アイテム番号: SCP-2232-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: 認識撹乱作用によりSCP-2232-JPの異常性が露呈する可能性は低いものの、適切な管理・観察のためカバーストーリーを流布しSCP-2232-JPを封鎖して下さい。
SCP-2232-JPの監視業務に配属される職員は、1年以内に標準抗認識災害訓練を修了している必要があります。
説明: SCP-2232-JPは宮崎県都城市に存在する広さ約350m2の公園です。外部との境界面は不可視の障壁により物理的に隔絶されています。また、障壁は認識撹乱作用により隠蔽されており、抗認識災害訓練無しに認識することは出来ません。
外部からの観察により、SCP-2232-JP内に複数の人型実体の姿が確認されています。
SCP-2232-JP-AはSCP-2232-JP内に存在する人型実体です。40代男性の外見であり、スーツの上から厚手のコートを着ています。SCP-2232-JP内で現実改変能力を行使する姿が確認されており、SCP-2232-JPの異常性の起源である可能性が指摘されています。公園内を歩き回る、遊具で遊ぶといった行動が見られ、公園内に住居らしきものはありません。また、睡眠、摂食、排泄を行う様子は確認されていません。
SCP-2232-JP-BはSCP-2232-JP-Aの庇護下にある5人の男性です。彼らはSCP-2232-JP内に滞在していた住所不定者であると判明しており、SCP-2232-JP-Aが生成した物品を享受し生活しています。公園内に作成したダンボールや廃材を用いた簡易住居内で一日の多くを過ごし、他のSCP-2232-JP-BやSCP-2232-JP-Aと積極的に交流する様子はみられません。
SCP-2232-JPの異常性は、2019年に実施された宮崎県都城市市役所による市内の公園の利用状況調査において、SCP-2232-JPの利用データが存在しなかったことを財団が不審視し発見されました。当該調査は5年ごとに行われていたため、早くて2014年には異常性が発現していた可能性があります。
SCP-2232-JP内部を撮影した映像の解析により、SCP-2232-JP-A、-Bの会話内容を解読する試みが進行中です。以下は解析結果の抜粋です。
映像記録-2232-JP-1
日時: 2020/4/6 12:25
備考: SCP-2232-JP-Aは毎日9時、12時、19時頃にSCP-2232-JP-Bに対して食料の配給を行っている。以下は昼の配給の際に交わされた会話である。
SCP-2232-JP-AがSCP-2232-JP-Bの住居群に近寄り呼び掛けると、SCP-2232-JP-B達が住居から出てくる。SCP-2232-JP-Aは掌から握り飯、ペットボトル入りの緑茶を生成し差し出す。
SCP-2232-JP-B-1: いつもありがとうございます。本当に…こんな風に僕らを気にかけて、養ってくださって感謝のしようもない。
SCP-2232-JP-A: いいんだ。こんなのはなんでもない。でも感謝するっていうなら、少しは外に出てくれないかい。いずれ公園を出るためにも、体を動かして活力をつけるのは大切だよ。もちろん無理にとは言わないけど…。
SCP-2232-JP-B達が沈黙する。
SCP-2232-JP-B-5: それは…。先生に頼りきりの今が駄目なのは分かってます。でも…いや、そうですね。俺も頑張ってみます。みんなも、なあ。頑張ろう。
SCP-2232-JP-A: うん、頑張って。でもね、別に君の今の状況が駄目だってことはないよ。君が君の人生をどう生きたって、社会に背を向けたって、それを責める謂れは無い。僕にかける迷惑なんて、全然考える必要は無いよ。ただ、柴田君は外に奥さんがいるんだろう? きっと外で待っているよ。だから、是非ここを出て、社会に戻ってみて欲しい。
SCP-2232-JP-B達は涙を流し感謝する。
この後、SCP-2232-JP-AとSCP-2232-JP-B達は18時頃までキャッチボールやフットサル等を行いました。しかし翌日以降の映像では、SCP-2232-JP-B-5は一日数時間程度公園内を散歩するものの、他のSCP-2232-JP-Bは以前同様一日の大半を簡易住居内で過ごしています。
補遺1: 2020/6/14、SCP-2232-JP-B-5がSCP-2232-JPの境界面を通過し公園外に出ました。配置されていたエージェントがSCP-2232-JP-B-5を保護し、インタビューを行いました。
インタビュー記録-2232-JP-1
Agt.横井: 柴田さん、あなたはどうやってあの公園から脱出したのですか?
