SCP-2070-JP
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アイテム番号: SCP-2070-JP

オブジェクトクラス: Keter

Blessing-of-ass-1

SCP-2070-JP-1上端より撮影

特別収容プロトコル: 2031/01/29現在、SCP-2070-JPの汚染範囲(以下、SCP-2070-JP-1)は大手町駅の地表より50m以深に留まっています。これはSCP-2070-JP-1中の地下75m地点に存在する定常時間流ループにおけるSCP-2070-JPの持続濃縮状態が保たれていることによります。この定常時間流ループの保全をもって、SCP-2070-JPの収容に代えるものとします。

SCP-2070-JP-1には、25m間隔で合計12台の神々廻恒常安定時間溝が設置されています。地上時間で36時間に一度の周期でSCP-2070-JP-1進入口から剛体ドローンを投下し、現地の時間流の点検と時間溝の定期メンテナンスを実施します。時間溝に破損箇所が発見された場合は、直ちに予備の機材と交換が行われます。サイト-81GBには常に予備の時間溝が最低でも4台以上保存されていなければなりません。機材の不足が予想される場合には、サイト-81GB非生物転送管理部門からサイト-8181を経由し、日本時空間因果律総合調整機構に追加資材の手配が要求されます。

SCP-2070-JP-1の時間流ループ構造に破綻が発生した場合、大手町地下で採掘された天然の火成岩を使用した溶接安全扉が即時に起動し、SCP-2070-JP-1全体と大手町駅メインコンコース、ならびにサイト-81GB間の2箇所の空間的接続が遮断されます。この安全扉は完全な気密構造を保持するものではないため、サイト-81GB内の全職員は有人転送装置を用いて可及的速やかに地下東京コミュニティから退避する必要があります。

説明: SCP-2070-JPは大手町駅の地下300m付近から噴出していると推定される気体であり、視覚的には黄褐色の煙として観測されます。

SCP-2070-JPの組成は空気に近似していますが、サイト-81GBに存在するガス解析機器では判定不能な複数の異常な化合物が微量ずつ含有されており、結果としてSCP-2070-JPは極めて強い悪臭を有します。その性状は観測時点および観測者ごとに一定しておらず、硫黄臭・腐卵臭・アミン臭など様々に形容されます。これらの異常化合物が有する代謝活性は明らかでなく、人体組織に直接的な毒性を示すものではありません。しかしながら、その臭気による各種神経反射(咳嗽、嘔気・嘔吐、血圧低下による失神など)は非常に強く惹起されます。

SCP-2070-JPは正常な気体と同様に濃度勾配によって拡散しますが、一度SCP-2070-JPが混入した空間の空気中からSCP-2070-JP内の異常化合物を分離することは不可能であるか、極めて困難です。SCP-2070-JPが持つ異常に高い粘度がこの現象の原因であると推測されます。これは生体内(鼻咽頭および上気道・下気道)においても例外ではなく、先述した嗅覚的特性の関係から、SCP-2070-JPへの曝露は対象自身および対象と交流する他の人間が有するQOL1を著しく損なう結果を招きます。

また、SCP-2070-JPは殆どの人工組成の物質を透過でき、東京地下に存在する天然の火成岩のみがこれを防ぐことが可能です。しかし、地下環境では酸素消費量の観点から高熱の使用が難しいため岩石の加工は容易でなく、火成岩のみで機密構造を保つのは現実的には不可能と見られます。従って、SCP-2070-JPに対する恒久的な収容措置の実施のためには、サイト-81GBおよび地下東京コミュニティが有する地上との連絡手段ならびに物品大量輸送手段が確立することが前提となります。

SCP-2070-JPは地下東京コミュニティにおける大手町駅の地下50m以深に存在する縦穴の一つの内部に充満する形で存在しており、これを総括してSCP-2070-JP-1と呼称しています。SCP-2070-JP-1は大手町駅コミュニティに居住していた“テガミ”氏および数名の同僚によって2030年秋ごろから掘削されていた縦穴であり、その深さは200m以上に及びます。この掘削作業の結末として、2031/01/01前後にテガミ氏らはSCP-2070-JPの噴出口に繋がる地下空間を発掘し、結果としてSCP-2070-JPに曝露されたものと推測されます。先述の通りSCP-2070-JP噴出口はSCP-2070-JP-1の地下300m以深に存在していますが、更にその下に空間が存在するか否かは不明です。収容維持に対する影響を鑑み、更なる発掘調査は実施されていません。


