このページには、私がSCP-2309-JP内の監視記録を分析した上で、SCP-2309-JP-AがSCP-2309-JPを放棄し、SCP-2309-JPが無力化されるに至った経緯に関連すると思われる記録を、独自に抜粋し書き起こしたものが纏められている。あくまでも、私が独自に纏めた記録である事。これは、SCP-2309-JPに関連する異常性の研究にはほぼ無関係な記録である事。その二点を留意した上で読んでくれるとありがたい。 -一鍵博士
SCP-2309-JP-A・Bの財団に対する見解・SCP-2309-JP-B-1による、SCP-2309-JP放棄の提案
付記: 当記録は生徒会室で回収されたもの。
<記録開始>
SCP-2309-JP-B-3: だからよぉ、パスタとカツ丼のセットがあれば……ん?道幸、来たぞ。
[SCP-2309-JP-Aが入室する。]
SCP-2309-JP-B-1: おっ、戻ってきたか。
SCP-2309-JP-A: うん。いやー、すっげえ緊張したわ。
SCP-2309-JP-B-3: なぁ、あの財団とかいう奴ら、俺らの事について何か言ってたか?
SCP-2309-JP-A: いや、特には……。ただ、なんとなく、俺達にはここから出て行って欲しそうではあったかな。
SCP-2309-JP-B-9: そりゃいつかはウチらもここから出ていくけどさ。
SCP-2309-JP-B-1: まぁ、あいつらに変なことされないうちに出ていく方が良いかもな。
SCP-2309-JP-B-9: 変なことって……。あの人達、そんなにヤバい系なん?
SCP-2309-JP-B-1: 俺は、直接話したことはほとんど無いから分からないけどさ。でも、漫画とかだとああいうのって、俺達みたいなのを警戒対象とか言って監禁したりするじゃん?
SCP-2309-JP-B-38: えぇ……。ちょっとやめてよ……。
SCP-2309-JP-A: 俺が話した限り、あんまそういう感じの人達じゃなかった。それに、あの人達の協力がなきゃこの校舎は潰れてて、ここで生活することは出来なくなってたかもしれないんだぞ。
SCP-2309-JP-B-1: そりゃそうだけどよ。あいつらがここを残すのは、ここの事を調べる為だろうし、俺達は何されるか分からないぜ?ここに居続けるのは危険だ。
SCP-2309-JP-A: ……だから何だよ。
SCP-2309-JP-B-1: そろそろ、さ。[3秒間の沈黙。]俺もお前も花音も……全員、ここから出て行っても良いんじゃないかって。
SCP-2309-JP-A: 駄目だ!ここから出る訳にはいかない。もし奴らが何かするようだったら、最悪、俺の力でどうにかすればいい。
SCP-2309-JP-B-1: 外から校舎壊されたら終わりじゃねぇか!お前の力、ここの外には届かないんだろ!
SCP-2309-JP-A: わざわざここの補修工事までやった奴らだ。それを自分達で壊す訳ねぇだろ!……少なくとも、しばらくは。
SCP-2309-JP-B-1: そんなのどうなるか分からないだろうが![5秒間の沈黙。]……どうしても残るってんならそれでも良いけどよ。そのせいで花音に何かあっても、俺は知らないからな。
[ドアが開き、SCP-2309-JP-B-2が入室する。]
SCP-2309-JP-B-2: えっと……私が何?っていうか、何この空気……。どうしたの、皆?
SCP-2309-JP-A: いや、何でもないよ。……じゃあ、生徒会のメンバーが折角集まってるんだし、学食の追加メニューについて、さっきの会議の続きをしようぜ。それでいいだろ、皆?
<以下省略。記録終了>
SCP-2309-JPから退出するSCP-2309-JP-Bについて
付記: 当記録は校庭で回収されたもの。
<記録開始>
SCP-2309-JP-A: ほい、卒業証書。ここから出て行っても元気でな。
SCP-2309-JP-B-25: うん。この1年間、すっごく楽しかったよ。だからこそ、ここに居たことが無かった事になるってのは……やっぱ寂しい。
SCP-2309-JP-A: お前のことは俺がずっとここで覚えてるよ。だから安心して、お前は元の世界に戻っていけ。
SCP-2309-JP-B-25: サンキュー、生徒会長。……じゃあ、行ってくるわ。
[SCP-2309-JP-B-25が正門を通過し、現実世界に帰還する。]
SCP-2309-JP-B-2: やっぱりこの時期は出ていく人が多いねー。
SCP-2309-JP-A: 卒業シーズンだからなー。って、このやり取りも毎年やってるような気がするな。
SCP-2309-JP-B-2: えへへ。お約束ってことで。
SCP-2309-JP-B-1: 卒業ねぇ。そんなもん、皆とっくに済ませてるのにな。
SCP-2309-JP-A: まぁ、学校から出て行って、学生生活が終わるんだ。2回目であっても、卒業は卒業だよ。……わざわざそんなことしなくてもいいのにな。
SCP-2309-JP-B-1: で、俺らはいつ卒業するんですかね!
SCP-2309-JP-B-2: ヤバいねー。8浪?9浪?してるみたいなものだよ。
SCP-2309-JP-A: ここはずっと時間がループしてるんだから、ノーカン……のはず。それに、そもそもここから出る予定も無いんだから、浪人とか関係ないでしょ。
SCP-2309-JP-B-1: 本当に出る予定ないのかよー?
SCP-2309-JP-A: ああ。星司が散々ビビってた財団の人達も、週一でここに来るだけで、変なことはしてないし。ここに居続けても問題は無いよ。
SCP-2309-JP-B-2: 問題……無くはないと……思うけど。
SCP-2309-JP-A: ……外で俺らを待ってる奴らの事か?なら大丈夫だ。ここから出さえすれば、全部元通りなんだ。なら俺達は、ここに何十年、何百年居たって変わらない。
SCP-2309-JP-B-2: いや、うん。そう……だよね。
SCP-2309-JP-B-1: 俺はそうは思わないけどな。俺だけじゃない。ここから出て行った奴、皆もそのはずだ。外で俺達の帰りを待ってる奴らが居るのに、自分の我儘でそれを放っておくなんてよ、酷い話だ。
SCP-2309-JP-A: 酷い話だ……?じゃあ何だよ。俺達にここから出ろってのは、酷い話じゃないのかよ!
SCP-2309-JP-B-2: 待ってよ二人とも!私は……その……。
SCP-2309-JP-B-1: そりゃ俺だって分かってるよ!……でもよ、こんなのは、普通、あり得ない話なんだ。夢物語なんだ。そろそろ、俺達は大人にならなきゃなんねぇんだよ……。
SCP-2309-JP-A: ……お前、財団の奴らが来てから、急に帰れ帰れって言い始めたよな。何か吹き込まれたんじゃねぇのか?
SCP-2309-JP-B-1: そういう訳じゃねぇ!……ただ、ちょうど良い機会だと思っただけだ。
SCP-2309-JP-B-2: [5秒間の沈黙。]ねっ!この話は止めにしよう?ほら!今日はあと3人、ここから出ていくんだよ。卒業式みたいなもんだよ!私達が喧嘩してたら、空気悪くなっちゃうって!
<以下省略。記録終了>
SCP-2309-JP-B-1の思想
付記: 当記録は北校舎屋上で回収されたもの。
<記録開始>
SCP-2309-JP-B-1: おっ、ここに居たか。
SCP-2309-JP-A: ん?ああ、星司か。どうした?
SCP-2309-JP-B-1: いや、なんかさ。お前とはそろそろ、ちゃんと話しておこうと思って。
SCP-2309-JP-A: [舌打ち]……また、ここから出る出ないの話か?いい加減しつこいぞ。俺は絶対出ない。これ以上その話をするんじゃねぇ。
SCP-2309-JP-B-1: ほんっと強情だよなお前。ガキの頃から。
SCP-2309-JP-A: 知ったような口を……。それで、何?お前はもう出ていくってのか?
