クレジット
タイトル: SCP-2207-JP - かくも日常な愛すべき異常
著者:
kyougoku08
作成年: 2025
アイテム番号: SCP-2207-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2207-JPは常時監視体制に置かれます。内部住民への攻撃、拘留は禁止されます。内部のSCP-2207-JP-Aとは年に一回担当職員による協定の更新が行われます。
説明: SCP-2207-JPは兵庫県██市に存在する3階建ての木造アパートです。各階に3部屋ずつが存在しており、総部屋数は9部屋です。築年数は約30年であり、現在の大家は新宮 美代氏です。
SCP-2207-JPにおけるアキヴァ放射の環境レベルは最高で98.9cAk、平均で81.cAkであり、これは多神教と一神教のズレを考慮した場合においても非常に高い数値です。また、観測されるEVEの色相はブラックであり、何らかの神格実体が存在していると推測されます。
この神格実体(以降、SCP-2207-JP-A)は自身の特定を隠匿する性質を有していると推測され、特定に臨んだ複数の機器において異常な数値の確認、機器自体の故障が確認されました。また、SCP-2207-JP及びSCP-2207-JP住民に対する攻撃、武力的介入が著しいものであった場合、不明な機序を用いて武装解除、身体の修復及び記憶処理が行われることにより、攻撃自体が発生しなかったものとして取り扱われます。これは住民に対し、強硬的な移送等を行った場合にも発生します。
これらの性質にもかかわらず、SCP-2207-JP周辺及び内部において異常事案は確認されず、現在まで基底現実に影響は与えられていません。
SCP-2207-JPは2███/██/██、激しいヒューム値の変動が観測されたことにより発見されました。このヒューム値の変動はSCP-2207-JPにSCP-2207-JP-Aが出現したことが原因であると推測され、即時に緊急事態宣言及び対神格特殊部隊の構成及びSCP-2207-JPの特定、調査が行われました。この過程において前述の異常性から、機器での観測、武力を伴った内部調査が困難であることが判明しました。これを受け、約3か月間周辺現実に異常が発生しないこと、内部の住人が異常を関知していないことから、2███/██/██、暫定措置として内部住民への聞き取り調査及びSCP-2207-JP-Aの特定が進められることが決議されました。
以下は内部住民のリストです。
- 303号室:秋野 雄三(56)
- 302号室:座間味 悠太(44)
- 301号室:烏野 明日奈(25)
- 203号室:空室
- 202号室:新宮 美代(88)/新宮 菜々香(34)
- 201号室:土 陽子(39)
- 103号室:ホセ・駒口(45)/フアナ・駒口(37)/エレナ・駒口(7)
- 102号室:玉川 友華(24)
- 101号室:待鳥 翔(23)
インタビュアー: エージェント・足利
対象者: 新宮 美代氏
注意: 新宮氏には若干の認知症傾向が認められている。また、A.足利は自治体職員として、全戸訪問を装っている
[再生開始]
A.足利: それじゃあ、防犯に関しての確認はこれで終わります。ここ3か月ほど新宮さんはお変わりなくですか
新宮氏: はい、孫も一緒に住んでくれてますしね。私みたいな年寄りにはもったいないですよ
A.足利: 一緒に若い人が住んでもらえると安心しますもんね
新宮氏: そうですねえ、ここのところ物騒ですし、菜々香ちゃんには申し訳ない気持ちもあるけど本当にありがたいんですよ
A.足利: 店子さんたちも変わったことはありませんか?
新宮氏: はい、皆さんいい人で、挨拶もしてくれるし家賃もちゃんと入れてくれますし、年寄りにはもったいないですよ
A.足利: そうですか。そういえば██/██に、ちょっと近隣でトラブルがあったようなんですけど何か気付かれたことはありますか?
新宮氏: あら、何かあったんですか。気づかなかったわ。菜々香ちゃんに聞けばわかるかもしれないけど
A.足利: いえいえ、そこまでは
新宮氏: ……そういえば、その日かは分からないけど、3ヵ月前にすごい音がしたわね。確か烏野さんのお部屋だったかしら
A.足利: 凄い音?
