
収容前のSCP-2107-JP
アイテム番号: SCP-2107-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2107-JPはサイト-8181の標準人型実体収容セルに収容されます。SCP-2107-JPと直接接触する職員は事前にカウンセリングを受け、自殺願望がないことを保証される必要があります。SCP-2107-JPには72時間毎に最低1回はカウンセリングを受けさせて下さい。
説明: SCP-2107-JPは限定的な精神感応能力、および精神影響能力を持つ日本人女性です。
SCP-2107-JPは肉眼での視認によって、自殺願望を抱いている人間(以下、対象)を正確に判別できます。その根拠として、SCP-2107-JPは「対象の周囲を、対象と同じ顔をした黒い昆虫(以下、SCP-2107-JP-1)が飛び回って、自殺を教唆しているのが見える」と主張しています。
SCP-2107-JP-1の存在を示すデータは、ハルトマン霊体撮影機を含むいかなる機器でも検出できていませんが、SCP-2107-JPが実際に対象を正確に判別できていることから、SCP-2107-JP-1はSCP-2107-JPの脳が自身の能力を"解釈"するために生み出したイマジナリーオブジェクトであると考えられています1。
SCP-2107-JPは対象に近接し、SCP-2107-JP-1を「捕まえて握り潰す」動作を行うことで、対象から自殺願望を消去することができます。しかし、その後対象は徐々に精神状態が悪化し、最終的には重度の精神疾患レベルに達します。詳細は以下の実験ログを参照して下さい。この効果はクラスC記憶処理で解除できます。
SCP-2107-JP実験ログ
目的: SCP-2107-JPの能力の分析。
手法: SCP-2107-JPの能力をDクラス職員に対して行使させ、経過を観察する。
結果: 下記参照
〈被験者選抜〉 SCP-2107-JPを20名のDクラス職員と対面させたところ、その中からD-7619、D-2871、D-5412の3名に「SCP-2107-JP-1が取り憑いている」と主張した。雇用時のカウンセリングによると、この3名のみが程度は様々ながら自殺願望を抱いている2ことが判明している。彼らにSCP-2107-JPの能力を行使させた後、隔離病棟に移送する。
〈経過観察・直後〉 事後カウンセリングにおいて、被験者全員が「自殺願望が完全に消えた」と主張し、非常にポジティブな態度を見せるようになった。カウンセリングの総括として、D-7619/「生命の尊さを思い出した」、D-2871/「必要以上に自分を卑下していた」、D-5412/「雇用終了後は家業を継承したい」とそれぞれ述べた。
〈経過観察・7日後〉 被験者全員の精神状態が悪化し始める。それぞれの症状は、D-7619/過剰な死への恐怖による多動・睡眠障害、D-2871/誇大妄想による攻撃性の増大、D-5412/社会復帰への不安による無気力。被験者全員にカウンセリングや薬物治療を試みたが、改善は見られなかった。
〈経過観察・12日後〉 被験者全員の精神状態がさらに悪化。それぞれの症状は、D-7619/隔離病棟から脱走しようと常にドアを叩き続ける、D-2871/周囲の人間を無差別に罵倒・攻撃する、D-5412/完全な無反応状態。これ以上の実験継続は危険と判断し、被験者全員にクラスC記憶処理を実施した。
考察: どの被験者も精神疾患の見本市のような有様ながら、自殺願望の再発だけは見られなかった。D-7619などはむしろ過剰なまでに生に執着している。これが意味するのは、被験者の精神状態の悪化は自殺願望の消去に伴う"副作用"、あるいは"反動"のようなものであり、それ自体は異常ではない可能性である。
SCP-2107-JP研究主任 諸知博士
補遺・発見経緯: SCP-2107-JPの発見の契機になったのは、2021/██/██に██大学の学生が起こした事件でした。事件後、同大学の学生であるSCP-2107-JPが警察に出頭し「事件が起きたのは自分の責任である」と告白し、自身の能力について説明しました。その内容が警察に潜入中のエージェントから報告され、SCP-2107-JPの収容に至りました。
SCP-2107-JP関連インタビューログ
日時: 2021/██/██
場所: SCP-2107-JPの収容セル
対象: SCP-2107-JP
インタビュアー: 賀茂川カウンセラー(SCP-2107-JPとはモニター越しに対話)
[前略]
賀茂川カウンセラー: 概要は警察から伺っていますが、念のためもう一度お話頂けますか? 繰り返させてしまって、ごめんなさいね。
SCP-2107-JP: いいんです、警察にはろくに聞いてもらえなかったし。どこからお話しましょうか?
賀茂川カウンセラー: そうですね。████さん3とは、どういったご関係だったのですか?
SCP-2107-JP: 高校の時からの友人です。ちょっと頼りない妹みたいな子で、最近も相談に乗ってあげたばかりです。
賀茂川カウンセラー: どんなご相談を?
SCP-2107-JP: 彼氏が浮気しているかもしれないって。何かチャラチャラした男で、案の定って感じだったんですが。それで浮気の見破り方とか、よりの戻し方とか、一緒に検索しまくって。大して役に立てるとは思えなかったんですが、とにかく██が心配で。
賀茂川カウンセラー: 心配?
