アイテム番号: SCP-2009-JP
オブジェクトクラス: Keter Euclid
特別収容プロトコル: 渉外部門の担当職員は財団webクローラを用いて適宜「収容違反」という単語が一般にもたらす印象を定期的に確認してください。当単語のイメージ保持のため、適宜プロトコル『実況動画』およびプロトコル『収デン』の適用を行ってください。
SCP-2009-JP-Bはセクター8105の標準型生物収容ユニットに収容されます。担当職員はSCP-2009-JP-Bの個体数が5匹を超えないよう適宜調整を行ってください。SCP-2009-JP-Aの排出した繊維は低危険物収容ロッカーに保管されます。
説明: SCP-2009-JPは旧サイト-81NR内で形成されていた異常生物群(SCP-2009-JP-A、SCP-2009-JP-B)の総称です。異常生物群は2009/09/16に発生した同時多発収容違反(0916事件、通称“嘆きの水曜日”)時に多数の異常存在が相互に干渉したことによって発生したと考えられています。異常性の変化を経てSCP-2009-JP-Aは無力化し、サイト-81NRは解体されました。
SCP-2009-JP-Bは体長0.7 m~1.2 mの鱗翅目(Lepidotera)です。その習性および外観はイラガ科のものに類似しています。現在、SCP-2009-JP-Bはその大きさでの生存と無性繁殖を可能とする点を除き特異な性質を示しません。
SCP-2009-JPの異常性および性質は複数回の変化を経て現状へと至っています。これは複数の異常存在の相互作用によってオブジェクトが極めて不安定な状態にあったことに由来すると考えられています。変化の経緯ならびにSCP-2009-JP-Aについては過去の報告書および付属文書群を参照してください。
アイテム番号: SCP-2009-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-2009-JPは0916イベント時を除き自己収容状態にあります。遠隔監視カメラおよびドローンによる監視を行ってください。また、定期的に専門職員を派遣して、サイト-81NR外部からの観察記録を付けてください。
毎年9月16日に発生する収容違反(0916イベント)のため、9月14日には声帯を切除したDクラス職員を1名サイト-81NR付近に派遣し、待機させてください。Dクラス職員は0916イベント開始と同時に無線カメラを装備した状態でサイト-81NR内に派遣されます。人員の回収は必要とされていません。
説明: SCP-2009-JPは2009/09/16に発生した同時多発収容違反(0916事件、通称“嘆きの水曜日”)によって廃棄されたサイト-81NRとその内部に形成された生態系です。生態系は主に捕食者としての位置を占めるSCP-2009-JP-Aとその被食者として多数存在するSCP-2009-JP-Bによって構成されています。サイト-81NRは0916事件発生時に最も早期に陥落した収容施設の1つです。事件発生時には主に異常節足動物を収容していました。サイト-81NRに存在していたオブジェクト及び人員の大半はSCP-2009-JP-AあるいはSCP-2009-JP-Bのいずれかに統合・吸収あるいは捕食されたものと考えられています。多くの異常存在の無秩序な相互作用により、SCP-2009-JPは非常に不安定かつ危険な状態にあると考えられています。
SCP-2009-JP-Aはサイト-81NRに勤務していた真嶋博士に酷似した上半身が接続されている全長3 mのクモ(Araneae)型実体です。SCP-2009-JP-Aは発声機能を保有していることが判明していますが、対話に成功した事例はなく、知性の有無、さらには真嶋博士の人格および記憶が保持されているかどうかは不明です。SCP-2009-JP-Aは紡糸能力を持ち、サイト-81NRの内外にタンパク質性の極めて高い剛性と粘性を持つクモ糸を張り巡らせて、後述する0916イベント時以外のサイト-81NRからの脱出を不可能としています。SCP-2009-JP-Aはサイト-81NRに収容されていたSCP-███-JP-ARCが他の異常存在ならびに真嶋博士と相互作用して変質したものと考えられます。
SCP-███-JP-ARCは本来Euclidクラスに指定された体長約1.5 mのクモ(Araneae)でした。特筆すべき点として、SCP-███-JP-ARCは自身に向けられた恐怖に強く反応する事が知られていました。
真嶋博士は安全管理委員会に所属していた職員です。0916事件発生以前において通常のヒトであり、肉体及び精神に異常性はみられませんでした。しかし内部ヒューム値は0.7 Hmと通常より低い値を持っていたことが判明しています。この内部ヒューム値およびSCP-███-JP-ARCの性質が現在のSCP-2009-JP-Aとどのように関連しているかは不明です。
SCP-2009-JP-Bは体長0.7 m~1.8 mの神経毒を有する鱗翅目(Lepidotera)に似た外観の異常生物です。サイト-81NR内には少なくとも10匹以上が生息しているとみられますが、幼虫および蛹のみの存在が確認されており、成虫の姿は今のところ確認されておりません。これはSCP-2009-JP-Bの変態が阻害されているか、あるいは成虫の生存期間がSCP-2009-JP-A等の要因によって極めて短い可能性を示唆しています。またSCP-2009-JP-Aによる捕食にも関わらず1齢幼虫の個体数が増加していることから、SCP-2009-JP-Bは変態を介さずしての繁殖が可能であると考えられています。
