肆のいろは ハブ » SCP-2149-JP
アイテム番号: SCP-2149-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2149-JPが存在する弓道場は、カバーストーリー「改修工事」を流布した上で閉鎖されます。現在、当該弓道場よりSCP-2149-JPを移動させる試みがなされています。
説明: SCP-2149-JPは劣化した木製の霞的1です。通常の霞的の半径は18.00cmですが、SCP-2149-JPは、恐らくは経年のためにやや小さくなっており、半径は17.68cm程になっていました。なお、経年劣化を理由として、SCP-2149-JPは廃棄される予定であったことが確認されています。
SCP-2149-JPは自我を有しており、成人男性の様な声で発話することが可能です。また、SCP-2149-JPを弓道場の垜(土盛り)より移動させることは不可能ですが、これについてSCP-2149-JPは「移動を不可能にする能力を使用しているためである」と述べています。
上記の発言より、SCP-2149-JPが異常性を解除させた場合、通常の的と同様の移動・収容が可能であると推測できます。SCP-2149-JPの収容・隠蔽のために弓道場全体を閉鎖するのは効率的ではないため、SCP-2149-JPを移動させる(すなわち、SCP-2149-JPに異常性を解除させる)ことが試みられています。
以下は、SCP-2149-JP発見直後に実施された、SCP-2149-JPへのインタビューです。
<記録開始>
Agt.振草: インタビューを開始します。
SCP-2149-JP なんだお前は?
Agt.振草: ……えー、我々は「財団」と呼ばれる組織の者です。あなたのような異常なオブジェクトを収容する団体です。
SCP-2149-JP: お前らごときに収容される筋合はない。
Agt.振草: ……いいえ、現に収容されているのです。この弓道場自体を封鎖するという形で。
SCP-2149-JP: 何だと!? 道理で人が居なくなった訳だ!
Agt.振草: あなたは、ここに自身を固定する能力を持っていると言っていましたよね?
SCP-2149-JP: そうだ。
Agt.振草: その能力を解除していただけないでしょうか?
SCP-2149-JP: 解除したら、その後どうするつもりだ?
Agt.振草: 我々の収容施設へ送られるでしょう。
SCP-2149-JP: そんなのは御免だな。
Agt.振草: しかし、あなたのためだけに、この広い弓道場を封鎖するのは少々不経済なのです。加えて、この弓道場が使えなくなるのも困ります。数日後にはそこそこの規模の大会が開催されますしね。何とか移動をお願いできないでしょうか?
SCP-2149-JP: どうしてもか?
Agt.振草: どうしてもです。
SCP-2149-JP: そうだな……よし、分かった。力を解除してやろう。ただし、1つ条件がある。
Agt.振草: その条件とは?
SCP-2149-JP: うぬ、俺に対して、射場2から矢を5本以上当ててみろ。ただし、矢が刺さった地点は、互いに25cm以上離れている状態で、だ。
Agt.振草: ……そうすれば、異常性を解除していただけるのですね?
SCP-2149-JP: もちろんだ。俺は嘘を吐かん。
Agt.振草 しかし、なぜそのような条件を?
SCP-2149-JP: ……人間の頭は24cmと言われる3。これを超す距離を射れる者は、射る人間と射ない人間を分けられるような奴だということだ。
Agt.振草: そういうものなのでしょうか。
SCP-2149-JP: ともかく、俺は的で、射られるべくして生まれた存在だ! 弓が上手い奴の言うことなら聞いてやらんでもない。
<記録終了>
当該発言が真実であった場合、このような位置に矢を当てることが可能であれば、SCP-2149-JPが収容でき、収容のコストの削減に繋がります。一方で、どの位置に矢を当てれば条件を満たすかは即座に判明するものではありません。また、矢を当てるべき位置・範囲は限定的と推測されるため、相応の弓道の技術を要する可能性があります。
補遺: 戦術求解部門4のAgt.天津によって、SCP-2149-JPの収容がなされました。以下は、その際の音声ログです。なお、SCP-2149-JPへの干渉は許可されていました。
<記録開始>
Agt.天津: 戦術求解部門の天津です、初めまして。
SCP-2149-JP: まだ諦めてないようだな。俺は収容されてやらないぞ。
Agt.天津: ……あなたが以前提示した、異常性を解除する条件は覚えていますね?
SCP-2149-JP: 俺に5本以上矢を当てる、ただしそれぞれは、えー、25cm以上離れた状態である必要がある、のことか?
Agt.天津: そちらです。これについて部門内で検討した結果、あなたの条件を満たすことは不可能と思われました。
SCP-2149-JP: はっ! お前ら程度には、狙った部分に矢を当てるのも不可能なのだな!
Agt.天津: いいえ。これは、数学的・幾何学的に不可能なのですよ。
SCP-2149-JP: 負け惜しみか? 情けない。
Agt.天津: いいえ……"扇の的"を考えるのです。
SCP-2149-JP: 扇……いや、何でもない、何の話だ!
Agt.天津: ……25cm、この値について色々考えてみました。あなたは半径17.7cm程度の円ですが、あなたに内接する正方形、その1辺は半径の√2倍 おおよそ25.0cm、ですね?
