警告: 本報告書に記載された情報の取得は、高い確率で致死性の情報災害を引き起こす要因となります。閲覧にはレベル3セキュリティクリアランス、並びに薬剤によらない記憶処理手段ないし緊急用小型スクラントン現実錨(E_SRA)1が必要です。記憶処理に耐性を有する職員によるSCP-2062-JPの使用と情報の閲覧は、その耐性の程度を問わず許可されません。
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特別収容プロトコル: SCP-2062-JPは直射日光の当たらない冷暗所にて密閉状態を維持しつつ保管してください。SCP-2062-JPの異常性についての情報を意図せずに取得した場合は可及的速やかに、薬剤によらない記憶処理を受けるか、前腕部等の露出部にE_SRAを突き刺した上で任意の記憶処理を受けて下さい。
説明: SCP-2062-JPは直径約2.0cm、厚さ約0.5cmの円柱状の錠剤です。19██年に廃村となった栃木県██市██村において民間薬として局所的に流通していました。解熱・鎮痛作用の他に種々の軽微な症状を改善する効能があるとされ、『万病に効く!』なる謳い文句と共に日常的に広く服用されていたと考えられています。主成分は小麦粉2、炭酸カリウム3、及びスベリヒユ科の植物(Portulacaceae)に由来する色素等と分析され、様々な原料を粉末状にして練って作られた4ものと推定されますが、現在まで具体的な原料や製法の同定、及び再現には至っていません。現場エージェントによる定期史料調査の過程で存在が確認され、██村の廃村前後における急激な人口減少との関連から要注意捜索対象に指定後、20██/07/03時点で収容に至りました。発見された家屋の家主についての調査が続行されています。(20██/08/23更新): 関係者の親族からの聴取が行われました。映像記録映像記録2062-JP-1を参照してください。
SCP-2062-JPの異常性は服用の直後から発露し、服用した人物の内部ヒューム値を安定状態から減少可能な状態へと変化させることで、任意の薬効を生じさせうるものと考えられます。更に、こうしたヒューム値の変性を認識した人物にも同様の変化を誘起します。収容当初の方針として、SCP-2062-JPは既に██村内で日常的に使用されていたことから、Dクラス職員を用いた二重盲検試験の実施が許可されました。これは種々の病状に対しSCP-2062-JPを投与した処置群と市販の既存薬を投与した対照群の比較を行うもので、その具体的な効能を明らかにする目的で計画されました。しかしSCP-2062-JPの汎用性が明らかになると共に、試験の規模は拡大されています。以下に試験の概要と結果を示します5。
表1: SCP-2062-JP効能特定を目的とした二重盲検試験概要及び結果
(一部引用: T. ███, et al.,"Hypothesis of reduction mechanism of internal Hume by drug-object administration and proposal of new Panacea development", F. Chem. Jp., 15 , 6, ████-████ (20██).6)病状 処置群結果(/名) 対照群結果(/名) 備考 細菌性肺炎 ◎ (25名) △ (23名) 人為的な集団感染による7 偏頭痛 ◎ (12名) 〇 (12名) 対照群には血管収縮剤を投与 アトピー性皮膚炎 ◎ (35名) × (36名) 両群とも同一の外用薬を使用 口内炎 ◎ (19名) △ (20名) 人為的な口内切開による 以下参考データ ウイルス性感冒 ◎ (18名) 対照群に対応の市販薬無し 潰瘍性胃炎 ◎ (2名) △ (2名) 処置群は投与後直ちに快癒8 大腸癌(ステージⅣ) × (1名) ◎ (1名) 両群とも自覚症状無し9 記号対応: 郡内の病状改善者の割合10 ◎: 75.1%~ 〇:50.1%~75.0% △: 25.1%~50.0% ×: ~25.0%
補遺1: 初期の試験結果を受けて、研究チームにより本オブジェクトの積極的な利用が提案されました。チームの一員であるT. ███氏のノートが発見されています。
研究員T. ███のノート(抜粋)記録 - 20██/07/12
データをまとめた。ヒューム測定器の到着が待ち遠しいが,仮説段階としては十分だろう。███博士はサンプル数が足りないってボヤいてるけど,症例を集めるのにも一苦労だし,オブジェクトの数に限りもある。それに結果が何よりその性質を物語っている。病は気からとはよく言ったものだ。記録 - 20██/08/13
