要注意人物ファイル#2273/01
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要注意人物ファイル #2273/01

本名: アレクセイ・ベリトロフ (Alexei Belitrov)

別名: “ファーザー・アンヴィル” ("Father Anvil")

関連要注意団体: 東方時計仕掛正教会1

監視理由: 当該PoIは過去にSCPオブジェクト指定を受けていた。PoIはSCP財団の運営および資産に関する機密情報を保有している可能性がある。

行動様式: 標準チャネルを通じて通信を監視し、情報漏洩が検出された場合には拘留すること。
更新 2063/11/01: 既知の/疑わしい接触点を監視し、情報漏洩が検出された場合には情報管理措置を実施すること。

優先度:

ステータス: 現在、ロシアのヴォルゴグラード州にある東方時計仕掛正教会の修道院に居住していると思われる。
更新 2063/11/01: PoIは死亡し、ヴォルゴグラード東方時計仕掛正教会の修道院墓地に埋葬された。

背景情報: 当該PoIは1989年から2018年までSCP-2273として収容されていた。仮説的“捲られたベール”シナリオ2217が実現した時点で、SCP-2273は暫定的なPoI指定を受け、同様の措置が適用可能なタイプC有知性異常体たちと共に解放された。PoIはマナによる慈善財団(MCF)の異常存在復帰プロジェクトを通して、ロシア連邦のヴォルゴグラードへと渡った。PoIはロシア連邦政府への雇用を求めていたがその異常性ゆえに拒絶され、テレビ・ラジオ・オンラインインタビューへの出演はあったものの、永続的雇用を見つけることができなかった。

2020年4月、PoI 2273/01はMCFのヴォルゴグラード異常存在復帰局へ、信用できる移転先を求めて接触した。MCFの内部文書は、移転した異常実体の一部が東方時計仕掛正教会を始めとする様々な宗教団体に取り込まれていたことを示している。彼がMCFに接触した3週間後、財団資産はPoI 2273/01を追跡することができなくなった。

2021年4月、PoI 2273/01はSCP-██████(元・サイト-17人型異常体対応心理学者のT・フリードリヒ博士)宛に文書通知を送った2。PoIは自身の所在地を開示しておらず、記載されていた住所は既知のMCF郵便取扱センターの一つだった。文書は手書きだった。SCP-██████はPoI 2273/01の手紙に対して返信を送り、間もなく両者の間には定期的な文通が交わされることになった。

2034年1月13日にSCP-██████がリンパ腫関連の合併症で死亡した後、対象宛に送られた全ての書簡は送付者に返送されることになり、その中にPoI 2273/01も含まれていた。2034年2月22日、MCFヴォルゴグラードOARからサイト-17公務局に1本の電話が入った。電話を掛けた人物は自身を元SCPオブジェクトであると述べたが、それ以上の情報を明らかにせず、繰り返しSCP-██████の現状に関する問い合わせを行い、SCP-██████の死を知らされると近親者の連絡先情報を要請した。当該情報は機密と見做されたため、要請は却下された。現在、この通話を行った人物はPoI 2273/01だと信じられている。その後、PoI 2273/01の所在または地位に関する情報は、MCF公務局によってPoI 2273/01が10年前に自然死したことを公式に明かすまで得られることは無かった3。また、この公式声明に際して、PoI 2273/01に関する過去入手されなかった幾つかの文書が発表された。

幾つかの選択された文通の転写物やその他の関連文書が、この文書に添付されている。これらや他の添付されていない文書から示唆されるPoI 2273/01の人格プロファイルは、PoI 2273/01が財団にとって最小限の情報保安リスクでしかなかったことを示している。

添付文書:

SCP-██████宛の手紙から選択された一部:

2021年3月31日付のSCP-██████宛の手紙:

██████博士へ、

連絡を取るまでにこんなに長く時間をかけてしまって申し訳ない。このところ忙しくしている。私に言える限りでは、君はまだ君なりの問題に直面し続けているようだ。あまり大事で無かったことを祈る。もしそれについて話すことを許可されているのなら、君の事案担当者が問題解決に近付いているかどうかを知りたいと思う。もし機密情報なら、仕方ない、その点は理解できる。

