
SCP-2145-JP
アイテム番号: SCP-2145-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2145-JPの出現が確認された場合、カバーストーリー「土砂崩れ」を適用し大森山全体を封鎖してください。SCP-2145-JPに侵入した一般人には、記憶処理を施したうえで解放してください。現在、SCP-2145-JPとPoI-1933("宮沢賢治")との関係について調査が進行中です。
説明: SCP-2145-JPは、岩手県花巻市の大森山にて不定期に出現・消失する西洋風建築物で、表札には「山猫軒」と書かれています。SCP-2145-JPが出現する地点は固定されておらず、予測することは困難です。また、SCP-2145-JPには亀裂等の経年劣化を原因とした損傷が多く確認でき、よく「ボロボロな店」と称されます。SCP-2145-JPは花巻市の行方不明者数が周辺の市と比較して明らかに多数であること、SNS上で確認された「山の中の消えるレストラン」の噂などが財団の興味を惹き、調査した職員によって発見されました。
SCP-2145-JP内部には、身長180cm程度の人型実体1体(SCP-2145-JP-A)と、身長100cm程度の人型実体5体(SCP-2145-JP-B群)が常時存在しています。SCP-2145-JP-A、Bは、頭部がイエネコ(Felis silvestris catus)に置換されていること以外は一般的なヒトと同様の体構造を有しており、人語を話すことでコミュニケーションをとっています。また両実体はSCP-2145-JP内部において従業員として活動しており、SCP-2145-JP-Aは食材の調理を、SCP-2145-JP-B群は接客及び料理の提供を担当します。
SCP-2145-JPが出現した際、SCP-2145-JPの半径50m以内に日本の伝承に登場する所謂「妖怪」に酷似した実体群(SCP-2145-JP-C群)が瞬間的に出現し、SCP-2145-JPに進入します。SCP-2145-JP-C群はSCP-2145-JP内で食事をしたのちに退出し、SCP-2145-JPの半径50mより外に移動した時点で消失します。この現象はSCP-2145-JPが出現している間続きます。
SCP-2145-JP正面入口には、人間の来訪者に対して裏口からの入室を促す旨を記載した注意書きが存在します。建造物背面に存在する裏口のドアノブに接触した人間は瞬時に消失し、撮影装置や録音装置といった機材は直ちに機能を停止します。例外としてGPSのみは機能し、SCP-2145-JP内部であることを示します1が、それ以外の方法で消失した人間が内部にいることは確認できません。この異常性は裏口から侵入した場合にのみ発生し、正面入口からSCP-2145-JPに侵入した場合は問題なく機能します。
SCP-2145-JP探索記録1 2021/2/19
投入人員: D-23919
目的: SCP-2145-JPの内部調査。
<記録開始>
寺崎博士: 前方に見える建物に近づいてください。
D-23919: 了解。遠目で見りゃ綺麗だが、近くで見ると結構ボロボロだな。ここの手すりとかちょっと触っただけで塗装が剥がれてきやがる。んで、これは……飲食店か?「日替わりメニュー」とかが書いてある。
寺崎博士: では支給されたものを被り、内部に侵入してください。
[D-23919がバッグから微細な反ミーム性が付与されたマスクを取り出す。]
D-23919: この潰れたジャガイモみたいなやつだろ?被ったぞ。じゃあ中に───ちょっと待ってくれ博士。ここの注意書きに「お手数をお掛け致しますが、人間のお客様は裏口から入店してください」ってあるぞ。人間以外の客がいるのか?
寺崎博士: 無視して正面の扉から侵入してください。
D-23919: 嫌な予感しかしないんだが……。まぁいいか、入るぞ?
[D-23919がSCP-2145-JP内部へ侵入する。扉に設置されたドアベルがカランカランと音を鳴らす。]
SCP-2145-JP-B: いらっしゃいませ。お一人様ですか。
D-23919: あ、あぁ。
[D-23919はSCP-2145-JP-Bの存在に驚く。SCP-2145-JP-Bは少し怪訝そうな表情を浮かべる。]
SCP-2145-JP-B: かしこまりました、ではこちらの席へどうぞ。
[二人席へ案内される。D-23919は着席する。]
SCP-2145-JP-B: ご注文がお決まりになりましたら、そちらのベルを鳴らしてお呼びください。それでは失礼致します。
[D-23919が店内を見渡す。赤褐色の毛に包まれた全長2m程の存在や、儚く発光する着物を来た少女など、様々なSCP-2145-JP-Cが確認できる。それらはD-23919に興味を示さず、ただ満足そうな表情で料理を摂食、又は吸収している。]
D-23919: なるほど、化物どもの店ってワケか。……これがメニューだな?「肉汁溢れる特製ハンバーグ」、「シェフの気まぐれサラダ」、「新鮮揚げたてフライ」。まぁ普通だな。外装見たときゃ大丈夫かと思ったが、中は結構しっかりしてんだな。料理店よりレストランって感じだ。
[5分後、D-23919がベルを鳴らす。SCP-2145-JP-Bが席に近づく。]
SCP-2145-JP-B: ご注文はお決まりですか。
D-23919: あー、その前に聞きたいことがあるんだ。この建物っていつ建てられたんだ?