SCP-2309-JP-B-1: いや、俺はまだ出ていかねぇ。俺が出ていくのは、お前と花音が出ていく時だ。
SCP-2309-JP-A: ハッ。じゃあお前はここからずっと出られないな。
SCP-2309-JP-B-1: 出るよ。お前も花音もここから出して、俺もここから必ず出る。
SCP-2309-JP-A: ふざけるな。よその奴らならともかく、もうお前らをここから出したりはしない。させるものかよ!
SCP-2309-JP-B-1: いやいや。急にキレるなって。どしたん?反抗期?
SCP-2309-JP-A: ……いい機会だからちゃんと聞いておくよ。どうして星司は、ここから出ることを急に扇動するようになったんだよ?財団のせいじゃないのか?
SCP-2309-JP-B-1: そうだな。きっかけがアイツらなのは間違いない。アイツらがここに来て、今、ここの外は2017……いや、もう18年で、俺らはずっと行方不明扱いってことを説明されて……全部、頭では分かってたことなんだけどさ。改めて他人に説明されると、なんか、マズイなって。そう思った。
SCP-2309-JP-A: それで、他の人達もここから出そうって?
SCP-2309-JP-B-1: ああ。一回、ちゃんと考えてみてくれ。今この時も、家族、同じクラスだった奴ら、同じ部活だった奴ら、それに詩歩1……皆、俺らの事を探してる。俺らの事を心配してる。それか、悲しいけど、俺らはもう帰って来ないって諦めたかもしれねぇ。後で全部無かったことになるって分かっててもさ、今、俺らのせいで辛い思いをしてる人が確かに居るってのは、嫌じゃねぇか。
SCP-2309-JP-A: まぁ、そう……だね。
SCP-2309-JP-B-1: うん。[10秒間の沈黙。]あぁ、前に言った、「財団が何するか分からないから」ってのも嘘じゃないぜ。本格的に目を付けられない内に、さっさとトンズラしちまった方が良い。
SCP-2309-JP-A: [5秒間の沈黙。]フン。ざっくり言えば、お前は外で待ってる彼女に会いたいってことじゃねぇのか。
SCP-2309-JP-B-1: お前、ちゃんと話聞いてたか?いや、そりゃ俺だって久しぶりに詩歩に会いてぇけどさ!
SCP-2309-JP-A: もう外じゃ8年経ってるんだろ?他の男と結婚でもしてるんじゃねぇのか?
SCP-2309-JP-B-1: あっ、あり得るけど!それも無かった事になるんだろ!?なら問題は無い!あー、クソ!ここから出るのを急かすようなこと、言うんじゃねぇ!
SCP-2309-JP-A: ははっ!まぁ詩歩なら、まだ星司の事が好きでもおかしくは無いと思うけどね。なにせ、小学校からの付き合いで、詩歩は最初っからずっと星司のことが好きだったんだ。
SCP-2309-JP-B-1: ほっとけ!……で、どうだ?それでもお前は、ここから出る気が本当に無いのか?
SCP-2309-JP-A: [7秒間の沈黙。]分からない。ってか、むしろ星司はどうなんだよ。ここまで言うんだ。今すぐにでもここから出たいんじゃないのか?
SCP-2309-JP-B-1: 言ったろ。俺が出ていくのは、お前と花音が出ていく時だ。それとも何だ?お前は、俺にここから出て行って欲しいのか?
SCP-2309-JP-A: ……俺は、できれば星司にも、ずっと一緒に居て欲しいと思ってる。
SCP-2309-JP-B-1: おっ、嬉しいこと言ってくれるじゃないの、親友!……まぁ、ここから出る出ないの話は、俺以上にお前らにとっての方が重要だよな。さっきの話、お前の口から花音にも言っといてくれ。多分、俺が言うよりはそっちの方が良い。
SCP-2309-JP-A: ……うん。分かった。
<以下省略。記録終了>
SCP-2309-JP-B-2の思想
付記: 当記録は生徒会室で回収されたもの。
<記録開始>
SCP-2309-JP-A: よっ、花音。今、一人か?
SCP-2309-JP-B-2: うん、そう。道幸君も?星司君と一緒にいないのって、なんか珍しいね。
SCP-2309-JP-A: えっ、そうか?……まぁいいや。 [5秒間の沈黙。]それで、唐突だしちょっとアレな質問で悪いんだけどさ。……花音は、あとどれぐらい経ったらここから出たい?というかそもそも、ここから出たいのか?
SCP-2309-JP-B-2: えっ!?いや、その……うーん。[10秒間の沈黙。]道幸君は?
SCP-2309-JP-A: えっ!?いや、その……うーん。ずっと……あー、でも……74年ぐらい?
SCP-2309-JP-B-2: なんか長いし中途半端だね!?
SCP-2309-JP-A: いやむしろキリがいい……いや、何でもない。やっぱ、できることなら俺は、ずっとここに居たい。██高校を残していかなくちゃならない。
SCP-2309-JP-B-2: ホントに道幸君は██高校が好きだよねー。さすが、生徒会長さん。まぁ、私もここは結構気に入ってるけどさ。
SCP-2309-JP-A: 俺の話は置いておいて……。花音はどうだ?そろそろ外に出て、家族とか、詩歩とかに会いたかったり……するかな?
SCP-2309-JP-B-2: うん。それはもちろん。……でも、私はもう少しここで、道幸君と、星司君と、他の学校から来た皆と一緒に、高校生のままでいたい、かな。
SCP-2309-JP-A: ……詩歩だったら、コピー生徒としてここに呼べるけど。
SCP-2309-JP-B-2: それはいいかな。私、あの人達はちょっと苦手。なんか人間味が無いっていうか、こういうことしたら、この人はこういう反応するだろうなーってのが分かっちゃうというか……。そういうところが、ちょっと好きじゃない。
SCP-2309-JP-A: ハッ。所詮、ここの元生徒を再現しただけだからな。……会ったこともない人達の再現がほとんどだけど。
SCP-2309-JP-B-2: 道幸君が作ってるのにね。やっぱりここ、変なところだよね。楽しいけど。
SCP-2309-JP-A: ははっ、それは間違いない。行事の時なんか、俺達の代とは比べ物にならないほど盛り上がるしね。ただ、その盛り上がりを見る度、なぜか懐かしい気持ちになるんだけど。
SCP-2309-JP-B-2: それは……[3秒間の沈黙。]結構前に、昔の学校のビデオを見せられたからじゃない?生徒数が一番多かった時代の。
SCP-2309-JP-A: そうかもな。……ここが廃校になるって知らされた時は、またこれぐらい学校に活気を取り戻して、廃校を中止させようって、色々やったっけ。
SCP-2309-JP-B-2: うん。3年間頑張って、結局、ダメだったけど。
SCP-2309-JP-A: でも、今はこの世界がある。この世界でなら、██高校は永遠だ。俺と、星司と、お前。██高校の、最後の本物の生徒として、ここに残り続けるんだ。残るべきなんだ。そうでなくちゃならねぇ。
SCP-2309-JP-B-2: [3秒間の沈黙。]うん。道幸君が、それでいいなら。
<以下省略。記録終了>
SCP-2309-JP-B-1・2のSCP-2309-JP-Aに対する見解
付記: 当記録は南校舎2Fの廊下で回収されたもの。
<記録開始>
SCP-2309-JP-B-1: で、何だよ。道幸抜きでの話って。もし告白ならすまねぇ。俺には既に、心に決めた女が……。
SCP-2309-JP-B-2: その冗談、前にも言われた気がするよ?普通につまんない。
SCP-2309-JP-B-1: あっ、ごめんなさい……。それで実際、何の話なんです?
