
初期発見時のEE-2110-JP-Xの一体(背景加工処理済)
イベント指定: EE-2110-JP
特別対応プロトコル: 報告書執筆時点で超常現象EE-2110-JPが観測されたのは一度のみですが、前例に従い、同様の現象発生に備えて対応プロトコルとオブジェクト指定が維持されています。EE-2110-JPが再発生した場合、収容部隊こ-9”虹龍”が直ちにEE-2110-JP-X群の収容及び破壊を目的として行動を開始します。部隊は全員が認知抵抗値γ-13以上のパラヒューマン職員のみで構成されており、同水準の認知抵抗を持つ通常人類の職員が研究と情報収集をサポートします。部隊にはEE-2110-JP-X群との直接戦闘を想定した装備と遠隔操作ドローンが付置されます。EE-2110-JP現象の影響を受けた一般庶民に対しては、発生地域を管轄する軍政部と機動部隊が密に連携し、現象の影響から脱した地域より逐次軍隊を投入、通常兵器を用いた速やかな暴動鎮圧と負傷者の救援に努めます。
EE-2110-JP現象発生の兆候は、常に財団の包括的都市監視システム及びウェブクローラーによって警戒されます。特に各種ソーシャルネットワーキングサービスユーザーによる、嘲罵・悪態・暴言・恫喝・卑語・難詰・非議・扇惑・誹謗・中傷・巷談・差別語・淫猥なスラング等を用いた論争は、EE-2110-JP現象の発生要件を満たしていないか厳正なチェックが行われます。不審な点が見られる場合、該当するアカウント群を一時保存の上、強制的にサービスから削除します。
先行イベント: 2021年8月初旬、東京都新宿区にて、深夜1に大型のハシブトガラス(学名:Corvus Macrorhynchos)の群れが散発的に目撃されるようになりました。複数の目撃証言やSNS上にアップロードされた写真により、通常のハシブトガラスには存在しない鋭い牙と大型の爪、また夜間に赤く発光する眼球を全個体が共通して保持していることが判明しました。財団はこれらの異常個体を暫定的にAO-2110-JPと指定。サイト-8195の異常物品調査チームが捕獲及び研究を目的として調査を実施していましたが、サンプルの確保には至りませんでした。EE-2110-JP現象の発生に伴い、個体群はEE-2110-JP-Xへと再指定されました。
2021年8月22日20時頃、東京国際アスリートフェスティバル(IAF)22021の開催を二日後に控えた東京国立競技場前にて、同イベント開催反対派と賛成派のデモ隊が衝突し、一時乱闘寸前に陥る騒動となりました。反対派がMercury-33の感染拡大によるイベント開催リスクや日本国政府に対する不信感を主張する一方で、賛成派はMercury-3の影響は限定的であるとし、開催による国威発揚と経済効果の拡大を主張していました。両者の衝突は警官隊によって阻止されましたが、双方共に「より効果的な主張の喧伝のため」、翌23日20時より、東京都に対する正式な届け出無く同内容のデモを再開しました。これらの一連の先行イベントにEE-2110-JP現象がどれほど影響したかは明らかとなっていません。
以下はEE-2110-JP現象に関連して新たに要注意指定された人物の詳細情報です。現象の発生により、PoI-2110-JP-A及びBは既に死亡したと見られていますが、関連情報管理の観点からPoI指定を維持されています。
本名: 堂近 理咜どうちか りた
年齢: 32歳
性別: 女性
略歴: PoI-2110-JP-Aは著名なインフルエンサー兼市民活動家であり、ネット上では『LITA♥』のハンドルネームで知られていました。高校在学時は空手部に所属、インターハイへの出場経験があります。京王義塾大学進学後にラディカル・フェミニズムに傾倒。株式会社八正堂美容部門に広告コンサルタントとして就職後、大小様々なデモイベントを組織し、その多くでリーダー的な役割を果たしてきました。
デモ等を通じた主張は反体制・左派ポピュリズム・ラディカルフェミニズム等の点で一貫していますが、「急進的」「過激で極端」と評される主義・手法から、論敵のみならず穏健なフェミニストの一部からも強い批判を受けていました4。また、ジェンダー平等の観点から女性の化粧文化に否定的見解を示す一方、自身は熱心な美容研究家であり、SNS上にしばしばコスメティクスレビューを投稿していたことから、支持者からも言行の矛盾を指摘されていました。
本件におけるデモの実施には、イベント開催を巡る政府のスキャンダルや、Mercury-3流行による女性の雇用減を批判する狙いがあったと見られます。
特記事項: PoI-2110-JP-Aの母親である堂近 偉子どうちか よしこは日本のネオ-サーカイトであり、健康食品販売会社を経営する傍ら、サーキック由来の異常物品を複数の要注意団体へ極秘裏に流通させていました。2012年の████████社崩壊事件にて偉子は死亡。PoI-2110-JP-Aは財団に関係者として拘束されました。徹底した身辺調査の結果、PoIは母親がサーカイトである事実を知らなかったものと確認され、記憶処理の後解放されていました。偉子が販売した異常物品の多くは財団により回収されましたが、一部が行方不明となっていました。
尚、偉子は多くのネオ-サーカイトと同様に、教団の古い経典や創設者に対する敬意は全く持ちあわせておらず、「己が欲望の追求と力の獲得」のみを信奉していたようです。
本名: 溜田 馬覇だめだ ばっは
年齢: 46歳
性別: 男性
略歴: PoI-2110-JP-Bは著名なストリーマー兼市民活動家であり、ネット上では『ダメロット三世』のハンドルネームで知られていました。地元の工業高校を卒業後、鉄工所に就職するもすぐに退職。全国各地を転々とした後、経緯は不明ながら東弊重工の嘱託職員として採用され、同社の通称『TH-G計画』にて技術担当補助を勤めました5。同計画の頓挫後、職員として正式に雇用されたものと見られます。
セミプロ級の腕前を持つFPSゲーマーとして人気を得る一方、ファンからは草の根保守主義・反マスコミ・反フェミニズム・反ソーシャルジャスティスの旗手と見なされ、しばしばネット上で論敵と激しく討議を戦わせていました。日本国内の女性や人種及び性的少数者に対する数々の差別発言で悪名高いものの、事件の2年前に女装コスプレイヤーとして知られる『ろをず6』氏をパートナーとしてからは、態度をやや軟化させたと見られます。
本件におけるデモの実施には、イベント開催に伴う政府批判への反論や、左派の訴えるMercury-3脅威論に反撃する7狙いがあったと見られます。
特記事項: EE-2110-JP現象の終息後、財団はPoI-2110-JP-Bが勤務していたと見られる東弊重工████工場を強襲、工場内からPoI-2110-JP-Bによって複数の異常物品が盗難されていた事実が認められました。工場長以下従業員は拘束され、尋問が実施されました。工場長はPoI-2110-JP-Bを雇用していた事実を認めたものの、物品の盗難や社外での活動については一切関知していなかったと主張。裏取り調査が進められています。
本名: メアリー・橋本はしもと
年齢: 20歳
性別: 女性
略歴: PoI-2110-JP-Cはサイト-8195異常物品調査チーム所属のレベル0職員であり、AO-4040-JP-2としても知られていました。EE-2110-JP現象発生時、認知抵抗値の高さ8によって精神影響を受けず、現象の詳細を記録することに成功したと見られます。
PoI-2110-JP-Cは2001年、財団が捕獲していたAO-4040-JP-19の娘として収容室内で誕生しました。AO-4040-JP-1は財団による発見時、既に妊娠していました。父親は日本人男性と推定されますが、判明していません。
PoI-2110-JP-Cはサイト-8195で唯一のパラヒューマン職員でした。その外見はイエネコFelis silvestris catrusに類似した頭部と全身の体毛、両手足に存在する肉球と収納可能な鉤爪、尻尾の存在によって通常人類と区別されます。母親の死後、PoI-2110-JP-Cは財団により療育され、高等教育の修了後にレベル0職員として試験雇用されました。体力や知性について突出した点は見当たらないものの、責任感や財団忠誠度の高さを上司から評価され、正規職員登用試験の受験資格を得ました。生まれつき高い認知抵抗値と当人の強い希望から、試験合格後は同サイトのミーム学研究部門に研究補助員として配属される予定でした。本件発生当時は試験勉強のため、自主的にサイト-8195に残っていたと見られます。
EE-2110-JP現象の終息後、PoI-2110-JP-Cは重度のPTSDによる精神錯乱の兆候と、財団への反抗的態度を見せるようになりました。EE-2110-JP現象解明への協力と当人の精神状態改善のため、PoI-2110-JP-Cは当面の間要注意人物としてサイト内に拘束されることとなりました。
特記事項: PoI-2110-JP-Cは掌の構造が特異であることからスマートフォンの使用が不可能であり、各種SNSサイトにはアカウントを所持していませんでした。タブレットでの入力は専ら音声で行っており、財団内定期連絡において閲覧済スタンプが上手く押せない事がある旨、人事部門に申請を行っていました。
以降の記録には大量虐殺や性的拷問を含む極めてショッキングな描写が含まれています。また、差別用語も原則として変更せず記載しております。
