から破断、落下を始める。この際対象の断片が不安定な軌道を行っていたnPDN装置に直撃。装置が赤、青、白の閃光を迸らせ周辺の地形を無造作に焼き払う。Й11-CAPは発射後退避を行うも建築物への移動が間に合わず消失する。一時的に全隊員からの通信がロストするも閃光が収まった後30秒ほどで回復する。
Й11-2: 対象およびЙ11-CAPの死亡を確認。第一目標地点クリア、繰り返す。第一目標地点クリア。これより司令部より受け取った地形データを精査し安全な帰還ルートを確認後帰還する。
作戦司令部: 許可する。CAPの犠牲を無駄にせぬよう任務の完遂を期待する。
Й11-2: 了解。Й11-2アウト。
[ログ終了]
Й-11「無毒の蛇」は隊員たちの再合流の後、改めて衛星設備の補強及び部隊の再編成を行い第一目標地点に48時間滞在。衛星からのMAPデータより帰還ルートを算出し移動を再開した。最終的にЙ-11は出発からさらに22時間の移動後に帰還。後日改めて衛星設備の保守管理の為別の人員が派遣されることになった。
機動部隊Й-11「無毒の蛇」の献身的な作戦行動により財団保有の通信衛星はほぼ完全な状態で残存、現在も機能している事が確認されました。この際に国際宇宙ステーションISS2およびISS3と地球外における財団の有人宇宙ステーション「トリグラフ」の協力体制が確立され、現行リソースの共有が行われている旨が報告されています。
長距離通信通信ログISS-2
地上通信担当者: ラルフ・コールソン
ISS2通信担当者: ケイト・ワーナー<記録開始, [2100/05/11]>
コールソン: こちら、『財団』ユーラシア大陸東方広域司令部所属ラルフ・コールソン、ISS2、応答を求む。繰り返す、こちら『財団』ユーラシア大陸東方広域司令部所属ラルフ・コールソン、応答を求む。ワーナー: こちら国際宇宙ステーション『ISS2』、通信担当官ケイト・ワーナーです。地上からの通信を歓迎します。4年ぶりの通信、もはや地上からの接触は行われないものかと思っていました。
コールソン: 我々も宇宙ステーションは世界大戦の最中に真っ先に遺棄、もしくは破壊されたものと認識していました。健在を喜ばしく思います。さっそく本題ですが、我々は皆さんとの通信を経由して我々の保有する有人宇宙ステーション『トリグラフ』との交信を希望します。そちらの許可をいただければ座標、および通信コードを送信可能です。
ワーナー: はい『トリグラフ』からも地上からの要請があった際に取り次ぐよう要請をもらってます。ついでに付け加えるならばISSにも現在乗員が移乗しています。『財団』については最低限の共有がされています。このステーションが現在も健在なのは『トリグラフ』および『ISS3』との情報連結及び物資や人員についての協力関係が構築されているからにほかなりません。
コールソン: という事は皆さんは既に地上で拡散しつつある異常、今までの世界では戯言だった異常についてもある程度認識している、という事でしょうか。
ワーナー: 認めがたいことですが、はい。我々は地上で拡散されている様々な事象についての観測データを持っています。今までの世界であれば覆い隠されていた何かが、今は世界中で広がっている。もはや、世界は変わってしまったようです。
コールソン: ですが、取り戻せないわけではない。その為に皆さんの協力が必要なのです。改めて地上に関するデータの共有と『トリグラフ』との取次ぎを要請します。
ワーナー: ええ、勿論です。少なくとも、現状を維持するためにも我々には他に選択肢がありません。
<記録終了>
補遺SCP-2001-JP.3: 財団保有の通信衛星とのリンクが復旧したことによりユーラシア大陸外に位置する各国の残存サイトの一部との情報連結が再開されました。これによりアフリカ大陸、オーストラリア、日本、および国際海域上に設立された洋上サイト群による現在の”世界”が浮き彫りになりました。残存サイトについての情報にアクセスを行うには東西いずれかの広域司令部の許可が必要です。下記は広域司令部の許可なしに閲覧可能な概要となります。
極東政治特区/日本支部
オセアニア/環太平洋管区
洋上に建造された海上プラント
現在オセアニア/環太平洋管区のうちオーストラリア大陸およびニュージーランドは地球上に存在しません。しかしながらミクロネシア諸島を中心に既存文明の60%が生存しており武装収容サイト70を基幹に再編成された環太平洋管区の人員及び大戦を生き抜いたUSPACOMによる緩やかな統治が行わています。彼らは財団および正常性維持連絡会からの離脱を表明しており『環太平洋共同統治機構』として正常性維持連絡会への協力を拒否し管区境界線上に武装プラントを建造、外部勢力の排除を行う構えを取っています。
アフリカ管区
郵送された資料より回収された画像
南アフリカ大陸広域司令部は第三次世界大戦時NATOに対する補給基地としての機能をもっており、核攻撃が行われた際真っ先に連絡が途絶した地域のひとつでした。現在も依然として電子的な接続は回復していませんが衛星通信回復と同時期にSCP-130を利用したフランクリン19緊急速達手続きが再開され健在が確認されました。現在、通信ステータスの回復した北アフリカ管区との連携による連絡路確立計画が進行しており近い将来、完全なオンライン環境に復帰する見込みです。詳しい進行状況については『プロジェクト セシル・ローズ』を参照してください。
補遺SCP-2001-JP.4: 核攻撃後、ISS3により断続的に行われていた地上との通信の試みにより今もなお継続して維持されている文明的勢力との接触に成功しました。当該勢力とは継続的な通信による交流が持たれる事が決定されましたが、一方で周辺地域の汚染状況を鑑みて物理的な接触は保留されています。
交信記録:新モンテネグロ共和国
日付: 2101/██/██
通信担当者: エージェント・ラルフ・コールソン
モンテネグロ通信担当官: ダニロ・モスコフ通信少佐
交信対象組織: 新モンテネグロ共和国(Republic of New Montenegro)Notes: この通信は新モンテネグロ共和国政府が国内の通信設備を用いて実施している避難民受け入れに対する公共放送に対して応答する形で行われたものです。公共放送は文明崩壊の一か月後より定期的に行われており現在でも統治機構が機能している数少ない地域であると考えられていました。また、衛星からの観測を行う限りモンテネグロは大戦による影響を全く受けておらず、かつての姿をかつてのまま保っているよう認識されています。
[交信開始]
モスコフ: 新モンテネグロ共和国、定時公共通信です。我々はオープンチャンネルにて交信を行っています。本日は西暦2101年██月██日、モンテネグロ歴で2201年██月██日。モンテネグロは現在も健在です。我々は大戦難民に対する、住居、医薬品、食料、シリコンの提供を行っています。我々は避難民を受け入れています。保護が必要な方は通信への応答を願います。こちら新モンテネグロ共和国です。応答を願います。
コールソン: こちら、正常性維持連絡会東方広域司令部通信担当官、ラルフ・コールソンです。新モンテネグロ共和国、応答を願います。
モスコフ: こちら新モンテネグロ共和国陸軍通信少佐、ダニロ・モスコフです。まともな通信の応答は半年ぶりです。ミスター・コールソン。あなたの生存を祝福します。モンテネグロへの移住を希望しますか?それとも一時的な避難を希望しますか?
コールソン: ありがとう、モスコフ少佐。我々は現在の所、避難も移住も必要としていません。
モスコフ: それは喜ばしい事です。汚染を免れたのですね。であれば救援物資などを希望しますか?
コールソン: いや、物資も間に合っています。どちらかと言えば我々は情報を求めています。
モスコフ: はい、それもまた必要なものです。現在の世界では以前のよりもさらに重要となっていますから。それでどういった情報を希望されているのですか。
コールソン: 我々はこの世界においてあなた方のように過去の領地を十全に維持する勢力を殆ど観測していません。せいぜいヴァチカンを中心としたイタリア半島の一部とミクロネシアの人々位です。どのようにしてあの大戦、終末を潜り抜けたのですか?
モスコフ: 技術的な要件や、実際に何があったのかを私は知らされていません。ただ、我々はあの核戦争の時別の次元へと逃げました。正確にはかつて用意されていた何らかの機構によって別の世界へと飛ばされました。モンテネグロ正教会と大統領によれば神聖政治時代の遺物だそうですが、ともかく訳の分からないオカルトじみた奇蹟によって我々は100年、ジュカノビッチ大統領の下で生き延びました。そして核戦争後のこの世界に帰還した。ゆえに我々にはあの戦争での被害はなかったのです。
コールソン: なるほど、理解が可能かはともかくおおよその事情は把握しました。ただ一点気になる事が。ジュカノビッチ大統領、彼は何十年も前に亡くなったはずでは?