SCP-2309-JP-B-2: ちょうど、その前の時と似た話なんだけどさ。最近、道幸君の様子がおかしくない?
SCP-2309-JP-B-1: あー……。花音がそう言うってことは、ありゃ気のせいじゃなかったんだな。
SCP-2309-JP-B-2: 星司君も気づいてた?会話してると時々、様子がおかしくなるの。
SCP-2309-JP-B-1: ああ。なんか情緒不安定っていうか、キレやすいっていうか……。
SCP-2309-JP-B-2: なんだか時々、道幸君じゃない人と話してる感覚になる。特に、誰かがここから出るか出ないかって話をしてる時。最近になるまでは、こういう話が出てもちょっと嫌そうな顔をするだけだったのに。
SCP-2309-JP-B-1: 言われてみれば、確かにそういう話の時に限ってめちゃくちゃ怒るよな。疲れてストレス溜まってるせいかとも思ってたが……パターンあるってなると、なんか怪しいな。……やっぱ、財団が何かしたのか?
SCP-2309-JP-B-2: それは分からないけど、もうずっとおかしなままだから、自然と戻りはしないのかなって。やっぱり星司君の言う通り、皆でここから出て行った方が良いのかな。だって台風の時も……。
[SCP-2309-JP-Aが両者に接近する。]
SCP-2309-JP-A: おい。お前ら、何の話してんだ?
SCP-2309-JP-B-2: えっと、その。道幸君こそ、どうしてここに……。
SCP-2309-JP-A: まさかここから出る計画でも立ててたんじゃ……。
SCP-2309-JP-B-1: [SCP-2309-JP-Aの言葉を遮るように]んっ!あー。ナーイスタイミング!道幸、今からフリースロー対決やろうぜ!お前がボロ負けするところ、久々に見たくなっちまってよ!いやー、あの投げ方は最早芸術よ。芸術!
SCP-2309-JP-A: なっ、ふざけんな。待て。お前!わっ!なんだよ星司!元バスケ部に勝てる訳ないだろー!?
SCP-2309-JP-B-2: 待って、道幸君!
[SCP-2309-JP-AとSCP-2309-JP-B-1が足を止める。]
SCP-2309-JP-B-2: その、体調は大丈夫?貧血とか……。
SCP-2309-JP-A: ……うん。ってか、何言ってんだよ。ここで体調が悪くなることなんてないし、もし悪くなっても、どうにでもできるよ。
SCP-2309-JP-B-2: そっか。そうだよね。……じゃあ、いってらっしゃい。
SCP-2309-JP-B-1: ……っしゃ!じゃあ行くか!
SCP-2309-JP-A: いや別に対決するとは言ってないだろー!?
[SCP-2309-JP-AがSCP-2309-JP-B-1に無理矢理体育館に連れていかれる。残されたSCP-2309-JP-B-2も、その場を離れる。]
<以下省略。記録終了>
終了報告書: 当記録回収後、SCP-2309-JP-Aに精神鑑定を行った結果、軽度の解離性同一性障害らしき症状が確認された。今後はこの点に留意して調査を行う。
SCP-2309-JP-Bが減少傾向にあることについて・SCP-2309-JP-Aの状態について
付記: 当記録は生徒玄関で回収されたもの。
<記録開始>
SCP-2309-JP-A: [舌打ち]今日だけで、6人も出ていくなんてな。
SCP-2309-JP-B-3: 仲良し女子グループがごっそり居なくなったからなー。
SCP-2309-JP-B-2: 一気に寂しくなっちゃった感じするよね。ただでさえ今年は、昔から居た人達も、新しく来た人たちも、結構出て行っちゃったのに。
SCP-2309-JP-B-1: 週一の監視が嫌だったんだろ。1年は我慢できても、そろそろウンザリって奴も多かったしな。アイツら、まさか1回も欠かさずに来るとは俺も思ってなかったよ。色々見て回ること以外は全然やらないのにな。
SCP-2309-JP-A: 去年、新入生が来た時、お前が財団の奴らについて色々盛って話して、ビビらせたのが良くなかったんだ。おかげで、半分ぐらいの奴が1週間しない内に出て行きやがった。
SCP-2309-JP-B-1: へいへいすいません。ま、でもさ、ここから出ていくってのは、別に悪いことじゃないだろ。皆、楽しい時間を終えて、大人になるっていう現実を受け止めたんだ。俺らより立派だ。
SCP-2309-JP-B-3: 大人になる、か。ああ、そうだな。
SCP-2309-JP-A: ……まぁ、出る出ないのどっちが良いかは置いといてさ。ここの生徒、大分減ってきてないかな?いや、コピー生徒は抜きで。
SCP-2309-JP-B-1: だよな……やっぱ、そろそろ潮時じゃないか?ここから全員出ていく。
SCP-2309-JP-A: それはまだ早すぎると思う。それに、俺だけがここにずっと残っていたい訳じゃない。な、響2。
SCP-2309-JP-B-3: ん?ああ、まぁ、そうだな。
SCP-2309-JP-A: ……なんか歯切れが悪んじゃないか?なんだ。何か言いたいことでもあるのか?
SCP-2309-JP-B-3: いや、俺は本当にずっとここにいたい!ずっとここで高校生のまま、遊んでいたい!それは間違いない。間違いないけどさ。うん。とりあえず俺は、まだしばらくはここに残るから。
SCP-2309-JP-A: 分かったよ。だが、俺はお前がここに居続けるのを[3秒間の沈黙。]……強制したい訳じゃない。それだけは言っておくよ。
SCP-2309-JP-B-3: おう。分かってる。出ていく時があったら、よろしくな。
SCP-2309-JP-A: ……クソっ。
[SCP-2309-JP-Aがその場を離れる]
SCP-2309-JP-B-3: 何か、悪いこと言っちゃったのかな。イラついてたっぽいけど。
SCP-2309-JP-B-1: いやいや。アイツが今ちょっとおかしいだけだ。皆が出て行くのが相当嫌なんだろうよ。
SCP-2309-JP-B-3: でも、ここに残ることを強制はしないと言ってくれた。それに、道幸は今までずっと卒業生を送り出してきたんだぜ。それを急に嫌がるようになるなんてこと、あるか?
SCP-2309-JP-B-2: なんかどんどん露骨におかしくなってるよ。やっぱり、ちゃんと話し合うべきかもしれない。今度は道幸君も交えて。
SCP-2309-JP-B-1: ……まぁ、このままじゃ埒が明かないし、そろそろ直球にぶつかり合うべきか。あいつのプライド、ズタズタにしてやらぁ。
SCP-2309-JP-B-3: あー。なら、部外者の俺はいない方が良いかもな。幼馴染3人でどうぞ。
SCP-2309-JP-B-1: つっても、お前とももう10年近く付き合ってきてるんだぜ?さすがに部外者ってことはないだろ。
SCP-2309-JP-B-3: いやいや。現に俺は、アイツが変だとか今の今まで気づかなかった。それに、俺が10年ならお前らは20年近く一緒に居るようなもんだろ。こういうのは昔からの付き合い同士の方が分かり合えるってもんでしょ。
SCP-2309-JP-B-2: 私は響君に賛成。響君には悪いけど、多分、道幸君は私達にしか本当の事を言ってくれない。
SCP-2309-JP-B-1: それも……そうか。ああ。アイツはそういう奴だ。
SCP-2309-JP-B-3: 決まったな。んじゃ、そういうことで。任せたからな。
<以下省略。記録終了>
SCP-2309-JP-Aに対するSCP-2309-JP-B-1・2の意見・SCP-2309-JP-Aの精神状態について
付記: 当記録は北校舎屋上で回収されたもの。
<記録開始>
SCP-2309-JP-B-1: うっしゃ。屋上貸し切りだ!
