SCP-2124-JP
評価: +18+x
blank.png
%E7%AB%B91

SCP-2124-JP

アイテム番号: SCP-2124-JP

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: 保安規則に則り、雨の海地域の画像は月面エリア-32および異常現象の存在を排除したものに置き換えられています。SCP-2124-JPが群生している領域周辺に設置された観測機器を使用し、月面の担当職員は定期的に観測記録を送信してください。増加したSCP-2124-JPには耐久性の検証を行い、物理的な干渉が可能な場合には機動部隊ベータ-7("翁")がエリア/2124-JP内部に侵入し、イベント-カグヤの記録を行います。

日本国内の各地に配置された機動部隊ま-6("五人の公達")は記録された情報を元に調査を行い、優先的にSCP-2124-JP-Aの身元を特定し、通常隠蔽マニュアルに沿って対応を行ってください。また、継続的にSCP-2124-JP-Bについての調査も実施してください。

説明: SCP-2124-JPは異常性を有したハチク(Phyllostachys nigra var. henonis)です。SCP-2124-JPは月面・雨の海付近の████地点を中心に群生しており、不定期に若芽を成長させ群生している領域を拡大させます。地下茎は全て繋がっており、一個体から構成されると考えられています。

SCP-2124-JPの殆どは強い破壊耐性および現実/過去改変に対する強い耐性を有していますが、一部は非常に頑強ながらも外部からの干渉が可能です。それぞれの稈内部の空洞には、現実の日本と同一の面積と環境を有する異常空間(以下、エリア/2124-JPと呼称)が存在しており、複数の人型実体が存在しています。

各エリア/2124-JPに存在する人型実体の一体(以下、SCP-2124-JP-Aと呼称)は観測機を用いた分析と継続的な調査の結果、日本国内に実在している人物であり、不明な方法でエリア/2124-JPに転移させられたものであると考えられています。また、全ての例において程度の差はあれど社会との関りを自主的に断っている人物である事が判明しています。その他の個体(以下、SCP-2124-JP-Bと呼称)は入念な調査の結果、転移した人間ではないと結論付けられており、SCP-2124-JP内部で発生したものと仮定されますが詳細は不明です。

SCP-2124-JP-Aは失踪時の年齢に関わらず胎児の状態に変化しており、エリア/2124-JPで発生する下記のプロセス(以下、イベント-カグヤと呼称)の流れに沿って、失踪時の年齢まで成長していきます。

%E7%95%B0%E5%B8%B8%E6%80%A7%E6%A6%82%E7%95%A51216

SCP-2124-JP内部の概略図

  • 概略

イベント-カグヤはSCP-2124-JP-Aの精神的な成長を促すプロセスであると考えられています。エリア/2124-JPに存在する実体は一切の物理的干渉を受け付けません。また、エリア/2124-JP内外では時間流速度の差異があり、内部での10年は外部での約1時間に相当します。1

イベントフェーズ1

SCP-2124-JP-Aはハチク内部に胎児の状態で収納された状態で、空中から飛来します。着陸したSCP-2124-JP-Aを発見した2体のSCP-2124-JP-Bは、自身をSCP-2124-JP-Aの親であると認識し育てようとします。

イベントフェーズ2

SCP-2124-JP-Aは12歳程度までに成長するまでに、複数の同年代であるSCP-2124-JP-B個体2と必ず友人関係になる事が確認されています。SCP-2124-JP-A自身がいかに孤立するような行動を取ったとしても、友人役のSCP-2124-JP-B個体は決して距離を取るような行動を取らない事が特筆されます。

SCP-2124-JP-Aは学校生活や、両親役や友人役であるSCP-2124-JP-Bとの基本的な交流を通じて、SCP-2124-JP-Aは自ら進みたい進路を定めます。18歳~23歳まで成長したSCP-2124-JP-Aが自らの希望する人生設計を説明した直後、SCP-2124-JP-Aは現実での記憶を取り戻し昏睡状態に陥ります。

イベントフェーズ3

昏睡から24時間後、SCP-2124-JP-Aは失踪時の年齢まで成長した状態で覚醒します。同時に、両親役と友人役以外のSCP-2124-JP-B個体が全て消失します。

残るSCP-2124-JP-Bは、自身がSCP-2124-JP-Aの両親又は友達であると変わらず認識しています。SCP-2124-JP-Aに状況を説明されたとしても、SCP-2124-JP-Bは正確な状況を理解できず混乱しますが、共通してSCP-2124-JP-Aが前向きな精神状態になる事を望み、激励するような行動を取ります。

イベントフェーズ4

覚醒から24時間後、上空から発光する人型実体3が複数出現します。人型実体はSCP-2124-JP-Aを精神的な苦痛の無い状態へと誘うような発言を繰り返します。

同時に、残されたSCP-2124-JP-Bが20代~50代頃と思われる年齢に変化します。変化したSCP-2124-JP-Bは共通して、SCP-2124-JP-Aを保護しようとします。

