SCP-2120-JP
評価: +18+x
blank.png

アイテム番号: SCP-2120-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-2120-JP内部の調査は現在も継続しています。調査に参加するには自身の有する恐怖症を全て提示することが求められます。調査記録については第66記録保管庫を参照してください。SCP-2120-JP対象者は経過観察対象者を含め、定期的なカウンセリングを行うことが義務付けられ、一部生活制限を受けた状態で雇用継続されます。

説明: SCP-2120-JPは旧エリア-81██内部に存在するマンホール及び、その地下内部に広がる全長不明の構造群です。この構造はエリア-81██の運用時には確認されておらず、施工者、施工時期、ならびに施工目的の一切が不明です。

SCP-2120-JP内部は複数の部屋とそれを繋ぐ通路で構成されています。内部の構造は複数回の増築が繰り返されたと推測され、複数の部屋を通過する必要のある部屋、トマソン的空間ならびに到達する通路の存在しない部屋などが存在しており、内部のマッピング調査は継続中です。この調査は後述の異常性により遅延しているものの、現在段階で75の部屋、189の通路が確認されています。

SCP-2120-JPの部屋に通ずる扉には全て真鍮製のプレートが設置されています。それぞれのプレートには異なった単語が記入されており、部屋の内部はそれらを想起させる物品が存在します。

以下は各部屋のプレートと内部物品の抜粋です。

部屋1
プレート: 死体 (Necro)
室内物品: 顔面が激しく損壊した女性の死体が存在します。これまでに腐敗の兆候は確認されません

部屋2
プレート: 社交 (Socializing)
室内物品: 5体の精巧なマネキンが存在します。マネキンの周囲からは不定期に話し声や呼びかけが確認されます

部屋3
プレート: 嘔吐 (Vomiting)
室内物品: 部屋の角に吐瀉物が存在します。内容物には米、トウモロコシ、ホウレンソウなどが確認されます

部屋4
プレート: 海洋 (Ocean)
室内物品: 一面がアクリル板になっており、外部には海底と推測される風景が展開しています。風景の同定は現在段階で成功していません

部屋5
プレート: 高所 (Top)
室内物品: 底面がアクリル板になっており、高度約1000m地点からの風景が展開しています。この風景は地球上を周遊していると推測されます

SCP-2120-JPの異常性はプレートの単語に対応する恐怖の感情を有した人物(以降、対象者)がSCP-2120-JP内部の部屋に侵入した際、発生します。これはICD1やDSM2などにおける恐怖症の基準に満たない場合においても発生することから、暫定的に対象となる存在、事象に対し恐怖心を抱くことが発生の条件であると推測されています。これにより、内部調査において明確な診断基準が策定されないことが現在課題として挙げられています。

対象者が部屋内に侵入したタイミングで部屋の扉が閉まり、施錠されます。この施錠を阻止すること、ならびに施錠された扉を破壊する試みは複数の機材、人員の喪失を経て停止されています。また、侵入した人物が同時に複数存在する場合は、対象者の条件を有する人物以外が不明な斥力により通路へ押し出され、排出された段階で施錠されます。

施錠により閉じ込められた対象は恐怖の対象が部屋内部に存在することから、非異常性のパニック、不定愁訴、ならびに頭痛などの身体症状を発症する不安障害の状況に置かれます。発症後、徐々に不安障害の症状を脱し、最終的には恐怖症の快癒に繋がります。恐怖症が快癒した段階で部屋の施錠は解除され、対象者は脱出することが可能です。快癒までの時間は平均して約35時間であり、快癒までの間摂食や排泄を必要としないことから、一時的に生理現象が停止しているものと推測されます。これは一般的な曝露療法等と比較し、非常に期間の短いものであること、SCP-2120-JP内部の部屋で快癒した恐怖症には再発の事例がないことから、SCP-2120-JPの異常性の一環であると推測されます。

2███/██/██、██上級研究員をはじめとする研究チームより、SCP-2120-JPの異常性が、財団職員の精神衛生状況を改善するにあたって有用であるという提案が行われました。これを受けThaumielオブジェクトへの変更手続き可否も含め、SCP-2120-JPの第四次調査が行われました。これは第三次調査までが内部探索に重きを置くものだったことに対し、影響を受けた対象者への追跡調査ならびにSCP-2120-JPの精神影響を含めた広範的調査を目的に実施されました。