SCP-2232-JP-B-5: ええ、未だに少し信じられません。俺があの公園から出られたなんて。先生のおかげで、人生をやり直す気になれたんです。まだ先は見えないけれど、やれるだけやってみようと。
Agt.横井: [沈黙] あの公園は外部と…見えない壁のようなもので隔絶されていましたよね? それを通り抜けた手段についてお聞きしたいのですが。
SCP-2232-JP-B-5: 見えない壁、ですか。それは先生もよく仰っていました。君達は見えない壁に閉じ込められている、と。しかし、例え話でしょう? つまり、俺は公園に閉じこもり外にはもう出られないかのように感じていたけれど、実際には自らで自らを縛り付けているだけに過ぎない、というような。現に俺は、先生に励まされあそこから出ることができました。先生は、立派に人生を立て直した俺が会いに来るのを待っていると言ってくれた。俺はその期待に1日も早く応えたいんです。
以下、SCP-2232-JP-Aの現実改変能力に関する質問も行ったが有意義な解答は得られなかった。
SCP-2232-JP-B-5に行われた精神スクリーニング検査の結果、認識改変の痕跡が確認されました。SCP-2232-JP-B-5は認識改変により、SCP-2232-JP内の異常現象を認識していないと思われます。インタビュー後、SCP-2232-JP-B-5はSCP-2232-JP、-Aに関する記憶を消去した上で解放され、動向を追跡されています。
補遺2: 2020/6/15、SCP-2232-JP内にSCP-2232-JP-B-5と同一の外見をした男性の姿が確認されました。追跡中であったSCP-2232-JP-B-5に異常は無く、当該男性はSCP-2232-JP-Aが現実改変により生成したものであるとみられます。この事例を受け調査を行った結果、SCP-2232-JP外にSCP-2232-JP-A、-Bとそれぞれ同一の外見である男性が発見されました。(発見された男性らをSCP-2232-JP-α、SCP-2232-JP-βと指定。)
対象 | 所在 | 現況 | SCP-2232-JPを出た時期 |
---|---|---|---|
SCP-2232-JP-B-5 | 宮崎県都城市 | 求職中 | 2020年6月14日 |
SCP-2232-JP-β-1 | 福岡県福岡市 | 飲食店アルバイト | 2014年9月頃 |
SCP-2232-JP-β-2 | 東京都府中市 | 運送業勤務 | 2015年12月頃 |
SCP-2232-JP-β-3 | 福岡県福岡市 | 飲食店アルバイト | 2015年12月頃 |
SCP-2232-JP-β-4 | 山口県下関市 | 食品製造業勤務 | 2016年4月頃 |
SCP-2232-JP-α | 宮崎県都城市 | 都城市役所勤務 | 記録なし |
SCP-2232-JP-β-1~4について、-B-5と同様認識改変の痕跡が確認されました。それに対し、SCP-2232-JP-αの精神には異常は見られず、SCP-2232-JPの異常性も認識していませんでした。また、SCP-2232-JP-αに対する現実性観測実験の結果、SCP-2232-JP-αの内部Hm値は正常範囲に収まるものの、特異な不安定性を示しました。これは現実改変能力による被造物にみられる特徴であり、現在、SCP-2232-JP-αをSCP-2232-JP関連実体として収容するか否かについて議論が進められています。
以下はSCP-2232-JP-αに対するインタビュー記録です。
インタビュー記録-2232-JP-2
SCP-2232-JP-α: あの公園は⋯家からは少し遠いですし現在は封鎖されていますから、2014年の監査業務の際に行ったのが最後だと思います。まあ、なんてことない公園ですよ。
Agt.横井: あの公園には数人のホームレスが住み着いていましたよね。彼らについてなにか覚えていることはありますか?
SCP-2232-JP-α: ああ⋯思い出した。懐かしいな。そうですね、あの時、確かホームレスの方と少し話をしました。支援制度を紹介して⋯でも、そんなのはなんの役にも立たないと言われました。私は部署が違うので分かりませんが、きっと役場で心無い対応を受けたんでしょう。
Agt.横井: それで、貴方は彼らにどのような印象を? 同情し、助けたいと思ったのですか?