SCP-2149-JP: だ、だから何だと言うんだ!?

中心核90°の扇形(薄青)内における最も離れた2点(赤)
Agt.天津: あなたを4等分する、中心角90°の扇形を考えてみます。この扇形内における「最も離れた2点」は、直線と弧とが交わる2点となります。
SCP-2149-JP: お、お前は何を言っているのだ? 関係ない話で煙に巻こうという魂胆か?
[Agt.天津がSCP-2149-JPにノギスをあてがう。]
Agt.天津: どうやら、この2点の距離は、有効数字5桁で25.000cmのようですね。つまり、この扇形1つの中に2本以上の矢を刺すとなると、この2点のみが候補となります。これ以外の点では、1本の矢しか刺せません。
SCP-2149-JP: [沈黙]
Agt.天津: さて、扇形4つからなる円においては、5本以上の矢を刺すことが不可能となります。まず、例の2点を選ぶと、円周を4等分する4点で埋まってしまう。そして、例の2点を選ばないとしても、扇形1個には1本の矢しか刺せません。扇形4個に1本ずつ刺したとしても、5本目を刺そうとすると、どうしても同じ扇形の中に2本の矢が存在することとなりますからね。
SCP-2149-JP: ……さあな、何を言っているのか分からんな。
Agt.天津: よって、互いに25cm離れた状態で、あなたに矢を刺すのは、通常不可能なのです。ただし
SCP-2149-JP: ただし何だというのかね?
Agt.天津: 少々お待ちください。只今よりお見せいたします。
[Agt.天津が移動する。しばらくして、弓道衣に着替え、弓を構えたAgt.天津が現れる]
SCP-2149-JP: おい、まさか、俺を射る気か? おい!
[Agt.天津がSCP-2149-JPに矢を放つ。SCP-2149-JPの上端部に矢が当たる]
SCP-2149-JP: [叫び声]
Agt.天津: 私は、アノマリーに対して矢を打ち込んだりはしません。ましてや、弓道における矢ならなおさら。ただし、ここが弓道場で、相手が的で、しかも本人が射られたがっているならば話は別でしょう?
[Agt.天津がSCP-2149-JPに矢を放つ。SCP-2149-JPの下端部に矢が当たる]
SCP-2149-JP: やめろ! やめろ! 痛くはないが怖いんだ!
[無視して、Agt.天津がSCP-2149-JPに矢を放つ。SCP-2149-JPの右端部に矢が当たる]
SCP-2149-JP: すまん! いや、俺も、実は、25cm離して刺すのが無理だと知っていた! 知っていた上で、敢えて無理難題を出したのだ!

Agt.天津が4本の矢を当てた位置(×)と、その周囲25cmの範囲(赤丸)。4本の矢は辛うじて25cmの距離を保っている。
[Agt.天津がSCP-2149-JPに矢を放つ。SCP-2149-JPの左端部に矢が当たる]
SCP-2149-JP: 無理難題を吹っ掛けたのはすまなかった! だから、射るな! これ以上やっても何にもならないぞ!
[Agt.天津がSCP-2149-JPに矢を放つ]
SCP-2149-JP: やめろって!
[「SCP-2149-JPの上端に当たった矢」の後端に矢が刺さる]
SCP-2149-JP: ……矢を、射貫いた!? 継ぎ矢だと!?
Agt.天津: 弓道においては、「的に当たっている矢に刺さった矢」も「的に当たった」として扱います。しかも、矢は25cm以上あるから、矢が"刺さっている地点"は、確かに25cm以上離れている。
SCP-2149-JP: [沈黙]
Agt.天津: さて、あなたが示した通り、あなたに「25cm以上離れた5本以上の矢」が当たっていますね。異常性を解除していただけるのでしょう?
SCP-2149-JP: ……嫌だ、嫌だ! 知ってるぞ、俺は、捨てられるんだろ!? 木製の的なんか寸法が狂っちまう、樹脂の的に取って代わられるんだ、畜生!
Agt.天津: ……いいえ、あなたは、捨てられません。収容されるのです。
SCP-2149-JP: 倉庫に閉じ込められるってことだろ!? そんなの、捨てられたのと同じだ!
Agt.天津: あなたは自我を有するオブジェクトです、"倉庫に閉じ込め"られたりしませんよ。……具体的には、職員との対話なら間違いなく認められるでしょうし、収容に協力的なら娯楽品が与えられる場合すらあります。
SCP-2149-JP: 本当か? 弓道ができる奴とかと、話せるのか!?
Agt.天津: 本当ですとも。
SCP-2149-JP: ふん、そうか……それなら、移動されてやらなくもない。
Agt.天津: ええ。そうしてくださると幸いです。
[Agt.天津により、SCP-2149-JPが回収される]
<録音終了>
SCP-2149-JPは、自身を固定する能力を解除し、サイト-81██の収容室へと移動されました。当該オブジェクトは1日1時間以上の職員との対話を望んでおり、希望する職員は対話が可能です。SCP-2149-JPは弓道および数学の話題に興味を示すようです。