クレジット
タイトル: SCP-2158-JP - 湖上の夢
著者: ©︎eagle-yuki
作成年: 2020
アイテム番号: SCP-2158-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-2158-JPの異常性が不用意に発現することと、異常性が民間人に露見することを防ぐため、満月の日の夜間は████公園をカバーストーリー「定期的な環境調査」を適用して封鎖し、民間人の侵入を防いでください。また、実験時の混乱を防ぐため、投影イベント開始時、SCP-2158-JPの水面から半径約10m以内に2人以上の人物が存在することがないようにしてください。
説明: SCP-2158-JPは██県██市に所在する████公園の敷地内に存在する湖です。SCP-2158-JPの水質や周囲に生息している生物に異常性は確認されていません。しかし、満月の日の午前0時丁度、SCP-2158-JPの水面から半径約10m以内に人間(以下、対象者と表記)が存在した場合、投影イベントが発生します。
投影イベントが開始すると、その時点での天候や月の位置等にかかわらず、SCP-2158-JPの水面に鮮明な月の像(以下、SCP-2158-JP-1と表記)が映し出されます。SCP-2158-JP-1は肉眼以外で観測することは不可能です。SCP-2158-JP-1は発生後、徐々に歪んでいき、10~15分ほどかけてその大きさ、形、色を変化させます。このとき、SCP-2158-JP-1は対象者の現在の何かしらの願望を表現していると思われるイメージに変化します。また、対象者が複数人存在した場合には、その内から無作為に選ばれた1人の願望を表現していると思われるイメージに変化します。SCP-2158-JP-1は完全に変化を終えた後、ある程度の時間をかけて通常の月の像に戻る、または消失します。この時、投影された願望に対する対象者の思い入れが強いほど、SCP-2158-JP-1が投影されている時間が長くなる傾向にあります。しかし、投影される願望自体とそれに対する対象者の思い入れの強さに関係はありません。
この実験記録は抜粋です。完全な実験記録を参照するには望木博士へ申請してください。
実験記録2158-JP-8 - 日付2010/05/28
対象: エージェント・見鏡
実施方法: 実験前に自身の現在の願望を優先度順に、思い浮かぶ限り記述してもらうアンケートをエージェント・見鏡に行い、エージェント・見鏡をSCP-2158-JPの側に立たせ、SCP-2158-JP-1を観測した。
結果: エージェント・見鏡とエージェント・水先が共に業務を行っている様子の映像が約110分間投影された。
分析: オブジェクトの異常性によるものか、あるいは偶然かは不明ですが、特に映像として見てみたいと思っていた望みが投影されて良かったです。実際の光景ではないにしろ、またアイツが元気に仕事してるところを見ることができたので。 - エージェント・見鏡
補足: 今回の事例を踏まえ、エージェント・水先を対象とした実験が予定されていましたが、2010/05/30にエージェント・水先の容体が悪化し死亡した為、中止になりました。
実験記録2158-JP-12 - 日付2011/09/23
対象: D-64018
実施方法: 同上
結果: D-64018がナイフと思われる刃物で自身の首を切った映像の後、倒れたD-64018の像が約140分間投影された。
分析: 実験後のカウンセリングにより、D-64018の精神状態が実験前と比べ、極めて安定した状態に変化していることが判明した。カウンセリング時に行ったインタビューでD-64018は「あの湖に映った像を見て、くよくよ悩んでいる自分が馬鹿らしくなった。もう自殺したいなんて気持ちはない。」と述べており、実験後は最も強い願望が「生きること」に変化していることも確認されている。現在、この事象にはSCP-2158-JPが関連していると仮定し、調査を行っている。
