アイテム番号: SCP-2053-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2053-JPの収容室はレベルI耐酸性素材によって構成されます。室内には音声記録機能を有する監視カメラが設置されます。2009/8/26のイベント以降、収容室内で高音が記録された場合は自動で緊急イベント記録チームに報告されるシステムが構築されています。記録された設備の誤作動を防ぐため、収容室内で高音を発する行為は禁止されます。
説明: SCP-2053-JPは頭部のないスズメ(Passer montanus)の集合体で、半径約1 mの球体を形成しています。SCP-2053-JPを構成する頭部のないスズメをSCP-2053-JP-1と呼称します。体積から、SCP-2053-JP-1の個体数は少なくとも800以上であると見積もられています。
SCP-2053-JP-1の頭部はすべて、強い力でねじ切られたように切断されています。おそらくこれに起因して、SCP-2053-JP-1が非異常のスズメのように鳴き声を発する様子は現在まで確認されていません。また、この切断面からは常に少量の血液が流出しています。この血液は流出から10分程度で消失しますが、その個体数の多さのために、SCP-2053-JP周辺には常に血液だまりが形成されることになります。ただしこの血液だまりの表面積は、推測される総個体数と一個体あたりの流出量から予測されるものより小さくなりますが、この要因は不明です。またこの血液は非異常のスズメのものと異なり、やや強い酸性を示すことが知られています。
SCP-2053-JP-1同士は未知の力で引き合っており、この力によってSCP-2053-JPは球の形状を保持していると考えられています。また、SCP-2053-JP-1によるSCP-2053-JPの構築様式は"蜂球様1"と表現されます。すなわち、SCP-2053-JPが全体として静止しているように見える状態であっても、表面上のSCP-2053-JP-1は絶えず移動を繰り返しています。一方で、内部に位置するSCP-2053-JP-1と表面に位置するSCP-2053-JP-1の入れ替わりは積極的には行われません。
SCP-2053-JPは外界の変化や外界からの刺激に対しいかなる反応も示しません。収容室中では、稀に自発的な移動が見られるのみです。
SCP-2053-JPは警視庁公安部特事課の管轄下にある一連の死亡事件(事件-2053-JPに指定)との関連が疑われています。これらの事件は次の共通点を有します。
- 状況は被害者が高所から落下したことを示す。
- 事件の瞬間は目撃されないが、現場付近に居住する人物からは、死亡推定時刻周辺で音源不明の高い音が聞こえたという証言が得られる。これは主に、なんらかの動物の鳴き声として解釈される。
- 被害者の一部は事件の以前に、自身の生活圏でスズメの頭部を発見する。ただし被害者のSNS等にスズメとして掲載された写真には、それらしき物体は写っていない。
- 被害者は頸部から上が切り取られており、また切り取られた部分は見つかっていない。切断部には圧迫の痕跡があり、これは頸部が両側から挟みこむように切断されたことを示唆する。
- 被害者の体表には複数のみみず腫れが見られ、体内からは内臓が消失している。
これらの事件は特事課による情報統制下にありますが、少なくとも年に2件以上の頻度で発生していると考えられています。
補遺: 2009/8/26の2時24分から、SCP-2053-JP収容室の監視カメラに非定型的な行動が記録されました。以下はその記録です。
[SCP-2053-JPの表面上のSCP-2053-JP-1が脱落し始める。脱落したSCP-2053-JP-1は再度SCP-2053-JPを登り、自身の位置へ戻ろうとしているのが観察される。]
[監視カメラに音源不明の高音が記録される。この音は本イベント全体を通して断続的に記録されている。]
[脱落のペースが速まり、その形状が崩壊し始める。脱落したSCP-2053-JP-1はSCP-2053-JPへ登ることをやめ、収容室全体に散らばる。各SCP-2053-JP-1から漏出する血液量が増大し、収容室の床が血液によって覆われる。][SCP-2053-JPの内部からSCP-2053-JP-1をかき分けるようにして不定形な塊が出現する。大きさは1.5mから2mほどで、その表面は爛れた皮膚のような状態を示しているが、明度と解像度の問題で細部の観察は困難である。]