PTSDや精神疾患の既往症を持つ担当研究者は、EE-2110-JP研究チーム特任クリアランスを使用し、抄訳版を閲覧することを強く推奨します。
閲覧によって生じたあらゆる悪影響に関して、報告書作成チームは一切の責任を負いません。また、疾患の治療に財団の傷病保険は適用されません。
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以下では可読性に配慮し、PoI-2110-JP-A,B,Cをそれぞれ単にA,B,C、EE-2110-JP-Xを2110-JP-Xと略称します。
2110-JP-1 > 20時00分~20時30分
2021年8月23日20時00分頃、東京都内に生息していた非異常性のハシブトガラスが全て2110-JP-Xに置換されました1。置換された個体は約1万羽に及ぶと見られており、この置換現象によって都内のハシブトガラスはほぼ絶滅したと思われます2。現象発生によるヒューム値及びEVE値の変動は確認されず、当初2110-JP-Xが非異常のハシブトガラスと同様の振る舞いを見せたこと、広範な精神影響が都内各サイトに蔓延したことも現象の発見を遅らせる要因となりました。
[記録開始]
[カメラが起動し、Cの装着したヘッドギアの視点と思われる、サイト-8195の風景が映し出される]
C: えーと、[荒い息]これで記録、されてるのかな。
[Cは首を左右に振り、付近にいる職員達の姿を映し出す。サイト職員は皆持ち場に残っているものの、一部の者は一心不乱に私物のスマートフォンを操作しているように見える。Cが自身の職員証入りパスケースを写す]
C: 私、私はサイト-8195職員……職員と言っても見習いですが、メアリー・橋本です。試験勉強を終えて帰るところだったのですけど、サイト内のスタッフ全員が突然、私の呼びかけに応えなくなりました。[数秒沈黙。荒い呼吸]上手く説明できないんですが……[Cが研究員の一人に近づく。研究員は仕事に熱中しているように見え、Cが眼前に寄っても反応しない]こんな感じで、目つきもおかしくて、まるで何かに操られているような。笑いながらスマホを弄りだした人もいました。他のサイトに連絡して下さい、と頼んでも無視されます。私のクリアランスでは、緊急通信も出来ません。非常ベルを鳴らしたんですが、普通に怒られて止められてしまいました。業務を妨害するな、と。
C: ち、知識が乏しいので、勝手な推定になります。これは、精神影響型アノマリーの攻撃であるように思います。それも極めて大規模な……似た報告書を読んだことはありませんが。皆、たいていは無反応で、中には「邪魔するな」と怒り出す人もいます……普通に仕事はしているみたいですけど。[嗚咽]誰かに助けて欲しいです。どうしたら良いのか分かりません。私だけがおかしくなっているのですか? 誰かが殺されたり、サイトが破壊されれば自動で防衛システムが作動するはずですが、そうなってないのは不幸中の幸い、でしょうか。
C: これが全国に広まっているなら、状況は思っているよりも絶望的かもしれません。でも、もし影響がここだけなら、私が……[数秒沈黙]私が機動部隊を呼べば皆を助けられるかもしれません。ほとんどサイトの外に出たことがありませんので、これは私にとって途轍もない冒険ですが。都内の管理サイトの位置はわかっています。外に出たら、とりあえず電話で一報を入れてみます。
C: 最悪のパターンは、一般市民にまで被害が広がっていることです。そうなった場合、私では管理サイトに辿り着けないかも知れません。でも、[嗚咽]やれるだけのことはやってみます。
[ここまで述べるとCは移動を開始し、サイト-8195の正面入口に向かっていく。途中、実験室の横を通りすがった際、実験途中だったと思われる男性Dクラスからガラス越しに大声で話しかけられる。Dクラスの性器は勃起しており、口元からは多量の涎が垂れている]
Dクラス: おい、そこの猫みたいなの。おまえ女だろ。しゃぶれよおい、ここに来て今すぐ!
[Dクラスがガラスを何度も叩くと、Cは動揺し、一瞬立ち止まる。小さく何事かを呟いた後、入り口へ前進を再開する]
C: [荒い息]意味が分かりません。スタッフの皆さんはあんな風じゃなかったのに。彼は性犯罪者なのでしょうか? いえ、私が考えることではないですね。
[言いながら、Cは自身の装備品を確認している。機動部隊用の防弾チョッキと拳銃が装着されており、マガジンが収納されたポーチも映し出される3。ややしばらく進むと、エントランスが前方に見えてくる]
C: 勝手に持って行って、後でどうなるか……[やばい、と小さく呟き、発話を止める]あー、い、入り口が見えてきました。これから脱出します。
[Cは「すみません」と一言言い、スマホに熱中している警備員のポケットからカードキーを盗む。カードキーを使って正面扉を開き、サイト-8195から脱出する]
[記録終了]
註記: Bは19時30分頃、約180名の支持者と共に、集合場所に指定していた千代田区靖国神社前に現れました。後に確認されたBの計画では、20時00分からJR四ツ谷駅を目指して靖国通りを西進し、約一時間半~二時間をかけて最終的に国立競技場の存在する新宿区霞ヶ丘町に到達する予定でした。Aよりも遅い到着を目指したのは、両陣営の衝突の際、体力的に有利になることを狙ったものと推定されています。
本記録は、B陣営生存者のスマートフォンに保存されていた映像の転写です。
[記録開始]
[動画に記録された時刻は20時15分を表している。周囲では参加者が、IAFの開催に賛成する旨のシュプレヒコールを挙げている。Bを含め、参加者の一部はマスクを着用していないと見られる。PoI-2110-JP-Bはろをず氏と共にデモ隊の後方中央付近におり、撮影者のカメラに苛立った様子を見せている]
B: おい、あんまりジロジロ撮ってんじゃねえよ。もっと声挙げろ、声。
ろをず氏: いいじゃん別に。[ピースサインを取る]盛れてるー? 記録は大切でしょ? 後でYoutubeにまとめ動画出すんだし。
B: いや、どーかなー。ちょっと、考え中。[何かを指さすポーズを取る]『ダメロットの奴またマスクつけてねえぞ! 政府に従え!』って言ってくる奴、結構いるからな。左翼だけじゃなく保守にも。低評価つくから痛いだろ。[肩をすくめる]厚労省だって暑い日はマスク外せって言ってんのによ4。
ろをず氏: 政府の言うこと聞いてないのはどっちなんだろうね。まあでも、『感染対策~!』って言いながら集団行進してくる人達よりはマシじゃない?
B: あれだな、バカフェミが寄ってくるだろどうせ、キーキー言いながら。あいつら顔もカマキリみてえだからな。[大げさに喚くポーズを取り、撮影者が笑う]21時くらいになったら全員マスク付けて、衝突するとこ映すか。
ろをず氏: それ賛成。
B: しかしよ、本当に暑いな。なんかムラムラしてこねえか? お前ホモじゃねえよな。[笑顔で撮影者を指して]マジで顔赤いぞ。ちゃんと水分補給しろよ。
ろをず氏: [胸元を少しはだける]私も、ちょっとエロい気分かも? なんちゃって。
B: お前には言ってねえから。
[ろをず氏が不満な表情を浮かべ、Bの側から離れる。Bは笑顔で「もう映すな」と言い、撮影者も後退する。周囲の参加者は男性が多く、皆顔は紅潮し、眼光が鋭くなってきている]
[撮影者は20時30分頃まで引き続き他の参加者を映し続ける。時間経過に伴い、男性の参加者は明らかに挙動不審になってきており、股間を押さえ前屈みになる者も出ている。上空には多数の2110-JP-Xの姿と鳴き声が確認できる。男女連れだった参加者もおり、接吻をしている場面が記録される。撮影者が小さく「やばい」と呟き、映像が終了する]
[記録終了]
註記: Aは19時20分頃、約200名の支持者と共に、集合場所に指定していたJR新宿駅前に現れました。後に確認されたAの計画では、20時00分から新宿御苑前を東進し、約一時間程度かけて国立競技場の存在する新宿区霞ヶ丘町に到達する予定でした。
本記録は、A陣営生存者のスマートフォンに保存されていた映像の転写です。
[記録開始]
[映像に映し出される参加者はIAF反対のシュプレヒコールを挙げている。参加列はB陣営に比べると整然としており、概ね同じ歩調で歩くよう心がけているように見える。陣営は女性が多数であるものの、多種多様な年齢層が参加しており、特に年配者は男性が目立つ]
[撮影者はやや前方に移動し、最前列に近い位置にいるAにフォーカスを当てる。Aは撮影者を一瞥するも、厳しい表情を崩さない]
A: 歩きスマホ禁止。通知したでしょう。
[Aに言われたためか、撮影者は後方に下がる。撮影を止める様子はない]
[Aの頭上に、2110-JP-X実体一匹が近づく。実体はAに攻撃を加えようとし、撮影者は動揺を見せるが、Aは徒手で2110-JP-Xを撃墜する]
A: [落ちた2110-JP-Xを踏む]カラスごときが。この私に手出しできると思わないでね。
[約15分間、特筆すべき点がないため省略]
[20時17分、前方から怒声と悲鳴が聞こえ、周囲が俄にざわつき始める。列の前進が鈍化する。撮影者は声の方向に向かい、急速に前進する]
[撮影者が現場に向かうと、若年女性の参加者が高齢男性の髪を掴み、頬を殴りつけている。高齢男性は鼻から血を流している。周囲の何人かが若年女性を止めようとしている。2110-JP-Xと思われる大きな鳴き声が散発的に記録されている]
A: やめなさい!
