SCP-2315-JP
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アイテム番号: SCP-2315-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: 現在販売されているSCP-2315-JPは各地の担当職員によるカバーストーリー「販売差し止め」の通達により回収します。回収済みのSCP-2315-JPは一定数を低危険物収容ロッカーに保管し、余剰分は物理的に破壊した状態で処分します。既に一般人が所有済みのSCP-2315-JPの積極的回収はその捜索範囲と想定されるコストの高さから保留されており、回収は該当の異常性が確認されたものに限定されます。

SCP-2315-JPにより人物が転移した地点には隠しカメラを設置し監視します。人物が再出現した場合、当人に問題がないと判断されれば必要な社会復帰サポートを提供します。それ以外の場合は標準人型生物収容セルへ収容します。いずれの場合においても、必要程度の関係者への記憶処理の実行・カバーストーリーの流布・関連物品の回収を行ってください。

説明: SCP-2315-JPは日本全国の観光地の土産店で見られる刀剣を模したキーホルダーです。SCP-2315-JPと非異常性の製品との差異として、本体に「Godspeed」の文字列が確認できる点・同体積の非異常品と比較して21g質量が大きい点・SCP-2315-JPが封入されているパッケージの裏面に「名称: 旅人の剣キーホルダー」「製造元: ホーチク工業株式会社」「無事に帰るまでが旅行です」の文字列が確認できる点が挙げられます。ホーチク工業株式会社の所在は明らかになっていません。

成分分析の結果、使用されている金属は非異常性の製品と同一の亜鉛合金であり、質量の差異が発生している原因は不明です。ただしSCP-2315-JPが大きく歪曲する・折損する等の原因により刀剣としての形状・役割を著しく損なった場合は、体積通りの質量を表します。

SCP-2315-JPは非異常品と同様に、主に5~15歳程度の男性の趣味嗜好に基づいて購入され当人の所有となります。所有者がSCP-2315-JPの異常性を発生させるためには、前提として下記の項目群をおおむね満たす必要があると推測されています。なお、この項目群は今までに異常性を発生させた人物の発言を元に構成されていることを留意してください。

※()内は該当の項目に合致した人物の割合を示す。

  • 現在の居住地にSCP-2315-JPが保管されている(100%)
  • 年齢が30歳以上である(100%)
  • 既婚者である(100%)
  • 定職を持っている(100%)
  • 生活環境に対して不満があり、自身の努力のみではこれを解決できない(91%)
  • ふとどこかに行ってしまいたいと思うことがたびたびある(90%)
  • 自分のこれからの人生が上昇傾向にあると感じない(83%)
  • 他人はみな自分よりも優れていると思う(78%)
  • 自分の成功は、実際のところ自身の能力によるものではないと思う(74%)
  • 生活の中に協力者がいない(67%)
  • 個人的な旅行をしたことがない、またはしたくてもできない(67%)

SCP-2315-JPの異常性は、上記の項目を満たした所有者がSCP-2315-JPを手に持ちながら「自身を表す固有名詞の宣言」「希望する移動先の条件提示」の二点を行うことで所有者を転移させるものだと考えられています。この異常性は、以下に示す発言記録より推測されたものです。

発言記録2315-JP-1 - 日付2015/05/01

付記: 観測上初めてSCP-2315-JPの異常性を発生させた小鳥遊雄介氏1の配偶者である、七原知恵氏による発言記録の抜粋。七原氏が行った警察への通報により財団が異常性を認知して行われた。小鳥遊氏・七原氏双方の意思によって記録されていた音声データを付属資料として含む。


それで、あの人がいきなり立ち上がって。もう私たちはゴールデンウィークが始まっていましたし、ああ、今年も失踪開始だなって思ったんです。だけど今回は身支度とか一切なしに、自分の部屋からおもちゃの剣だけ持ってすぐ戻ってきて。それがなんかおかしくて、なにそれ、どういうこと? と思わず笑っちゃったんです。そうしたら、いきなり剣が時代劇に出てくるような本物の大きさになって、続けてあの人からこの発言がありました。

[音声データの該当部分が再生される。]

「我はこの世界の人間ではない。我の真の名はDestiny Halo Integral。目覚めよ天叢雲剣。さらば不条理の世界。そなたの導くままに、望ましき異界へいざ行かん」