SCP-2009-JP-Bはヒトの接近を認めると積極的に接近し、自身の毒棘を突き刺すことによる無力化と捕獲を行います。この時SCP-2009-JP-Bはヒトの声に強く反応し、特に「収容違反」という単語には極めて鋭敏に反応する事が判明しています。SCP-2009-JP-Bは無力化したヒトをSCP-2009-JP-Aに与えます。これは自らが捕食の対象となる事を回避しようとしての行動であると推測されています。SCP-2009-JP-Bと似た性質を持つオブジェクトはサイト-81NRには収容されておらず、SCP-2009-JP-Bの異常性および習性がどのような由来を持つかは不明です。
サイト-81NRの周辺はSCP-2009-JP-Aの排出した糸によって完全に包囲されており、この包囲網の面積は1年に1.2倍程度の速さで加速的に拡大しています。この拡大は周囲にある遮蔽物や接触した物体・生物を巻き込んで行われるため、拡大の阻止は不可能です。また糸を除去する試みが成功した事例はなく、遅くとも15年後にはサイト-81NRの存在を秘匿できなくなると予測されています。
SCP-2009-JPは毎年9月16日に自己収容状態を解き、サイト-81NRの正門及び正面方向の封鎖を開放します。(0916イベントと呼称)この時SCP-2009-JP-Bはサイト外に進出し、積極的にヒトを捕らえてサイト内に連れ去ろうとします。SCP-2009-JP-Bの1体が1人以上のヒトを捕らえた段階で"狩り"は終了し、SCP-2009-JP-Bはサイト内部へ帰還します。全てのSCP-2009-JP-Bがサイト内に戻った段階で0916イベントは終了し、サイト-81NRは再び完全に封鎖されます。
サイト-81NRの開放と同時にヒトが侵入した場合、SCP-2009-JP-Bは進出を行いません。このことから現在のプロトコルが制定されました。サイト-81NRへ侵入したヒトが脱出に成功した事例はなく、現在の報告書は侵入したDクラス職員の装備した無線カメラによる動画に基づいて記述されています。このためSCP-2009-JPの異常性の全貌は未だ明らかになっていません。
報告(2012/09/17)
0916イベント及びそれに基づいて得られたSCP-2009-JP内部の状況に変化が見られました。通常、Dクラス職員がサイト-81NR内部に侵入した直後に職員は捕獲され、正面の出入り口は即座に封鎖されます。しかし2012/09/16においては職員が捕獲された後も正面の出入り口は6時間にわたり開放されていました。この期間中にSCP-2009-JP-Bの外部進出はみられませんでした。
Dクラス職員の持ち込んだ無線ビデオカメラによる記録も変化を示しています。撮影されたSCP-2009-JP-Bの動きは去年度までに撮影されていたものと比べると優位に速度が低下しています。
SCP-2009-JPの変化の兆候はそれ以前にもみられており、包囲網の拡散速度の上昇具合が2012年の4月を区切りとして急激に緩やかになっています。これらの変化がどうして今起きているかは不明ですが、SCP-2009-JP-AならびにSCP-2009-JP-Bの生態に何らかの変化が起きているのは確実視出来ると言えるでしょう。また、かつてと違い現在は封鎖が開く時間が長くなっているため、人員の生還可能性も以前よりは上昇していると考えられます。
次回の0916イベント時にはDクラスによる探索だけではなく、エージェントを派遣することを提案します。
SCP-2009-JP定期監視担当者 幸谷雅美
提案を受け、2013年9月16日に潜入調査が決行され、0916事件当時サイト-81NRに所属していたA.岩間を含む特殊編成部隊が派遣されました。隊員はそれぞれ標準的戦闘・探索装備の上、防音処置を施された通話機構を支給されています。
探査記録2009-JP-004 (2013/09/16)
SCP-2009-JP探索映像ログ-004 (書き起こし抜粋)
日付: 2013/09/16
探索人員: 特別編成部隊/A.笠原(隊長/アルファ)/A.志賀(副隊長/ブラボー)/A.岩間(チャーリー)/A.佐竹(デルタ)/A.矢沢(エコー)
対象: SCP-2009-JP
目的: SCP-2009-JP内部の探索、SCP-2009-JP-A,Bの生態調査および意思疎通可能性の評価
«記録開始»
[5名はSCP-2009-JP包囲網の外側に立っている。包囲網の糸が部分的に解け、SCP-2009-JPが開放される。包囲網の内側には外側に向かって進むSCP-2009-JP-Bの姿が複数確認される。SCP-2009-JP-Bの移動速度及びSCP-2009-JP内部の蜘蛛糸の密度は2011年以前と比較すると有意に低下している。]
[D-9220が包囲網内部に投入される。D-9220は包囲網内部の壁沿いを走ってSCP-2009-JP-Bからの逃走を試みる。SCP-2009-JP-BがD-9220を無力化し、自身の上にのせてサイト-81NRの方向に進み始める。他のSCP-2009-JP-Bも同様にサイト-81NRへの帰還を開始する。]
[5名は内部へ侵入し、D-9220を乗せた個体を追ってサイト-81NRへ向かう。周囲には多数のSCP-2009-JP-Bがいるが、5名には興味を示さない。]
ブラボー: よし、SCP-2009-JP-B、我々には向かってきません。一人捕まえて満足していますね。
チャーリー: そうですね。デルタ、エコー、大丈夫か? 顔色が悪いが。
エコー: 大丈夫です。デルタは少々緊張してるみたいですが。
デルタ: おい。……いえ、大丈夫です。俺のほうは。
チャーリー: ああ、君たちはこれが初陣だったか。
ブラボー: というか、その様子だと緊張っていうよりはDクラスの使用のこと?