実験記録2158-JP-19 - 日付2012/07/15
対象: 花城博士
実施方法: 本来はD-31638を対象者として実験を行う予定だったが、事故により実験に同伴していた花城博士を対象者として実験が開始してしまった。
結果: 花城博士が担当していたオブジェクトであるSCP-████-JPが、現在よりもかなり良い待遇を受け、花城博士を含む多数の職員と非常に友好的な接触を行っている様子の映像が約135分間投影された。
分析: 実験当時、私がSCP-████-JPに強い愛着を持っていた為にこのような映像が投影されたのでしょう。また、私はSCP-2158-JPの異常性を認知していて、実際にこのような願望が映像として投影される光景を、可能ならば見てみたいとも思っていました。今回の事例を踏まえて行った調査により、オブジェクトの性質を実験前から認知していた人物を対象とした実験では、SCP-2158-JP-1は彼らがSCP-2158-JPに投影されることを望んでいたイメージに変化していたことが判明しました。以上から、このオブジェクトの性質を認知している人間が対象者となった場合、対象者はSCP-2158-JPに投影される自身の願望を決定することが可能になるのだと推測されます。 - 花城博士
補足: 実験後、花城博士にはカウンセリングが実施され、SCP-████-JPの担当を解雇する処分が行われました。また、花城博士の解雇後、SCP-████-JPの実験中に発生した事故についてはインシデント記録:████-JPを参照してください。
補遺1: 2011/09/12に行われた実験以降、「投影イベント中にSCP-2158-JP-1が突如消失する」「SCP-2158-JP-1が鮮明なイメージにならない」などの、投影イベントが不完全な形で発生する事例が確認されるようになりました。実験・調査の結果、2011/09/02に行われた湖底調査2158-JP-3にて回収された、鏡面が破損した手鏡がSCP-2158-JPの水中に存在していない場合、上記の事例が発生することが判明しました。現在、この手鏡はSCP-2158-JP-2に指定され、研究が行われています。また、これまでの調査からSCP-2158-JP-2は、2008/09/21にSCP-2158-JPで入水自殺を行った遠藤幸代氏の所有物であったと推測され、遠藤氏を当オブジェクトの最重要関連人物として調査を行っています。
以下は2010/08/24に████公園の近隣住民である田井中氏に行われたインタビュー記録の、遠藤氏に関連する箇所の抜粋と、今回の事例を踏まえ、2011/12/26に遠藤氏の友人であった松江氏に行われたインタビュー記録の、SCP-2158-JP-2に関連すると思われる箇所の抜粋です。
対象: 田井中氏
インタビュアー: エージェント・白枝(以下、白枝)
<省略>
白枝: 他に、████公園についてご存知のことはありませんか?
田井中氏: そうねぇ……。後はやっぱり、幸代さんのことかしらねぇ。
白枝: 幸代さんというと、以前、████公園で亡くなった遠藤幸代さんのことでしょうか。
田井中氏: そうそう。██湖に人が浮いてるーって大騒ぎになってねぇ。あの年になって身投げだなんて、本当に可哀そうで可哀そうで……。
白枝: 幸代さんが自殺を行った理由について、田井中さんはご存知ですか?
田井中氏: 多分、お孫さんが病気で亡くなったからじゃないかって、近所の人は皆言ってるわ。幸代さん、お孫さんが病気になってから亡くなるまで、毎月██湖でお祈りしてたから……。
白枝: ██湖でお祈りですか?
田井中氏: ええ。満月の夜に██湖でお祈りすると願いが叶うっていう、この辺で有名な話があってね。手鏡持って「正蔵さん、孫の病気を治してください」って、それはもう熱心にお祈りしてて……。ああ、正蔵さんってのは戦争で亡くなった旦那さんでね、幸代さんはその旦那さんに貰った花細工の手鏡を、お守り代わりにすっごい大切にしてたのよ。……ああ、手鏡の話でもう一つ嫌なこと思い出しちゃったわ。
白枝: 嫌なこと、とは?
