SCP-2156-JP
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アイテム番号: SCP-2156-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-2156-JPが出現する住宅付近は、監視カメラと警備員を用いて監視し、カバーストーリー「土地の再開発」を流布して一般人が立ち入らないようにしてください。SCP-2156-JPが住宅外に出現した場合は直ちに警備員が派遣され、住宅敷地内に侵入させる必要があります。

説明: SCP-2156-JPは大阪府██市に位置する木造住宅(以下SCP-2156-JP-A)に出現するゴールデンレトリバー(Canis lupus familiaris)の形態をした霊的実体です。付近に在住していたエージェント・九重が犬の幽霊が出るという噂を独自に調査していた過程で発見されました。SCP-2156-JPの首には茶色の首輪と「マリン」と記銘された迷子札が付けられていますが、電話番号と住所は黒く塗りつぶされており、判読することはできていません。

SCP-2156-JPは不規則な間隔でSCP-2156-JP-Aを中心とした周囲2kmの範囲に出現し、徘徊し始めます。徘徊状態にあるSCP-2156-JPの半径5m以内に生物が近付いた場合、SCP-2156-JPの身体から光を放つ細い線(以下SCP-2156-JP-B)のようなものが伸ばされ、当該生物に接続されます。SCP-2156-JP-BはSCP-2156-JPに近付くほど太くなり、その一方で半径5m以内から離れた瞬間に消滅します。SCP-2156-JP-Bが接続された生物は体調の悪化や気力の減衰を覚えます。この際にSCP-2156-JPの動きが活発化すること、及び住宅内から発見された久斯動物医療センターからの手紙により、SCP-2156-JPは他生命体から生命力を吸収していると推測されています。また、SCP-2156-JPとSCP-2156-JP-Bは物体を透過する性質があるため、捕獲の試みは失敗に終わっています。

SCP-2156-JP-Aの敷地内に人物が侵入した場合、直ちにSCP-2156-JPが出現し、侵入者を敷地内から追い出そうとします。SCP-2156-JPが徘徊している最中に侵入者がでた場合には瞬時にその場から消滅し、SCP-2156-JP-Aの敷地内に再出現します。この排除行動はSCP-2156-JPの性質から噛みつくなどの物理的手段を取れないために威嚇に留まっていますが、侵入した人物はSCP-2156-JP-Aの内部に立ち入った約10分後に未知の方法で敷地外に転移させられます。

付記: 以下は初期収容時に実施されたSCP-2156-JPの出現するSCP-2156-JP-Aの持ち主へのインタビュー記録の抜粋です。

対象: 八島氏

インタビュアー: エージェント・九重

前記: 八島氏は末期癌患者であるためインタビューは病院で行っています。対象との会話を円滑に進めるためにインタビューではSCP-2156-JPを「マリン」と呼称しています。

<記録開始>

九重: それでは、マリンちゃんとの出会いについて教えてもらえますか。

八島氏 そう、そうやなあ。あの子は俺が小さい時に見っけてさ。おっきな犬コロが路地の隅の方で震えてたんだけども。なんや思うて近寄ったら透けとってさ。犬の幽霊だ!ってなってさあ。近寄ったら悲しそうな目で俺のこと見てきてな、そんで「おまわり」って言うんだったっけ? その場でくるくる回って吠えたり、後ろ足で立ち上がってみたり、「お手」とか「伏せ」とか言ってもないのに必死でやりだしたんよ。そんで、見ず知らずの俺なんかに必死で媚びるほどにコイツは寂しいんかなって思ったらさ、なんかほっとけなくてな。

九重: 出会った時にはもう幽霊だったんですか。

八島氏: 幽霊やった。近くに骨とか遺体とかが転がってるわけじゃなかったけど。すっごい薄かったから間違いないと思う。「マリン」って名前もその時に首輪についとったからそう呼んでるだけで、俺が付けたんじゃない。捨てられたんか、死に別れたんかは知らんけど、哀れでな。「俺に付いてくるか」言うたらまさかのあいつ、取り憑いて来やがった。まあ、俺も昔っから霊感強かったし、悪い感じしなかったから憑かれたって別に問題はなかったけども。

九重: それでしばらくはあの家で一緒に暮らしていたと。

八島氏: そう。しばらくっていうか、かれこれ40年は一緒だったんだけど。ただ一つだけ暮らしていくには問題があって、あの子は生きていくのに人間の生命力みたいなのが必要みたいでな。初めに会った時は手当たり次第に取り憑いて生命力吸って生きていたみたいで、俺に取り憑いてからは俺の生命力だけ取ってたんや。で、まあ俺が若いうちはちょっとだけ疲れるくらいで、おっさんなってからは結構疲れてたけど何とかしてて……癌になってからはどうしようもなくなってしまってな。さすがに死にかけてる奴から命は取れないってことで、あの子は俺から取るのをやめてしまって。そんなん拾ってきた時点で俺は気にも留めてないのにな。愛犬に憑き殺されるなら本望だったのに、なのに、馬鹿な幽霊だと思わん? 宿主殺す寄生虫はアホやけど、幽霊とか憑き殺してなんぼやろうに。そんで……あの子がどんどん薄くなっていくから流石に焦ったわ。だからな、必死で幽霊を見てくれる病院を探したのよ。幽霊の病院とかバカみたいな話だったけど。それで、いっぱい色んな霊能者とか、知り合いの霊が見えるヤツとか必死で当たって、とある病院を見つけることができたんや。

九重: それは何という名前の?