モスコフ: はい、ジュカノビッチ大統領は一度……いえ二度亡くなりました。その度に彼は蘇生されたのです。彼がいうにはお気に入りの墓地に助けられた、と言いましたがどうしてそれが成し遂げられたのか、私には分かりません。ただモンテネグロ正教の機械司祭によればかつて存在したアメリカの冗長系が正しく動作をしたと聞いたことがあります。なんにせよジュカノビッチ大統領は舞い戻り、我々を導いてくださいました。
コールソン: ありがとうございます。それで、皆さんは今のこの世界でも機能しているという訳なのですね。核戦争を回避し、指導者を取り戻し帰還した。
モスコフ: とは言っても我々も厳しい現状なのは変わりません。かつての世界のように交易可能な隣人はおらず、国内生産を増やそうにも人員が足りません。故に我々は避難民を受け入れ、生活の保障と引き換えに労働力を提供してもらっているという訳です。
コールソン: なるほど、我々も似たような現状ですが提供可能な情報があります。まずは交信チャンネルを確立したいと思うのですがいかがでしょうか。
モスコフ: もちろん。我々は対話可能な隣人は歓迎します。近頃ではそういう人たちはめっきり減ってしまった。皆さんの善意が我々に益為すことを祈ってます。まずは正常性維持連絡会についてお聞かせいただけますか?我々はあなた方の組織についてあまりに知識がない、対等な立場で話せれば幸いです。
コールソン: ええ、私の権限で許可される範囲の情報になりますが、出来る限り。
(以後当たり障りのない情報交換が続く、不要なログを省略。)
[交信終了]
交信記録:境界線イニシアチブ
日付: 2102/██/██
通信担当者: ジョシュア・アイランズ・ジュニア外交・調停官
外交担当官: ウィリアム・ライト修道司祭
交信対象組織: ローマ教皇庁/境界線イニシアチブNotes: 境界線イニチアチブおよびイタリア共和国はローマ教皇の意向より第三次世界大戦時中立宣言していました。これにより直接的な戦争参加を行わなかった事から北部の工業地帯を除き殆どの地域で核攻撃の影響を受けず、結果的に現在も人類の主要居留地として健在です。ただし地政学上の理由からエネルギー資源の致命的な枯渇により文明レベルは著しく後退しています。9これに伴いイタリア政府はその主権をローマ教皇庁に譲渡、宗教的権威を最大限に活用する事により情勢の安定を図っています。境界線イニシアチブは正常性維持連絡会に直接加盟を行っていなかったものの財団とのチャンネルは維持されており、衛星回線の回復に伴い通信によるコンタクトが再開されました。
[交信開始]
アイランズ: こちら正常性維持連絡会西方広域司令部ジョシュア・アイランズ・ジュニア外交・調整官です。まだこのチャンネルが生きているのであれば応答お願いします。通信コード██-████、正常性維持連絡会はいまだ健在です、応答を願います。
ライト: こちら、ローマ教皇庁総務局境界線イニシアチブ所属ウィリアム・ライト修道司祭です。財団の健在を喜ばしく思います。あなた方は大戦のかなり前から備えてましたので生存しているものとは考えていましたが、こうして確認が出来るとやはり嬉しいものですね。
アイランズ: ええ、我々も復旧には時間がかかりましたからね、それでも地上で国民を維持し続ける皆さんと比べれば些細なものです。衛星から今までの状況を把握させていただきましたが相当な苦労があったようですね。
ライト: なに、これも神が与えられた試練のうちです。同じような事は中世でもありました。あの暗黒時代と比べれば少なくとも暮らせているだけましですよ。悪疫だろうが放射線だろうが大して変わりません。我々はただ試練を乗り越え今を生きるだけです。問題はその試練が次々に増えて手が足りないと言った所ですがね。
アイランズ: 石油や石炭などエネルギーの問題ですか?それとも中立を宣言して以降供給が減った医薬品などについてでしょうか?大戦前から問題になっていましたが。
ライト: そういう問題ならよかったのですけどね、この問題こそ財団の健在を喜ぶゆえんですよ、あなた方が地上から消えてから異常性をもつあれこれが世の中に解き放たれたかのように溢れかえりましてね。ルーマニアの吸血鬼に離島で蘇生した肉の信者たちみたいな分かりやすいものから人を惑わす悪魔、オネイロイの夢魔まで選り取り見取りといった形ですよ。あなた方は知らないでしょうが復刻した検邪聖省が異端審問官を放ったくらいですからね。我々の領域線上では騎士団に政治将校として随行した異端審問官が日々脅威に対処してますよ。
アイランズ: 地上エリアで収容されていたオブジェクトや我々の監視が無くなった隙をついた輩が溢れ出していると……そういう事でしょうか。
ライト: 収容違反、あなた方の言うそのレベルではもう済まないでしょうね。人々は悪魔が実在する事を知ってしまった。もはやヴェールは捲られてしまったのです。人々がこれからの世界で生きていく中でこの様々な事象との付き合い方を考えて行かなくてはならない。我々はあなた方の持つ知識を必要としているのです。
アイランズ: なるほど、私の一存では約束できませんがよいお返事が出来るよう手を尽くします。少なくとも差し迫った脅威に対しての情報共有については許可が出るでしょう。あくまで現状を鑑みた推測にすぎませんが……我々とて大戦前から通じた味方を切り捨てるほど性根が腐ったわけではないですからね。ただ、私も手は尽くしますが上を動かす時間短縮の為に何かいい手土産があると嬉しいのですが。
ライト: 結構、私とて巡礼司祭の身ですからね、行動にはそれ相応の対価が必要であることは心得てます。とはいえ過去の世界のように世界中から財貨が集まってくる訳でもないですからね、情報か、物資か、もしくは労働力と言った所でしょうか。
アイランズ: どれも魅力的ですね、とはいえ物資はむしろ皆さんが必要とするものかと考えます。情報か人か……
ライト: ならば情報が優先されるでしょうか。我々はあの文明崩壊の6か月後、イタリア政府から教皇に政治権力を移譲された段階から陸路での遠征隊を派遣、各地の情報収集に努めています。衛星からの情報は得ているようですが細かい情報は未だ得られていないのでは?
アイランズ: どうでしょうね?我々とてそれなりの目は維持しているものですがね。
ライト: まあ、お互い虚勢を張っても仕方がないでしょう。とりあえず出せそうな手札を纏めて改めて調整と言った所でいかがでしょうか?