デルタ: 何も思わないと言ったら嘘になりますが……でも、割り切れはします。
アルファ: ならいい。君たちの最大の仕事は生還して早いとこ慣れることだ。気負いすぎるな。
エコー: わかりました。
チャーリー: ま、慣れたくなくてもいずれ慣れるさ。
[10分ほどして、蜘蛛糸に覆われたサイト-81NRが映る。正面玄関以外の出入り口は全て覆いつくされている。正面玄関からは多くのSCP-2009-JP-Bが侵入している。]
サイト指令部: では、Dクラス職員を保持した個体の追跡を続けてください。
アルファ: 了解。これより突入します。
[サイト-81NR内部が映し出される。廊下の上部には糸が張り巡らされているが、床上1 mの高さまでの糸はほぼ破れている。]
エコー: かがんだら糸に触れずに進めそうですね。
チャーリー: おそらくは、SCP-2009-JP-Bが糸を引きちぎって通っているんだろうな。脇道には糸が床まで残ってるところもある。これを見れば、こいつらが普段どういうルートを辿っているかもわかるかもだ。糸、60 cmほど回収しました。張ってるのと違って全体的にぼろぼろですね。すぐ崩れます。
デルタ: おそらくは、SCP-2009-JP-Bの分泌してる液体か何かで変性したんでしょうね。床に点々と残っていて、そこに触れた糸は特に傷んでいるように見えます。
[隊員らは変性前後の蜘蛛糸およびSCP-2009-JP由来とみられる液体をサンプルとして回収する。サンプル群はチャーリーが保持する。]
[中略]
[D-9220を保持したSCP-2009-JP-Bが階段を登り始める。]
チャーリー: 2階か。これ、あんまり使われてないルートっぽいし、降りるときのほうが大変そうだけど……真嶋さんがどうなってるのか、確認しないとだ。
[5名は細い階段を登る。階段にも蜘蛛糸は張り巡らされており、床上60 cmほどの部分のみ蜘蛛の巣が破られている。廊下とは違い、巣は壁際のみが破られている。アルファが2階に到着したところで、SCP-2009-JP-Bが監視室に入っていくのが映る。]
[20秒後、SCP-2009-JP-Bが監視室から姿を現す。D-9220は保持されていない。捕食音のみが記録される。]
デルタ: [呻き声]
エコー: 大丈夫か? しっかりしてくれよ。
デルタ: うるさいな、わかってる。
チャーリー: ……様子、見てきます。ああ、喰ってる。下の蜘蛛の方だ。真嶋さんの方は……顔を手で覆ってる。意識は……どうなんだろう。これだけでは何とも。
サイト司令部: では、SCP-2009-JP-Aの食事が終わり次第、意思疎通を試みてください。SCP-███-JP-ARCの生態が保存されているのであれば、食事を終えたあとの危険性は低下している筈です。
チャーリー: わかってます。すいません、一応これ渡しときますね。じゃ、まずは音声を介さないところから始めます。毛虫が寄ってきたら嫌なんで。
[チャーリーは回収したサンプルをブラボーに渡し、捕食の完了を待って監視室に侵入する。SCP-2009-JP-Aの蜘蛛部分がチャーリーを見る。上部のヒト型部分は反応を示さない。チャーリーはジェスチャー及び文字による意思疎通を試みる。ヒト型部分は顔を上げてチャーリーに向ける。ヒト型実体の眼にあたる部分は落ち窪んでいる。]
チャーリー: これといった反応も、敵意もありません。関心は向けられてる気がするけど、そもそも目が見えているのか……声、試しますか?
サイト司令部: お願いします。
[チャーリーは防音装置を外す。]
チャーリー: 真嶋さん。お久しぶりです。聞こえますか?
SCP-2009-JP-A: [呻き声]
チャーリー: 現在サイトは封鎖され、あの日……9月16日以外は自己収容状態にあります。あなたの、意志ですか?
SCP-2009-JP-A: [不明瞭な発言]
チャーリー: ええっと……真嶋さん?
SCP-2009-JP-A: 真嶋さん。聞こえますか? あなたの意志ですか? あなたの、意志ですか?[不明]自己収容状態。
アルファ: チャーリー、戻ってこい。会話は無理だ。
チャーリー: そうします。さよなら、真嶋さん。
SCP-2009-JP-A: 待ちなさい。
チャーリー: えっ
[SCP-2009-JP-Aは腕を上げ、足を止めて振り返ったチャーリーを指さす。]
SCP-2009-JP-A: Containment Breach.
チャーリー: な──
[直後、SCP-2009-JP-Aの背後に張られていた蜘蛛の巣から不明な白い物体が飛来。チャーリーは監視室から弾き出され、廊下に張った蜘蛛糸に全身を絡めとられる。4名より早くSCP-2009-JP-Bがチャーリーに接近し、毒棘を刺して捕食を開始。ブラボーはチャーリーに銃を向け、終了する。]
アルファ: くそ。撤退だ。
[4名は2階の階段前まで撤退する。SCP-2009-JP-Bは捕食を終え、その場を動かなくなる。]
アルファ: 追ってはこないが、我々から視線を外しもしないな。どうする指令部。
サイト指令部: もう充分です。撤退してください。ルートをこちらで探すので、しばらく待ってください。
アルファ: この辺りが一番マシだろうな。階段は危険だ、通れる道が狭すぎる。ここで待ちます。
サイト指令部: わかりました。
ブラボー: デルタ、エコー、大丈夫ですか?
