クレジット
タイトル: SCP-2093-JP - 理解者
著者: ©︎
taneyama
作成年: 2021
SCP-2093-JP対象者により撮影されたSCP-2093-JP実例
アイテム番号: SCP-2093-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: その総数の多さから、SCP-2093-JPの収容には多大なコスト・情報操作を必要とします。加えてSCP-2093-JPは一種の自己収容性を有しており危険性・ヴェール崩壊を誘発する可能性は低い事から、現在収容は行われていません。
説明: SCP-2093-JPは、対応する特定個人(以下、対象者と呼称)の認識に由来して生成されると推測される人型実体群の総称です。
SCP-2093-JPは、外見的には通常の人間と同様の形態を取ります。容姿における特徴として、概ね対応する対象者の嗜好に合致している事が確認されています。しかし採取された生態組織を分析した結果は、SCP-2093-JPが低ヒューム物質によって構成されている事を示しました。
SCP-2093-JPは、対象者に認識されている範囲内においてのみ存在する事が可能です。例としてSCP-2093-JPと対象者が会話を行なっている状況下において対象者が目を閉じた場合、SCP-2093-JPの肉体は消失し声のみが継続して存在する状態となり、対象者が目を開くと同時に再出現します。加えてSCP-2093-JPの振る舞いは、対象者の知覚範囲外の現象を把握できていないように見えます。またSCP-2093-JPは対象者の覚醒中常時出現状態にある訳ではなく、出現時間は平日においては平均約5時間、休日においては平均約8時間です。
SCP-2093-JPは、認識補強剤を接種していない生物に対して自身の出現・消失に関する疑念を消失させる認識災害能力を有しています。加えて対象者に対しては、自身が対象者の恋人/友人であると認識させる認識災害能力も同時に有しています。
出現状態にあるSCP-2093-JPの行動は、ほとんどが対象者とのコミュニケーションに費やされます。特筆すべき点として、認識・情報災害部門による調査からSCP-2093-JPの有する認識災害能力は上述の2つのみであると確認されているにも関わらず、対象者がSCP-2093-JPの言動によって気分を害する事象は現在まで確認されていません。この事から、SCP-2093-JPは対象者の思考を把握する能力を有している事が予想されています。
SCP-2093-JP実例が最初に確認されたのは2021.2.1であり、当報告書執筆時2021.9.20まで全世界において約8500のSCP-2093-JP実例が確認されています。
対象者に概ね共通する特徴としては、以下の2つが挙げられます。
▪︎ 恋人・親しい友人が存在しない。
▪︎ 情緒不安定・睡眠障害・倦怠感等高ストレスに起因すると推測される症状を発症していた。
これらの特徴と前述したSCP-2093-JPの高いコミュニケーション能力から、ほとんどの対象者は対応するSCP-2093-JPに対し依存の傾向を示します。
以下は複数の対象者に対して行われたインタビューの内最も典型的な実例の1つ及び、その対象と対応するSCP-2093-JPの第三者視点の印象の調査のため、対象の知人に対し実施されたインタビューの書き起こしです。
記録日: 2021.6.3
対象: E████ A███ (21歳男性。SCP-2093-JP対象者であり、対応するSCP-2093-JPに対しては同年代の恋人という認識を持っている。)
インタビュアー: エージェント-████
付記: 当インタビューはスーパーへ向かうため外出していた対象に対し、「大学の研究で行っている『人間関係とそれに伴う生活の変化』についての調査」という名目で実施された。数分の拘束の報酬として5ドルを支払う事を提示したところ、対象は当インタビューを受ける事を承諾した。
インタビュアー: では早速インタビューを開始させて頂きますね。直近の……最近でなくても構いません、1番最後に起こった人間関係の変化と、それに伴う思考や日常生活の変化について教えて下さい。
対象: えっと、その、彼女ができたんだよ、今年の3月の半ばくらいに。
インタビュアー: それは良かったですね。初めての彼女さん ー
対象: ああ、全部一気に話しちゃうから質問はいいよ。まあそう、初めての彼女。本当にいい娘だよ、彼女といる時はいつも心が落ち着くんだ。実のところ長い間眠れなかったり食欲が出なかったりで悩んだりしてたんだけど、彼女と付き合い始めてからはそれも治ってさ。
インタビュアー: それは良かったですね。ちなみにもしよろしければですが、不眠や摂食障害について何か心当たりがあれば教えて頂けないで ー
対象: [苛立った様子で] ねえ、今さっき俺が一気に話しちゃうから質問はしなくていいって言ったよね?なのに何でそれが聞けないかな。
インタビュアー: 申し訳ありません、当初の質問では人間関係の変化以前の事については聞いていなかったので、改めて聞かなければならないかと思いまして。
対象: ……まあいいよ、お金貰える訳だし、このくらいは許してあげる。それで、不調の理由についてだっけ?まあその何というかさ、俺必要ない事ぺちゃくちゃ喋る奴が嫌いなんだ。見てるだけで腹立たしくてさ、分かんない?それでまあなんだ、ハイスクールの頃はうるさいけど勉強に集中してれば関わらずに済んだんだけどさ、大学入ったらゼミが必修だったからそうもいかなくて。そのゼミの連中がまたクソでさ、絵に描いたような猿だよ、本当に。一時も休まずにぺちゃくちゃぺちゃくちゃ、そんなのと毎日同じ机に座ってたらストレス溜まるだろ?まあそんなところだね。じゃあこんなもんでもういいかな?