新宮氏: そうそう、雷かと思ったわ。烏野さんは棚を倒しちゃったって言ってたわね。菜々香ちゃんが助けに行って、本当にありがたいわね
[再生停止]
新宮氏へのインタビューから、烏野氏が何らかの事情を知っていると判断され、素行調査が行われました。その結果、烏野氏は要注意団体GoI-9519"ライフラフト"の構成員であることが判明し、同団体の代表者を交えた形で、財団サイトにおいて聴取が行われました。
インタビュアー: 護良研究員
対象者: 烏野 明日奈氏/大黒屋氏(GoI-9519"ライフラフト"仲介者)
[再生開始]
護良研究員: 再度の確認になりますが、あなたがライフラフトメンバーであることは事実ですね?
烏野氏: ……はい、事実です
大黒屋氏: 先に言っておきますけど、黙っていたのは悪意からじゃありませんからね。彼女はこちらの世界への帰化を望んでいた、そのために必要以上の干渉を避けていただけです。彼女は現状に満足しています
護良研究員: その是非については当案件において問題にしないと約束します。今回の聞き取りはあなたの居住するアパートに発生している異常についてです。認識はしておられますか?
烏野氏: はい、認識、何か変わったな、ということは気づいています。……というよりも、私が原因の一端じゃないかと
護良研究員: 詳しくお聞かせ願えますか?
烏野氏: 私の元居た場所は、ここと大きく変わりないんですけど、1つだけ、違うんです。……幽霊を燃料として使ってたんです
護良研究員: ……幽霊?
烏野氏: はい。皆さんが石油や石炭を使うように、私達の世界では幽霊を使ってて。どういう仕組みかはよく分からないんですけど
大黒屋氏: 私達だってスマートフォンの原理を分からないけど使えるでしょう? それと同じ感じらしいですよ
護良研究員: 承知しました。その方法の如何についてはまた後日お話を聞かせていただければと思います。では、何故原因の一端だと?
烏野氏: 私、元居た場所からその機械、幽霊をエネルギーに変える発電機みたいなものなんですけどそれを持ってきてて。もちろんこっちでは使えないですよ? でも、唯一の繋がりなので。で、それが3ヵ月前くらいに突然すごい音立てたと思ったら勝手に動き出して……。止まらないし何故か動かせなくなっちゃって
護良研究員: 新宮氏の言っていた雷のような音はそれですね。そのようなことはこれまでにもあったのですか?
烏野氏: 初めてです。ただ、たくさんの幽霊を無理に入れるとそういう誤作動が起こるとは聞いてました。でも、どこからそんな数の幽霊が来たのかとか分からないし、それになんで、それが循環してるのかも……
護良研究員: 待ってください。循環しているとは?
烏野氏: あれ、気づいてなかったんですか? 私の機械でエネルギーになった幽霊は本当ならバーっと広がって、漏電みたいなことになるんですけど、何故か1つの方向、というかアパート全体をグルグル回ってるんです。……え、それについて聞くつもりじゃなかったんですか?
[再生停止]
烏野氏へのインタビューから、現在SCP-2207-JPの外周を取り巻く形で指向性の霊的エネルギーが発生していることが判明しました。これは烏野氏の有する物品に由来するものであると推測されますが、SCP-2207-JP-Aとの関連性は不明であり、その起源及びSCP-2207-JPの外周を取り巻く原因、現在まで保持されている原因について調査が行われます。同時に烏野氏の有する機器の回収が試みられましたが、烏野氏の証言通り非攻撃性の方法による移動は不可能という結果に終わりました。
補遺: 後続調査において、SCP-2207-JP外周の霊的エネルギーにおける異常な挙動は、継続的な現実改変によるものである疑義が示されました。ここからSCP-2207-JP住人に財団が認知していない現実改変者が存在している可能性が考慮され、その候補者として土氏、秋野氏へインタビューが行われました。
インタビュアー: 楠木博士
対象者: 土 陽子氏
注意: 土氏には統合失調症の診断が出されており、医療機関の検診として聞き取り調査を行っている。
[再生開始]
楠木博士: なるほど、ここ数か月症状が落ち着いていると
土氏: ええ、幻覚や幻聴が、若干ですがそうと分かるようになってきたんです
楠木博士: それはいい兆候ですね。本当に起こっていることと、自分の中で起こっていることの区別を付けるのは1つの切っ掛けですから。薬をちゃんと服用されるようになったのですか?
