
A実例‐27。
特別収容プロトコル: SCP-2022-JPの収容はその性質上困難であるとされています。しかし、SCP-2022-JPの存在が一般人によって特定されるリスクが極めて低いことから、特段の収容措置・活動は行われません。現在、定点式次元間観測装置“Holon”を用いたSCP-2022-JP-Aの監視が行われています。
説明: SCP-2022-JPは基底宇宙を構成する時空連続体に一定確率で発生する、任意の瞬間(t0)からプランク時間1(tp = 5.39116(13)×10-44 s)以内の異常な時間領域です。SCP-2022-JPの発生直後、基底宇宙の全域からは一切の物理法則が失われます。
SCP-2022-JPの微小時間領域内においてはあらゆる存在/状態が確定しておらず、取りうる無限通りの場合が重なり合って実在するため、全ての事象が流動的、あるいは離散的な状況下に置かれているものと考えられます。この状態の基底宇宙は、事実上ジャクソンK-クラス分類システムにおけるZK-クラス"現実不全"シナリオの実現に相当すると見なされています。
しかしながら前述のカオス状態にもかかわらず、プランク時間経過後に前触れなく基底宇宙はSCP-2022-JP発生以前とほぼ同様(後述)の状態へと確定します。この現象により巨視的視点では基底宇宙が固定的な存在/状態を保ちつづけていたかのように観測されるため、発生した事象の重大な脅威性に対して、結果的にSCP-2022-JPは基底宇宙に極短期間・極小規模なもの以上の影響を及ぼしません。
SCP-2022-JPの発生から収束までに基底宇宙で生じる変化は、不特定の個人(SCP-2022-JP-A)一名の消失のみです。SCP-2022-JP-Aの対象となる個人のアイデンティティについては一貫性が確認されておらず、これまでに判明した共通点は「SCP-2022-JP時間内において、その人物が(壁や地面、命綱などと接続していない状況で)落下中であった」というものに限られます。
SCP-2022-JPの収束とほぼ同時にSCP-2022-JP-Aは基底宇宙から消失し、本来の時間軸から分岐して生成された平行宇宙へと遷移します。この分岐は基底宇宙がカオス状態から確定される際に放棄された余剰の可能性を源とすると考えられ、財団がSCP-2022-JPの発生を事後的に察知する唯一の手掛かりとなっています。
その成り立ちから、当該平行宇宙は以下数点の相違を除いてSCP-2022-JP発生時の基底宇宙のほぼ完全な反復です。
- 可視スペクトルの異常により、内部において黒白以上の色相が存在しない/観測できない点。
- 反復が建造物や地形など非生物のみに限られ、SCP-2022-JP-Aを除いたあらゆる生命体が存在しない点。
- 観測可能な範囲内の全ての物体が相対的不動性質を保有し、重力を含むいかなる外力による影響を受けない点。
恐らくはこの性質に起因し、SCP-2022-JP-Aは遷移した直後に落下中の姿勢のまま空中に固定されます。不動性の影響は徐々にSCP-2022-JP-Aの身体内部へと進行し、初期-中期の段階においては発声のほか筋収縮・眼球運動などによるコミュニケーションを図ることが可能ですが、末期にはSCP-2022-JP-Aの身体全体が完全な不動性を獲得することによりそうした反応が確認不可能となるため、この状態は実質的な死亡と見なされます。
現在まで、SCP-2022-JP-Aを平行世界から救出する、もしくは不動性の影響を緩和/逆転する方法は発見されていません。
補遺1: 以下は、SCP-2022-JP-Aと財団職員による対話記録の抜粋です。
回答者: SCP-2022-JP-A-16
インタビュアー: 幅木博士
序: 一般社会において、SCP-2022-JP-A-16はスペイン在住の男性であるホセ・モンドラゴン(68)として認知されていました。SCP-2022-JP発生直前にはSCP-2022-JP-A-16は自宅の階段から足を滑らせて転落する寸前であったと証言しており、後ろに倒れるような姿勢のまま床面から49cm上方に固定されています。
SCP-2022-JP-A-16の不動性の影響は末期段階に差し掛かっており、インタビューでの回答は筋肉の僅かな収縮を変換したモールス符号によるコミュニケーションにより行われました。
[記録開始]
インタビュアー: こんにちは、お久しぶりです。
SCP-2022-JP-A-16: "やあ(HOLA)"
インタビュアー: お加減はいかがですか?
SCP-2022-JP-A-16: "良い、ここでは腰の痛みが無い"
インタビュアー: それは良かった。
SCP-2022-JP-A-16: "帰る方法は見つかったか?"
インタビュアー: 申し訳ありません。それは、まだ。
SCP-2022-JP-A-16: "構わない、きっとここは煉獄なのだ"
インタビュアー: 煉獄……カトリックにおける、罪の清めの場ですか。
SCP-2022-JP-A-16: "私の生は既に終わった。この世界で私は今一度死に、天の国へ至るのだと、そう考えている。痛みはない、世界と同じように静止していく、それだけが安寧だ"
インタビュアー: そうであることを願っています。
SCP-2022-JP-A-16: "その通り。足は地から離れ、天を仰ぐ。これを望みと言わずして、なんというのだね?"