田井中氏: こう言っちゃなんだけど……お孫さんが病気になってからの幸代さん、なんか気味悪かったのよ。「お祈りしてたら手鏡に孫の元気な顔が映った。正蔵さんが助けてくれる。」って近所の人に触れ回って。……そんなこと、あるはずないのに。
白枝: なるほど、確かにそれはおかしな話ですね。
田井中氏: それがね、ホントに気味が悪いのはここからなの。幸代さん、お孫さんを亡くしてからどうかしちゃって……。██湖の周りで大声で騒ぐようになっちゃったのよ。「どうして私の夢は叶わないのー。こんなのはもう嫌だ―。」って。その時の幸代さんの形相といったらもう、恐ろしくて恐ろしくて。
白枝: 幸代さんが亡くなる直前の様子について、よく分かりました。もしよろしければ、幸代さんに関するお話をもっと聞かせていただけませんか?
田井中氏: うーん、これは幸代さんの友達に聞いた話なんだけどね。幸代さんね、旦那さんが戦争に行った時にはもう、ちょっとおかしくなっちゃってたっていうか……。「正蔵さんの顔が鏡に映った。正蔵さんは元気に帰ってくる。」みたいな変なことを言い出すようになったんだって。結局旦那さんは戦死したんだけど。それから幸代さんは事あるごとに、手鏡の話をしだすようになったらしいの。その話を聞いたときは、可哀そうとしか思わなかったんだけどねぇ。
白枝: なるほど、そうだったのですね……。様々なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
<録音終了>
対象: 松江氏
インタビュアー: エージェント・白枝(以下、白枝)
<省略>
白枝: それでは、幸代さんが持っていたという手鏡のことにについてお伺いしてもよろしいですか?聞いたところによると、幸代さんはその鏡に異常なほど執着していたようですが。
松江氏: ユキちゃんがいつも持っていたやつね。そりゃあ旦那さんからの最後の贈り物ですもの。ほんと一途な人だったわぁ。
白枝: その鏡にまつわる不思議な話があると聞いたのですが、それはご存知ですか?
松江氏: ああ、この辺の人に聞いたのかしら?そう。ユキちゃんね、旦那さんが戦争に行ってから、「どんな形でもいいから旦那に会いたい」ってずうっと言ってたんだけど、そしたらその鏡に旦那さんの顔が映ったっていうのよ。
白枝: しかし、結局旦那さんは帰ってこなかったらしいですが……。
松江氏: うん。でも、ユキちゃんは「それでも一度あの人の顔が見れただけ良かった。この鏡が私の為に映してくれたのよ。」なんて言って、何かあったらすぐにその鏡にお祈りするようになったのよ。まぁ、あの人は昔からおまじないとか好きだったしねぇ。
白枝: なるほど。しかしそれは、旦那さんを失ってしまった幸代さんが見た幻覚であったという可能性も……。
松江氏: うーん、皆そう言うけどね。私は、本当にあの鏡は不思議な鏡だと思うのよ。だって、私もあの鏡に変な物が映ったのを見たことがあるし。
白枝: ……その話について、詳しく聞かせていただけませんか?
松江氏: ええ、ありゃ何年前だったかねぇ。私の家に遊びに来たユキちゃんが、鏡を置いてトイレに行った時があったのよ。それで、その鏡がちょっと気になって、私もそれを持ってユキちゃんみたいにお祈りしてみたの。そしたら、その鏡にとっても豪華な家が映ってねぇ。なんでか知らないけど、「これはリフォームされた私の家だ!」ってわかったのよ。びっくりして鏡を落としちゃったらそれは消えちゃったし、すぐユキちゃんが戻ってきて、鞄にしまっちゃったからもう見れなかったけど。
白枝: それで、実際に松江さんの家はその通りにリフォームされたのですか?
松江氏: いんや。でも、今考えるとあんな大きな家に住むのは大変そうだし、あの時見た通りにならなくて良かったのかもねぇ。まぁ、うちはそんな裕福でもなかったし、元々リフォームなんか叶わない夢だったからね。幻でもなんでも、見ることができただけ良かったと思うのよ。
白枝: つまりその鏡は、所持している人のために、その人の願望を映し出してくれるような物だったと?