何度も申請した結果,ようやくのことで500を一錠だけ手配してもらえることになった。制限は相当に厳しかったが,これで結果にインパクトが出る。やはりタイトルに新しい万能薬というワードを入れておいてよかった。記録 - 20██/08/21
オブジェクトを生産していた人物の従妹だかなんだかが見つかったらしい。これで製法がようやく明らかになるだろう。███博士の計らいで聴取11に同席できることになった。いよいよ今後の展開が楽しみだ。映像記録2062-JP-1 - 日付 20██/08/23 16:07:17
対象: ████氏12
インタビュアー: ███博士
付記: インタビューは埼玉県に存在する████氏の自宅で行われました。この際、カバーストーリー「製薬会社による調査」が適用されました。
<録画開始>
インタビュアー: それでは奥さん、どうぞよろしくお願い致します。
対象: ええ、ええ。こちらこそ。それで、皆さんが聞きに来たのは、あの薬のことよね。
インタビュアー: そうなんです。民間薬をヒントに新薬の開発を行おうと計画しておりまして。よろしければ作り方など教えて頂きたく参りました。
対象: それだったら申し訳ないけど、お話しできることはありません。作り方も何も、あの薬はね、うちの伯父さんが余った小麦と肥料の灰にそこら辺の草の汁混ぜてでっち上げた、嘘の薬なのよ。
インタビュアー: は、うその薬。
対象: ちょっと年取っておかしくなっててね。家族は適当に付き合ってたんだけど、そのうちどういう訳か、ご近所で評判になっちゃってさ。色んな病気に効くってありがたがられて。それで今更本当のこと話すのもなんだか申し訳ない気がして、黙ってたら村中に広まったんです。だから効き目なんて全部気のせいですよ。私も飲んだことがあったけど、何も起こりませんでした。
[随行していたT. ███が割り込む]
T. ███: そんな筈はありません、あの薬はちゃんと効果があります。
インタビュアー: おい、やめないか。
T. ███: 我々はもう既に幾つかの試験を行っていますが、成績は上々のものでした。だから、あとは作り方さえ分かれば。お願いです、教えて下さい。
対象: [驚愕した様子] どういうことですか。
インタビュアー: すみません、奥さん。なんでもないんですよ。
対象: そんな、あれは、嘘の薬の筈。だって、じゃあ、そんな。
[████氏が胸を押さえてうずくまる。顔面等の肌が青黒色に変じている13。]
<録画終了>
終了報告書: ████氏には特筆すべき持病はなく、追加調査でも具体的な死因が特定されることはありませんでした。
研究員T. ███の手記ノート(抜粋)記録 - 20██/08/24
恐ろしいことが起きた。あのオブジェクトの異常性は服用の時期に依らず,本人の認識に左右されるのか。幸いにも僕たちはあれを服用していないが,噂が広がったのか,Dクラスの中からも死者が出ている。とにかく隔離して対策をしなければ。頭痛がひどい14。記録 - 20██/08/26
D-2062-45との面談を行った15。断り切れなかったけれど行くべきじゃなかった。
嘘じゃない,嘘じゃなかった。なのに彼は死んだ。だとすると,
[以下血痕により判読不能]
映像記録2062-JP-2 - 日付 20██/08/26 13:02:19対象: D-2062-4516
インタビュアー: 研究員 T. ███
付記: D-2062-45は対照群に属していた為にSCP-2062-JPを服用していませんが、その事実はD-2062-45に知らされていません。
<録画開始>
インタビュアー: 僕に確認したいことがあるとのことでしたが。
対象: 先生、正直に答えてくれよ。例の薬、ヤバいやつだったんだろ。あの時の仲間が何人も死んでる。
インタビュアー: 君には知る権限がない。
対象: バカに治りが良かったんだよな、あの時。先生、俺はどっちだったんだ?
インタビュアー: [沈黙]
対象: 何だよ、いいじゃねえか、もう試験は終わってるんだろ?
インタビュアー: 対照群だ、君はあれを服用していない。
対象: [咳き込み倒れる。床に血と抜け落ちた歯が散らばる] けっ、嘘じゃねえか。
<録画終了>
終了報告書: 死後解剖の結果、D-2062-45の死因は出血性ショックと判断されました。D-2062-45の体内からは毒物等は一切検出されませんでした。
補遺2: 最終的に上述の二重盲検試験に参加したDクラス職員283名のうち261名、担当研究員6名のうち3名が死亡しました。死亡者のうち17名は各種記憶処理剤投与の直後に死亡しています17。これを受けてSCP-2062-JPの異常性に関する知識を有する全職員を対象とした非薬剤記憶処理、及び専用E_SRAの研究開発と配備が行われました。