アイテム番号: SCP-2221-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2221-JPは低脅威度物品保管ロッカーに、SCP-2221-JP-Aは標準ヒト型収容セルにそれぞれ収容されます。全てのSCP-2221-JP担当エージェントは未発見のSCP-2221-JP-Aの収容に向けて調査を進めてください。SCP-2221-JP-Aの精神状態が今後非常に悪化すると想定されたため、当プロトコルの見直しが進められています。1
説明: SCP-2221-JPは30cm×30cm×60cmのカプセルトイです。外見的特徴は一般的なカプセルトイとほぼ同一なものですが、内部のカプセルの総量が常に一定に保たれており、側面部には「家族ガチャ」と彫り込まれたプラカードが接着されています。カプセルは全て空であるにも関わらず、開封した際に複数の人型実体が出現します。
SCP-2221-JP-AはSCP-2221-JP内のカプセルを開封した際に出現する人型実体群です。現在までに24体のSCP-2221-JP-Aが収容されています。SCP-2221-JP-Aの外見は全て異なっていますが、いずれも一般的なモンゴロイド男性または女性です。SCP-2221-JP-Aが出現すると同時に日本国内の公的機関、その他法人に架空の個人情報や経歴情報が登録され、その関係者は当該実体が数年から数十年に渡って日本国内に居住していたと認識します。
SCP-2221-JP-Aは25歳以上の実体(以下「親」と呼ぶ)と5歳以下の実体(以下「子」と呼ぶ)の組み合わせで出現し、利用者と家族関係であると認識しています。「子」は1人から3人まで出現数にばらつきがありますが、「親」は1人のみです。
SCP-2221-JP-Aは自身の出現前についての架空の記憶を保有しており、親戚は全て行方不明または死亡していると主張します。この記憶に関する情報を否定した場合SCP-2221-JP-Aは強い動揺を見せますが、その後5分以内にSCP-2221-JP-Aとその周囲の人間は当該記憶を否定する情報を忘却します。この性質により、SCP-2221-JP-Aが一般社会で安定的に活動する事が可能となっていました。
SCP-2221-JPは東京都港区内のビルにて発見されました。このビルは経営実態の無い広告代理店の本社として登記されており、実際にはSCP-2221-JPの運営者(以下PoI-9226)がオーナーを務める「██会」という会員制組織によって使用されていたことが判明しています。
██会は一定の基準2を満たした人物のみ入会可能で、SCP-2221-JPの利用者は全員この組織の会員であったと確認されています。利用者の供述により、入会前は非異常性の社交クラブとして接触してくること、PoI-9226に高額な料金を払うことで会員はSCP-2221-JPを利用できること、出現したSCP-2221-JP-Aが気に入らなかった場合は料金を支払うことで何度でも引き直せたこと、秘密保護のためSCP-2221-JPの利用者になった会員は脱会してPoI-9226との関係を断ち切っていたことなどが明らかになっています。
SCP-2221-JPの存在が明らかになった直後、PoI-9226と見られる人物が東京都新宿区にて確保されました。PoI-9226は日本生類創研へSCP-2221-JPの製作を依頼しており、詳しい関係性について調査が続けられています。
以下はPoI-9226へのインタビュー記録です。
インタビュー記録2221-JP-1
対象: PoI-9226
インタビュアー: ██研究員
<録音開始>
██研究員: それでは、あのカプセルトイを製造した理由を教えて下さい。
PoI-9226: 一言で言いますと、「家族ガチャ」は孤独な成功者の救済を目的にして作られたものなのです。
██研究員: どういう意味ですか?
PoI-9226: この世には様々なタイプの成功者がいますが、人生の全てを何かに打ち込んだことで成功者となった、いわば「孤独な成功者」は得てして幸せな家庭を持ちづらいのです。プライベートな出会いが少なく、たとえ結婚できたとしても仕事が忙しいため家族に時間が割けず、離婚という結果に終わる人を私は何度も見てきました。そこで私は優秀で文句を言わない家庭を簡単に手に入れられる「家族ガチャ」を思いついたんです。もちろん私には超常的な技術は無いため、ツテを頼って日本生類創研という特殊な研究所に依頼しました。
██研究員: 「優秀で文句を言わない」というのは、日本生類創研にて性格や能力を操作したということですか?
