SCP-2137-JP
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アイテム番号: SCP-2137-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-2137-JPはサイト‐81██の低危険度物品保管庫に収容されます。Dクラス職員を用いた実験に使用する際はセキュリティクリアランスレベル2以上の職員の許可を得た上で行ってください。実験にはその時点で何らかの代替不可能な業務を担っている最中のDクラス職員を借り受けて利用することが推奨されます。
SCP-2137-JP内部の様子は、ビデオカメラによる映像を通して常にモニタリングが行われます。

説明: SCP-2137-JPは一般的なスチール材で構成された業務用ロッカーです。構造に非異常性のロッカーとの差異はありません。SCP-2137-JPは通常非活性状態を維持しており、後述する条件が整った時以外での異常性の発現は確認されていません。

SCP-2137-JPは、その内部に人間(以下、対象と表記)が入って扉を閉め、外にいる人間からの「もういいかい?」という呼び掛けに対して「もういいよ」と応答することで活性化します。この条件から、SCP-2137-JPの異常性は多くの場合「かくれんぼ」と称される遊びをSCP-2137-JPを利用して行った時に発現していたものと推測されています。

活性状態になったSCP-2137-JPは、約8%ほどと推測される確率でほぼ全ての場合において対象をSCP-2137-JP内部から「放出」します。この時SCP-2137-JPの外部にいた人間は、対象が自ら外部へ飛び出て来たように認識しますが、対象は一貫して「背中を誰かに突き飛ばされた」と主張しています。

SCP-2137-JPに「放出」されなかった場合、対象は目視による観測が不可能になります。ただしビデオカメラ等の映像機器を用いると、対象は依然としてSCP-2137-JP内部に存在していることが確認可能です(以下、この状態を半消失状態と呼称します)。半消失状態の対象に装備させたGPS発信機等の装置は正常に動作しますが、物理的干渉は全て対象を透過し、通信機等による呼び掛けに対して一切の反応を見せなくなるため、半消失状態に移行した対象とコミュニケーションをとることは不可能です。対象の探索及び救出を周囲にいた人間が断念すると、対象は完全に消失し以降の追跡は不可能になります。対象が「放出」及び「消失」させられる条件は判明していません。実験記録を参照してください。

SCP-2137-JPは埼玉県████の私立███高等学校の女子トイレに設置されていました。20██年██月██日、当校の生徒であった菅原由香里が行方不明になったと教師から通報が入り、調査に向かった警察機関に潜入中の財団職員によってSCP-2137-JPは発見、回収されました。学校関係者にはAクラス記憶処理を施しカバーストーリー「一身上の都合による退学」を流布しました。菅原由香里の消失以前にもSCP-2137-JPによる被害が発生している可能性が非常に高い為、財団はSCP-2137-JPが██高等学校女子トイレに設置された正確な時期の特定を進めています設置時期は特定されました。詳細は補遺を参照してください。

当初SCP-2137-JPはDクラス職員を用いた実験から、「内部に入った人間を消失させるオブジェクト」と推測されていましたが、条件を変更した複数の実験を重ねた結果、内部に入った人間が消失する確率はごく低いものと判明しました。


以下は、SCP-2137-JPの異常性を確認するためにDクラス職員を用いて行われた実験記録の抜粋です。

実験記録2137-JP‐01 - 日付20██/██/██

対象: D‐1338

実施方法: 通信機を装備した対象をSCP-2137-JP内に入れ扉を閉める。研究員の外からの「もういいかい?」という呼び掛けに対して、「もういいよ」と応答させる。

結果: D‐1338は半消失状態へ移行。通信機は機能したが、D‐1338は昏睡状態にあり応答なし。24時間後、研究員がD‐1338の救出を断念する旨を発言すると、D‐1338は完全に消失、通信機及びGPSの信号は途絶した。

分析: 予想通りの結果です。こちらから諦めない限り半消失状態は継続されるでしょう。   ██研究員


実験記録2137-JP‐03 - 日付20██/██/██

対象: D‐2086、D‐3391、D‐4295

実施方法: 01と同様にSCP-2137-JP内に入れる。D‐2086には「もういいか?」、D‐3391には「もういい?」、D‐4295には「いいよね?」と外から研究員が呼び掛け、それぞれに「もういいよ」と応答させる。

