アイテム番号: SCP-2159-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2159-JPは徳島県██郡██町███に所在する発見場所を改築し構築された収容エリア████に収容されています。収容エリア████は閉鎖された火葬場に偽装され、公有地として一般人の立ち入りを禁止してください。SCP-2159-JP-Aはサイト-81██の標準的収容セルに保管されています。SCP-2159-JP及びSCP-2159-JP-Aへの接触及び試験はクリアランスレベル3以上の研究担当職員の立ち会いの下で実施してください。
週に一度、SCP-2159-JPとSCP-2159-JP-Aの認知機能評価と異常性試験を行い、結果を記録してください。SCP-2159-JPとSCP-2159-JP-Aが要求を述べた場合、SCP-2159-JPまたはSCP-2159-JP-Aの行方に関する調査は継続中であるという欺瞞情報を与えてください。SCP-2159-JPとSCP-2159-JP-Aの面会は予定されていませんが、両存在に対しては秘匿してください。
説明: SCP-2159-JPは70代前半から90代後半と推測される身元不明のモンゴロイド系男性の死体です。SCP-2159-JPは徳島県██郡██町███に所在する公営火葬場である█████共立火葬場告別ホール第二炉前に存在しています。SCP-2159-JPは未知の要因によって現在位置に強力に固定されており、外力によりSCP-2159-JPの姿勢および位置を変化させる試みは失敗しています。当初SCP-2159-JPは木製棺と共に電動棺搬送台車1に載せられていました。移動の試みの過程でこれらは除去されましたがSCP-2159-JPの移動には至らず、現在のSCP-2159-JPは床面から98.6cm、火葬炉扉から77.9cmの地点に浮遊しています。
SCP-2159-JPは極めて高レベルの物理的・化学的損傷に対する破壊不能性を有します。この異常性によりSCP-2159-JPからの標本採取の試みは現在まで成功していません。この破壊不能性を原因としてSCP-2159-JPの分解は停止しており、腐敗は異常発現時点から停止しています。
SCP-2159-JPは視聴覚的な認識能力を有しています。SCP-2159-JPの瞼は閉じた状態で固定されていますが、顔面前方に掲示することにより対象物を視覚的に認識することが可能です。SCP-2159-JPの聴覚的認識能力はおおよそヒトに準ずるものですが、加齢性難聴に類似した感音難聴の兆候が確認されています。SCP-2159-JPは皮膚感覚に準ずる感覚は有していないものと考えられており、破壊不能性試験等に際しては目立った反応を示していません。
SCP-2159-JPは未知の方法により高齢男性の音声に類似した音響により発話する能力を有します。この発音に際してSCP-2159-JPの呼吸器及び発声器官に運動は観察されず、口付近の空間から発されていることが確認されています。SCP-2159-JPはこの発話能力により肥筑方言のある日本語で発話することが可能です。SCP-2159-JPの示す知性は凡そ成人の人間に準ずるものであるものの、改訂長谷川式認知症スケールを用いたスクリーニング検査の結果は10点であり2、中等度からやや高度の認知症の傾向が認められました。頭部CT撮影を含む複数の非侵襲性調査の実施により、海馬にアルツハイマー型認知症3者の死後脳に特徴的な脳毛細血管障害4が存在することが確認され、前頭葉と側頭葉に死後変化とは異なる著しい萎縮が観察されました。これらのことから生前のSCP-2159-JPはアルツハイマー型認知症と前頭側頭型認知症5を併発していた可能性が高いと考えられており、現在のSCP-2159-JPの認知機能は生前の脳の状態を引き継いでいるものと推測されています。
SCP-2159-JPは発話において「きよはら けいじ」を自称します。SCP-2159-JPの認知症的な傾向により、正確な氏名及び表記に関しての情報は得られていません。また、SCP-2159-JPは頻繁に「きよこ」と称される人物との面会を要求します。SCP-2159-JPはこの人物について自分の家族であると説明し面会がかなわなければ現在地点から動かないこと、及び火葬を拒否することを表明しています。日本全国の「きよはら けいじ」及びその周辺人物としての「きよこ」と合致する人物の捜索が行われていますが、現在までにSCP-2159-JPの身元の特定には至っていません。
