アイテム番号: SCP-2122-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-2122-JP群は、サイト-81██の低危険度物品収容ロッカーに保管されます。全てのオンラインショッピングサイトは財団のウェブクローラーにより監視され、SCP-2122-JPと疑われる出品は財団ウェブエンジニアによって出品停止措置がとられます。既に一般人により購入されたSCP-2122-JPが発見された場合は速やかに回収し、関係者に記憶処理を行って下さい。
説明: SCP-2122-JPは、不定のオンラインショッピングサイトにて「Black clothes-AC」と称する出品者により不定期に販売される皮革製品群1の総称です。SCP-2122-JPは異常性を除けば複数のブランドの既製品と同一であり、既製品に第三者が異常性を付与して市場に流出させているものとみられています。また当該オブジェクトの出品者コメントには必ず以下の文面が含まれるため、出品者名と共に発見時の手掛かりとして活用されます。
ご購入の検討、有り難うございます。しかし、動物たちは本当に、こんな事のために生まれてきたのでしょうか?
時には、そんなことも考えてみて下さい。
SCP-2122-JPを購入した人物(以下、"購入者"と表記)は、当該オブジェクトを受け取ると即座に「SCP-2122-JPに加工されたものと同種の動物だった自身の前世の記憶」を思い出したと報告し、SCP-2122-JPを「前世での自身の同胞の内、特に大切な個体が加工された」製品だと認識します。この影響は時間経過などで減衰することはありませんが、クラスB記憶処理によって取り除くことが可能です。またこの"前世の記憶"は、実際のその動物の生態とは矛盾する場合もあることに留意してください。
発見経緯: SCP-2122-JPは20██/07/03、実子と妻への暴力事件で逮捕されていた高宮 ██氏の自宅より初めて回収されました。高宮氏は「息子が牛靴にされた」との異常な供述を繰り返しており、当時同様の事案が複数発生していたことから財団の調査対象となっていました。
本件を受けて、当初は高宮 ██氏へのインタビューが予定されていましたが、高宮氏は当時激昂状態にあり有効な証言が得られなかったため、息子である高宮 █氏へのインタビューが実施されました。以下は、同氏へのインタビュー記録です。
対象: 高宮 █氏
インタビュアー: 光藤研究員
<録音開始>
光藤研究員: それでは、当時のお父さんの様子について聞かせて下さい。
高宮氏: [嗚咽]はい……お父さん、おかしくなっちゃったんです。本当は、優しいお父さんだったんです。あの日もお父さんとお母さんと、ハンバーガーを食べに行く約束をしてて。[13秒間嗚咽]
光藤研究員: 落ち着いて下さい。大丈夫ですから。
高宮氏: ……出かける準備をして、お父さんの部屋に行ったら、お父さんは机の前に立って震えてました。僕からは背中しか見えなかったけど、机の上に靴が置いてあったんだって後からお母さんに聞きました。それで、どうしたんだろうと思ったけど、遅れそうだったから「お父さん、ハンバーガー……」って言いました。そしたら……
光藤研究員: そうしたら……お父さんは、どうなったのですか?
高宮氏: 見たこともない真っ赤な顔で振り返って……おでこに何本も皺を寄せて、ものすごい目で僕を睨みました。それで……[嗚咽]何度も……何度も殴られました。「ハンバーガーだと」、「どこまで俺たちに酷いことを」とか、「ろくでなしの人間野郎」とか言われて……「俺の息子面するな」、って……。[嗚咽]それで……僕……怖くなってお母さんのところに逃げました。
光藤研究員: 成る程……その後は……
高宮氏: お父さんが走って追いかけてきて、そのままお母さんに頭突きしました。お母さんがはね飛ばされて、お父さんが暴れて部屋が滅茶苦茶になって、訳がわからなくて、でもお母さんが「息子なら、█ならここにいるじゃない」って言ったのは聞こえました。でもお父さんは「ソイツじゃない」、とか言って……今度はまた僕の方に……。
光藤研究員: ……その後も暴力は続いた、と。
高宮氏: はい。息子の苦しみがどうとか、叫びながら……。今度は何度も蹴られて踏んづけられました。お母さんが止めようとしたら椅子と机をひっくり返して、机がお母さんに当たって血がいっぱい出ました。それで冷蔵庫の牛乳とか肉とかをお母さんにぶちまけて、「こんな酷ぇもんを」って、「酷ぇことばっかしやがって」、って怒鳴って、お母さんを……僕も左目が見えません。[嗚咽]酷いのはお父さんだよ……[嗚咽]
光藤研究員: よく分かりました。有り難うございます。
<録音終了>
その後SCP-2122-JPが関わる複数の事案の調査によって流通経路が判明し、現在の特別収容プロトコルが策定されました。
実験記録2122-JP-02 - 日付20██/10/13
担当者: 愛宕博士