アイランズ: 世界が変わっても外交屋の仕事は変わらないという事ですね。結構、一度持ち帰って後日再調整と行きましょう。このやり取りも久々です。よき交渉が出来る事を祈ってます。
ライト: まったくです。我々の口先に神のご加護があらんことを。
[交信終了]
補遺SCP-2001-JP.5: タヴェルニー空軍基地において施設の経年劣化が要因とされる施設外部からの重篤な汚染が確認されました。当該ブロックは隔離の後放棄され安全が確保されたものの備蓄物資に大きな損害が出ています。これに伴いヤマンタウ地下施設群にて生産された物資の輸送計画が立ちあげられ安全な輸送ルート確立のため機動部隊による長期遠征が行われました。下記はヤマンタウ地下施設群よりタヴェルニー空軍基地までの輸送ルートの確立に成功した際の遠征隊の記録です。
長距離遠征に際し東方広域司令部に駐在する部隊の中から適切な能力を持つ機動部隊が選別され、輸送車両を保有するアルファ-4「ポニー・エキスプレス」を中心に長距離遠征部隊ベータ-1「ベイヤード」が編成されました。「ベイヤード」には基幹となる輸送部隊の護衛及びルート選定の為にру-22「タタールの軛」及び再編成されたЙ-11「無毒の蛇」が招集され総勢156名の参加が決定しました。3つの機動部隊それぞれが各部隊の指揮権を保有し、統括をアルファ-4「ポニー・エキスプレス」隊長のジョナサン・シェリダンが行う形での特殊編成となります。下記は参加人員および装備についてまとめた概要書となります。
長距離遠征部隊ベータ-1「ベイヤード」編成概要書
出発予定日付: 2102/03/01
到着予定日付: 2102/08/01
参加部隊
輸送部隊: 機動部隊アルファ-4「ポニー・エキスプレス」: 60名
護衛部隊: 機動部隊ру-22「タタールの軛」:60名
探索部隊: 機動部隊Й-11「無毒の蛇」:36名
出発地点: 東方広域司令部 / ヤマンタウ地下都市群 / ウラル山脈
目標地点: 西方広域司令部 / タヴェルニー空軍基地 / パリ
部隊長: α-4ジョナサン / ру-22クラコフ /Й-11ペトロフ
運用車両
指揮車両: BTR-KShM「ソローカ」:2両
通信車両: R-440 ODB「フォボス」:1両
輸送車両: タイフーン式装輪輸送車:15両
戦闘車両: アルマータ式共通戦闘プラットフォーム:6両10
牽引車両: MT-LBu多目的型汎用軽装甲牽引車:1両11
特殊車両: MAZ-800特殊輸送プラットフォーム:4両12
遠征ルート: 遠征部隊は旧ロシア連邦軍の軍用路線沿いにカザン、モスクワを経由した上で南下、ベラルーシ、ポーランド、ドイツを経由してベルギーをかすめる形でフランス、パリを目指します。このルートは衛星からの画像および境界線イニシアチブより提供された情報をもとに現在地上で繁殖しつつある異常実体の回避、予想外の危険を避けた比較的安全なルートとなります。しかし途上汚染区域を何か所か通過する必要があり、また予想外のトラブルによるルート変更が考慮されており、最終的なルート選択は参加機動部隊の合議によって決定されます。
備考: 「ベイヤード」の装備はヤマンタウ東方広域司令部および地下都市群にて生産可能な旧式車両を中心に編成されました。これはNBC防護システムによる汚染防護を確保した車両を生産できる体制を限られた予算の中で成立させた結果ですが、少なくとも耐久試験の中では必要十分の性能を備えている事が確認されています。また各員には対放射線防護を施したルデル-ナガン防護服及び携帯式スクラントン現実描を含む任務に必要十分とされた装備が与えられます。
長距離遠征記録/映像ログの書き起こし
日付: 2102/03/01
遠征部隊 長距離遠征部隊ベータ1「ベイヤード」
部隊長: α-4ジョナサン / ру-22クラコフ /Й-11ペトロフ
出発地点: 東方広域司令部 / ヤマンタウ地下都市群 / ウラル山脈
Notes: 以下は長距離遠征部隊ベータ-1「ベイヤード」によるウラル山脈、ヤマンタウ地下都市群からパリ、タヴェルニー空軍基地への輸送ルート確立の為の遠征記録である。部隊はタヴェルニー空軍基地での物資生産に必要とされる資材を積載した輸送部隊を基幹として編成された。
[ログ開始]
作戦司令部: オンライン接続。α-4ジョナサン: ポニー・エキスプレス、シグナルグリーン、問題なし。
ру-22クラコフ: タタールの軛、問題なし。
Й-11ペトロフ: 無毒の蛇も問題ない、各車通信状態はオールグリーンです。
作戦司令部: ハッチ開放、諸君らの幸運を祈る。我々は君たちをモニターしているがカザンを超えた段階からは衛星回線頼りになる。通信状態には常に留意せよ。
α-4ジョナサン: 了解、何事もなく到着できることを祈る。
(ヤマンタウ第4番ゲートが解放され遠征部隊が出発する。総数30両全ての車両が遅滞なく出発しゲートは再び閉鎖される。部隊はウラル山脈よりウファからカザンへと続く軍用路線沿いに移動を開始する。32時間の移動でウファを通過後カザンとの中間地点にあたるエラブガに差し掛かる。この間野生動物を除く生命体との遭遇はない。)
作戦司令部: ベイヤード、君たちは今エラブガ13の東方45キロの地点にいる、何かルートに変化はあるか。
α-4ジョナサン: 想定通り汚染区域となっている。北周りに迂回して安全域に入り次第線路に復帰する。何か懸念となる様な情報はあるか。
作戦司令部: 今のところは直接的な衛星からの観測記録では脅威は認められない。ただし11世紀の城塞跡を中心に都市周辺でノイズにより観測が出来ない地点がいくつか存在する。電子機器での観測が出来ない何かが存在する可能性がある。留意せよ。
α-4ジョナサン: 了解。クラコフ、ペトロフ。我々は一度速度を落として予定されていた北周りのルートを進行する。念のために偵察を出してもらってもいいか?
ру-22クラコフ: タタールの軛から出そう。2030年代まではこの辺りでサーキシズム関連のマフィアが活動していた事がある。もしも何かあるとすればサーキックの変異体だ。イゴレク14で様子を見る。こいつにはミーメティック・フィルター式の光学センサーが付いている。衛星からの一般映像では見えなくてもこれなら大抵の実体を目視できる。
Й-11ペトロフ: 頼んだ、こっちはドローンで空から観察する。線量や環境値については我々に任せてくれればいい。問題があれば伝える。
α-4ジョナサン: 頼む、こういう都市の残骸じゃ何が起きてもおかしくない。気を付けてくれ。
ру-22クラコフ指揮の下6機のイゴレクによって先行偵察が行われる。約30分の探索によりイゴレクのカメラに幹線道路を覆うように広がる大小さまざまな腫瘍が確認される。付近には全身を腫瘍や傷跡で覆いつくされた人型実体が数体幹線道路に埋まるように蠢いている姿も確認される。実体は不定形に伸びる頭部や胴部に円形の排出腔をもっており、周囲の腫瘍をちぎっては自身の排出腔に詰め込んでいるように見える。詰め込むたびに頭部が徐々に伸びていき、一定の長さになると破裂して白濁色の液体をまき散らせてはまた同様の行動を繰り返している。
ру-22クラコフ: クラコフだ、現在部隊から5.5km北西の地点にいる。サーキシズム由来、ないしは類似したなんらかの異常による実体を確認した。バイカル湖付近で過去に収容されていたものと類似点が多い。焼夷弾の使用が許可されるのであればイゴレクの25㎜で一時的な駆逐も可能かと考える。ただしリスクを避けるのであれば迂回を進言する。
α-4ジョナサン: 私も迂回を取るべきだと思う。ペトロフ、ドローンから異常を避けるルートを策定できるか?
Й-11ペトロフ: ネガティブ、今飛ばしているドローンはミーム災害からの保護は可能でもその類のセンサーは積んでない。ドローンのカメラにはただの古びた幹線道路と……それから野生動物や生存者らしきぼろぼろの服を着た市民が1人見えるだけだ。
ру-22クラコフ: 線量はどうだ?
Й-11ペトロフ: ちょっと待ってくれ、今切り替える。よし、なるほど、他の地域と比べて線量が少ない。おそらく奴らの腫瘍は放射線物質を覆う形で貼られている。通行可能な汚染区域を選んで進めば行けるかもしれない。Й-11-3、もう2機飛ばせ。奴らに気取られる前にルートを見つけて通り抜ける。
α-4ジョナサン: 蜂の巣をつつかずに通り抜けられそうか?
Й-11ペトロフ: 今からそれを確認する、ちょっと時間が欲しい。
α-4ジョナサン: OK、10kmほど後退してルートを策定の上で通過する。それから方針を決めよう。
部隊は一旦後退し安全域より進行ルートの調査を行う。無毒の蛇による1時間のドローン探査により、どのルートを通過してもカザンにたどり着くには異常実体の領域を通過する必要がある事が確認される。迂回ルートは重度の汚染区域が存在しており通行が困難であることが合わせて発覚する。
Й-11ペトロフ: 駄目だ……どのルートでもなかなか厳しい。結構な範囲で広がっているな。
α-4ジョナサン: 強行突破が可能なルートはあるか?
Й-11ペトロフ: ある。見る限り比較的異常実体の数が少ないルートは存在する。それでも輸送隊の足を考えるとできれば陽動が欲しい。司令部、火力支援で注意を引けるか?
作戦司令部: 可能だ。現在地点であれば攻撃ヘリからの火力投射をぎりぎり1回行える。ただし戦闘可能距離ギリギリの地点だ。スクランブルをかけても2時間は耐えてもらう必要がある。どうする?
α-4ジョナサン: ならば火力支援を要請したい。ナパームなりロケット弾なり可能な限り大きな火力で奴らの注意がこちらに向かわないよう陽動を依頼したい。
ру-22クラコフ: 奴らの拠点となる場所、巣か何かを直接叩くべきだろう。司令部、衛星からの観測が行えない場所が何か所かあったな。そのうち地図上から一番古い場所は何処かわかるか?
作戦司令部: ヴォルガ・ブルガール時代15の城塞跡だ、町の南側、川沿いに存在する。放射線量はそこを中心にかなり低くなってるのがわかる。
ру-22クラコフ: そこだ、ヘリだけでなく俺たちが南から回り込んでアルマータの焼夷弾とイゴレクの機関砲で攻撃する。ヘリの火力支援を俺たちに回して貰えればそれを合図に離脱できる。砲装備のアルマータ2両にイゴレク6機があれば十分にこなせるだろう。
Й-11ペトロフ: それなら合流地点を定めないといけないな。司令部、M7の幹線道路沿いに進んだ先、ヴャトカ川は今も渡れるか?