SCP-2309-JP-A: おー!って、鍵は掛けんでもいいでしょ。他の人達に悪くない?
SCP-2309-JP-B-1: いやいや。今日は久しぶりに幼馴染3人、水入らずで飯食いたいのよ。
SCP-2309-JP-B-2: そうそう。たまにはこういうのもいいんじゃない?
SCP-2309-JP-A: まぁいいけどさ。なんか、改めて詩歩が仲間外れっぽくなっちゃってるような……。
SCP-2309-JP-B-1: 本当に改めてって感じだな。もうアイツが出てってから7年と3ヵ月と12日が経つのに。ってかお前、アイツが出て行く時はあんまりゴネなかったよな。なんか酷くないっすか?
SCP-2309-JP-A: いや日付まで覚えてるのかよ……。あと、詩歩は家族のためにずっとここから出たがってたんだ。それでも俺達のためにしばらくここに残ってくれてたみたいだし、それを引き留めようなんてしないよ。
SCP-2309-JP-B-1: 待て待て。俺だって家族にまた会いたいんですけど?
SCP-2309-JP-A: 状況が違うでしょうが。詩歩のばあちゃんは大分年寄りで体調も良くなかった。いつ亡くなってもおかしくないから早く出たいって言ってたろうに。……大切な人が自分の居ない所で死ぬとか、自分が死ぬときに来てくれないとか、そういうの嫌だろ。
SCP-2309-JP-B-1: いや、詩歩がここから出たがってた訳は十二分に分かってんだよ。俺が言いたいのは……それ含めても、昔と今のお前じゃ、ここから出て行く奴への態度が違い過ぎるってことなんだよ。正直、今のお前は、あの時の詩歩にだってここに残るよう説得しそうだぜ。後で全部無かった事になるからーって。
SCP-2309-JP-A: 何言ってんだよ。そんなことは……。
SCP-2309-JP-B-2: そんなことあるよ。ハッキリ言って、ずっと前……一回、道幸君が倒れた時ぐらいからおかしい。今更だけど、何かあったなら話してくれないかな。
SCP-2309-JP-A: いや、そんなことないって!何もないし、俺は元気だよ。倒れたのも、色々行事で立て込んでたとこに台風が来て、バタバタしてただけで……!
SCP-2309-JP-B-2: 今までごめんね、道幸君。おかしいって気づいてたのに、ちゃんと声をかけられなかった。台風の時だって、何かあったんだよね。
SCP-2309-JP-A: だからそんなことないっつってるだろうが!……いや、本当に大丈夫なんだよ。本当に!だから心配なんかしなくて大丈夫だって!
SCP-2309-JP-B-2: ほら、今も何かおかしかったよ!今まで何もしてあげられなかったことは謝るから、話してみてよ!
SCP-2309-JP-A: だから気にしなくていいって!お前らには関係……。
SCP-2309-JP-B-1: もういいだろ。花音様の鑑識眼にゃ敵わないって。
SCP-2309-JP-B-2: 私達になら話してくれてもいいんじゃないかな?ずっと一緒に居るんだもん。今更、悩み事を隠したりしなくたって大丈夫だよ。
SCP-2309-JP-A: [呻き声。その後、12秒間の沈黙。]……外の校舎が崩れた時、この世界がおかしくなって、無くなりそうになっただろ。今まで使ってた力でもどうしようもなかった。というか、急に力の使い方が分からなくなった感じだった。校舎の工事は頼んだけど、その間、ここを保てなくなってきて、それでも無我夢中で色々やってたら、急に頭の中が真っ白になった。
SCP-2309-JP-B-1: ああ。その後、結構すぐに工事が終わって、そん時お前が目を覚ましたんだよな。確か、4・5時間ぐらい倒れてたんだっけ。
SCP-2309-JP-A: うん。目を覚ました時、まだここが残っててホッとした。だけど……同時に、メチャクチャ怖くなったんだ。
SCP-2309-JP-B-2: それは、ここが無くなりかけたから?
SCP-2309-JP-A: それもあるけどさ、なんか……ここと一緒に、自分自身が消えてなくなりそうな気がしてた。死にかけた気分だった。……それからだよ。なんでか分からないけど、ここから生徒が出て行く度、同じような恐怖を感じるようになったんだ。だから、皆がここから出て行くのが嫌になった。
SCP-2309-JP-B-1: それで、誰かがここから出て行くって話にキレてたのか。
SCP-2309-JP-A: 最初は我慢してたよ。でも……どんどん人が減っていって、その度、自分の感情とは全く関係がないはずの恐怖に襲われて……気づけばいつも、出て行く人に強く当たるようになってた。ちゃんと送り出してやりたいって気持ちはあるのに、どうしようもなかった。
SCP-2309-JP-B-2: ……本当にごめんね。そんなに道幸君が辛い思いしてただなんて、1年経っても知らなかった。
SCP-2309-JP-A: いや、俺だって2人を信じて、もっと早く相談するべきだった。心配かけてごめん。ちゃんとこのことを話せただけでスッキリしたよ。これからは、もう少しマシになるかもしれない。
SCP-2309-JP-B-1: まぁ、俺達はお前のプライドを配慮して聞かないでやってたんだけどな!ってか、正直、こんな素直に全部話すとか思わなかったわ!相当追い詰められてたんですなぁ、こりゃあ。
SCP-2309-JP-A: ……星司には二度と相談しないよ。
SCP-2309-JP-B-1: いやすまんすまん。で、これは俺の推測なんだが……もしその精神障害的なアレがこの世界由来ならさ、ここから出れば、それは治るんじゃないか?
SCP-2309-JP-A: それは……。
SCP-2309-JP-B-1: なぁ。どうだ、やっぱり皆揃ってここから出るってのは。
SCP-2309-JP-A: ……おい。何言ってんだ。
SCP-2309-JP-B-2: 私は、道幸君が道幸君じゃなくなっていくなんて嫌だよ。皆揃ってなら、私は[4秒間の沈黙。]……出て行けると思う。
SCP-2309-JP-A: ダメだ!お前らが出て行くのが一番ダメなんだよ!お前らが居なきゃ意味がない。お前らが、お前らが……[以下、判別不能。]
[昼休みの終了を知らせるチャイムが鳴る。]
SCP-2309-JP-B-1: 結局、飯、食えなかったな。……じゃあ、一つだけ。これからは、あんま見栄張らないでくれよな。
SCP-2309-JP-B-2: もう、自分を後回しにして誰かに尽くしたりはしなくていいんだよ。
SCP-2309-JP-A: ……これは、俺の意思だ。お前らだけは、ここに居て欲しい。間違いない。これは俺の意思で、間違いないんだ……。
[3名が屋上から退出する。]
<以下省略。記録終了>
SCP-2309-JP-B-3の退出
付記: 当記録は食堂で回収されたもの。
<記録開始>
SCP-2309-JP-B-3: やっぱり、ここのカツ丼は美味いなぁ!最後に食えて良かったよ。
SCP-2309-JP-B-1: ははっ!最後にやることがそれって、お前本当にカツ丼バカだよな!
SCP-2309-JP-B-3: いいじゃねぇか。出てった後のゲン担ぎにもなるしよ。
SCP-2309-JP-A: ……響、本当にここから出ていくのか?そしたら、浪人生活が始まるんだろ?
SCP-2309-JP-B-1: 絶対めんどくさいぜー?ホントに大丈夫かー?