博士、私はこれまで、君が私のためにしてくれた全てに対してありがとうを言う機会が一度も得られなかったね。君はあの件で称賛されてこそいないが、私のタイプCステータス降格の手助けをしてくれたことは知っているし、だから少なくとも私がヴィクトリアと出会ったことについても部分的な責任があると言える。私にはとてもその恩返しができない。悪夢は未だに終わりを見せないが、それも君が教えてくれたテクニックのおかげで対処できている。恩返しなんて出来る訳ないじゃないか。

ここ三年間は厳しかった。私はこの世界にいるべき存在じゃないんだよ、博士。ここは眩い光と幸せな人々と空気と食べ物と資本主義と、私がこれまで想像だにしてこなかった物たちの世界だ。君の世界は、今まで私に割り当てられ、思考の基になってきた本や音楽や映画よりもなお奇妙だ。ロシアの人々は地上を歩き回ってアメリカの友人に電話を掛け、両国の軍隊は協力してリビアやシリアのような場所で平和を維持している。ここは美しい、██████博士。そしてここは私がいるべき世界じゃない。

収容されていた頃に知り合った皆のことをよく考える。私が独房時代を恋しく思うといったら奇妙に聞こえるだろうか? ペニーと、彼の忌々しいトランプのイカサマが懐かしい。あの生き物と一緒にやった卓球の試合も懐かしい ― 警備員たちはあれを何と呼んでいたっけ? “宇宙蟹”? とにかくあいつと遊ぶのは楽しかった。

そしてヴィクトリアが懐かしい。今まで一度も言わなかったが、博士、私があの子とああまでしてすぐ友達になろうとしたのは、私がかつてトロントの掩蔽壕でやったことの埋め合わせがしたかったからだ。あの子の身に起こった事に関して私はまだ責任を感じている。あの子は私と初めて会った時に嫌悪感を見せなかった唯一の存在だったんだ。そしてこの世界で一番の友人でもあった。年寄りの親友が小さな身体改造された少女だというのはおかしな事だろうか?

外で起こる物事は奇妙だ。私は暫くの間、公共の場に顔を出して生計を立てることができていた。ところがそこで私が出来るのはただ沢山インタビューを受けて同じ情報を繰り返すことばかりで、とうとう疲れ果ててしまったし、一般の人々も興味を失った。街を歩く人々は私を見ると怪物(その通りだ)であるかのように避けるか、さもなければ私が著名人か英雄(そんなことはない)であるかのように扱う。ここで彼らがやっているような形で四六時中目線が付き纏っているのを思うと酷い気分になる。無情な物言いかもしれないが、焼き尽くされて放射能まみれの荒れ地だった頃のロシアが少し恋しく思われるぐらいだ。私はスポットライトから逃げなければいけなかった。理解してくれることを願う。

██████博士、君が私に与えてくれたものを返すことは決してできないが、この手紙が君の健康と強い精神をもたらしてくれることを願っている。もし君の担当者が許可してくれたら、ぜひ返信が欲しい。まだサイト-17にいる皆がどうしているかを知りたいんだ。間違いなく幾つか検閲は入るだろうが、私の思い違いでない限り、彼らは君にこの手紙を見せてくれるはずだ。だから連絡が欲しい。君と余所者同士ではいたくないんだ。

君の患者であり友人、
アレクセイ・ベリトロフ

注記: 手紙はドイツ語から翻訳された。これはPoI 2273/01からSCP-██████宛に配送された最初の手紙である。PoI 2273/01が言及した実体は順にSCP-191-N、SCP-507SCP-163-EXであると推定される。手紙の受領時点において、“捲られたベール”シナリオ2217以後も機密解除されていない異常存在についてPoI 2273/01が何らかの情報を持っていると信ずるに足る理由は無かった。この当時は低優先度の監視が有効化されていた。


2022年12月4日付のSCP-██████宛の手紙:

██████博士へ、

妙な事だ、博士。人生の最初の30年間、私は無神論こそ絶対的真実であり、宗教とは資本主義者と君主たちが多数を鎖で縛り上げるために使っているプロパガンダだと教わっていた。収容時代、私はただ日々の生活を学び、時間つぶしに何かをすることが許可されないかなと思ってばかりいた。だが此処ではどうだ? 私を助けてくれる人たちは? 彼らは神に献身していて、その人生には悩みも苦痛も無い。彼らは私を仲間の一人として扱い、何も訊ねようとはしない。彼らは君の財団に雇用されていた人たちや、私を外部で援助しようとしてくれた人たちよりも、私の状況をより良く理解してくれている。