[塊は自身の体を短いスパンで伸縮させるか、もしくは捩じることで壁側へ移動する。SCP-2053-JPはそれを追うように移動する。脱落したSCP-2053-JP-1の一部は塊の周辺に集合し、その切断面を塊に向け、血液を吹きかける。]
[脱落したSCP-2053-JP-1の一部がSCP-2053-JPへ登る。SCP-2053-JPの形状が再構築され、巨大なスズメの頭部を形成する。]
[SCP-2053-JPが不定形な塊に接近する]
[SCP-2053-JPが不定形な塊に追いつき、形成された嘴を用いてこれを体内に取り込む。]
[脱落していた残りすべてのSCP-2053-JP-1がSCP-2053-JPに登る。]
[SCP-2053-JPは球形に再構成される。これ以上非定型の行動は観察されない。]
観察された音源不明の高音については現在分析中ですが、その周波数的特徴から、少なくとも鳥類のものではないと結論付けられています。
発見記録: SCP-2053-JPは山菜採集中の男性により、旧███集落に隣接する山中で発見されました。発見地点には廃棄された神社が存在しましたが、この神社および旧███集落に関する情報には、意図的に隠蔽された痕跡がありました。のちに、この隠蔽は旧███集落においてかつて蒐集院が行った蒐集活動によるものであることが判明しました。
蒐集院による記録: 以下は蒐集院が行った旧███集落に関する活動の記録です。記録には必要に応じて現代語訳・および修正を行っています。
豊穣の仏像蒐集物覚書帳目録第〇一二二番
一八八二年補足。 ███集落を訪れた徴税吏員が住民の死体と異様な行動を取る住民を報告し、それを受け管轄の警察分署から数人の巡査が派遣された。その後、県との協力により集落への出入りを制限の上、調査と隠蔽を実施。本蒐集物はその際、集落に建設された堂から発見された。
本蒐集物は人の背丈ほどの木製の仏像である。眼球部はくり抜かれており、製作者は不明。堂に残された記録によると、一八三六年に本集落に持ち込まれたとされる。
本蒐集物の前に立ち、手を合わせて拝むような動作を行うと、眼球部から精米された米が一升ほど流れ出る。別の人物か、同じ人物でも日の出を跨いでいる場合、拝むことで米を再び得ることができる。
この米を何らかの方法で食した場合、いくつかの症状が現れる。まず数日後から体にみみず腫れが出現するようになる。その後さらに数日をかけて、意識が混濁し、やがて直立することができなくなる。このようにして起き上がることができなくなった者は、芋虫のように体を伸縮させて移動するようになる。この状態になると、問いかけへの応答が見られなくなり、自我が失われる。また、食事を摂ることもできなくなり、最終的に死亡する。このようにして死亡した者の遺体からは内臓が失われ、内部が中空となっている。
また直立することができなくなるまで症状が進んだ患者に接近した場合、接触した者も同様の症状を呈する場合がある。患者との接触が密接であればあるほど、その危険性は高くなる。現状、これらの症状を治療する方法はない。
研儀官(本報告執筆者 三善儀人)が集落を訪れたとき、住民はすでにこの症状の被害に遭っており、すべての住民は死亡するか、自我を失っていた。
そうした住民の周囲には例外なく大量の雀が集まっており、地面から何かを啄むような動きをしていた。ただしこれらの雀には首がなかったため、研儀官は当初、この雀は物の怪の類であり、この状況を引き起こしている主体であると考えた。また、住民の遺体の状態はこの疑いを強めることとなった。すべての死亡した遺体は頭部を切り取られていたためである。
観察によって、この遺体の状態がどのように生み出されるのかが明らかになっている。初期調査中、研儀官は動きの鈍った住民の周囲に首のない雀が集まるのを目撃した。やがて大量に集まった雀は、大きな雀の頭を形作った。そしてその雀の頭は嘴を開き、住民の頭を啄んだのである。その後雀の頭を形作っていた雀は虫を散らすように離散し、地面をより一層激しく啄みはじめた。一部の雀は中空となった遺体の内部まで入り込んでいた。
研儀官の調査のうちに全住民が死亡すると、そのような現象は起こらなくなり、雀も姿を消した。その後、住民の遺体が集まっていた堂から本蒐集物が発見されることとなる。
本蒐集物の性質が明らかになると、集落で起こった事件についても理解が進んだ。この事件は、本蒐集物から得られた米を食べた住民から症状が広がり、やがて全住民がその影響下におかれる、という流れを経たと考えられるようになった。しかし、本蒐集物によって首のない雀について説明することはできない。そのため、首のない雀について簡易調査が行われることとなった。
