アイテム番号: SCP-2275-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2275-JPは充分な自殺防止策が施された標準人型セルに収容されます。定期的なカウンセリングと財団への忠誠度試験が実施され、外部との通信機能を持たない娯楽が提供されます。SCP-2275-JPが自身の異常性について言及した場合は内容を担当研究員に報告してください。
説明: SCP-2275-JPは異常性を有する15歳のモンゴロイド系女性です。SCP-2275-JPは自身に対して高所からの落下への異常な耐性を付与することが可能です。これまで最高で高さ60 mの建造物からの落下に対し、一切の負傷なく着地に成功しています。
SCP-2275-JPは自身の異常性を手品であるとし、一切の異常性を有していないと主張しています。しかし現代科学の範疇で上記の異常性を説明することは不可能と判断されています。
SCP-2275-JPは2026/10/9 17時頃、東京都██区の██ビル最上階から飛び降りを実施したことで財団に発見、確保されました。20 mの高さから落下後、付近の人間により救急への通報が行われましたが、SCP-2275-JPはその場から立ち去りました。その後財団はSCP-2275-JPを特定し確保し、SCP-2275-JPの飛び降りを目撃していた人間に対してカバーストーリー「テレビ番組の撮影」を流布しました。以下は付近の監視カメラに記録された当時のSCP-2275-JPの行動です。
<00:00:00> SCP-2275-JPが最上階に現れる。服装はYシャツの上に紺色のパーカー、膝丈までのチェック柄スカート、スカートベルト、白の靴下、ローファー、黒いスクールリュックを背負っている。
<00:02:32> SCP-2275-JPが柵を乗り越える。靴は脱いでいない。
<00:03:06> 女子生徒2人が駆け寄る。SCP-2275-JPは柵を外側から両手で掴んでいる。
<00:03:25> 女子生徒はSCP-2275-JPに飛び降りないよう説得する。
<00:04:41> SCP-2275-JPは柵から手を放し、腰に手を当てて胸を張るポーズをとる。
<00:05:10> SCP-2275-JPは後ろ向きに倒れてビルから落下する。周囲から悲鳴が上がる。
<00:05:13> SCP-2275-JPが地面に到達する。周囲に土煙が舞い上がり着地した瞬間は観測されていない。
<00:05:30> 頭をビル側に向けうつぶせになっていたSCP-2275-JPは立ち上がる。衣服についた埃を払いのける動作をした後周囲から注目を集めていることに気付き、走ってその場から去る。
収容当初SCP-2275-JPは自身が軟禁状態にあることに対して激しい拒否を示しており、興奮状態によりインタビューの実施が困難でした。以下は3度目のインタビューの記録になります。
対象: SCP-2275-JP
[記録開始, 2026/10/12]
(不要な会話であったため省略)
SCP-2275-JP: お願いだから帰してよ!監禁したって私は何も喋らないから!
インタビュアー: どうか落ち着いて話をさせて下さい。あなたの異常性についてわからないとずっとこのままです。
SCP-2275-JP: 何が異常性よ、あんなのただの手品!女子中学生を監禁して魔法だ呪術だとかいって頭おかしいんじゃないの?
インタビュアー: 我々はあなたの「飛び降りマジック」について多角的に検証しました。当時周囲にいた人の証言、周辺の監視カメラ、現場の痕跡、それらを踏まえて人間が生身であのビルの屋上から飛び降りて無傷なわけないんです。
SCP-2275-JP: 生身って、そりゃあ私だって何も無しに飛び降りたら死ぬわよ。でも手品なんだから準備があるに決まってるじゃない!
インタビュアー: 確かにもしウイングスーツやジェットパックのようなものがあれば飛び降りても無事かもしれません。ですがそのようなものは身につけていなかったでしょう?
SCP-2275-JP: うん、まあそうだけど。
インタビュアー: であればあなたは何らかの超常的な力、魔法や呪術を施行した、あるいは現実改変を起こしたのです。我々はそう考えています。
SCP-2275-JP: 要するに手品のタネを見抜けないで私を魔女かなんかだと信じ込んでるおマヌケさんってことでしょ。とんだ馬鹿ばかりね。高校も出てないんじゃない?
インタビュアー: 大学教授やプロのマジシャンにも確認してもらっています。それでもあれは手品ではありえないと。
SCP-2275-JP: 大したことないのね。
インタビュアー: 本当に手品だというならタネを教えては頂けませんか?
SCP-2275-JP: はあ?サーストンの三原則1知らないの?言うわけないじゃない。
インタビュアー: しかし、「飛び降りマジック」をあなたが科学的に説明できない以上、超自然的な現象で起こったと我々は結論付けます。そのような異常な現象を人為的に発生できる存在は一般社会には放逐できず、我々で保護することになります。つまり──
SCP-2275-JP: ずっとここにいろってこと!?冗談じゃない!