デルタ: どうしてチャーリーを撃ったんですか。
ブラボー: そりゃ助けたかったけど、助かる見込みがなかったから。一瞬で終わるか、長引くかの違い。この業界じゃ、珍しいことじゃない。
デルタ: [沈黙]そうですか。仕方ない、んですよね。
エコー: そうなんだろうな。
サイト指令部: ルートが決まったので送付します。これに従って帰還してください。
アルファ: 了解しました。結局この階段は避けられないか。[沈黙]すまない、ブラボー。殿を頼む。
ブラボー: わかった。一応サンプルは渡しておく。
アルファ: 先頭も大概なんだけどな。……すまない。
ブラボー: そんなに謝らないでよ、慣れてるでしょうに。
[4名は順番に階段を這って降り始める。3名が階段を降り、1階に到着する。]
アルファ: [呻き声、溜息]
エコー: あの。
アルファ: いや、何でもない。こんなこと、慣れてるさ。慣れてるんだよ。行こう、後はそこまで危険じゃないから。
デルタ: わかりました。
[3名は玄関付近まで帰還する。SCP-2009-JP-Bの姿はみられない]
アルファ: これで、そろそろ──
ブラボー: [悲鳴]
デルタ: 通信機か?
エコー: いや、それだけじゃなかった。近い。
アルファ: 指令部。ブラボーはどこでどうなっている。毒が回ってたら叫べないはずだ。カメラは生きてるよな?
サイト指令部: チャーリーを捕食した個体と共に生存しています。映像の確認は推奨しません。
アルファ: 場所は? そう遠くないんだろ?
サイト指令部: あなたたちのほぼ真上です。回収は不可能ではなく、その場合得るものは極めて大きいですが、危険性もまた同様です。どうしますか?
アルファ: そうか。くそ、こういう希望には慣れてないんだよ俺は。[溜息]指令部、SCP-2009-JP-Bは自己収容状態にあり、"狩り"の後はサイトから出たがらない。そうだったな?
サイト指令部: 今までのところは、そう推測されています。
アルファ: そうか。[沈黙]すまない、二人とも。君らは先にサイトを出て、正面玄関付近で待機していてくれ。
エコー: 行くんですか、助けに。
デルタ: それも一人で。
アルファ: 君らを付き合わせる訳にもいくまい。いいか、10分待って何もないか、あるいはそれより前に何かが起きたらすぐさまここを離れてSCP-2009-JPから出るんだ。全速力で、絶対に振り向くな。俺とブラボーが君たちを呼ぶことは絶対にない。そういう通信が入ったら無視しろ。わかったな。
エコー: ですが、隊長は──
アルファ: 頼む。大丈夫だ、すぐに合流するから。
エコー: [沈黙]わかりました。
アルファ: じゃあ、また。サンプルを君たちに渡しとく。お互い、預けたり預かったりするなよ。……じゃあ指令部、場所とルート送ってくれ。
サイト指令部: 送付しました。
[サンプルをデルタとエコーに渡した後、アルファは2階へと向かう。この段階でデルタ、エコー両名とアルファとの通信はアルファによって切断されている。]
アルファ: それで、あいつは今どうなっている? 食事でもなく、生贄でもないんだな?
サイト指令部: 現在産卵されています。
アルファ: [溜息]そんな事だろうと思った。それで、医務室。ここか。行ってくる。
[アルファは医務室に突入。同時刻、デルタ、エコーはサイト-81NRを脱出して待機状態に移行する。]
デルタ: 俺たち2人になっちまったな。5人もいたのに。
エコー: 6人だよ。それに、4人に戻るかもしれない。
デルタ: 信じてるのか?
エコー: あんまり。でも、そう思いたい。
デルタ: そうか、俺もだよ。……君もそうだったんだな。
エコー: 意外か? 失礼だな。
デルタ: 悪い。俺よりはそういうのに慣れるのが速そうだと思ってたから。俺はまだ全然慣れられそうもない。
エコー: 僕は慣れたいとすら思えない。漠然とした悲嘆に慣れ親しむのも何も思えなくなるのも──
ブラボー: デルタ、エコー、上だ! ガラスに気をつけろ!
[2発の銃声が響く。デルタ、エコーの待機位置の上部近辺に位置する窓が割れる。15秒後、割れた窓からブラボーが落下し、待機していた両名に受け止められる。]
ブラボー: ありがとう。すぐここから離れよう。動きながら説明する。
[デルタとエコーはブラボーを抱えてサイト-81NRを離れはじめる]
エコー: その、隊長は?
ブラボー: 私を守ってチャーリーを食ったやつと相打ちになった。ゼロ距離で撃つと通る場所もあるんだね、あの外皮。
デルタ: あの、副隊長。止血しませんか。急がないと危ないですよ。
ブラボー: 必要ない。この足さえ本部に持っていけば目的は果たせる。だから急がないと。右足だけ切り落としてあなたたちに託したいくらい。その方が確実でいい。
エコー: その足が何なんですか。
ブラボー: SCP-2009-JP-Bは無性生殖でしょう。チャーリーで充分栄養が摂れたんだろうな、私の足の傷に卵を産み付けてきた。それでサンプル確保ってわけ。これがきっと最大の戦果になる。持って帰れなかったら、アルファもチャーリーも浮かばれない。
デルタ: 最大の戦果、ですか。
ブラボー: 最初に気づいたのは貴方でしょう。SCP-2009-JP-Bの分泌する液体は、SCP-2009-JPを覆うこの糸への対抗策になり得る。それがあれば、次はもっと誰かがうまくやれる。今までSCP-2009-JP-Bの捕獲は失敗してきた。あまりにも環境が悪かったから。でも、卵から孵せば対策はできる。わかったでしょ? だから、お願い。もう体はろくに動かないし目は霞んでる。きっと長くはもたない。右足以外はお荷物でしかないんだ。
エコー: 嫌です。僕らが担げばいいだけの話でしょう。あいつらはサイトからは出てきませんよ。
ブラボー: ……そう。でも、あいつらが出てきたらその時は副隊長として命じますから。切り落としてくれって。
デルタ: わかりました。すみませんね、こういう事には不慣れなんです。それに、隊長にもサンプルを預かったりするなと命じられています。
エコー: 不出来な新入りを持つ羽目になったんだと諦めて頂ければ。
ブラボー: わかった。それで、私を殿にしたアルファは正しかったんだと思うことにする。
[3名はSCP-2009-JPを脱出し、待機していた本部に回収される。]
«記録終了»