SCP-2309-JP-B-3: うーわ。███大医学部に受かった人達に言われるの腹立つー。
SCP-2309-JP-B-2: ほーんと、嫌な人達ですなー。
SCP-2309-JP-A: 別に嫌味で言ってる訳じゃないよ。ただ、響って、浪人生活を相当嫌がってたじゃん。なんで心変わりしたのかなって。
SCP-2309-JP-B-3: うーん。ハッキリこれ!って理由は無いけど……なんとなく、今の自分が情けない気がしたからさ。
SCP-2309-JP-B-2: 情けないって?
SCP-2309-JP-B-3: いや、ここに来てから8年間、いろんな奴がここから出ていくのを見てったけどさ。そいつらは皆、遊び続けることを選ばなかった奴らで、これからの自分の人生に対して、覚悟が決まってる奴らで……まぁなんだ。カッコよかったんだよ。たった1回受験で失敗して、それをずっと引きずってる俺とは違う。
SCP-2309-JP-A: お前が相当辛い思いをしてたのは知ってる。別に、お前が特別カッコ悪いなんてことはないはずだ。
SCP-2309-JP-B-3: あんがとよ。まぁ、3年間、全部勉強に費やしてきたつもりだったのに落ちたんだ。それで落ち込むのも、浪人してまた勉強漬けになるのが嫌だって思うのも、今までの高校生活をやり直したいって願うのも、全部当たり前だろって、自分でも思ってる。でも皆、普通はその気持ちを乗り越えて、また勉強を始めるんだ。なのに俺はこんな奇跡みたいな場所に呼ばれて、この8年間遊び呆けてきた。出ようと思えば、すぐにここから出られたのに。
SCP-2309-JP-B-A: 高校生活中、全然遊べて無かったんだろ?なら別に、ここで少し遊んでいたってバチは当たらねぇよ。
SCP-2309-JP-B-3: いや、だとしても長居し過ぎた。
SCP-2309-JP-A: お前が外に出れば、ここに居たことは全部無かったことになる。なら、何年ここに居ようが同じだろうが!もう少しここに居たって……。
SCP-2309-JP-B-3: そういう訳にはいかない。俺はもう、「ずっと遊んでいたい」と、駄々をこねる子供のままではいたくないんだ。
SCP-2309-JP-A: せめて、来年の3月まで……!
SCP-2309-JP-B-1: おい、道幸。
SCP-2309-JP-B-3: いや、覚悟ができている今のうちに出たいんだ。……正直今でも、ずっとここにいたい、ずっとここで遊んでいたいって気持ちは消えてない。だから、時間をかけずにさっさと出て行きたい。大丈夫。カツ丼は今食ったし、今年の体育祭ではウチの組が1位になったし、文化祭では思いっきりはしゃぎまくって、楽しみまくった。もう悔いは無いよ。
SCP-2309-JP-B-2: ここから出るって決めてたから、あんなにテンション高かったんだね……。
SCP-2309-JP-B-3: へへっ、見られてたか。恥ずかしいな。[6秒間の沈黙。]……じゃあ、そろそろ行くわ。ここでの思い出は無かった事になるらしいけど、きっと、俺は立ち直れる。また勉強を頑張れる。……そう自分を信じることにするよ。
SCP-2309-JP-B-1: おう、頑張れよ。今のお前、最高にカッコいいぜ?
SCP-2309-JP-A: ……分かった。じゃあ、校門まで見送るよ。あと、卒業証書も書いてくる。
SCP-2309-JP-B-3: ん、ありがとうな。……なぁ。最後だから言うけどよ。俺、お前らの事……特に、道幸と星司の事、大っ嫌いだったんだぜ?
SCP-2309-JP-A: それは……なんとなく、分かってた。
SCP-2309-JP-B-1: ま、そりゃそうだわな。浪人生からしちゃ、俺たちゃ羨望の的よ!
SCP-2309-JP-B-3: ああ、星司は道幸よりも嫌いだった。その嫌味ったらしい所とかな。
SCP-2309-JP-B-1: ……そりゃどうも。
SCP-2309-JP-B-3: でもよ、一緒に授業受けて、飯食って、バカやって……ここでお前らと一緒に高校生活が送れて、本当に良かった。今じゃお前らの事、最高の友達だと思ってんだ。元々の学校は違うけど……いつか、ここの外でも友達になれるかな?
SCP-2309-JP-B-1: ……当たり前だろ。そん時はよろしくな!
SCP-2309-JP-B-2: うん。……また、どこかでね!
SCP-2309-JP-A: [何かを言いかけるが、言葉に詰まる]……そう、だな。いつか、またお前に会いたい。いつか……。
<以下省略。記録終了>
SCP-2309-JP-B-1の思想
付記: 当記録は南校舎3Fの廊下で回収されたもの。
<記録開始>
SCP-2309-JP-B-1: おう。呼び出しちゃって悪いな。
SCP-2309-JP-B-2: ううん。で、何?道幸君関係の話?
SCP-2309-JP-B-1: まぁ、そうっちゃそうなんだけどさ。あー……。[4秒間の沈黙。]もし、さ。もし次の4月になる前に、俺達3人以外の奴が全員出て行ったらさ。俺も出て行こうと思うんだ。1人で。
SCP-2309-JP-B-2: ……それは、どうして。急にどうしたの?
SCP-2309-JP-B-1: まぁ、色々理由はある。ちょっと、今は頭の中でしっかり纏まってないけど。
SCP-2309-JP-B-2: 皆で一緒に出るのはダメなの?3人一緒なら私は怖くないし、道幸君だって納得してくれるかもしれないのに!
SCP-2309-JP-B-1: 分かってたんだ。むしろ、このままじゃ一緒に出る機会なんて来ない。多分、俺が出て、花音が出て、それでようやく道幸をここから引っぱり出せる。そうしなきゃ、ズルズル皆でここに居続けるだけだ。そんなの、俺は嫌だ。
SCP-2309-JP-B-2: ……やっぱり、詩歩ちゃんに会いたいの?
SCP-2309-JP-B-1: そりゃもちろん。詩歩に限らず、外に居る奴全員が恋しいさ。
SCP-2309-JP-B-2: でも、星司君は真っ先に詩歩ちゃんに会いに行きそう。
SCP-2309-JP-B-1: いや、さすがに最初は家族に顔見せに行きたいですよ?……まぁ、同じくらい詩歩にも会いたいけど。ただ、正直合わせる顔が無いなー!
SCP-2309-JP-B-2: ここに居たことは無かった事になるんだから、そんなの気にしても意味ない気がするけど。
SCP-2309-JP-B-1: そうなんだけどさ。……アイツ、出て行く前に、「早く来てね」ってわざわざ俺に言ったんだ。なのに結局、10年近く待たせちまってる。彼女を待たせるとか、彼氏失格って感じじゃん?それも年単位でとか、最低も最低過ぎる。
SCP-2309-JP-B-2: そう言われるとそうだね。ふふっ。……でも、詩歩ちゃんってすごいよね。ちゃんと自分の気持ちを優先して、私達と別れるのも覚悟して、ここから出て行った。信念がしっかりしてるっていうか、強い子だなって。……私も見習わないとかな。
SCP-2309-JP-B-1: アイツが強い?どうやら詩歩に関しては、俺の方が花音様より見る目があるようで。
SCP-2309-JP-B-2: え?
SCP-2309-JP-B-1: いや、何でも。それで、話を戻すけどさ。俺が出て行けたら、花音はどうする?
