SCP-2302-JP
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アイテム番号: SCP-2302-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: 旧███村の異臭に関する全ての文献は回収され、インターネット上の情報は削除されます。SCP-2302-JP発生地域は人口密集地に隣接しており、住民の数も多いことから当該地域の無人化は見送られています。監視カメラおよび録音機器は当該地域の個人宅を含む複数地点に設置されます。また、当該地域を訪れる人物は個人の特定が行われ、データベースに追加されます。

説明: SCP-2302-JPは千葉県██市、旧███村周辺で発生する異臭です。SCP-2302-JPは当該地域に存在する正常な嗅覚を有する全ての人物によって知覚されます。しかしながら、大気や土壌、雨滴などの環境中から本現象を説明可能な物質は検出されません。

全てのSCP-2302-JPは雨天時に発生しています。財団が本現象を確認した1956年以降の年平均発生件数は33.8件です。この件数は観測が開始された1950年代をピークに減少傾向にありましたが、2010年以降増加傾向に転じました。また、通年での発生頻度は1~3月の間に僅かに偏ります。

SCP-2302-JPは多くの人物によって「生臭い」と評価されます。この評価は当該地域居住者間でも変化しませんが、地域住民は本現象に関し無関心であるよう振舞います。財団による介入が行われる以前、███村を訪れた環境活動団体が県に対し異臭の原因特定と対処を求める嘆願書を提出していますが、これを除き行政および民間企業に対応を求める届け出は提出されていません。また、住民は外部から訪れたSCP-2302-JPの調査を行う人物に穏やかな排他的傾向を見せます。現在まで地域住民に対し薬物等を用いた尋問が実施されてきましたが、住民の有する異常な抵抗力によって全て失敗しています。この傾向は個人差があるものの15歳前後から顕著になります。結果としてSCP-2302-JPに関するインタビュー調査の対象は児童に限定されます。しかしながら、全ての児童はその保護者を含む周りの大人から情報を強く制限されており、調査による大きな進展は見られませんでした。

インタビュー記録2302-JP-8 - 日付1999/1/8

対象: 石橋いしばし 玲子れいこ1

内容の書き起こし: 雨の日の変なにおいの事でしょ?うん、みんな知ってるよ。友達も雨の日はくさいから外に行きたくないって言ってるもん。でも私、なんのにおいかは知らないなあ。同じクラスのみずきちゃんは海の方にあるゴミ処理場のにおいじゃないかって言ってたけど。それをお母さんに言ったら「そんなわけないでしょ」って怒られちゃった。じゃあなんのにおいなのって聞いても答えてくれないのに、ひどいよね。でも最近学校だとアレはね、おばけのにおいだって噂になってるの。雨の日に死んじゃった人たちが幽霊になって外をさまよってるにおいなんだって。ほら、私達の街ってお地蔵さんがすごく多いでしょ。学校に向かう道にもいっぱいあるし。だから昔何かあったんじゃないかって。うん、ちょっと怖いけど、私も他の子もみんな信じてないよ。男子が面白がって怖がらせてくるの。でもね、お母さんも雨の日はあんまり外に行かないようにねって言うの。雨がちょっとしか降ってないのに傘を持って行かないとすごく怒るんだよ。なんでだろう。

補遺1: SCP-2302-JPに関して「雨天時に異臭が発生する」以上の情報が文献、インターネット上の書き込みから確認されたことはなく、その発生理由についての推測はされているものの、いずれも根拠が乏しく憶測の域を出ないものでした。これに加えてSCP-2302-JPの調査に対する地域住民の非協力的な性質を鑑み、現在監視カメラや録音装置を用いた無人調査が行われています。これらの存在は住民に秘匿され、当該地域の店舗や広場、町内に本社を置くタクシー会社所有の車両内に設置されています。現在までに収集された記録のうち、SCP-2302-JPとの関連が疑われるものは2019年1月に録音されたタクシー車内での会話記録のみです。

音声記録2302 -JP- 日付2019/1/15

運転手: 中條なかじょう 崇義たかよし2

乗客: 落合おちあい 瑞希みずき3

付記: 会話が記録された当日、当該地域では未明から降雨が開始し19時まで継続した。同日17時10分にはSCP-2302-JPが発生しており、本記録はその10分後に記録された。

[ログ開始]

運転手: はい、どうも。

乗客: すみません。びしょ濡れで。

運転手: いいえ、構いませんよ。慣れてますからね。タオルをどうぞ。どちらまで?

乗客: ありがとうございます。駅までお願いします。

運転手: はいはい。わかりましたよ。

[数分の沈黙]

運転手: お客さん、観光ですか?