終了報告書: エージェント・志賀(ブラボー)から回収されたSCP-2009-JP-Bの卵は問題なく孵化しました。SCP-2009-JP-B-1からSCP-2009-JP-B-4はセクター8105にて収容され、飼育されています。
SCP-2009-JP-Bに関する報告(2015/11/25)
SCP-2009-JP-Bに関して、その起源となった異常存在をいくつか特定しました。あまりにも多くの異常性が密接に絡まっているので全てを網羅するのは今のところ不可能ですが、確実なもののリストを[閲覧にはセキュリティクリアランスレベル4が必要です]に上げてあります。
ただ、そちらのファイルは長い上に、要求クリアランスが高くなってしまっているので、私達が最も重要視しているアノマリーについてここで述べます。それはAO-1414-JPで、サイト-81NR勤務の研究員によるサイト間共通の警告灯の試作品でした。結局のところ「収容違反」という単語にすら反応してしまうため、お蔵入りになっていたらしいのですが……。ここで着目してほしいのはその効果範囲の広さです。
SCP-2009-JPに関する大きな未解明の疑問は“2012年の4月に何が起きたのか?”です。我々は今までSCP-2009-JP範囲の加速度を低下させた要因をサイト-81NR内、あるいはそこに収容されていたオブジェクト群に求めてきました。しかし、その答えはサイトの外にあったのではないかと我々は考えています。
2012年の4月に何があったのか。どなたか、思い当たることはありませんか?
SCP-2009-JP研究主任 関英明
AO-1414-JP
説明: 日本国内のいずれかのサイト内で収容違反が発生すると「収容違反」と発声されると光る警告灯。
回収日: 2004/02/03
回収場所: サイト-81NR
SCP-2009-JP関連文書群-1
DATE: 2015/11/28
FROM: 長谷川哲郎,セクター8105所属研究員 <██████@scp.fo>
TO: 関英明,セクター8105所属研究主任 <██████@scp.fo>
SUBJECT: Re:Re:Re:Re:Re:R…
[関連性が薄いため省略]
そういえば2012年の4月の件ですが、その頃からゲームのタイトルになってますよ。サイト-81NR外どころか財団の外の一般社会なんで、関連は薄そうですけど。
DATE: 2015/11/28
FROM: 関英明,セクター8105所属研究主任 <██████@scp.fo>
TO: 長谷川哲郎,セクター8105所属研究員 <██████@scp.fo>
SUBJECT: どういうことですか
>ゲームのタイトル
どういうことか、詳しくお願いします。
DATE: 2015/11/29
FROM: 長谷川哲郎,セクター8105所属研究員 <██████@scp.fo>
TO: 関英明,セクター8105所属研究主任 <██████@scp.fo>
SUBJECT: Re:どういうことですか
Containmant Breachというホラーゲームのことです。財団データベースの一部が一般に流出したことに対して、これを娯楽目的のための創作サイトであると思い込ませるプロジェクトオペレーション"スカーレット・ローズ"があるんですが、ここから派生したそうですね。この初版が公開されたのが2012年4月15日だそうです。一部じゃ結構人気らしくて、実況動画なんかも多く投稿されてます。もちろん不正確なところも多いですが、結構よくできてて面白いですよ。
調査の結果、"Containmant Breach"の普及ならびにそのプレイ画面を実況する動画の投稿数・視聴数の増加に応じてSCP-2009-JP包囲網拡大の加速度が僅かに低下していることが判明しました。これを受け、SCP-2009-JP拡大対策の一環として渉外部門による実況動画の普及が行われています。
SCP-2009-JP関連文書群-2
DATE: 2016/08/07
FROM: 関英明,セクター8105所属研究主任 <██████@scp.fo>
TO: 玉菜葉一,サイト-81KA特殊科学部門現実改変対策チームリーダー <██████@scp.fo>
SUBJECT: 疑似的現実希薄領域に関する質問
玉菜博士
お世話になっております。SCP-2009-JP研究主任の関です。私どもの担当しているオブジェクトの機構が現実改変現象にも関連しているのではないかという話が持ち上がりましたのでご意見を伺いたくメール致しました。
SCP-2009-JP-Aの糸は弱い現実吸引性を持ち、結果としてそれが張り巡らされたSCP-2009-JPは疑似的な弱い現実希薄領域としての性質を持ちます。ここに“収容違反”という単語が想起させる負の表層意識が領域内に多数蠢くSCP-2009-JP-Bを介して流入し、SCP-2009-JPに反映されているのではないか、という仮説が今持ち上がっています。そうであれば、その単語が想起させるものが「ゲームのタイトル」になった事によって危険性が減ることにも説明がつくというのです。
広範囲にわたって単語に反応するオブジェクトを由来に持つとはいえ、あまりにも広範囲の人間が持つ漠然とした印象を拾い上げるような描像は成立しうるのでしょうか。我々にはこれを判断できるだけの知識がありませんので、ご意見を伺いたいのです。どうぞよろしくお願いいたします。
DATE: 2016/08/15
FROM: 玉菜葉一,サイト-81KA特殊科学部門現実改変対策チームリーダー <██████@scp.fo>
TO: 関英明,セクター8105所属研究主任 <██████@scp.fo>
SUBJECT: Re:疑似的現実希薄領域に関する質問
関博士
玉菜です。遅くなりました。現実改変チームのみんな、それから土橋研の方々ともいろいろ議論したのですが、結論から言うとそういう描像は決して成立し得ないものではないと思います。脅威的存在に対する名付け・コンテンツ化による弱体化、という対処法は蒐集院の時代から行われてきた一つの定石です。その派生としてそういうことがあってもさほど不自然には思いません。
それに、負のイメージの流入が起きているのであれば、9月16日になると毎年”自己収容”が緩んでオブジェクトが出てくる事にも説明がつきます。皆、あの日が来ると多かれ少なかれ"嘆きの水曜日"を思い出してしまいますから。我々は長きに渡って悲しみを肥え太らせ続けてしまっていたのかもしれません。