土氏: いえ、お恥ずかしい話、しばらく前までは飲んだと嘘を吐いていたこともあったんです。ずっと幻聴が聞こえて、引きこもっていたんですが、3か月ほど前でしょうか、上階に住んでいる方が大きな音を立てて。私はてっきりそれを爆発か何かだと思って、慌てて飛び出そうとして、その瞬間何かが身体に入るような感覚があって。ああ、死にたくない、と思ったんです
楠木博士: ……なるほど、劇的な経験が切っ掛けになったのでしょうかね。ですが、まだ心身の疲労は残りやすいですし、集中も続かない状況でしょうから服薬を継続し、安静に過ごしてくださいね
土氏: そうですね、まだ急に意識を失うこともありますから
楠木博士: それは危険ですね。十分に注意してください
土氏: はい。ただ、そうなってるときは……、なんというか、大きな回路の一部、あるいは扉みたいなものになっているような感じがありますね。私の中を何かが流れていって、私を通して回復して出ていくというか
楠木博士: ……回路、扉ですか
土氏: 幻覚だとは思いますけどね。もう少しよくなったら、趣味だった園芸も始めようかと思ってるんですよ。アパートの庭、大家さんから許可を得れば使えるはずなので
[再生停止]
このインタビューより、楠木博士及び財団精神医療部門、財団民俗学部門より土氏が一種の巫覡的役割を担っているのではないかという指摘が行われました。この仮説に基づくと、烏野氏の機器によって発生した霊的エネルギーにおいて、土氏が増幅器、あるいは変換器に類似する役目を担っており、それが現在の状況に寄与していることが推測されます。
インタビュアー: エージェント・新田
対象者: 秋野 雄三氏
注意: 秋野氏は公立高校の教師であるが、芸術家としても活動している。そのため、SCP-2207-JP外で芸術活動へのインタビューとして聞き取りを行った。
[再生開始]
A.新田: では、芸術活動を始めたのはごく幼いころから?
秋野氏: そう言われると天性の才能みたいで面映ゆいが、子ども心にずっと続けていこうとは思っていたような気がするね
A.新田: そして地元高校を卒業し、芸術大学に入られたそうですが、何故教師の道に?
秋野氏: 純粋に才能が無かったのさ。それに、最後まで芸術家か数学者か悩んでいたんだ。30くらいまでは頑張ってたんだが、どっちも大成しないなと踏んだんで、夢を諦めこうやって気ままな高校教師をやっているわけ。悪くないよ、平凡な日々も
A.新田: 数学者ですか。確かに優れた美術品には黄金比や白銀比があると聞いたことはありますが
秋野氏: あれを言いだすと何でもありになってしまうので好かないんだが。俺は四角形に魅了されているんだよ
A.新田: 四角形?
