財団記録・情報保安管理局より通達
インシデント2039-87/TGの発生に伴い、SCP-2039-JPは無力化されました。SCP-2039-JP収容手順の一部はアーカイブ化され、財団職員であればセキュリティクリアランスを問わず閲覧が可能です。2020年8月10日以降にSCP-2039-JPへ割り当てとなった人員は、付与された権限に基づき現行版を閲覧してください。
— RAISA管理官、マリア・ジョーンズ
アイテム番号: SCP-2039-JP
オブジェクトクラス: Keter Neutralized
特別収容手順(アーカイブ版): SCP-2039-JPはその性質上、物理的収容は非常に困難であると看做されており、現在の財団による収容努力は主にメディアを通じたSCP-2039-JPに関連する情報の統制に焦点が置かれています。国連の国際海事機関(IMO: International Maritime Organization)及びその隷下組織である海上安全委員会(MSC: Maritime Safety Committee)の顧問として、財団フロント企業"Sea and Coast Passage社"の嘱託職員を派遣し、東シナ海周辺に於ける民間船舶の遭難及び武装勢力による洋上襲撃の可能性を含む事例に関して人的情報収集及びSCP-2039-JP実体の出現に伴う事象への対抗的情報統制を行います。
国際正常性維持盟約に基づき、SCP-2039-JPの出現或いはそれに関連すると考えられる事象が発生した場合、合衆国連邦国防軍海洋戦力群及び英国海軍極東艦隊は機動部隊ガンマ-6 ("大食らい")の招集に応じて必要な航空/洋上戦力アセットの提供を行います。
SCP-2039-JP実体の出現は不規則かつ予測不能である為、SCP-2039-JPとの接触を報告した全ての船舶は、機動部隊ガンマ-6指揮下の水上戦闘艦艇によって直ちに阻止し、SCP-2039-JPは無線操縦の標的艦が演習中に制御を失って漂流していたものとの名目の下、アスベストによる健康被害の検査を偽装した記憶処置が実施されます。収容活動中の艦艇がSCP-2039-JPと接触した場合、威嚇射撃を含む示威行為によってこれを撃退します。
当該海域の情勢を鑑みて、フィリピン政府に対しては米比相互防衛条約に基づく軍事行動の一環として連邦国防軍軍艦艇を所属不明の艦艇への対応を名目とした非公式航行を通知すると共に、対外的にはFONOPの一環として位置づけられ、フィリピン海軍及びフィリピン沿岸警備隊は、本件に関して一切の介入を避けるよう通告されます。
説明: SCP-2039-JPは、起源不明の軍艦に似た艦容を有する実体です。報告される外見的特徴は、特に戦間期~第二次世界大戦期に各国で建造された大型の巡洋艦に共通する点が多いものの、このような艦艇を設計、或いは実際に建造・就役させた例は記録されていません。
SCP-2039-JP実体はフィリピン海南部を主な活動領域としていますが、SCP-2039-JP実体の出現は突発的なものであり、直接・関節を問わずその兆候或いは事象そのものの観測に成功した事例はこれまで存在しません。
SCP-2039-JP実体は当該海域に於いて主に民間船舶に対して襲撃行為を行っており、特に大型漁船、クルーズ客船、捕鯨船を好んで襲撃する傾向が見られます。逆に軍艦や哨戒艦艇が接近した場合は逃走を試みる傾向があり、急速な接近や至近の通過、威嚇射撃などの示威行動に対しては特に迅速に反応する為、初期収容の際はこれらの手段が有効です。
SCP-2039-JPはSIGINT及び目視での観測による限り、如何なる電波及び可視光帯域での発信も行っておらず、船舶や地上の無線局からの如何なる交信も受け付けていない上、船旗や国際信号旗の掲揚も見られません。これらの特性から、SCP-2039-JPがどのような手段で襲撃の対象を選定しているのかは不明なままです。
████号乗組員の遺品である撮影機材から回収された、SCP-2039-JP-Aと思われる実体を捉えた画像
SCP-2039-JPの目視及び記録された画像・映像によって判明している主な識別点は以下の通りです。
・乾舷の高い長船首楼型船体
・艦首及び艦尾甲板上に配置された3連装砲塔: ソ連海軍が第二次世界大戦期に用いていたB-1-P砲システムの3連装型に相似した外観ですが、砲側測距儀などの付属構造物は外見上存在していません。
・箱形に近い塔状の艦橋と思われる上部構造物: 但し、乗組員の移動や見張りに用いられる張り出しや階段などは見られず、表面は極めて単純な平面によって構成されています。
・艦橋上に配置された単純な十字型のマスト: 通常、この種の軍艦に配置される主・副測距儀や信号ヤードなどは確認されていません。
・艦橋背後に配置された大型の煙突: 確認されている限りSCP-2039-JPが如何なる活動を行っている際にも排煙の排出は確認されていません。
・上部構造物の側面に片舷4基ずつ配置された単装砲群: ソ連海軍が第二次世界大戦期に用いていたB-13砲システムに相似した砲塔の形状を有していますが、砲員用の手摺やハッチは外見上見受けられません。
・この種の艦艇で一般的な、搭載艇及び艦載機の運用に用いられるデリックやカタパルト装置の欠如
補遺1_収容事案2039-C███: ████年██月██日、第24艦隊所属の大型ミサイル巡洋艦: USFSクレストは東シナ海での哨戒活動中に、SCP-2039-JPと接触した漁業練習船(船名: ████████号)からの通報を傍受した事により、標準化された収容手順に従い、SCPSクリマクスとして機動部隊ガンマ-6の指揮下に入りました。
SCPSクリマクスが現場に到着した時、SCP-2039-JPは既に████████号への襲撃を開始していた為、MTFガンマ-6司令部はSCP-2039-JPへの威嚇射撃を許可しました。Mk71 8インチ砲及びMk45 5インチ砲による数度の威嚇射撃の後、SCP-2039-JPは変針して増速、逃走の兆候を見せましたが、████████号もまたこれに追従する動きをとりました。この時点でSCP-2039-JPと████████号の距離は200ヤード以内で、かつ████████号の挙動予測が困難である事から、艦長はSCP-2039-JPへの直接射撃を具申しましたが、MTFガンマ-6司令部は████████号の操舵系統が既にSCP-2039-JPによって制圧されている可能性を考慮してこれを却下、艦を両者の間に割り込ませると共に、████████号に対する搭載艇及び艦載ヘリによる洋上介入部隊(MIT: Maritime Interdiction Team)の突入準備を命じました。
SCPSクリマクスが指示に従って両者の間を通過する際、████████号が急な転舵を行った事によりSCPSクリマクスと接触、これによって████████号は大きく損傷し、複数の乗組員が海に投げ出されるのが確認されました。SCP-2039-JPはそのまま逃走、SCPSクリマクス艦長は████████号の救助活動許可を要請しましたが、MTFガンマ-6司令部はSCP-2039-JPによる汚染リスクを懸念してこれを却下、海域からの離脱と自艦に対する除染処置を命じました。
████████号は船殻に生じた破孔によって浸水、数時間後に沈没し、生存した乗組員は後に現場に派遣された(財団管轄外の)合衆国連邦国防軍及び英国海軍艦艇とフィリピン海軍・沿岸警備隊によって救助されました。乗組員██名のうち、9名が死亡、船長を含む5名が行方不明となっています。全ての生存者は隔離された後、財団によって身体検査及び心身回復措置を提供されました。
事件の経緯は、収容手順に既定のカバーストーリーに基づいて一般に公開されましたが、USFSクレストが現場に到着していながら████████号の救助を一切行わなかった事が後にネットにリークされた事で事態は(SCP-2039-JP事案の範囲外で)大きく政治問題化し、当時艦長であった█████████████・██████大佐の除隊という事態に発展しました。
インタビューログ2039-819
回答者: ██████・██████氏(████████号 一等航海士)
質問者: チェン・カイディ収容担当官
前書: 収容事案2039-C███の生存者は、隔離後にインタビューが実施されました。以下は、生存者の一人である████████号の操舵手に対するインタビューの抜粋です。特にSCP-2039-JPとの接触中に観測された不可解な████████号の挙動に関する内容に焦点が置かれました。
<記録開始>
カイディ: 米軍の艦艇が接近した時、あなたが操舵を行っていた事は間違いありませんか?