ただし、細かい機構について議論すると、どこまで現実改変が表に出ているかはわかりません。集団による現実改変は目新しいトピックですが、それ故未解明のことが多すぎます。それに、サイト-81NRには観測者が持つイメージに立脚した性質を有するオブジェクト群も多く収容されていると聞きました。それらの中には現実改変とは異なる機構(”創造される真実――空想チャネルと異常媒介物質の統一理論”, █. ████(ex-Exective Director of the Japan Branch:”Nuwe”) et al.: Foundation, Vol. ███.7, pp.2-14, 2016に詳しい統合的研究の結果があります。僕もあまりきちんとは読めていませんが……)を持つものも多くあります。こちらの機構が表に出ている可能性もあります。
あまりにも多くの異常が協奏的に発現しているので、推論によって細かな描像を定めるのは不可能でしょう。大雑把に仕組みを掴みたいのであれば実際に試してしまった方がいいかもしれません。拡大速度と、それから包囲網内部のヒューム値の変動を見れば充分推測は立てられると思います。最近は渉外部門が対外的な「創作サイトとしての"SCP財団"」の広報を企画していると聞きました。“収容違反”なる単語へのイメージに突発的な変化を起こすイベントが発生したときにどうなるか見てみるのが一番早いと僕は思います。
プロジェクト『収デン』(2018/04/29)

『収容違反 インシデント2018』メインロゴ
関博士らの提言により、「収容違反 インシデント」と題したイベント(以下、収デン)がニコニコ超会議2018と同時に開催されました。収デンは”創作サイト「SCP財団」のオンリーイベント”という名目のイベントで、同人即売会と展示会が同時に行われることを特色の1つとしています。当イベントには財団の認可のもとで多くの財団職員が出店に加わっていました。
収デン開催決定及びメインロゴの一般発表に伴い、SCP-2009-JP包囲網内部のヒューム値に変化は見られませんでした。しかし拡大速度は急激に緩やかになり、開催直後にはほぼ停止するに至りました。ただし完全な拡大の停止には至らず、イベント終了から3日後には拡大速度の復活がみられました。これにより、糸の発生源であるSCP-2009-JP-Aに対する根本的な対策(収容あるいは無力化)が必要であると結論付けられ、2019/09/16に機動部隊の派遣および”収デン2”の開催が行われる事が決定されました。
このプロジェクトについて疑問を抱く方、違和感を覚える方も大勢いると思います。管理者が語るとおり、我々は闇の中に立つ者、言ってしまえば日陰者でなくてはならないのではないか。それがこんな風に、機密は守るとはいえ一般の人々に対して我々の存在を暴露するような真似をしていいのか。自分とて、数年前までならそう思ったでしょう。ですが、率直に言ってしまいましょう。今更です。
怪奇創作サイトとして作られた我らがデコイ、「SCP財団」はあまりにも一般に広がりました。データベースに偽装したウェブサイトだけではなく、ゲームや紹介のための動画・サイトなど、様々な形態のコンテンツが親しまれています。SCP-XXX-JP-EX-Jは一般社会まで"収容違反"している有様です。望むと望まざるにかかわらず、我らはもはや日陰者ではないのです。それでいいのだと、私は思っています。
収デン会場に赴き、「SCP財団」なる架空の団体に親しんでいる者たちがあれほど楽しそうにしているのを、彼らが作り上げた我々の活動に基づく作品を見たときは中々衝撃的でした。自分達のやって来たことには意義があったのだと、あの時ほど強く実感した事はありませんでした。それ以来、自分にとっても、「収容違反」という単語は忌むべき禁句、悲嘆をもたらす災害を示すだけではなくなりました。参加した財団職員の多くはそうだったのではないでしょうか。
彼らは「SCP財団」およびそれが対峙する「SCP」が虚構の存在であると心から信じています。夜が明ければ朝が来るのだと疑いようもなく信じている人々です。不条理に曝され続け、何かを無邪気に信じることが難しくなった我々と比べれば、無意識下の認識の強度は遥かに強いのです。我らの認識にすら変化を及ぼすほどに。これを使わない手はありません。
0916事件、"嘆きの水曜日"はその通称が示す通り悲嘆の代名詞でした。あの日の大規模収容違反の事を、我々は悔恨とある種の諦念を抱きながら呼び続けました。そして、9月16日という日付もまた同等の印象を抱かれるようになっています。
もう、諦めをもって悲嘆を常態化させるのは終わりにしましょう。我々は充分に嘆きました。これから、9月16日は”我々が敗北し、多くの犠牲の上にからくも生き延びた日”から”一つの勝利を収めた日”になる。今の私たちなら、そう出来るはずです。
SCP-2009-JP対策チームリーダー 関英明
探査記録2009-JP-009 (2018/09/16)
SCP-2009-JP探索映像ログ-009 (書き起こし抜粋)
日付: 2018/09/16
探索人員: 機動部隊ろ-8”祝祭の裏方”/A.佐竹(隊長/アルファ)/A.土居(副隊長/ブラボー)/A.谷津 (チャーリー)/A.道明寺(デルタ)
対象: SCP-2009-JP
目的: SCP-2009-JP-Aの確保あるいは無力化
«記録開始»
[4名はSCP-2009-JP包囲網の外側に立っている。包囲網の糸が部分的に解け、SCP-2009-JPが開放される。包囲網の内側には外側に向かって進むSCP-2009-JP-Bの姿が複数確認される。動きはこれまでに観測された中で最も低速である。]
[下岩式ヒト偽装処置を施したブタがSCP-2009-JPに投入される。ブタはSCP-2009-JPの内部でSCP-2009-JP-Bから逃走し走り回る。]
ブラボー: 中々捕まりませんね。しばらく待ってたらいいのかな。
アルファ: 前に比べると速度がかなり落ちてるからな。それに、糸の密度もかなり減ってる。
チャーリー: ああ、隊長は前にもここ探査に来たんでしたっけ。
アルファ: ああ。その時は新入りで、デルタって呼ばれてた。
デルタ: それで、今回の新入りが俺って事ですよね。前回よりも人数が減ってますけど、その……大丈夫なんですか?