補遺1: 地下東京コミュニティとサイト-81GBの邂逅

2031/01/03、サイト-81GBと地上の旧皇居・千鳥ヶ淵底部とを接続していたエレベーターシャフトの一部が、外部からの掘削により破壊され、そこから数名の人間に侵入される事案が発生しました。これらの人間は、2017/12/17の東京現実崩壊性広域災害発生時に東京メトロの構内に滞在していた人間の直接的な子孫であり、後の調査では東京の地下に彼らの生活する独自の社会構造が形成されていることが判明しました。

以下は、この事案時にサイト-81GB構内に侵入した“大手町のトリセツ”と自称する人物に対し、地下東京コミュニティに関する情報収集を目的として実施した会合記録の抜粋です。

Record 2031/01/04 - GB2881

サイト-81GB会議記録


メンバー:

  • サイト-81GB管理官 乾 圀元
  • サイト-81GB渉外部長 育良 啓一郎
  • サイト-81GB初期収容課 富岳 桃影
  • “大手町のトリセツ”

注記: 会合はサイト-81GB第一会議室で実施された。


[記録開始]

乾: さて、まず最初に我々は貴方に対して謝罪をしなければならない。

トリセツ: なんですか、急に改まって。私なんて大した者じゃありませんよ。

乾: 我々の性質上どうしても必要なことではあるのだが、我々と同じく東京の地下深くで長い時を過ごし、遂に会いに来てくれた同胞に対して、我々は貴方が人間であることの確認から開始しなければならなかった。貴方が確かに我々と同じホモ・サピエンスであり、我々からすれば当の前に埋葬が済んだものだとばかり思っていた者たちの子孫であるということに気づくまで、我々は貴方を人でなしのように扱ってしまっていた。重ねてお詫び申し上げる。

トリセツ: いやいや、全然いいんですよ。ちょっと遺伝子検査されたくらいですし。私たちも、地下鉄駅のないところに生きた人間がいたって知って、とっても嬉しかったんですよ。

育良: 本当に、生きていてくれて良かった。まずはそれだけです。

乾: さて、本題に入ろう。…いや、その前に、そもそも貴方がたはどのようにして我々の下までたどり着いたのか、経緯をお聞かせ願いたい。

トリセツ: ああ、話は単純なんです。大手町は東京の隣で、メトロの中じゃ生活環境は割合良いところなんですよ。それで社会も上手いこと回ってて、歴史の中で人口増加がどんどん進んだんですね。それで線路やコンコースの他にも新しい居住区を作らなきゃいけなくなって、私や他の数十名の同僚が駅の外れを深く掘って少しでも多くの土地と住処を確保しようとしてたんです。

富岳: その目的で大手町から300m以上も掘った?しかも複数箇所を?

トリセツ: まあ、私の祖父の時代からやってたみたいですから。時間さえかければって感じですね。

育良: しかし、東京事変からまだ13年しか経ってないのに、お爺さんの時代より前から人口爆発してたんですか?

トリセツ: ええ、地下東京は地上ほどじゃないにしろ時間も空間もガタガタでして。大手町は殊更に時間経過が速いんですよ。地上で仕事してたことのある人となると私の五代くらい前になっちゃうと思います。

乾: それなら納得がいく。我々が貴方がたの下に向かうのは安全性の面ではどうなのか?

トリセツ: 長居しなければ大丈夫だと思いますよ。あなた方がお調べしていた通り、私たちはあなた方と身体のつくりは違いありませんから、私たちが生きられる場所ならあなた方も大丈夫のはずです。

乾: 了解した、話が長くなって済まないね。それでは、改めて本題に入らせて頂こう。

トリセツ: ありがとうございます。今起こってる問題は他でもない私の同僚が巻き込まれたものでして。テガミって名前の奴がいて、私たちの組が駅の南西を掘ってる時に、彼らは駅の北の方を集中的に掘ってたんですね。それで両方が同じくらいの深度だったんです。