八島氏: えっと、なんやったかな。クク? クシ? なんか難しい漢字使ってるとこ。この後、俺の家行ってタンスの引き出しに手紙しまってあると思うから探してみいや。今あの子の面倒見てくれてるのあんたらやし、カルテじゃなくて、詳しくやったこととか書いた紙の方も貰ってたんやが、頭悪くてよお分からんかったから捨ててしまったから、それはごめんな。で、そこに話したら、もともと人間に取り憑いてる浮遊霊から、マリンを地縛霊にすることで生かしておくことができるみたいな話聞けてな。そこからお医者さん呼んでやってもらったんよ。そしたらあの子目に見えて元気になって嬉しかったんやけどな、すぐにこうして入院してしまってなあ。あの子には悪いことをしたわ。家で一人で寂しいやろうに。地縛霊だから家から離れられないしなあ。

九重: 待ってください。地縛霊? しかし、マリンちゃんは家から離れて徘徊していますし、通行人から生命力を取っている様子が見受けられていますが。

八島氏: え? 何でそんなことになってるん。お医者さんは確か、地縛霊になったことで家と土地から生命力を吸収してるから、そこから離れたら生命力がなくなって消えるとか言っとったのに。やから俺は入院する前に絶対に家を出るなって言い聞かせて来たのに。

九重: なるほど、敷地内から出られないようにしたわけではなく、敷地外に出ると生命力が尽きてしまうから出られないんですね?

八島氏: そうなるな。あの子が何で家の外に出れてるのかは説明されたのかもしれないけど、俺の頭じゃ理解できてないかもしれない。でもあの子が出てしまう気持ちもわかるかもしんないな。あの子昔から俺にべったりでさ、ちょっと便所行くのにもついてきててな。独りにされるのが怖いんやろな。なにせ寂しくって憑いてきた子だからさ。……なあ、あんたさ。

九重: なんでしょうか?

八島氏: ヒマやったらあの子と時々遊んでやってくれないか。俺はもうあそこには戻れないし、しばらくしたら本当の意味であの子は独りぼっちになっちまう。俺も幽霊になれたらいいんだけどさ、たぶん無理だと思うんだ。幽霊ってのは強い未練が必要なんだ。だからきっと、俺はダメだ。あの子を置いていっちまうって俺の未練は、あの子と過ごした日常の中に消えてしまって。どうしようもなく満ち足りてしまっててさ。……最悪の主人だよな。本当に、本当にあの子には申し訳ないんやけど、俺はもう満足でさ、これ以上は望まない。違う、望めないの方が正しいな。でもあの子は多分ダメなんだ、あの子は自分の未練も忘れてる可哀想な子だ。成仏もできない。やからさ、これからも定期的に会いに行ってやってな。俺じゃなくても、自分が見える人間がいるだけであの子はきっと救われるから。

九重: ……ええ、配慮しますとも。

<記録終了>

インタビュー後にSCP-2156-JPの行動を分析した結果、八島氏の入院している病院に向かって移動していることが判明しました。また、徘徊している最中のSCP-2156-JPを観察していたエージェント・九重に走り寄り、匂いを嗅ぐ仕草が新たに確認されました。この行動はエージェント・九重に付着した八島氏の匂いに反応していると推測されており、現在特別収容プロトコルに利用できないか審議されています。

八島氏の供述に従ってSCP-2156-JP-Aを調査したところ、八島氏の部屋の机の引き出しから久斯動物医療センターからの手紙が発見されました。封筒には八島氏が入院する3日前である2000年8月30日の日付が書かれていました。


現在、財団は久斯動物医療センターに対してSCP-2156-JPの担当医の召喚要求を行っています。

補遺1: 2003年10月4日に八島氏が癌で死亡しました。それに伴いSCP-2156-JPのSCP-2156-JP-A外での出現頻度が増加し、住宅周囲2kmの範囲から離れようとする様子が観察されています。しかし2kmの地点に達した時点でSCP-2156-JPの首輪からSCP-2156-JP-BがSCP-2156-JP-A方向に伸びてSCP-2156-JPの進行を妨害するため、この行動は成功していません。

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