SCP-2107-JP: ええ、あの子、前に自殺しかけたことがあるんです。あの時と様子が似ているような気がして。何て言えばいいんでしょう。周りを見えない壁に囲まれていて、私と相談している時も、実際はその壁しか見ていないような。
賀茂川カウンセラー: ああ、仕事柄、私もよくお会いしますね。そういった方とは。
SCP-2107-JP: やっぱりそうですよね。だから、私なんかが何を言ったって、██には届いていないんじゃないかって焦ってたら、急に声が聞こえたんです。「死んじゃえば?」って。
賀茂川カウンセラー: 虫、でしたっけ。なるべく詳細に教えて頂けますか?
SCP-2107-JP: 大きさは10cmもなかったと思います。真っ黒で、細長いカブトムシって感じで、██と同じ顔してました。それがあの子の周りをブンブン飛び回って、「死ねば楽になるよー」とか「どうせ遊びだったんだよー」とか囁いているんです。あの子には見えていないようでした。
賀茂川カウンセラー: なるほど。それで貴方は、その虫を?
SCP-2107-JP: ええ、咄嗟に掴んで、握り潰してしまいました。こいつが██に自殺を唆していたんだと思って。ねちゃっと、一瞬だけ嫌な感触がありましたが、手を開いたら何もありませんでした。だから、幻覚か何かだったと思ったんですが、それからあの子が急に明るくなって。
賀茂川カウンセラー: それは、貴方に相談して気が晴れた訳ではなく?
SCP-2107-JP: 違うと思います。まるで彼氏のことなんか忘れちゃったみたいに、コロッとなんですよ。「話したら吹っ切れた、ありがとね」とか言って、さっさと帰っちゃって。私、何が何だか分からなくて、しばらくボーッとしてたんですが。浮気野郎のことが吹っ切れたならいいかと思って、ひとまずは安心しました。
SCP-2107-JP: 家に帰ってから、ようやく気持ちが昂ぶってきました。すごい、これって超能力じゃんとか、神様が授けてくれたんだとか。もう██が自殺する心配はないし、他の友達とかにあの虫が憑いても大丈夫だと思って。まあ、そんな能天気でいられたのは、ほんの2、3日でしたけど。
賀茂川カウンセラー: ああ、通りすがりの人にも虫が見えるように?
SCP-2107-JP: そうなんです、街中ではしょっちゅう見かけたし、校内でも何人か虫が取り憑いている人がいました。見るからに元気がない人もいれば、一見普通そうにしている人もいましたね。
SCP-2107-JP: あの人たちも、放っておいたら自殺するかもしれない。あの虫を潰せば助かるのかもしれないけど、さすがに見ず知らずの人の前でそんなことしたら、変に思われるじゃないですか。すごく悩みましたよ。[ため息]今思えば、やらなくて良かった訳ですけど。
賀茂川カウンセラー: お疲れですか? 一度休憩しますか?
SCP-2107-JP: いえ、大丈夫です、続けさせて下さい。それからしばらくの間、レポートやバイトが忙しくて██とは会ってなかったんですが、久々に気になってあの子のツイッターを覗いてみたんです。
SCP-2107-JP: びっくりしました。彼氏に対する恨みつらみが、ずらずらずらずら果てしなく並んでいるんです。最後のツイートは「今からあの男を殺しに行く」でした。██が吹っ切ったのは、彼氏じゃなくて良心だったんです。
SCP-2107-JP: すぐに電話したんですが、返事がなくて。大急ぎで██の部屋に行ったら、お巡りさんが大勢いて、██が彼氏を刺し殺して、車で逃げて、事故って、し、死んだって!
[SCP-2107-JPの動揺が激しいため、約1時間中止]
SCP-2107-JP: すいません、もう受け容れたつもりだったんですが。言葉にすると、やっぱりきついですね。これでお分かりでしょう、私のせいだって。
賀茂川カウンセラー: つまり、██さんが事件を起こしたのは、あの虫を潰したからだと?
SCP-2107-JP: [頷いて]"自殺を考えることは常に慰めである。そのようにして、人はたくさんの辛い夜を乗り越える。"
賀茂川カウンセラー: ニーチェですね。
SCP-2107-JP: 今ならあの言葉の意味が分かります。いざとなったら死ねばいい、そんな風に考えないと、心のバランスが取れない人もいるんだって。きっと、あの虫は██自身が生み出したものなんです。と言うより、あの子の一部なのかも。
SCP-2107-JP: 勿論、放っておいたら、██は本当に自殺しちゃったかもしれない。だとしても、それはあの子が自力で乗り越えなきゃいけなかったんです。少なくとも、私が勝手に潰したりしていい訳なかった。自殺っていう通気口を塞がれたせいで、あの子はパンクしちゃって。
[SCP-2107-JPが周囲を見回す]
賀茂川カウンセラー: ██さん?
SCP-2107-JP: 私には虫は現れませんね。何て女なんだろ。友達を死なせておいて、自分だけは生き続けたいなんて。ごめん、██、本当にごめんね。
[後略]
付記: SCP-2107-JPの精神状態の悪化が懸念されるため、賀茂川カウンセラーによるカウンセリングの継続が決定した。