富岳: オーケー、続けてくれ。

トリセツ: 私たちがここを発見するより少し前だったんですが、先に向こうのグループが発掘現場でガスに巻かれたって知らせが入って。テガミが隊の先頭になって縦穴をゴンドラで降りて行って、最下層にたどり着いたら掘って出た岩をゴンドラで揚げて、休憩時間には自分も上がって、ってやってたそうなんですが、そんなんですからテガミが最初にガスにやられて。急いでゴンドラを引き揚げたら、テガミもゴンドラも鼻が曲がるほど酷いニオイになってて、テガミ本人も中で吐いちゃったって…。

富岳: んー、ここまでの話だと運悪く火山ガスにでも当たったのかなと思うが。

トリセツ: 彼も私もただのガスなら嗅ぎ慣れてますよ、ここまでのたうち回ることは無かったと思います。しかも洗っても洗ってもニオイが落ちない。しまいにはテガミ本人が他の人に迷惑かけたくないって言って、家に篭っちゃいました。しかも奴、全然食事が喉を通らなくなっちゃって。可哀想な奴です。普通の火山ガスでこうはなりません。

育良: なるほど、何かしらの異常現象である可能性は出てきますね。もっとも、地下東京コミュニティは元から異常だらけではあると思われますが。

トリセツ: んで問題なのが、肝心のガスの流出が止まってないっぽいんですよね。貴重な金属で作った縦穴の気密扉はどういうわけかガスを素通ししてますし、そのうち縦穴中の時間経過速い地帯までガスが上がってきちゃったら、そこから発掘基地を超えて駅構内まで一気にドーンですよ。

乾: 貴方の話を聞いている限りだと、これは我々にとっても看過し難い。地下東京コミュニティに暮らす多数の人間がガスに曝露する危険性はもちろんのこと、貴方がここまでたどり着く経路を開拓してしまっている以上は、発掘基地に到達したガスはサイト-81GB内まで直ちに汚染を拡大させるだろう。

育良: 話はわかりました。教えてくださりありがとうございます。私たちに何か対処できる方法がないか、検討してみましょう。

トリセツ: ありがとうございます!やはり貴方がたは伝説にある通りの救世主なのですね!

富岳: やだなあ、救世主だなんて。貴方と同じ普通の人間の組織だよ。

トリセツ: いやはや、何せ東京崩壊前の貴方がたの活躍はこちらでは五代前のお話ですからね。そりゃ伝説にもなるってもんですよ。

[記録終了]


補遺2: SCP-2070-JP収容過程

SCP-2070-JPに対する暫時的な収容体制構築のため、サイト-81GB初期収容課の所属職員である富岳研究員を中心とした初期収容チームが結成されました。神々廻恒常安定時間溝を搭載した剛体ドローンによる大手町駅構内および地下の非居住区画の調査が行われ、大手町周辺における時間流がベクトル場としてマッピングされました。結果として、SCP-2070-JP-1の近傍に不可能形状様のループを構築する時間流ベクトルが発見されました。

我々が地下東京で直面した最初のオブジェクトは、技術的問題、劣悪な周辺環境が災いし、物理化学的な収容体制を適用するのが極めて困難です。このオブジェクトに平時の快晴の空の下で遭遇したのなら、財団の豊富な技術と資源の前には敵ではあり得ないでしょう。しかし、これを地上と半ば断絶された異常環境下、なおかつそこで生活している多数の、しかも未知の住人たちを迅速に保護するための緊急任務で達成するとなると、どうしても不確実な手法に頼らざるを得ません。拙速は巧遅に勝ります。

幸にして、初期探査ではガスの縦穴の脇にエッシャー2を発見することができました。私はここに光明を見出しました。一方向に進む時間ループでは気体の濃度勾配も自明に維持されますから、ここにガスを誘導することができれば、ガスがループ内を延々と通過し続けることによって上層への進行を停止させることが可能です。これは時間流に沿うように縦穴の特定の2箇所を破壊してループ空間を作成するだけで実現でき、即時に打てる手としてはほぼ唯一のものと思われます。

時間がありません。サイト-81GBの可処分人的資源が既に枯渇していることを踏まえても、私自身にこの計画を完遂させる責務があり、覚悟がございます。どうか迅速なご判断をお願い申し上げます。