アルファ: まあ、前回いた人間で今生きてるのは俺だけなんだから、仕方ないよ。でもあの時とは状況も装備も判明している情報も違う。エコーは居ないが俺は居る。だから、気負いすぎなくていい。新入りの最大の仕事は何よりも生きて帰る事だからな。
デルタ: 了解です。すいません、その、あんまりにもヒトに偽装したブタの見た目がアレだったもので。
アルファ: まあ、凄いよな。
[SCP-2009-JP-Bがブタを捕獲して毒棘を刺し、自身の上に乗せてサイト-81NRの方向に進み始める。他のSCP-2009-JP-Bも同様にサイト-81NRへの帰還を開始する。4名はSCP-2009-JPに侵入し、ブタを乗せた個体を追い抜いてサイト-81NRへ向かう。]
[サイト-81NRが映る。正面玄関以外の出入り口は割られた2階の窓を除き、蜘蛛糸に覆いつくされている。]
アルファ: これより突入します。その辺は特にガラスが散乱してるから気を付けて。
[サイト-81NR内部が映し出される。廊下の上部には糸が張り巡らされ、床上1 mの高さまでの糸はほぼ破れている。また、糸の密度は探査映像記録004と比較すると有意に低下。4名はSCP-2009-JP-Bに由来する除去液を噴霧して1階の退避ルートに張った蜘蛛糸の床上1.8 mまでを除去する。2階への階段に向かったところで、サイトに帰還したSCP-2009-JP-Bの個体が姿を現す。SCP-2009-JP-Bは4名から一定の距離を保ち続ける。]
ブラボー: うわあ、めちゃくちゃ見てくる。今までああいう行動ってしてなかったんですよね。
サイト指令部: 記録にはありませんね。
アルファ: 寄っては来ないだけマシとみるべきか。とっとと片付けてしまおう。
[4名は噴霧器を用いて階段に張った糸の除去を開始する。作業が60%ほど完了したところで、今田・宮原式勾配変動探知繊維が反応を示す。]
デルタ: 前方、来ます!
[4名の前方に広がる蜘蛛糸の網から白い糸の塊が飛来する。塊はチャーリーをかすめ、踊り場の壁に付着する。]
チャーリー: 掠めただけです、今のところは何ともありません。
デルタ: 毛虫、来てます。行動パターンが明らかに変わりました。
アルファ: 一端2階に上がろう。今ので糸はちょっと減った事だし。
[4名は2階に到達する。]
ブラボー: 追ってくる訳じゃないみたいですね。
アルファ: さっきの塊に押し寄せて食いついてる。アレに引き寄せられてたんだな。
デルタ: また反応、右です! 2つ!
アルファ: やっぱり、射出速度も落ちてるな。事前にわかってさえいれば避けられる。
ブラボー: とはいえ探知糸がなければ全滅しかねなかった。それにしても、ブタを乗せたのはいつ来るんだろ?
チャーリー: まあ、ブタを乗せたおっきい幼虫の速度としては決して遅いわけじゃないし。待つしかないよ。
サイト指令部: これまでの映像記録から、空腹時のSCP-2009-JP-Aは極めて危険であると考えられています。発信機の信号を見るにそろそろなので、待っていてください。監視室の向こうから来るはずです。
デルタ: この階段から来るんじゃなかったんですか?
サイト指令部: そのルートは多数のSCP-2009-JP-Bによって詰まっているからではないかと推測しています。
[沈黙。2分後、ブタを保持したSCP-2009-JP-Bが現れる。SCP-2009-JP-Bは4名を無視して監視室に入る。30秒後、SCP-2009-JP-Bはブタを保持せずに監視室から現れ、他の個体と同様に一定の距離を保って4名を注視する。]
デルタ: うわあ、露骨に嫌な感じだ。
アルファ: 仕方あるまい、突入しよう。ブラボー、チャーリー、収容の準備は出来てるか。
ブラボー: 出来てます。
サイト指令部: では、収容および無力化フェーズに移行してください。
アルファ: 了解。
[4名は監視室へ突入し、捕食行為を終えたSCP-2009-JP-Aに向かって麻酔銃を撃つ。SCP-2009-JP-Aは即座に4名に向かって進み始める。]
SCP-2009-JP-A: [不明な呟き]
ブラボー: 弾、通ってません! 硬い!