██████氏: ああ。あの【侮蔑表現につき削除】は私たち全員、唖然としたよ。
カイディ: あの軍艦は、あの船からあなた方を守ろうとしたのですよ。にも拘わらず、あなたはそれに逆らうような操舵を行った。
██████氏: 冗談じゃない、私の操船を邪魔した挙句に衝突した事を"守ろうとした"とは言わんだろう?
カイディ: わかりました。質問を変えましょう。報告では、████████号はあの船についていこうとする動きを見せたとありました。その意図についてご説明いただけますか?
██████氏: 彼らについていけば、きっと素晴らしいものが待っていると思わせるようなものがあった。それで私たちはみんな安心したんだ。
カイディ: 彼らとは何です?
██████氏: あの船から乗り込んできた連中さ。とても人間には見えない姿だったし、一言も発さなかったけど。
カイディ: あなたは、それに違和感を感じませんでしたか?
██████氏: 全く。いや、あんたの言いたい事は良く分かるよ。だけど、あいつらが乗り込んできた時の事はよく覚えていないんだ。今思えば奇妙な話だが、あの時は全くそれが自然に思えたんだ。
カイディ: なるほど。それでは、彼らは乗り込んできた後、あなたに何をしましたか?
██████氏: 奴らは████みたいなもので俺の頭を掴んで、それから言葉を使わずに訴えてきたんだ。"████████████彼女に██を████████████。██████████████、████の██は████を、████は████の████に██されて██████となり、████████████████████████へ。████、████、████”と。これだけは何故かよく覚えてる。いや、頭から離れないといった方が正しいかな。
カイディ: あなたは、それを示すものが何なのか理解できましたか?
██████氏: いいや、全く。
カイディ: にも拘らず、あなたはそれに従って舵を切ったのですか?
██████氏: ああ、あの時はそれが一番正しい様に思えたし、何よりもあのメッセージはとても安心できたからね。何人かはあの船が離れていくときに海に飛び込んだようだけど、無理もない事だと思うよ。
<記録終了>
後書_1: インタビュー前の身体検査記録では、██████氏を含む乗組員の大半から、極めて複雑な組成を持つ未知の化学物質が検出されていました。これは、SCP-████-█やSCP-████-█の周辺で確認されたベクターと極めて近い分子構造を持つ事が後に明らかになりました。██████氏は明らかにその影響によって心神喪失或いは耗弱状態にあったと考えられます。
後書_2: インタビュー中に██████氏が発した一連のフレーズは、SCP-████への言及が含まれると考えられます。他の生存者にも同様の言及が記録されているため、全てのインタービュー担当者は、インシデント2039-87/TG後の情報共有を切欠として異動を命じられました。
警告: 以下のファイルはレベル3/2039機密情報です
このファイルにレベル3/2039承認無しで行われるアクセス試行は記録され即時懲戒処分の対象となります。
アイテム番号: SCP-2039-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容手順: SCP-2039-JPはその性質上、物理的収容は非常に困難であると看做されており、現在の財団による収容努力は主にメディアを通じたSCP-2039-JPに関連する情報の統制に焦点が置かれています。国連の国際海事機関(IMO: International Maritime Organization)及びその隷下組織である海上安全委員会(MSC: Maritime Safety Committee)の顧問として、財団フロント企業"Sea and Coast Passage社"の嘱託職員を派遣し、東シナ海周辺に於ける民間船舶の遭難及び武装勢力による洋上襲撃の可能性を含む事例に関して人的情報収集及びSCP-2039-JP実体の出現に伴う事象への対抗的情報統制を行います。
国際正常性維持盟約に基づき、SCP-2039-JPの出現或いはそれに関連すると考えられる事象が発生した場合、合衆国連邦軍海洋戦力群及び英国海軍極東艦隊は機動部隊ガンマ-6 ("大食らい")の招集に応じて必要な航空/洋上戦力アセットの提供を行います。
SCP-2039-JP実体の出現は不規則かつ予測不能である為、SCP-2039-JPとの接触を報告した全ての船舶は、機動部隊ガンマ-6指揮下の水上戦闘艦艇によって直ちに阻止し、SCP-2039-JPは無線操縦の標的艦が演習中に制御を失って漂流していたものとの名目の下、アスベストによる健康被害の検査を偽装した記憶処置が実施されます。収容活動中の艦艇がSCP-2039-JPと接触した場合、威嚇射撃を含む示威行為によってこれを撃退します。
当該海域の情勢を鑑みて、フィリピン政府に対しては米比相互防衛条約に基づく軍事行動の一環として連邦国防軍艦艇を所属不明の艦艇への対応を名目とした非公式航行を通知すると共に、対外的にはFONOPの一環として位置づけられ、フィリピン海軍及びフィリピン沿岸警備隊は、本件に介して一切の介入を避けるよう通告されます。
SCP-2039-JP及びSCP-2039-JP-B実体を起点とする汚染リスクを考慮し、収容活動中の艦艇のSCP-2039-JP実体に対する武力行使は禁じられています。仮にSCP-2039-JPが出現中に不可避な損壊を被った場合、或いは予期せぬ敵対的行動を取った場合は、即時のTier3戦力投射が実施される必要があります。その為、合衆国連邦国防軍海洋戦力群及び英国海軍極東艦隊は秘密裡かつ非公式に、それに対応した装備を使用可能な状態で維持します。
説明: SCP-2039-JPは、起源不明の軍艦に似た艦容を有する実体です。報告される外見的特徴は、特に戦間期~第二次世界大戦期に各国で建造された大型の巡洋艦に共通する点が多いものの、このような艦艇を設計、或いは実際に建造・就役させた例は記録されていません。
SCP-2039-JP実体はフィリピン海南部を主な活動領域としていますが、SCP-2039-JP実体の出現は突発的なものであり、直接・関節を問わずその兆候或いは事象そのものの観測に成功した事例はこれまで存在しません。