[Aが大声で一喝し、若年女性を高齢男性から振りほどく。高齢男性は周囲から介抱される。若年女性は肩で息をしている。目が血走っており、非常に興奮した様子が見て取れる]
A: 落ち着いて。何があった?
若年女性: [荒い息]あのおっさんが。LITAさんを侮辱したんです。参加者なのに。過激だとか怖いとか。それでカッとなって。
[撮影者は高齢男性にフォーカスする。男性は俯いており、表情は見て取れない]
A: なるほど。それで喧嘩に。
若年女性: [涙目になる]すみません、私悪いことしましたよね。LITAさんの邪魔を。
[Aは若年女性を抱きしめ、慰めるように頭を撫でる]
A: 大丈夫。貴方は悪いことはしてない。嫌なことは嫌と表明しないと。それに、最初にハラスメントをしたのは相手なんでしょう。なら、お互いに謝りなさい。
[Aが促し、若年女性と高齢男性が互いに謝罪する。周囲から自然に拍手の音が上がり、撮影者も拍手しているようである。2110-JP-Xの鳴き声はさらに頻繁になっている。Aが数回促すように手を叩く]
A: 行進を再開しましょう。国に私たちの声を届けるために。
[Aに従い、再び整然としたデモが再開される。先程と比較して、参加者達には緊張が走っており、シュプレヒコールもやや怒声に近くなっている。撮影者も集中するためか、録画を停止する]
[記録終了]
2110-JP-2 > 20時30分~21時15分
2021年8月23日20時30分頃、2110-JP-Xが不明な手段で増殖を開始しました。都内の監視カメラには、暗闇から『染み出すように』2110-JP-Xが出現する様が複数記録されていました。個体数は指数関数的に増加し、21時までには約十万羽を突破したと思われます。しかし追加個体の出現場所は国立競技場の付近に局限されており、他の地域へ異常影響を齎すまでに時間を要したと見られます。このような集中現象が起こった理由については現在調査中です。
2110-JP-Xの増加は精神影響の強化を齎したと思料され、競技場周辺では異常な興奮状態に陥った曝露者による暴行、強姦、放火、殺人、器物損壊等が相次いで行われました。しかしDクラスを除く都内の財団職員や警察及び報道関係者の大多数は、これらの暴力的事象に徹底して無関心であり、対応する姿勢を見せませんでした。また警察官の一部は暴行の様子を写真に撮影し、SNS上に投稿するなどの行為に熱中していました5。一部の2110-JP-X実体は肉体変形能力を発揮し、市民にナイフ等の武装を提供したことが確認されています。
東京都外の財団各支部が都内サイトの異常現象に気付いたのは、ネット上に暴動を記録した写真や動画が次々とアップロードされ始めた後でした。
[記録開始]
[Cはサイトから脱出後、新宿方面に向けて走っている。辺りは既に恐慌状態に陥っており、暴動、強姦、放火があちこちで行われている。警察は財団職員と同様、Cの呼びかけに応えず、スマートフォンを操作し続けている]
C: [嗚咽]ひどすぎる。外にこんなにも被害が……警察の方も。電話も駄目です、たぶん基地局そのものが破壊されてる。[鼻を啜る音]他のサイトに知り合いでもいればよかった。
[不意に、空中の2110-JP-Xが一匹、Cに急接近する]
[Cは悲鳴を上げて後退する。2110-JP-Xが尚もCを執拗に追い回すが、Cが発砲すると、その音に驚いて去る]
C: [荒い息]い、一体どうなってるんですか? カラス。に見えますが、あの牙と爪はまさか……AO-2110-JP? あいつらが、精神影響能力を? でも、何故私には効かないんでしょう。[沈黙]私が人間じゃないから?
[Cは、2110-JP-Xの群れを一瞥し、進行方向を避けるようにして走り出す。新宿3丁目付近にさしかかると、倒れている外国人男性を発見する]
C: [小さく悲鳴を上げる]大丈夫ですか? しっかりしてください。
[男性は呻き声を上げ、目を開ける。外見は東南アジア系の若年男性に見える。頭部に深い創傷を負っており、また下半身は裸である。上半身は警備員のユニフォームを着ている]
男性: ね、猫、女の人?
C: [やや狼狽して]ごめんなさい。コスプレイヤーなんです。とにかく、今救急車を呼びますからね。
男性: 無駄。電話、通じない。貴方、猫だけど良い人。逃げた方が良い。あいつらが来る。
C: あいつら?
[男性は飛び回る2110-JP-Xの方向を指し示す]
男性: 私、ひどいことした。わけわからなくなって、女の人襲って。[涙を流す]すみませんでした。でも、殴られて目が覚めた。女の人逃げてくれた、よかった。Tapos6、あー、カラス来た。カラスに襲われる。
男性: 警察、何もしない。暴れる奴、カラスに襲われる、ない。カラスが、これ起こしてる。災いを呼んでる。
C: 私も同意見です。とにかく、ここから逃げましょう。カラスが来るなら逃げないと。
男性: 私、裸。頭から血出てる。役に立たず。
C: [嗚咽]そんなのどうでもいいんです。私は一人でも助けたい。お願いです、一緒に来て下さい。
男性: 無理。あいつら、私見てる。カラス、正気の奴を襲う。一緒いたら、あんたも襲われる。逃げなさい。
[突如、複数の2110-JP-Xが男性に急接近する。男性はCを突き飛ばし、2110-JP-Xに向かっていく]
男性: あいつら、嗤ってる。私たちを嗤ってる。
[2110-JP-Xの一羽が、嘴を刃のような形に変形させる。男性は刃に目を突かれ、悲鳴を上げてその場に倒れこむ。多数の2110-JP-Xが男性に群がり、牙や爪で攻撃を加える。2110-JP-Xは全羽が大きな声で鳴いている。Cは嗚咽を漏らしながら、その場を走り去る]
註記: 後の調査で、男性はフィリピン出身の技能実習生である████████████氏と判明しました。同氏は研修3年目で、IAF担当の民間警備員として雇用されていました。遺族によりますと、真面目かつ実直な性格で、過去に犯罪歴等は確認できませんでした。
[記録終了]
[記録開始]
[Bのデモ隊は完全に統制を失っており、メンバーの多くは2110-JP-Xの異常影響による暴行、強姦、放火等に熱中しているように見える。本記録は生存者のスマートフォンから回収されたものであり、撮影者はBの様子を撮影することに関心を集中していたようである]
B: [喘ぎ声]悪いな、ろをず。
ろをず氏: 別に。いつもしてるじゃない。[Bの陰茎から手を離した後、撮影者を睨み付けて]撮らないでよ、キモい。まさかネットにアップしないでしょうね?
[撮影者はろをず氏を避けてBにフォーカスする。Bの眼は焦点が定まっておらず、酩酊状態に陥っているように見える]
B: 行くぞ。全速前進だ。デモを続けなきゃよ。
[Bはパンツを履き直すと、やや理性を取り戻した様子を見せる。Bがふらふらと前進するのに合わせ、周囲の者も暴力的行為を次第に止め始め、Bに随行しようと試みているように見える]
[5分間、特筆すべき点が無いため省略]
[20時46分、突如前方で女性の悲鳴が上がる。Bは悲鳴の方向に向かい、撮影者もそれに随行する。現場に到着すると、デモ参加者と見られる男性が、若い女性の髪を掴み、頬を殴りつけている]
B: 何事だ?
男性: こいつ、反対デモの参加者です。俺らを見て、一人で近づいてきたみたいで。
女性: 離せ、クソ野郎。参加してねえよ、単なるLITAさんのファンだ。[Bを見て]お前、ダメロットだよな。今すぐやめさせろ、おかしいだろ。[嗚咽]なんで道端でレイプしてんだよ。友達も殺された。キモオタの犯罪者共。殺してやる。
[Bは男性に女性を離すよう指示し、男性は従う。女性は逃げようとするが、Bは女性のシャツを掴み、足払いの要領で地面に叩き付ける。女性が悲鳴を上げる]
B: なんで? なんではこっちのセリフだよ。[体重を乗せ、女性を地面に押しつける]反日左翼の思想に感化されて、感染防止リーダー気取りか? カラオケに通うおばあちゃんを通報して、アニメ映画を見に行ったお兄ちゃんは島流し、リモートワークしない父親も密告して、飲み会に行った母親は強制収容所送り? 無能な政治家もバサバサ処刑しますってか。我が国の誇りあるIAFはいつからクメールルージュの演説会場になったんだ? 俺たちの楽しい祭りを台無しにしやがって。クソ女。何とか言ってみろよ。
[逃れようと暴れる女性の顔を、Bは肘で殴りつける。女性の前歯が数本折れ、口中から血が噴き出す]
B: 質問に答えろや、ドブス。処女膜と一緒に脳味噌もバラバラに崩れて落ちたのか? LITAがてめえらを仕切ってんだろ。あのビッチは、今どこにいる?