SCP-2159-JPは、2015年8月29日に徳島県██郡██町████の国道██線歩道上で倒れているところを通行人によって発見されました。発見時点でのSCP-2159-JPは異常性を示していませんでした。SCP-2159-JPは救急搬送されたものの、搬送先病院において死亡が確認されました。SCP-2159-JPは身元を証明するものを所持していなかったことから身元不明の死者として死因・身元調査法に基づいた行政解剖が実施され、死因は脱水症と低栄養によるものと断定されました。SCP-2159-JPは9月14日まで徳島県警によって保管され、その後に行旅病人行旅死亡人取扱法に基づいて自治体の管理下に移されました。同日中にSCP-2159-JPは公営火葬場である█████共立火葬場に移送され、██町役場福祉課職員2名の立会いの下で火葬に付される予定でした。11時40分頃、SCP-2159-JPは火葬炉へと搬入される過程で破壊及び移動不能性を示し、火葬炉への搬送が不可能となりました。当初、火葬場職員と福祉課職員は電動棺搬送台車の故障を疑いましたが数分後にSCP-2159-JPが発話を開始し、関係者によって異常性が認知されました。「数週間前に死亡の確認されていた男性が火葬直前に蘇生した可能性がある」という旨の緊急通報が成され、この通報を傍受したことにより財団が捕捉しました。
SCP-2159-JPの異常性を目撃した人物とその関係者に対する記憶処理が実施されました。また、SCP-2159-JPは行旅死亡人6として正規の手続きに基づいて火葬が行われたものとして処理されました。行旅死亡人としての手続きに際して偽装された遺骨が所定の墓園に保管され、官報への掲載も問題なく行われました。なお、官報掲載から現在に至るまでSCP-2159-JPの身元引受け人の申出は報告されていません。
行旅死亡人
本籍・住所・氏名・生年月日不詳(推定70〜90
歳代)、男性、痩せ型、身長155cm、白髪、や
や頭頂部が薄い、長袖シャツ、肌着、黒色ズボ
ン、靴下、灰色長靴着用、紫色がま口財布所持
上記の者は、平成27年8月29日午後14時ころ、
徳島県██郡██町████の国道██線歩道上
で死亡しているところを発見されました。死亡日
時は同日午後13時ころと推定されます。
遺体は身元不明のため検案後火葬に付してあり
ますので、心当たりの方は当町福祉課まで申し出
てください。
平成27年9月16日
徳島県 ██町長 █ ██
SCP-2159-JPの官報掲載文
またSCP-2159-JPの移動が困難であることから█████共立火葬場は表面上は火葬炉及び計装設備の老朽化、維持・修繕等の困難を理由に閉鎖されたものとし、現在の収容設備が構築されました。
付記: 以下は 墓碑部門によりSCP-2159-JPの身元特定に繋がる情報の獲得を目的として実施されたインタビュー記録の逐語録からの抜粋です。
インタビュー記録-2159-JP.3(2015/09/16)
墓碑部門
対象: SCP-2159-JP
インタビュアー: 吉川博士
補足: インタビューの円滑化を図るため、対象が自称する「きよはら けいじ」に則って対象を呼称しています。またSCP-2159-JPの認知症的傾向に鑑み、インタビューに際しては認知症高齢者へのアプローチに準ずる面接技法が用いられています。
[記録開始]
吉川博士: きよはらさんこんにちは。今日もお話させていただいて大丈夫ですか?
SCP-2159-JP: おー。誰だっけ。あんた。
吉川博士: きよはらさんの担当をさせていただいている、吉川です。
SCP-2159-JP: ふーん。よかよ。うん。
吉川博士: ありがとうございます。ではまず、なぜ今きよはらさんがこのような状態となっているのかについて聞かせてください。
SCP-2159-JP: んーとな。焼かれんようによ。あんたらに。おいは焼かれんようにここにおるの。
吉川博士: なるほど。火葬を避けるためにですね?きよはらさんがご自分の力でその場に留まっているのですか?