秋野氏: うん、四角形こそが最も分かりやすい安定、安心を示す図形だと思うんだ。三角形やそれ以上の多角形にはどうしても尖った印象がある。だから俺の描くものにはいつもどこかに四角形のモチーフを入れている。それと、さっき言ったみたいに芸術活動、らしきことを始めたのは幼いころからだけど、俺には特技があってね
[秋野氏が食パンとナイフを取り出し、無造作にパンの耳を切り取る。A.新田の有するカント計測器が反応を示す]
秋野氏: こうやって、適当でも完璧な四角形を作ることができるんだよ。今回は正方形だけど、指定してもらえれば長方形でもできる
[食パンの各辺は全て長さが一致していることが確認される]
A.新田: なるほど、凄いですね……
秋野氏: 大したことはないけどね。漫画のヒーローみたいに捻じ曲げたりとかはできないし、あくまで自分で切ったり削ったりするときだけ。図形の把握能力が高いのかもな
[再生停止]
インタビュー後、カント計測器を確認したところ微弱ながら現実改変が確認されました。ここから、秋野氏は無自覚の現実改変者であり、範囲は不明ながら自身が加工したものを四角形に改変する事が可能であると推測されます。現状秋野氏が自身の改変能力を常識の範疇と捉えており、現実改変に無自覚であること、SCP-2207-JPに与える影響が未知数であることから、即時の収容は行われません。
一連のインタビューを受け、2███/██/██のSCP-2207-JPにおいて以下のイベントが連続的に発生していたものと推測されます。
① 烏野氏の有する霊的実体をエネルギーに変換する機器へ複数の霊的実体が挿入され誤作動を起こす。
その結果、発生した霊的エネルギーが土氏、秋野氏に接触する。
② 秋野氏が接触した霊的エネルギーを無意識のうちに四角形へ加工する。
結果としてSCP-2207-JP外周部に霊的エネルギーが広がる。
③ 土氏が接触した霊的エネルギーに対し、巫覡の役割を果たす。
その結果、霊的エネルギーの出入力が行われ、SCP-2207-JP外周部における循環が発生する。
上記のイベントはSCP-2207-JP外周の霊的エネルギー循環発生への推測ですが、SCP-2207-JP内部のSCP-2207-JP-Aにおいては一種の結界として機能している可能性が示唆されています。SCP-2207-JP研究においてはこの仮説を支持すれば、現状SCP-2207-JP外にSCP-2207-JP-Aの影響が確認されない事象への有意な説明として機能することから、暫定的な前提として共有されています。
この仮説からSCP-2207-JP外周の霊的エネルギーの起因となった霊的実体の調査が進められました。その結果としてSCP-2207-JP住人である座間味氏の関与が疑われたため、聞き取り調査が行われました。以下はその聞き取り調査から派生したSCP-2207-JP住人へのインタビュー記録です。
インタビュアー: エージェント・新田
対象者: 座間味 悠太氏
注意: 座間味氏は複数人の失踪に関与した疑いがあることから、警察組織からの調査として聞き取りを行っている。
[再生開始]
A.新田: ……では、██氏の失踪に関与していると認めるのですね?
座間味氏: はい、関与しているというよりも彼女は私が殺したようなものですから
A.新田: 殺した、とは明言されないのですね?
座間味氏: はい、彼女は死にたがっていました。でも、自分が死ぬことで色々な人に迷惑をかけるのは嫌だということで、私が身辺整理を手伝い、周囲から察知されないよう失踪の準備をして、自殺の道具も揃えました。そして、私の前で亡くなったので、私が殺したようなものかと
A.新田: ……であれば自殺ほう助に当たるかとは思いますが、これまで、何人を?
座間味氏: ちょっと待ってください、手帳を確認しますから。……だいたい8人くらいでしょうか?
A.新田: 何故そのようなことを?
座間味氏: お金が貰えたので。最初は近所のご老人だったのですが、手伝ってくれるなら遺産をいくばくかいただけるという言葉に断り切れず。ですが、案外上手くいって、人のためにもなる、お金も稼げるなら、仕事としてするのも悪くないかと自殺志願者の集まるサイトで募集をかけたりしました
A.新田: ……3か月前、2███/██/██には何をされていましたか?
座間味氏: その日は██さんと一緒にいました。なるべく迷惑の掛からない場所でということでしたので、私がいれば片付けも容易ではないかということで
A.新田: ……その日に██氏は亡くなったと?
座間味氏: はい、私の前で眠るように亡くなりました。そのあと片付けようとしたのですが……
A.新田: どうされました?