作戦司令部: 可能だ。橋を越えてしばらく進んだ先に部隊が集結可能なトレーラーパークがある。そこなら問題なく合流可能だろう。
α-4ジョナサン: 了解、陽動後にトレーラーパークで合流、その後イゴレクの状態次第で破棄、ないしは回収して進行を再開といこう。合流したら昨日のキャンプ地で見つけたビールを分けてやる。俺たちの取り分を増やすなよ?
ру-22クラコフ: せいぜい俺たちに飲みつくされないように怯えておくんだな。それじゃ始めよう。
ру-22クラコフの登場するイゴレクを含む陽動部隊が行動開始と同時に東方広域司令部よりナパームおよび焼夷弾を装填した機関砲を装備したMi-24攻撃ヘリがスクランブル発進する。部隊は「無毒の蛇」のドローン誘導を頼りに城塞跡への攻撃地点へ展開する。周囲は完全に肉と腫瘍と膿に覆われており、かつて人や動物であったものが植物のように肉に埋もれ蠢いている。部隊は辛うじて汚染されていない廃墟を中心に射撃地点を確保し合図を待っている。
ру-22クラコフ: 攻撃地点についた。火力支援はいつ頃届きそうだ?
作戦司令部: 45分後だ、それまでは君たちの火力で何とかしてもらう事になる。
ру-22クラコフ: アファーマティブ、攻撃を開始する。アルマータ、城塞と思われるあたりにありったけ焼夷弾をぶち込め。ру-22-2とру-22-4の機体は退路を確保、ру-22-6は周囲を警戒しろ。他はありったけ叩き込め。ファイア、ファイア。
アルマータから焼夷弾が発射されると同時にイゴレクが地面に射撃用の簡易アンカーを打ち込み両腕の機関砲を発射する。肉に覆われた周囲の建築物や城塞跡から火の手が上がり、埋め込まれていた肉の実体や腫瘍がはじけ飛ぶ。一部の実体が肉から飛び出し時速20~40kmほどの速度でクラコフの陽動部隊に接近を始める。
ру-22クラコフ: アルマータに近寄らせるな! 弾幕をはれ!この波が過ぎ去り次第西へ離脱するぞ。
ру-22-6: クラコフ!CAP!西からも何かが接近中です。
ру-22-4: 地面が振動しています。南の川の方で動きが!何か人の顔をしたワームです!推定4m級が2体!
ру-22クラコフ: アルマータを一両ワームに向けろ!2と4は西の奴らを排除!肩部ランチャーの使用を許可する。各自20㎜の残弾に注意しろ!やられないうちに西へ逃れるぞ。
部隊は西へと移動を開始する。この間、衛星は「ベイヤード」基幹部隊が無事にエラブガを突破、車列が幹線道路沿いに合流地点への移動を行っている姿を確認する。数体の異常実体が車列に追いすがるものの護衛部隊の攻撃により撃退され安全域へと逃れたことが確認できる。
α-4ジョナサン: クラコフ、こちら基幹部隊!無事突破に成功した。繰り返す、突破に成功した。そちらも隙が出来次第突破してくれ。必要ならこちらの部隊を救援に向かわせる。
ру-22クラコフ: ネガティブ、今はまだ離脱できそうにない。思った以上の奴らが群がってきていてな。ヘリの火力支援を待って離脱する。君たちは所定の合流地点で待機しろ。
α-4ジョナサン: 了解、ビールを冷やして待っている。幸運を祈る。ジョナサン、アウト。
一方陽動部隊は想定以上の異常実体に苦戦を強いられている16。20から30程の実体がエラブガ南部のカマ川から出現し部隊が包囲されている様子をアルマータに搭載されたカメラが捉えている。アルマータは川から現れた人間の顔をもつワームに砲弾を浴びせ実体を撃退するも2体3体と出現する実体に徐々に攻撃が間に合わなくなる。部隊は楔型の陣形を構築し西への離脱を開始するも1台のイゴレクが異常実体の奇襲に転倒、ランチャーの誤射により炎上する。
ру-22クラコフ: 10の機体がやられたぞ。陣形を縮小して寄せ付けるな!ヘリが来れば俺たちの勝ちだ、もう少し粘れ。未屠殺犬の群れ程度薙ぎ払ってやれ!
ру-22-4: 12の機体も飲み込まれました!あとイゴレク4機、ヘリはまだですか!弾が持ちません!
ру-22クラコフ: 弾は打ち尽くしていい!撃ち尽くしたら陣形の内側に入れ!
陽動部隊はさらに1機のイゴレクを失いながらも離脱を続行する。カメラに映った残弾系が今にも尽きようとするタイミングで、不意に北から迫る一団に頭上よりロケットの掃射が行われ攻撃ヘリの増援が到着した事が確認される。
作戦司令部: 遅れて申し訳ない。これより火力支援を行う。クラコフ、君の部隊は西へ離脱しろ。既に基幹部隊は街を突破している。後は君たちが逃れれば状況はクリアだ。
ру-22クラコフ: 了解。全員アルマータを盾に突破しろ!進路をふさぐ敵以外はヘリに任せていい!続け!
陽動部隊は火力支援を受け西へ離脱する。城塞周辺はナパーム弾によって焼き払われ、追いすがる異常実体には掃射が行われ部隊は安全域への突破に成功する。この際DMTを摂取したMi-24パイロットによって町の浸食具合を確認、町の全域の肉による浸食が確認され、町は後日燃料気化爆弾とナパームによって地図から抹消される事となった。
部隊は無事ヴャトカ川の渡河後合流に成功。消毒および補給の上4時間後に進行を再開した。この際深刻な汚染によりイゴレクを1機破棄、この際内部人員に変異が認められたため焼却処分となった。部隊はその後カザン、モスクワを経由し南下、汚染地域の通過や認識災害区域の迂回などはあったものの大きな困難なく4月3日、旧ベラルーシ国境上に存在する遺物サイト-74に到達した。
[ログ終了]
長距離遠征記録/映像ログの書き起こし
日付: 2102/04/10
遠征部隊 長距離遠征部隊ベータ1「ベイヤード」
部隊長: α-4ジョナサン / ру-22クラコフ /Й-11ペトロフ
現在地点: 旧ベラルーシ国境/遺物サイト-74
Notes: 遺物サイト到着後、「ベイヤード」は一部武器弾薬など物資の補給や車両の整備点検、および休息に9日を割き4月10日に遺物サイト-74を出発しました。この際に部品交換が困難なイゴレク1機を遺物サイトに残し、空いたスペースに積載可能な補給物資及び嗜好品の供与を受けました。また西方広域司令部との長距離通信範囲に入ったことから対応がタヴェルニー空軍基地の西方広域司令部に切り替わりました。
[ログ開始]
作戦司令部: こちら西方広域司令部、タヴェルニー空軍基地コマンドセンター。通信担当官のカトリーヌ・バルドーです。「ベイヤード」聞こえますか。α-4ジョナサン: 聞こえる。今まで堅苦しい役人声だったのが女性のオペレーターに切り替わると気分もよくなる。こちら長距離遠征部隊ベータ-1「ベイヤード」所属、アルファ-4のジョナサンだ。
ру-22クラコフ: 同じくру-22、クラコフ、問題ない。
Й-11ペトロフ: 無毒の蛇もグリーンです。まあ通信車を保有してるのが我々だから当たり前と言えば当たり前ですが。