SCP-2159-JP: そう。そう。頭がぐらぐらしよってね。そのまま倒れて、気がついたらもう死んでて焼かれるとこだったの。でも火葬されとうなかったけんね。
吉川博士: なるほど。きよはらさんは、そのような異常な活動をどのようにして行っているのですか?
[返答なし]
吉川博士: きよはらさん、答えられますか?
SCP-2159-JP: しらんばい。うん。わからんね。どがんしてやったんか。ただね、焼かれんようによ、あんたらに。おいは焼かれんようにね、ここにおろうと、そうしようとしたらこうなった。わかった?
吉川博士: はい。分かりました。えー。先程、きよはらさんは死後に火葬されることに気がついた、と仰りましたね?その事について質問ですが、それはつまりきよはらさんは死後も意識があったということですか?
SCP-2159-JP: あんね。んー。あんまり覚えとらんね。ただ焼かれるっていうね、その時に気がついてんだけ。
吉川博士: それは火葬炉に入れられる寸前に意識が回復した、ということですかね。
SCP-2159-JP: んー。ようわからん。うん。ばってん覚えとーとはそうだな。
吉川博士: わかりました。ありがとうございます。では、なぜきよはらさんは火葬を拒まれたのですか?
SCP-2159-JP: なしてって。きよこに会いたいからだって、何度も言いよろうが。
吉川博士: きよこさん、という方と会いたいために現在のような状態になっているのですね?
SCP-2159-JP: そうだってば。おいは何回も言いよーじゃろう。
吉川博士: なぜ、きよこさんと会いたいと思っているのですか?
SCP-2159-JP: きよこは身内よ。火葬される前に、身内に会いたかと思うくらいは当たり前じゃろう。
吉川研究員: なるほど。では、きよこさんは御家族ということですね?
SCP-2159-JP: そう言いよろうが。身内は身内よ。他に、どんな身内があるの?
吉川研究員: はい、そうですね。失礼しました。では、ご家族のきよこさんはきよはらさんとどう言った関係の人物ですか?
[返答なし]
吉川研究員: きよはらさん。今の質問は聞こえていましたか?返答をお願いします。
SCP-2159-JP: そうやって、年寄りやけんって馬鹿みたいに扱うもんじゃないよ、あんたは。身内だって答えとろうが。
吉川研究員: えぇ。失礼しました。では、質問を変えますね。きよこさんはきよはらさんのご兄弟ですか?それとも奥さんや娘さんですか?
SCP-2159-JP: だからね。身内言うとろうが。身内は身内。おいん、身内と。きよこは。
吉川博士: わかりました。では──
SCP-2159-JP: たいがいにしろや。あんな、何回も言いよーばってん、おいはきよこと会えるまで絶対にここから動かんけんな。絶対に焼かせんけんな。早うきよこ連れてこい。
吉川博士: きよはらさん、落ち着きましょう。我々はあなたを火葬しようとは考えていません。我々はあなたを保護することを目的にしています。それに、きよこさんという方を探すためにもあなたからきよこさんについて教えていただく必要があるんです。
SCP-2159-JP: ひっちゃかましか。痴呆の年寄りば思って馬鹿にしやがって。早くきよこと会わせろって言っとろうが。
[以降SCP-2159-JPは同様の要求を述べ、インタビューの続行は不可能と判断された。]
[記録終了]
終了報告: インタビューから、SCP-2159-JPは自らの意思で現在の異常性を発揮していると認識していることが認められました。一方で異常性の行使に関してSCP-2159-JPは明確に説明することは出来ないようであり、恐らくは無意識的に異常性を行使しているものと考えられます。
またSCP-2159-JPが言及する「きよこ」という人物について、SCP-2159-JPは自身の家族であると表明しました。SCP-2159-JPは「きよこ」の詳細な人物像について説明できず、この人物の詳細についての記憶が曖昧になっているものと考えられます。SCP-2159-JPにはBPSD7に見られる易怒性亢進8が観察されます。特に「きよこ」について言及した場合にこの傾向は顕著に観察され、認知能力の低下により「きよこ」に関する想起が出来ず、不安・混乱が増大していることで攻撃的言動を取っているものと推測されます。
SCP-2159-JPは説明、想起等が困難な状態にあり、インタビューによる情報収集には継続した専門的アプローチが必要です。