結果: D‐2086、D‐3391、D‐4295共に半消失状態へ移行した。後に01と同様の手順によって完全に消失。

分析: 呼び掛けの言葉は「もういいかい?」から逸れすぎていなければ、多少崩しても問題ないようです。   ██研究員


実験記録2137-JP‐07 - 日付20██/██/██

対象: D‐4295

実施方法: 同様にSCP-2137-JP内に入れる。「もういいかい?」という研究員の外からの呼び掛けに、「もういいよ」以外の様々な言葉で応答させる。

結果: 対象は消失せず。

分析: 応答の仕方は「もういいよ」でなければSCP-2137-JPは活性化しないようです。   ██研究員


実験記録2137-JP‐13 - 日付20██/██/██

対象: D‐5589

実施方法: N/A

結果: 対象がSCP-2137-JP内にて研究員の呼び掛けに「もういいよ」と応答すると同時に、対象が外へ「放出」された。その後4回に渡って対象をSCP-2137-JP内に入れさせたが、同様に「放出」されたため、実験は中止された。

分析: SCP-2137-JPに新しい異常性が確認されました。低確率で受け付けない対象がいる、ということでしょうか。それとも対象となる人物に何か条件があるのかもしれません。   ██研究員

付記: その後の調査でD‐5589は、他のDクラス職員同士の諍いが発生した際に率先して鎮圧、諌めることが多く、宿舎内でも友好な関係を築いていたことが判明しました。

備考: 私はSCP-2137-JPの異常性として、「他者にとって必要な人間、すなわち消えてもらっては困る人間を消失の対象としない」という仮説を提言します。我々は実験の前提として用意する人間を間違えていたと見るべきでしょう。人倫に悖る言い方ですが我々にとってDクラス職員は「消耗品」であり、いなくなっても替えのきく存在です。我々にとっても必要とされている人材であるならば、D‐5589同様に消失を防げるのではないでしょうか。   海老名博士


海老名博士の提言のもと、実験2137-JP‐14が行われました。

実験記録2137-JP‐14 - 日付20██/██/██

対象: D‐6669

付記: 実験時D‐6669は、SCP-███-JP曝露実験の経過観察中であった。D‐6669が消失すると実験に支障が出ることを、SCP-███-JP担当職員に確認済み。

実施方法: 01と同様。

結果: 対象は即座にSCP-2137-JP内部から「放出」された。なお対象は2週間後に終了したが、これはSCP-███-JPの影響であることが判明している。

分析: 海老名博士の仮説が正しかったようです。対象の必要性が重要であるならば、半消失状態の対象にも影響を与えられるかもしれません。次の実験で検証しましょう。   ██研究員


実験記録2137-JP‐15 - 日付20██/██/██

対象: D‐7238

付記: D‐7238には父親の殺人による死刑判決が言い渡されており、母親にはカバーストーリー「執行済み」を付与していた。

実施方法: 対象がSCP-2137-JPにより半消失状態に移行した段階で、対象の母親に対象が未だ生存している旨を通達する。

結果: 対象の生存を母親が認識した時点で対象は目視可能になり、同時にSCP-2137-JP内部より「放出」された。その後対象の母親にはBクラス記憶処理を施し再度カバーストーリーを付与した。

分析: 半消失状態であっても、対象を必要とする人物がいれば完全な消失を免れるようです。   ██研究員


インタビュー記録2137-JP: 以下は菅原由香里の消失事案に関して、███高等学校にて菅原氏と同級生であり幼稚園からの幼馴染であった伊藤渚へ行ったインタビュー記録です。このインタビューは20██年██月██日の事案発生直後に行われたものであり、本報告書の初稿執筆時には重要性が低いとされ掲載されていなかったことに留意してください。

対象: 伊藤渚

インタビュアー: 枡研究員

付記: 当インタビューを含む調査全般に際して枡研究員は刑事を名乗っています。

<録音開始>

枡研究員: インタビューを開始します。伊藤さん、貴女は行方不明になった菅原さんとは学級内でも特に親しかったそうですね。

伊藤渚: ……それは誰から聞いたんですか。

枡研究員: 誰から聞いた、という訳ではなく、強いて言えば先にインタビューを終えた方全員がそうおっしゃられていました。「由香里と1番仲が良かったのは渚だと思う」と。