[隣で見ていた男性が女性の服を破り、上半身を露出させる。男性は変形した2110-JP-Xと思われる黒く長いナイフを持っており、それを振るって左の乳房を切断する。女性は絶叫し、恐らくは過度の痛みと出血により失神する]
B: バカ野郎、死んじまったじゃねえか。[男性がBに謝罪する。女性の胸からは大量の血が流れ出ている]まあいいか。どうせ会場にいるんだろ。[大声で]お前ら、いい加減仕事するぞ。LITAをぶっ殺す。体力温存しとけや。
[Bが足を速めると、ろをず氏をはじめ、周囲の人間は皆Bに追従する。先程の男性は、切りつけた女性の服を脱がせている。集まってきた参加者には裸の者もおり、パートナーの男性と性交しながら抱きかかえられている女性も確認できる]
[Bが一喝したため、撮影者がスマートフォンをしまおうとし、映像が終了する]
[記録終了]
[記録開始]
[Cは2110-JP-Xから逃れて西方に逃走を続けている。20時51分、A率いるデモ隊と遭遇する。デモ隊は一見統率が取れているように見え、無言のまま東に前進している]
C: デモ隊? この状況下で。[スコープを使い、参加者を確認する]女性が多い。もしかしたら、避難している人たちかも知れません。行ってみます。
[Cはデモ隊に接近する。先頭付近の参加者に話しかけるも、多くの者は目が血走っており、何事かを呟きながらCを無視する。女性の多くは2110-JP-X実体の変形と思しきナイフや刀などで武装している。壮年男性は熱心にスマートフォンを操作している。Cは動揺を見せながらも、何度か参加者へ声を掛ける]
[途中、Aが一瞬だけカメラに写るも、Cが気付いている様子はない]
C: [嘆息して]駄目だ。彼女たちも正気を失っています。さっき見た男性達とは、ちょっと様子が違いますが。何故武装を? これもAO-2110-JPのせいでしょうか。
[刹那、後方から怒声と悲鳴が上がる。デモ隊が一旦停止し、Aが後方へ移動している様子が映る。Cも声の方向へ移動する]
[Cが現場に到着すると、長身の女性参加者が一人、正座するようにその場へしゃがみ込み、俯いて股間を押さえている。複数の女性が長身女性を激しく非難している。女性の側には男性が一人おり、何かしらの弁明を行っている。Cの後ろからAが現れる]
A: ストップ。今度は何?
女性: こいつ、女じゃないです。私の尻を見て、勃起してました。女装の変態男です。殺して良いですか?
[女性がナイフを取り出し、長身女性に向ける。長身女性は悲鳴を上げ、男性はさらに強く抗議し、長身女性を守る素振りをする。CはAの方を見やると、Aは苦々しい表情を浮かべている]
A: 貴方、本当に男?[男性が何事かを言おうとする]あなたは黙っていなさい。私は[一息おいて]彼女に質問しているの。
長身女性: [嗚咽を漏らしながら]男じゃありません。信じて下さい、LITAさん。私、トランスなんです。
A: [鼻で笑う]正直ね。ついでにこの場で脱いで見せたらどうなの。証明してみなさい。
[Aの指弾に合わせ、周囲から笑いが上がる。長身女性は泣き続けている]
男性: LITAさん、頼むから聞いてくれ。俺も彼女も貴方のファンなんです。インスタだってフォローしてるし、主張にも賛同してる。確かに性は違うが、同じフェミニストです。
A: フェミニスト?[呆れた顔で]もし貴方たちが女性のことを真摯に考えているのなら、女装した男がこの場にいれば「時と場合を考えなさい」と注意するのが本当でしょう? 常識の話をしてるんだけど。男の自己実現を女性の安全より優先させる行為をフェミニズムと誤解させようとする。それが貴方達の狙いなの?
男性: 違います。彼女のそれは、その、生理現象でして。[周囲から笑い]この状況で、海外で手術を受けられなかったんです。障害の診断も下りていますし、来年には私と結婚する予定もあります。仮にですよ、彼女が男だとしても、ゲイなら別に問題ないでしょう。
A: [笑う]ここに居る皆が、貴方達を迷惑な男だと認識してる。そういう思いを無視して、ゲイやフェミニズムがうんたらかんたらと、この私に向かって説教するつもり? 女性の権利は女性のものであって、貴方のようなオッサンの自己満足のためのものじゃないの。
C: ま、待って下さい。
[周囲が、一斉にCの方を向く。男性は長身女性と逃げようとするが、周囲の女性に取り囲まれる。Aは、じっとCを見つめている。CがAに声をかける]
C: 貴方、正気ですよね? ほとんど影響を受けてない。私がわかるんでしょう? 猫の顔をした私が。責められていた二人と、貴方だけですよ。私の顔を何度も確認したのは。
A: [肩をすくめる]どうも、ディズニーランドから来た方。それで? 何故私を止めたの? あの自称・女の仲間? 二丁目系とはキャラクターが違うんじゃない。
C: 今すぐやめて下さい、こんなことは。信じて貰えないかも知れませんが、あのカラスが皆を狂わせているんです。皆凶暴になり、攻撃的で、理性を失っている。警察も機能していない。貴方がフェミニストなら、まず仲間を守るべきです。誰かを攻撃するのではなく。奴らは会場の周りに集まってる。きっとここから遠く離れれば、カラスは追ってきません。
C: 話を聞いて、事情は何となくわかりました。でも、このまま進むのは本当に危険です。あのカラスには性衝動をコントロールする能力もあるみたいなんです。事実、3丁目方向では強姦が頻発していました。今は弱い者いじめをしている場合じゃありませんよ。女性達の命を第一に考えて下さい。
A: [溜息を吐く]貴方のような自称良識派気取りは、すぐ言うよね。弱者を責めるのは卑怯だー、マイノリティを守れー、とか。ネットでも随分叩かれた。同じ女性に。
A: [髪を掻き上げる]よろしい、あの男どもが相対的に弱者だとしましょう。でも、私たちが本当に倒そうとしているのは、[競技場を指さす]あのIAFと、それを支えているこの国の男達。男尊女卑で成り立つ権力構造の内部には、当然あそこのゲイや女装男も含まれている。だってそうでしょう? 首相も政治家も、決定権を持つのは皆男ばかり。私たち女性の多くが、雇用や子供を守るために命がけで反対したのに、無理矢理強行したのだから。
C: 女性にはアスフェスの賛成者がいなかったとでも言うのですか? 世界も人間も、そんな単純な二元論で分けられませんよ。
A: [遮るように]分けられる。貴方が賛同するかは別として、実際に世界は分断されているじゃない。ニュースを見てないの? 男に従わない女性政治家がこの国にいるとでも? 仮にいたとしても、彼女は女性であることを利用され続け、結局富も権力も手にはできないでしょうね。
A: 私は生まれたときから女性だった。そう決められていた。親に要望書を出したわけでもないのに。女性というだけで差別もされてきた。社会的な性、ジェンダーは人の数だけある、多様性は大事だと皆綺麗事を言うけれど、肉体の性は二つだけ。中間は存在しない。神を信じてるわけじゃない。でも、人間が決めていい話とも思わない。生物としての根源問題だから。人類一万年の歴史で、男女という概念が変更されたことは一度も無い。この事実はジェンダーに優先すると私は考える。貴方だって、生まれたときからその顔なんでしょう?
[顔の事を指摘され、Cは動揺を見せる。Aは微笑みを浮かべる]
A: 私たちのチームに加わりなさい。貴方は女性だし、見た目はちょっと変わってるけど、私から見ても十分美しい。このデモに参加する資格がある。私の僕しもべとして、男達との生存を巡る戦争に参加してからこう言いなさい。私は弱い者虐めをする卑怯者ではありません、とね。
C: お断りします。貴方は卑怯者ではないかもしれませんが、この世界にいる殆どの男性よりも冷酷です。
A: [薄く笑む]じゃ、仕方ないか。
[Cが身構えるが、AはCではなく、先程の男性と長身女性を殺害するよう周囲に指示する。Cは拳銃を抜こうとするも、周囲の女性に押さえつけられ、身動きが取れなくなる]
[男性は両手足を切られ、痛みに悲鳴を上げる。女性の一人が男性を地面に叩き付けると、股間にナイフを突き刺し、パンツごと男性器部分を切り取り、集団で踏みつけにする。長身女性が絶叫するも、彼女も衣服を剥ぎ取られた後地面に押さえつけられ、股間を切り裂かれる。長身女性が絶命する]
[Cは激しく動揺し、制止の言葉を何度も叫ぶも、二人の絶命する姿を目撃した後、意識を喪失する。カメラには笑いながら遺体を切り刻む女性達と、2110-JP-Xの激しい鳴き声が記録される]
[記録終了]
2110-JP-3 > 21時15分~22時00分
2110-JP-Xの総数は止まることなく増加を続け、正確な数は不明ながら、22時には百万羽に到達したものと考えられています。国立競技場を中心として都市部各所に拡散した個体群は、警察の機能不全も相俟って、都内各地で暴力事件の爆発的増加を齎しました。
財団は21時00分、千葉・神奈川・埼玉三県並びに東京都外縁部の全サイトから管理サイト-81へ救援部隊を緊急出動させました。途中2110-JP-Xの異常影響によって任務を放棄する部隊員が多数出た事等の要因により、想定されたスケジュールを大幅に遅延したものの、21時59分、対認識災害装備で武装した機動部隊ガ-9”合奏団ハトの会”が管理サイトに到達、日本支部理事会以下サイト職員全員を無事救出することに成功しました。
註記: 21時20分頃、B率いるデモ隊はAの一団に先駆けて国立競技場前へ到達しました。2110-JP-Xによる異常影響にもかかわらず、予定されたスケジュールよりも早く到達できたのは、興奮状態のBがシュプレヒコール等を行う事無く早足で目的地へと向かい、支持者がそれに追従したことによるものと推定されています。
以下はRecord 20:30~21:00と同じ記録者のスマートフォンに残されていた映像です。
[記録開始]
[撮影者は国立競技場到着を示すためか、周囲の景色を写している。そこに、歩いていたBが近寄ってくる]
B: おいおい、急ぎすぎたかあ? LITAの奴、まだ着いてねえじゃねえか。
ろをず氏: 怖くなって逃げ出したのかな?