補遺1: 収容以降、SCP-2159-JPの認知能力が低下していることが確認されています。2016年1月20日に行われた改訂長谷川式認知症スケールを用いたスクリーニング検査の結果は7点であり、収容開始時点から3点の点数減少が認められました。また、SCP-2159-JPの発言内容には不安障害的な兆候が観察されます。SCP-2159-JPは「きよこ」との面会を要求し続けており、要求が実現しないことに対するストレスがSCP-2159-JPの認知機能に悪影響を及ぼしている可能性が考えられます。認知症の進行にストレスが大きく関与していることは知られていますが、SCP-2159-JPの脳機能は医学的には完全な停止状態にあり化学的対症療法は無意味であると考えられます。SCP-2159-JPの認知機能維持を図る場合通常の認知症に対するアプローチは困難であり、ストレスの軽減と緩和に注力すべきと判断されました。
SCP-2159-JPの異常性が意識的に発現したものであると考えられる背景を鑑み、認知能力低下により異常性の変質や消滅につながる可能性が指摘されています。現在のSCP-2159‐JPの主要なストレス源は「きよこ」とされる人物との面会要求が実現されないことに起因しておりSCP-2159‐JPの安定した状態維持を目的として「きよこ」の捜索が提案されました。
この提案は上記理由に加えて、SCP-2159-JPの異常性発現に繋がる背景情報が獲得できる可能性などから承認され墓碑部門による調査が開始されました。また、「きよこ」が家族関係者であると主張するSCP-2159‐JPの発言を踏まえて、同時にSCP-2159‐JPの身元捜索の優先度も引き上げられました。なお、当該人物が発見された場合のSCP-2159‐JPと「きよこ」との面会の実現に関しては、研究チームと墓碑部門、倫理委員会との間での協議が進行中です。
補遺2: 墓碑部門により日本国内全域の地域包括支援センター、医療機関、民生委員等の地域包括ケアシステムを対象にした調査が実施されました。この調査により熊本県球磨郡あさぎり町██地域に存在していた独居高齢者がSCP-2159-JPであると判明しました。
この人物の氏名は山岸敬治であり、1995年に離婚する以前の氏名は清原敬治だったことが確認されています。山岸氏は調査実施時点で行方不明となっていました。当該地域の地域包括支援センターにより存在は2014年8月頃から把握されていましたが、本人が福祉的支援に強い拒否を示していたことから介入が見送られており、墓碑部門による調査が実施されるまで行方不明となっていることが明らかとなっていませんでした。山岸氏の住居から回収された身分証明書の顔写真等との照合から、山岸敬治氏はSCP-2159-JPであると断定されました。
山岸敬治氏(SCP-2159-JP)のジェノグラム
SCP-2159-JPの親族関係者は大部分が既に故人であり、子供などはいませんでしたが1995年に離婚している元配偶者の清原キヨコ氏の死亡届は提出されておらず、生存中と目されています。
清原キヨコ氏は離婚後の1996年に宮本智博氏と再婚しており、現在の氏名は宮本キヨコでした。再婚相手の宮本智博氏は2005年に病気により死亡していましたが、キヨコ氏は復氏手続きをしていなかったため戸籍上の氏名は宮本のままでした。墓碑部門はSCP-2159-JPの自称氏名及び「きよこ」が家族関係者であるという事前情報から、「きよこ」の氏名を「きよはら きよこ」と推測し捜索を行っていたため当該人物の発見には至っていませんでした。
結婚以前の宮本キヨコ氏は徳島県に居住しており、生前のSCP-2159-JPは同氏の元へと行くことを試みたものと考えられ、その過程で餓死したものと考えられます。認知症高齢者には疲労を感じにくい、見当識障害による時間感覚の欠如などから長距離を移動すること、無気力及び無関心による食事への興味低下などが観察されることもあり、生前のSCP-2159-JPの行動は認知症によるものと説明可能です。
SCP-2159-JPに関するさらなる情報獲得のため宮本キヨコ氏の聴取が計画されています。SCP-2159-JPと宮本キヨコ氏との面会実現に関しては研究チームと墓碑部門、倫理委員会との間での協議が進行中です。
補遺3: SCP-2159-JPに宮本キヨコ氏に関する情報を一部開示することで身元特定調査によって得られた情報の確認が行われました。以下は情報の確認を目的として実施されたインタビュー記録の逐語録からの抜粋です。
インタビュー記録-2159-JP.39(2016/05/25)
墓碑部門
対象: SCP-2159-JP
インタビュアー: 吉川博士
補足: インタビューの円滑化を図るため、対象を「清原敬治」と呼称しています。またSCP-2159-JPの認知症的傾向に鑑み、インタビューに際しては認知症高齢者へのアプローチに準ずる面接技法が用いられています。
[記録開始]
吉川博士: 清原さんこんにちは。吉川です。お話させていただいて大丈夫ですか?