集落に残された教育用とみられる作品から、本集落が山中に古くから住むとされる雀の神を信仰していることが判明した。それに付随して、この雀の神を祭るとされる神社も集落に隣接する山中から発見された。
ここまでの情報から、研儀官は首のない雀が症状の広がりを防いでいたと推測した。確かに彼らの面妖な姿からは想像のできないことであるが、その先入観から彼らを悪しきものと断定してはいけないだろう。この推測にはしっかりとした根拠がある。
研儀官以前に集落を訪れた巡査の一部は、住民の様子を観察するためにかなり密接に住民と接触していた。しかし、彼らは誰一人として本蒐集物の影響を受けていない。研儀官も同様に、長時間住民たちの間で活動していたにもかかわらず、現在症状は出ていない。蒐集後に行われた種々の試験と照らし合わせると、異様な事態である。
そのような事態は、試験にはなく集落にはあったものによって引き起こされたと考えられる。すなわち、それは首のない雀であり、彼らが症状の広がりを防いでいたのだ。さらに、雀が集落で祭られていたという情報から、研儀官はその確信を強めた。人々に祭られていたものが、その人々に迫る悪い影響が広まるのを防ごうとしていたと考えると、様々な要素に合点がいく。不幸にも集落の中に症状が広まることは防げなかったが、あの雀たちの行為は、本蒐集物の影響から巡査や研儀官、周辺の村々を守ったのだ。
※集落の記録を確認したところ、事件発生の三か月前に一名の女性が行方不明となっている。この行方不明者が本蒐集物の影響を受けている場合を考慮し、現在捜索を進めている。
※本蒐集物がどこから米を出現させているのかについて、さらなる検証が必要であろう。他の地域から米を簒奪しているような場合、その地域にも症状の影響が出ている可能性がある。
※鳥類に詳しい他の研儀官によると、一般に人家に巣を作る雀が「山に住む」とされることには違和感があるという。首のない雀についてはさらなる調査が必要であろう。
(記・三善儀人)
追加報告 - 豊穣の仏像蒐集物覚書帳目録第〇一二二番
一次報告を受けて、新しく担当となった研儀官(本報告執筆者 三善慶式)が二つの点についての追加調査を実施した。
- 出現する米の由来
- 雀への信仰
米の由来について。結界を専門とする秘儀官によって本蒐集物の秘術的分析が行われた、その結果によると、仏像の左右の手の平に、陰陽道的由来を持つ転移門系の秘術文様が発見された。ただしこの秘術文様は引っ掻き傷のようなもので破壊されており、すでに機能を喪失していた。秘儀官の分析によると、本蒐集物は陰陽道と仏道を強引に結合させた結果として本来得られるはずの効果を損なっている。すなわち、専門家ではない人物によって作成されたものと考えられる。
また祭祀官の調査の結果、抉られた眼球部にも転移門系の妖術が認められた。ここには体系化された秘術の痕跡が発見されなかったため、物の怪のような妖異による術であると推測されている。
これらの調査の後、転移先の空間への調査が行われた。以下はその調査結果である。
転移先・壱
本転移先は仏像の手に描かれた秘術文様を利用することで侵入可能である。なお、本転移を実現するために、結界術に長ける大春日秘儀官の協力のもと、欠損した秘術文様の修復を行った。
転移先には見たところ田園が広がっているようであった。人家等は見られず、田は一面、黄金色に熟した稲で埋め尽くされていた。
田は通常の田と同じように水路によって区画分けされていた。その水路の上流に向かって歩いていくと、すべての水路は最終的に一本の水路に収束した。その水路にそってさらに歩き続けると、遠くに、水路の両端に沿って並べられた柵のようなものと、そのうえに何かが並べられているのが見えた。
近づいて観察すると、柵の上に乗せられているのは雀の頭であった。雀の頭はその嘴と目から透明な液体を流し続けており、それが水路に流れ込んでいるようであった。柵とそれに乗せられた雀の頭は延々と続いており、終着点が見えなかったため、調査を終え帰還した。
転移先・弐
本転移先は仏像の眼球部に境界を操作する秘術を組み合わせることで侵入できる。本転移についても、大春日秘儀官の協力のもと実施した。
転移先は壱の転移先と同じような田園であったが、非常に大きな相違があった。ここでは、田には稲が植えられておらず、水が赤黒く染まっていたのである。
空間には饐えた臭いが満ちており、赤黒い液体にはなるべく触れぬように調査を進めた。すると、田の中で動く存在が発見された。