ここの人々は鎖に縛られていないんだ、博士。私が知る中で唯一自由な人々かもしれない。

私は個人的にはテレビを持っていないが、修道院から数キロ離れた村を訪れた時、テレビに163が映っているのを見た。アメリカの科学者が開いた何かの会議で公に公開されていた。あいつが健康体でいるのを見られて嬉しかったよ。自分の存在が公に広く知られることで、あれのホームシックの解決にも繋がるんじゃないだろうか? 昔のあいつが幸福だったとは決して言えないが、あれが私と一緒にゲームするのを楽しんでいたことを思い返すのは好きだ。

同じような話になるが、ペニーが自伝を出版したそうじゃないか。ここにいる牧師の一人が私のために一冊注文してくれた。届くまで数日かかるだろう。彼が一体何を書いたのか気になっている。彼が私に話すことを許可されていた話題がごく少なかった事を思うと、財団での彼の経験はきっと唯一無二だろうね。だがまぁ、これは収容室の中で暮らしている我々の皆に当てはまることだろう。そこから学べることは全く何もない。

こんな事を言うのはおかしな気持ちだが、博士、この人生で初めて私は神に祈り始めている。私が一度も会ったことの無い人々のために、私が喪った人々のために私は祈る。ヴィクトリアやペニーや君たち皆のために。君の健康のためにもだ、博士、いつか君が一人の自由な人間として歩むことができることを願って。できれば返事がほしい。

敬具、
アレクセイ

PS: ついにあれこれ思い悩むのを止めてペニーに手紙を書いた。この手紙と一緒に送付するから、後日彼が返事をくれたかどうかについても知らせるよ。彼の住所を教えてくれてありがとう!

注記: 手紙はドイツ語から翻訳された。署名は筆ペンで書かれており、PoI 2273/01がこの手のツールを利用した最初の機会であると思しい。インクと紙の分析は、工場生産されたものでは無く、紙は廃プラスチック繊維と綿の組み合わせを使って漉かれたことが示されている。インクは部分的に木炭とエタノールで製造され、結果的に墨汁に似た化学構造となっていた。後日の相互参照で、両レシピは時計仕掛正教の修道院と共同体において一般に用いられていると判明した。


2027年4月30日付のSCP-██████宛の手紙:

██████博士へ、

何が起きたかを耳にした。私を移転した人々は、私がサイト-17へ帰還することを望んでいない。解放されて以来ずっと、人々は私がかつて — それどころか現状においてさえも — 財団に虐待されていたと決めてかかっているし、それはマナの職員たちも例外ではない。もし君に接触できる電話番号を教えてくれれば、時間がある時に電話する。今回の事を聞いてとても、とても心配なんだ。頼むから、自分の健康のために出来る限りのことをして、医者のいう事をよく聞いてくれ。私の祈りが君と共にあることを知っておいてほしい。ペニーの祈りもだ。

これは君の他の状態とは関係があるのか? 何処で治療を受けているにせよ財団が君の医療費を肩代わりするだろうと分かってはいるが、事案担当者たちが君を収容室に閉じ込めている何かしらを排除できるようもっと懸命に取り組むことができれば、君の苦痛を緩和する助けにもなるんじゃないかと思う。分からない。私は毎晩君のために祈っている。ここには見舞いのカードを作る素材が無いし、ますます私の終の住処と成りつつあるので買いに行くこともできない。だが君のために出来ることなら何でもしよう。私に何が出来るか教えてくれ。

キリストが君と共にいる事を覚えていてほしい、同志よ。
アレクセイ・ベリトロフ

注記: 手紙はドイツ語から翻訳された。これはSCP-██████がステージIIIのリンパ腫と診断された直後に受領されたものである。情報漏洩とは見做されなかったものの、SCP-██████はこの情報がソーシャルメディアその他の手法で急速に拡散されていることに苦悩を表明した。この手紙の内容を基に、一つ前の手紙を出してからこの手紙の署名を行うまでの間のどこかで、PoI 2273/01はヴォルゴグラード東方時計仕掛正教会の修道院に正式なメンバーとして加わったと考えられている。


2034年1月7日付のSCP-██████宛の手紙:

親愛なるトーマスへ、

私とここの兄弟姉妹たちは皆、無事に手術が済んで一日も早く回復することを祈っている。頼む、もし可能であれば私に返事をくれ。今年の冬は寒いので、良い知らせは来たる春を迎えるうえで助けとなるだろう。

