アイテム番号: SCP-2209-JP
オブジェクトクラス: Neutralized
特別収容プロトコル: SCP-2209-JPは標準人型収容室に収容されています。今後のSCP-2209-JPの取り扱いについて現在担当チームで議論がされており、結論が出されるまでは現在の収容状態並びに情報を維持する方針となります。最新の情報については補遺を確認してください。
説明: SCP-2209-JPは日本人男性の飯沢タケルです。SCP-2209-JPは対象が限定的な念動力を持ち、おおよそ30mほど遠隔で成人男性程度の力を作用させ弦楽器、打楽器及び一部の電子楽器を操作することが可能です。この操作範囲はSCP-2209-JPの視覚に依存しておらず、SCP-2209-JPが直接視認できない楽器でも操作可能なことが確認されています。また、この遠隔操作は一般の人間の手作業と比較してやや精密な部類に当たり、SCP-2209-JPはこの精密動作をおおよそ三か所の地点毎に最大二つの楽器に対し同時に行う事が可能です。
映像記録2209-JP-1: SCP-2209-JPへのインタビュー記録1
対象: SCP-2209-JP(飯沢 タケル氏)
インタビュアー: エージェント・松村
付記: インタビューは初期収容時に行われました。これは、SNSに投稿された"透明人間のバンドがライブをやっている"という内容の記事が複数確認されたことにより、ライブハウスから退出中のSCP-2209-JPを収容したタイミングとなります。
<記録開始>
[不要な会話を省略]
SCP-2209-JP: で、あんたらはうちのバンドメンバーについて聞きたいから、こんな大層な事をしてくれたってわけ。
松村: 端的に言えばそういう事になります。
SCP-2209-JP: [手を自分の前で揺らし]いやいや、こんなことされちゃたまったもんじゃないけど、話さないと先に進まないってなら、話すっきゃねぇよなぁ。
[SCP-2209-JPは思案をするように頭を抱えて天を仰ぐ]
SCP-2209-JP: [松村の方に向き直り]あんたさ、ドラゴンファイヤーアンドブラッド1の事、知ってる?
松村: 名前程度はどこかで聞き覚えがあります。
SCP-2209-JP: あーなるほど、こっちのジャンルにそんなに詳しくない系だ。そりゃ印象にも残ってないわな。
[SCP-2209-JPが大きく一呼吸する]
SCP-2209-JP: ドラゴンファイヤーアンドブラッドは俺らの青春だったしそれは今も変わらねぇ、でもま、人ってのは変わっちまうもんだ。特に、メジャーデビューしてからはその変化が一気に訪れた。
SCP-2209-JP: 俺が取り残されたとは考えたくないね、あいつら2が付いてこれなくなった。昔みたいに弾けた曲を作ろうとすると、反対するようになってきた。ジム・モリソン3に憧れてるのが何が悪いってんだ。あいつらはメジャーに出てから日和ってやがったんだ。情けねぇ。
[SCP-2209-JPが首を回してパキパキと鳴らす]
SCP-2209-JP: だから俺はドラゴンファイヤーアンドブラッドを脱退した、音楽性の違いって理由でな。もう、変に賢ぶってピンク・フロイド4みたいな曲しか求めてないあいつらとは俺の温度は合わなくなっちまったんだ。
SCP-2209-JP: 一人じゃバンドは出来ないけどよ、俺はドラムもベースも行ける、配信で良いならいくらでも曲を作れる。だったら独立してやろうじゃんってなったわけだよ。
SCP-2209-JP: あいつらに出会ったのはそんな時だ。
松村: あいつら、とは以前のバンドメンバーとは別人ですよね。どなたの事でしょうか。
SCP-2209-JP: ああいや、確かにあいつらって言い方は正確じゃねーかもな。今の俺のバンドの事。
SCP-2209-JP: 俺の非凡な才能が生み出した脅威のパワー!とか言っちまおうかな、あんたらも見たんだろ、俺の新しいライブを。
松村: なるほど、そこで念動力の類で他の楽器を操る事で、一人でライブを行っていた、と。
SCP-2209-JP: 冷たい言い方するねぇ。ありゃ俺の熱意が生み出した新しいバンドメンバーなんだよ。
SCP-2209-JP: 名前も付けてあるんだぜ、ベースがジョン、ギターがシンイチ、ドラムがドミンゴ、良いだろ?