[記録終了]
回答者: SCP-2022-JP-A-39
インタビュアー: 幅木博士
序: 一般社会において、SCP-2022-JP-A-39はアメリカ在住の女性であるジョニー・ダヴ(22)として認知されていました。SCP-2022-JP発生直前にはSCP-2022-JP-A-39は職場の屋上から飛び降りた直後であったと証言しており、上下逆の姿勢のまま路面から1.3cm上方に固定されています。
SCP-2022-JP-A-39は影響中期段階に入っており発声でのコミュニケーションに問題が出つつありますが、その他のコミュニケーション手段を身に着けるための訓練を拒否し続けています。
[記録開始]
インタビュアー: ダヴさん、調子はいかがですか。
SCP-2022-JP-A-39: 近寄るなこの [罵倒]!
インタビュアー: 落ち着いてください。
SCP-2022-JP-A-39: 落ち着いてられるかクソが!アタシの頭のすぐ上には地面があんだぞ!?
インタビュアー: 安心してください、あなたがそこに墜落することはありません。
SCP-2022-JP-A-39: だからだよ!もう少し、後二、三秒あればアタシは頭をぶっつけて死ねたんだ、こんな時空の狭間へ引っ掛かることは無かったんだよ!クソみたいな世界とそれ以上にクソな自分に嫌気がさしっぱなしだったってのに、こんなとこで未練がましく生きていたってしょうがねえよ。アタシはいつまで宙ぶらりんで、この重たい頭をどこにもぶちまけられないわけ?
インタビュアー: 我々はあなたを救出するために全力を尽くしています。もう少し時間をいただけないでしょうか。
SCP-2022-JP-A-39: 分かった。じゃあさっさとその拳銃のタマを眉間にぶち込んでちょうだい。
インタビュアー: お力添えができそうになく申し訳ありません。
SCP-2022-JP-A-39: [判別不能の叫び] さっさとアタシを戻せ、まともな重力働いてるあそこへ戻せってんだよこの [以下、罵倒]
[記録終了]
回答者: SCP-2022-JP-A-179
インタビュアー: 幅木博士
序: 一般社会において、SCP-2022-JP-A-179は日本在住の男性である榎田 利久(13)として認知されていました。SCP-2022-JP発生直前にはSCP-2022-JP-A-179は自宅で飛び跳ねていたと証言しており、直立に近い姿勢のまま床面から12cm上方に固定されています。
SCP-2022-JP-A-179は現在までで最も近日に発見されたSCP-2022-JP-Aであり、不動性の影響は軽微な初期段階に留まっています。
[記録開始]
インタビュアー: 調子はどうですか?
SCP-2022-JP-A-179: いつも通り。つまんねえ。
インタビュアー: 希望があれば私たちが何か楽しめるものを用意できますよ。
SCP-2022-JP-A-179: いいよ、あとで考えとく。ヒマだからさ。
インタビュアー: すみません。
SCP-2022-JP-A-179: なんていうかさ、こんなことになるなんて思わないよね。冬休みでゆっくり過ごしてさ、明日は従兄弟も来るってときにさ、気付いたら白黒写真の世界に閉じ込められてたわけじゃん。
インタビュアー: ええ。
SCP-2022-JP-A-179: なんか、悲しいっていうか、困る。頭ではわかるけど、まだ心が納得行ってない感じ。体は動かないし。
インタビュアー: 安心してください。あなたを救出する方法を私たちが見つけてみせます。
SCP-2022-JP-A-179: うん、待ってる。早めにお願い。あーあ、ほんとに [声量微弱につき判別不能]
インタビュアー: 何ですか?
SCP-2022-JP-A-179: やんなきゃよかった、年越しジャンプ。
[記録終了]
補遺2: SCP-2022-JPについては、現在までに以下の3つの仮説が主に支持されています。
- SCP-2022-JPはSCP-2022-JP-Aに起因する現象であるとする説。SCP-2022-JP-Aは基底宇宙における何らかの"バグ"に当たる存在であり、宇宙的な自浄作用としてSCP-2022-JPは発生し、物理法則の一時的な消失という初期化(フォーマット)をもって基底宇宙からSCP-2022-JP-Aを排除している。
- SCP-2022-JPがSCP-2022-JP-Aの犠牲により終結しているとする説。SCP-2022-JPは突発的に発生する終末論的災害であるが、SCP-2022-JP-Aが"生贄"のような形で消費されることによりカオス状態から再び可能性が収斂され、その被害は最小限にとどめられている。
- SCP-2022-JPとSCP-2022-JP-Aに関連性は存在しないとする説。カオス状態から可能性の再収斂に至るSCP-2022-JPの現象はそれ自体が基底宇宙の法則性であり、個々のSCP-2022-JP-Aがその副産物となる平行世界へと遷移したのは完全なランダム性による不幸な偶発的事象である。
いずれの仮説についても推測に基づくものであり、それを確固として裏付ける根拠は未だ発見されていません。