作戦司令部: ダコール、旅の仲間たち。パリのメンバーは皆さんを歓迎します。まあせいぜいが折り返し地点に差し掛かるかどうかですけどね。ここから先ちょっとしたルート変更があるのでデータを送信します。皆さんは旧ベラルーシ領を南西に抜けてリトアニアへ、その後ポーランド、ドイツと抜けてベルギー方向に向かってもらいます。4月8日時点でベルギーに存在するすべてのサイトからの連絡が途絶えました。皆さんは道すがらベルギーをかすめる形で偵察、その上で行動してもらう事になります。
α-4ジョナサン: 了解、ベルギーの偵察任務が追加って事だな。スケジュール上は余裕がある。こちらとしては問題ない。ただし状況によっては迂回してタヴェルニーを目指す許可をもらいたい。許可をいただけないだろうか。
作戦司令部: 問題ありません。あくまで情報を手に入れるための偵察であって主目的は皆さんの積み荷です。リスクが生じる際はこちらに直行して問題ありません。
α-4ジョナサン: 了解、それじゃ幸運を祈っていてくれ。「ベイヤード」出発する。
部隊は遺物サイト-74を出発しリトアニアに向けて移動を開始する。汚染された都市部を避けベラルーシ鉄道の主要路線に併設された軍用路を通行中、5kmに渡って鉄道に積載された戦闘車両の残骸が続く旧NATO軍の輸送隊跡を発見する。
α-4ジョナサン: 第三次世界大戦を戦うはずだった車両の末路か、哀れなものだな。
ру-22クラコフ: 2080年式のイオンクラフトに77年式のスウォーム・キャリア、俺たちの乗っている車両が悲しくなるほどの先端技術の塊もこうなっては元も子もないな……とはいえ一部の車両はもしかしたら部品が回収できるかもしれないだろう。記録に残しておいてほしい。
作戦司令部: こちらでマーキングしました、部品が回収できるうちに付近のサイトから回収部隊を派遣できるでしょう。それよりもそちらの車両でNATO形式の秘匿回線の受信は可能ですか?無線ステータスに若干の干渉を受けているようです。恐らくその先の待機路線からの無線信号かジャマーが干渉しているものかと思います。生存者の居留地であれば任務の性質上避ける事を推奨します。
Й-11ペトロフ: そうしたかったのですけどね……少し遅かった。北西側の木立に二人、それと列車の中で今レンズの反射がありました。他にもいくつか接近しつつあります。捕捉されたようですね。
ペトロフの搭乗するフォボスの動体センサーには少なくとも8名の人型実体を示す反応が表示されており、少なくとも3名は火器で武装している。クラコフは秘匿通信を利用し護衛車両各車の火器管制システムを立ち上げさせる。
α-4ジョナサン: 司令部、作戦規定では生存者との接触は非推奨以上の記載はなかったが、これは臨機応変に高度な柔軟性を持って対応してもよい、と判断していいか。
作戦司令部: リスクは可能な限り回避すべきですが、我々としても接触自体は禁止していません。ただし穏便に、我々のスタンスは変わっていません。問題は避けて、リトアニアに入ってください。
ру-22クラコフ: 了解、ただし危険と判断したらこちらの判断で発砲する。火器管制に火は入れてある。いつでも撃てる状態になっている事を覚えておいてくれ。
ジョナサンは防護服のカメラをオンにして上部ハッチを開放、自身で集まりつつある集団に声をかける。同じタイミングで小火器で武装したタタールの軛所属隊員が車両より展開し車両の安全を確保する。この際、ペトロフは密かに機銃で武装したドローンを発進させている。
α-4ジョナサン: 周辺を囲んでいる集団、聞こえているか!こちらに敵対の意志はない。我々はウラル山脈からパリを目指している。通行の許可を願いたい。
生存者A: 信頼できない!我々はNATO所属欧州連合軍即応部隊と欧州合同軍の生存者で構築されている。この路線沿いの資材は我々NATOの資産である。速やかに引き返し別のルートを取れ。
α-4ジョナサン: 我々は国連管轄下、正常性維持連絡会所属、長距離遠征部隊「ベイヤード」だ。パリ、タヴェルニー空軍基地へウラル山脈から必要資材を運搬する任務に就いている。君たちの資産に興味はない。ただ通行したいだけだ。責任者を出してくれ。
生存者A: くっそ、お前ら財団だな。ちょっと待て、お前らの事は知ってる。ロック!閣下のレールカーを引っ張ってきてくれ!すまない、貴官らの所属組織の事は認識している。今話の分かるやつらを連れてくる。世界がこうなってからいろんな意味で脅威が増えてピリピリしていたんだ。
α-4ジョナサン: 脅威が増えた……というと北で起きているように肉の怪物なんかがこの辺りでも出没しているのか?それとも何か薬物でハイになったカルト教団でも蔓延しているとか。
生存者A: ”どの”肉の怪物かによるがスタルカーじみた怪物は確かにこの辺りでもでるぜ。他にもポーランドから来る音楽狂い共やキノコマニアみたい変わり者なんかはよく見かける。気が付いたら沸いてくる肉の信者にクリーチャーを飼いならした略奪者どもに至ってはやりたい放題さ。最近じゃ神を再構築する為の資材としてここの軍需品を渡せってよくわからないサイボーグまでやってくる。戦争を機に世界はファンタジーになっちまった。
ру-22クラコフ: 戦争が始まる前から世界はそういうファンタジーに溢れていたのさ。あんたらの大半はファンタジーの詳細を知ったのが戦争後なんだろうが俺たちはずっとそのファンタジーな怪物やオカルトじみたあれこれに対処し続けてきたのさ。
生存者A: 知ってるさ、俺はこれでも戦前はディア大学17に在籍してたこともあるんだ。今の世界じゃそういう魔術やオカルトや異常、その他そういう類の知識を持っていなくちゃやっていけない。だから俺みたいのが現場指揮官として皆を引っ張っているのさ。昔はあんたらに怯える立場だったが今じゃ異常に関わっていたどいつもこいつもがあんたらが再び怪物をしまい込んでくれるのを期待しているよ。
生存者との会話が続き、比較的友好的なやり取りが続く中、路線沿いに機銃で武装したモーターカー2両が向かってくるのが確認される。生存者たちはモーターカーを部隊の元に誘導し搭乗していた士官らしき男性を引き合わせる。
生存者A: 閣下、こちら”財団”の遠征部隊の方々です。彼らが話す限りパリにはまだ国連と財団に関連する機関が生存しているようであります。残念なことにMC&Dの商人連中は正しかったらしいです。
コードウェル: なるほど……財団か。お初にお目にかかる。私はNATO欧州合同軍所属のロバート・コードウェル准将、生き残った周辺のNATO軍残党と核攻撃を逃れた少数の市民を取りまとめている。パリへ向かっているとか。貴官らにこの辺り一帯の情報を提供できる。少々時間をいただいても?
α-4ジョナサン: もちろんです閣下、私は正常性維持連絡会東方広域司令部所属、長距離遠征部隊「ベイヤード」のジョナサン・シェリダン、部隊の総括を行っています。この辺り一帯との事ですが皆さん以外にもいくつか勢力があるようで、一体どのような状況なのです?