[SCP-2209-JPと共に収容した楽器類が僅かに動き反応を示す]
SCP-2209-JP: で、そんなスーパーアーティストになった俺を、あんたらはどうしてくれるんだい?
松村: [少し間を置いて]まぁ、そんなに悪いことにはしないと約束いたしますよ。
<記録終了>
終了報告書: インタビュー終了後、SCP-2209-JPは現在の収容室に移されました。これは"今のグループのオリジナルの曲がある程度の数出来上がるまでだったら良い"とSCP-2209-JPから消極的合意が引き出せたからになります。今後、長期収容に向けた交渉をどのように行っていくかは、招集されたSCP-2209-JP研究チームにて考案されることになります。
実験記録2209-JP-1 - 日付20██年██月██日
対象: SCP-2209-JP(飯沢 タケル氏)
実施方法: 分銅を用いてSCP-2209-JPの念動力の運搬重量の限界を測定する。
参加人員: SCP-2209-JP、高浦研究員
映像記録:
<記録開始>
[SCP-2209-JPの前に分銅と運搬容器が置かれる]
SCP-2209-JP: [きょとんとした表情で]で、俺はこれ何をすればいいの。
高浦: あなたの念動力の力を大まかに測定したいと考えています。そこでこの分銅を。
SCP-2209-JP: [高浦の言葉を遮るように]いやいやいやいや、俺に何させようとしてるの。道路工事か!?
高浦: いえ、そういうつもりではないのですが。
SCP-2209-JP: [大げさな溜息をつき]ちょっと考えりゃ分かるじゃんかよ、俺の能力が楽器専門だって。それとも何か、ドラムのスティックでそいつをつまんで動かしゃいいんか。
高浦: [うんざりといった表情で]それは確かに実験目的から外れますね、分かりました。
SCP-2209-JP: 頼むよぉ高浦さぁん。もっとなんかこう、スーパーアーティストっぽい事、させてちょうだいよお。
<記録終了>
分析: SCP-2209-JPが念動力を働かせられる物体には制約があるようです。当人の"楽器"がどの程度の範囲を示すのかは不明なため、詳しく精査する必要があると結論付けられました。
実験記録2209-JP-2 - 日付20██年██月██日
対象: SCP-2209-JP(飯沢 タケル氏)
実施方法: 複数の楽器を用いてSCP-2209-JPの念動力の適用可能物体を測定する。
参加人員: SCP-2209-JP、高浦研究員
映像記録:
<記録開始>
[SCP-2209-JPの前に多様な楽器が置かれる]
SCP-2209-JP: 今度は何々、何させよっての?
高浦: あなたが念動力でどのくらいの楽器を演奏できるのか、それを調べようと思っています。
SCP-2209-JP: ああー、確かにそいつは面白いね。俺もちょっと気になってきたわ。
[SCP-2209-JPが念動力を働かせるも、一部の楽器は反応しない]
SCP-2209-JP: あっ、ああそうだなー、昔俺リコーダー苦手だったし、やっぱ笛は無理かぁ。
高浦: [メモを取りながら]なるほど、管楽器の類には力を働かせられない、と。
SCP-2209-JP: [首を傾げながら]ピアノも憧れた事はあったけど、どうにも性に合わなかったんだよなぁ。
高浦: [引き続きメモを取りながら]なるほどなるほど、鍵盤楽器の類も不可、と。
[以降、SCP-2209-JPが動かない楽器に対して感想を述べ続ける。省略]
<記録終了>
分析: SCP-2209-JPが念動力を働かせられる物体はおおむね弦楽器と打楽器が中心のようです。一部の電子楽器も能力の範囲のようでしたが、それらは弦楽器と打楽器を模したものである為、どちらかと言えば弦楽器、打楽器にカテゴライズされているためと考えられます。
実験記録2209-JP-4 - 日付20██年██月██日
対象: SCP-2209-JP(飯沢 タケル氏)
実施方法: SCP-2209-JPに実際に念動力で演奏させて様子を観察する。
参加人員: SCP-2209-JP、高浦研究員
映像記録:
<記録開始>
[SCP-2209-JPが能力を行使し演奏している]
[SCP-2209-JPが演奏を終える]
SCP-2209-JP: [高浦の方に向き直りつつ]高浦ちゃん、どうよどうよ!