インタビュアー: その、よろしければもういくつか質問をしてもいいでしょうか?
対象: まだあるの?俺だって暇じゃないんだよ。最初の質問に最低限は答えたはずだ、もうこのインタビューは終わり。約束通り5ドルをくれよ。
インタビュアー: ……分かりました。後いくつか質問に答えてくれたらもう5ドル追加します。これでどうでしょうか。
対象: [数秒の沈黙]早くやれよ。
インタビュアー: ありがとうございます。では「うるさい人間が嫌い」との事でしたが、彼女は違うんですね?
対象: そりゃ彼女はあんな奴らとは違うさ。いい女だよ、基本的にはそこにいるだけで、俺が質問した事にだけ答えてくれる。
インタビュアー: ……その、失礼な質問かもしれないのですが、彼女さんができたとはいえ「ただそこにいるだけ」で何か変わるものなのでしょうか。
対象: 何も分かってないなぁ。別に俺は猿みたいにうるさいのが嫌いってだけで、普通に友人や彼女は欲しいんだよ。それに自分が必要とされてるってのは安心感にも繋がるし。ずっと1人で寂しかったのが彼女と付き合って解消された、簡単でしょ?
記録日: 2021.6.3
対象: J███ N███████ (20歳男性。E████ A███氏と大学において経済学系の同じゼミに属している。)
インタビュアー: エージェント-████
付記: 当インタビューは大学から帰宅中の対象に対し「『E████ A███の身辺調査』という探偵業の依頼を受けての聞き込み」という名目で行われた。対象は申し出を快諾したが、口止め料として10ドルが支払われた。
インタビュアー: それではインタビューを始めさせて頂きます。それにしても意外でしたね、こういった聞き込みは大抵ごねられる事が多いのですが、こうもスムーズにいくとは。
対象: そういうものなんでしょうか。
インタビュアー: 自分の友人についてよく分からない男が聞いてくる訳ですから、普通警戒もしますし罪悪感に悩んだりするものですよ。
対象: ……まあそうですね、正直なところあなたの事を信用してるかと言えばそうじゃないんですが、それはそれとして彼の事はあまり好きではないので。
インタビュアー: 何か個人的な確執があったのでしょうか?
対象: いえ、単純に気に入らないというだけです。というかこう言っちゃなんですけど、彼の事はみんな嫌いだと思いますよ。
インタビュアー: 何故でしょう。
対象: まあ俺はゼミでしかあいつと会いませんけど、嫌な奴ですよ。ディスカッションでは話が盛り上がると露骨に舌打ちとかして機嫌悪くなるだけで全然喋りませんし、そのくせ出来上がったものにはケチつけてくるから本当に腹立ちますね。当然オフとかには全く顔出さないんで、そこだけは救いですけど。
インタビュアー: なるほど、普段の様子はそのような感じと。では彼について知っている情報は今話された事くらいという事でしょうか。
対象: ああいや、それが不思議なんですけど、あいつめちゃめちゃ可愛い彼女がいるっぽいんですよ。よく大学の近くのカフェで見かけるんですけど。
インタビュアー: ほう、彼女さんですか。
対象: そうなんですよ、あんなののどこがいいのか。しかも見かけるたびいっつもあいつがベラベラ喋ってて、彼女の方は基本ダンマリで。あいつがあんなに喋ってるのゼミでは一回も見た事ないですよ。
インタビュアー: 彼女にだけ心を許せるみたいな感じなんでしょうかね。
対象: まあそれだけならそういうものなんだなで終わりですけど、機嫌悪いときはマジで見てらんないですよ。自分で話しながら勝手にキレて、いきなり彼女を叩いたり、罵倒したり、外だってのに揉んだり嗅いだり。本当最低な奴です。でも彼女の方もそれに対して怒るどころか嫌がったりもせず、ただ奴の機嫌とってニコニコしてるんです。正直彼女も彼女で若干気持ち悪いですね、恋ってそういうものかもしれないですけど。でもやっぱり俺にはあいつのどこがいいのか理解出来ないですよ、外見にだってお世辞にも気を遣ってるとは言えないのに。
補足: E████ A███氏のSCP-2093-JP出現後における特徴的な行動として、上記インタビューで挙げられたものの他に以下が確認されている。
・SCP-2093-JPに対する家事労働の強要。
・匿名SNSにおける、SCP-2093-JPが自身の彼女である事をアピールする高頻度の投稿。
留意すべき点として、これらの行動及び上記インタビューで挙げられた行動は、SCP-2093-JP対象者全体の傾向として多く見られるものである。
Foundation Collective
維持され続ける意識