松江氏: どうだかね。でも、ありゃあ旦那さんが死ぬ前、最後に残していったものだし、そういう不思議なことがあってもいいんじゃないかねぇ。どっちにしろ、ユキちゃんはあの鏡を心の支えにして生きてきたのよ。……それでも、まだ若いお孫さんが亡くなったのには耐えられなかったみたいだけど。
白枝: なるほど、とても興味深いお話でした。それでは次に、幸代さんが亡くなる前の様子についてお伺いしたいのですが……。
<以下省略、録音終了>
補遺2: 2012/08/02に行われた、D-25420を対象とした実験で、突如、D-25420がSCP-2158-JPに飛び込むという事案が発生しました。即座に他職員に救助されましたが、D-25420は不可解な供述を繰り返し、SCP-2158-JPへ再び入水しようと他職員への抵抗を行いました。また、SCP-2158-JPに関する記憶を処理され鎮静化した後も、D-25420は██湖に強い関心を持ち続けていることが判明しました。
D-25420は複数回実験の対象となっている唯一の存在であることから、SCP-2158-JPは、複数回対象者となった人物に、何らかの精神汚染を引き起こすことが推測されます。現在、SCP-2158-JPの異常性について、再調査が行われています。
付記: D-25420に異変が生じたのはSCP-2158-JP-1が完全に変化を終えた直後であった。また、SCP-2158-JP-1はD-25420が実家と思われる場所でくつろいでいる映像に変化していた。
<記録開始>
望木博士(以下、望木): どうやらSCP-2158-JP-1が変化を終えたようだ。記録を開始しよう。D-25420。今映し出されている場所は、君の実家かな?随分とくつろいでいるようだが。
[6秒の沈黙。]
望木: D-25420。どうした?質問に答えてくれ。今映し出されているのは……
D-25420: なあ、もうやめてくれよ。分かってるんだ。こんなの、もう叶うわけないって。
望木: 急に何だね。すまないが私の質問に……。
D-25420: だからやめてくれって!何度も何度も裏切って!もう俺の夢を奪うんじゃねぇよ!ああ、クソ。どうせもうダメなんだ。だったらいっそ……あああああああ!
[D-25420が叫びながらSCP-2158-JPに飛び込む。]
望木: おい、D-25420!くそぅ、こんな事例は初めてだぞ……。
エージェント・赤橋(以下、赤橋): 浮上してくる様子がありません。自分が救助に向かいます!
[エージェント・赤橋がSCP-2158-JPに飛び込む。115秒後、D-25420を抱えて浮上。]
赤橋: [息切れ]D-25420を救助しました。どうやら気を失っているようです。
[両名の上陸後、D-25420に応急処置が施される。290秒後、D-25420が意識を取り戻す。]
D-25420: [咳き込む音]ああ……?ここはどこだ……?
望木: 気が付いたか、D-25420。君は先ほど自分が何をしたのか、覚えているかい?
D-25204: 何って、俺は家でお袋とテレビを……。[4秒の沈黙]おい、どうしてまたお前らがいるんだ。なんで俺はまたこんな格好してるんだ。俺はもうこの仕事は終わって、家に帰らされて、違う、いや違わない。俺はもう自由なんだ。もうこんなのは終わったんだ。これは夢だ。そうに決まってる!
望木: おい、どうしたD-25204!まだ錯乱しているのか?誰か彼を取り押さえろ。早く記憶処理を!
D-25204: こんなのが、俺の夢が叶わないのが現実なわけがない!俺を早く家に帰らせろ!こんな夢、終わらせてやる!
[D-25204が複数の職員に取り押さえられる。その後も記憶処理を施されるまで、SCP-2158-JPに入水しようと抵抗を続ける。]
<記録終了>
ページリビジョン: 10, 最終更新: 10 Jan 2021 18:25