アイテム番号: SCP-2167-JP
Dクラス職員によって撮影されたSCP-2167-JP。
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: 1999年現在██港の全施設は財団が所有しており、従業員に変装した職員によって運営されています。敷地内には大型倉庫に偽装した研究施設を設置しSCP-2167-JPとSCP-2167-JP-1の監視および調査を行ってください。
██港の開放は午後7時までとし、SCP-2167-JP出現中の波止場への侵入は全面的に禁止されます。午後7時以降は警備員に変装したセキュリティ担当者が一般人の侵入を阻止し、財団職員または敷地内に侵入した一般人がSCP-2167-JPに暴露した場合は対象を拘束したうえで一時的に██港内の隔離区画に収容してください。その後、拘束した対象は身体検査を行ったうえで担当サイトの収容区画へ移送してください。
現在、SCP-2167-JPの実験は一部凍結されています。
説明: SCP-2167-JPは██県██市に位置する██港で観測される形式不明の大型船舶です。SCP-2167-JPは港からおよそ███km離れた地点を常に浮上しており、██港から見て右方向(方角的には北東)に向かって直進しています。
SCP-2167-JPは██港の波止場に存在する人間にのみ観測され、対象への接触を試みたとしても██港から離れた距離と同様の地点を維持する様に観測されるため成功しません。SCP-2167-JPに対してレーザーの照射実験を行った場合もオブジェクトに依存する反射が一切観測されないという現象が発生し、対象の実存性も未だ不明です。
SCP-2167-JPの出現は毎年█月██日の午後7時34分から午後7時40分の間に発生します。この時にオブジェクトを視認した人間(以下、暴露者)がいた場合、暴露者は約20秒間静止した後に全員が「間違いであった。」という内容の発言をしながらSCP-2167-JPへの接近を試みます。これにより大半の暴露者は波止場から海へと入水し、上記の特性から体力の限界により気絶もしくは溺死します。
SCP-2167-JPによる暴露者への影響は永続して発現し、記憶処理を用いた治療を行ったとしても改善されません。また、どのような地点に暴露者を隔離したとしても暴露者は██港の位置を正確に理解しかつ現地へ向かおうとする特性も獲得するため、暴露者に関しては専用の隔離房に収容したうえでの経過観察が継続されています。
現在、██港の敷地内ではSCP-2167-JPが出現している間に録画機器を用いて撮影した場合にのみ観測が可能な成人男性と思われる人型実体(以下、SCP-2167-JP-1)が確認されています。SCP-2167-JP-1は主に黒色のロングコートを着用しているように見え、基本撮影場所から常に離れた位置に出現する傾向があります。SCP-2167-JP-1の詳細な容姿や情報は出現地点の法則性の無さや上記の傾向により分析が難航しています。1998年現在、SCP-2167-JP-1がSCP-2167-JPの出現に起因しているとみて調査が継続されています。
補遺1: SCP-2167-JPは1994年█月██日に発生した██港内での傷害事件を切っ掛けに発見されました。当時、3名の財団エージェントが隣接する海岸にて海洋に関連する異常現象の調査中であり、同日の午後7時55分、██港にてSCP-2167-JPに暴露した一般人による傷害事件が発生しました。当初は通常の事件として現地警察により処理されましたが、留置所に収監されていた暴露者の状態などからエージェントらは現地調査を開始。結果、██港で働く従業員や漁師間で結ばれていた「█月中の午後7時以降は波止場周辺に接近してはならない」という非公式の規約を設置していることが判明し、それに伴い存在や船に関連する情報が発覚。後の分析でSCP-2167-JPの存在が判明しました。
なお、SCP-2167-JPと██港に関連する明確な資料や証言は未だ確認できておらず、SCP-2167-JPの出現原因となる情報の特定にも至っていません。
補遺2: 以下は実験に参加したDクラス職員に対して行ったインタビューの記録です。
インタビュー記録003
対象: D-0992(男性 当時46歳)
インタビュアー: 後藤博士(男性 当時29歳)
付記: インタビューはサイト-81██の尋問室で行われました。なお、尋問室内には安全を考慮し後藤博士の他に2名のセキュリティ担当者が配置されています。
<録音開始 1998/█/█>
後藤博士: 初めましてD-0992。今の気分はどうですか?
