実験記録2100-J-12: 以下は、SCP-2100-Jが精神に及ぼす影響を検証するための実験において、D-929181が行った独白の内容を記録したものです。
<記録開始>
[█████博士によって、D-929181に実験の説明が行われる]
D-929181: 女は防護服を着ていた。おれは決して賢いほうじゃなかったが、これで危険の匂いを嗅ぎ取れないほど間抜けでもなかった。ダッチワイフが体中に棘を生やしているほうが、まだ穏やかな雰囲気だ。女はというと、臭い匂いでも嗅ぎ取ったかのように顔をしかめていた。実際、おれは臭かったのかもしれない。なにしろ、ろくにシャワーも浴びられないのがここの暮らしだ。女がテストだかなんだかの話をしている。テストだと? まさか算数の問題でも解かせようってんじゃないだろうな。ここじゃ、数えるものといったら死亡通知の数くらいだが。おれは咳払いをしたが、そのときには女はもう話をやめていた。まるで心を読まれたような気分だ。十二の餓鬼だったころにも、同じ気分になったことがあった。家族の団欒があったあのころ。古臭いサーカスにいた占い師に、将来は弁護士になるといわれたときに。まあ、法律に縁のある人生になったのは確かだ。
[D-929181に、自分の現在の状況について短い文章を書くよう指示が出される]
D-929181: 女はいよいよおれを馬鹿にして、まともに物も書けない猿かなにかのように扱いはじめた。おれは危険の匂いをさせるやつに対処するのは得意なほうだ。アトランタのときのような失敗もあったが。あのときおれは先手を打たれて、あの野郎に手を二度も刺された。だから、やつをぶちのめすのには靴を使うことにした。やつがケチャップをぶちまけた黒い肉の塊みたいになって、道に倒れたまま動かなくなるまで。おれは今も靴を履いている。頑丈でいい靴だ。立ち上がって女をぶちのめそうとしたが、しかし女がおれに銃を向けるほうが早かった。こいつも占い師なのか? 結局おれは女につきあって、おれが置かれている状況について簡潔に文章にまとめてやることになった。どうやらご満足いただけたようだ。おれはこいつがどういう女なのか知った。犬が皮をはがれて悶え苦しむのを見て喜ぶような手合いだ。最後の一皮がはがれた瞬間には大喜びするだろう。遊びの時間と餌の隠し場所くらいはちゃんと与えてくれるんだろうな。サディスト女め。
[D-929181に、部屋の端から端まで何度か歩くよう指示が出される]
D-929181: 脚の運動をするいい機会だと思うとしよう。部屋の壁は真っ白だった。KKKの連中を塗装工場に閉じ込めても、ここまで白ずくめにはならないだろう。白くないのは警備の男くらいだった。そいつは黒い服を着て、鼻が曲がっていて、おまけに目はやぶ睨みになっていた。男がおれのほうをぎろりと見た。おれがどう思っているのか勘づいたのか、もともと陰険な振る舞いをするやつなのか。こういうやつはいる。こいつは、切り刻んだ動物の死体をレモン水漬けにするのを趣味にしたりするタイプだ。それも、みんなが寝静まった後にこっそりとやるようなやつだ。男の目は凶暴に光っていた。牧師に向かって神は死んだと叫んでやったって、こう恐ろしい目つきはしないだろう。怒っているのなら好都合だ。怒れば隙ができる。これはチャンスかもしれない。おれは男に近づいた。
[D-929181が██████警備員に近づこうとする]
[██████警備員が、自衛のためD-929181に二回発砲する]
D-929181: 最初の弾はおれの脇腹に、二発目は脚に当たった。傷からも口からも血があふれてくる。おれは口を閉じようとしたが、できなかった。まるで金魚のように、おれの口は開いたり閉じたりを繰り返している。おれはなにか喋っていた。よく聞き取れない。どうやら、おれの脇腹と脚に当たった弾のことを説明しているらしかった。なんだこれは? どうしてそんなことを他のやつに話して聞かせなきゃならない? おれは気がついた。帽子だ。やつらがおれに被らせた、この帽子だ。おれは帽子を脱ごうとしたが、わずかに動くだけでも地獄の苦しみが襲ってきた。二日酔いで宇宙空間に放り出されるほうがマシなくらいだ。こんな喋り方をするやつがあるか、とおれは訝しんだ。どこの世界に、口から血を吐きながら比喩表現を考えるやつがいる? なんとか帽子を頭からもぎ取りたかった。だが、おれがもう一度息をするよりも、身動きするよりも、まばたきするよりも早く、おれの命は消えた。
[D-929181が死亡する]
<記録終了>