PoI-9226: ええその通りです。ご安心ください。日本生類創研様の研究は非常に高度なものですので絶対に安全です。悪い方向に操作される事はありません。
██研究員: 操作も日本生類創研によって行われていたのですね。では次に、カプセルトイを引き直した際に発生する選ばれなかった個体はどうされているのでしょうか。
PoI-9226: ああ、ハズレですね。親になる個体のハズレは日本生類創研様に追加代金を渡して改良してもらうのですが、子になる個体は数が多いため改良ではなく記憶の消去のみ行って児童養護施設に送っています。
██研究員: 操作した部分をリセットしているということですね。
PoI-9226: いえ、性格や記憶は全く変わりますが能力はそのままです。消去が難しいというのもありますが、一番の理由は子のハズレ個体に一種の"生きる力"を贈るためです。家庭として迎え入れられた子の個体は経済的に非常に安定した生活を生まれながらに約束されていますが、ハズレ個体はどうしても厳しい生活になってしまいます。いくらハズレとはいえ、そのような格差があることは非常にアンフェアでしょう。ですので、優秀な能力は残すことで経済的に安定した生活を得られるようにしたんです。
<録音終了>
補遺1: インタビュー記録2221-JP-2
以下はSCP-2221-JPの利用者として最初に発見された宮原 健司みやはら けんじ氏へのインタビュー記録です。発見時の状況から宮原氏と同居していたSCP-2221-JP-A群の感情は操作下になかったという仮説が立てられ、宮原氏とSCP-2221-JP-A群の関係性について調査するべくインタビューが実施されました。
対象: 宮原 健司
インタビュアー: ██研究員
付記: 宮原氏は複数のベンチャー企業経営で一般的に知られていました。「親」は宮原 美代みやはらみよ、「子」は宮原 佳穂みやはらかほとそれぞれ名付けられ、宮原氏と12年間に渡って同居していました。
<録音開始>
██研究員: ではまず、あなたが██会に入会したきっかけを教えてください。
宮原氏: 確か取引先会社の社長3から██会のオーナーに紹介してもらったのがきっかけだったと思います。まあ、あの時は怪しげな会員クラブ程度にしか思ってませんでしたが。
██研究員: ██会で例のカプセルトイを知ったのはいつですか?
宮原氏: 入会して3ヶ月くらい経った頃ですね。あの頃私は自分に合ったパートナーが見つからず悩んでいたのですが、まさかオーナーがあんな秘密を持っているとは思いませんでした。
██研究員: カプセルトイの存在を知った時、あなたは何らかの疑問を感じましたか?
宮原氏: もちろん、最初は疑問だらけでしたよ。オーナーの話は法的にも世間的にもかなり危険そうですし、何より荒唐無稽でした。ただその後、この「家族ガチャ」はオーナーが大金をかけて製作した実在するもので、家族の出自がバレないよう諸々の対策も万全だ、と丁寧に説明されたので、すっかり私は安心して気づいた時にはオーナーに金を払っていました。金さえ払えば何回でも引けると説明されましたが、最初に引いて出てきた妻に私は一目惚れしてしまい、そのまま家族として生活することにしました。やっぱり昔から幸せな家庭を持つのが夢でしたので、丁寧に安全性を説明されるとどうしても心が動いてしまいましたね。まあ結局、自分の行動のせいで貴方達にバレてしまった訳ですが。
██研究員: 結婚後はどのような生活を送っていましたか?
宮原氏: オーナーの話通り、妻と娘との生活は順風満帆でした。毎日家族全員で朝食をとり、娘は元気に「行ってきます。」と言って、妻は仕事の悩みをいつでも聞き、記念日には私が一番欲しいものを的確にプレゼントしてくれる、まさに私にとって最高の家族でした。
██研究員: 成程、非常に円満な家庭だったのですね。では次に、娘さんにはどのような教育をしていましたか?
宮原氏: 娘は非常に優秀でしてね、ハイレベルの名門私立学校に通わせたにも関わらず自主的に常にトップクラスの成績を修めていました。そのため、これといった教育はする必要もなかったんです。娘の優れた点はこれだけではありません。他の子供は親に文句を言って困らせたり、勉強放棄や男女交際などの不良的行動を見せて手を焼かせるようですが、私の娘は違います。幼いながら親である私の考えを深く理解し、教えなくとも完璧に近い生活をするんです。たまに問題的行動はしていましたが、一言注意すればすぐに反省し、この幸せな家庭を壊すような真似は一切しませんでした。
██研究員: そうですか、娘さんに直接教育する機会はあまり無かったのですね。では本題に入ります。なぜ奥さんと娘さんを殺害したのですか?
(10秒間の沈黙)
宮原氏: ……全ては娘が悪いんです。確かに私は12年間幸せな家庭を持てましたが、ある日突然娘のせいでその幸せは終わりました。
██研究員: 何があったのですか?