SCP-2159-JP: あぁー。吉川?誰だっけか。
吉川博士: …清原さんの担当の者です。お話させていただけますか?
SCP-2159-JP: おー。うん。うん。そうだね。よかよ。
吉川博士: ありがとうございます。えー、以前から進めていたキヨコさんについて確認したいことがあります。大丈夫ですか?
SCP-2159-JP: キヨコな。身内よ。うん。キヨコな。早う会わせてくれよ。
吉川博士: はい。私達も、清原さんが会えるようにキヨコさんを探しています。それで、私たちはキヨコさんの情報を見つけました。なのでそのことについて確認したいのです。
SCP-2159-JP: そうか。それじゃあキヨコと会えるとか。そのうちに。
吉川博士: …そうですね。それでは確認に移ります。キヨコさんと清原さんは離婚されていますか?
SCP-2159-JP: …あー。うん。そうだったかな。キヨコ、キヨコはね。うん、どっかに行ったな。うん、離婚したな。うん。おいが還暦とかそこら辺やったと思うな。おおかたな。誰や、あん…宮本か。宮本って人とくっついたんだったかな。キヨコは。
吉川博士: それは1995年のことで間違いないですか?
SCP-2159-JP: んん。そうかな。どうだったろ。十年よりもっと前だったな。うん。お互いもうよか歳やったじょん、別れてな。馬鹿らしかよな。
吉川博士: なるほど。では次に、結婚する前のキヨコさんは徳島県にお住いでしたか?
SCP-2159-JP: うん。うんうん。うん。そうそう。そうばい。キヨコん実家は徳島にあった。徳島んね、████んとこや。
吉川博士: なるほど。では生前の清原さんについてお聞きしますね。清原さんは亡くなられる前、キヨコさんのお宅に行こうとしましたか?
SCP-2159-JP: んー。んーとな。おいが死ぬ前?んーとね。最後んときじゃろ?そん時はね。んー。家に帰ろうとしたっさな。うん。家ばい。
吉川博士: 家に帰ろうとして道に迷ったということですか?
SCP-2159-JP: いやいや。違くてばい。家に帰ろうとしてな。キヨコが待っとったけんばい。うん。身内ん待っとーとこに帰ろうとしたっさ。家にな。
吉川博士: えー。つまり、キヨコさんの待っている家に帰ろうとしたということですね?
SCP-2159-JP: うん。そうそう。キヨコはおいん身内やけんな。1人にさしといたら可哀想じゃろ。キヨコはな、キヨコは。いつも家で待っとるったい。うん。やけんな、家に帰らんば。
吉川博士: ですが清原さんは離婚後はおひとりで暮らしていましたよね?