SCP-2145-JP-B: ご注文はお決まりですか。
D-23919: お前らや奥の厨房に見えるデカい猫は何なんだ?
SCP-2145-JP-B: ご注文はお決まりですか。
D-23919: 聞いてんのか?
SCP-2145-JP-B: ご注文。
D-23919: ……この「肉汁溢れる特製ハンバーグ」ってヤツをくれ。
SCP-2145-JP-B: 「肉汁溢れる特製ハンバーグ」ですね。かしこまりました。
[SCP-2145-JP-Bが席から離れる。約5分後、ハンバーグを配膳する。]
SCP-2145-JP-B: お、美味そう。それじゃあ頂くぜ。
[D-23919がハンバーグを頬張る。]
D-23919: うっま!噛む度に溢れる肉汁と肉の甘みが脳を痺れさせる!シャバでもこんなの食ったことねぇぜ!
寺崎博士: D-23919、食べるのは結構ですがサンプルを採取するのを忘れずに。
D-23919: [溜息] わーってるよ。今採取する。
SCP-2145-JP-B: お客様。
[いつの間にかテーブルを隔ててSCP-2145-JP-Bが立っている。博士やD-23919はSCP-2145-JP-Bの接近に気づかなかった。]
SCP-2145-JP-B: 当店の料理をお持ち帰りになることは禁じられています。ご了承くださいませ。
D-23919: どうしてもか?このうまい料理を食べさせたいヤツがいるんだが。
[SCP-2145-JP-Bが無言でD-23919を見つめる。]
D-23919: わかったよ。持ち帰るのはやめる。すまなかったな。
SCP-2145-JP-B: ご理解して頂き感謝致します。
[D-23919がハンバーグを完食する。]
SCP-2145-JP-B: いやぁ美味かった。もう店から出て良いよな?
寺崎博士: はい、帰還してください。
[D-23919がベルを鳴らしてSCP-2145-JP-Bを呼ぶ。]
D-23919: お勘定お願いするぜ。いくらだ?
SCP-2145-JP-B: 1200円で御座います。
D-23919: 結構高いな……ほい、これで丁度の筈だ。
SCP-2145-JP-B: はい、確かに。
[SCP-2145-JP-BがD-23919を入口まで見送る。]
SCP-2145-JP-B: またのご来店をお待ちしております。
[D-23919がSCP-2145-JPから帰還する。]
<記録終了>
SCP-2145-JP探索記録2 2021/2/24
投入人員: 寺崎博士
目的: SCP-2145-JPの内の異常存在との接触。可能であればサンプルも採取する。
<記録開始>
寺崎博士: 今から侵入します。マスクを被って……と。
[寺崎博士がSCP-2145-JP内部へ侵入する。扉に設置されたドアベルがカランカランと音を鳴らす。]
SCP-2145-JP-B: いらっしゃいませ。お一人様ですか。
寺崎博士: はい。
SCP-2145-JP-B: かしこまりました、ではこちらの席へどうぞ。
寺崎博士: すみませんが、席は自分で決めても良いでしょうか?日当りのいい席が良いのですが。
SCP-2145-JP-B: えぇ、構いませんよ。
[寺崎博士は店内を見渡す。窓際の二人席に袈裟を着た坊主で単眼のSCP-2145-JP-C(以下、坊主と呼称する)を見つけると、それに向かって歩く。]
寺崎博士: 相席、宜しいでしょうか?
[坊主は顔を歪めながら寺崎博士を見つめる。]
坊主: [無言] あー、ええで。
寺崎博士: ありがとうございます。
[博士がベルを鳴らし、「厚切りステーキ」を頼む。]
寺崎博士: 幾つか聞きたいことがあるのですが、大丈夫ですか?
[坊主はミートボールを手掴みで食べ続けている。口腔部からソースを撒き散らし、その内の一滴が博士の服に付着する。]
寺崎博士: あの?
[坊主の手が止まる。]
坊主: なんや、儂に言うとったんか。……あのな、儂ゃ今飯食うとんのじゃ。話しかけんといてくれんか?
