アイテム番号: SCP-2289-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: 兵庫県██山付近の地域の住民に対し、カバーストーリー「危険な野生動物の出没」を用いて、日没から夜明けにかけての屋外での単独行動を控える旨の注意喚起を定期的に行ってください。SCP-2289-JPによる被害が発生した際は被害を受けた対象者とその目撃者に記憶処理を施し、被害状況が深刻な場合は周辺地域の住民にも記憶処理を行ってください。
SCP-2289-JPの頭数と被害を軽減するため、当該地域およびSCP-2289-JPに類似した生物が発見された場所には、小動物捕獲用の箱罠と鎮静剤を加えた餌が設置されます。捕獲したSCP-2289-JPは標準生物収容ユニットに収容され、小型肉食動物用の飼料が自動給餌機から与えられます。SCP-2289-JPが持つ異常性を考慮し、SCP-2289-JPおよびその収容ユニットの管理は可能な限り機械を用いた遠隔作業で行われます。
説明: SCP-2289-JPは兵庫県██山とその周辺地域に生息する、イタチ属(Mustela sp.)の生物の総称です。収容ユニットでの管理下にあるSCP-2289-JPは、ニホンイタチ(Mustela itatsi)を飼育する際と同様の環境下で収容されています。
SCP-2289-JPは3~6匹の群れを形成し、主に日没から夜明けにかけて活発に行動します。この時、SCP-2289-JP群が単独で行動しているヒト(以下、対象と表記)を発見した上で周囲に対象以外のヒトが存在しない、または周辺の家屋内などにはヒトが存在するが対象を目撃する可能性が低い条件下においてSCP-2289-JP群は以下の行動を開始します。
- 第1段階
SCP-2289-JP群は対象を発見すると四足で走行し対象に接近し、対象を取り囲みます。
同時にSCP-2289-JPの群れの各個体は、「軽い金属を叩いているような高音」「篠笛の音に類似した細く長い高音」「花火を打ち上げた際や太鼓を叩いた際に発生する音に類似した低音」と称される3種の鳴き声を発します。多くの場合、この3種の鳴き声は祭囃子に類似した音としてヒトに認識されます。以降のSCP-2289-JP群の行動は、対象の周囲から離れるまでこれらの鳴き声を発した状態で行われます。
- 第2段階
SCP-2289-JP群は対象までの距離が1m程度になった地点で停止すると後ろ足で立ち上がり、前足を上下左右に動かしながら後ろ足のみで歩行します。その後は円を描くように移動しながら対象との距離を徐々に狭めます。
この行動は対象に遭遇したSCP-2289-JPの群れの全個体がほぼ同時に行い、前述した鳴き声の拍子に合わせた統制の取れた動きとなることから対象の多くに「踊っているようだ」「盆踊りの振り付けに似ている」と認識されます。SCP-2289-JPに包囲され、上記の行動を目撃した対象の多くは立ち止まってSCP-2289-JPに注目します。
- 第3段階
対象までの距離を50~60cmまで縮めた各SCP-2289-JPは自身と同一の形態を持つ複製体を生成し、口腔内から吐き出します。複製体の吐き出しを終えた各SCP-2289-JPは吐き出し前の行動を再開します。
複製体は吐き出された時点で対象に向かって四足で走行し、対象の体にしがみついて登り始めます。その後、対象が着用している衣服や皮膚を噛み切る行為を繰り返します。1
自身が生成されてから約5分が経過した各複製体は対象を噛み切る行為を一時的に停止し、口腔内から自身の複製体を生成して吐き出します。吐き出しを終えた各複製体は、対象を中心に周回しているSCP-2289-JP群に加わります。その後、各複製体はSCP-2289-JP群と同様に前足を上下左右に動かして後ろ足のみでの歩行を行い、踊りに似た動作を開始します。
以降、各複製体は
- 自身が吐き出されると対象を噛み切る行為を開始する。
- 自身が生成されてから約5分が経過すると自身の複製体を吐き出す。
- 複製体の吐き出しを終えるとSCP-2289-JP群に加わり、踊りに似た動作を開始する。
という一連の行動をとります。各複製体が自身の複製体を吐き出す行為は1回のみ行われます。
対象を襲う際以外においてSCP-2289-JPが複製体を生成した事例は確認されていません。
また現在に至るまで、SCP-2289-JPが民家などの屋内に侵入した事例、および屋内でSCP-2289-JPがヒトを襲った事例は発見されていません。2日中のSCP-2289-JPはヒトやその居住地を避け、日没から夜間にかけての時間帯かつ屋外でのみヒトに接近します。