被験者: D-212202
実験目的: SCP-2122-JPが、事前に異常性に関する知識を有する購入者に与える影響を観察する
実験概要: D-212202にSCP-2122-JPの異常性を説明した上で、ウェブクローラーによって発見されたSCP-2122-JPの1実例を購入させる
この際D-212202は財団の管理する住居に留まらせ、送り先住所として当該住居の住所を指定する補遺: 実験に於いて使用されたSCP-2122-JP実例はミンク毛皮のマフラーであった
結果: 以下に映像記録の抜粋を示す<抜粋開始>
[D-212202はSCP-2122-JP実例を受け取り、開封すると静かに泣き始める]
D-212202: (不明瞭)ごめんな、ごめんな……愛宕博士: D-212202。
[D-212202は壁にもたれる形で座り込み、胸の前でSCP-2122-JP実例を抱き抱える]
愛宕博士: D-212202、応答しなさい。
D-212202: あ、ああ、先生、すまねぇ……[16秒間沈黙]俺は……大切なつがいを守ってやれなかった……
愛宕博士: 詳しく聞かせて下さい。
D-212202: (不明瞭)撃たれたんだ……。血走った目をした人間に……。薄寒い秋の日だった。あいつは何かに引っ掛かって……それが罠か偶然か、具体的に何だったのかは分からねぇ。とにかく、何かに引っ掛かって逃げられなくなった。それで撃たれたんだ。あいつに銃弾がぶちこまれた。痛かったろうにな……。苦しかったろうにな……。
愛宕博士: 貴方は前世に於いてミンクだった、という認識で宜しいですか?D-212202: そうだ。[6秒間嗚咽]俺たちは、人間から逃げ回ってた。枯れ木の隙間に身を隠して、俺たちは愛し合った。それが最後の安息だった。赤や黄色の落ち葉の中を逃げ回って、それで……。俺は最期の瞬間の、あいつの目が忘れられねぇ。悲しみを湛えて、絶望して、そんな目で俺を見つめてたんだ……。
愛宕博士: ではD-212202、事前に学習したことを改めて復唱してください。毛皮用のミンクはどこで生育しますか?D-212202: や、野生ではなく、人工の施設内で……
愛宕博士: ミンクの交尾期は?
D-212202: [5秒間沈黙]2月から3月、冬の間だ。でもよ……
愛宕博士: SCP-2122-JPの異常性については、事前に説明をした筈ですね?貴方もそれを了承した筈です。D-212202: あ、ああ……理屈じゃ分かってるんだ。でもな……[9秒間沈黙]記憶と心の中じゃ違うんだよ。彼女は間違いなく、俺の大切なパートナーなんだ。
愛宕博士: D-212202、それは……
D-212202: ああ、分かってる、分かってるよ。でも、でもな……ようやく初めて心から大事に思える相手に出会えたんだ……こんな姿に、なっちまってるけどよ……
[以降10分間に渡り、D-212202は啜り泣き、呼び掛けに応じなくなる]
<抜粋終了>
補遺: 実験終了後、D-212202はSCP-2122-JPの回収に抵抗し、「もう離れ離れにしないでくれ」等の発言を繰り返した
分析: 購入者が事前に異常性の知識を有していた場合でも、SCP-2122-JPの効果が無効となる事はないようです
補遺1: 20██/06/15、著名な皮革製品ブランドである████社が販売した数量限定受注生産品"████bag-ostrich"全40点の内23点が、SCP-2122-JPとして「Black clothes-AC」名義で転売されている事が検知されました。これにより、受注履歴及び配送先住所の調査が行われ、配送先であった建物が特定されました。財団が調査に向かった際には既に空室となった賃貸物件でしたが、直近の入居者履歴から「黒服のアンチカーニズム2」の関与が示唆されています。
補遺2: 20██/04/24、██県██市立██小学校にて、「家族の絵」を描く授業に於いて一年生の生徒全員が牛の絵を描く事案が発生しました。本事案は教育機関に潜入していたエージェントによって報告され、調査の結果一年生生徒全員のランドセルがSCP-2122-JPであったことが判明しました。また本事案に於いて回収されたSCP-2122-JP群はいかなる既製品のランドセルとも一致せず、流通経路、流通量共に不明です。分析の結果、本件のSCP-2122-JP群には牛革に由来するウシ(Bos taurus)のDNAに加えて、イヌ(Canis lupus familiaris)、ネコ(Felis catus)、ブタ(Sus domestica)、ニワトリ(Gallus gallus)等を含む21種の動物の体組織とDNAが含まれていました。この事案を受けて、追加調査として全国の小学校にて「家族の絵」の課題を課したところ██県、██県、███県、██府の複数の小学校で散発的に同様の事例が確認されました。影響下の児童からは共通して、「お父さん/お母さんが黒い服を着た人間たちに連れていかれてランドセルになった」との証言が得られています。