私は余りに多くの友を喪ってきた、トーマス。私はこの人生において余りに多くの悲劇を知った。世界が死ぬのを、友人たちが死ぬのを見届け、敵だと見做した人々を死へと追いやってきた。ペニーの身に何が起こったかを聞いた後、ヴィクトリアを失った後、この世界からまた一人こんなにも早く去ってゆくのを目の当たりにするのは私には耐えられない。神は君と共にいる、君もまたそれを信じていることを私は知っている。

君は結婚してこそいないかもしれないが、██████博士、君は愛されていないなんてことは無い。君は私のために強くなければならない。君自身のために強くなければならない。生き続けるための力が見つからないと不安に駆られることがあると言うならば、君が春に花を植える庭のことを考えるんだ。君とまた庭の写真を見せあいたい。ここで暮らす兄弟姉妹の中には、花壇の素朴な美しさや野菜を栽培する努力に感謝の念を捧げる者はそう多くない。これは私が分かちあい続けたい美しさだ。

主の御力を信じるんだ、トーマス、現代医学の力を信頼しよう。神は君に微笑んでいる。頼む、健やかであれ。

愛と祈りを込めて、
アレクセイ・ベリトロフ

注記: 手紙はドイツ語から翻訳された。手紙が署名された当日、SCP-██████はステージIVを迎えて転移したリンパ腫治療のための放射線療法を開始した。しかしながら、幾つかの癌組織が検出を回避し、SCP-██████の容体は急速に悪化して2034年2月11日に死亡した。上記の手紙は2034年2月15日に届いた物であり、情報漏洩が無いかの分析に続いて、送付者住所であるMCFヴォルゴグラード局まで返送された。これはPoI 2273/01の死に先立ち、財団職員/追跡調査されている異常存在との間において、対象が行ったと確証された最後の接触行動である。



PoI 2273/01逝去の公式発表に続いて確保された手記から選択された一部:

2034年12月25日付の手記エントリからの抜粋:

これは単に考えをまとめるためだけの書き込みだ。自分では、この日誌を定期的に書き続けるだろうとは思っていない。

今日は私たちの修道院が主の誕生を祝福する日だ。しかし、私は祝う気にならない。この世の私の友人たちは全員死んでしまった。兄弟姉妹たちは寮の外で何かの祝い事に参加している。必要な典礼は全て完了していて、外で彼らが何をしようと、他の何が起ころうと、私の気分を明るくしてはくれない。

ファーザー・コッグウィールとマザー・アクスルが、今日二人とも私を心配して話しに来てくれた。これは私が一人きりで過ごすこの世界で最初のクリスマスだから、彼らが理解してくれることを期待してはいない。二人とも規格化されてはいるが、彼らは収容室の中に座っている時の感覚や、なじみ深い音楽の一節から得られる小さな慰めの事を知らない。彼らは機械であり、機械的な形式に凝り固まっている。彼らは懺悔や赦しについて語るが、戦争犯罪を、無垢な子供たちを殺しましたと告白するのがどういうものかを、それをガラス仕切りの向こうにいる男が頷きながら聞いて、貴方は赦されてもいいのだと語るのがどういうことなのかを知らない。幼い少女にチェスを教えたり、物語を語って聞かせた彼女の目が輝くのを見たりしている時に感じる歓びを知らない。人が死ぬのを目の当たりにした時、魂に入り込む暗闇のことを知らない。

私は、神の御言葉の中に、“図式”に、そしてイエス・キリストの御言葉の中に慰めがあることを知っている。だが、その慰めは今、私を避けている。再び慰めを見出すことができるかどうかも分からない。だがもっと大きなトラウマを乗り越えてきたんだ、頑張ろう。

Aut viam inveniam aut faciam.4

注記: これも含めて、以降の手記エントリは全てロシア語から翻訳したものである。PoI 2273/01の死後10年間は公開されなかったものの、これらはPoI 2273/01が東方時計仕掛正教会との直接的接点を持っていたと確証するうえで価値ある資料であった。しかしながら、手記が執筆されたのは対象の監視における29年間の空白期間であり、この間の対象の活動に係る完全な情報が日の目を見る見込みはほぼ全く無いと考えられる。


2039年6月16日付の手記エントリからの抜粋:

説教メモ/アイデア:

“我らの機械化されし救済による帰還の約束に強さを見出す?”
“何故に規格化が求められているのか?”
“産業化の美しさとは”
“我らの機械化されし救済の偉大なる意匠?”