対象以外のヒトが対象を目撃する、または対象の肉体の4~5割が破損した時点で、SCP-2289-JPがここまでの段階で対象に対して行っていた各行動は停止します。すべての複製体は対象から離れ、自身と同一の形態を持つ各SCP-2289-JP個体の口腔内に収納されます。SCP-2289-JP群の個体数が対象を発見した時点に戻った時点で、SCP-2289-JP群はその場を立ち去ります。
SCP-2289-JPに対象が襲われた場所には、対象の肉体の切片が複数残されます。この複数の切片と、対象に残る咬創から推測される対象が噛み切られた肉体の部位および重量は一致します。そのためSCP-2289-JPは襲った対象の肉体を捕食してはおらず、噛み切った対象の肉体をすべて周辺に吐き出していると判断されています。
イタチ属の生物には自身よりも大きな生物を攻撃する・捕食する事例が多く確認されています。SCP-2289-JPにおいても、ニホンノウサギ(Lepus brachyurus)やレグホーン種のニワトリ(Gallus gallus domesticus)などの自身よりも大きな生物を襲った・捕食した事例が判明しています。
しかしSCP-2289-JPがヒト以外の自身よりも大きな生物を襲う際には、前述した第1~3段階に相当する特異な行動をとりません。3またSCP-2289-JPがヒト以外の生物を襲う理由の大半は、SCP-2289-JPがその生物を捕食するためです。そのためSCP-2289-JPがヒトを襲った際に見られる、噛み切った肉体を吐き捨てる行為も確認されていません。
これらの事例から、SCP-2289-JPが特異な行動を用いて襲う対象は「日没から夜明けに単独で行動しているヒト」のみであり、SCP-2289-JPは捕食以外の何らかの目的に基づいて上記の条件を満たしたヒトを襲っていると判断されています。SCP-2289-JPがヒトを襲う理由、およびヒトを襲う際に特異な行動を用いる理由に関して調査が続けられています。
監視カメラ記録:SCP-2289-JP
以下は兵庫県██市███町に存在し██山の麓から5km圏内に位置する住宅地で撮影された。
記録日: 2024年8月18日
対象: 根津信二氏(43歳・会社員) 被害発生当時の対象は勤務先から自宅へ帰宅する道中であった。
<記録開始>
19:43: 4匹のSCP-2289-JP群が画面左奥から四足で歩行し現れる。SCP-2289-JP群は周囲を警戒しながら移動し、住宅地内のゴミ捨て場に置かれた可燃ゴミの袋に接近する。以降、SCP-2289-JP群が袋を破きながら生ゴミを摂食する映像が続く。
20:01: SCP-2289-JP群が生ゴミの摂食を停止する。SCP-2289-JP群の周囲には可燃ゴミの袋とその中身の残骸が散乱している。SCP-2289-JP群はゴミ捨て場に留まっている。
20:06: 根津氏が画面右手前の歩道上に映る。SCP-2289-JP群の全個体が根津氏を見る。根津氏はSCP-2289-JP群に気付かず歩き続けている。
20:07: SCP-2289-JP群が根津氏に接近する。この時、SCP-2289-JP各個体が規則的に口を開閉させている4ことが確認できる。根津氏はSCP-2289-JPの存在に気付き、目線を向ける。SCP-2289-JP群が根津氏を取り囲み、根津氏は驚いたように歩行を止める。SCP-2289-JP群は後ろ足で立ち上がり、二足で歩行して根津氏へ接近していく。SCP-2289-JP群は前足を動かしながら、円を描くように移動して根津氏への距離を縮める。
20:08: SCP-2289-JP群の各個体が自身の複製体(以降、SCP-2289-JP-1と呼称)を吐き出す。SCP-2289-JP-1の吐き出しを終えたSCP-2289-JP群は、口の開閉と踊りに似た動作を再開する。
根津氏に4体のSCP-2289-JP-1が接近し、根津氏の体を登り始める。根津氏は右手に持ったビジネスバッグで複製体群を払いのけようとするが、SCP-2289-JP-1群は離れる様子を見せず根津氏の衣服や皮膚に噛みつく。根津氏が開いた口に1体のSCP-2289-JP-1が侵入し、自身の体で根津氏の口を塞ぐ。
20:13: SCP-2289-JP群は踊りに似た動作を続けている。4体のSCP-2289-JP-1が自身の複製体(以降、SCP-2289-JP-2と呼称)を吐き出す。根津氏の口に侵入していたSCP-2289-JP-1は自身の複製体を根津氏の口内に吐き出し、複製体で引き続き根津氏の口を塞ぐ形を取る。吐き出しを終えたSCP-2289-JP-1群は、SCP-2289-JP群に加わり踊りに似た動作を開始する。