宮原氏: 18歳になった娘が、ある日学校へ行かなくなったんです。今まで優秀で聞き分けの良い完璧な娘だと思っていた私は娘の裏切りに愕然としましたが、なんとそれだけでなく学校に行くふりをして怪しげな場所4へ通っていたんです。
██研究員: その事実はどのようにして知ったのでしょうか。
宮原氏: どうやら妻がこっそりと学校をごまかしていたようで、私は娘を偶然街で見つけるまで気づけませんでした。すぐに妻と娘を問いただすと、妻は「佳穂が学校に行っていない事がバレたら、貴方が何をするか分からなかったから誤魔化した。佳穂の行き先までは知らなかった。」と答えました。娘はただ一言、「答えたくない。」と言いました。
(宮原氏が顔をうつむかせ、小刻みに震える。)
宮原氏: 私は裏切られた悲しみと、幸せな家庭が壊れた怒りで頭が真っ白になり、気づいたときには妻が目の前でピクリとも動かなくなっていました。最初は何が起きたのか理解できませんでしたが、自分の手もシャツも足も顔も温い液体で汚されているのを感じて、初めて自分のしでかした事が分かりました。思わず妻の死体から視線を離すと、無感情に見開かれた娘の眼が視界に入りました。今思うと、ここまでしっかりと娘の眼を見たのは初めてだったかもしれません。
██研究員: 続けてください。
宮原氏: 凍りついたように娘と見つめ合いながら、私はどう声をかけるべきか混乱していました。長い時間が経った後、突然娘が口火を切りました。娘は上ずったような口調で、「親に何も言えず息苦しかった。」だの「一度も家族旅行をする機会が無かった。」だの「私の居場所がどこにもない。」だのと、不満をぶつけてきました。私は半ば反射的に大声で反論しましたが、娘はむしろ私への罵倒を激しくさせ、ついには「こんな家庭に生まれなきゃよかった。親ガチャ失敗だ。」と言い放ちました。必死に抑えましたが、この言葉が耳に入った瞬間私の意識はまた真っ白に染まってしまい……そして、そして再び意識が戻ると、私は娘の首を締め上げた後でした。……許せなかったんです。
(宮原氏が突然台を叩く)
██研究員: 宮原さん、落ち着いてください。
宮原氏: 妻と娘の生活費は私が出しているのに、娘が良い環境で学べるのは私のおかげなのに、娘が何不自由なく18歳まで生きてきたのは私のおかげなのに、なぜ「こんな家庭に生まれなきゃよかった。」と言われるのか。私は娘や妻の何十倍も、何百倍も苦労して今の地位を手に入れた。何百倍も苦労したのだから、幸せで完璧な家庭を手に入れる権利があるんだ。それを「生まれなきゃよかった。」と否定した娘が、何の苦労もしていない娘が、幸せな家庭を崩壊させた娘が、どうしても……どうしても許せなかったんだ。
(宮原氏が顔を紅潮させ、強い怒りを見せる)
宮原氏: 「親ガチャ失敗」だと、ふざけるな!苦労のない人生を歩ませてやったのに。俺はお前らと違ってハズレなんかじゃない。ガチャ失敗だと叫びたいのは私の方なんだ。
██研究員: インタビューは以上で終了します。
<録音終了>
終了報告書: 予測されていた通りSCP-2221-JP-Aの感情は完全な操作下には置かれておらず、何らかの条件で精神状態が不安定化すると考えられます。SCP-2221-JP-Aの安定的収容のため、生活環境によってSCP-2221-JP-Aの精神状態を良好に保つことが可能であるか調査する必要があります。
インタビュー終了後宮原氏はBクラス記憶処理を施した上で解放されました。なお、宮原氏の殺人行為にはカバーストーリー「未解決殺人事件」が適用され、宮原氏は事件のショックで記憶喪失状態に陥ったと説明づけられました。
補遺2(2018/6/20追記): ██会のビルから10km離れた地点にて日本生類創研の関連施設が発見されました。施設はすでに放棄されていたものの、SCP-2221-JPに関する断片的な資料が回収されました。資料を修復した結果、SCP-2221-JP-Aの研究は実験段階であり、脳組織の改造に関する技術などを高めるために行われたことが明らかになりました。資料に付属していた実験データによると「耐用年数」は10〜15年ほどであり、この年数が経過した場合感情及び記憶に対する改造の多くが効力を失い、SCP-2221-JP-Aの精神状態が急激に不安定化します。また、同じく資料に付属していた改造部分の説明からは耐用年数経過後のSCP-2221-JP-Aが例外なく自殺願望を抱くように改造されていた事などが新たに判明しています。5