サイト-81GB初期収容課 富岳 桃影

貴方の覚悟のほど、確かなものだと認めました。計画の主導を許可します。提供できる資源の不足により、貴方自身を危険に晒す結果となることを深くお詫びします。

東京の地上に出現した絶望の世界から逃れることのできた幸福な人々の生活が、これ以上に脅かされることがあってはなりません。私たち財団は世界の守護者です。貴方の活躍がそれを示すことを祈念します。

ありがとう。

財団東京事変総合管理部長 黒井 愛

“ウケモチ計画”と題された当該計画は富岳研究員と地下東京コミュニティメンバー数名によって2031/01/15に実行に移されました。以下は、“ウケモチ計画”実行時に大手町地下の発掘現場からSCP-2070-JP-1内部へ降ろされたゴンドラに搭載された映像機器による記録です。

Record 2031/01/15 - GB2931

臨時機動部隊へ-GB(“綴蓋”)による記録

メンバー:

  • サイト-81GB初期収容課 富岳 桃影
  • “大手町のウラガミ”

注記: ウラガミ氏はトリセツ氏やテガミ氏と共に大手町地下の工事業務に従事していた人物であり、“ウケモチ計画”における案内役を申し出た。サイト-81GB内における議論の結果、 危険性を十分に説明した上で氏の同行は許可された。


[前略]

[臨時機動部隊へ-GBの2名は財団標準装備のHAZMATスーツを着用し、ゴンドラに乗ってSCP-2070-JP-1を垂直に上昇している。時間流ループの下端となる横穴は地下125m地点に作成され、上端となる横穴の作成地点である地下75mへと向かっている]

富岳: ここまでは予定通りだ。現在、ガスの上端は地下140m、時間流の極めて遅い区画の上端付近で留まっている。ここから僅かでもガスが上昇すれば、地下135mから大手町コンコースまで一繋がりの高速時間流区域に入ってしまう。それまでにループを開通できれば我々の勝ちだ。

ウラガミ: 兄の仇を取るためにも、必ず成功させましょう。

富岳: しかし、貴方も物好きなのだな。本来であれば我々もこのような危険な任務はなるべく避けるものだ。少し前までだったら、この手の4K3業務は重罪人に任せるのが通例だった。

ウラガミ: なに、私たちの世界では4Kなんてどこでもそうですよ。このくらいでへこたれてなるものですか。

富岳: 見上げた根性だな。兄と仲が良いようで羨ましいよ。

[2名は2ヶ所目の掘削予定地に到達する]

富岳: 着いたぞ。これくらいの壁なら本当は遠隔爆破したいところだが、地下の密閉空間で至近距離、かつ時間流ループを確実に保持するとあっては手作業もやむを得ん。さっきと同様、ドリルで削るぞ。

ウラガミ: 一気に行きましょう。安心してください。私の生業ですよ。

[2名が縦穴の壁に超音波ドリルを当て、掘削を開始する。反動でゴンドラは大きく揺れ、作業は断続的となる]

ウラガミ: 人が入れるだけの窪みさえ掘れればあとはあっという間です。そこまでが勝負ですよ。

富岳: ああ、頼むぞ。チャンスはこの一度きりだ。

[その直後、上部から不明な実体がゴンドラに飛び込んでくる。実体は全長1.2m程度のアナグマに似た生物であり、毛に覆われて眼は確認できず、長大な牙と前足の爪を備えている]

ウラガミ: うわあ!下水ワニだ!よりによってこんな時に!

富岳: ワニ?ワニか…4ともかく、野郎!どこから入ってきた!

ウラガミ: たぶんもっと上の縦穴の横の方!最初のうちに居住予定区にしていた場所です!下水ワニは隙間さえあれば何処からでも出るんです!

富岳: 畜生!発掘基地は固めてたがそこは想定外だった!何も居ないの確認してたのに…!

ウラガミ: こいつ!

[ウラガミ氏がアナグマ型生物をドリルで殴りつける。アナグマ型生物は怯んでゴンドラから転げ落ちる]

富岳: 危ないところだった!今のでだいぶ時間を取られたぞ。急ぐ!

[2名は掘削作業に戻り、程なくゴンドラから降りて掘った横穴に入り込む。映像機器は暫く2名の声と掘削音だけを記録している]

富岳: もう少しでさっき掘った穴と繋がるぞ。あとはゴンドラに戻って上まで一気に帰る。

ウラガミ: 本当にありがとうございました。貴方がたに会えなかったら、駅の皆は今頃どうなっていたことか。

富岳: まだお礼を言われるには早いな。よし、開通するぞ!