SCP-2009-JP-A: Containmant──
[SCP-2009-JP-Aはアルファに接近し、指さして声を上げようとする。アルファは人間部位の口を塞ぎ、心臓部分に向けて至近距離から発砲する。SCP-2009-JP-Aの人間部位はアルファを伴って崩れ落ち、蜘蛛の部位と分離する。蜘蛛の部位は近くにいたデルタに糸を吐きかけ、動きを止めて接近する。ブラボーとチャーリーはSCP-2009-JP-Aに向かって一斉に射撃するが、接近速度を鈍らせるに留まる。]
チャーリー: 分裂とかアリかよ!
ブラボー: くそ、止まれ!
[アルファは立ち上がり、デルタに銃を向ける。]
デルタ: 隊長?
[アルファはデルタの装備した除去液噴霧器を撃つ。溶液は飛び散り、デルタを捕縛した糸を変性させる。デルタはSCP-2009-JP-Aから距離をとり、戦闘を再開する。SCP-2009-JP-Aはしばらく4名を追うが、その動きは緩慢かつ乱雑である。やがてSCP-2009-JP-Aが動きを止めると同時に、SCP-2009-JP-Aによって張られていた糸の多くが剛性を失って床に落ちる。]
アルファ: おやすみなさい、SCP-2009-JP-A。無力化、終わりました。
サイト指令部: お疲れさまでした。
デルタ: ありがとうございました。撃たれるかと思ってすいません。
アルファ: そうなったらそうなったで苦しまずには済んだだろうな。
デルタ: [沈黙]そうですね。
チャーリー: あの、どうやって逃げますか。1匹こっちに寄って来てるように見えますが。階段付近、詰まってるんですよね。
デルタ: そうだった。
チャーリー: あの糸の塊が誘因剤としての役割を果たすなら、あれが掠めた俺が一番囮には向いてますよね。
アルファ: やめろ。指令部がやれと言っても俺が許可しないからな。
サイト指令部: 言いませんし、指示には従ってください。
アルファ: はい、すみません。
サイト指令部: 脱出ルートを送付しました。以前のブラボーが用いたものです。最近接のSCP-2009-JP-Bが部屋に入り次第、横を通ってこのルートを辿ってください。
[SCP-2009-JP-Bが監視室中央に侵入する。直後、4名は部屋を出て、医務室に突入する。医務室の窓は破れている。壁際にはエージェント・笠原(前探索時のアルファ)の装備が散乱し、その中心にSCP-2009-JP-Bの蛹が存在している。]
デルタ: 隊長?
アルファ: 何でもない。ブラボー、最初に降りてくれ。俺が最後だ。
ブラボー: 了解。
[脱出用ロープを取り付け、ブラボーが医務室を脱出する。アルファは散乱した装備からタグを拾い上げる。]
チャーリー: あの、大丈夫ですか?
アルファ: 一応は。すまんな、俺はまだこういう事に慣れられない。そして君たちにも慣れ親しんでほしくないとさえ思ってるんだ。
デルタ: おかげさまで、慣れてないですね。
ブラボー: こちら脱出成功、周囲に敵影なし。次どうぞ。あとあなたはまず任務に慣れなさい。
チャーリー: そうだな、あと任務遂行祝いにも慣れてもらわないとな。さあ、先に降りな。
[デルタ、チャーリーが医務室を脱出する。その後、SCP-2009-JP-Bが医務室に侵入する。]
アルファ: エコーがいる隊じゃなくてよかった。そうだったら間に合わなかったな。
チャーリー: こちら脱出終わりました。速く!
[アルファが医務室から脱出。1 mほど降りたところで、医務室の窓からSCP-2009-JP-Bが半身を乗り出し、落下してアルファに衝突する。落下したアルファはチャーリーとデルタによって受け止められ、SCP-2009-JP-Bはブラボーによって終了される。]
ブラボー: 動けます?
アルファ: 無理そうだな、毒棘が刺さった。ああ、くそ、2匹目以降が来る。
チャーリー: わかりました。デルタ、足の方持て。逃げるぞ。
[3名はアルファを保持してサイト-81NRから遠ざかる。正面玄関および医務室からは多数のSCP-2009-JP-Bがそれを追って現れる。]
アルファ: お荷物として追われる身になってみると、置いていけって言いたくなる気分がわかったよ。
デルタ: ありがたいことに、俺らには全くわかりません。それに人を置き去りにすることに慣れさせようというつもりもないんでしょう。ちょっと黙っててください。
[4名はSCP-2009-JPを脱出し、待機していた本部に回収される。]
«記録終了»
終了報告書: SCP-2009-JP-Aの無力化と同時に、SCP-2009-JPの包囲網は完全に拡大を停止しました。また、作戦終了から3日後に調査班がSCP-2009-JP内に侵入したところ、多くのSCP-2009-JP-Bが羽化し、死亡しているのが発見されました。これらの死骸を解剖し調査したところ、0916事件発生時に発生したSCP-2009-JP-B(第一世代)からは多くのヒト由来の組織の痕跡が認められました。またサイト-81NRから回収された0916事件発生直後の映像記録によって判明した行動様式などから、SCP-2009-JPの自己収容的性質はSCP-2009-JP-AではなくむしろSCP-2009-JP-Bに由来していたのではないかという仮説が提唱されています。
SCP-2009-JP-B外部で飼育されていたSCP-2009-JP-Bについては、攻撃性および毒性の低下のみがみられています。これらの性質は依然「収容違反」という単語が一般にもたらす印象と相関を持つ事が判明しています。SCP-2009-JP-Bの収容への効果、士気向上効果およびオペレーション"スカーレット・ローズ"における有用性から、プロジェクト『収デン』は依然続行されます。また、SCP-2009-JP報告書を一般公開用に編集した文書は"収容違反"と題して公表されます。この手続きをもってSCP-2009-JP対策は完了されます。