SCP-2159-JP: うん。いや、やけん。身内ばい。身内は家におるんばい。キヨコは。キヨコは、おいん身内やけん。
吉川研究員: …わかりました。ありがとうございます。
SCP-2159-JP: いや、それにしてんありがとう。キヨコ、探してくれて。連れてきてくるるとやろ?嬉しかばい。
吉川研究員: …いえ、仕事ですので。
SCP-2159-JP: 毎日こうやって天井見よーだけじゃあ飽くっさ。ばってんこれでやっとキヨコに会えるって思うと嬉しゅうて、嬉しゅうてな。
[15秒の沈黙]
SCP-2159-JP: キヨコん所に帰れんかったけん。最後に会えればな、いっぱい言いたかこともあるしな。
吉川博士:…そうでしょうね。
SCP-2159-JP: ありがとう。ありがとうな。楽しみにしとーばい。キヨコと会えると。
[記録終了]
終了報告: インタビューにより一部の内容については認知症傾向を原因とする記憶の混乱によるものと思われる齟齬がありましたが、大部分については調査から判明していた宮本キヨコ氏の情報とある程度合致することが認められました。
このインタビュー以降、SCP-2159-JPの不安障害的傾向は軽減しています。これは、調査が進行しているという情報により、宮本キヨコ氏と面会できるものであるとSCP-2159-JPが考えていることによってストレスが低減していることに起因しているものと考えられます。記憶維持が困難であるためにSCP-2159-JPはこのことを定期的に忘却しますが、再度説明することによって低ストレス状態を維持可能であることが認められています。
補遺4: 2016年6月10日、宮本キヨコ氏の聴取を目的として墓碑部門異常調査課エージェントが居住地である徳島県██町████を訪問しました。訪問したエージェントにより呼び掛けが行われましたが応答がなく、最終的にエージェントは玄関扉を解錠して家屋内部に侵入しました。
その結果、家屋1階物置で死亡している宮本キヨコ氏が発見されました。エージェントによる宮本キヨコ氏の死亡確認作業の最中、同氏は未知の方法により発話しました。また、この確認作業により宮本キヨコ氏はSCP-2159-JPに準ずる破壊不能性を示していることが認められました。
以下は、対応したエージェントによって行われた簡易的なインタビューの記録です。
インタビュー記録-2159-JP-A.01(2016/06/10)
墓碑部門
対象: 宮本キヨコ氏
インタビュアー: エージェント・沢田
[記録開始]
エージェント・沢田: 宮本さんですね?
宮本氏: うん。そう。あなたは?役場ん人?
エージェント・沢田: 違います。ですが、あなたのことを調べに来たものです。インタビューをさせていただけますか?
宮本氏: うん。かまんばい。
エージェント・沢田: ありがとうございます。えー、宮本さんはなぜこのような状態になったのですか?
宮本氏: こうって、あー。ねまらんくなったってことね。死んだじょんってことね。
エージェント・沢田: はい。そのことについて教えてください。
宮本氏: そりゃね。あん人に会いたかったけんばい。あん人。まぁ、旦那ね。うん。
エージェント・沢田: 旦那さんというと、既に死別している宮本智博さんのことですか?
宮本氏: いや。智博さんじゃなくてね。言い方が良うなかったね。元旦那ね。智博さんは、もう亡くなってしもうとったけん。
エージェント・沢田: では、その方は山岸敬治さんですか?
宮本氏: そうばい。そうそう。よう知っとーね。うちね、胸がギューって苦しゅうなってそんまま倒れて死んだんや。心臓痛うてね、倒れたら頭ぼーっとしてきて、死んだの。そして死ぬ時にね、1人で死にとうなかなって思うたと。そしてそん時に頭に浮かんだのが、旦那じゃなくて前ん旦那だったのよ。
エージェント・沢田: なるほど。その時から今のような状態に?
宮本氏: うん。うんうん。うん。そうそう。そうばい。変な話やろう?歳とってからわざわざ旦那と離婚したじょん、別ん人と結婚したじょんね。なんに、死ぬ時に会いたかって思うたんはあん人やった。馬鹿らしかね。
エージェント・沢田: なるほど。では、宮本さんはいつからこのような状態なのですか?