それは人の形をしていたが、肌は酷く爛れており、顔は確認できなかった。衣服の類は身に着けていなかったようである。それが、芋虫のように体を伸縮させて田の中を蠢いていた。
その存在はこちらに気づいたようで、体を持ち上げ、甲高い悲鳴を上げた。正確には、それは人の声というより、それの内部で何かがひっきりなしに擦れているような音であった。
それはおそらく顔に当たる部分から白い粒をまき散らしながらこちらへ向かってきた。おそらくこの白い粒こそ、本蒐集物の出す米の正体であろうと考えられた。それの移動は遅かったため、我々は距離を保ちながら、それの観察を続けた。
観察を続けるうちに、空に大量の小さな点が浮かび、それらが接近してきた。それは首のない雀の大群であった。それらは私の目の前で滞空し、私を観察しているようであった。雀たちの首の断面からは常に大量の血液が流れ出ており、それがこの他の赤黒い液体の正体であるようだった。
やがて首のない雀たちは集合し、一つの雀の足を形作った。そして、その足は目の前の爛れてもがいている存在を掴み、遠くに飛び去って行った。
その後、地鳴りと何かが砕けるような音が周囲に響き始めたため、調査を終え帰還した。
本調査により、事件の流れについて、次のような推測が立てられた。
集落ではもともと転移先・壱から米を受け取っていたが、なんらかの要因によって秘術文様が損傷し、代わりに転移先・弐から米が出現するようになった。その米を食べてしまった住民が、本蒐集物の効果を受け、事件が発生した。
この推測が正しければ、本蒐集物が持ち込まれて以降かなりの時間が経過するまで事件が起こらなかったこと、住民が本蒐集物から得られた米を食べたことの説明が可能である。
また、転移先・弐への調査後、本蒐集物はその能力を失った。転移先・弐へは侵入することができなくなり、転移先・壱については水が枯れ、並べられていた雀の頭部が消失していた。
今後能力が復活しなかった場合、本蒐集物は蒐集物指定を外される予定である。
雀への信仰: 祭祀官の同行の元、集落に隣接する山中の神社へ調査を実施した。その結果、この神社が一八〇〇年代初期から中期に建てられたこと、神道系の勧請などに由来しない、独自の信仰であることなどが明らかになった。また、神社の裏手から土を盛った痕跡が発見された。これを掘り起こした結果、大量の頭部のない雀の骨と、いくつかの呪術的痕跡が見られる木簡が発見された。
また残された痕跡から、かつては定期的に少量の供物が備えられていたことが明らかになっているが、現在ではその習慣は廃れているようである。周囲の集落の住民は、この神社について何も知らなかった。
これ以外に、信仰に関する新たな情報は得られなかった。集落にも、信仰に関する情報はほとんど残っていなかった。一八三〇年ごろの集落の状況に関する記録が集落の内外でほとんど発見されないのは、特筆すべき事項であろう。
総括: ███集落の住民は本当に雀を神としてあがめていたのだろうか。すでに指摘があった通り、通常人里に住む雀が「長く山に住んでいたもの」として祭られていたことには違和感が残る。
神社が建てられた一八〇〇年代初期といえば、ちょうど全国に大飢饉が起こったころであり、仏像がこの集落に持ち込まれたとされる時期とも一致する。そもそもこの仏像は本当に外部から持ち込まれたものなのだろうか。飢饉の最中、この集落に仏像を購入するほどの余裕があったとは思えない。
さらに発見された大量の骨や木簡のことも考慮すると、一つの結論に到達せざるを得ないだろう。すなわち、飢饉に苦しんだ住民は何らかの形で雀を犠牲にし、呪術を為した。その過程か結果として、本蒐集物が誕生したのだ。そして住民は、神社を山に建てた。それは祭るためというよりむしろ、遠ざけるためだったのだろう。
もしこの結論が正しいのならば、雀たちが彼らを虐げた住民のために行動するとは考えられない。集落の住民以外に本蒐集物の影響が広がらなかったのは、雀たちが積極的にそれを防いだからではないだろう。むしろ住民以外など、もともと彼らの狙いに入っていなかっただけであると考えたほうが、辻褄が合う。
住民たちが消えた今、雀たちはどこにいるのだろうか。祭祀官との調査によると、神社にあった彼らの痕跡は事件の日以降途絶えていた。せめて彼らがどこか休まる場所を見つけ、平穏の中に鎮まることを願うばかりである。
(記・三善慶式)
注記: 蒐集院の記録に残された旧███集落の住民の症状と事件-2053-JPの被害者の状況にはいくつかの類似点が見られますが、事件-2053-JPの被害者のいずれにも、旧███集落との関連は発見されていません。