根津氏は複製体群を払いのけようとする動作を繰り返している。根津氏の衣服の各所が裂け、皮膚の表面に血が滲んでいる様子が確認される。1体のSCP-2289-JP-2が根津氏の右手首に噛みつき、ビジネスバッグが地面に落ちる。
20:18: SCP-2289-JP群と4体のSCP-2289-JP-1群は踊りに似た動作を続けている。4体のSCP-2289-JP-2が自身の複製体(以降、SCP-2289-JP-3と呼称)を吐き出す。吐き出しを終えたSCP-2289-JP-2群は、SCP-2289-JP群に加わり踊りに似た動作を開始する。
根津氏は両手で弱々しく複製体群を払いのけようとする動作を繰り返している。根津氏の口は引き続き複製体で塞がっている。根津氏の顔に複数の複製体群が群がり、それらを引きはがそうとした根津氏の右手に別の複製体が群がる。
20:23: SCP-2289-JP群と8体の複製体群は踊りに似た動作を続けている。4体のSCP-2289-JP-3が自身の複製体を吐き出す(以降、SCP-2289-JP-4と呼称)。吐き出しを終えたSCP-2289-JP-3群は、SCP-2289-JP群に加わり踊りに似た動作を開始する。
複製体の頭数が増えたためか、SCP-2289-JP群と複製体群は2重の円を形成して根津氏を中心に周回している。根津氏がその場に崩れ落ちるように倒れる。SCP-2289-JP群と複製体群は散開して倒れる根津氏を避けた後、各動作を再開する。根津氏の口内に入り込んでいる複製体が、根津氏の口腔のより奥へと進もうとしているような挙動が確認される。歩道上の根津氏から血が流れ、画面右手前に広がっていく。
20:28: SCP-2289-JP群と12体の複製体群は踊りに似た動作を続けている。4体のSCP-2289-JP-4が自身の複製体を吐き出す(以降、SCP-2289-JP-5と呼称)。吐き出しを終えたSCP-2289-JP-4群はSCP-2289-JP群に加わり、踊りに似た動作を開始する。
SCP-2289-JP群と複製体群はもがく根津氏を囲み、根津氏の動きを時折避けながら踊りに似た動作を続けている。倒れたままの根津氏が手足をばたつかせる・脇腹を抑える・身をよじるといった動作を行う様子が確認される。根津氏の口は引き続き複製体で塞がっており、時折激しくせき込みながら吐血している様子が見受けられる。歩道上で根津氏がのたうち回る映像が続く。
20:33: SCP-2289-JP群と16体の複製体群は踊りに似た動作を続けている。SCP-2289-JP-5が4体の自身の複製体(以降、SCP-2289-JP-6と呼称)を吐き出す。吐き出しを終えたSCP-2289-JP-5群は、SCP-2289-JP群に加わり踊りに似た動作を開始する。
SCP-2289-JP群と複製体は3重の円を形成して根津氏を囲み、上下左右に前足を振りながら周回を続けている。引き続き複製体で塞がっている根津氏の口の端から泡立った血が溢れ、地面にこぼれ落ちている。根津氏はうつ伏せになり、時折痛みによる反応を返しながら複製体群に噛まれ続ける。
20:35: 画面右手前に懐中電灯と思われる光が現れる。SCP-2289-JP群とすべての複製体群がそれまで行っていた行動を停止し、複製体群が一斉に根津氏から離れる。根津氏の口に侵入していたSCP-2289-JP-6が根津氏の口内から這い出ると、自身が咥えていた物体をその場に吐き捨てる。各SCP-2289-JPは複製体群を口腔内に収納し、その場から速やかに立ち去る。
小型犬を連れた高齢の男性5が根津氏に走り寄ると、怯えたような挙動で根津氏とその周囲を見渡す。男性は歩道上に倒れている根津氏への呼びかけを行うが、根津氏は反応を返さない。男性は大声で叫ぶような挙動を繰り返し、周囲の家屋へ助けを求める。周囲の家屋の玄関扉や窓が開けられる。
<記録終了>
追記: 根津氏は近隣の病院へ搬送されたが死亡した。根津氏の全身には多数の咬創が確認され、すべての指が欠落した右手や深く抉れた脇腹などの著しい欠損を負った部位も存在した。口腔から咽頭にかけても複数の咬創がみられ、舌は一部を切断されていた。咬創からは生ゴミの破片に加え、サルモネラ菌(Salmonella)・病原性レプトスピラ(Leptospira)等の病原菌、日本顎口虫(Gnathostoma nipponicum)などの寄生虫が発見された。死因は多数の咬創からの出血多量によるものと判断された。
被害が発生した町とその周辺地域では、夏から秋にかけて祭りや花火大会が頻繁に行われていた。そのため、祭囃子に類似したSCP-2289-JP群の鳴き声が聞こえても違和感を覚えない住民が多かった6ことが判明している。