コードウェル: それを正しく伝えるにはここでは不適格だろう。この先の旧ベラルーシ軍の軍用シェルターがある。そこで話すのが良いだろう。ついてくるといい。MC&Dを名乗る連中が核戦争の直前に我々を誘導してくれたのだ。とは言ってもおかげでベラルーシ一帯のライフラインを奴らに握られて我々も企業の狗扱いだがね。
α-4ジョナサン: それでも生き延びているだけ儲けものです。ロシアでは肉の怪物に覆われた街を見ましたし、イタリアの教皇庁も恐ろしい怪物から生き延びるのに必死ですがそれでも何とかやっています。我々はからくも生き残ったのです。できる事をするとしましょう。
α-4ジョナサンを中心に数名の人員がコードウェル准将率いるNATO残党軍の居留地に随行し、ベイヤードはベラルーシからドイツ一帯の居留地および把握されている危険勢力の情報を得る事に成功した。これによりベルギーに存在していたはずの一切の居留地からの情報が途絶えた事、偵察に出た人員からの情報が途絶えている為ブラックゾーンとなっている事が確認された。またベルギーに存在する何らかの存在についての示唆を受けたが、この実体は名辞災害を伴う性質を持っており、詳細についての言及が難しく、明確な現状を確認するには至らなかった。またこの際にシェルターに滞在していたMC&Dの交渉担当者よりSCP-107-JP由来の余剰次元を経由した意識偵察であれば、ベルギーで起きている名辞災害の影響を最小限にとどめた状態での偵察が出来る可能性が示唆され、これに伴い西方広域司令部にて余剰次元を利用した意識偵察が計画、実行された。
部隊は司令部の許諾する範囲での情報交換及びMC&Dの構成員からの商談の申し入れの為短期間の滞在の後にベラルーシ軍の軍事シェルターを出発し、4月20日にはリトアニアを抜けポーランドに到達。ポーランド国内にてSCP-4684離反勢力との小規模の衝突により一時的なルート変更を余儀なくされたものの5月15日にはドイツ国境へと到達した。
[ログ終了]
都市偵察記録/映像ログの書き起こし
日付: 2102/05/20
偵察部隊 機動部隊オミクロン・ロー 「ドリームチーム」
部隊長: Ο-Ρ-CAP
部隊員: Ο-Ρ-1 / Ο-Ρ-2 /
偵察地点: 旧ベルギー/ブリュッセル/名辞が許されぬ余剰次元
Notes: 「ベイヤード」がMC&Dの構成員より受けた提案によりベルギーに存在する未特定の異常実体群の調査の為、SCP-107-JPを利用した意識偵察が行われました。部隊は意識体侵入手順『エミル・ペルノ』を用いて仮の実体を取得、グレイブヤード内に存在するベルギーへのゲートを用いる事で名辞災害の影響を最小限にとどめた状態での偵察を実現しました。この際余剰次元に存在する森と同様の名辞災害が確認されており、閲覧者の被害を避けるためログを着色する事で対象の識別を容易にする措置がとられています。
[ログ開始]
部隊はSCP-107-JP内、カタコンベに設置された現実世界へのゲート前で出発の準備を行っている。ゲート周辺は緑色の霧が立ち込めておりゲートへと緩やかに流れ込んでいる。西方広域司令部より供与されたカメラを互いに調整し財団標準探検装備を身に着ける。
Ο-Ρ-CAP: こちらΟ-Ρ-CAP、これよりベルギーへ侵入する。進入後はテレパスでの意思疎通以外での名辞を禁じる。ベルギーは既に現実世界と乖離した森と同様の性質へ次元侵食されている可能性が高い。不用意な発言は死を招くと考えろ。
Ο-Ρ-1: 了解、ある意味じゃワクワクしますね。
Ο-Ρ-2: 感嘆符を使いすぎて帰れなくなったケースもある。感情は出来る限り押し殺すべき。
Ο-Ρ-CAP: ある程度の身体への影響はアブサン・アベニューの仮実体が引き受けてくれるが何処まで体が持つかは確約できない。現市長のキングが言うにはダークタワーを破壊するほどのシャインを浴びなければ大丈夫だろうとの仰せだが、あの作家の事だ、我々の破滅を楽しんでいるに違ない。
部隊は互いの装備が万全である事を確認の上でゲートに侵入する。カメラ映像に数十秒ノイズが入り、次に映像が鮮明になった段階でかつてのブリュッセル市街がカメラに映し出される。超常的変化を遂げたと推測される市街は1860年代の建築様式をとっており、戦争の影響を受けていないように見える。
Ο-Ρ-CAP: 侵入完了、これより探索を開始する。
Ο-Ρ-1: 懐かしの都市、素晴らしい光景だ。
Ο-Ρ-2: なんにせよここで何が起きているかを把握しないと帰れない。早く調べて帰りたい。
隊員たちは無言で頷きあい混沌を内包する都市を散策する。一見人間に見えなくもない何かが各所で観測され、一見、周辺建造物の年代にあわせた生活をしている様子が確認される。
Ο-Ρ-1: なあ、あの店で出されている料理、あれは何だろう。
Ο-Ρ-2: 道沿いに開店しているカフェの食物……
Ο-Ρ-CAP: 見るな、ゆっくりと進め。距離を取れ。
部隊は王立劇場が設置されていた場所まで移動したところでカメラ映像を確認する。ズームされた映像には人間の部位が原形が残る形で調理されて提供されている様子が記録されている。
Ο-Ρ-CAP: 森の入り口を見つけなければならない。何が起きたか知る誰かを捕まえなければ。
耳長き人: "それには及ばないよ、諸君。君たちは外からやってきたのだろう。君たちをずっと、ずっと待っていた。"
疲れた顔立ちの人型実体が部隊の後方より接近してくる様子が確認できる。杖を突きゆっくりとした動作で部隊を呼び止める。
Ο-Ρ-CAP: こんにちは、どのような意味合いかによって変わってくるがここではない場所からやってきたのは確かです。
赤き目を持つ者: "ああ、今日は諸君、かつてとあまりに変わってしまった世界へようこそ。森はごく限られているがいい場所だ。"
Ο-Ρ-1: ええ、栄光を感じさせる古き街には感嘆するばかりです。驚くほど急に変わったことには驚いていますが。
かつて森を歩んだ者: "そうだろうとも。この広き国土のあらゆる都市が今、彼らの森と同一のそれに侵食されつつあるのだ。"
Ο-Ρ-CAP: それはどういった形の事象でしょうか。私の酸い頭では中々思考が追い付きません。広く狭き法則の森になりつつという事は入れ替わりつつあるという事でしょうか。
Ο-Ρ-2が声を上げようとするがΟ-Ρ-CAPがゆっくりと身振りで発話を封じる。Ο-Ρ-CAPは懐より地図を出し毛皮を纏った紳士に見せる。白衣を夢見し者は12の箇所に印をつけて頷く。
Ο-Ρ-2: どういう事?12の都市に何が起きているの?
入れ替わりし者: "そこの酸い名前の彼がかつて行った事を規模を大きくした、と言えばわかるかね。あの破壊の炎を逃れるため、図書館をあぶれた蛇の者どもが我々の次元を訪れたのだ。彼らは世界を入れ替え難を逃れようとして、そして失敗した。"
Ο-Ρ-CAP: わかるとも、大体の事を理解した。私はかつての恋人の最後を知り、森に残ったものの代わりとして長い時を歩んできた。よい人生だった。名を奪われた君にはすまない事をした……だが、これは認めてはならない事という事だな。
かつての学者: その通りだ。長く、そう非常に長い時が流れた。だが私は理念を捨てる事も出来なかった。だから私は君たちにこうやって伝えに来た。
Ο-Ρ-1: 俺には全く状況がつかめない。今世界に起きている何らかの出来事については多少なりとも理解を得た。しかしあなた方のそれはどういう事か。
Ο-Ρ-2はΟ-Ρ-1の肩を叩き首を振る。Ο-Ρ-CAPと再び巡り合ったものを指し示しゆっくりと指を回す。Ο-Ρ-1は声を上げかけ、そして息をのむ。
Ο-Ρ-CAP: 戻りたいかね。
希望を見た紳士: 勿論だとも、かつての時間を取り戻すチャンスをもらえるかな。
Ο-Ρ-CAP: よかろう、ジェイパーズ、代わりに君が解決したまえ。世界は変わってしまった。かつての人類も、我々も、そしてあらゆるものが今の世界では変わってしまった。その行く末の一端を任せようと思う。
絆を取り戻した学者: 後は君に任せた。私は森で永劫の時を過ごそうと思う。君たちに絆の加護があらんことを。
白き毛皮の紳士が去るのを見送った後、Ο-Ρ-CAPはゆっくりと自身の装備を確認するΟ-Ρ-CAP: さて、我々は戻らねばならない。帰り道を先導してくれ。
Ο-Ρ-1: こちらです。
Ο-Ρ-2: おかえりなさい、これから忙しくなりますよ。
Ο-Ρ-CAP、ジェイパーズ博士の証言により、現在ベルギーは余剰次元上の危険地帯による次元侵略が起きている事が確認されました。核戦争時、放浪者の図書館への逃走が叶わなかった蛇の手構成員や一部の魔術結社などによって計画された次元置換の失敗が原因とされる次元侵略は現在進行形で継続されており、解決には該当地区の焼却が必要と考えられます。これに伴い、ベルギー焼却作戦が提言され、O5評議会による議決の後、核戦争時に発射されなかったNATO軍のM85式MIRVを利用した都市攻撃作戦が発令されました。この際、NATO残党軍およびMC&D社との交渉がなされ一時的な情報連結がなされました。
[ログ終了]
長距離遠征記録/映像ログの書き起こし
日付: 2102/05/25
遠征部隊 長距離遠征部隊ベータ1「ベイヤード」
部隊長: ру-22クラコフ /Й-11ペトロフ
部隊員: ру-22-2~12 / Й-11-1~12
現在地点: 旧ドイツ/サブコマンドポスト-02/
Notes: ベイヤードはベルギーでの意識偵察の結果を補給の為に立ち寄ったサブコマンドポスト-11で受領。これにより、部隊のベルギーへの進行は一時停止されたものの、直後にO5評議会から発令された都市破壊作戦への参加が決定しました。都市破壊作戦は核戦争時に発射されなかった旧ドイツ南西部のミサイルサイロ12およびフランス東部のNATO秘匿サイト-03、ポーランドのNATO秘匿サイト06に保管されたM85式MIRV18を再起動、ベルギーに残存する12都市を攻撃する手はずとなっている。「ベイヤード」は旧ドイツ国内のサイロを強襲、西方広域司令部から送信された発射コードと座標を入力し誘導を司令部にゆだねるまでが任務となる。この際、アルファ-4「ポニー・エキスプレス」およびру-22「タタールの軛」の護衛車両の一部は部隊を一時離脱し遠征任務を継続する形となった。
[ログ開始]
強襲部隊は移動の後、5月27日に目標サイロの北方10kmの地点に到達、作戦キャンプを設営する。この際、イゴレク2機とアルマータを中心に補給および整備が行われる。ру-22-2、ру-22-3が1番機、およびру-22-4、ру-22-5が2番機のイゴレクに搭乗し部隊の火力支援を担当する。
ру-22クラコフ: マイクは入ってるか?