乗客: いいえ。ちょっと用事がありまして。お参りに来ました。

運転手: はあ、そうですか。なるほど。いやいや、お若いのに大変でしたな。どうでした。ご利益の方は。

乗客: おかげさまで。

運転手: ははあ、何よりです。身も心もすっかり軽くしてくれるのが、この街のお地蔵様ですからね。有難いことです。

乗客: 有難いことなんですかね。私が言うのは間違ってるかもしれませんが、あんまり良いことじゃないって気がします。

運転手: そんなことありませんよ。この街のお地蔵様はいつだって弱い者の味方をしてくださる、有難い菩薩様です。こんなに身近で、私達の目線で救いを差し伸べてくれる神様なんて他に居りませんよ。

乗客: そうなんですか。

運転手: ええ。日本にはいろいろな神様が居るそうですが、彼らが強く結びついているのは豊かさという考え方なんだそうで。豊饒、富裕、多産。それは政府や社会も同じらしくてね。まあ、国からすればいろんなものが豊かな方がありがたいんでしょうが。ですがね、豊かさを追求する考えってのは、立場の弱い人たちに対して、時にものすごく残酷なんですよ。明治の、富国強兵でしたっけ、その時から戦前まで、随分たくさんの人がこの街に来たそうです。神様にも、政府にも、隣人にも頼れない弱い者を救えるのはお地蔵様だけだったんでしょうね。

乗客: 詳しいんですね。

運転手: いえいえ、この街の年寄の受け売りですよ。お客さんは自分のしたことを間違ってるんじゃないかとお考えかもしれませんが、そんなことはないんですよ。お地蔵様はお客さんのような人にとっては二重の神様です。

乗客: 二重っていうのはどういう意味ですか。

運転手: 迎え入れるか、機を待って返すか。その選択の両方を支える神様ということです。その両方の選択を、お地蔵さまは認めてくださるわけです。そして、どっちを選んだのかを知っているのはお客さんとお地蔵様、それからこの街の住民だけです。この街の人はみんなわかってますけど、わかってるからこそ何も言いません。だからお客さんは何も心配する必要ありませんよ。

乗客: いえ、でも。

運転手: おや、お疑いですか。大丈夫ですよ、この街の人はね、お客さんのしたことが世間一般に見て好ましいことじゃないことくらい知ってますよ。でもね、それがどうしても必要な時があることを、この街の人は知っているんです。昔っからそういう人が集まってこの街の信仰は続いてきたんです。だからね、みんな、何があろうともこの街の秘密を、興味本位の第三者に教えたりしません。同じ立場で苦しんだ、お客さんみたいな弱い人にだけ、この街の秘密が伝わるんですよ。

乗客: それでも、私はやっぱり、悪いことをしたんだと、そう思ってしまうんです。

運転手: 罪悪感ですか。まあ、それも大切な感情なんでしょう。ですが大丈夫ですよ、その気持ちも、雨が上がればこのにおいと共に全て消えてしまいますから。

乗客: 消えちゃうんですか。

運転手: ええ。きれいさっぱり。全部お地蔵様が救って、連れていってくれますからね。お客さんが背負わなきゃあいけないものなんて無いんですよ。はい、着きましたよ。料金、1100円ね。

乗客: そんな、でも。

運転手: 大丈夫ですよ、私達もちゃんとお祈りしときますんでね。ああ、タオル返してください。

乗客: ああ、ええ、はい。

運転手: はい、1100円ちょうどね。それじゃあ、また困ったらいつでもいらしてくださいね。

[ログ終了]

後日行われたインタビューで、落合氏に身体的及び精神的異常は確認されませんでした。また、落合氏は当該地域を訪れた理由、および地蔵に対し何を願ったのかを答えることができませんでした。

補遺2: 上述した音声記録の内容を受け、SCP-2302-JP発生地域で信仰される地蔵に関する情報が収集されました。

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旧██村にて多くみられる地蔵菩薩像の一例

旧███村では江戸時代中期以降、地域に住む女性を中心に地蔵講が組織され、その信仰が現在でも強く残されています。当該地域に存在する地蔵は計36基であり、いずれも非宗教用地に立地し地域住民によって定期的な清掃が行われています。これらの地蔵はいずれも袈裟を纏った僧侶の姿をしており、地域住民によって奉納された赤い頭巾と前掛けを着用しています。特筆すべき点として、全ての地蔵は19世紀後半4に口部分が削り落された形跡があり、現在も地蔵に口はありません。

地蔵講の際には一般的な供物の他に以下の物品が奉納されます。

  • ボタン(Paeonia suffruticosa)とホオズキ(Physalis alkekengi var. franchetii)。いずれも仏花として一般的に用いられる植物だが、この2種のみ切り花ではなく鉢に植えられた状態で奉納される。
  • 底の抜けた柄杓。
  • 底の縫い合わせが不完全な布袋。

地域住民の地蔵に対する信仰は厚く、高齢者のみでなく10代、20代の人物が路傍の地蔵に手を合わせる姿がたびたび確認されます。これらの行動を行う人物は健康祈願や先祖供養、家内安全の他に子供の健康や安産5のために地蔵信仰を行っていると証言しています。

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