B: バカ、あいつがそんなタマか。大方、途中でハッスルしすぎた左翼ジジイ達とよろしくやってんだろ。[笑う]ようやく祭りらしくなってきたかもな。
[数秒後、Bの後方に走って近づいてくる影が映る。撮影者がクローズアップする。人影は恰幅の良い中年の人物で、左腕を負傷しているように見える]
ろをず氏: ちょっ、桃さん!?
[ろをず氏は近づいてきた中年人物に駆け寄り、左腕の傷を見て激しく動揺する。Bが二人に声を掛ける]
B: 知り合いか?
ろをず氏: うん、昔お世話になった女装バーのママなの。桃さん、一体何があったの? どうしてここに?
桃氏: [荒い息]ヤバいわよ、ろをずちゃん、ダメちゃん。ネットで見たけど、あんたたち、IAF反対派にカウンターデモを仕掛けたんでしょ? 反対派の奴ら、武装して新宿の人たちを殺し回ってる。
ろをず氏: ええっ。
桃氏: お店は休んでるから、仲間と路上で飲んでたのよ。でも、あの変なカラスが現れてから、皆様子がおかしくなって。特にノンケの男ね、いきなり女の子に襲いかかったりとか。あたしも正気を保ってた子達やゲイの仲間と、必死に抵抗したんだけど。そしたら、あのデモ隊の女達が現れて。
桃氏: 最初は助けに来てくれたのかと思ったの。暴れる男達をナイフや鎌や包丁で攻撃してたから。でも、そうじゃなかった。あいつらは次に、あたし達オカマやゲイまで殺し始めた。ビアンの子達も皆逃げちゃって、もう二丁目中大パニックよ。統制の取れた動きで、まるで軍隊みたいだったわ。野放図な男達とは全然違う。
B: [蒼白になる]あいつら、全員武装してやがるのか。LITAの奴、いよいよキてるな。たぶん、俺らを皆殺しにする気だろう。
桃氏: あいつらはこの競技場に向かってる。だから、ろをずちゃん達が危ないと思って。[傷口が開いたのか、左腕を押さえて呻く。ろをず氏が自分のシャツを破り、腕に巻き付ける]
ろをず氏: ヤバいよ、ダメ君。皆で逃げよう。こっちは来る途中で半分以下になっちゃったし、ここじゃあ武器もない。まともにやり合っても勝ち目無いわよ。
B: [顎に手を当て、何事かを考えている]やむを得ねえな。外国勢力との戦いにとっておきたかったんだが。奴らは最早テロリストだ。愛国の士として許せねえ。ろをず、アレを出すぞ。
ろをず氏: [大声で]正気なの? ここに呼んだら、無関係な人たちまで巻き込むでしょ。お願い、ダメ君、いつもの貴方に戻って。
[Bはろをず氏を平手打ちにし、地面に倒す。撮影者は動揺を見せている]
B: うるせえ。女が俺に命令すんじゃねえ。それとも、オカマ扱いしてやった方がいいのか、ああ?
桃氏: [ろをず氏を介抱しながら]ダメちゃん、ちょっと、あんたまでおかしくなったの?
B: [Bの眼は血走り、口からは涎が零れている]うるせえぞ、俺は常に正気だ。やってやる。やってやるぞ。反日は皆殺しだ。
[Bが手を差し出すと、ろをず氏は数秒迷うも、掌大のコンソールをバッグから取り出し、Bに手渡す。Bはニタリと笑い、コンソールを操作する。コンソールが青色に発光し始める]
[轟音が周囲に響き渡り、地面が小さく揺れる。撮影者が音のした方向を映すと、新宿御苑方向の上空に雷鳴のような発光が起きており、異常空間へのポータルが開き始めている。撮影者はカメラを最大限ズームアップする。背景からの推定では、ポータルは全長10メートル以上に及んでいるようである]
[ポータルの中央部から、巨大な人型ロボットのような漆黒の実体が露出する。実体は右腕から徐々にポータルの外部に侵出し、最終的に御苑下ノ池付近上空に出現する。浮遊している原理は不明である。ポータルは発光しながら次第に閉じていき、やがて消失する]
B: [高笑い]クソ会社を騙くらかして、作り上げるのに十年かかったぜ。コツコツと、廃棄の鉄屑から作ったエコな最終兵器。名付けて、『TH-G クズ-E-カスタム』だ。
[Bの持つコンソールが明滅すると、呼応して実体も各所が青く発光し、Bのいる国立競技場前に飛行を開始する。実体の各所にはスラスターバーニアのような部位があり、これで方向をコントロールしているようである。実体の周囲では無数の2110-JP-Xが飛び回っている]
B: よしよし、良い子だ。
ろをず氏: [立ち上がり、血痰を吐き出す]バカ。
[実体がBの眼前に到着すると、ゆっくりと下降を開始する。撮影者を含め、バーニアの風圧を避けるため、デモ隊は付近から距離を取り始める。実体が着陸すると、右腕相当部が地面すれすれに差し出され、Bがその上に乗る。実体はBを胸部に運び、コックピットらしき場所を開いて、Bを内部に収納する]
[撮影者はコクピットをズームするが、突如として大音量でBの声が流れ出したため、驚いた声を上げる]
B: あー、聞こえてるか? お前ら。聞こえてるみてえだな。いいか、よく聞けよ。これは俺たち、虐げられた弱者が、誇りを取り戻すための戦いだ。知っての通り、マスコミやネットは反日左翼に支配されてる。今じゃ何処を見たって、政府叩きやアスフェス叩きでいっぱいだ。近所のババアも、外人共も、紳士気取りのヤリチン野郎共まで同じことを言ってやがる。俺たちだけが、真にこの国の事を思っているんだ。
B: 俺はバカだからよ、それでも途中までは我慢してたんだ。政府にも色々至らないところがあったからな。ところがあのクソフェミ共、アスフェス開催をダシにして自分の主張を広め始めやがった。フェミは所詮、男に寄生して力を奪い取ろうとするダニの集まりだ。性別の問題じゃねえ、心が根っから腐ってんだよ。おっと、誤解するなよ、ここに居る女どもとは違うぜ。
B: 俺は知っての通り口が悪いがよ、男も女もオカマも外人も差別はしねえ。皆平等にバカにして、バカ同士皆で一緒に笑う。何故そんなことが出来ると思う? 俺たちが皆、日本のことを好きだからだ。同じ国に住む仲間だからだ。誰であろうとよ、同じアニメが好きなら仲間だろ? それと同じことだ。団結しようぜ。今こそ、日本を貶める奴らと戦う時だ。
B: [機械実体の右手を高く掲げる]反日左翼共をぶっ殺して、地獄で反省させてやる。行くぞ。
[Bが機械実体を操作し、新宿方向へ空中移動する。撮影者が移動方向を見やると、A率いるデモ隊が遠目に確認できる。絶叫に近い歓声が響き、Bの支持者達は次々と機械実体に追従していく。ろをず氏と桃氏、撮影者はその場に立ち尽くし、実体の後ろ姿を目で追っている。ろをず氏は泣いている様子である。バッテリー切れが表示され、映像が終了する]
[記録終了]
註記: 21時40分頃、A率いるデモ隊は国立競技場前の道路まで迫りました。2110-JP-Xによる異常影響によって、参加者は各地で殺戮を繰り返しており、集団としてはAの指揮により統制がとれているものの、実際の予定から到着時刻が大幅に遅延していました。
以下はRecord 20:00~20:30と同じ記録者のスマートフォンに残されていた映像です。
[記録開始]
[撮影者は荒い息を立てながら、集団の先頭付近にいるAを撮影している。Aは撮影に気付いているものの、あえて無視している様子である。付近の女性らは皆返り血を浴びているものの、特に気にとめる様子もなく、無言のままで前進を続けている]
A: [手を叩いて]皆、あと一息だよ。競技場が見えてきた。これで連中を――
[Aが急に立ち止まり、一団は急停止する。呆然とするAの目線の先を撮影者が映すと、Bが呼んだ機械実体が競技場前に飛来し、着陸姿勢を取っている]
A: バカな……。東弊の社員って噂は本当だったの?
[Aが項垂れ、小さく「畜生」と呟くのが聞こえる。目には涙が浮かんでいる]
A: [涙を拭く]皆、退却して。あれに人間が勝つのは無理。Bが指揮している男共も迫ってくるはず。自分の身は自分で守って。逃げるの。早く!