SCP-2039-JP実体は当該海域に於いて主に民間船舶に対して襲撃行為を行っており、特に大型漁船、クルーズ客船、捕鯨船を好んで襲撃する傾向が見られます。逆に軍艦や哨戒艦艇が接近した場合は逃走を試みる傾向があり、急速な接近や至近の通過、威嚇射撃などの示威行動に対しては特に迅速に反応する為、初期収容の際はこれらの手段が有効です。
SCP-2039-JPはSIGINT及び目視での観測による限り、如何なる電波及び可視光帯域での発信も行っておらず、船舶や地上の無線局からの如何なる交信も受け付けず、また船旗や国際信号旗の掲揚も見られません。これらの特性から、SCP-2039-JPがどのような手段で襲撃の対象を選定しているのかは不明なままです。
SCP-2039-JPは、複数の異なる要素から構成される群体的性質を持った実体であり、SCP-2039-JPの構成要素はSCP-2039-JP-A、SCP-2039-JP-B、SCP-2039-JP-Cと指定されています。
SCP-2039-JP-Aの目視及び記録された画像・映像によって判明している主な識別点は以下の通りです。
・乾舷の高い長船首楼型船体
・艦首及び艦尾甲板上に配置された3連装砲塔: ソ連海軍が第二次世界大戦期に用いていたB-1-P砲システムの3連装型に相似した外観ですが、砲側測距儀などの付属構造物は外見上存在していません。
・箱形に近い塔状の艦橋と思われる上部構造物: 但し、乗組員の移動や見張りに用いられる張り出しや階段などは見られず、表面は極めて単純な平面によって構成されています。
・艦橋上に配置された単純な十字型のマスト: 通常、この種の軍艦に配置される主・副測距儀や信号ヤードなどは確認されていません。
・艦橋背後に配置された大型の煙突: 確認されている限りSCP-2039-JPが如何なる活動を行っている際にも排煙の排出は確認されていません。
・上部構造物の側面に片舷4基ずつ配置された単装砲群: ソ連海軍が第二次世界大戦期に用いていたB-13砲システムに相似した砲塔の形状を有していますが、砲員用の手摺やハッチは外見上見受けられません。
・この種の艦艇で一般的な、搭載艇及び艦載機の運用に用いられるデリックやカタパルト装置の欠如
・1番煙突と2番煙突の間に左右2基ずつ配置された小口径の連装砲: 旧式の高射砲に似た砲架に装備されていますが、俯仰及び旋回の際には後述のSCP-2039-JP-B実体が物理的操作を行っているように見受けられ、動力装置らしき機構は外見上存在しません。
・船体、上部構造物を問わず、一切の開口部を持たない点
SCP-2039-JPの各構成要素に関する詳細は、以下のタブを参照してください。
SCP-2039-JP-Aは、SCP-2039-JPの船体そのものを構成する要素です。
これまでSCP-2039-JPと直接的に相互作用した事案が発生していなかった為、SCP-2039-JP-Aの特性に関しては、それが艦艇のように振る舞う水棲実体であるという点を除き、全く明らかではありませんでした。インシデント2039-87/TGに於いて回収されたSCP-2039-JP-A実体の船殻の一部が合衆国逸脱戦対応軍を通じて財団に提供された事で、これが一般的な船舶のような無機質を基盤とする機械的な実体ではなく、有機生命体としての組成及び性質を有する事が明らかになりました。より詳細な情報は補遺2_Aを参照してください。
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SCP-2039-JP-Aの外殻は、刺胞動物門花虫綱に属する生物に類似したポリプ状個虫の集合体を基盤として、それらが生成する燐灰石に相似の成分から構成されています。これらはいずれも石灰化した蛋白質の重合体によって構成される象牙質を中心としていますが、その比率は部位によって異なります。船殻を構成する物質そのものは生物学的活性を持たず、SCP-2039-JP-A実体の生物学的な主体はこれらの内側に存在しています。
内部の骨格構造は、概ね高等な脊椎動物、特に哺乳類を含む単弓亜綱のものに相似であり、船殻の中央後ろ寄りの位置には、肺と心臓を囲む肋骨があり、脊椎は船首から船首まで伸びた弾力性に富む強度構造物として存在しています。また、外骨格の内側には非常に大型の肝臓と腎臓がありますが、消化器官は極めて委縮しており、排泄口のみが強固な構造です。脊髄の組成は多くの脊椎動物と同様に、縦走する神経細胞で構成される白質が、神経核である灰白質を囲む構造を持ちますが、神経細胞の中には多くの珪素を含んでおり、二酸化珪素の結晶を生成しています。
これらの異なる構成要素が1個の生物として振る舞う形質から、SCP-2039-JP-Aは群体であると考えられています。
SCP-2039-JP-Bは、SCP-2039-JP実体群の乗組員と思われる構成要素です。恐らくSCP-2039-JP実体の内部に生息しているものと考えられていますが、実体の全容は現時点で確認されていない為、正確な個体数及び個体毎の質量、体積、生態などは不明です。現在までに報告されているSCP-2039-JP-Bの特徴は以下の通りです。
・棘状の突起で覆われた黒色の表皮: 但しこれが全身に至るものかは不明です。
・外見上はヒトのそれに相似した腕及び手: 前述の表皮で覆われており、全長は確認されている限りで10m近くに達すると推測されています。幾つかの事例では、これが犠牲となった船舶の上部構造物を"上着の前を開くように"引き裂くのが観察されています。
・両腕の間から時折露出する白い触手状器官: SCP-2039-JP-Bは、これを用いてSCP-2039-JPの露天砲架を操作しているのが観察されています。
より詳細な情報は、補遺2_Bを参照してください。
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これまでにSCP-2039-JPの犠牲となった民間船舶の残骸や乗組員の遺体から回収されたSCP-2039-JP-Bの生物学的サンプルは、SCP-2039-JP-B実体がコラーゲンを主成分とする真皮と縦走筋から構成される厚い体壁で覆われている事、消化器官に由来すると思われるキュビエ器官に相似の触手状器官を有する事が示唆されており、これらは棘皮動物門楯手亜綱楯手目、特にHolothuria leucospilotaとの関係性が指摘されていましたが、インシデント2039-87/TGに於いてSCP-2039-JP-Bの遺骸が極めて良好な状態で回収された事により、以下の点が明らかになりました。