Й-11ペトロフ: 3か月程度で壊れるような整備はしてませんよ、グリーンです。
ру-22クラコフ: それもそうか。司令部、俺たちが起動する核弾頭、収容サイロについての情報を頼む。
作戦司令部: 了解、NATO軍残党から提供された情報によるとミサイルサイロ-12は核戦争が始まる36時間前より施設を閉鎖、その後今に至るまで施設はブラックボックスになっています。サイトは3基のミサイルを内包しており通常の構造であれば中央司令部から発射に関する操作が可能となります。
ру-22クラコフ: 核戦争の36時間前というのは?
コードウェル: それについては私から説明しよう。音声は良好かね?
Й-11ペトロフ: 問題ありません、閣下。
コードウェル: よろしい、サイロは核戦争が起こる36時間前、時計仕掛正教会を称する集団によって核戦争の阻止を名目に占拠されている。神は自身以上に世界が破損する事を受容しない、だそうだ。
ру-22クラコフ: 技術進歩で正常性に組み込まれつつあったのに、まったくここに来て厄介な連中だ。
コードウェル: まあ、名目はともかくあの集団が我々の資源を奪いに来ている半機械の集団と同一のグループであれば奴らは高度に機械化されたサイボーグ技術を保有している、対話が通じないのであれば火力を惜しまない事だ。
Й-11ペトロフ: 我々の保有する火力で対抗できればの話ですけどね。
ру-22クラコフ: 残ったイゴレクとアルマータなら問題ないだろうが歩兵戦力で超えられるかとなると怪しいところだな。俺たちはソビエトがまだあった時代から生物の専門家だ。
Й-11ペトロフ: その為の「無毒の蛇」です。皆さんに配布したGP-60ランチャー用のパルスグレネードは十分に奴らに効く筈ですし、いくつか奥の手があります。
コードウェル: 地形についてはそちらの方が詳しいだろうが一応補足しよう。サイロは外見上針葉樹林内の政府施設に偽装されている。主要連絡路は2か所、北と東に一本ずつ用意されている。北は核戦争前の奪還作戦で破壊された車両の残骸が今も残っている、東からの接近を推奨する。接近後は施設北側の資材搬入口からの侵入を推奨する。対テロ対策として緊急アクセスコードが別で用意されている。
ру-22クラコフ: 一応確認するが監視カメラやセンサーの類は?
Й-11ペトロフ: 誰かが維持もしくは新設していれば残っているでしょうが考えにくいでしょう。接近については問題ないはずです。
作戦司令部: なんにせよ、そちらのサイロは貴方たちにかかってます。幸運を祈ります。
部隊は夜間を待って行動を開始する。部隊はサイロ東の資材運搬路から接近、大きな妨害なくサイロへの肉薄に成功する。カメラには劣化の見られない強固なシェルターが映し出されている。周辺に人影や監視装置の類は見られず部隊は予定通り搬入路へと移動する。
ру-22クラコフ: 搬入路へ移動する。だが何か変だ。違和感ある。
Й-11ペトロフ: 違和感?どういった形で?
ру-22クラコフ: この辺りの路面は整備されてないにもかかわらず一切の劣化が見られない。ру-22-2、ру-22-4、イゴレクのセンサーに何か引っかかっているか?
ру-22-2: こちら1番機、DMTセンサーには反応ありません。ですが確かに張られている路面は見えてみるものと違って劣化している可能性があります。バランサーの数値に偏りが出ている。
ру-22-4: サーキック由来のテクスチャではないようですが、我々の見えているものと実体はやはり違うようです。何か考えられるものはありますか。
Й-11ペトロフ: 誰か、ちょっとスモークを焚いてもらえないかな?もしかしたら見え方が変わるかもしれない。
Й-11-7がスモークグレネードを利用し煙幕を張るとЙ-11ペトロフの赤外線カメラ越しに劣化した施設が映し出される。また、スモーク内には各所から光の帯のようなものが差し込み何らかの投影を行っている事が推測された。
Й-11ペトロフ: 3Dホログラムだ、サーキック由来のテクスチャの張替えやミームの影響じゃない。純粋な投影技術だね。誰かがここの見栄えをまともにしている。
不意にオープンチャンネルにて部隊に交信が入る。
unknown: ご名答だ、よく気が付いたがどういった用件だ?我々は君たちのような装備の整った軍隊から訪問を受けるような事はしていない筈だ。少なくとも戦後は。
ру-22クラコフ: 非常事態につきこの施設で保管されているMIRVを使用したい。現在ベルギーで侵略行為が行われている。我々はこれを阻止しなくてはならない。
unknown: 侵略?国家もなにも無くなった世界で大層なものだ。また滅菌するのか?
Й-11ペトロフ: 滅菌……ね、間違ってはいないけど収容できない以上何かしらの対処をしないといけない。封じ込められるのであれば、もしくは共存できるのであれば手はあるだろうがあれは駄目だ。
unknown: そういう異常が世界には溢れている。君たちは君たちの価値観でそれをみんな滅ぼすのか?
ру-22クラコフ: さあな、だが俺たちは少なくとも目の前の脅威に対処しないといけない。その後の事を考えるにも、少なくとも我々が我々である時間を用意してやらないとな。少なくともシェルターの中で神の復活を待つよりはよっぽど生産的だと思うが?
unknown: 君等にとってはそうだろうさ、だが我々にとってもやらなくてはいけない事があるって事さ。君たちは他を探しだす事だ、ここは開けられない。どうしてもっていうならこちらにも考えがある。当然ながら我々にも武力の備えはある。
搬入路の防護シャッターがゆっくりと音を立てて起動する。中からは身体の各所が機械化された身長2.5m程のサイボーグと目される人型実体及び甲殻類と類似する形状の機械実体が数体出現する。人型実体は2080年代の標準的な火器を携えている。
人型実体: 諸君らが武力的行使に応じる場合は我らは我らの取りうる手段によって反撃する。当該区域の離脱を推奨する。
ру-22クラコフ: 貴官らこそ我々の要求に応じるべきだ。我々は対装甲装備を保有している。砲戦力での支援砲撃も可能だ。貴官らが犠牲になっても意味はない。
人型実体: 我々はファーザー・アンヴィルの御心のままに守護するだけ。諸君らの要求は受け入れられない。
クラコフから秘匿通信で後方に待機していたアルマータに砲撃指示が送信される。アルマータは同時送信された座標に向かって間接砲撃を実施、出現した実体に装甲フレシェット弾に搭載された無数の炸裂タングステンダートが降り注ぐ。人型実体は大量のタングステンによる損傷を受けながら反撃を行うがイゴレクの機関砲によって制圧される。機械実体は投射された火力に一定の被害を受けるもエネルギーフィールドを展開しこれを防御、破損した人型実体を回収し後退する。
ру-22クラコフ: 進め!奴らに態勢を整える隙を与えるな。防御態勢が整う前に施設を奪還する。アルマータは随伴員2名と搬入路を維持、他は続け!
Й-11ペトロフ: こちらも続け!タタールは電子戦装備が充実した部隊じゃない。奴らが十全に戦えるよう支援するぞ。
部隊は搬入路より侵入を開始する。この際、部隊はイゴレクの侵入が可能なルートを進行しミサイルの確保を行う「タタールの軛」と司令部確保を目指す「無毒の蛇」に分かれ分散する。内部では壊れた神の教会に由来する祭壇、機械部品、オブジェなどを要害とした機械実体により「タタールの軛」はミサイルの格納されるサイロ手前で足止めを受ける。
ру-22クラコフ: イゴレクを盾に一体ずつ排除しろ!徹甲弾やグレネードをケチるな。どうせここを抜けたらフランスまでそう距離はない。使い尽くすつもりで良い。
ру-22-2: CAP!あの蟹の機械20mmじゃ抜けません!防護フィールドを破る方法はないんですか!
ру-22クラコフ: 一点に火力を集中して対応しろ!7と8は回り込んでパルスグレネードをぶちかましてやれ!他は手を止めるな。時間が経てばたつほど不利になるぞ!撃て!
