アイテム番号: SCP-2021-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-2021-JPの性質を考慮し、担当者およびO5以外の財団職員には、SCP-2021-JPの存在は秘匿されます。完全な収容はその規模と範囲から不可能であるため、現状維持が優先されます。担当職員はSCP-2021-JPの実体からランダムに複数選出した個体を定期的に観測し、状態を記録してください。SCP-2021-JPを担当する職員は、絶対にSCP-2021-JPに接触、もしくは肉眼で目視しないようにしてください。違反者は即座に記憶処理を受けた上で担当から外され、「田中圭█」という名前に聞き覚えのない職員が新たにSCP-2021-JPの担当者として追加されます。
説明: SCP-2021-JPは、198█/7/2█に「田中圭█」として出生登録された日本人男性です。全ての都道府県に80体以上存在し、合計5987体が確認されています。
SCP-2021-JPの実体は血縁関係がなくDNA情報も異なるにも関わらず、容姿、骨格、知能、運動能力が全くの同一です。知識、嗜好、経歴は生育環境で若干の差はありますが、それらも極めて近似したもので、出身地以外に大きな個体差を見出すことはできません。
SCP-2021-JP実体のの経歴や人物像は、生育環境によってわずかに異なるものの、ほとんど全てが共通するものとなります。5987体のSCP-2021-JP実体の中で、これらから逸脱する個体は存在しません。
・中流よりやや下の家庭で生まれ、両親と共に育つ。兄弟はいない。
・幼少期は運動、勉学の両方に才能を示し、明るい性格で広い交友関係を築く。
・小学生からサッカー/野球/バスケ/陸上部等、メジャースポーツのクラブに入部し、レギュラーメンバーとして活躍する。
・中学生時代から徐々に怠慢さが目立つようになり、勉学、運動の両方で周囲に見劣りし始める。この時期、何らかのいじめに加担したことがある。
・高校生からは不良グループとの交際が増え始め、特に勉学の成績が大きく落ちる。スポーツクラブは2年生のときに自主退部している。また、中学生時代よりも積極的にいじめに加担している。
・いわゆるFランクと呼ばれる大学に進学するが、無断欠席により2年目に留年し、4年間在学した後、家庭の経済的な理由から大学を中退する。
・その後、親元を離れ、出身県内または近隣県で年収300万円未満の職業を転々としている。配偶者、子供はいない。
・身長169cm、体重63kg
・髪型は若干の個体差はあるが、短髪で統一されている。
・資格は自動車の普通免許のみ。
・趣味は漫画、アニメ鑑賞。少年漫画系を好む。
・出身地に関わらず、方言を話したがらない。
・週間少年誌を購読していたが、高校3年生のときに読むのを止めている。
・学生時代は教員による差はあるものの、国語、次いで歴史が得意科目であった。
・表面的には明るく社交的に振る舞うが、実際には排他的な性格であり、他人と仲良くするのを好まない。そのため交友関係は狭いが、あまり孤独には感じていない。
・共働きの両親を持つ。職業は個体によりバラつきはあるが、父親はサラリーマン、母親は介護職であるパターンが最も多い。一見して良好な家庭に見えるものの、幼少期のSCP-2021-JPは両親に愛されていないのではないかという不安を常に抱えていたことが過去の日記等から判明している。
・女性との交際は高校2年時に8ヶ月間と、大学1年時に半年のみ。以降、女性と深い関係を築いたことはない。
・自主的な運動はしない。学生時代にクラブ経験のあるスポーツを避ける傾向にある。
・学生時代の自分を嫌悪しており、当時について話す際には苦痛の兆候を見せる。
・幼少期で最も記憶に残っている出来事の掲示を求められたとき、苦悩する素振りを見せた後、必ず死体にまつわるエピソードを披露する。
・他人から敵意を感じた際には攻撃的な態度を取るが、こちらの立場が上であることを明確に示すか、威圧的に対応した場合、萎縮して無抵抗となる。
・個体差はあるものの、総じて軽度から中程度の鬱症状の傾向が見られる。
SCP-2021-JPの実体を「彼は田中圭█である」と認識した上で目視した場合、不可逆な認識障害が発生します。写真や映像では発生しません。