SCP-2039-JP-B実体は群体であり、当初、棘皮動物門との類似性を指摘される切欠となった5本の縦走筋は、解剖学/形態学的には手足の指及びそれに付随する筋肉構造に由来するものと断定されました。四肢を除く骨格はほぼ完全に単弓亜綱に属する四肢動物類と同一の構成を有しており、頭蓋骨は著しく扁平で、下顎は大きく開き、肩甲骨とほぼ完全に癒着しています。また肋骨の一部が欠如しており、これは口器及び鼻腔と、後述の呼吸器との接続を確保する為の形質であると考えられています。これらは発生段階で定義された―つまり生得的な差異であるのか、それとも外科的手段によって後天的に獲得した形質であるかは、SCP-2039-JP-Bの群体であるという特性により、その特定を著しく困難なものにしています。
表皮の棘状器官は、それら一つ一つが刺胞動物門ヒドロ虫綱に属する生物群体に見られるポリプ状個虫と相似の機能を有しており、皮膚呼吸によってSCP-2039-JP-B実体への酸素供給の一部を担っています。肺は著しく退化していますが、代わって胸腺とそれに付随する鰓弓が肩から大きく外部に露出しており、これが主要な呼吸器官としての機能を果たしているものと看做されています。また、SCP-2039-JP-B実体は捕食プロセスに於いて、被捕食者に対する生化学的ベクターとして機能する一種の揮発性フェロモン物質を放出している事は、既に過去の事例から示唆されていましたが、その生成・分泌もまたこの臓器が有する機能である事が明らかになりました。
体腔は別種の個虫によって占められており、前述の通り、当初はキュビエ器官に相似の触手状器官と考えられていましたが、後にはこれは捕食時には体外に露出して体外消化の機能を果たすと共に、老廃物の排出の為、強靭な筋肉と襞状の粘膜の集合体となっている事が判明しています。また、これらの器官は艦載砲の操作に於いても主要な役割を果たしている事が示されています。
SCP-2039-JP-Bは大きく発達した虫垂を持ち、これはSCP-2039-JP-A実体への養分供給に用いられるものと考えられています。
インシデント2039-87/TGの発生後、連邦国防軍海洋戦力群は海底に沈降したものも含め、300t以上のSCP-2039-JP実体の残骸を回収しました。それらの一部は財団にも提供されましたが、その中で一際目を引くものが、SCP-2039-JP実体に装備されていた小口径の連装砲及び砲弾でした。それらはドイツ製のSK L/45 1906年型45口径88mm高射砲及びその時限調定式信管を備えた対空砲弾で、砲身、砲架、駐退機を始めとする砲を構成する各部品は全て製造番号は削り取られた痕跡がありました。主砲及び副砲群と異なる出所に由来する火器システムが確認された点は、SCP-2039-JPの出自を明らかにする上で重要な手がかりとなります。また、主砲及び副砲群と同様に完全に非異常性かつ非有機的存在でしたが、SCP-2039-JP-B実体によって必要な操作が行われていた事が確認されているという点も併せて注目すべきです。
████年██月██日に確認されたSCP-2039-JP-A実体の出現事案(インシデント2039-87/TG)に際し、SCP-2039-JP-Bのこれまで知られていなかった行動によって、SCP-2039-JP-C実体が発生しました。現在SCP-2039-JP-C実体は未収容となっています。
SCP-2039-JPを構成する諸要素は、様々な異なる種の生物の特徴を断片的に備えていますが、遺伝的及び生態学、生化学的側面から、最も近縁な生物はHomo Sapiens Sapiensであり、これはSCP-835及びSCP-2191-1実体群、更にはSCP-3989副指定物群に含まれるSK-BIO実体との有意な類似性を示しています。これは、SCP-2039-JPを構成する生物群集が、共に異常な遺伝子工学或いは生体工学的手段によって生成されたものである事を示しています。
補遺3: SCP-2039-JP-Cの収容違反
財団Webクローラによって確保されたSCP-2039-JP-Cに関連すると思われる画像の一つ
北極海での未知の██型実体の目撃事例が、複数の画像とと共に、主にインターネット上のミームとして流布・拡散されている状況から、SCP-2039-JP-Cの収容違反は現在も進行中であると考えられます。現在、フェイクの画像を用いた反ミームの流布が進行中です。
補遺4: インシデント2039-87/TG関連文書:
████年██月██日に確認されたSCP-2039-JP-A実体の出現事案に際し、連邦国防軍から派遣された2隻の水上戦闘艦艇、USFSロスヴァイセとUSFSタレイアは、標準化された収容手順に反して機動部隊ガンマ-6の指揮下に入る前に、財団の管轄外に於いてSCP-2039-JP-A実体と交戦し、最終的にこれを破壊するに至りました。財団はこれをインシデント2039-87/TGと指定し、調査を行いました。以下は、インシデント2039-87/TGに関連する各種情報及び文書です。
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財団は、2039-87/TGの発生直前に、SCP-2039-JP実体群と接触した民間船舶と、フィリピン沿岸警備隊緊急無線通信局との間で行われた無線交信を傍受していました。以下はその抜粋です。
[ログ開始]
██████号: ディスパッチャーへ、こちらは██████船籍、██████号、船籍番号██████、通信長のマノロ・アルヴァラド・バチスタだ。応答願う。
フィリピン██沿岸無線局: こちらフィリピン██沿岸無線局、ディスパッチャーです。██████号、確認しました。緊急事態ですか?
██████号: こちら██████号、不明な船舶が当方の航路を妨害しつつあり。当船の安全な航行を確保されたし。AISに反応なし、こちらからの呼び掛けにも応答しない。確認願えるか?
フィリピン██沿岸無線局: ██████号、了解しました。沿岸警備隊に繋ぎます。
[この際、フィリピン沿岸警備隊に在籍する財団エージェントは既にこの更新を傍受しており、SCP-2039-JPを担当する収容スペシャリストにSCP-2039-JP出現イベントの開始を通報すると共に、機動部隊ガンマ-6 ("大食らい")の招集を要請していました]
フィリピン沿岸警備隊: こちらはフィリピン沿岸警備隊第三管区です。対象船舶の外見的特徴を述べる事はできますか?