高浦: [メモから顔を上げつつ]ありがとうございます。十分なデータが得られたと思います。
SCP-2209-JP: [明らかにショックのような様子をみせつつ]いやいやいや、感想それだけ!?
[SCP-2209-JPが念動力を使い楽器で大きな音を出しつつ、崩れ落ちるような様子を見せる]
SCP-2209-JP: せっかくセックス・ピストルズ5のGod Save The Queen6をやったんだぞ。流石に何かあんだろ。
高浦: いえ、特には。
SCP-2209-JP: [大げさにショックを受けた様子を見せながら]感性死んでんのか、嘘だろ!?
<記録終了>
分析: ライブの様子を過去のドラゴンファイヤーアンドブラッドのライブ映像と比較した結果、念動力での演奏は単純な過去のメンバーの再現や音楽の再生ではなく、独自の演奏パターンを持っている事が判明しました。このことから、SCP-2209-JPの起こす念動力現象は過去のメンバーの生霊を呼び出すといった外部依存のパターンが否定され、SCP-2209-JP自身の操作によるものであると判断されました。
実験記録2209-JP-8 - 日付20██年██月██日
対象: SCP-2209-JP(飯沢 タケル氏)
実施方法: Dクラスを観客としてSCP-2209-JPに簡易的なライブを行わせて、能力の観測を行う7。
参加人員: SCP-2209-JP、高浦研究員、Dクラス10名
映像記録:
<記録開始>
[幕が下りているステージ上から、SCP-2209-JPの演奏が流れ始める]
D-182568: まじかよ、こんなところでタケのライブを見れるとか、超ラッキーじゃん。
[ステージの幕が上がり、Dクラス達の前にSCP-2209-JPの姿が現れる]
SCP-2209-JP: [片腕を高く上げ]お前ら、ノってるか!
[SCP-2209-JPの念動力によって、ギター、ベース、ドラムのスティックが浮かび上がりポジションに付く]
D-18256: [片腕を振り回しながら]うお、タケだ。生きてまた見れるとは思ってなかったぜ。
SCP-2209-JP: 速攻かき回してくぜ、ボルテックスヴァーサスハリケーン!
D-18256: いきなりボルハリとか、気合入ってるな。
[SCP-2209-JPの演奏が始まる。中略]
SCP-2209-JP: ウィーアー、ドラゴンファイヤーアンドブラッド!
SCP-2209-JP: [一拍置いて]いや、もう俺ドラブラじゃなかったわ。
[浮いているベースがSCP-2209-JPに近づき、何かを手で軽く叩いたような音が発せられる]
SCP-2209-JP: [叩かれたような反応を示しつつ]痛っ、いてーよジョン!間違えて悪かったって!
SCP-2209-JP: んじゃ、気を取り直して次行くぞ!青い空をぶち抜いて!
[再度、SCP-2209-JPの演奏が始まる。以降省略]
<記録終了>
分析: 財団の観測下での中ではSCP-2209-JPの念動力の精度が最も高く、観測者の多さに精度が比例しているという仮説が裏付けられました。また、SCP-2209-JP自身を念動力が叩くといった楽器操作に関係しない動作を行った様子から、いわゆるライブパフォーマンスといった演技にまで一時的に念動力の操作範囲が拡大している可能性が示唆されています。
映像記録2209-JP-2: SCP-2209-JPへのインタビュー記録2
対象: SCP-2209-JP(飯沢 タケル氏)
インタビュアー: 高浦研究員
付記: SCP-2209-JPより高浦にアプローチがありインタビューが行われました。
<記録開始>
[不要な会話を省略]
SCP-2209-JP: [頭を掻きながら]でさぁ、こうもなんだっけ、収容、だかされてる状態だと気が滅入っちまうわけよ。
高浦: はぁ。
SCP-2209-JP: あいつらもなんかノリが悪くてさぁ、こう、良い感じの曲やってるのにパリっとしねぇんだ。
高浦: なるほど、異常性にも影響が出ていると。それは問題ですね。
SCP-2209-JP: だから、何かしら刺激が欲しいってぇか、そういうの何かないかい。
高浦: [小さくため息をつき]仕方ありません、何か手をうちましょう。
SCP-2209-JP: 高浦ちゃぁん、ありがとよぉ。
高浦: まぁ、あなたの趣味に合うような何かがあればよいのですが[再度のため息]。
<記録終了>
終了報告書: SCP-2209-JPには収容サイトの娯楽室の音楽関係の書籍を借りる事を許可されました。
映像記録2209-JP-3: SCP-2209-JPへのインタビュー記録3
対象: SCP-2209-JP(飯沢 タケル氏)
インタビュアー: 高浦研究員
付記: SCP-2209-JPより高浦にアプローチがありインタビューが行われました。
<記録開始>
[不要な会話を省略]
高浦: スランプ?