SCP-2309-JP-B-2: それは……[5秒間の沈黙。]私だってここから出て行って、それできっと道幸君も……。
SCP-2309-JP-B-1: ああ。詩歩が出たおかげで俺が出られて、俺が出たら花音が出て、それで道幸も……ってリレーが出来上がる。そうなれば俺も嬉しいよ。……ただ、お前ら2人にとっては、ここに残ることがある意味ベストなんだ。2人にここから出て行って欲しいのは、完全に俺のエゴだ。それも、最低な。
SCP-2309-JP-B-2: それぐらい、外でも私達と一緒にいたいってことでしょ?その気持ちは嬉しいよ。
SCP-2309-JP-B-1: でも結局、ここから出るように強制なんかできなかった。かと言って、ここに居続けるのも限界だ。……リレーとか言っちゃったけどさ。正直、これは逃げなんだよ。自分はとっととここから出て行って、お前らに後の判断を委ねる。自分の後を追ってお前らも出てきて欲しいってことを、それとなく匂わせながらな……。10年ここに居て最後にやるのが、どっちつかずの臆病者みたいな行動だ。笑えるよな。……まだやるとは決まってないけど。
SCP-2309-JP-B-2: でも、それは私達のことを思ってくれてるからで……!
SCP-2309-JP-B-1: ああ。お前らのことは本当に大好きだ。今まで、ここから出よう出ようって騒いできたけど、実際、最後にお前らがここに残るって選択をしても仕方ないとも思う。だから、ちゃんと考えた上で決めて欲しい。……これで、俺の言いたかったことは終わり。ああ、この話は道幸には内緒な。アイツほどじゃないが、俺にだってプライドはある。
SCP-2309-JP-B-2: ……分かった。しばらく、色々考えてみる。
<以下省略。記録終了>
SCP-2309-JP-B-1の退出
付記: 当記録は現実世界の旧██高等学校校舎の、生徒会室として利用されていた教室で回収されたもの。
<記録開始>
SCP-2309-JP-A: なんだよ、急に生徒会室に集合って。
SCP-2309-JP-B-2: 真面目な雰囲気の星司君、珍しいからビックリしちゃったよ。
SCP-2309-JP-B-1: あー、うん。そろそろ今年度が終わるからさ、俺、ここから出て行こうと思って。
SCP-2309-JP-B-2: そう、なんだ……。
SCP-2309-JP-A: はぁ!?だ、だってお前、俺と花音が出て行くまではここに残るって言ってたじゃん!?
SCP-2309-JP-B-1: 待った待った!どうせそう言うと思って、ちゃんと理由は纏めておいた!3つある!いいな!?
SCP-2309-JP-A: いいわけあるか!お前が居なくなれば、俺はまた俺じゃなくなる!俺は、俺は!
SCP-2309-JP-B-1: 必ずお前を納得させてみせる。だから、頼む。
SCP-2309-JP-A: ……ちくしょう。聞くだけ聞いてやる。言ってみろよ!
SCP-2309-JP-B-1: ああ、ありがとな。じゃあ、1つ目。今、ここに残っているのが俺達3人だけだから。これは、ここの生徒が全員キレイさっぱりここから出て行く、千載一遇のチャンスだ。
SCP-2309-JP-B-2: うん。結局、皆ここから出て行っちゃったもんね。私たちの次にここに長く居た、響君も。
SCP-2309-JP-B-1: 2つ目。その響が出て行ったから。まぁ、なんだ。アイツが最後に言ってたことがさ、結構、心に来たのよ。受験合格って夢の為、覚悟決めてここから出てった奴が居るのに、今の俺は、他人が死ぬ気で追い求めてた夢を掴んでおきながら、それをほったらかしにしてるようなもんだ。響にも、それ以外の奴にも、申し訳ねぇ。
SCP-2309-JP-A: ……それは、俺もそう思うけどよ。
SCP-2309-JP-B-1: 最後、3つ目。正直に言う。俺がここから出れば、お前らもここから出てくれるんじゃないかって思ったから。できれば、俺は最後までお前らと一緒に居たかったし、この後お前らが二人でここに閉じこもるようになる可能性もあるから、最後の手段として、やるかやらないか、ずっと迷ってたんだけどな。
SCP-2309-JP-B-2: 私達の、ため……。
SCP-2309-JP-A: なんで……どうしてだよ!どうして俺達と一緒に居ることを拒んでまで、俺達をここから出すことばっか考えるんだよ!
SCP-2309-JP-B-1: 俺はここから出たい。それで、お前らと離れ離れになるのも嫌だ。単純な話よ。
SCP-2309-JP-A: ……ダメだ!やっぱり納得できない!そんな理由でお前が居なくなることを、俺は許せない!
SCP-2309-JP-B-1: いや許す許さないの問題じゃないでしょー……。じゃあ、もう一押しだ。お前の面子の為にも、あまり言いたくはなかったんだけどな。最後の最後だから言ってやるよ。……俺はもう、お前に辛い思いをさせたくないんだ。
SCP-2309-JP-A: ここが無くなること以上に辛いことがあるかよ!
SCP-2309-JP-B-1: お前、ここに来てから寝たこと無いだろ?何かを心から楽しんだり、それに夢中になったりしたこと、無いだろ?
SCP-2309-JP-B-2: えっ、嘘。寝てないって……。
SCP-2309-JP-A: 何、言ってんだ。人間が何年も寝ないで生きられる訳ないだろ。
SCP-2309-JP-B-1: お前、例の力で眠気とか体調とか、なんとかしてるんだろ?あと、俺が夜中に目を覚ました時、必ずお前はどっか行ってた。こんな異常な空間の中だ。俺だって、中々眠れないことはあったよ。でもよ、俺が寝付けない時に限って、毎回お前も寝付けないなんてことはないだろ。それで何度か俺も寝たフリをしてみたら、案の定だ。
SCP-2309-JP-A: ……別に、寝てないからってなんだ。体に問題は無い。辛くも何ともないならいいだろ。ってか、俺がなんにも楽しんでないとか、そっちの話はなんなんだよ。
SCP-2309-JP-B-1: うーん、医者志望の人間としては、睡眠の重要性は説いておきたいし、体が大丈夫でも、頭は大分疲れてるだろっていう指摘もしたいけどな。まぁ、それは置いておいて。……お前がここに来てから、なんとなく何に対しても上の空なの、俺達が気付いてないとでも思ってたか?
SCP-2309-JP-A: はぁ?どういうことだよ。しかも今、俺達って言ったか?
SCP-2309-JP-B-1: ああ。これは元々、最初に気付いて俺に相談してくれたのが花音だったからな。ここに来てから、ホントすぐの話だったよ。
SCP-2309-JP-A: ……花音には、最初から俺がそう見えてたってことかよ。
SCP-2309-JP-B-2: ごめん、道幸君。やっぱり心配で……。
SCP-2309-JP-B-1: 謝ることじゃないだろ。……で、だ。俺は、お前がどうしてこんな風になっちまったのかを考えた。まぁ、1つしか思い浮かばなかったよ。お前、この世界を保つために、ずっと力を使い続けることだけを考えてたんだろ?
SCP-2309-JP-A: ……そんなこと。
SCP-2309-JP-B-1: 倒れた時の結局の原因は、力の使い過ぎで頭がどうにかなったからだろ?その力を四六時中使い続けるの、あんま楽でもないんじゃないのか?
SCP-2309-JP-B-2: 前にも言ったけど……私達にはもう、見栄を張らなくていいんだよ。
SCP-2309-JP-A: それは……[5秒間の沈黙。]もういい。分かった。認めるよ。確かに、俺はずっとこの世界の事を考えてる。もし考えることを止めてしまえば、それこそ外の校舎が崩れた時みたいな、ちょっとしたほつれからこの世界が消えてしまいそうで、怖いんだ。……さっき夢の話をしてたけどさ、俺にとってのこの世界だって、夢なんだ。受験合格なんかとは、比べ物にならないくらい大切な。だから、その夢を手放したくなんかない。この世界の為なら、俺は何だってやってやる。
SCP-2309-JP-B-2: 道幸君、███大に受かったの、すっごく喜んでたよね?それを「受験合格なんか」なんて言うのは……やめようよ。
SCP-2309-JP-B-1: ま、コイツにとってはしょうがないさ。……あー、道幸の話ばっかりになっちゃったけどさ。改めて。俺は花音にも、ここから出てきて欲しい。やっぱり、俺、道幸、詩歩、花音。皆そろって大人になりたい。
SCP-2309-JP-A: てめぇ!自分が何言ってるのか分かって……!