[映像機器の揺れが激しくなった直後、突如として視界が褐色に染まり始める。SCP-2070-JPがゴンドラの高さまで到達し、さらに上昇しようとしている]

ウラガミ: 急ぎます…急に風が強く…!

富岳: ガス到達にはまだ早いはずだが…さっき動物が落ちたせいで境界面が乱れたのか…?

[小規模な崩落音が聞こえ、掘削音が止まる。時間流ループに沿った空間が開通したものと推測される]

富岳: 開いた!すぐにガスがこのループに入り込んでくるぞ、ウラガミ氏からゴンドラに乗って!

ウラガミ: ヒィッ…!

富岳: 息を止めろ!手を止めるな!

[横穴へSCP-2070-JPが流れ込む。2名が大きく息を呑み、直後に激しく咳き込む音が記録される。HAZMATスーツとガスマスク、呼吸中断の努力はSCP-2070-JPへの曝露回避に無効であるものと思われる。少しして、富岳研究員の悲鳴が記録され、ウラガミ氏のみが横穴から這い出てゴンドラに転がり込む]

ウラガミ: …富岳さん…富岳さんが飛ばされた…待って…[嘔吐き]

[ウラガミ氏がHAZMATスーツ内に嘔吐する。ゴンドラは急上昇を開始し、地下50m付近でSCP-2070-JP汚染区域を離脱する]

[記録終了]


終了報告: SCP-2070-JPの上昇は地下50m地点で停止し、“ウケモチ計画”における時間流ループ内のSCP-2070-JP持続濃縮は予定通り開始されたものと見做された。ウラガミ氏は生命に別状は無かったが、SCP-2070-JPに曝露された影響で強い食思不振を発症し、テガミ氏と共に中心静脈栄養法による管理が開始され、嗅神経切除術の施行可能な環境が整うまで待機する方針となった。富岳研究員はループ下端から縦穴へ落下したと見られ、行方不明(補遺3を参照)。


補遺3: 電脳記録/2070-JP

富岳研究員にインプラントされていた電脳は、“ウケモチ計画”で氏が行方不明になって以降の約3時間の感覚記録をサイト-81GBの共有レイヤーへ送信していました。現在のところ、この記録の内容はSCP-2070-JPに付随する何らかの異常空間を撮影したものであると認識されています。剛体ドローンによるSCP-2070-JP-1終端までの降下では富岳研究員および当該異常空間は発見できませんでした。現時点ではSCP-2070-JP-1に対する追加の有人探査は計画されていません。

Record 2031/01/15 - GB2932

電脳記録/2070-JPより書き起こし

記録者: 富岳研究員(主観視点での記録)
注記: 当該報告書からは電脳記録の視覚・聴覚情報に限定したアクセスが可能です。嗅覚・触覚情報の認識は有害な結果を招くと予想されることから、アクセスにはサイト-81GB管理官の許可と適切な準備が必要とされます。


《前略》

[2031/01/15 16:30] 富岳研究員の眼が開き、電脳記録が再開される。周囲はSCP-2070-JPと同質と見られる37℃前後の褐色の気体で満たされており、無風で淀んだ状態のようである。閾値を超えた嗅覚信号の入力によって富岳研究員は強く咳き込み、その場で跳ね起きる。

[16:31] 周囲の様相が霧に紛れて微かに視認できる。富岳研究員は未加工の岩石により構成される洞穴の中にいると推測され、天井の高さは概ね2.5m程度である。床・壁・天井の他に明らかな物体は見受けられない。富岳研究員は不確かな足取りで壁に沿って歩き始める。

[16:34] 富岳研究員が身につけていたガスマスクを乱雑にむしり取る。外されたマスクの内側は吐瀉物が多量に付着しており、富岳研究員はそれを放り捨てる。マスクの脱着前後で嗅覚信号の変化は認められない。

[16:37] ゆっくりと先に進む富岳研究員は途中で何度か立ち止まり、うずくまって嘔吐する動きを繰り返している。吐き出された物体は、岩壁に付着してから30秒ほど経つと次第に黒くなり始め、細かな黒い粒子となりながら消失していくのが観測される。