[2秒間の沈黙]
後藤博士: 今日はあなたに幾つかの質問をするためにここに呼びました。大丈夫ですか?
D-0992: [小声で何かを喋る]
後藤博士: ……輝樹かがやき博士。今のこの現状で、彼に質問をしても問題ないのでしょうか?
[尋問室外で尋問を監視している輝樹博士からインタビュー継続の指令が下る]
後藤博士: ……分かりました。では改めまして、D-0992。まずは、あなたが実験に参加した日について教えてください。わかる範囲でお願いします。
[3秒間、D-0992の呟きが続く]
後藤博士: D-0992。単刀直入に訊きますが、あなたはあの日一体何を見たのですか?
[4秒間、D-0992の呟きが続く]
後藤博士: あなたはあの船を見て、一体何を感じたのですか?
[2秒間、D-0992の呟きが続く]
後藤博士: D-0992、あなたは一体……。
D-0992: 間違いだ。
後藤博士: ……間違い?
D-0992: 間違いだ。全て間違いだ……! 俺は間違えた。行かせるべきじゃなかった。俺は大馬鹿者だ。あの子は嫌だと言ったのに、行きたくないと言ったのに……! 俺は、俺は無理やり……。俺は間違えた。間違えたんだ……!
[6秒間、同様の呟きが繰り返される]
[輝樹博士から質問内容を変更するよう指示が下る]
後藤博士: わかりました。……D-0992。その間違いとは、一体何なのですか?
D-0992: 全部だ……。何もかも。俺は間違えた。……間違えたんだ……!
後藤博士: D-0992。あなたは何をどう間違えたのですか?
[3秒間の沈黙]
後藤博士: D-0992? どうしましたか?
D-0992: ……違う。
後藤博士: ……え?
D-0992: 違う……。あれは違う……。あれは、あれは……!
[何かが倒れる音]
D-0992: 違う……! 俺じゃない……! 俺じゃない!……█████(何らかの型番号)! こんな番号は知らない! これは、これは俺の記憶じゃない……!
セキュリティ担当者 おいお前! 何をしている!
[ノイズ音]
D-0992: 俺は間違えたんだ! 何故行かせた!? 何故あの子を行かせてしまったんだ!? あの子はあんなに嫌がっていたのに! あんなに行きたくないと言っていたのに! あの子は、震える手で、俺に! なのに俺はその手を……! あの小さい手を……! 俺はあの子を愛していた! 絶対に最後まで守ってやるって決めていたんだ! なのに、なのに何で……! 何で!…… 助けなきゃ……! 今すぐ助けに行かなきゃ!……違う! 違う違う違う! これは俺じゃない! 俺の記憶じゃな! 誰だ!? 俺は、一体誰だ!?
[3分間、ガラスの割れる音やセキュリティ担当者の罵声が響く]
[D-0992が鎮圧される]
D-0992: ……違う……! 俺は……! 違う……!
セキュリティ担当者: 博士、お怪我はありませんか?
後藤博士: ……は、はい。大丈夫です。……取り敢えず彼には鎮静剤の投与を。
セキュリティ担当者1: はい。……すまん、こいつの腕を抑えていてくれ。
セキュリティ担当者2: 分かった。
D-0992: 俺は……! 俺は……!
セキュリティ担当者1 おい、大人しくしろ!
後藤博士: ……いや、ちょっと待ってください。
セキュリティ担当者1: は。
後藤博士: 彼に、最後に訊きたいことがあります。
セキュリティ担当者2: ですが……。
後藤博士: お願いします。
セキュリティ担当者2: ……分かりました。
後藤博士: ……D-0992。改めて、あなたの名前を教えてください。
D-0992: ……[編集済](D-0992の本名とは異なる名前)
後藤博士: では[編集済]さん。最後に。あの子とは一体誰なんですか。
[5秒間の沈黙]
後藤博士: 教えてください
[ノイズ音]
後藤博士: ……分かりました。ありがとうございます。
<録音終了>
終了報告書: D-0992へのインタビューを終了してから3日後、後藤博士とインタビューに立ち会った2名のセキュリティ担当者が失踪しました。現在も捜索は継続されていますが、未だ行方は分かっていません。なお、後藤博士に関しては失踪の直前までD-0992の証言に関する裏付け調査を行っていた事が判明しています。
以下は1998年█月██日にサイト-81██の緊急通信にて受信した音声記録です。
音声記録2167-JP
付記: 以下の記録は後藤博士が失踪した1週間後に送られてきた通信記録です。なお、通信主は声紋鑑定の結果後藤博士本人であると判明しています。
<再生>
後藤博士: 誰か……! 聴こえているなら、返事をしてくれ……! 頼む……!