▶ FC Local Area Network への接続に問題なく成功しました。貴方は夢の中にいます。
アイテム番号: SCP-2093-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2093-JPの販売を停止させる試みは、SCP-2093-JPに対する夢社会の注目度が高い事から困難です。このため現在ファウンデーション・コレクティブの研究チームは、SCP-2093-JPのメカニズムの分析及びそれを基としたSCP-2093-JPに対する妨害機構の作成を試みています。
ファウンデーション・コレクティブの存在を隠匿するため、現実におけるセキュリティクリアランスレベル3以下の職員に対しては情報の制限された報告書が公開されます。
説明: SCP-2093-JPは、オネイロイ・ウエストにおける先端技術型ベンチャー企業である「パラメデス」によって開発・販売されたヘッドセット型の機械「Next to the body」です。
SCP-2093-JPを肉体を有するオネイロイ(以下、使用者と呼称)が使用した場合、使用者は自身の肉体の五感を共有します。また使用者は自身の肉体の認識している範囲内において、現実世界に夢素で構成された人型実体(SCP-2093-JP-Aと定義)を出現させる事が可能となります。使用者はSCP-2093-JP-Aの容姿の変更・行動の操作を自由に行う事が可能です。
使用者がSCP-2093-JP-Aの存在を維持可能なのは自身が認識している範囲内においてのみです。例として、SCP-2093-JP-Aが視界から外れた場合SCP-2093-JP-Aは消失し、また使用者の肉体が聴覚を喪失した場合SCP-2093-JP-Aは発声が不可能となります。
SCP-2093-JP-Aは、認識補強剤を接種していない生物に対して自身の出現・消失に関する疑念を消失させる認識災害能力を有しています。加えて対応する使用者の肉体に対しては、自身が肉体の恋人/友人であると認識させる認識災害能力も同時に有しています。これらは使用者による容姿の変化の影響を受けない事から、SCP-2093-JP-Aの出現時体内に何らかの透過性ミーマチック機構が自動的に構成されていると推測されています。
ファウンデーション・コレクティブ研究チームによる分析の試みが継続されているにも関わらず、SCP-2093-JPのメカニズムの完全な解明には未だ至っていません。SCP-2093-JPのメカニズムについて「パラメデス」からは、具体的な機構については伏せられているものの以下のような説明がなされています。
「パラメデス」ホームページからの引用
……「Next to the body」により引き起こされる現象は、大きく以下の3つに分類できます。
▪︎ オネイロイと肉体の同期
▪︎ 現実に流入した夢素の受ける改変を対象となるオネイロイの肉体によるもののみに限定
▪︎ 夢素により形成されたアバターに対する認知塗り替え能力の付与
オネイロイとその肉体を同期させる事によって、擬似的に夢界と現実を接続するポータルの形成が行われ現実に対する夢素の流入を行う事が可能となります。そして当然の事ですが、夢素は現実の空間に比べ現実性が著しく低いため現実の生物による意思で改変を行う事が可能です。
ここで再度活かされるのが、オネイロイと肉体の同期です。これにより、当製品を使用しているオネイロイは一時的に肉体の現実性を行使する事が可能となり、結果自身の認識下にある夢素に限り改変を行えるようになります。メインのメカニズムは上記のものであり、これに補助として残り2つの現象が発生する事により安全にアバターによる肉体のストレス軽減を行う事ができます。……
SCP-2093-JPは、肉体のストレスに伴う夢界環境の悪化を防止するためそのストレスの解消を目的として開発されました。2021.2.1に発売された後は本来の用途における売り上げが好調な事に加え、使用されたメカニズムの新規性から技術の応用により自由度の高い現実体験が可能となる可能性が期待されたため、夢社会における注目度は非常に高いものとなっています。そのため、SCP-2093-JPの発売を停止させる事による収容は現実的に不可能であると見做され現在の収容プロトコルが制定されました。
以下はSCP-2093-JPに関して、「パラメデス」の社長であるCarlton Turnour氏に対し夢界メディアにより実施されたインタビューの抜粋です。
ワールドニュース
今注目の「Next to the body」 その核心に迫る