座間味氏: ██さんは、██さんのご遺体は、消えたんです。私はてっきり誰かに気付かれたものだと思って、だから刑事さんが来たのだと思っていたんですが
[再生停止]
インタビューから、烏野氏の機器に入力された霊的実体は、座間味氏が自殺ほう助を行った人物らであると推測されます。また、2███/██/██に消失した██氏の死体について財団神学部門より、SCP-2207-JP-Aが降臨するための生贄の役目を果たした可能性が提議されました。この降臨において何らかの呪術的儀式が行われた可能性を考慮し、他住人へのさらなる聞き込みが行われました。その結果、駒口氏と待鳥氏が儀式に関与する物品を所持している可能性が浮上しました。また、待鳥氏は大規模な匿名・流動型犯罪グループの末端構成員であることが判明しており、有村組や市俄会との関係があるものと推測されています。
インタビュアー: エージェント・井伊
対象者: ホセ・駒口氏
注意: 駒口氏は日系メキシコ3世であり、祖父の駒口 治夫氏の関係者という名目で聴取を行っている。
[再生開始]
駒口氏: 祖父に関して知っているのはこれくらいですね、何か参考になれたでしょうか?
A.井伊: とても参考になりました、突然のご連絡だったのにありがとうございます
駒口氏: いえいえ、私も改めて祖父のことを思い出せました
A.井伊: ホセさんはお生まれはメキシコですよね?
駒口氏: はい、だいたい20歳くらいで日本に移住しました。色々、……ええ、色々と大変でした
A.井伊: お気持ちお察しします
駒口氏: いえいえ、幸運にもいい人たちに恵まれましたから。それこそ、祖父にも守られてます
A.井伊: お爺様にも?
駒口氏: ええ、ちょっと待ってくださいね
[ホセ氏が写真を提示する]
駒口氏: これは我が家に伝わる宝石です。いざとなればこれを売って生活の足しにしろと祖父から
A.井伊: エメラルド、でしょうか?
駒口氏: はい、祖父がどこかで手に入れたものらしいですが、酒の席でアステカの王族に伝わるものだとかあることないこと言っていましたね
A.井伊: アステカの……。現物は流石にこの家には置かれていませんよね?
駒口氏: それは秘密です。少なくとも簡単に出せる場所には置きませんよ
[再生停止]
駒口氏の資産および行動履歴を調査したところ、エメラルドは103号室内に存在する可能性が高いことが確認されています。また、駒口 治夫氏はメキシコの遺跡採掘に参加していた経歴があり、発言の妥当性は高いものであると考えられます。ここから、SCP-2207-JP-Aの出現において駒口氏のエメラルドが触媒的役割を果たした可能性は高いものであると推測されます。
インタビュアー: エージェント・新田
対象者: 待鳥 翔氏
[再生開始]
A.新田: 2███/██/██、何をしていたか覚えているか?
待鳥氏: 知ってるよ、俺が初めてあの部屋に行った日だからな
A.新田: 何の目的で行ったんだ?
待鳥氏: あの部屋は元々モノの受け渡しに使われてたんだよ。適当なバイト雇って、置き配をさせる、で、そのあと別のバイトに運ばせるんだ。今回は俺だったわけだけど
A.新田: ……つまり、今お前が住んでいる、ということは不法侵入していることになるが
待鳥氏: それ、それだよ、話聞いてくれよ。俺があそこに荷物取りに行ったとき、上の方で雷が鳴るような音がして、ビビって慌てて荷物持っていこうとしたら、急にドアが開いたんだ。それで俺はどうしてか分からんけど、その部屋ん中入っちまって。バックレちまった、ヤベえなあ、マズいなあ、とは思ってたんだけど、そのままなんかグループからも来ねえし、1週間くらい住んじまって。で、いよいよ大家の婆さんに会って、怒られるかと思ったら普通に挨拶されて……
A.新田: 確かに、あの部屋はお前の名義で契約されているな
待鳥氏: ……そうなんだよ、でも俺はしてねえし、俺みたいなやつ保証人になってくれる奴もいないし。……でも、なんか落ち着いちまって、上の先生やホセさんなんかが仕事や飯の面倒見てくれて、座間味のオッサンや土のおばさんや明日奈ちゃんや友華ちゃんとも知り合って。なんか、落ち着いちまって
A.新田: ……話を戻すぞ。お前がここに取りに来たものは何だ?
待鳥氏: ……詳しくは教えてもらってねえけど、なんかヤベえっぽいものって聞いた。俺のグループ、上の方は暴力団とも関係あって、そこら辺のなんかかもって噂だった
A.新田: 見てないのか?