伊藤渚: [10秒沈黙]皆からそう見えていたなら、多分そうなんだと思います。

枡研究員: ……分かりました。行方不明になる前の菅原さんに、貴女から見て何か不審な点はありませんでしたか。

伊藤渚: [15秒沈黙]今から私が言う事、私が言ったって他の人には喋らないで貰えますか。

枡研究員: 約束しましょう。[一旦席を立ち、壁に設置された記録装置を切るふりをして戻る]

伊藤渚: あの子は、菅原さんは、……いじめを受けていました。

枡研究員: それは事実でしょうか?他の生徒や教職員の方は皆さん、「由香里はクラスでうまくやっていた」と述べていましたが。

伊藤渚: その証言は少なくとも間違いです。嘘ついてるのか、本当に気付いてなかったのか、私には分からないけれど。

枡研究員: いじめられていた、とは具体的に誰に、どういう理由でいじめられていたのか分かりますか。

伊藤渚: ……最初は、クラスのリーダー格だった███さんが始めたんだと思います。「顔を鼻にかけているような態度が気に食わない」とか、そんな理由がきっかけでした。

枡研究員: いじめの内容は?

伊藤渚: 私物が無くなる、とかだった気がします。あとは███さんの高いコスメが菅原さんの机の中に入ってて、泥棒の容疑がかけられたりもしてました。

枡研究員: それに関して、貴女は菅原さんを擁護しなかったんですか。

伊藤渚: しました!しようとしたんです!助けようと何度も思いました!でも、菅原さん本人に止められたんです。「そんなことしたら、なぎちゃんが標的にされちゃうよ、私はへっちゃらだから」って。

枡研究員: それで傍観していた訳ですね。

伊藤渚: 何でそんな言い方……。その通りです。でも、いつかは助けようと思っていました。いつかは、必ず。

枡研究員: 菅原さんの御両親はどうです。彼女がいじめられていることに気付かなかったのですか。

伊藤渚: 気付いていたと、思います。でも彼らはあの子のことはどうでもいいみたいで。「お姉ちゃんは███大学にトップの成績で合格したのに、私は附属の███高校にも受からなかったから、要らないみたい」って、よく言ってました。

枡研究員: いじめの件ですが。最初は、ということは、エスカレートしていったんですね。

伊藤渚: ……はい。

枡研究員: 何があったんですか。

伊藤渚: 酷くなったのは、多分、クラスで「バイト」が始まってからです。

枡研究員: バイト?

伊藤渚: ある日、グループLINEで、その時にはもう菅原さんは外されてたんですけど、███さんからメッセージが送られてきたんです。「バイト求人」って題されてました。

枡研究員: [沈黙]

伊藤渚: そこにはこう書かれてました。「高収入!楽ちん!隙間時間にお小遣い稼ぎ!完全出来高払い!菅原由香里を[削除済]した写真をここに載せる毎に1000円支給!」って。彼女の親はお金持ちで、誰か1人が試しにやってみたら、次の日に本当に███さんから1000円貰ってて。それで……。

枡研究員: いじめが、学級全体に蔓延したと。

伊藤渚: 皆どんどん、おかしくなっていきました。報酬も、「[削除済]出来たら5000円、男子生徒は彼女と[削除済]して成功したら10000円!」とか増えていって。気付けばクラス皆、あの「バイト」に。

枡研究員: 貴女は?

伊藤渚: えっ。

枡研究員: 貴女も学級のグループLINEに入っていて、その「バイト」の内容を知っていたんですよね。貴女はそれを無視したんですか?ただの1度も「バイト」に参加しなかったんですか?

伊藤渚: [2分間沈黙]

枡研究員: 伊藤さん。他人を弾劾して自身の非だけは黙秘するというのは、卑劣ではないですか。

伊藤渚: [3分間沈黙]……ピアノのレッスンに、通ってるんです。その月は、どうしても欲しい漫画が、あって、それでお月謝が足りなくて、月末に払わなかったら、強制的に退会させられるから、親に怒られるから、すごく困って、それで。

枡研究員: 続けてください。

伊藤渚: ……あの子の、靴箱に、[削除済]を1匹、写真を撮って、それで███さんから、1000円を。

枡研究員: ……分かりました。話していただきありがとうございます、今日はここまでにしましょう。

伊藤渚: あのっ、信じてください!私は、その1回だけなんです!他の子はもっと沢山、何回も!私は!

