アイテム番号: SCP-2214-JP
オブジェクトクラス: Neutralized(暫定)
特別収容プロトコル: SCP-2214-JPは現在異常性を喪失しています。残存するSCP-2214-JP-1個体はSCP-2214-JP特別収容サイト内でオブジェクトクラスの置換認証が行われるまで拘置した状態に置かれます。現在位置の判明していないSCP-2214-JP-1-C個体はその異常性喪失の可能性も踏まえ追跡調査が行われます。
説明: SCP-2214-JPは頭部のみの繊維強化プラスチック製マネキンです。SCP-2214-JP自体の組成に異常性は無く、通常のマネキンと同様に損耗します。
SCP-2214-JPの異常性はSCP-2214-JPを中心とした半径約1kmの大まかに人型を模した非生物1(以下、SCP-2214-JP-1)に作用します。異常性の範囲内に存在するSCP-2214-JP-1は同様の身体構成を持つ生物のように振る舞います。関節や駆動部が通常の人体と異なった構成を持つ物はそれらを利用した行動を取ることが可能です。
SCP-2214-JP-1は高度な社会性を有しており、外見的差異を基準としたコロニーと称する階級制度を取ることが確認されています。以下は各コロニーごとのSCP-2214-JP-1の特徴です。
- SCP-2214-JP-1-A: SCP-2214-JP-1の約5%を占める。最高位層であり、生産行為を行わずSCP-2214-JP-1全体の統括を行っている。同様に宗教者としての役割を持ち、SCP-2214-JPを信仰対象とした原始的宗教の巫覡としての役割を持つ。傷や汚れのないSCP-2214-JP-1が分類され、会話を行うことのみならず、文化芸術などの高度な知的活動を行うことも可能である。
- SCP-2214-JP-1-B: SCP-2214-JP-1の約10%を占める。中間層であり、主に頭脳労働を担っている。官僚的役割を持ち、SCP-2214-JP-1全体への物資の運搬、SCP-2214-JP-1-Aの祭祀予定、全SCP-2214-JP-1の個体管理等を行っている。僅かな傷や軽度の汚れを有したSCP-2214-JP-1が分類され、会話が可能である。
- SCP-2214-JP-1-C: SCP-2214-JP-1の約85%を占める。最下層であり、肉体労働を担っている。主な労働内容は廃棄物や破壊されたSCP-2214-JP-1の一部を利用して新たなSCP-2214-JP-1を作成することであり、終始その作業に従事している。著しい破損や汚れを有したSCP-2214-JP-1が分類され、会話は不可能である。
上記の行動理由においてはSCP-2214-JPを信仰する対象を増やすことを目標として主張しており、宗教的意味合いが強いと推測されています。
発見当初、SCP-2214-JPは██市山中の不法投棄現場に存在しており、約200体のSCP-2214-JP-1が確認されました。その後、SCP-2214-JP-1-Aらとの協議、交渉を経て発見場所付近にフェンスを設置したうえで廃棄物処理場を模したSCP-2214-JP特別収容サイトを設営するという条件でSCP-2214-JP範囲内の自由を認め、定期的にSCP-2214-JP-1の材料となる物品を搬入しつつ監視下に置かれることが決定されました。
以下は財団との交渉担当であるSCP-2214-JP-1-A-αに対して行われた聴取記録です。
音声記録2214-JP-01 - 日付 20██/██/██
担当者: 護良研究員
対象: SCP-2214-JP-1-A-α(女性型の繊維強化プラスチック製マネキン)
«再生開始»
[事実確認のため省略]
護良研究員: あなた方の社会形態は理解しました。では次の質問ですが、あなた方は発生の時点からこのような社会構造を有していたのでしょうか?
SCP-2214-JP-1-A-α: その質問の意図は私たちの社会の発生に、神様の奇跡の出所を探ろうとしているという解釈でよろしいでしょうか
護良研究員: そう考えていただいて構いません。もちろん、拒否や黙秘も可能です。我々は現在段階であなた方との関係を変化させる必要性はありませんので
SCP-2214-JP-1-A-α: いえ、別に隠すことでもありません。というのも、その質問は私には答えようがありませんから。私たちが目を開いた瞬間を覚えているものは誰もおりません。同じコロニーにも、下位コロニーにも同様です。我々は我々の生まれ落ちた瞬間を知らず、神様は生まれ落ちたときから完璧な笑顔で微笑んでおられます
護良研究員: なるほど、ではあなた個人の発生は覚えていますか?