██████号: スコールでよく見えないが、古い型の軍艦のように見える。大型で、武装しているようだ。信号旗や船旗は視認できない。どうぞ。
フィリピン沿岸警備隊: ██████号、了解しました。海事産業庁と海軍に問い合わせます。
██████号: 先ほど見張りから、砲がこちらに旋回しているように見えると報告があった。我々の安全な航行が脅かされつつあるようだ。
フィリピン沿岸警備隊: 了解しました。巡視艇とヘリを向かわせますので、確認が取れるまでお待ちください。
[本来であれば、フィリピン沿岸警備隊が本事象に介入する事は財団エージェントによって未然に阻止される筈でしたが、何らかの妨害によって、機動部隊の招集要請と併せて失敗に終わりました。]
██████号: あー、██████号、例の船が当方への衝突コースに乗ったように思われる。本船の右舷後方、距離は約7キロヤード。増速して接近してきている。
フィリピン沿岸警備隊: 第三管区です。回避は可能ですか?
██████号: 試みているが、相手の方が速い!間に合わないかもしれない・・・クソッ!
(衝撃音に似た音と、複数の男性の叫び声。いずれも音割れとノイズにより解読は不可能)
██████号: こちら██████号!例の軍艦が発砲してきた!5キロヤード、凡そ18ノット!繰り返す、【罵倒表現】が発砲してきやがった!デカい大砲だ!右舷300mほどの地点に着弾!
フィリピン沿岸警備隊: ██████号、了解しました。最寄りの港は██████です。変針は可能ですか?
██████号: 不可能だ!さっきの【罵倒表現】で機関部に異常、GPSも切れた!至急救援を!こちらとの衝突コースに入りつつある!【不適切な表現につき検閲】
フィリピン沿岸警備隊: 了解しました。ヘリは10マイル地点まで接近しており、既に貴船及び当該の不審な船舶をレーダーで捉えています。持ちこたえられますか?
██████号: 奴はもう真横に並んでいる!進路を塞がれつつある!
フィリピン沿岸警備隊: ██████号、航行は継続できますか?
██████号: (激しい衝撃音、ノイズ)クソッ、奴が接舷してきた!(マノロ氏のものと思しき激しい息遣い)乗り込まれるぞ!
[接近中のヘリ、巡視艇から██████号への呼びかけが行われましたが応答はなく、対象船舶の脅威度から対応が沿岸警備隊からフィリピン海軍に移管されました。]
フィリピン沿岸警備隊: ██████号、現在の状況は?
(激しい衝撃音、複数の男性から発せられたと思われる怒号と叫び声、続いて金属同士を擦り合わせる様な音、何かが崩れる音が断続的に聞こえる)
フィリピン沿岸警備隊: ██████号、応答してください!現在の状況は?
(マノロ氏の応答はなく、不規則に続く振動音が聞こえるのみ。フィリピン沿岸警備隊のオペレーターは約15分間に亘って呼び掛けを続けるが、誰からの応答もない)
██████号: こちら、タン・ヴァン・トゥエット、██████号の通信士、(遅くゆっくりとした呼吸音)感度良好。
フィリピン沿岸警備隊: タン、状況を教えてください。負傷者はいますか?
██████号: 船に何かが押し入ってきました(喘ぎ声)。奴らは複数います。恐らく私以外は皆殺されつつあります(何かを吐き出すような音)。
フィリピン沿岸警備隊: タン、負傷しているのですか?
██████号: 直ちに、ここに軍艦と武装した兵士を寄越してください。彼らは皆を、私たちを。(後ろでは何かを引き摺るような音、バスドラムの反響のような音、軋む金属の音が断続的に続いている)
██████号: 奴らは、船をこじ開けて入ってきました(何かが折れるような音)。抵抗できません。こうして話しているのがやっとです。
フィリピン沿岸警備隊: タン、諦めてはいけません!
██████号: 私は今まさに(タン氏の音声はここで途絶え、呻くような声、液体が床に落ちる音、何かを吸い込むようなズルズルという音が聞こえる)
(通信途絶)
[ログ終了]
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████年█月█日~█日に掛けて発生したインシデント2039-87/TG(合衆国連邦国防軍作戦コード: ツナミ・ゴースト)、2隻の連邦国防軍艦艇から構成されるタスクフォースが、財団の管轄外に於いてSCP-2039-JP実体と交戦しました。その詳細は開示されていないものの、作戦後に逸脱戦対応軍と王立異常性調査機関によって行われた財団向けのデブリーフィングでは、概ね以下の経過を辿った事が示されました。
████号の沿岸警備隊への通報は、標準的収容手順に反してフィリピン沿岸警備隊の巡視艇及び航空機の派遣という事態を招きました。フィリピン沿岸警備隊に在籍する財団エージェントはこの交信の内容を認識していましたが、何らかの妨害工作によってフィリピン沿岸警備隊及びフィリピン海軍の介入を抑制する事は出来ませんでした。
フィリピン沿岸警備隊は当初、第三管区の巡視艇及び航空機によってSCP-2039-JP及びその襲撃を受けた船舶の救援を試みましたが、対象の不審船舶が極めて重装備かつ攻撃的な行動を行っている事から対応は間もなくフィリピン海軍に移管され、BRPエミリオ・ジャシントが現地に派遣されると共に、既に付近に展開していた連邦国防軍海洋戦力群に所属する2隻の合衆国連邦軍艦艇、ミサイル駆逐艦: USFSロスヴァイセとミサイルフリゲート: USFSタレイアがその支援の為に急行しました。この分艦隊はまた、フィリピンのクラーク空軍基地に展開中の本国艦隊所属第9197洋上哨戒飛行隊及び、航空戦力群隷下の第1643戦闘飛行隊、東シナ海に展開する第24艦隊任務部隊とシンガポールに駐留する英国海軍極東艦隊所属の23型フリゲート、HMSチェスター及びHMSポートランドによる支援を受けていました。更に、当該海域には攻撃型原子力潜水艦: USFSレア・シルヴィアが財団の管轄外となる連邦国防軍の作戦行動の為に既に展開していました。これらのアセットはタスクフォース・サンチャゴと命名され、逸脱戦対応軍の指揮下に於いてSCP-2039-JPの無力化を目的とした財団の関与しない戦闘部隊である事が明かされました。
彼らは財団による察知と阻止の試みを避ける為、SCP-2039-JPに接触するまでの間EMCONステートBを発令されていました。
ツナミ・ゴースト作戦中のUSFSロスヴァイセとUSFSタレイア
沿岸警備隊から対応を移管されたエミリオ・ジャシントは通報から約3時間後に████号とSCP-2039-JPをレーダーで捕捉し、マリンバンドの全チャンネルによって警告及び即時の襲撃行為の停止を呼びかけました。エミリオ・ジャシントは更に接近し、SCP-2039-JPとの距離が5キロヤードとなった時点で、SCP-2039-JPからの砲撃を受けました。エミリオ・ジャシントは3インチ砲で反撃を試みましたが、船体に複数の命中弾及び至近弾を受けて航行不能となりました。
エミリオ・ジャシントは直ちに救援要請を発信し、ロスヴァイセとタレイアはこれを受信して現場に急行しました。その時点で既に第17洋上哨戒飛行隊のMQ-4Cトライトンが、増速して逃走を図るSCP-2039-JPを捉えており、またレア・シルヴィアもほぼ同時刻にSCP-2039-JPを捕捉し、これを追跡していました。