インタビュアー: タネを話してくれますか?
(数分間沈黙)
インタビュアー: 我々としても手荒なことはしたくありません。
SCP-2275-JP: ダメ。タネは話せない。
インタビュアー: それでは──
SCP-2275-JP: 話せないけどまた披露するのなら、いい。どう?
インタビュアー: なるほど、我々の調査にご協力いただけると。ありがとうございます。でもそこまでしてもタネは明かしたくないのですね。
SCP-2275-JP: うん。死んでも明かさない。
インタビュアー: 何か理由が?
SCP-2275-JP: それは──私は人殺しだから。
(その後SCP-2275-JPは会話を拒否した)
[記録終了]
SCP-2275-JPの協力の下、異常性の検証実験が複数回実施されました。内容は先述のビルからの飛び降りと同等で、別の建造物などいくつかの環境を変更して行われています。各回の実施された条件、SCP-2275-JPに提案し拒否された条件、準備に必要としてSCP-2275-JPが要求した物品の一覧、など実験の詳細については付属資料を参照ください。なお要求した物品の中には明らかに使用されていないものも存在しているため、SCP-2275-JPが偽装で要求した物品も含まれていることに留意してください。
また、準備に伴う会話の中で以下の証言が得られています。
- 実施には1週間以上の間隔を開ける必要がある。準備の手間もあるが、集中が必要になることから体調を十全に整える必要があるため。
- 高さによる制限は理論上ないが、オーバーハングした崖や周囲に何もない高所では実施できない。
- 磁力に関する物は使用していない。
- 小学生には実施は困難である。
- 体重が極端に重い人は恐らく実施は困難である。
- 実施時間帯は夕方頃が最適である。
また、SCP-2275-JPに関して周辺調査が実施されました。その結果、SCP-2275-JPの母親は「奥都城おくつき 砂子すなこ」という名前で手品師をしていたことが明らかとなり、SCP-2275-JPの異常性と関連があると考えられます。以上を踏まえて、再度インタビューが実施されました。
対象: SCP-2275-JP
[記録開始, 2026/11/8]
インタビュアー: 今日はあなたのお母さんについて聞かせてください。
SCP-2275-JP: ママの何が聞きたいの?
インタビュアー: そうですね、手品師「奥都城砂子」としての彼女について。あなたはお母さんから手品を教わったんですよね?例の「飛び降りマジック」も。
SCP-2275-JP: 手品師だったことはもう知ってるのね。そう、私の手品はママから教わったもの。ママは私が小さいときから舞台に立っててね。親だからひいきもあると思うけど、私は奥都城砂子以上の手品師を見たことない。小手先のテクニックと大げさな会話でごまかすような芸人とは比べものにならなかった。繰り出される手品は本当に奇想天外で心にストンと響いてくる。確かに不思議なことが起こっているのにタネが全くわからない。そんな手品をいくつも作り出していて、一時期はあちこちで引っ張りだこだったわ。
インタビュアー: 私は手品について素人ですが、そこまで評価されたのはどういう点が理由なんでしょうか。他の手品師と比べた特色と言いましょうか。
SCP-2275-JP: 私がわかる範囲で言うなら、とにかく度胸が据わってたのが強みだと思う。覚悟のかけ方がわかるって言うのかな。奥都城砂子の手品はもしタネを知ったとしても、簡単には真似できないと思う。例えば、真剣を飲み込むようなことが必要っていわれてもやらないでしょ?私も色々仕込まれたけど、奥都城砂子に並ぶような手品は一生かかってもできないと思う。
インタビュアー: あなたの手品の腕は?
SCP-2275-JP: あれだけ「飛び降りマジック」を見せたのにわからないの?えーとそれじゃ、コインある?何円でもいいよ。
(100円玉を渡す。SCP-2275-JPはコイン消失マジックを行う)
インタビュアー: お見事です。近くで手品を見ることなんてあまりないですけど鮮やかなものですね。他にもいろいろと?
SCP-2275-JP: まあ、一通りは。あとはママにも教わったオリジナルのもいくつかあるけど。
インタビュアー: その1つが「飛び降りマジック」というわけですね。しかしそれだけの特技なのに██中学2内では知られていないようですね。
SCP-2275-JP: 私の学校まで調べてるの? (ため息) 暇人?
インタビュアー: それが仕事ですので。何故手品をやらないのですか?
SCP-2275-JP: 別に。ただ手品師の娘としてあれこれ聞かれるのが嫌なだけ。
インタビュアー: でもあの日は「飛び降りマジック」を行ったんですよね?
SCP-2275-JP: うん、まあそうなんだけど。
インタビュアー: 何かきっかけが?