SCP-2214-JP-1-A-α: その質問には同じ質問を返させていただきます。私たちはあなた方と違って、形を取った時点で動き出すためそれとは分からないでしょうが、あなた方と同じく始まる瞬間も、瑕や痕によって下位コロニーに移動し、あるいは消える瞬間であってもその記憶を有することはありません。私たちはあなた達と同じく、なぜか生まれ、なぜか死んでいくのです。いえ、なぜか、というと語弊がありますね。私たちは神様によって生まれ、生きている。それだけは共通する意識です
護良研究員: あなた方はSCP-2214-JPによって発生した、と考えているということですね?
SCP-2214-JP-1-A-α: 考えているわけではありません。星が沈み、日が出るように、当然の事実としてそれがあるだけです。星々の運航が神の御業に例えられるように、私たちの存在も完全であるがゆえに神様のおかげなのです。だから私たちは神様の似姿であればあるほど考え、あるいは慈しむことができ、傷つけば徐々にそれを失っていく。私たちにとってそれは歌を歌えば聞こえるのと同じことです
護良研究員: 分かりました。ではあなたは下位のコロニーに対しどのように考えていますか? その考えであれば、彼らは神から離れた存在といえるのではありませんか?
SCP-2214-JP-1-A-α: 上位コロニーは主に彼らを導くものとして対応しています。神様の似姿からは離れながらも、彼等には神様の似姿を作る役割が与えられています。その行動を導くのは、信仰として必要なことでしょう
護良研究員: あなた個人は?
SCP-2214-JP-1-A-α: [30秒程思考を整理するように指を動かす]私は、そうですね。導こうとは思いません、彼らも瑕があるとはいえ私たちと同じ神様の似姿です。私たちも瑕が生まれれば彼らと同様になる。こういった考えも薄れてしまう。そして、私たちのうち何人かが神様の形から外れているのに同じコロニーに存在するなら、それは、そうですね、どこか、矛盾しているようには感じています。……これは別に秘密にすることでもないのですが、この前、最下位コロニーの仲間を一人、神様に会わせました
護良研究員: それは禁止されていることなのですか?
SCP-2214-JP-1-A-α: いいえ、ですが、最下位コロニーに移動すると彼らは何故か神様に近づかなくなるのです。もちろん、神様への信仰がなくなったわけではありません。もしかすると自らの容姿と神様があまりにも違うので羞恥心に近いものを覚えるのかもしれませんね。それはともかく、私は気まぐれで最下位コロニーの仲間を神様の下に連れていきました。彼女は呆然と神様と、私を交互に見つめ、頭を深く下げていました。そう、彼女にも神様への思いはある。であれば、私たちは何処で違うのだろうか、そう思うことはありました
護良研究員: なるほど、SCP-2214-JPの異常性による選定基準は確かにどこか恣意的な部分があるように思えます。あなたの神に対し、少々悪い言い方になりますが
SCP-2214-JP-1-A-α: 構いませんよ。何にせよ、私の神様は変わりません。完全な微笑みを以ってそこにおられます。ええ、それでいいのです。ただ、そこにあるだけで
«再生停止»
インシデント記録2214-JP-01 - 日付 20██/██/██
20██/██/██、SCP-2214-JP特別収容サイトにおいてSCP-2214-JP-1-Cの大規模な暴動が発生しました。このインシデントを受けSCP-2214-JPは著しく破損され、頭部の約3割が喪失しました。これを受け、収容部隊が鎮圧にあたりましたが、SCP-2214-JP-1-Cらは他のSCP-2214-JP-1に対する執拗な攻撃を行ったことと、SCP-2214-JPが破壊された段階で多数のSCP-2214-JP-1が有していた自律性を喪失したため、サイト内部に存在していたSCP-2214-JP-1全個体の約3割が破壊され、4割が行動停止、2割が行方不明となる結果になりました。上記の自律性喪失はSCP-2214-JPの異常性が喪失したことによるものと考えられています。
インシデント後、SCP-2214-JP-1-A-αがSCP-2214-JPと同様の破損を受けたうえで自律性を有したまま行動していることが確認されました。以下はSCP-2214-JP-1-A-αに対して行われた聴取記録です。
音声記録2214-JP-01 - 日付 20██/██/██
担当者: 護良研究員
対象: SCP-2214-JP-1-A-α(右頭頂部の約3割を喪失している)
«再生開始»
[事実確認のため省略]
護良研究員: 事実確認はこのくらいにしておきましょう。SCP-2214-JP-1-A-α、インタビューを続けることは可能ですか?