SCP-2209-JP: [頭を掻きながら]そうなんだよ、なんかこうあいつらがパッとしないんだ。
高浦: 前回、書籍の貸し出しを許可しましたが、それでは改善しなかったと。
SCP-2209-JP: むしろ悪化したんだよ、ジャンル外の本まで色々あいつらと読んでみたんだけどさ。
高浦: [軽くため息をつき]いや、そうなると難しいですね。
SCP-2209-JP: なーんか、凄いブツとかないの?
高浦: [再びため息をつき]あなた自身が何か変わった音楽をやってみてはいかがでしょうか。
SCP-2209-JP: いやいやいや、俺は熱いロック一筋なんだよ。それだけで食っていくつもりで他は要らねぇ。ついてこれる奴だけついてくりゃいいんだ。
高浦: そうですか。それではまた何か相談してみます。
<記録終了>
終了報告書: SCP-2209-JPの異常性の変化はSCP-2209-JPの精神に影響されている説をベースに、心理学的アプローチを行うべきかどうかの検討が現在行われています。
インシデントログ2209-JP-1: 20██/██/██、SCP-2209-JPへの定期インタビューを実施する際に、SCP-2209-JPが酷く錯乱している様子を示していました。監視映像からはインタビューの1時間ほど前の段階でSCP-2209-JPが大きな独り言を言っている様子が記録されています。
映像記録2209-JP-4: SCP-2209-JPへのインタビュー記録4
対象: SCP-2209-JP(飯沢 タケル氏)
インタビュアー: 高浦研究員
付記: 前述の通りSCP-2209-JPに錯乱した様子が見られたため、インタビューは収容室で緊急的に行われたものとなります。
<記録開始>
SCP-2209-JP: [頭を抱えながら]終わりだ、もう終わりだ。
高浦: 落ち着いてくださいSCP-2209-JP、いったい何があったのですか。
SCP-2209-JP: [高浦研究員に縋りつきながら]あいつら、あいつら、もう俺とはやっていけないって。もう、[鼻をすする音]俺からは独立して3人でやってくって。
高浦: [SCP-2209-JPを支えつつ自立を促しながら]それは、あなたが能力を失った、という事でしょうか。
SCP-2209-JP: [涙を流しながら]そうだよお!もう音楽性が違うって言いやがったんだよ!俺は捨てられたんだ!畜生!畜生!畜生!
高浦: [通信機器に向かって]聞こえますか、SCP-2209-JPがかなり錯乱しています。至急対応をお願いします。
<記録終了>
終了報告書: その後の実験により、SCP-2209-JPが異常性を失っている事が正式に確認されました。
補遺1: 前述のインシデントよりSCP-2209-JPのオブジェクトクラスはNeutralizedに変更となりました。現在のSCP-2209-JPは異常性が再発現する様子もなく収容態度も大幅に軟化したことから、今後の収容体制並びに収容維持の必要性について研究チームによって議論が続けられています。また、SCP-2209-JPが異常性を失う際に証言した"独立"という証言から、SCP-2209-JPから分離した念動力が自我を持ち活動している可能性があるため、捜索が続けられています。
補遺2: 20██/██/██、未知のオブジェクトの探知を行っている財団内部署が"宙に浮き勝手に演奏を始める琵琶、三味線、和太鼓"の情報を入手しました。これは、オブジェクトの特徴並びに目撃情報の分布分析よりSCP-2209-JPから分離した念動力の可能性が考慮されています。しかしながらこの場合、該当オブジェクトはSCP-2209-JPとはほぼ無関係の存在と化している事が推測されるため、収容時には別個のオブジェクト番号が割り振られるべきという結論が出されました。