宮本氏: いつからかね。もうだいぶ前かな。もう誰もうちん事見つけてくれんって思うとった。長か間、こけーおったばい。死ぬ時居間でラジオつけとったけんしばらくそれ聞いて過ごしとったばってん、もうだいぶ前に電池切るるかして聞こえんくなってしもうたしね。もうずっと、寝とーような、起きとーようなわからん状態でいたばい。
エージェント・沢田: なるほど。わかりました。ありがとうございます。
宮本氏: あなた、うちば火葬すると?悪かばってんね、火葬さるるつもりは無かよ、うちゃ。あなた敬治さんのこと知っとーんやろ?会わせて欲しかとばい。あん人捨ててしもうたこと謝らんばいかんし、話したかこともようけあるっさ。
エージェント・沢田: …私の一存では答えられません。ですが、少なくとも私たちはあなたを火葬することはしません。
宮本氏: そりゃ良かった。会わせてくれんね。お願いします。あん人も寂しがっとーと思うばい。死ぬまで、とうとうあん人んこと考えんごとして逃げとったばってん、死んで踏ん切りがついたとです。せめてあん人に、こん世からなくなる前に会いたかばい。お願いします。
[記録終了]
家屋玄関内に溜まっていたチラシ類の日付から、宮本氏は2015年8月12日前後に死亡したものと推測されています。宮本氏は死後に異常性を発現したものと見られ、破壊不能性に伴う死後変化の停止により腐敗臭が生じず、ハエ等の発生も確認されませんでした。これに加え、電気・ガス・水道使用料は口座引き落としとなっており支払いの遅延などが発生していなかったこと、医療福祉関係機関との関わりがほとんどなかったこと、交友関係がほとんど無く近隣住民との関係も希薄であったことが確認されており、これらの複合的な要因から死後約10ヶ月に渡って発見されなかったものと考えられています。
宮本氏のおおよその異常性はSCP-2159-JPに準ずるものであると確認されています。宮本氏はSCP-2159-JPと異なり移動不能性は示さないものの、SCP-2159-JPとの類似性を鑑みると今後異常性を変質させ移動不能性を示す可能性も考えられます。これらの発見により、宮本氏はSCP-2159-JP-2と指定されました。
SCP-2159-JP-Aに対する非侵襲性調査により、SCP-2159-JP-Aの脳には初期のアルツハイマー型認知症の傾向があることが認められました。しかしながらSCP-2159-JP-Aに対して行われた改訂長谷川式認知症スケールによる検査の結果は16点であり、脳の状態から想定される認知機能を大きく下回ることが認められました。これはSCP-2159-JP-Aの社会活動機会が死後約10ヶ月に渡って完全に失われたことで高ストレスに晒され続け、認知機能低下が進行した結果であると考えられています。
SCP-2159-JPとSCP-2159-JP-A双方の異常性発現原因は未特定であり、調査研究が行われています。
補遺5: SCP-2159-JPとSCP-2159-JP-Aは相互に面会を要求しています。これを受け、保留されていた両存在の面会の実施に関する協議が再度行われました。
SCP-2159-JP研究チームは両存在は生物学的に死亡している点、及び現在の収容体制で双方の異常性に目立った変化が見られないこと、双方に調査継続中であるという欺瞞情報を提供し続けることでストレス低減を図りながら容易に収容可能であるとして現在の対応を継続し面会を行う必要は無いと提言しました。これに対し、墓碑部門はSCP-2159-JPとSCP-2159-JP-Aがヒトと同程度の知性を有する点及び持続的な収容維持の観点から両存在に対する情報開示と標準人型存在収容プロトコルの適用、定期的な接触によるストレス低減を図るべきであると主張しました。
研究チーム及び墓碑部門の主張を元に、倫理委員会は次の通りにSCP-2159-JPの取り扱いを決定しました。
SCP-2159-JP及びSCP-2159-JP-Aの取り扱いに関する決定
倫理委員会
SCP-2159-JP及びSCP-2159-JP-Aはヒトと同程度の知性を示すものの、生物学的に死亡しており社会活動を提供する必要性は低く標準人型存在収容プロトコルを適応する必要性は無いものと評価できます。また両存在の認知症的傾向は面会が実現されないことに対するストレスに起因するものであり、ストレス低減の取り組みは無視できないものであるものの両存在は共通して短期記憶が障害されており、調査継続中であるという欺瞞情報についてもそれが欺瞞であると気が付く可能性は低いと考えられます。これらを鑑みて両存在の面会を行う必要は無く、SCP-2159-JPとSCP-2159-JP-A双方には情報を開示せずに調査継続中であるという欺瞞情報を与えることで現在の収容体制を維持すべきです。
協議を踏まえたこの決定に基づき、現在SCP-2159-JPとSCP-2159-JP-Aは各々別に収容され、調査進行中であるという欺瞞情報が与えられています。