SCP-2232-JP-α: いえ、なんというのか⋯実を言うと、私は少しだけあの方々を羨ましく思ったんです。社会に背を向け、最低限の互助以外ではほとんど人と関わらず生きる姿がとても自由なものに見えた。しかしもちろん、適切な支援を受けられず苦しんでいる方々を見て羨むだなんて、そんなのは間違いです。当時は残業も多く、休日にも妻や子への家族サービスをせがまれ、疲れていたんでしょう。いくら重荷に感じたってそれを捨てることなんて出来ないし、背負ったままで幸せにならなきゃいけない。当たり前のことですよね、大人ですから。
補遺3: 映像記録2232-JP-2
日時: 2022/10/6 22:06
公園内を散歩していたSCP-2232-JP-AにSCP-2232-JP-B-1が近づき、話しかける。
SCP-2232-JP-B-1: 先生。俺、先生に言わなくちゃいけないことがあります。その⋯俺は、実はもう外に出たくなんてないんです。
SCP-2232-JP-A: [沈黙] そう。なぜそう思うんだい?
SCP-2232-JP-B-1: すいません。あの、先生が来る前は⋯ここでの生活は辛いけれど、全部諦めてて、そしたらけっこう楽でいられてたんです。先生が来てから、凄く良くされて励まされて、いっときはまた社会に戻ってやり直してみようって気にもなりました。でもそうしたら、ここでみんなや先生と過ごす日々を捨てることになってしまう。今、俺は幸せです。だから、もし出来るなら、ここに居続けたいんです。
SCP-2232-JP-A: 原田君。⋯君がそう感じ、それを僕に伝えてくれたのは、僕に心を預けてくれている証拠だ。本当にありがとう。実はね、僕も君と同じ気持ちだよ。僕も、こんな日々が続くことを願っている。
SCP-2232-JP-B-1は驚いたような顔で沈黙する。
SCP-2232-JP-B-1: [沈黙] 違うでしょう、先生。俺は、先生に否定されると思ってました。だって俺のこの考えは、先生をここに縛り付けてしまうものだ。⋯先生をここに閉じ込めている見えない壁は、俺たちと同じじゃない筈です。もし、先生を閉じ込めているのが俺たちだっていうのなら、それこそ俺は耐えられない。そんなのは間違っています。
SCP-2232-JP-Aは公園の外に目を向ける。
SCP-2232-JP-A: ⋯同じだよ。僕と君たちを囲う壁は同じものだ。今となってはね。君たちは、少なくとももう今は、僕をここに閉じ込める壁じゃない。それに僕はもう、君と同じように帰る場所なんか無いけれど⋯それも壁の正体じゃない。僕が今ここに居るのは、この君たちとの暮らしが僕の幸福だからだ。だから僕と原田君は、本当に何も違わないんだ。
SCP-2232-JP-B-1が蹲り体を震わせる。SCP-2232-JP-Aは身をかがめ、SCP-2232-JP-B-1を抱擁する。SCP-2232-JP-B-1は何事か呟いた様子だが、口元が隠れており内容は読み取れない。SCP-2232-JP-Aは笑みを浮かべる。
当記録以降、SCP-2232-JP-A、-B間の交流は増加傾向にあります。現在SCP-2232-JP-A、-Bは平均して1日に2時間程度、公園内の遊具やSCP-2232-JP-Aの生成した道具を用いたレクリエーションに興じています。
補遺4: 2022/12/27、SCP-2232-JP-β及び-B-5に認識補強剤を投与した上でSCP-2232-JPに接触させる実験が承認・実行されました。結果として、いずれの被験者も障壁に拒絶され公園内に侵入することは出来ませんでした。実験時ブランコに座っていたSCP-2232-JP-Aは公園外の被験者達に気付くと驚き、微笑しましたが、直ぐに目を離しました。
2020/6/14以降現在までSCP-2232-JPからの新たな脱出事例は無く、SCP-2232-JP-A、-Bは典型的な振る舞いを続けています。所定の観察期間の後Safeクラスへの繰り下げ申請が行われる予定です。