寺崎博士: 少し質問するだけですので。答えてくださるのなら、ここの代金は全て私が支払います。
[無言。坊主の眼球だけが絶えず動き続ける。]
坊主: ならええで。さっさと質問っちゅーのをしてくれや。
寺崎博士: まず、ここのお店のことについて教えて頂けませんか?どんなに些細なことでも良いですので。
坊主: この店なぁ。昔からあるってことだけしかしらん。古くてボロっちいけど良いとこだわ。美味いし。
寺崎博士: ここの猫達については?
坊主: ちっちぇ猫は店主の子供達だったハズやで。店主は厨房で鍋振ってるアイツな。昔はヤンチャやったらしいけど全くそんな面影無いわな?
[坊主が大口を開けて笑う。]
寺崎博士: では最後に、貴方達がこの店に集うのは何故でしょうか?
坊主: なんやお前、ここ来るん初めてなんか?ここの料理一口でも食ってみ、めっちゃ美味いから。肉が特殊やし、なんでも店の裏で捌いたのを使ってるらしいから新鮮なんやと。
寺崎博士: 特殊、とは?
[SCP-2145-JP-Bが席に近づく。]
SCP-2145-JP-B: 大変長らくお待たせ致しました。こちら、「厚切りステーキ」になります。
[SCP-2145-JP-Bが「厚切りステーキ」を配膳する。]
坊主: おっ、羽振りが良いねぇ。……そんでお前ぇさんはここの肉が特殊なこと知らへんってか?それなのにこれ頼んだん?
[坊主の目と口が湾曲する。2つの口角は徐々に釣り上がり、頭頂部で合流し一つの輪となる。]
坊主: 人間のだよ、人間の肉。若いもんは知らんかもしれへんけど、儂が産まれるずっと前に上から「人間を食べるな」って禁止令が出たんや。でもここだけはこっそり人肉を売ってるから重宝されてんのよ。表向きはタダの料理店やから、人間を使ってるとかメニューの何処にも書いてへんやろ?
寺崎博士: やはりこれは───
[入口の扉が蹴り開けられ、ドアベルはガキンと鈍い音を鳴らす。黒スーツを着用し、頭部だけがドーベルマン(Canis lupus familiaris)に置換された2人組の人型実体(以下、犬頭と呼称する)がSCP-2145-JP内部に侵入する。]
坊主: やっべ、おいてめぇ金は払ってくれるんだよな?後は頼むわ。
寺崎博士: あっ、えっ?
[坊主を初めとする全てのSCP-2145-JP-Cが小走りにSCP-2145-JPから退出する。寺崎博士は柱の影に隠れ、犬頭の死角である右斜め後方から様子を伺う。]
犬頭: こんにちわぁ。店主さんいますかぁ?
[SCP-2145-JP-Aが厨房から出てくる。酷く怯えた様子であり、耳は二つに折れている。]
犬頭: お、いるねぇ!まぁ営業中だからいるのは当たり前なんだけど。今日、僕達なんでここに来たのか分かるかな?
[SCP-2145-JP-Aは俯き何も喋らない。全てのSCP-2145-JP-Bは厨房の端で縮こまっている。]
犬頭: 俯いてたら分かんないよ?言ってごらん、怒らないから。
SCP-2145-JP-A: 今月分の支払いがまだ……終わってない…から……。
犬頭: 正解!大正解!
[犬頭はSCP-2145-JP-Aの頭部を掴み、テーブルに何度も叩きつける。SCP-2145-JP-Aの鼻から血が出ているのが確認できる。]
犬頭: ちゃあんと稼げるルートも教えてやったのに何で返済出来ないの?馬鹿なの?
SCP-2145-JP-A: [咳込む] すみません、最近人間が来なくて業者に売れないんです。どうかご容赦ください、お願いします。
犬頭: お前らの事情なんて知らねーよ、俺らのご先祖様を傷つけたゴミ一族が。ガキ捌いて売るから足りない分はそれでチャラにしてやるよ。一匹……いや二匹選んでこい。
SCP-2145-JP-A: ごめんなさい!ごめんなさい!
犬頭: あのね、謝っても現状は変わらないんだよね。お前の涙が金に変わるんなら沢山泣けば良いんだけど、そうじゃないでしょ?でもガキは捌けば金になるだろ?
[犬頭はSCP-2145-JP-Aを押し倒し、腹部を何度も蹴る。SCP-2145-JP-Aは蹴られる度に甲高い声を上げる。]
[寺崎博士はステーキとミートボールのサンプルを採取し、机に一万円を置いてSCP-2145-JPから帰還する。SCP-2145-JP-Bらはまだ厨房の奥で縮こまっている。]
<記録終了>
補遺: 探索記録2で採取したサンプルを解析した結果、非異常性の牛肉や豚肉であることが判明しました。また、現在行方不明になった人間に対する調査が重点的に行われています。