開発会社「パラメデス」社長のCarlton Turnour氏に独占インタビュー
今年2月に発売され、確実に存在しつつも今まで目を向けられていなかった需要に高度な技術を持って応えた「Next to the body」。現在も順調にその売り上げを伸ばしており、またそれに用いられたメカニズムについても応用の期待が高まっている。今回我々は、その原点を知る「パラメデス」社長のCarlton Turnour氏に対し独占インタビューを実施した。
ー では、早速質問の方に移っていこうと思います。まず新たにプロジェクトを立ち上げるとなった時に、「孤独によるストレスを有した肉体に対する対処」という需要に目を向けたのはなぜでしょうか。正直なところ、これまでの「パラメデス」のイメージとはやや離れた商品だと感じたので。
Turnour氏: そうですね、「Next to the body」の開発に至るまで手がけてきたプロジェクトの中には福祉系のものはありませんでしたから、そういった印象を持たれるのも当然かと思います。私自身このジャンルには無知でしたし、そもそも「肉体のストレス軽減」なんてジャンルに新規参入するのはまず無理だろうと思い込んでいました。
ー と、言いますと。
Turnour氏: 肉体のストレス軽減については既に多くの方法が発明されています。一時的なストレスであれば理想的な夢を見せる事によるセラピーなんていう方法がもはや常識として確立していますし、長期的なもの……精神疾患や過酷な状況下に置かれている事に起因する場合とかですね、そういったものに関しても基本的には明晰夢の使用等を通した強いメッセージによる自信増強、別角度からの物事の俯瞰の誘発とかでなんとかなりますから。今回「Next to the body」において対象となっている孤独な人々、彼らについても基本的にはこの方法で何とかなるんですよね。ただここで肝心なのは、この「基本的」からあぶれた人たち、マイノリティは一定数存在しているという事です。
ー では社長がそのマイノリティの方々に注目するきっかけとなったものは、いったい何でしょうか。
Turnour氏: きっかけになったのは社員に対するアンケートでしたね。特別なものという訳ではなく、新しいプロジェクトを始める際には毎回彼らに自身のニーズを提示してもらってそこからテーマを決めるんですよ。その中に「孤独な肉体の孤独を癒せる装置」なんてのがありましたから興味を惹かれまして。当時の私は肉体の孤独感なんてものは前述したような方法で全て解決できると思ってたものですから、まあ不思議に思ったんですね。
ー なるほど。
Turnour氏: それでそのアンケートを提出した社員に対して追加で質問を行いました。既存の方法ではなぜいけないのかと。彼女は答えました。自分の肉体の問題はそれらで解決できるような表面的な問題ではなく、肉体のアイデンティティに深く根付いた問題であるため修復は不可能であると。だからそれを受けいれた上で孤独を癒す以外に方法はないと。この時は意味がよく分かっていませんでしたし、彼女がイレギュラーである可能性も疑っていました。しかしインターネット上などで呼びかけを行ってみると、同様の悩みを持ったオネイロイが沢山コンタクトを取ってきまして。
ー そこで初めて、既存の方法で解決できない肉体の孤独について明確に問題意識を持った訳ですね。
Turnour氏: そうですね、複数の方々に伺った情報をまとめるうちに、既存の方法で対応できないという事の意味が理解できました。彼らの肉体はいずれもコミュニケーションにおいて大きな問題点を抱えていますが、彼ら自身はそれを問題と認識していません。ここまでならばよくある事例で済むのですが、問題はその価値観と彼らの自我が同化しているという事なのです。彼らが言うには肉体にとってその価値観は自身の性別や国籍と同程度の立ち位置を取っており、もはや彼らからそれを消し去るのは人格を壊しでもしない限り不可能であると。だからこれまでの治すというアプローチとは全く別方向の、許容し寄り添うというかたちが必要であるとも。
ー その方法として、その肉体のオネイロイ自身によるコミュニケーションというかたちを取った事には何か理由があるんでしょうか。
Turnour氏: やはり1番大きいのは、肉体の思考を常時理解できる彼らであればコミュニケーションの食い違いはまず起こらないという事です。もちろんこの方法には彼らの時間が犠牲になるというデメリットが存在しますが、コミュニケーションに問題のある肉体との会話となるとロボットによる自動化はあまりに難易度が高すぎますから。加えて肉体とのコミュニケーションさえ達成出来ればいいという目的と、後で詳しく説明しますがオネイロイと肉体の同期を用いた現実におけるアバターの作成という手法が非常にベストマッチであったというのも挙げられます。