SCP-2214-JP-1-A-α: はい、大丈夫です
護良研究員: では続けます。分かる範囲で構いません。SCP-2214-JP-1-C等の襲撃を受け、破損したあなた方の多くは自律性を喪失しました。同様にSCP-2214-JPの破壊によって喪失した例も多く確認されています。そのうえであなたは何故、このように会話が可能なのでしょうか?
SCP-2214-JP-1-A-α: 分かりません。いえ、違いますね。分かっています、認めたくはありませんが、神様は不完全でした
護良研究員: もう少し具体的にお願いできますか?
SCP-2214-JP-1-A-α: あの襲撃の際、私たちのコロニーは何を為すこともできませんでした。精々が反撃しようとして壊されるのみ。神様に近づくことを止めることもできませんでした。……ええ、明確に彼らは神様を壊そうとしていました。私は理由が分からず、逃げ惑ううちに神様の御許へ、そうですね、習慣とは不思議なものです。私は神様を呆然と眺めていました、そこに、彼女もいたのです
護良研究員: 以前あなたがSCP-2214-JPを見せたという?
SCP-2214-JP-1-A-α: はい、彼女の手には身の丈に合わない槌が握られていました。私は死を覚悟しました。彼女は槌を振り、私の頭を壊しました。そして同時に神様の頭も壊しました。崩れた頭で見た彼女の顔に私は気づきました。彼女も同じように、顔の右半分が壊れていました。私はそこで死ぬことはできなかった。そして彼女は歌いながら、ええ、本当ならばできるはずのない歌を歌いながら、どこかへ消えていきました
護良研究員: 頭頂部の破損がSCP-2214-JPと一致する場合、自律性を保てると、そういうことでしょうか?
SCP-2214-JP-1-A-α: いえ、違います。それならば何故彼女は歌えたのですか。それならば何故彼女はあれほど哀しそうな足取りだったのですか。ええ、そうなのです。私たちが神様の似姿なら、何故、神様は歌えなかったのですか? 私たちは完全ではなかった。いえ、むしろ、彼女たちの方が、あるいは
護良研究員: SCP-2214-JP-1-A-α、酷く消耗しているように見えます。大丈夫ですか?
SCP-2214-JP-1-A-α: 大丈夫です、私は。まだ整理できていないのです。おそらく今夜起こったことは、私が彼女を神様に会わせてしまったからです。そこで彼女は気付いたのでしょう、神様は完全でなく、同様に私たちも完全ではないと。だから彼女は、ああ、いえ、そんな。そうです、彼女を神様に会わせたとき、私は、歌って
護良研究員: SCP-2214-JP-1-A-α、今日はここまでにしましょう
SCP-2214-JP-1-A-α: そうなのですね、彼女は自らが神様の似姿であるように仕向けたのではなく。私が歌うように、それだけでいいように。歌を歌えば聞こえるように、私を
«再生停止»
補遺: 後続調査の結果、同様の損傷を与えたサーマルマネキンを接近させたところ、異常性が発生しないことから、SCP-2214-JPの異常性は完全に喪失していることが確認されました。これを受け、オブジェクトクラスの移管が議論されており、SCP-2214-JP-1-A-αを含む自律性を維持した各SCP-2214-JP-1を新たにSCP-2214-JPに指定する案が提出されています。
また、SCP-2214-JP-1-A-αの供述にあったSCP-2214-JP-1-C個体を含む数体のSCP-2214-JP-1-C個体は現在も行方不明であり捜索が行われています。