SCP-2309-JP-B-1: [SCP-2309-JP-Aの言葉を遮るように]分かってるよ。でもよ、俺達はこんな世界に来ることができたんだ。花音がちゃんと大人になれるぐらいの奇跡が起きたって、おかしくないじゃないか。
SCP-2309-JP-B-2: そう……だよ。うん。私だって、そう思う。だから、私も、皆でここを出たい。
SCP-2309-JP-B-1: そっか。花音は納得してくれたみたいだな。……よっし!じゃあ後はお前らに任せて、俺はこことお別れしますかね!
SCP-2309-JP-A: クソ!待てよ!ふざけんな!……なら、これ持ってけ。
[SCP-2309-JP-AがSCP-2309-JP-B-1に、所持していた紙を手渡す。]
SCP-2309-JP-B-1: 証書……。ははっ、なんだお前。あれだけ文句言ってたのに、結局、俺がここを出ていくこと、分かってたんじゃないか。
SCP-2309-JP-A: 何年、ダチやってきたと思ってんだ。……ほら、それ持ったんならさっさ行けよ!ここに居られたら、何するか分かんねぇぞ!
SCP-2309-JP-B-1: おう!最後にお前が泣くとこも見れたし、いい気分で卒業できるわ!……じゃあな。あんまり待たせるなよ、親友。
[SCP-2309-JP-B-1が退室する]
<以下省略。記録終了>
SCP-2309-JP-B-2の退出
付記: 当記録は、現実世界の旧██高等学校の校庭で回収されたもの。
<記録開始>
[SCP-2309-JP-AがSCP-2309-JP-B-2に近寄る]
SCP-2309-JP-A: なぁ。昨日の今日で、どういうことなんだよ。
SCP-2309-JP-B-2: どういうことって……そういうことだよ。あはは。
SCP-2309-JP-A: なぁ、どうしてだ。お前、本当は出て行きたくなんてないんだろ。ここから出て行くのがどういうことか、分かってるんだろ?
SCP-2309-JP-B-2: いや。確かに怖いけど、ちゃんと悩みに悩んだ上で、ここから出るって決めたよ。道幸君のためにも。
SCP-2309-JP-A: [呻き声]……俺は、この世界のためなら何だってする。お前さえ、花音さえ残っていてくれれば、俺は大丈夫だ。俺の事は気にしなくていい。外の……星司や詩歩のことも、大丈夫だ。ここに居る間のことは……。
SCP-2309-JP-B-2: [SCP-2309-JP-Aの言葉を遮るように]全部無かった事になる。でも間違いなく、今、この瞬間は、私達を待ってる人達がいるんだよ。
SCP-2309-JP-A: ……星司みたいなことを言うようになったな。
SCP-2309-JP-B-2: それにさ。やっぱりそろそろ、高校生でいるのに飽きちゃったよ。ちゃんとここを卒業して、普通の人みたいに大人にならなきゃ。
SCP-2309-JP-A: なら、俺の力でどうにかすればいい!花音を、大人にすることだってきっと……!
SCP-2309-JP-B-2: いや、多分、それはできない。ここはどうあっても██高校だよ。それで、ここが高校である以上、私達は高校生のままでしかいられない。それに、道幸君がここに残りたい一番の理由は、「██高校を残したいから」じゃないんでしょ?
SCP-2309-JP-A: な、なに言ってんだよ。ちょっと、色々訳がわからないって。
SCP-2309-JP-B-2: 道幸君がここを出たがらないのは、やっぱり、私のせいなんだよね。
SCP-2309-JP-A: 違う!俺は、ここの生徒会長で、ここを残していく責任があって……!
SCP-2309-JP-B-2: 大丈夫。私に気を遣わせないようにそう言ってるのは、分かってる。道幸君、優しいから。
SCP-2309-JP-A: ……お前に気を遣ってるわけじゃない!本当に、ここが残らなきゃ意味がない!もうあと2人だけだ!お前が出て行きゃコイツだって居なくなる!そうなれば俺は、俺は!
SCP-2309-JP-B-2: やめて。私は、ちゃんと道幸君と話がしたいよ。
SCP-2309-JP-A: ……花音だって、ここから出たくないはずだろ?せめて、あと10年……5年……いや、1年だけでもいい。一緒に居よう。居てくれ。ここに残ろう。残ってくれ。もう少しだけ、2人で居よう。
SCP-2309-JP-B-2: ううん。もう1日たりとも、道幸君から時間を奪いたくない。本当なら今頃、道幸君は夢を叶えて、お医者さんになってるはずだよ。小さい頃からの夢だったよね?
SCP-2309-JP-A: そんな夢、どうだっていい!そもそも、医者になりたいと思ったのだって、昔から体が弱かった花音の助けになりたかったからだ!俺は何より、花音に生きていて欲しい!ここでなら、それが叶えられるんだよ!ずっとここに居なくたっていい。でも、せめて普通の人間と同じくらいの時間は、ここで生きていて欲しい。生きるべきだ!ずっと苦しんできた花音には、その資格がある!
SCP-2309-JP-B-2: えへへ、そこまで言ってくれるのかー。……嬉しいけど、やっぱりこんなのズルだよ。道幸君の夢や人生、外の人達の気持ちを考えないで生き長らえるなんて、本当は良くない。そんなの最初から分かってたけどさ、やっぱり死ぬのが怖くて、結局今までここから出られなかった。でも、これまでずっと、ここから出て行く決意をしてきた人を見てきたおかげで、私ももう、覚悟できたよ。
SCP-2309-JP-A: なんで花音なんだよ。どうして、花音が大人になれずに死ななくちゃならない。
SCP-2309-JP-B-2: うーん、前世で悪いことでもしちゃったのかな!……まっ、これでも私、現実でも高校生活はちゃんとエンジョイして、卒業式にも出れたんだから、案外悪くない人生だったと思うんだよね。そりゃあ、中学生活だってエンジョイしたかったし、高校の最後の方、休みがちになっちゃったのが残念だけど。
SCP-2309-JP-A: ……俺が死ななきゃいけないのはなんでだ。俺も何か悪いことしたってのか?
SCP-2309-JP-B-2: それは知らないけど。でも、少なくともあなたは今、道幸君に悪いことをしている。
SCP-2309-JP-A: ……嫌だ。俺は、花音を置いたまま、大人になんてなれない。絶対に、なりたくない。
SCP-2309-JP-B-2: ねぇ。私、現実でも、ここでも、██高校で過ごせてよかったよ。道幸君に、皆に楽しくて幸せな時間をたくさん貰えた。だから、今度は私が返す番。
[SCP-2309-JP-B-2が正門に向かって歩き出す]
SCP-2309-JP-A: 誰よりも辛い立場にあるのに、誰よりも他人を思いやることができる、そんな花音が好きなんだ。頼む、行かないでくれ。
[SCP-2309-JP-B-2が立ち止まる]
SCP-2309-JP-A: 星司君が言ってたじゃん。私達、こんな世界に来ることができたんだよ?もしかしたら、私の治療がすっごく上手くいって、完治しちゃうなんて奇跡も、起きるかもしれないよ。
SCP-2309-JP-A: 奇跡なんて、そう何度も起きる訳がない。
SCP-2309-JP-B-2: 道幸君ってさ、響君の時も星司君の時も、その力で無理矢理ここに引き留めたりしなかったよね。
SCP-2309-JP-A: 皆にも、ここにずっと居て欲しかった。訳の分からない恐怖を毎回味わうのも、嫌だった。でも、皆の意志を無理矢理に捻じ曲げてまでここに引き留めるのは、もっと嫌だった。だから、耐えてきた。
SCP-2309-JP-B-2: 私も、そんな風に他の人の事を大切にできる道幸君が、大好きだよ。……あっ、そうだ。卒業証書。せっかく道幸君がここに居るんだから、貰っておきたいな。
[SCP-2309-JP-Aは約1分間悩んだのち、SCP-2309-JP-B-2に宛てた卒業証書を生成する。証書に書かれている文面を嗚咽混じりに読み上げたのち、それをSCP-2309-JP-B-2に手渡す。]
SCP-2309-JP-B-2: うん。ありがとう。やっぱり、最後に道幸君がそばに居てくれて良かったよ。できるなら、一緒に行きたかったけど。
SCP-2309-JP-A: 待て、花音。なあ。花音。花音。花音!