現地時刻█月█日23時46分、ロスヴァイセとタレイアは損傷したエミリオ・ジャシントの付近まで接近し、タレイアはエミリオ・ジャシント及び████号の救援の為、SH-60N艦載ヘリコプターと搭載艇によってそれぞれ1チームずつのMITをエミリオ・ジャシントと████号に派遣しました。ロスヴァイセはSCP-2039-JPの追跡を続行しました。タレイアはHMSポートランドにエミリオ・ジャシントの除染と曳行、及び負傷した乗組員への医療支援と全乗組員への記憶処理を依頼し、受理されました。
████号に突入したチームは、船体の損傷を精査すると共に、激しく損傷した乗組員の遺体及び遺品の回収とSCP-2039-JP-B実体に由来すると思われるサンプルの採取を行ないました。生存者が存在しない事を確認した後、船内には爆薬が設置され、遠隔爆破によって████号は海没処分とされました。
現地時刻█月█日2時11分、ロスヴァイセの艦載ヘリコプター(コールサイン: オルカ41)がSCP-2039-JPの至近距離まで接近、無線に加えて投光信号及びラウドスピーカーにより、即時の機関停止及び従わない場合は直ちに武力行使に出る旨を通知しました。SCP-2039-JPからの応答はなく、対空砲火がオルカ41に向けて発射されました。オルカ41はこれを回避、報告を受けたTFサンチャゴ指揮官はこの時点でSCP-2039-JPを敵対艦艇であると認定し、武力行使を決断しました。
オルカ41はSCP-2039-JPの右舷側から4.5キロヤード地点で搭載する4発のAGM-114Nヘルファイア対舟艇ミサイルを発射し、対空砲と恐らくそれを操作していたであろうSCP-2039-JP-B実体の幾つかを破壊しました。更にロスヴァイセはSCP-2039-JPの10キロヤード地点から3分間に亘りMk45 5インチ砲による射撃を行いました。複数の命中弾及び至近弾により、SCP-2039-JPの上部構造物及び船体の喫水線上に破孔が生じ、速度が低下するのが確認されました。
それまでの交戦によって生じた損傷にも拘わらず、SCP-2039-JPは主砲を含む残存火力を以て反撃してきた為、ロスヴァイセはこれを回避しつつ追跡の継続を試みましたが、この一連の回避運動及びトライトンが燃料切れにより帰投した事によって一時的に触接は失われました。
現地時刻█月█日4時39分、ロスヴァイセはタレイアと合流し、艦載ヘリ及び新たに現場に到着したトライトンの支援を受けて再びSCP-2039-JPを捕捉しましたがSCP-2039-JPは再度砲撃を開始、2隻はこれを回避しつつ艦砲による反撃を行うと共に触接中のヘリも対舟艇ミサイルによって攻撃に加わりました。この一連の交戦に於いてタレイアは複数の命中弾を受けて戦闘能力を一時喪失し、TFサンチャゴ指揮官はタレイアに離脱を命じました。この時点でSCP-2039-JPの上部構造物は十字マストを除き半壊しており、また副砲及び高射砲群も大半が沈黙しているように見えました。上部構造物を中心に複数のSCP-2039-JP-B実体の遺体が散乱しているのが、ヘリの画像センサーによって記録されています。
現地時刻█月█日5時02分、SCP-2039-JPはロスヴァイセに艦首を向け、1番砲塔を発射しながら衝突コースと一致する艦首進路にて再度接近を試みました。ロスヴァイセは30ktまで増速し、SCP-2039-JPとの衝突を回避しましたが、両者の距離は最短で200ヤード以下でした。この間、ロスヴァイセは主砲に加え、Mk38 25mmチェーンガン及び銃座の12.7mm機関銃をSCP-2039-JPに向けて発射し、更なる損傷を与えましたが、無力化には至りませんでした。TFサンチャゴ指揮官は、触接を断念し後退した後、対艦ミサイルによる攻撃を命じました。SCP-2039-JPはロスヴァイセを追尾する動きを見せましたが、速力差によってそれが適わないと認識したのか、途中で追尾を断念し、再び北へ進路を変えました。再探知及び無力化に失敗した場合に備えてTFサンチャゴ指揮官は洋上航空哨戒飛行群のP-3C哨戒機及び第1643飛行隊のF-16C/D戦闘攻撃機の発進を命じました。
現地時刻█月█日5時59分、ロスヴァイセは、応急措置を終えて戦闘能力を回復したタレイアと合流し、艦載ヘリ及びトライトンのターゲティング情報に基づきハープーン対艦ミサイルによるSCP-2039-JPへの攻撃を開始しました。5分間の間にロスヴァイセは4発、タレイアは2発を発射しました。6発のうち1発は不発であったものの、残る5発が喫水線を含む船体に大きな損傷を与え、SCP-2039-JPは行動能力を失ったように見えました。両艦はSCP-2039-JPの拘束の為、再度SCP-2039-JPへの接近を図りました。フィリピン海軍はまた、BRPアルテミオ・リカルテを当該海域の民間船の接近を防止する為に派遣しました。
現地時刻█月█日6時未明、タレイアの艦載ヘリが、SCP-2039-JPの十字マスト上に複数のSCP-2039-JP-B実体が密集しているのを電子光学センサーによって捉えました。SCP-2039-JP-B実体は互いに白い触手状器官を絡みつかせ、繭のような実体をマスト上に形成しつつありました。実体は██の██に類似した部位を形成し、更に█、██状の器官が生じました。
現地時刻█月█日7時未明、マスト上に形成された繭のような実体は巨大な██型の形状をとり、████・███を連想させる形態となりました。上空に到着した2機のF-16CはSCP-2039-JPに対して計4発のGBU-24を投下し、SCP-2039実体は繭状実体を生成していた生き残りのSCP-2039-JP-B実体群と共に破砕されました。SCP-2039-JPのマストは上部構造物の崩壊と共に、繭状実体と共に倒壊しましたが、後に回収されたSCP-2039-JP実体群の残骸からはそれらしき痕跡は発見されませんでした。
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USFSレア・シルヴィアのパッシブソナーには、SCP-2039-JP実体が破壊されたのと同時刻に、SCP-2039-JP実体の破壊音に紛れて微弱なノイズが記録されていました。当時、レア・シルヴィアのソナーシステムはこれを検出する事が出来ませんでした。詳細な音紋解析の結果、これは既知のあらゆる潜水艦及び海洋生物のそれとも一致しない物である事が判明しました。インシデント2039-87/TGに於いてSCP-2039-JP-B実体群がSCP-2039-JPのマスト状に生成していた繭状実体の行方が不明である事から、財団はこれをSCP-2039-JP-Cに指定しました。
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インシデント2039-87/TG後、財団は逸脱戦対応軍と王立異常性調査機関、及び直接作戦に関与した合衆国連邦国防軍第24艦隊及び英国海軍極東艦隊の本作戦に於ける責任者を召喚し、事態の説明を求めました。以下はそれによって行われた非公式会議の議事録の抜粋です。
財団側出席者: O5-11、SCP-2039-JP主任収容管理官ラール・ビハーリー・ガヴァスカール、財団次席外交補佐官レーン・ナカノ、財団極東軍事顧問ヨーコ・ムルザニ・タナカ
逸脱戦対応軍側出席者: 連邦国防軍海洋戦力群第24艦隊任務部隊司令官ラルフ・フェッツジェラルド・ジョンソン准将、連邦国防軍外交保安部ロバート・ゴールドウィン大佐
王立異常性調査機関/英国海軍側出席者: 極東艦隊フリゲート戦隊司令官アダム・バクスター准将、王立異常性調査機関外交調査部長オリヴァー・クラークソン
[抜粋開始]
ガヴァスカール: つまり、あなた方は以前から我々に相談もせずに、SCP-2039-JPの無力化を検討していたと?