SCP-2275-JP: あーうん、実は仲いい2人にちょっとばらしちゃったんだよね、私に手品の心得があるって。で、今私達受験生でさ。みんな成績とか志望校とかでピリピリしてて。まあ私もそうなんだけど。それで手品のこと話したら「お前は受験に失敗してもマジシャンになればいいから良いじゃん」みたいに言われてカチンと来ちゃって、じゃあちょっとビビらせようかなって。アハハハ、恥ずかし。
インタビュアー: それで見せたのは飛び降りとは、その、だいぶ過激な手品を選びましたね。
SCP-2275-JP: うん、ちょっとやり過ぎた。おかしいよね。手品でなんとかなる、って言われてムカついたのに、これじゃ認めてるようなものだよね。結局手品でやり返そうとするんだから。あれ、そういえば。
インタビュアー: どうしました?
SCP-2275-JP: あの後すぐあんた達に捕まったから、2人とも私がホントに飛び降りたって、思ってるんじゃ。
インタビュアー: ええと、一応あなたは入院していることにしてありますが。
SCP-2275-JP: まずいって!自分の軽口のせいで友達が目の前で死んだなんてなったら一生のトラウマもんじゃん!いややったのは私だけどそんなつもりはなくてすぐばらすつもりで!ちょっとどうしてくれんの!早くここから帰してよ!
(インタビューは一時中断された)
インタビュアー: お母さんのことに話を戻しましょう。一時期はその腕を買われて多くのメディアに出ていました。ですが3年前ほどにぱったりと出演が途絶えましたね。
SCP-2275-JP: 私の学校での情報を知ってるぐらいなんだからどうせ調べてあるんでしょ?その理由も。
インタビュアー: 断片的な証言しかないので、やはり当事者から伺えればと。
SCP-2275-JP: (ため息) 奥都城砂子の代表作とも言える手品に「炎の演舞」というのがあったわ。寒い雪の夜、一人ぼっちの少女がマッチを擦ると炎が人型になって現れる。そしてパートナーとなって優雅にダンスを踊るの。炎と抱き合ったりもするけどもちろん火傷したりはしないわ。最後は夢が覚めるかのように炎が消えると、夜が明けて朝が来る。
インタビュアー: 私も小さいころTVで見たことがあります。とても幻想的で、危険なはずの火がとても優しく見えました。賞もいくつか獲ったとか。
SCP-2275-JP: 家にトロフィーがあった。とにかく「炎の演舞」はママの手品師としての地位を確固たるものにしたの。それだけ優れた手品なら手に入れたいと思う人が出てくるのは当然でしょ?ママを口説き落そうとする悪い大人が何人も現れたわ。華々しい功績とは反対に普段は一目を避けるように暮らし、ボディーガードを雇うこともあった。
インタビュアー: そこまで強硬的手段に出るような人もいたんですね。
SCP-2275-JP: もし「炎の演舞」のタネが手に入るならいくらでも金を払う人がいたらしくてね。とにかくいつ襲い掛かられるかわからない。私が覚えているママはいつも周りを警戒していたわ。あんなに凄いママがどうして大変な思いをしなきゃいけないんだってずっと思ってた。でも。
インタビュアー: あなたへの警戒は足りていなかったと。
SCP-2275-JP: やっぱり知ってるんじゃない。別にママのことを責めたりはしないよ。悪いのは私をさらった奴ら。私を監禁して身代金代わりに手品のタネをゆすろうとした。それで小さい私は誘拐犯に「炎の演舞」のタネを喋っちゃった。
インタビュアー: 知ってたんですね。そのタネを。
SCP-2275-JP: 一応ね。ママのアシスタントみたいなこともしてたし。誘拐犯は驚いたようだったけど、用済みとばかりに私はすぐ解放された。言い訳になっちゃうけど、私が捕まったせいでこれ以上ママに迷惑がかかるのが嫌だったんだよね。そのあとママの身に迷惑がかかるのは変わらないのに。結局奥都城砂子は表舞台から去ることになったわ。
インタビュアー: しかしお母さんの手品は簡単に真似できないようなものでしたよね?それに他の人が実施したとしてお母さんがその手品をできなくなるわけではないですし、本家としての格が落ちるわけでもない。件のタネも広まっていないようですし。どうしてお母さんは表舞台に立てなくなったのでしょうか。
SCP-2275-JP: そう、簡単には真似できない。それなのに無理にやろうとしたバカがいたのよ。誘拐はとある芸能事務所の手引きで行われててね。売り出し中のアイドルみたいなマジシャンに「炎の演舞」をやらせようとしたの。奥都城砂子しかできない一流の手品を成功させれば一躍人気のマジシャンになれると考えたんでしょうね。そのアイドルはあっさり失敗して、全身を炎に包まれて。
インタビュアー: 亡くなったんですか。
SCP-2275-JP: ええ。すぐ消火されたけど虫の息で、病院に運ばれたけど手の施しようがなく。だいぶ苦しんだでしょうね。はあ。
インタビュアー: 少し休憩しましょうか。
(15分中断)
SCP-2275-JP: そのアイドルが亡くなったあと、金の卵を失ったわけだから芸能事務所はママを責めたわ。自分の所業を棚に上げて。もちろんそんな道理が通ることもなく、手品を奪い取ったことがバレて悪徳事務所も無事にはすまなかった。結局どちらも共倒れになってこの件は闇に葬られた。彼女の死もまるごとね。
インタビュアー: 話していただきありがとうございます。そのあたりはあまり情報が取れていないところでした。その後お母さんは失踪、されたんですよね。
SCP-2275-JP: (10秒沈黙) そう。話さなきゃ、いけない?