[Aの指示により、集団は一斉に新宿方向に退却を始める。Aは一人で機械実体の方向に向かっていく。撮影者はそれに気づき、Aの後ろを追う]
撮影者: 待って下さい。
A: [立ち止まる]貴方、さっきも私を撮ってた子? [少し思案して]そうか。影響を受けにくいタイプなんだね。それで、今も撮影を。
撮影者: お願いします、LITAさんも一緒に逃げて下さい。あんな化け物に勝てるわけないです。皆理性を失ってるし、貴方がいなかったら統率が取れません。バラバラになったら、一人ずつあいつらに犯されて殺されちゃいます。[嗚咽]お願いします、私と一緒に来て下さい。
A: 泣かないで。大丈夫、貴方は皆と一緒に逃げなさい。ここは私が一人で食い止める。
撮影者: 無理だって自分で言ってたじゃないですか。[嗚咽]お願いします。キモいって思われるかも知れないけど、私、貴方のことが好きなんです。政治のこととか、よくわかんないし、本当はどうでもよかったんです。LITAさんが生きていてくれればそれでいいんです。お願いします。
[撮影者は号泣する。Aは撮影者を抱きしめ、優しく囁くように話し始める]
A: 忘れないで。この戦いは終わらない。男達が、家父長制が私たちから暴力と支配で奪ったものは、それ以上の暴力と支配で奪い返すほかないの。目には目を、歯には歯を、復讐には復讐を。暴力にはそれ以上の暴力をぶつけるしかない。これは、戦争だから。
[Aは踵を返し、胸に下げていた小さなペンダントを首から外す。撮影者が何かを言おうとするが、手で制する]
A: [笑顔で]安心して。ちゃんとあのクソ男共をぶっ殺すから。
[Aはペンダントをネックレス部分から外し、口から嚥下する。ほぼ同時に、Aは機械実体に向けて疾走を開始する。撮影者がAの名前を叫ぶが、Aは振り向かない]
[撮影者はズーム機能を用いてAを撮り続ける。Aの肉体は走るうちに変化を始め、SK-BIO生物に類似した触手状器官が全身から発生している。器官は次第に膨張しながらAの肉体を包み込むようになり、肉体そのものの体積が加速度的に増加しているように見える。半ば肉塊のような姿になりつつも、Aは機械実体に向け前進を続けている]
[肉塊が10メートル程度の高さに膨張すると、次第に人型に変化し始め、新たな頭部や四肢にあたる器官を形成していく7。形成が完全に終了すると、Aは全裸の巨人を思わせる姿に変貌する。撮影者は狼狽しつつも、Aの姿を映し続けている]
[巨人化したAは高速で機械実体に接近、右腕様器官を用いて機械実体へと打突8を行う。拳様器官は機械実体の左肩相当部に命中。実体は爆煙を噴き出しながら回転し、地面に墜落する。墜落時の衝撃で、実体の下方にいた多数のB支持デモ隊参加者が圧殺される。撮影者も衝撃により転倒し、スマートフォンを落とす。カメラレンズが破損し、撮影が強制終了する9]。
[記録終了]
註記: Aと接触後に気絶したCは約30分後に覚醒しました。意識を喪失した直後、記録内に登場する男性に助けられ、付近のオフィスビルのロビーに逃げ込んだことで、2110-JP-Xの襲撃から逃れる事に成功したものと見られます。
[記録開始]
C: [呻き声]ここは?
男性: 気がつきましたか? [安堵した様子で]良かった。貴方、道端で俯せになって倒れていたんですよ。死んでいるのかと思いました。そのマスク、メチャクチャ良く出来てますね。
C: マスク? [動揺して]あ、いえ。その、貴方が助けてくれたんですか?
男性: 助けたというほどではないです。この古いビルに逃げ込んだだけで[外から2110-JP-Xが大声で鳴いているのが聞こえる。男性は狼狽した様子を見せる]くそ。あいつら、数が増えているような気がする。
C: 貴方は……正気を保っているんですね。
男性: え? ああ、まあ。[10秒沈黙]わかってますよ、男は皆おかしくなるんでしょう? あのカラスの鳴き声で。実は俺、生まれつきの男じゃないんです。男として生活はしていますが。
C: [はっとした様子で]ごめんなさい。言わなくてもいいことを言わせてしまいました。
男性: いえ、大丈夫です。[外を見る]確かに、あいつらの声を聞いたら、凄く嫌な気持ちになったのは確かですが。何か、苛立って女の子を殴りたくなるような。でも、俺は彼女と一緒だったし、普通の男よりは影響が少なかったんだと思います。自分の体に感謝したのは人生で初めてですよ。
男性: 彼女は普通の女性でしたが、暴れる男たちに追い詰められてしまって。[項垂れる]彼女が、囮になって男達の方へ。「逃げて」って叫ばれて、俺は一人で逃げてきてしまいました。笑える冗談ですよ、守ってあげようとしていたのに。彼氏失格です。
C: 貴方が悪いんじゃないですよ。あのカラスは、正気の人間を狙うんです。
男性: そうみたいですね。奴らに追い立てられて逃げる途中で、貴方を発見して。ここに逃げ込んだら、不思議と連中は追ってこなくなりましたが。[スマートフォンを見る]でも、彼女と連絡が取れないんです。助けに行かなきゃいけないのに。[嗚咽]彼女に万一のことがあったら、俺が殺したも同然です。辺りが騒がしいと気付いてたのに。暢気に町中なんて歩いてたから。
C: [少し思案して]タイミングを見計らって、彼女さんを助けに行きましょう。辺りは無法地帯です。安全な屋内に逃げないと。
男性: ええ。[沈黙]どうしてこんなことになってしまったんでしょう。俺たちはただ、幸せになりたかっただけなのに。
[会話の直後、ロビーの扉が数名の暴徒によって開け放たれる。開いた扉から、十数羽の2110-JP-Xが内部に侵入する]
C: まずい、走って!
[Cと男性は、オフィスビルの階段を上り上階へと向かう。二階には幾つかの扉があり、男性は鍵のついた扉を選んで中に入る]
男性: 急いで下さい、扉を塞ぎます。
[オフィスに入った男性とCは協力してデスクを移動し、二カ所ある扉を封鎖する。また、窓が全て閉まっているか確認する]
C: よし、これで入っては来ないでしょう。絶対に窓を――
[言いかけた時、多数の2110-JP-Xが外からガラス窓に突進し、窓を割って内部に侵入する。Cが悲鳴を上げる。2110-JP-XはCに取り憑くように飛び回り、頭部を負傷させる]
[男性が椅子を振り回し、2110-JP-Xの何羽かを撃退する。しかし、更に多数の2110-JP-Xが窓から侵入を開始し、男性も攻撃され、机の下に逃げる。Cは部屋の中を逃げ回りながら応戦するが、頭部、肩、背中に爪の攻撃を受け、喚きながら両手を振り回す]
[2110-JP-Xの何羽かが打撃を受け地面に落ちるが、折れた首から新たな首が発生し、また千切れた翼も蝙蝠のような外見のものに置換されている。蘇生した2110-JP-Xが再びCに襲いかかり、硬質化した翼でヘッドギアの一部を破壊する。全ての2110-JP-Xは大音量で鳴き続けている]
C: [嗚咽]畜生。おぞましい、醜い化け物。お前らなんか、争いに取り憑かれた亡霊の群れだわ。人が苦しみ、泣き叫ぶのを見て、キャアキャアと喜ぶしか能が無いくせに。お前らみたいな怪物に、人間の美しさを否定させない。
[Cは叫びながら逃げ続けるも、部屋の端まで追い詰められる。体を丸め防御の姿勢を取るも、多数の2110-JP-Xに攻撃され続け、苦悶の声を漏らしている]
[一羽の2110-JP-XがCの目を狙って爪の攻撃を繰り出すも、突如として降りかかった水に驚いたような鳴き声を上げる。男性が2リットルペットボトルの水を、Cの前にいる2110-JP-X群に振りかけている]
男性: 彼女から離れろ。
[二度ほど水の直撃を受けた2110-JP-X群は苦しみだし、その場に墜落する。何羽かの2110-JP-Xは眼球や翼様器官を多数発生させながら、水から脱出しようと藻掻いているように見える。男性はさらに2110-JP-X群に水をかける。2110-JP-X群が絶叫し、体が凍結し始める。常温下にもかかわらず凍結は止まらず、数分後にはCに襲いかかっていた全個体が凍結し、沈黙する]
C: あ、ありがとうございます。でも、どうして。
男性: [荒い息]さっき机の下に逃げたとき、あいつら、エアコンの風から逃げたんです。襲ってこなかったのは、多分ここが屋内だからじゃない。低温に弱いんだと思います。現に、窓から新手が来ない。それで、エアコンを全開にした後、奥にあった冷蔵庫から水を取り出して、ぶっかけてみました。[Cの手を取る]効いて良かった。
C: すごいわ。奴らにこんな弱点があるなんて。財団の人に知らせなきゃ。
男性: 財団?
C: ああ、いや。でも、今は気温が高いし、天気予報は晴れになってる。しばらくは隠れるしかないのかしら。
男性: ええ。彼女に電話が通じれば、知らせてやれるんですが。
[直後、窓の外から轟音が響く。Cと男性が警戒しながら、エアコンの風が来る場所を選んで窓に接近する]
C: あれは……何?