SCP-2124-JP-Aは前述の通り、精神的な苦境に陥っているため誘いを受け入れようとしますが、SCP-2124-JP-Bはそれを止めようと説得を行います。これまでの全ての例において説得は成功しており、SCP-2124-JP-Aが人型実体の誘いに対し拒絶する姿勢を取ると、イベント-カグヤが終了します。


イベントが終了するとエリア/2124-JPは消失し、SCP-2124-JP-Aは現実に帰還します。周囲の人物に対しては小規模な記憶改変が発生しており、SCP-2124-JP-Aは失踪していないように認識されます。また、エリア/2124-JPで体験した記憶は失われているようですが、社会性の向上及び抱えていた精神的な疾患の大幅な改善が確認されました。

エリア/2124-JPと同時に消失したSCP-2124-JP-Bなどの実体に対しては広域調査が行われましたが、存在は確認されませんでした。


補遺1: SCP-2124-JP個体群が一斉に開花し、その後枯死したSCP-2124-JPが次々と地球に向けて射出される事案が発生しました。射出された全ての個体は日本国内の様々な位置に着陸し、その後発光します。財団により回収作業が行われていますが、回収後も96時間おきに日本国内のランダムな位置に転送し続けるため、事実上収容が不可能な状態です。回収したSCP-2124-JP個体の破壊は可能なようですが、現在まで全て見送られています。


補遺2: 記録上、回収したSCP-2124-JPの破壊実験は行われていません。しかし、SCP-2124-JPの回収作業に従事した███名の職員の約80%が何らかの経緯で養子縁組を行ったり、死亡した親族の子供の里親になるなどで子供を養育している状況にあり、その子供が成長していくにつれ、これまでに記録されてきたSCP-2124-JP-Bの容姿と酷似してきている事が確認されました。

追跡調査の結果、地球上で確認された対象がフェーズ4で変化した年齢まで到達した時点で、エリア/2124-JP内部での記憶を取り戻す事が判明しました。この事から、射出されたSCP-2124-JPを破壊すると、記憶改変に加え過去改変が発生し、胎児の状態のSCP-2124-JP-Bを養育する事になるものと推測されます。


補遺3: 以下は、記憶を取り戻したSCP-2124-JP-Bへのインタビュー記録の一部抜粋です。

インタビューログ2124-JP-██

対象: SCP-2124-JP-B-267(以下、B-267と表記)男性、27歳。

インタビュアー: 石上研究員

付記: SCP-2124-JP-B自体に異常性は認められず、また確認できている全ての個体が財団職員による追跡と記録が容易な状況にある事から、監視対応に留まり収容は行われていません。

<記録>

石上研究員: それでは、知っている限りの事を教えて下さいませんか。

B-267: ……あの世界での結末は、2種類あると思っています。

石上研究員: それは、どういう事ですか?

B-267: 先程の事前説明で、あの世界で繰り返される展開について少しだけ教えてくれましたよね。そして、最後にあなた方は転移した人間の成長を促すという仮定を仰っていた。……おそらく、それは間違っていません。でも、疑問に思った事はありませんか。社会に馴染めなかった人間が、あんな簡単に前向きに成長するものなのだろうか。アッサリしすぎじゃないかと。

石上研究員: 続けてください。

B-267: かなり昔になります。私もあの世界に飛ばされ、迎えを受け入れるか拒むかを選択する立ち位置に居たんです。そして、私はあの世界への迎えを受け入れました。

石上研究員: こちらの調査では、あなたが失踪したという記録を見つける事が出来ていないのですが。

B-267: 自分もかつての自分の記録を探して、とても驚きました。だって、最初から居なかった事にされているんですから。ショックもありましたが、安堵の感情もありました。私は今、新しい人生を生きている所なんですから。何も知らずに過ごして来た幼少期からの記憶も当然ありますし。

石上研究員: なるほど。転移される前のあなたはどのような人物だったのですか?

B-267: 同じですよ。色んな事から逃げて、自分を守るのに必死な奴でした。働いてはいたんです。でも少しずつ自分の愚図さと幼稚さが比べられる事でクッキリしてくると、まず同世代の人間と関わるのが嫌になってきて、それをキッカケに職場で浮いた存在になっていきました。それでも皆、優しくしてくれたんですよ。……露骨なくらい。仕事を辞めた後は引きこもりになりました。両親は感情を隠さないタイプですけど、受け入れてはくれたんです。それから……色々あって、そうした頃に、自分はあの世界に居ました。

石上研究員: なるほど。すみません、話を戻しましょう。あなたは迎えを受け入れたんですよね。それから、どうなったのですか?