インタビュアー: いえ、お辛いようですし無理には聞きません。この件で精神を病み、失踪したということで間違いないですかね?
SCP-2275-JP: たぶんそう。
インタビュアー: わかりました。ところであなたが頑なにタネを明かさないのはやはりこの一件が元なのではないでしょうか。
SCP-2275-JP: ええそうよ。私がタネを教えなければこんなことにはならなかった。分かってる、諸悪の根源は私をさらって金儲けしようとしたバカだって。でもあの時私がすぐに話したりしなければもっと違った結果があったかも。救助が間に合って手品のタネは明かされずママもいなくならなかったんじゃ。そう思うことが止められない。
インタビュアー: それはあくまで仮定です。話さなければもっと悲惨なことが起きていた可能性もあります。
SCP-2275-JP: そう言うと思った。でもね、あの死んじゃったアイドルの子。あれだけは私が悪いの。私に責任があるの。
インタビュアー: どういうことですか?
SCP-2275-JP: 誘拐されて手品のタネを教えた時、ある一つのことを伝え忘れていた。だから彼女は失敗して死んだ。別にわざと教えなかったとかじゃないよ。うっかりっていうわけではないけど追い詰められた状態であんま冷静じゃなかったから。
インタビュアー: 一体、何を伝え忘れたんですか。
SCP-2275-JP: 覚悟。ママの手品には覚悟が必要、ていうのはさっき言ったでしょ?覚悟がないと恐怖でミスって、死ぬ。私があの時しっかりと教えていればきっと事故は起こらなかった。誰も死なずに済んだ。だから私はタネ明かしはもうしない。二度と、死んでもね。
インタビュアー: なるほど、あなたの固い意志はよくわかりました。おそらく自白剤を使ってもあなたは話さないでしょう。先日言った「私は人殺し」というのはそういうことだったんですね。
SCP-2275-JP: うん。私は人を殺したのにさ、何の責任も取らず普通の中学生みたいに生きてるんだ。せめて手品から離れようともしてみたけど結局手品に頼っちゃったりして。あの日「飛び降りマジック」をしようと思ったのはね、死んでもいいかなって思ったから。あのアイドルと同じように手品の失敗で死ぬなら因果応報かなって。ま、ご覧のとおりピンピンしてるんだけど。手品を成功させる覚悟はあるのに死ぬ覚悟は無かったみたい。
(SCP-2275-JPは大きなため息を吐く)
SCP-2275-JP: もういいでしょ。私に話せることは全部話した。もう家に帰してくれない?
インタビュアー: いいえ、結局「飛び降りマジック」が一般科学で説明できることは示されていません。それどころかあなたと母親しか手品を成功させていないことは血縁に関わる魔術行為を思わせるものでした。
SCP-2275-JP: ああ、そう。結局帰すつもりはないのね。ただ私は少し不思議な、手品をしただけなのに。
[記録終了]
終了報告書: SCP-2275-JPは異常性を有していると結論付けます。複数回の試験を行い、多くの学者、専門家による検証を実施しましたが、異常を用いず「飛び降りマジック」の説明あるいは再現をすることは不可能でした。もはや「飛び降りマジック」に異常が関与していないという論説は彼女の証言以外に存在していません。もしくは彼女自身も知らず異常性を行使している可能性も考えられます。これ以上の検証は費用・人員の無駄です。我々にとっては手品であるより魔法であるほうがよっぽど取り扱いやすいのです。
上記インタビューと複数回の異常性検証を受け、SCP-2275-JPの異常性に関する調査はペンディングとし、収容プロトコルは現在のものへと変更されました。SCP-2275-JPの知人にはカバーストーリー「転落死」が適用されています。SCP-2275-JPは2030年現在に至るまで自身の主張を変更していません。