[Cの眼前では、巨人化したAと機械実体が戦闘を行っている。Aは機械実体に馬乗りになり、両腕状器官から連続で打突を繰り出している。機械実体はバーニアを噴出し、中空に逃れる]
[巨人化したAは競技場付近のアスファルトを破壊し、礫状にして中空の機械実体に向け投げつける。何個かが機械実体に命中し、装甲から火花が上がる。機械実体はさらに上空へと逃げつつ、右腰相当部位からSCP-1079-JPに酷似した武装を取り出す]
[武装から紫色のビームが発射され、巨人化したAの頭部を刺し貫く。超高温による作用か、Aの頭部は爆発的に砕け散る。Aを貫通したビームは付近を広範囲に破壊する。Aが両腕をだらりと下げ、沈黙する。機械実体は各所から煙を吹き出しながら徐々に高度を下げ、着地する]
[Aの肉体が跳躍し、着地直後の機械実体へ飛びかかる。機械実体は逃れようとするも、恐らくはバーニアの一部破損により機動せず、Aに押し倒される。機械実体が爆発炎上し、火炎にAも巻き込まれる]
C: 狂ってる……。
[炎の中から無数の2110-JP-X実体群が出現し、炎を纏いながら巨人化したAと機械実体の上を飛び回る。国立競技場に設置された聖火台に一羽が着地し、着火する。競技場上空では、火炎を纏った2110-JP-X実体群が周囲を円上に周回している。その様子は燃えさかる火炎のリングのように見える]
[記録終了]
付記: 事案終了後の調査により、AとBの遺体はそれぞれ巨人様実体と機械実体の内部から発見されました。細胞組織の分析により、Aは機械実体に飛びかかったときには既に絶命していたと考えられています。Aが如何にして機械実体を破壊したのかは不明です。
Bの遺体の近くからは、ろをず氏の遺体も発見されました。ろをず氏はBを救助するため、戦闘終了後、自ら炎の中に飛び込んでいったものと見られています。桃氏は映像記録の撮影者と共に付近のJR駅構内へと逃げ延びており、翌1時頃に財団機動部隊が身柄を保護しています。
2110-JP-4 > 22時00分~翌05時00分
日本支部理事会は2110-JP-Xの異常影響が都内全域に広まりつつあることを踏まえ、本事象をEkhiクラス超常災害と断定。管理ナンバーとしてEE-2110-JPが正式に付与されることになりました。日本政府中枢は異常影響により機能不全に陥りつつあったため、各地方自治体の協力の下、自衛隊員及び警察官で構成される特務部隊が、財団の直接指揮により事態の鎮圧へと動き出しました。
また、財団は都内主要メディアが暴動に無関心であることを利用し10、日本政府名で報道管制を敷いて他地域へと情報が伝播しないよう努めました。ネットの主要SNSは財団により意図的に引き起こされたCDNプロバイダーの障害で一時的にアクセス不能となり、これは間接的に2110-JP-Xによる異常影響の弱体化を齎しました11。
註記: Aと機械実体の戦いを見終えたCは、男性と恋人女性との連絡を取ろうと試みました。Cは自身専用のフィーチャーフォンを所持していた事から、位置測位アプリケーションに関する知識を所持していました。恋人女性が偶然インストールしていたGPSアプリケーションソフトによって、恋人女性が屋内におり、僅かながら移動している様子であると確認できました。
[記録開始]
男性: [落涙する]ありがとうございます。彼女はきっと生きてる。建物の中にいるんだ。
C: でも、かなり遠いですね。最短でも、町中を突破しなきゃいけません。
男性: 場所さえ分かれば十分です。俺が彼女を助けに行きます。貴方はここで待っていて下さい。
[男性の言葉を聞くと、Cは数秒沈黙した後、ヘッドギアを外し、男性に手渡す]
男性: え、何ですかこれ。
C: 持っていて下さい。それが必要な人たちがいるんです。本当は教えちゃダメなんですけど。「財団」と名乗る人たちがきっと助けに来ます。そうしたら、彼らにそれを手渡して下さい。
男性: は? 意味わかんないですよ。橋本さんはどうする気なんですか。
C: 私も同じアプリをインストールしておきました。私が彼女を迎えに行きます。そして、カラスの弱点を街の人たちに伝えてきます。貴方はここで待っていて下さい。
男性: [大声で]ふざけないでください、こんな時に。なんで俺の彼女を貴方が迎えに行くんですか。そんなに俺って頼りないですか?
C: [俯いて]違うんです。私は、そういう仕事をしているんです。まだ見習いですけど。貴方のような人が、笑って光の下を歩けるように。夜の闇の中を走るのが、私たちの仕事なんです。
男性: だから、何を言ってんだかわかんないですよ。財団? だかなんだか知らないですけど。こんな状況で、仕事もクソもないでしょう。
C: あんまり口論している時間も無いんです、悪いですけど。あの戦いで、何人犠牲になったか分からない。私がグズグズ泣いて逃げ回っていたせいで、助けられたはずの人も助からなかった。[呟くように]一人でも助けなきゃ。彼女さんを見つけたら電話します。生きてるのに出ないと言うことは、スマホの通話機能が故障しているのかも知れない。
男性: わかった、わかりましたよ。じゃあ俺も行きます。こんなところで待ってられません。駄目だって言ってもついていきますからね。
C: [微笑んで]駄目ですよ、そんなの。付き合わせられません。これは、私の残業なので。
[そう言うと、Cは腰から催涙スプレーを取り出し、男性に吹きかける。男性は悶絶し、その場に倒れ込む。Cは男性からスマートフォンを奪い取ると、扉の一つを強引に開け、部屋から脱出する]
[記録終了]
付記: 男性はほどなくして視力を取り戻しましたが、スマートフォンをCに奪われたたため、Cを追跡できなくなりました。ヘッドギアの映像には呆然としている男性の姿が記録されています。
約30分後、Cはオフィスビルに直接電話し、男性の恋人女性を保護したこと、同人のいたビルには他にも避難者がおりひとまずは安全と見られること、同人のスマートフォンが一部故障していること等を連絡し、朝までその場から動かないよう二人に指示しました。男性は電話越しに説得を試みましたが、Cは聞き入れず、一般市民の救出のため、恋人女性をその場に残し、市街へと向かったと見られます。
約5時間後の午前3時半頃、男性と恋人女性は自衛隊員により救出され、事情聴取後に記憶処理を施されて解放されました。両名の心身に後遺症などは見られませんでした。
註記: ネットの主要SNSがダウンした後、2110-JP-X実体群の増加は停止し、また攻撃性や異常影響の弱体化が一部で確認されました。機動部隊ガ-9”合奏団ハトの会”は管理サイト-81の奪還時に2110-JP-X実体の性質を確認しており、HFO-1234yf冷媒ガスを装備したドローン部隊と共に生存者の救助作戦を実行しました。
[記録開始]
[機動部隊ガ-9アルファ部隊は夜明け前の国立競技場前を歩行している。ドローンや自衛隊の活躍によって2110-JP-X実体の総数は激減しており、他の野鳥の鳴き声の方が良く聞こえるほどである]
[暴徒化した市民は既に大多数が鎮圧・救助されており、自衛隊の輸送トラックによって効率的に傷病施設に運ばれている。アルファ-2の眼前ではA巨人と機械実体の残骸が煙を上げており、財団の隠蔽部隊が輸送を試みている]
アルファ-1: 油断するな。あそこで黒焦げになってるのはサーキックの化け物だったらしい。地面から突然襲ってこないとも限らん。
アルファ-2: 了解。しかし、冷凍スプレーで倒せる程度の敵で良かったですね。
アルファ-3: それを油断と言うんじゃないの? 結局、あのカラスが何だったのか全く見当もついてないんだから。
アルファ-2: そう言われても――[えぐれたアスファルトの陰から、2110-JP-X実体が複数出現する]実体を発見。これより破壊する。
アルファ-1,3: 了解。
[アルファ-2はHFO-1234yf冷媒ガスを2110-JP-X実体群に向けて噴霧する。ガスに触れた2110-JP-X実体群は一瞬にして凍結し墜落する。ガスを躱した実体が一羽、喉奥から触手を吐き出しつつアルファ-2に襲いかかるが、アルファ-2はサブマシンガンで実体を無力化すると、再びガスを噴霧する]
アルファ-2: 敵性実体5羽が沈黙。これより調査のため、陥没孔へ降下する。
アルファ-1,3: 了解。
[アルファ-2は2110-JP-X実体群が飛び出してきた陥没孔へと侵入する。機械実体が放ったビーム兵器で作られたと思しきクレーターであり、穴の奥に何かが見える]
アルファ-2: うわっ。
[穴の最奥には、PoI-2110-JP-Cと思しき人物が横たわっている。アルファ-2はCに近づき、脈拍と呼吸を確かめる。Cの生存を確認する。Cの目は閉じられており、体中に重度の創傷が確認できる]
アルファ-2: 生存者発見。外見的特徴から、生存者はサイト-8195異常物品調査チーム所属、メアリー・橋本と思われる。生存者は重度の負傷を負っている。アルファ-3、救援を要請する。
アルファ-3: 了解。すぐ行く。
アルファ-1: 了解。アルファ-2、橋本に意識はあるか?