[16:40] 富岳研究員の周囲から黒い粒子が立ち登り、一過性に視界が覆われる。視界が褐色に戻ると、氏の着用していたHAZMATスーツとその下の衣服が黒色の断片になって消失していることが判明する。富岳研究員は狼狽した様子で自身の手足を忙しなく観察するが、氏の肉体には異常は認められない。

[16:43] それまで褐色で満たされていた空間全体に、少量の黒色粒子が混じり始める。富岳研究員が洞穴の床を見ると、粒子は床に落ちているなんらかの物体から放出されているように観測される。黒色粒子そのものは、視覚的相違のほかにはSCP-2070-JPと目立った差異は見られないようである。

[16:45] 富岳研究員は床に散乱している物体に近づき、観察する。物体は多様な色彩を有する軟質で無造作な塊であり、外観からは高度に腐敗した動植物質であると推測される。

[16:48] 洞穴の行き止まりに到達する。最奥部の壁面には金色の光を放つ直径1m程度の空間異常接続が認められる。富岳研究員は勢いをつけて接続部に接触するが、通行は不可能である。

[16:49] 不明な方向から雷鳴に類似した長い騒音が発生し、富岳研究員は辺りを見回して音源の方向を探すが、同定は不能である。

[16:50] 最奥部のポータルから大量の固形物が流入する。目視で確認できる限りでは、黄色や茶色の岩塊、魚類・鳥類および家畜と見られる大型哺乳類の腐乱死体や骨、カビや地衣類に覆われた丸太に加え、黄染した藁縄や幣帛が認められる。富岳研究員は驚愕した声を上げ、洞窟内へ流入する物体群から後退りして退避した後、改めて嘔吐する。

[16:52] 物体の流入が停止する。洞窟内に出現した固形物は表層から速やかに黒化していき、先述した腐敗物と同様に黒色粒子へと分解され、やがてSCP-2070-JPと同化する。褐色の気体密度が大きく上昇し、視覚的情報は殆ど得られなくなる。

[16:54] 再び雷鳴のような音が響く。少し遅れて、洞穴の行き止まりの方向から風が吹き始め、その速度は急激に増していく。富岳研究員は暫く踏みとどまっているが、数秒後には立位保持不能となり、床面にしがみつこうとする。

[16:55] 富岳研究員が突風により吹き飛ばされる。氏は抵抗なく洞窟内を飛翔してゆき、電脳記録の開始した地点を通り過ぎ、更に手前へと運ばれていく。氏の周囲には同じく突風により高速で流されている褐色の霧が立ち込めており、視覚的に有意な情報は得られていない。

[16:56] 富岳研究員の肉体が何らかの硬質な物体に叩きつけられ、電脳に強い痛覚刺激が入力される。視覚的には不明であるが、おそらく洞穴の行き止まりと反対側の壁面に衝突したものと思われる。しかし衝突後も突風は吹き止まず、富岳研究員の肉体は壁面を転がり、そこへ開いた穴へと嵌まり込む。

[16:57] 富岳研究員が洞穴壁面の穴を塞いだため洞穴全体の内圧が上昇し、氏の肉体は絞り出されるようにして穴を通過しようとする。この過程で氏は複数箇所の複雑骨折を受傷し、許容限界値を超えた痛覚刺激はこの時点でシャットアウトされる5

[16:58] 富岳研究員の肉体が洞穴の外に脱出し、2mほど下の岩盤に落下する。新たに到達した空間もまたSCP-2070-JPが充塡されており、入力される嗅覚刺激は限度を超えて上昇している。既に自力体動不能となっている富岳研究員の視界は、先程通過した穴が天井に開いているのを認める。穴は長径40cm程度の楕円形であり、周囲には放射状の溝が刻まれている。天井には穴を挟むようにして2つの大きな半球状の岩が下垂している。そのうち視点から向かって左側の岩の一部に罅が入っており、この空間における排気口として機能しているものと推測される。外部から観察可能なSCP-2070-JP-1終端の罅との関連性は断定困難。

[17:00-] これ以降、電脳からの通信が断絶するまで、天井の穴から富岳研究員に向かって断続的にSCP-2070-JPが吹きかけ続けられる状態が継続する。視界は全域が黄褐色に満たされた状態を維持している。聴覚情報には繰り返される巨大な排ガス音のみが記録されており、それは放屁音として概ね形容可能である。

《後略》


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