待鳥氏: 前の家から荷物持ってきたときに紛れてどこ行ったか分かんねえ。……なぁ、俺、捕まるのか?
[再生停止]
待鳥氏の所属していたグループを調査したところ、現在は警察の大規模摘発によって離散状態にあると確認されました。また、2███/██/██に待鳥氏が運搬を担当していた荷物の受取先を調査したところ有村組のフロント会社が関連していたことが判明しました。これを受け有村組の内部調査を行った結果、待鳥氏の荷物は江戸期の脇差であり、複数人を殺傷した曰く付きの品であることが確認されました。
これらの情報から、2███/██/██ホセ氏の宝石、待鳥氏の脇差、座間味氏の死体が三角形の頂点上に置かれた状況であったことが推測されます。これにより何らかの儀式の要点を満たしたことで、神格が出現したという仮説が立てられました。
この要件を満たす儀式を調査したところ、2███/██/██、オカルト関連動画を中心として配信を行うバーチャル配信者、豆狸 たまま氏が配信内において類似儀式を実行していたことが確認されました。豆狸氏のIPアドレスを調査したところSCP-2207-JPの住所が開示され、複数要件から玉川 友華氏が豆狸氏と同一人物であることが確認されました。
対象者: 玉川 友華氏
注意: 2███/██/██、豆狸 たままの配信アーカイブの書き起こし
[再生開始]
玉川氏: はーい、ということで今回は降霊術やっていきたいと思います、こっくりさんみたいな奴ね
玉川氏: 一応願いが叶うっていう話だけど、どうなんだろうね。失敗すると呪われるらしいけど、それならそれでネタになるかな
[画面に三角形の書かれた紙が映る。三角形の各頂点にはハサミ、とんぼ玉、人形が置かれている]
玉川氏: これどんな降霊術かっていうと、三角形の一番上、人形がいわゆる生贄で、ハサミが凶器、とんぼ玉が場所みたいなイメージね
玉川氏: 本当なら、人形はちゃんと生き物使うべきなんだけど、流石に規約違反だから今回は練習ってことで
[三角形の中心に「お金」と書かれる]
玉川氏: これが願い。お金を願って悪いことなんてないからね! じゃ、やっていきますか。まずは心の中でお願いをする
[玉川氏の3Dモデルが目を閉じ手を合わせる]
玉川氏: で、ここで人形に傷を付けて三角形の真ん中にゆっくりとずらしていく。このとき、人形が震えたら成功で、何かが降りてくる
[配信画面から雷のような炸裂音が響く。時間から烏野氏の部屋で発生した事案だと推測される]
玉川氏: えっ、何々待って、雷!? ちょっと一旦配信止めるね、回り確認してくる
[再生停止]
この配信後、玉川氏は3Dアバターが突然使用不可になったという理由で、豆狸 たままの3Dアバターを変更しています。
配信内における呪術的儀式は、民俗学部門を主幹とした調査チームにより、玉川氏による独自のものであり、本来であれば有意な結果の出ることはない稚拙な奇跡論行使手順であることが結論付けられました。そのため、該当事案は状況の著しい相似性、霊的実体というリソース、複数の術具が存在したこと及び前述の霊的エネルギー循環などの要素が噛み合った結果、偶然にもSCP-2207-JP-Aの出現要件を満たしたことが原因であると判断されました。
一連の調査を受け、2███/██/██のSCP-2207-JPにおいて発生していたイベントが全て確認されました。以下はその時系列です。
① 駒口氏が自室においてエメラルドを保管する。
このエメラルドが後述する玉川氏の儀式における場となったと推測される。
② 座間味氏の自室において██氏が死亡する。
この██氏が後述の玉川氏が行った儀式の生贄になったと推測される。
③ 待鳥氏が脇差を持ち101号室を訪れる。
この段階において待鳥氏は要素の一部分となったため、以降、SCP-2207-JP住民として指定される。
④ 玉川氏が配信内において現状と相似する儀式を執り行う。
この儀式に呼応する形で神格の召喚が実行される。また、座間味氏に関連した霊的実体はこの段階で烏野氏の機器へ移動したと推測される。