アルファ-2: いや――[Cが呻き声を上げる]気付いたか。大丈夫ですか、橋本さん。私は財団の機動部隊員です。
C: [呟くように]財、団。
アルファ-2: はい。もう大丈夫ですよ。
[夜が明け、太陽の光が周辺へと降り注ぎ始める。アルファ-3が到着し、Cへ応急措置を施す。Cが短く呻く]
C: 助けに来て下さったのですね。良かった。[呻く]でも、何も終わっていません。
アルファ-2: 無理をしないで下さい。貴方は重傷です。大丈夫です。カラスはほぼ全滅しました。終わったんですよ。
C: [遮るように]何も終わってないです。だって。
アルファ-2: 橋本さ――[口元に手を当てる]
C: [Cは両瞼を開く。Cの眼窩には眼球が存在せず、血が滲んでいる]だって、こんなにも、この国の夜は暗いままじゃないですか。
[記録終了]
付記: Cは機動部隊による応急処置後、財団の医療施設にて長期に渡り治療を受けました。極度のPTSDを発症していることからインタビューは難航しているものの、ヘッドギアの記録により、EE-2110-JP現象の大まかな全体像を掴む事が出来ました。また、一連のCの行動により、多数の市民が2110-JP-X実体群の被害から逃れたものと推察されています。
Cは繰り返し「EE-2110-JP現象は終わっていない」と強硬に主張しており、財団による超常現象指定を批判、正規オブジェクトとして登録することを希望しています。また、必要なインタビューが終了していないことを理由に、財団による記憶処理やパラテック義眼を移植する権利12を自ら放棄しています。その反抗的な態度から、CはPoI指定を受け、現在はサイト-8195内にて治療とインタビューの試みが継続されています。
EE-2110-JP > 終了報告書(要2110-JP特任クリアランス)
8月24日午前06時00分、2110-JP-X実体が都内全域で消失したと確認されたことから、日本支部理事会はEE-2110-JP現象の終結を宣言。日本政府と共に、LK-クラス: ”捲くられたヴェール”シナリオの発生を防止するため、一連の異常現象を徹底的に隠蔽することに最大のリソースを割くことで一致しました。
隠蔽工作: 財団日本支部、米国本部、GOC、日米両政府、IAF運営委員会による六者協議の結果、一連の事案はIAF大会の準備中に重油タンクローリが交通事故によって爆発炎上し、大会を見物に来ていた多数の市民が犠牲となったものと決定され、同内容のカバーストーリー「アスフェス炎上事件」が世界各国のマスメディアや口コミメディアにて同時多発的に散布されました。
EE-2110-JPの自己収容的性質から、工作は成功裏に進行しました。一部の国がIAF参加を棄権するなどのアクシデントはあったものの、テロの可能性が全面的に否定されたこと、競技場そのものは無事だったことで、予定から一週間後の8月31日に開会式が実施され、大会は事前のプログラムを変更することなく閉会式を終えました。
特に新宿区内で多発した暴行や強姦については、生存者全員を確保し記憶処理後に解放したこと、死者をMercury-3感染症によるものと偽装したことで概ね問題なく隠蔽することが出来ました。建造物破壊については競技場付近の事案はタンクローリ爆発の影響とし、それ以外の不自然な破壊は泥酔した生存者によるものと偽装、該当する生存者を記憶処理後に警察の協力にて逮捕しました。逮捕後は全員を嫌疑不十分で釈放しています。
事案後しばらくは財団に捕捉されなかった目撃者による真偽不明の情報がSNS等で拡散されたものの、発信者の捕獲ならびにウェブクロールによる該当発信の削除、発言信頼性を低下させる一連の情報工作により、全ての情報はMercury-3パンデミック関連陰謀論の一部と結論づけられました。
最終的には、EE-2110-JP現象による全死者504名のうち、394名がタンクローリ爆発事故の犠牲者として、110名がMercury-3による死者として計上されました。尚、110名については一日の計上上限数を10名とし、近親者の多い者から順に死者として発表することで、関連人物に対する記憶処理工作との矛盾を防止しています。
GoI関連対応: PoI-2110-JP-A及びBの利用した異常実体は、自衛隊の協力の下、秘密裏にエリア-8195へと収容することに成功しました。収容後、既知の要注意団体や既存の異常オブジェクトとの類似比較検討が実施されました。
PoI-2110-JP-Aへの身辺調査の結果、近親者にネオ-サーカイトが存在したことが確認され、また本人が複数の要注意団体について一定の知識を保有していたことが明らかとなりました。Aは何らかの手段により近親者からGoI関連の情報及び異常物品を受け継いでいたものと見られており、████████社崩壊事件当時の調査担当者はリサーチ不足の責任を問われ降格処分されました。
PoI-2110-JP-Bが使用した機械実体について、改めて東弊重工に対する徹底的な調査が実施された結果、頓挫したと見られていた『TH-G計画』が現在も秘密裏に進行している可能性が示唆されました。しかしながら、Bの直接の上司であった工場長13はBが作成していた機動兵器については何も知らなかったと見られており、Bが平素から同僚とのコミュニケーションに問題を抱えていたこと、嘱託職員から正社員となったことで同世代の職員よりも格段に低い給与しか受け取っていなかったことについて多大な不満を募らせていたことが明らかとなりました。
自宅への家宅捜索の結果、Bが東弊由来の異常物品を多数入手していた14事実を考慮しても、人的コストの面から機械実体を単独で製造したとは考えづらいと見られています。ろをず氏を含む複数の社外協力者が推定されますが、通話記録等のエビデンスに乏しく、調査は進展していません。尚、東弊の財団に対する協力的な姿勢を維持するため、『TH-G計画』の本格捜査は一時保留されています。
異常性質: EE-2110-JPは精神影響により人間の理性・悟性を操作、もしくは減退させます。影響型には、
- 曝露者の暴力性、攻撃性を増加させるもの(δ型)
- 曝露者のEE-2110-JPに対する関心を失わせる、または傍観者化させるもの(λ型)
の二種類が確認されています。
暴動の当事者にはδ型が多く確認されたのに対し、財団や日本政府の構成員を含むEE-2110-JPの収容・制圧担当者の殆どがλ型の影響を受けたことから、発生当時よりEE-2110-JP現象の遂行に都合の良い影響型が意図的に選択されている可能性が示唆されていました。しかしながら、EE-2110-JPに自身の収容・制圧担当者を分別する知性があるか不明であり、また分別の手段も判明していなかったため、二種類の影響型選択がどのような条件で行われているか、考察・調査が進められてきました。
曝露者に対する広範な調査の結果、EE-2110-JP研究チームはδ型及びλ型影響の選択に曝露者の社会的・経済的地位が密接に関係していることを突き止めました。政府や財団など公的機関の関係者や大企業の社員、経営者など経済的に安定している・裕福な者の89%以上がλ型の影響を受け、一方で中小企業の従業員や学生、主婦や無職、派遣労働者など独力での経済力に乏しい者の78%以上がδ型の精神影響を受けていました。特にDクラスを除く財団職員にδ型影響者が皆無であった理由として、正規職員の殆どが一般的な日本国民よりも経済的に恵まれた生活を送っていることが考えられます。
更なる研究により、EE-2110-JPが発揮した精神影響力とMGI指数15が負の相関を示すことが明らかとなりました。特にδ型影響者は異性愛者の日本人男性が大半を占めていましたが、一般的なMGI指数が低い順に曝露者の属性を分別すると、日本人異性愛男性<日本人異性愛女性<各種社会的マイノリティの順となり、これはCを含むパラヒューマン職員の被影響度が(個々の認知抵抗値とは無関係に)一様に低かったこと、またCが遭遇した人種/民族/性的マイノリティの人物の多くが強い異常影響を受けなかったこととも直感的に符合しています16。2110-JP-Xが特に影響度の低い曝露者を執拗に攻撃していたことを含めて、EE-2110-JP現象自体が社会的マイノリティの選択的虐殺のために引き起こされたと研究チームの一部は主張しています。
起源: 財団は現象鎮圧に当たって2110-JP-X実体のサンプルを多数回収、生化学的分析を行いましたが、非異常のハシブトガラスとの明瞭な差異は発見されませんでした。異形化・武装化した羽根や触手等の部位は元々のカラスの肉体を再形成して作られており、急速な生物学的変形やクローニング増殖を実行できた理由も現在の所不明です。
EE-2110-JP現象の情報を隠蔽するため、財団がCDNプロバイダーの意図的な障害を引き起こし大手SNSサイトをダウンさせたところ、2110-JP-Xの増加数が急減し、異常影響力も弱体化するという現象が起きました。このことから2110-JP-Xと大手SNSサイト、引いては東京IAFの開催について同SNS上で連日激しい論争が続いていた事実には何らかの因果関係があると考えられ、調査が進められてきました。
EE-2110-JPの被影響地帯を調査したところ、各所で2110-JP-X実体を示すと見られる”シンボル”が描画されていることが確認されました。”シンボル”はEE-2110-JP現象曝露者によって描画されたものと考えられており、その形態的類似性から、財団は日米共同で大手SNSサイト運営会社に対し強制捜査を実施しました。経営陣は一貫してEE-2110-JP現象との因果関係を否定しており、関連の有無を示す確たる証拠は現時点で発見されていません。

新宿御苑にて発見された”シンボル”の例。破壊された看板の裏にスプレーで描画されている。
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