ー なるほど、そういった理由があるんですね。
Turnour氏: 話を伺った方々のほとんどは肉体の孤独を癒す事が可能か、という点について悲観的な見方を持っていました。中には「俺の肉体を愛すのは生涯自分自身だけだろう」なんて言う人もいて。だからこそ我が社がこの問題を解決するんだという使命感に駆り立てられましたし、苦難の末ですが販売まで持っていく事も出来ました。幸いな事に多くの使用者から喜びの声が届いていまして、それが今は何よりも嬉しいですね。
ー 本当に素晴らしい限りです。では次に、そういった経緯の中で開発された「Next to the body」の、詳しい仕組みについて聞いていこうと思います。
[以下、説明に記載したSCP-2093-JPのメカニズムについての話が続くため省略]
改行用白文字
以下はファウンデーション・コレクティブのエージェントにより実施された、使用者に対する複数のインタビューの内最も典型的な実例の1つの書き起こしです。
記録日: 2021.5.13
対象: E████ A███ (ペリカンの形状を取ったオネイロイ。2021.2.8よりSCP-2093-JPの使用を継続している。肉体は現実の報告書において抜粋されたインタビューの対象である。)
インタビュアー: エージェント-FC-████
付記: 当インタビューは「夢界メディアによる『Next to the body』の使用者に対するインタビュー」という名目で行われた。
インタビュアー: それではインタビューを開始させて頂きます。まず初めに聞いてしまいますが、「Next to the body」をこの3ヶ月間使ってみた感想はどういったものでしょうか。
対象: はい、製品の出来には非常に満足しています。アバター操作の制限は肉体との対話に目的を絞ればそこまで困るものではありませんし、何より効果として実際に夢界の状態が良くなったのが本当に嬉しいです。ここだって「Next to the body」を使う前はずっと嵐が続いてて大変だったんですよ。
インタビュアー: それは……本当に大変でしたね。次に「Next to the body」を使う事の必要性についてですが、やはり肉体と他者を触れ合わせるという方法は従来の夢からのアプローチとは全然効果として違うものなのでしょうか。
対象: そうですね、実際過去にそういったものでの治療も試したのですが、一向に効果は現れませんでした。恥ずかしい話私の肉体は極端な頑固なので、考え方を変えるという方法では通用しなくて……その点これは肉体に変化を求めず環境側を変えるという方法ですから、効き目はバッチリでした。
インタビュアー: なるほど、やはり大きな違いがある訳ですね。では次に、「Next to the body」は使用者がアバター操作を行う性質上時間を多く奪われてしまう事になりますが、その点についてはどうでしょうか。
対象: ……やっぱりこればっかりはどうしても負担にはなっていると思います。もちろん夢界の状態と天秤にかけたならメリットの方が大きいとは思いますが、それでも苦痛なので……
インタビュアー: それは時間を奪われる事が苦痛なのか、あるいは肉体との対話が苦痛なのかどちらでしょうか。
対象: 両方ですね。自由な時間が無くなる事はもちろん辛いですし、肉体との対話も……楽しいものではないですね、自分の肉体なのであんまりこういう事は言いたくないですが。
インタビュアー: ちなみに、肉体との対話が苦痛になっている原因は何だと思いますか?
対象: それは……彼の意識の問題だと思います。ただ話がつまらないだけであればそれで終わりで、こんなに辛い事はないと思うんです。
インタビュアー: それだけではないと。
対象: はい。言ってしまえばあいつは別に優しい彼女が欲しい訳でもないし、仲のいい話し相手が欲しい訳でもないんです。
インタビュアー: では、彼が欲しているのはいったい何なのでしょうか。
対象: あいつは自分に都合よくコントロール出来て、何でも思い通りにしてくれる人形が欲しいだけなんです。だから真っ当な友人や恋人なんて絶対に出来ない。俺の事だって話しながら、同じ人間だとも思ってないって分かる。そしてそれを感じる度に、どんどんあいつの事が嫌いになるんです。自分の肉体の事が。こいつがもう1人の自分なんだって考えるともう何もかもが嫌になってしまう。だから辛いんです。