[00:01:32] 金属をぶつける音や擦る音が響く。
[00:02:09] 遠くから男性の笑い声が聞こえる。
後藤博士: さ、サイト-81██……! 聴こえますか……!? じ、自分は後藤和義……! 今、SCP-2167-JPの内部にいます……! こ、ここは、人が……! 人が捨てられてます……! 今も、どこかで人が殺されて、現にさっきまで一緒だった同僚が……!
[00:02:12] 1秒程、遠くで男性の叫び声が響く。
後藤博士: お願いします、今すぐ助けを呼んでください……! 現在、自分は仲間と一緒に行動しています……! お願いします、彼ももう……だから早く! ……嘘だ。嘘だと言ってくれ。なんで、おいしっかりしてくれよ、おい!
Unknown: 暗い……。暗い……。
[00:02:58] 複数人の呻き声。
後藤博士: くそ……! くそ……!
[00:03:23] 何らかの金属物が擦れる音。
[00:03:25] 後藤博士が走っていると思われる靴音。
後藤博士: わ、我々は、D-0992の証言をもとにとある人物について調査を行いました……! D-0992自身が名乗った名前と、その人物の子供について……! 調査は難航しましたが、すぐに結論が得られました……! ですが、いざ、その情報を手にした時にもう……! 我々は、間違えました……! 全ては、大きな間違いだったんです……!
[00:03:47] 沈黙
後藤博士: そんな……! 何でお前が……! 来るな……! こっちに来るな!
[00:03:55] 後藤博士の物と思われる絶叫。
後藤博士: 助けて! 助けて下さい! 嫌だ! 誰か!
[00:04:56] 複数人(推定100人以上)の呻き声が響く。
[00:04:59] 後藤博士の絶叫と共に大型の機械音とモーター音が響く。
後藤博士: クソ、クソ!ふざけるな! 離せ! 離せって言ってるのが分からねえのか!? 離せえ! 全部、全部あいつの所為だ! あの男……! 港に立っているだけで何もできない、あのろくでなしの……! 何もかもあいつの所為だ……! クソったれ!
[00:05:30] 複数人の呻き声が大きくなる。
後藤博士: [5分間の絶叫]
[00:25:35] 複数人の叫び声と笑い声が響く。
[00:26:46] 複数人の「おいで」という声が響く。
後藤博士: 嘘だ! 全部、全部嘘だ! あの男の言い分も、あの子の正体も! あの子はいない! もういないんだ! なのに何で、何で俺がこんな目に! やめろ……やめてくれ! こんなことして何になる!? やめろ!
[00:27:19]金属製の扉が開くような音
後藤博士: [絶叫]嫌だ! そこだけは嫌だ! お願いです、何でもします! 何でも言う事を聞きます! 全部あげます! あの子供も仲間も全部あげます! だから、だから……! ……ああ! 助けて! 頼む! [泣き叫ぶ声]お母ちゃん! お母ちゃん助けて! 嫌だあ! [絶叫]
[00:28:03] モーター音と何らかの物体を切断している音が5分間継続する。
[00:33:06] 後藤博士の笑い声が響く。
[00:33:20] ノイズ音が続く。
[00:33:29] 通信が回復する。
後藤博士: [ノイズ音]ちゃん。お父さんがお舟で待ってるよ。
複数人の声: おいで。
<停止>
終了報告書: この通信の発信元の特定には未だ至っていません。また、インタビュー記録や通信内で言及されていた型番号、特定人物の氏名と思われる情報に関しても一切の情報が抹消されており詳細は判明していません。現在、これらの情報の認識が後藤博士の失踪に関与している可能性が示唆された為、調査は保留されています。