ру-22-7: アファーマティブ!8、こっちだ!こういう施設じゃ配管スペースは整備性を上げる為に人が入れるケースが多いんだ。そこから回り込む。
ру-22-8: 知ってるさ、俺たちの遺物-サイト215だって似たようなものだった。お互い訓練じゃよく使っただろ。
ру-22-7とру-22-8は配管スペースに入り込み抵抗する機械実体の裏手に回る。ру-22-7は防護フィールドの張られていない死角からパルスグレネードを機械実体に射出する。機械実体は紫電を上げなら反撃し肩部に設置されたニードルガンでру-22-7を掃射、ру-22-7は至近距離から掃射を受けて即死する。ニードルガンの射出に際して一時的に防護フィールドが途絶えたすきに乗じてイゴレクは機械実体に肉薄。瓦礫破砕用のハンマーを叩きつけて機械実体を撃退する。機械実体による防御支援が得られなくなった人型実体はその後機関砲の掃射によって制圧されイゴレクはミサイルサイロの一つを確保する。
ру-22クラコフ: MIRVのサイロを一つ確保した。ペトロフ、司令室はどうなってる。
Й-11ペトロフ: まだ確保できていません。奴ら司令室の手前にバリケードを築いて抵抗してるんですがヤバい奴が一人混じってる。PoI-2273-01だ。俺たちに通信を送ってきたあの野郎、戦前に収容違反を起こした後消えたEuclid指定だ。あいつはパルスグレネードじゃ歯が立たない。救援が必要だ。
ру-22クラコフ: 防衛体制を整え次第そっちに人を送るが少し待ってくれ。こっちもサイロの予備制御室がまだ掌握できてない。ミサイルは確保できても妨害される恐れがある。
PoI-2273-01: 諦めて後退したまえ。私の人生は長く、暗い日々だったがやっと使命を得たのだ。彼女の偉大なる意匠を!美しき規格をこれ以上解体させるわけにはいかないのだ。また人々をコンクリートの暗い掩蔽壕へ追いやるつもりか、貴様らは。
Й-11ペトロフ: それどころか人々がもっと酷いものになり替わろうとしているんだ。だから我々は人間がせめて人のまま生きられるように手を尽くす。降伏しろ。
無毒の蛇を中心としたグループが司令室に立てこもるグループと激しい銃撃戦を続ける。双方に負傷者が発生するものの激しい銃撃により後退が困難な状況になる。同様にミサイルサイロの一つとサイロの予備制御室を確保した「タタールの軛」も再度の奪還を試みる人型実体の反撃にあい格納庫で釘付けにされる。
ру-22クラコフ: 司令部、こちら「ベイヤード」強襲部隊、施設の一部を確保するも強固な反撃にあい応援を求む。こちらベイヤード、サイロ内にて激しい抵抗にあっている。応援を求む。
作戦司令部: こちら司令部。近隣の収容サイトに壊れた神の教会の武装戦闘員を制圧可能な対応部隊はいません。なんとか独力で対応してください。繰り返します。増援は出せません。どうにか独力で対応してください。
ру-22クラコフ: 無茶を言うな。俺たちだって生物対応の部隊だ。機械野郎は専門じゃない!
Й-11ペトロフ: こちらも負傷者多数、身動きが取れません。どうにかなりませんか?
作戦司令部: なんとか応援に出せる部隊を探します。少し待ってください。
α-4ジョナサン: 待つ必要はない。俺たちがいる。
ру-22クラコフ: ジョナサン!お前はパリへ向かっただろう。どういう事だ!
α-4ジョナサン: 簡単な事さ。輸送隊をサブコマンドポストに戻してお前たちが残したMi-82を使った。クラコフ、ミサイル発射口を開け!そこから降下する。
ру-22-8:サイロひらきます!開口まで10秒!
ру-22クラコフ: そうとなれば増援を無事到着させるぞ。イゴレクのランチャーを使え!奴らを混乱させろ!
α-4ジョナサン率いる「ポニー・エキスプレス」の志願者と護衛に随伴したру-22の隊員による増援によってふたたびミサイルサイロが制圧される。これにより無傷のメンバーが司令部前で交戦中だった「無毒の蛇」への増援に駆け付ける。PoI-2273-01はその後30分間にわたり抵抗を続けるも負傷者の増加と弾薬の欠乏に伴い降伏する。
PoI-2273-01: 降伏する。私はともかく彼女の子らをこれ以上傷つけないでくれ。
α-4ジョナサン: 降伏を受諾する。武装解除して司令室を明け渡せ。我々の目的が果たされるのであればこれ以上の流血……流血は望まない。司令部、降伏を受託する。問題ないか。
司令部: 既に確認が取れています。問題ありません。今回の主目的はMIRVの発射であって人体拡張者やPOIの確保ではありません。
α-4ジョナサン: 司令部も受託した。PoI-2273-01、アレクセイ・ベリトロフ、ファーザー・アンヴィル、君たちの降伏を改めて受け入れる。負傷者の手当てからだ。Й-11ペトロフ、俺たちが雑務を進めているうちに本来の目的を頼む。
Й-11ペトロフ: 了解、ジョナサン。それにしても初めから輸送車を置いて皆で来ていればオールグリーンだったんだ。
ру-22クラコフ: 言うな、俺たち全員のミスだ。
部隊は負傷者の収容の上、司令室にてMIRVの発射の発射コードと座標が入力されました。同様にポーランド、フランスのサイロでも発射が行われ、かつてベルギーが存在した地域は地図上から改めて消滅しました。作戦の完遂を確認、機動部隊オミクロン・ロー「ドリームチーム」によるオネイロイ・ウエストを通した情報収集により改めて物質世界への余剰次元の浸食が停止したことが確認されました。
「ベイヤード」は輸送車両と再合流後にドイツを出発。6月15日にパリ、タヴェルニー空軍基地に到着。遠征任務を完遂しました。最終的に13名の死傷者、18名の負傷者を出したものの輸送車両の損失はなく、遠征任務の完遂に伴い西方司令部の復旧が開始。 2103年には完全な基地機能を回復しました。
[ログ終了]
当該遠征任務のデブリーフィングについては別紙「完遂報告書-2102-長距離遠征部隊ベータ-1”ベイヤード”」を参照してください。
補遺SCP-2001-JP.6: 東西の広域司令部への陸上輸送路が確立されたことをきっかけにユーラシア大陸および地中海沿岸に存在する各国サイトへの広域補給計画が立案され、段階的に実行されました。これに伴いバチカンやモンテネグロ、NATO軍残党を中心とした残存人類文明との限定的な交流が開始されました。
補遺SCP-2001-JP.7: ISSからの地上世界の汚染観測データと各地のサイトで行われている環境モニタリングデータの数値を総合的に精査した結果、地上部の汚染レベルが人間が生活する事が可能なレベルまで低下したことが確認されました。これにより人類文明を再び取り戻すための復興計画が立案中です。O5評議会による議論および投票の末、人類社会を再興するためのプロトコル-カントリーロードが発令されました。これにより各サイトのロックダウンが解除され地上への帰還が行われます。下記は正常性維持連絡会およびO5司令部の共同名義で世界に発せられた声明文のコピーです。
声明文:2115-プロトコル-カントリーロード
我々は礎であった。異常な現象、物品、生物。あらゆるものより世界を保護し、正常性を維持することで世界を正気のヴェールに匿ってきた。
2098年、世界はヴェールの内側から崩壊した。正常性にのっとって作られた人類文明の脅威はその炎をもって世界を焼き払い、正常性は脆くも崩れ去った。今やかつて我々が守ってきた正常な世界とやらはたった一握りの人々で辛くも維持される泡沫のそれでしかない。
今や正常性とは過去の遺物であり、滅び去ったこの世界においては我々にとっての正常性こそが異常なものとなり果てている。
正常性とは何だったのか?我々が守る世界とは何だったのか?もはや記憶の彼方へと追いやられつつあるそれはどうしようもなく馬鹿らしく、例えようがないほど億劫で、しかし何にも代えられない愛おしい世界だったはずだ。
我々O5司令部と正常性連絡会はこの滅びた世界の中で文明を再び拡散する日をずっと待ち望んできた。諸君もそうだろう。地下で核兵器による汚染に怯える日々、かつての世界で為した異常に怯えながら錠前を確認し続ける日々はもう終わりにしよう。
我々はかつての正常性を、かつての平凡だったあの日常を取り戻さなくてはならない。今や我らに収容されて久しいあの文明を拡散させねばならない。今こそ我々はあの世界を収容違反Explainedする時だ。
さあ!世界を取り戻す道のりを歩き始めるとしよう。かつて父と歩いた田舎道、学友と笑いあった通学路を取り戻す日が来たのだ。
ヴェールはここに捲られた。世界の礎たる財団は再び世界に戻ってきた。私はここに世界を再び取り戻すためのプロトコル「カントリー・ロード」の発動を宣言する。
歩き出そう。それが、我々の選択だ。
O5司令部
正常性維持連絡会
O5-8 ドレイブン・コンドラキ