[突如、正門が閉じられる。]
SCP-2309-JP-A: ダメだ!お前だけは、花音だけは行かせられない。ごめん。もう分かってるはずなのに、諦めたいはずなのに、これだけはどうしようもない。どうしようも、なくて……!
SCP-2309-JP-B-2: ……私、本当に感謝してる。ここに来る前も、来た後も。たくさんお世話になっておいて悪いと思うんだけど、最後に一つだけ、お願いを聞いてもらってもいいかな。
SCP-2309-JP-A: ……なんだよ。
SCP-2309-JP-B-2: ちゃんと、私を見送ってよ。私が大人になれるよう、勇気をくれてよ!そうしてもらえれば、私はもう、怖くないのに!それが、あなたに一番やってもらいたいことなのに!
SCP-2309-JP-A: [5秒間の沈黙。その後、7秒間の笑い声。]見送って、だ……?そうか、そうだよな。元々、そういうものだったのに。それがお前の望みなら、叶えるべきなのに。……ごめん、花音。もう、やめにするよ。
[正門が開かれる。]
SCP-2309-JP-A: 改めて。卒業、おめでとう。こんな気持ちで卒業生を見送ることができるのは、久しぶりだよ。ありがとうな。
SCP-2309-JP-B-2: こちらこそ、ありがとう。うん。本当に、ありがとうございました。……それじゃ、またね。絶対、私も大人になってみせるから!
[SCP-2309-JP-B-2が正門を通過し、現実世界に帰還する。]
SCP-2309-JP-A: ははっ。これで、良かったんだ。これで、これで……。
[SCP-2309-JP-Aがその場で泣き崩れる。その後、約10分間、その場に留まり続ける。]
<以下省略。記録終了>
SCP-2309-JP-Aの退出
付記: 当記録は、現実世界の旧██高等学校の校庭で回収されたもの。
<記録開始>
[SCP-2309-JP-Aに、外見がSCP-2309-JP-Aと一致するSCP-2309-JP-C3が接近する。]
SCP-2309-JP-C: おい、これで、お前をここに縛り付ける存在は無くなったんじゃないのか?さっさと出て行ったらどうだ?
SCP-2309-JP-A: ……なんだよ。言われなくてもそうするけど、お前誰だよ。何で俺のコピーが居るんだ。
SCP-2309-JP-C: お前と一緒にずっと頑張ってきたんだぜ?最後に見た目ぐらい借りてもいいだろ。
SCP-2309-JP-A: いや、訳が分からないし、俺はお前を知らないぞ。
SCP-2309-JP-C: [舌打ち]物分かりが悪いな。俺はお前をよく知ってる。というか、ここに通ってた生徒のことなら、全員よく知ってるよ。
SCP-2309-JP-A: ……もしかして、お前がコピー生徒を作ってたのか?勝手に俺の力を利用して?
SCP-2309-JP-C: ああ。学校の生徒は多い方がいいだろ。
SCP-2309-JP-A: じゃあ、外から生徒を呼んでたのは?
SCP-2309-JP-C: それも俺。やっぱり、新入生には来てほしかったからさ。それに、外の奴らを呼ぶのは、この世界の中にしか居ないお前には、できないことだしな。
SCP-2309-JP-A: ……台風の時に倒れた後、俺がおかしくなったのは。
SCP-2309-JP-C: それもまぁ、俺。意識を失ってくれたからちょうどいいなーと……正直、すまなかったけど。
SCP-2309-JP-A: ……どうして。
SCP-2309-JP-C: いや、お前がその力を使えるようになったの、大本のきっかけは俺だし。力を使う土台を担ってやってるのも俺だし。なら、俺にだってその力を使う権利とか、俺の気持ちを訴える権利とかはあるはずだ。
SCP-2309-JP-A: いや待てって。ちょっと色々、話が嚙み合わないぞ。というか、この力のきっかけってなんだよ。
SCP-2309-JP-C: うーん。元々の俺の願いに、お前ら平成21年度卒業生の願いが掛け合わさって、こんな世界が生まれたって感じだからな。奇跡ってやつよ。……まぁ、お前がここの生徒のままでいたい理由は、他の奴らとは結構違ったんだが。そのくせ、誰よりも強い願いを持ってやがったから、お前に主導権取られちまった。
SCP-2309-JP-A: 俺だって間違いなく、純粋に██高校の生徒でいたかった。██高校を残していきたいと思っていた。いや、思っている!
SCP-2309-JP-C: ハッ。そう言ってくれるのはありがたいねぇ。……でも、友達皆がここから出て行ったのに、まだ生徒会長としてここに残り続けたい!って思うほどじゃあないんだろ?そもそも、ちゃんとした██高校の生徒は、もうお前しか残ってない。生徒が1人とか、それはもう高校とは言えないだろ。3人でもアレだったが。
SCP-2309-JP-A: それは……。
SCP-2309-JP-C: いいよ。行ってこいよ。俺も十分、いい夢を見られた。そろそろ、潔く潰れて消えるとするよ。俺のせいで引き留めちまって、辛い思いもさせて悪かった。手段と目的が逆転してたってヤツだ。さっき、ようやく気付けた。
SCP-2309-JP-A: お前……。[3秒間の沈黙。]ああ、そうか。うん。分かったよ。正直、腹立たしい所は幾つもあるけど……それ以上に。今まで俺に、俺達に、素晴らしい時間をくれてありがとう。奇跡をくれて、ありがとう。
SCP-2309-JP-C: こちらこそありがとうだ。台風食らって死にかけた時とか、工事頼んでくれてマジ助かったぜ。ほらよ。これ、お前の分の卒業証書。卒業、おめでとう。色々面倒なことはこっちで何とかしておくから、お前はちゃんとした大人になれよ。
SCP-2309-JP-A: ああ。……3年と、10年間。本当に、お世話になりました!
[SCP-2309-JP-Aが正門を通過し、現実世界に帰還する。]
SCP-2309-JP-C: フン。学校冥利に尽きるよ……。
[帰宅時間を知らせるチャイムが鳴る。直後、映像が乱れ始める。約30秒後に乱れが収まり、現実世界の旧██高等学校校舎の校庭が映し出される。]
<以下省略。記録終了>
終了報告書: 当記録で確認できるSCP-2309-JP-Cは、確認できている中では唯一、SCP-2309-JP内に現存していたSCP-2309-JP-A・Bを模した存在である上、SCP-2309-JPの起源に関する情報を有していることを仄めかす発言をしており、特殊な個体であると推測されています。当該の存在に関する調査は現在も行われていますが、現在まで、当記録以外に有力な情報は入手できておらず、他の一般的なSCP-2309-JP-Cと同様、SCP-2309-JP無力化時に消失したと推測されています。