ジョンソン: その通りです。あれは我々にとって国家安全保障上の懸案でしたので。
ナカノ: 理由をお聞かせいただけますか?つまり、SCP-2039-JPの無力化そのものと、我々には秘密にしておきたかったという2点について。
バクスター: 所属不明の通商破壊艦が海上交通の要衝に跋扈し、しかもそこは6ヵ国が領有を主張する諸島の目と鼻の先です。その点に関して説明が必要でしょうか?
タナカ: しかし、あなた方の軽率な行動は結果としてあの海域の緊張を高める結果に至りましたが。
ジョンソン: その通りです。現在当該海域での航行の自由作戦は再び海軍に移管され、中国による南シナ海への進出はよりアグレッシブなものになるでしょう。しかし、これは許容可能なリスクであると、我々は考えています。
O5-11: 異常実体の破壊は、それ自体の取扱いの困難さや危険性の程度に関わらず、潜在的に更なる異常性を生む可能性がある事は、そちらも認識しているはずだが?
ジョンソン: 当然です。我々は当てもなくあれの破壊を目指したわけではありませんよ。あなた方こそ、我々の軍事資産を用いてSCP-2039-JPの収容を志向していながら、あれや、あれと同類のオブジェクトについて、確保、収容、保護する事以外に思索を巡らせる事はしなかったわけだ。
ゴールドウィン: あなた方にこの作戦についての通達を行わなかったのは、このオブジェクトに関連する、いや、関連すると我々が認識している幾つかのオブジェクトや事例へのあなた方の収容努力に疑問があるからです。あなた方にもサンプルを提供した通り、あの"Raider-X"は、サーキック・カルト由来の肉体改変技術に極めて似た過程を経て生成された代物です。バルカン半島の地下にある巨大な肉の洞窟と同じように。私の言っている意味が分かりますか?
ナカノ: いや。
ガヴァスカール: 失礼、あなた方は作戦立案の段階でSCP-2039-JPの性質を我々以上に把握されていたようだ。当然、SCP-835との類似性についても同じでしょう?であれば、あれを砲やミサイルで以て破壊しようという結論に至ったのは不可解ですね。
クラークソン: それに関しては、残念ながらあなた方の認識が不十分であると言わざるを得ない。
ナカノ: というと?
クラークソン: あなた方はSCP-835の収容を通して色々気付くべきことがあったのでは?あなた方がSCP-835の収容が困難であると判断する根拠は何ですか?
ナカノ: SCP-835の体内に棲息する各種の寄生虫、微生物及びウイルスが外部環境に漏出する事によるバイオハザードです。
クラークソン: それは奇妙な話ですね。いいですか、それらの生物及びウイルス群がSCP-835の体内以外の場所で発見された事は?ありませんよね?それが答えですよ。
ゴールドウィン: あれが内包する微生物群は、あれの体内でしか活動できません。もしそうでなければ、バクテリアはとっくに海中に拡散しているでしょう。あなた方の定義する"K-クラスシナリオ"はとっくに起きているはずなのです。我々の兵士を犠牲にしながらも、財団はその結論に至らなかった。なぜです?
クラークソン: 以前、我々はあなた方から835-I5を含む幾つかの生物群のサンプルを提供されました。大半は偏性嫌気性生物で、耐酸素性細菌も幾つかは含まれていましたが、37度以下では生存できません。ウイルス群はよりドラスティックな結果が得られましたよ。ヒトDNAを持たない生物への感染能が無く、かつ100m以上では減圧或いは紫外線によってエンベロープが破壊されます。我々の調査結果は提言と共にあなた方にもお送りしたのですがね。
O5-11: それに関しては早急に確認させよう。概ね理解した。つまり、君たちはサーキック・カルトに関連するオブジェクトが財団によって確保、収容、保護される事は危険だと考え、先に破壊を試みた。私の理解は正しいかね?
ゴールドウィン: SCP-2039-JPに関する限り、ご理解の通りです。
O5-11: それはどういう意味だ?
ゴールドウィン: はっきり申し上げます。我々があなた方の承認なしにSCP-2039-JPの破壊を命じたのは、財団の組織的健全性に疑問があったからです。
O5-11: それは告発かね?
ゴールドウィン: 事実から推測される客観的なリスク懸念です。SCP-835とSCP-2039-JPは共にサーキシズムに由来すると我々は認識しています。そして、財団はサーキシズム関連のオブジェクトによって多くの離反行為、逸脱性の拡散を招いています。これが、あなた方をSCP-2039-JPに、そして他のサーキック・カルト絡みのオブジェクトに関与させたくない最大の理由です。
クラークソン: あなた方は、本来収容すべきではないものを収容していると我々は考えています。つまり、あなた方はオブジェクトの無力化、あなた方の言い回しで言えば"終了"についてもっと真剣に考えるべきだ。SCP-835が極めて強固な構造を持っている事はもちろん知っていますよ。ですが、至近距離で300㎏の高性能爆薬が爆発する事によるバブルパルスに耐える外殻でない事も知っています。そして、SCP-835に共生する生物群が、例え外界で生き延びる能力を持っていたとしても、その衝撃波やバブルパルスからは逃れられないだろうという事も。
ガヴァスカール: まるでGOCかロシア人のような物言いだな。
クラークソン: 少なくとも彼らよりは弁えているつもりですがね。様々な理由で"終了"が困難なオブジェクトもあるでしょう。それは知っています。ですが、あなた方がそれらオブジェクトを発見した時点で「確保」「保護」「収容」する以外の選択肢がないか検討した事例を、我々は知りません。
O5-11: 率直に聞こう、大佐。君たちはは財団との協調に慎重であるべきと考えているのか?