第四次調査の結果、SCP-2120-JP対象者においてそれ以外の職員と複数の有意差が確認されました。以下は前述した各部屋の対象者を比較したリストです。

部屋1
プレート: 死体 (Necro)
対象者: 全75人中、75人が死亡

部屋2
プレート: 社交 (Socializing)
対象者: 全128人中、120人が死亡。内98人が複数名の視認下での死亡。15人が他者との会話中に自死

部屋3
プレート: 嘔吐 (Vomiting)
対象者: 全54人中、32人が死亡。内29人が吐瀉物を喉に詰まらせたことにより死亡

部屋4
プレート: 海洋 (Ocean)
対象者: 全37人中、31人が死亡。内28人が海や湖での溺水による死亡

部屋5
プレート: 高所 (Top)
対象者: 全281人中、267人が死亡。内250人が高所からの落下による死亡

この結果は、同世代、同環境の人間と比較しても突出しており、SCP-2120-JPの有効利用申請は即時凍結され、対象者全員に対する深域心理スクリーニング、ノウスフィア領域検査をはじめとした精神影響に対する調査が行われました。その結果、SCP-2120-JPによる精神影響は否定され、対象者全員において、精神衛生状況が過去に行われた調査結果より改善されていることが確認されました。

これを受け、対象者にカウンセリングを兼ねたインタビュー調査が実施されました。以下は調査時の聴取ログです。

インタビュー記録2120-JP-01 - 日付 2███/██/██

インタビュアー: 護良研究員

対象者: ██上級研究員(SCP-2120-JP調査時、偶発的に対象者になる。対象となった単語はピエロ(Clown))

«再生開始»

[事実確認のため省略]

護良研究員: 確認になりますが、自身の認識としてはピエロによって死にたい、と考えられているのですね?

██上級研究員: 微妙に違いますね。それが事実だとしたら明らかな精神汚染だとは思いませんか? 説明は難しいんですが、SCP-2120-JPの影響を受けて以降、そうなるのが当然なこと、自然なことなんだと思い始めたんです。つまり、汚染されたのではなく、元々汚染されていたものが正常に戻った、という感覚が近いでしょうかね

護良研究員: それは予定説や運命論といったものなのでしょうか?

██上級研究員: そういった観念的なものではないような気がします。先生は恐怖症についてどのような認識でおられます?

護良研究員: 専門ではないので具体的な表現はできかねますが、明確にできない危機感、不安感を特定の対象に対し紐づけることと考えています。そのきっかけを幼少期の経験や実際に遭遇した個人的な事例に求めることもできるでしょうし、所属する集団の有する禁忌や文化に求めることもできるだろうと思いますので、一概に導線を引くことは困難だとは思いますが

██上級研究員: そうですね、私も似たような意見でした。ただ、SCP-2120-JPの影響を受けて気づいたのですが、おそらく恐怖症、……いえ、恐怖は扉のようなものかもしれないと思うんですよ

護良研究員: 扉?

██上級研究員: はい、鍵のかかった扉。この先に何かがあることは分かっているがどうしても開かない扉ですね。扉がある以上こちらとあちらの空間は完全に別のものです。ですが、扉が開けばこちらとあちらは繋がり同じ空間になる。つまり彼岸と此岸の区別は弱くなる。今いる場所と扉の先の場所は同じものになる

護良研究員: なるほど、高所恐怖症でいえば、高所からの落下は死への恐怖を想起させる。しかしその恐怖が開かれてしまえば生と死の境界は曖昧になり、言ってしまえば死ぬことが生きることと区別できなくなる、と

██上級研究員: そうですそうです。だから、当たり前のように死んでしまう。ただ、あくまで扉という曖昧な境界は残るため、そこを飛び越えるにあたって、かつての恐怖の名残を辿ってしまう方が多いのではないかと考えます

護良研究員: ██さんにとってはそれがピエロであると

██上級研究員: 私にとってはそうなりますね。もちろん、他の恐怖症に接触していればその恐怖に由来していたとは思いますが。ただ、どのように死ぬかまでは分かりませんし、ピエロと何の関係もなく死ぬかもしれません。これで説明ができるのではないでしょうか?

護良研究員: 確かに納得できる推論ではあります。ただ、 ██さんの論でいえばいくつかの例外があるように思えます

██上級研究員: そうですね。先生の言っていることは分かりますよ。正直な話、私はそれを考えないようにしてました、いえ、恐怖していましたから。ただ、これは推測ですがなんでSCP-2120-JPがどこの記録にも残ってないのか、誰も知らないのかはそれが原因だと思います。誰かがそれを作って開けたんでしょう。恐怖というものが死への鍵がかかった扉であるならば、扉と部屋が同一の場合、それを開けた場所には何があるのか、と

護良研究員: "死"の扉は現在見つかっていません

██上級研究員: ええ、私はまだ、それが怖くてたまらないのですよ

«再生停止»

現在もSCP-2120-JP内部の探索は継続しています。

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。