B-267: しばらく眠ったような感覚の後、自分は何も知らない子供になっていました。ただ、自分の孤立していた子供時代と違って、沢山の友達に囲まれていて、間違いなく親友も居ました。

でもある日突然、自分は全てを取り戻した状態でそこに居て、月からの迎えを前に親友もかつての自分と同じような状態になっているのを目の当たりにしました。親友の心は痛い程分かりました。あの世界に行くのが嬉しいわけでは無いんです。社会に馴染み繋がりを持って豊かになりたい。それが本当で、逃げているのを自覚しながら逃げるのは苦痛でしかありません。必死に止めました。でも、親友は行ってしまった。

石上研究員: それから、どうなったんですか?

B-267: 合間の記憶は曖昧ですが、意識がハッキリした時には自分は子供を育てていました。知らない間にパートナーが居て、仕事は辛かったけれど自分の可愛い子供が成長するのを見るのは幸福な気持ちでした。でも、また繰り返しです。突然自分に戻り、息子を共感しながら見送った。今度は両親を失望させたことに対する罪悪感を思い出しながら、親としての気持ちを味わうというオマケ付きで。

石上研究員: その次は?

B-267: 今ここです。また丁寧にやり直して、こんな自分に帰って来てしまった。

石上研究員: しかし卑下されていますが、今はかつてのあなたとは違うのでは無いですか?仕事でも責任ある立場ですし、同僚との付き合いもあります。何より奥さんも息子さんも居るじゃないですか。

B-267: ええ、自分でも驚きました。不思議なんです。記憶を取り戻す前の自分に、かつての自分の記憶が混ざって、全く別の人間になるはずなのにそれほど違和感が無いんです。家族にも全く気付かれなかった。自分自身のまま、生まれ変わってようやく変われたという事なんでしょうか。……それでも、本音を言うと僕は記憶を思い出したくは無かった。でも、だからこそ何となく分かった事があります。

石上研究員: 何でしょうか?

B-267: あの世界は成功するまで無限に繰り返すんです。自分みたいな人間を永遠に閉じ込めて、「友人に恵まれた子供時代」と「親の目線」を与えて、変わるまで繰り返し続ける。永遠に続ければ、そりゃいつか抜け出せるでしょうから。

石上研究員: 永遠に、ですか。

B-267: 外からは、あの世界から抜け出した瞬間しか見えない。でも実際は自分のように苦しみながら迎えを受け入れる事を選ぶ人も居ます。自分はたまたま、その無限から抜け出せましたけど、本当に全員がそう都合よく変われるんでしょうか。

生まれ変わっても、結局は上手く行かなくて、もう一度あの世界で誘いを受け入れたら?その繰り返しの中に居ない私達は、その結果を知る事は出来ないんじゃないですか?自分のように最初から居なかった事になるんでしょうから。曖昧に自分という物を保ってきましたけど、それすら消えたら?そうなれば、本人すら何回繰り返してきたか自覚できない。

石上研究員: それは……。

B-267: でも、その永遠に自分は救われた。それは事実です。何かが苦手で周囲からのフィードバックの機会も少なくて、でもそんな自分を情けないと感じていて。行動に移せず周りから口だけだと思われながら、頭の中でウジウジ考え続けているような自分を、「かぐや姫」みたいに連れて行ってくれたから。今の自分があるんです。

<終了>


提唱された仮説が正しければ、SCP-2124-JP-AとSCP-2124-JP-Bはエリア/2124-JPを脱出したタイミングが違うだけであり、由来は同一であると考えられます。地球上で確認されたSCP-2124-JP-Bが再びSCP-2124-JP-Aの対象に選定され、フェーズ4で迎えを拒絶した場合、帰還時の記憶改変が財団全体に及んでいる可能性を否定できません。また、迎えを受け入れた場合に大規模な過去改変が発生するという証言も、当初SCP-2124-JP-Bについての追跡調査が失敗している事が裏付ける形となっています。

%E7%95%B0%E5%B8%B8%E6%80%A7%E8%80%83%E5%AF%9F%E3%81%BE%E3%81%A8%E3%82%811216

予想されるSCP-2124-JPの異常性


補遺4: 月面のSCP-2124-JPが再生している事が確認されました。性質に変化が無い場合、今後も非異常のハチクの開花周期と同じ120年前後の周期で開花し、地球上に飛来すると推測されます。また、SCP-2124-JPがもたらす過去改変の影響はエリア/2124-JPに転移した人間の周辺に限定されるものと考えられています。財団が関与した事が要因の大規模な過去改変が発生するリスクを抑制するため、捕捉したSCP-2124-JP-Bに対しての詳細な追跡調査を凍結し、対応を記憶を取り戻した際に発生する間接的な事案に対してのみに留める事が決定されました。

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。