ジョンソン: ある意味では、肯定です。CRITICSは、財団は人間がオブジェクトをどう扱うかを決める要素であるという事実を正しく理解していないと判断しています。我々は対象の確保も保護も収容も行いません。逸脱性が合意された正常性に影響するか、我々にとっての脅威判定はその1点のみです。我々があなた方の保有する異常実体の破壊を提言しないのもその為です。あなた方が対象を収容している限り、正常な世界は維持されるでしょう。ですが、逸脱性と収容の必要性は必ずしも一致しないというのが我々の見解です。
O5-11: 君の提言には感謝する。我々はここで口喧嘩をする為に君たちを呼んだのではない。我々の疑問に関する回答が得られた以上、後はこれからの話だ。率直に聞きたい。君たちは我々との関係性に変化を求めているのか?
ジョンソン: いいえ。
バクスター: 少なくとも今のところは。
ゴールドウィン: 現時点で財団は世界最大の正常性維持機関である事には異論はありません。我々は今後もあなた方に必要な軍事資産を提供する事が出来ます。
O5-11: その見返りとして、君たちは我々に何を望むのか?
ジョンソン: あなた方の理念が変わらない限り、財団職員がサーカイトに転化し、逸脱性の拡散を招くリスクは低減できません。あなた方の努力は無駄とは言いませんが、いずれまた起きるでしょう。詳細は差し控えますが、GOCの機能不全を切欠に、我々は自前のスペアキーを持っておくに越したことはないと考えました。あなた方によって我々の資産が浪費されている状況は、それを後押ししました。従って、あなた方の機動部隊に招集された我々の部隊の運用には、我々の意志が介在する事をご理解いただきたい。
バクスター: 我々は国家に所属する軍隊です。敢えて言葉を選ばずに言うならば、あなた方に雇われた傭兵ではない。正常な世界を維持するには、まず世界が正常である必要があります。少なくとも我々は、逸脱物の"終了"は、正常性を維持する手段の一つであると考えています。我々は常に我々の認識する最善を尽くしますが、あなた方が今の理念に固執し続ける限りは、あなた方の意図と合致するかは補償しかねる、という事です。
O5-11: 良く分かった。さて、ここで一旦休憩とするのはどうかね。まだSCP-2039-JP-Cについての議題が残っている。
[抜粋終了]
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非公式会談から約二か月後に実施されたシダージ・ジ・デウスのファヴェーラに於けるオブスクラ軍団の拠点への強襲作戦は、財団直属の機動部隊である機動部隊アルファ-1 ("レッド・ライト・ハンド")と、連邦国防軍第5野戦猟兵旅団の分遣隊から構成された機動部隊ニュー-7 ("下される鉄槌")の合同で行われ、更に英国王立超常性調査機関から派遣された数名のエージェントがアドバイザーとして参加していました。この作戦は、財団が逸脱戦対応軍及び王立超常性調査機関との関係性が正常に維持されている事を確認する為に、O5評議会の要請によって行われたもので、戦略的な意味合いは薄いものでした。しかし、この際に機動部隊アルファ-1は予期せずSCP-2039-JPの出自に関するドキュメントを入手しました。以下はその抜粋です。
君たちが提案した"肉で出来た襲撃艦"について、同志███████の理解を得られたようだ。我々はイギリス人と同じように君たちの通商破壊艦に散々苦しめられたからな。尤も、イギリス人はUボートの方をより憎んでいたようだが。但し、同志███████は、攻撃してくる敵艦を撃退する火力も望んでおられる。幸い、ヴォロシーロフから撤去する予定の兵装を用いれば、さほど難しい事ではあるまい。巡洋艦を装った肉の機械の建造は、ウラルの肉職人たちが存分に腕を振るってくれるだろう。
同志サエンコと███████、そしてあなたの祖国に深い感謝を。イギリスが海を支配する時代は終わりつつありますが、代わってアメリカ人が大艦隊を以て取って代わろうとする中、祖国の海軍が神出鬼没で決して沈まない通商破壊艦を所持する事は、アメリカが支配しようとする海を混乱に叩き込めるでしょう。但し、同志███████にはくれぐれもお伝えいただきたい。巨大な軍艦の艦影は人を恐怖に陥れるにふさわしいものですが、本当に大洋を混乱させたいなら、我々はウラルの肉職人たちの力を借りて、肉と腱と骨でUボートを作る用意があると。
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To: ML_L3_SCP_2039_JP
From: SCP-2039-JP主任収容管理官ガヴァスカール
Subject: «通達»SCP-2039-JP-Cの収容優先度
SCP-2039-JP-Cに配属された全ての正規職員へ。
SCP-2039-JP-Cに関連するミーム類は、標準的な"ネットロア化"プロセスによって大半が収束しつつある事は既にご存知だと思います。北極海、怪物、人型といったキーワードでヒットする画像や映像の大半は、最早陳腐なグラフィックアートや、ただの奇妙な形をした氷塊に過ぎません。或いは、配属前にそのようなネットミームに接した事のある職員もいる事でしょう。しかし、依然としてSCP-2039-JP-Cは未収容のKクラスオブジェクトです。
SCP-2039-JP-Cは、世界を終焉に導くものではありません。インシデント2039-87/TGでも示された通り既存の手段で破壊できない実体ではありませんし、SCP-2039-JP-Cの終了それ自体が何か別のカタストロフを引き起こす事もないでしょう。
問題はSCP-2039-JP-Cが生息しているであろう場所です。
前述のネットミーム拡散は、我々がインシデント2039-87/TG以降全く掴めていなかったSCP-2039-JP-Cの動向を断片的ながら我々に教えてくれました。
忌々しい事に、ロシア海軍の飛躍的な能力向上にも関わらず、アメリカ軍の保有する潜水艦部隊は、この"聖域"に対して積極的な攻勢さえ可能な手段を既に確立しつつあります。
両国の安全保障最も価値ある、そして潜在的に偶発的かつ致命的な接触が起きうる場所で、SCP-2039-C-JPが、両国のどちらかの軍艦に敵対的な行動をとれば、その後の推移を想像する事はそれほど困難な事ではないでしょう。それは2か月前の米中の衝突とは比べ物にならないほどの脅威です。
我々の理念と使命は、基底の世界に立脚するものです。即ち、世界の安定なくして正常性の維持は成し得ません。
各位はその事実を改めて認識し、最善の努力を以て自身の職務に従事してください。
ページリビジョン: 82, 最終更新: 21 Feb 2024 12:33