暴露者はSCP-2021-JPの異常性を認識できなくなり、その性質を一般的なものだと考えるようになります。暴露者にSCP-2021-JPの説明をしても、「同姓同名なんて珍しくもない」「自分に似た人くらいどこにでもいる」と考えるようになり、その存在に何ら疑問を感じなくなります。
SCP-2021-JPに暴露した際のもう1つの影響として、通常、SCP-2021-JPの複数実体を外見から区別するのはほぼ不可能ですが、SCP-2021-JPの影響に晒された人物は、視覚による個体同士の区別が可能になります。
特に以前からSCP-2021-JPの特定の個体と知人だった人物は、他のSCP-2021-JP実体と見知った個体を明確に区別することが可能です。見分け方を質問すると「確かに似ているがよく見ると少し違う」といった曖昧な答えしか得られないため、何をもって区別しているのかは不明です。
SCP-2021-JPの実体そのものも自身の認識障害の影響下にあり、自分と限りなく同一の人物が数千人存在していると聞かされても、それの何が異常なのか理解しません。SCP-2021-JPの実体同士を複数接触させたとしても、互いを「自分に似ている気味の悪い他人」くらいにしか思いません。
SCP-2021-JPによる認識障害はクラスB記憶処理により表面的には消し去ることができますが、以降は写真、映像によっても認識障害が再発するようになり、永久的な解消方法は見つかっていません。
SCP-2021-JPの個体数の多さと分布の広さから、日本人口の2割程度がSCP-2021-JPの影響下にあると推測されています。影響にあるかどうかは「田中圭█という人物を知っているか否か」によって判断されます。
SCP-2021-JP実体に対しての記憶処理は効果がありません。SCP-2021-JP自身の認識障害を解消するには「自分が田中圭█である」という記憶を消滅させる必要があると推測されていますが、実証は行われていません。
補遺: SCP-2021-JPは別のアノマリーの調査を行っていた財団の調査員が東京都内の出生記録を調べていたところ、同一時刻に同姓同名の人物が157名出生している記録を発見し、調査の結果SCPと認識されるに至りました。
当初、調査を担当したサイト-34において、上級研究員を含む全職員の17%がすでにSCP-2021-JPによる認識障害の影響下にあったため、報告書が何度も破棄されるなど、SCP-2021-JPの調査は困難を極めました。
花村博士: これは何の冗談だ?
エージェント██: 申し訳ありません、博士。あなたが認識障害の影響下にあるという報告を受けたため、恐れながらその審査をさせていただくことになりました。
花村博士: 根拠はあるんだろうね? 仮にも私は上級研究員の身だ。そう簡単に認識障害などに影響されはしない。それは理解の上か?
エージェント██: はい、重々承知の上です。
花村博士: 私は今まで数々の異常存在と対峙し、研究し、その実態を明らかにしてきた。関わってきたアノマリーの収容プロトコルは数しれない。ミーム汚染によりサイト閉鎖寸前まで行ったときも、私が対抗策を見つけてそれを阻止したのだ。私はあらゆる認識障害、ミーム汚染に対して備えができている。では聞こうか、私はどんな認識障害に見舞われているというのかね?
エージェント██: それでは恐れながら。SCP-2021-JPについてどう思われますか?
花村博士: もしそれをアノマリーと思っているのなら、君らこそ認識障害の影響下にあることを疑ってはどうだ?SCP-2021-JPの報告書はすでに破棄したよ。全くバカバカしい、同姓同名の人物など珍しくもなんともない。
エージェント██: そうかも知れませんが、同姓同名の人物が数千人いて、しかも容姿も誕生日も全く同じというのは明らかに異常ではありませんか?
花村博士: いいか?1年は365日あって、日本だけでも毎日数千人の新生児が生まれている。世界にまで広げて見れば、自分と同じ誕生日の人間は数千万人もいるんだ。それに同姓同名が加わったところで、だからなんなのだ?
エージェント██: その1日に生まれた数千人の新生児が、全て同姓同名なんですよ?天文学的な確率では片付けられない、不可解な一致です。
花村博士: 天文学的な確率では片付けられないという根拠はなんだ?どう見ても偶然で片付くと思うがね。
エージェント██: そんなわけないでしょう。これが偶然ですって?