枡研究員: いえ、その話はもう結構です。インタビューを終了します。

<録音終了>

終了報告書: 伊藤渚には、Aクラス記憶処理を施し解放しました。インタビュー後行われた調査の結果、菅原由香里の在籍していた学級では現在もインタビュー内で言及されていた「バイト」が行われており、その標的には伊藤渚が指定されていると見られています。

備考: その後███高等学校で、菅原由香里に関する大規模な調査が同校の生徒指導部により行われ、「バイト」を提唱した█████の退学処分をはじめとして多数の生徒に懲戒が下されました。これは枡研究員による同校への提言を契機にしたものであると判明しています。海老名博士はこれを「関係者への不必要かつ私的な肩入れ」として枡研究員に厳重注意を行いました。


付記: 以下は███高等学校の女子生徒より提供されたスマートフォンのビデオフォルダに記録されていた、SCP-2137-JP活性化時の映像です。映像内には計8名の女子生徒らしき姿が確認されており、うち2名は菅原由香里と伊藤渚であることが判明しています。

<映像開始>
00:00: 手洗い場の隅に配置されているSCP-2137-JPの前に、菅原由香里が追い詰められている。彼女の制服は生卵、牛乳、男子生徒のものと見られる[削除済]等が付着し汚れている。

00:08: 菅原由香里の前には伊藤渚が立っている。他の女子生徒はスマートフォンを2人に向けつつ、伊藤渚に指示を出している。

00:17: 菅原由香里は伊藤渚に助けを求めているように見える。伊藤渚は逡巡している。

00:21: 女子生徒1名が伊藤渚にスマートフォンの画像を見せる。画像は菅原由香里にも見えているようである。

00:23:伊藤渚は俯き小さく震えている。画像を見た菅原由香里が目を見開く。

00:34: 伊藤渚は顔を上げ、菅原由香里の腕を掴む。

00:36: 菅原由香里は絶望したような表情を浮かべ、伊藤渚に抵抗の意を見せない。

00:40: 伊藤渚は菅原由香里をSCP-2137-JP内へ押し込む。その間常に謝罪らしき言葉を密かに菅原由香里に掛け続けている。

00:43: 菅原由香里は伊藤渚の言葉に反応せず、SCP-2137-JP内部に押し込まれるまで伊藤渚の顔を蒼白した表情で見つめている。

00:51: 女子生徒の1人が、瓶に入った香辛料と見られる赤色の液体を菅原由香里の顔に振り撒く。菅原由香里は目を抑え、絶叫している。

00:59: 呻きながらSCP-2137-JPから出ようとする菅原由香里を伊藤渚が抑え、SCP-2137-JPの扉を閉めて外から押さえ付ける。

01:02: 伊藤渚が菅原由香里を閉じ込めたSCP-2137-JPを、約5分間外から押さえ続ける。その間女子生徒達はスマートフォンを向けつつ、笑い転げている。

05:07: 伊藤渚が女子生徒達に顔を向け、「もういいでしょ?」と尋ねているように見える。

05:10: 女子生徒達が頷き、伊藤渚がSCP-2137-JPの扉を開ける。

05:12: SCP-2137-JPの中で菅原由香里が、伊藤渚を含む女子生徒達を充血した目で見つめている。女子生徒達には菅原由香里が見えていないようであり、一瞬静止した後激しく動揺し始める。

<映像終了>


補遺: ███高等学校からの情報提供によって、SCP-2137-JPが設置された年代と日付が特定されました。同時に設置時期から菅原由香里の消失事案までの期間において、生徒や学校職員が行方不明になったという事象は菅原由香里を除いて一切確認されていないことも判明しています。SCP-2137-JPが製造された工場及び同工場の他の製品に異常は見られず、SCP-2137-JPがいつどの段階で異常性を獲得したのかは依然不明のままです。

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