⑤ 烏野氏の有する霊的実体をエネルギーに変換する機器へ複数の霊的実体が挿入され誤作動を起こす。
その結果、発生した霊的エネルギーが土氏、秋野氏に接触する。
⑥ 秋野氏が接触した霊的エネルギーを無意識のうちに四角形へ加工する。
結果としてSCP-2207-JP外周部に霊的エネルギーが広がる。
⑦ 土氏が接触した霊的エネルギーに対し、巫覡の役割を果たす。
その結果、霊的エネルギーの出入力が行われ、SCP-2207-JP外周部における循環が発生する。
⑧ SCP-2207-JP-Aが出現し、SCP-2207-JPが現状の状態に置かれる。
SCP-2207-JP-AはSCP-2207-JP外周部における霊的エネルギー循環が結界となる形で、SCP-2207-JP内部に留め置かれる。
玉川氏の呪術的儀式の形式から、SCP-2207-JP-Aは302号室、103号室、101号室を頂点とする三角形の中心である202号室に出現したと推測されます。ここから再度調査を行ったところ、新宮 美代氏の親族は早い段階で死亡しており、結婚歴もないことが判明しました。これを受け新宮 菜々香氏に協力を依頼したところ、自身がSCP-2207-JP-Aであることを認め、交渉を求めました。以下はその際の音声記録です。
インタビュー記録 - SCP-2207-JP-A:新宮 菜々香
インタビュアー: エージェント・井伊
対象者: 新宮 菜々香氏(SCP-2207-JP-A)
[再生開始]
A.井伊: では改めてになりますが、菜々香さんは神格実体である、としてもよろしいでしょうか
新宮氏: そうだな。かといって特に名があるわけではない。名もなき路傍の一柱とでも考えればよいので、これまでと同じく呼べばよい
A.井伊: 分かりました。では改めて交渉の内容についてお伺いしたいのですが
新宮氏: このアパート及び住人への不干渉を要求する。代償として私は必要以上の権能を行使しない
A.井伊: その条件であれば現在と変わりありませんが
新宮氏: そうだな、私が求めるのは現状の維持だ。ただし、何らかの調査が必要であればこれまで誤魔化していた分の情報は提供しよう
A.井伊: ありがとうございます。しかし、どういった心境の変化がありましたか?
新宮氏: 変化というほどのものでもない。お前たちは不要な暴力を用いず、ちゃんと住人を相手取って会話することで私に辿り着いたからだ
A.井伊: そうですか
新宮氏: 秋野、座間味、烏野、土、駒口、玉川、待鳥、それぞれがそれぞれに勝手な思いで偶然に私を呼び、私を縛り付けた。最初のころこそ憤りこそすれ、どれか1人でも欠ければどうなるものか分からんと大人しくしていたが、力も縛られ、言葉などに頼らねばならぬと気づけばすっかり慣れた。ならば私はこのアパートの神として店子を護り許すが仕事。お前たちがアパートや店子を傷つけんのならば関わる必要もなし
A.井伊: なるほど、分かりました。結論はこの場では出せませんが、懸案材料に加えます。監視等は行われることになると思いますが
新宮氏: 監視か
[10秒ほどの沈黙]
新宮氏: 構わん。なんなら空室が1つあるがどうだ?
A.井伊: それは入居せよ、と?
新宮氏: その方が便利だろう。風呂とトイレは別、日当たりも良好、悪い物件ではあるまい
A.井伊: 考慮しますが、いったいどうして?
新宮氏: 何、美代が外壁を塗り替えたいと考えている。見積もりを出したがもう1人分の家賃収入が欲しいところでな。今度の週末は庭で全員揃ってBBQをするから早めに決めるといい
A.井伊: ……なるほど
新宮氏: 皆で楽しく生きたい、最期は1人でいたくない、などあまりにもくだらなく、難しい願いというものだ
[再生停止]
SCP-2207-JP-Aからの提案を受け、現在203号室には監視業務と兼任する形でA.井伊が入室しています。また、座間味氏、待鳥氏については執行猶予付きの判決が下り、監視の目的から土氏と共に各個別財団フロント企業への就職が決定しています。