花村博士: 偶然とは時折さも意味ありげな現象を我々に見せるのだよ。メンバー全員がたまたま遅刻したことにより、教会の火災から免れた聖歌隊の話を知っているか?彼らは神に選ばれたと?あるいは、宝くじの当選確率こそ天文学的な数字だが、当選者は選ばれし者だと?君たちは偶然の一致を異常現象と勘違いしているだけに過ぎないのだよ。
エージェント██: わかりました、質問を変えましょう。あなたと同一の生年月日、名前、容姿を持つ人物が、全国に数千人いるとします。どう思われますか?
花村博士: 何だそれは。そんなことありえるわけないだろう。
エージェント██: 全くです。
SCP-2021-JPの影響を受けた財団関係者による、「なぜ一般人をアノマリーとして調査しているのか」という類の調査の妨害、苦情が度々発生したため、SCP-2021-JPの存在は原則として非公開となりました。
実施日 20██/██/██
実施方法 SCP-2021-JPの実体を複数確保し、サイト内でインタビューを行う。確保の際にも個体の同一性が確認されており、合意による確保の場合、金銭による謝礼を掲示した場合は激しい不審と抵抗を顕にしたが、年齢が若く容姿の整った職員が話しかけた場合、どの場合でも無抵抗に連行された。
SCP-2021-JP: 一体俺は何のためにここに連れてこられたんですか?
██研究員: すぐ終わりますよ。少し、我々の質問に答えてくださればいいんです。
SCP-2021-JP: いいですけど、妙なことがあればすぐ警察に通報するんで、そのつもりで。
██研究員: ええ、ご自由に。まず、改めて名前を教えていただけますか?
SCP-2021-JP: 何度も言いましたけどね。田中圭█です。
██研究員: あなたと同姓同名の人がたくさんいることは知っていますか?
SCP-2021-JP: そりゃいるでしょう。ありきたりな名前ですから。
██研究員: それだけではありません。同姓同名で、しかも誕生日も同じで、容姿も性格もまったく同じ人が数千人存在している事実があるんです。
SCP-2021-JP: はあ。それがなんですか?
██研究員: 異常だとは思わないんですか?
SCP-2021-JP: 別に。誕生日が同じだったら容姿も性格も似てくるんだなって思うくらいです。
██研究員: あなたと同一人物にしか見えない人間が数千人いるんですよ?気味が悪いとは思いませんか?
SCP-2021-JP: まあ、気持ち悪いとは思いますけどね。自分にそっくりだなんて。だからどうというわけでもないですけど。
██研究員: ご自身の異常性に何も感じていないのですか?
SCP-2021-JP: どこが異常なんです?第一、自分と同じような人がたくさんいるとして、だからどうしたっていうんですか。
██研究員: ……わかりました、質問を変えましょう。ここに山田一郎という人物がいるとします。その人と同姓同名、生年月日も容姿も何もかも同一の人間が全国で合わせて数千人発見されました。どう思いますか?
SCP-2021-JP: 心理テストか何かですか?普通にありえないでしょ、そんなこと。
██研究員: そうですね。
更なる調査により、195█/4/1█に全国各地で「田中圭█」という名前の人物が全国各地で合わせて6011人出生登録されており、また198█/7/2█に死亡届が出されている記録が発見されました。一番最初に死亡した「田中圭█」の死因は他殺となっており、学生時代に「田中圭█」からいじめを受けていたという人物が後に犯人として逮捕されています。
最初の「田中圭█」が刺殺された直後から、それ以外の「田中圭█」が次々と死亡している事実が記録から読み取れます。死因は心臓麻痺や脳梗塞などの病気による急死が3257件、交通事故などによる事故死が1802件、自殺が951件、行方不明が24件です。この連鎖的な死に言及された報道媒体は確認されていません。
195█/4/1█に6089件の「田中圭█」という名前の人物の死亡届が出されている事実が追加調査によって明らかになりました。死因の内訳は2649件の自殺、2150件の病死、1211件の事故死、78件の行方不明、1件の他殺です。また、これら全ての「田中圭█」は徴兵によって太平洋戦争に参加しており、全員が各地の最前線に送られ、戦後無傷で生還していることが記録上で確認されています。戦時中に資料の大半が焼失したことにより詳細な追跡が困難となっていますが、現時点で3000件以上の192█/1/██に生まれた「田中圭█」の存在が確認されています。