  • 自然界に見られる質素さ
  • 自己構築システム
  • 自然発生したシステムの頑健さ
  • 人類の適応性/人間の創意工夫の美しさ

注記: このページは手記から破り取られていたが、後に再配置された。ページには皺の跡がある。隣ページには、見たところ修道院の高位の人物によってPoI 2273/01が執筆を割り当てられたと思しき説教についての更なるメモがある。PoI 2273/01が修道院の宗教的階層において出世したことを示唆している可能性あり。説教の実際の内容や、それが行われたか否かについての証拠は発見されていない。


2053年9月21日付の手記エントリからの抜粋:

私は長い人生を送ってきた。苦しい人生であった。私の最も幼少期の記憶は、キノコ雲と放射能を帯びた雨と冷たいコンクリートの掩蔽壕だ。私は95年間の三分の一を決して信じるべきでなかった戦争に費やし、また別な三分の一は独房の中で太陽の光を見ず、協力姿勢を維持するために子供向けの小説を投げ与えられる生活を送った。これまでの私の人生の最後の三分の一、我が一生の最終段階だと強く信じているこの期間でのみ、私は女神の光と慈悲を目の当たりにしている。

私は、自分が罪人であり、祈りやこれまで送ってきた慎み深い生活が、我らの女神の赦しを得るに十分でないことを知っている。だがそれは私に憂いをもたらさない。私は罪を犯したのであり、それに値する罰を受ける。女神は私が規格化される事なかれとこの身を呪い、しかしまた一方では、私が人類の中に邪悪を見出しそれに対して率直に物を言うための備えあれと祝福を授けてくださった。私は自らの罪の対価を支払うことよりもむしろ、彼女の偉大なる意匠における私自身の目的を未だ完全に果たしていないことを気に掛ける。

我々はその一人一人が、歯車や発条や車軸といった様々な機構であり、彼女の偉大なる機構の中に組み込まれている。彼女は再構成され、帰還の約束と共に我々の世界を去った。しかし彼女は一度として真に壊されたことは無く、我々は一人一人が彼女の部品であり、彼女もまた我々の一部品である。我々の信仰、我らの機械化されし救済とその息子イエス・キリストの歩みに従わない者たちが、かの肉の栄養と化すことが運命付けられているのは異端であるが故ではなく、彼らが世界に暴力を招こうとするが故、彼女の偉大なる意匠の美しさを解体せんとするが故である。仏教徒も、イスラム教徒も、ヒンドゥー教徒も、キリスト教徒も、ユダヤ教徒も、その他の者たちも我らの機械化されし救済の目には平等である。彼らは御言葉を知らない者たちではなく、反感を買っている彼女の子供たちを傷付ける立場に立つ者だ。そして人類は全て彼女の子供なのだ。

この世界に残された私の時間がそう長いとは思っていない。兄弟姉妹よ、私の裁きの時が来ても、私のために嘆かないでくれ。私はむしろ君たちにこの言葉を思い出してもらいたい ― 女神は自らの問題に優しく非暴力的な解決を求める者を最も尊ぶ、それはお互いを削り合う歯車を持った機械は作動できない機械であるが故である。真実だけでなく、思いやりもまた求めるように。御言葉はただの言葉に過ぎない。その内にある真実を探し求めるのだ。

君たち皆に神の恵みがあらん事を
ファーザー・アンヴィル

注記: 上記は、PoI 2273/01によって記述された最後の既知の日誌エントリである。PoI 2273/01はこの陳述書を遺言書の代わり、もしくはそれに付け加えるものとして準備したと考えられる。MCFと東方時計仕掛正教会の文書は、PoI 2273/01が2053年10月13日の朝に、寮で寿命と思しき要因により死亡した状態で発見されたことを示している。この文書や他の文書は、PoI 2273/01が修道院の宗教階層内である程度の階級まで上り詰めたことを確証しているが、“ファーザー・アンヴィル”という敬称が正式採用された日付は分かっていない。

最後に:

現在、PoI 2273/01の遺体は、彼が人生最後の日々を送った東方時計仕掛正教会の墓地に埋葬されていると思われます。PoI 2273/01による情報漏洩が発生したという実質的な証拠はありません。このケースファイルを閉じることを推奨いたします。

— エージェント ラクシュミー・ターンボウ、財団記録・情報保安管理局

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