[再生が終了する。]

ほんとなんで積分なんでしょうね。ああ、はい。ここまで言い終えたところで、あの人はパーッと光ってそのまま居なくなりました。剣も一緒に消えたのではないですか、無くなったので。

いえ、驚くとか驚かないとかじゃなくて。そもそも突然こういう予想外のことが起きて、ついていけていない部分があるんです。私としては、ただその場で何をしているのかを見てただけで、そこからの成り行きで今こうなっているとしか。

いやまあ、三日か四日で戻ってくるんじゃないですか? 何故って。そんなの、どうしたって連休が明けたらまた仕事になるからですよ。私もですけど。

追記(2015/05/04更新): 消失から68時間後、小鳥遊氏が破砕した状態のSCP-2315-JPと後述する二点の物品を所持した状態で転移地点から再出現しました。下記は再出現後の小鳥遊氏に対して行われた発言記録を、可読性のために意図が変化しない前提のもと再編集したものです。

発言記録2315-JP-2 - 日付2015/05/04

  • SCP-2315-JPに関して

これは15年くらい前に中学の修学旅行で買って、記念に残していたものです。帰ってきたときにこんな風になっちゃいましたけど。今思うと、なんでこんなくだらないものを買ったんですかね。どうせならその旅行先にしかないものにすれば良かったのに。

事情としましては、以前から生活が苦しかったんです。経済的にではないですよ、むしろ僕のパートナーのほうがずっと稼ぎがいいし、他のことでも僕より優秀ですし。そういうのがあって、会社どころか近所でも人にそういう目で見られている感覚があって辛い日々だったということです。

それで先日、全部思い込みだから気にしなくて良いという話をパートナーにされたんです。まあ、この話し合いこそが僕にとどめを刺すこととなったんですけど。原因は、そういう思い込みをすることこそが僕の行動力だったからです。そのことに気づけたのは話をしたからなので、順序的にどうしようもなかったんですが。

そこからはもう全然記憶がないです。支えを失ったからか気が遠くなって、眠気にも襲われたというか。ただ、なんと言いますか。例えるなら途中まで進めたゲームのデータを消して、もう一度最初から始めたときのような感覚があったことはなんとなく覚えています。

  • 小鳥遊氏が転移した地点について

意識が戻ったら、僕は教会のような建物の床に倒れていました。すぐ横にはパン的なものと水のビンが入ったこの手提げ袋と、あとこの冊子2が置かれていました。誰が置いたものなのかは分からなかったです。はい、そうです。冊子の内容は全部ピクトグラムで構成されているんですよ。

建物の中には誰も居なかったので、ひとまず状況を確認しようと外に出ました。普通に街の中でした。店とか家があって人が生活していました。行ったことないですけどヨーロッパのような雰囲気で、だけどどこか現実的じゃないというか。なんとなく映画っぽさがある感じでした。

まあそれから色々あったんですけど結論から言うと、街とか人とか以前の問題だったんです。なぜなら言葉とか文化を知らないし、お金とか身分証明書も無いから社会に参加するための第一歩が踏み出せないので。その点この冊子はいいですよね、前提知識を持たなくても意味が分かるから。最後のページなんて元の世界に帰る方法が図示してありましたよ。剣をかかげて自分の本名と家に帰る意思を示すだけでいいと。

今思えばこの手提げ袋もあの世界の人々に対して、これを持っている奴には関わるなと示すための目印だったんだなって。本当にバカですね。パートナーは心配してくれているのに、その返しとして僕はこんなことをやらかしていたんですから。

追記(2022/06/10更新): 2022/06/10現在、SCP-2315-JPにより転移した人物65名のうち、64名の再出現が確認されています。64名の転移から再出現までの平均時間は50時間28分、最長時間は153時間20分です。

各人物の回答により、転移先の空間には人型存在による文明と、対象が生物学的に生存するための物理法則と自然環境、これに加えて極めて容易な複数の帰還手段が必ず存在していることが判明しています。しかし、回答ごとの転移先の特徴を統合した場合には矛盾が生じるため、転移先の空間は前述の条件を満たす限り不確定である可能性が示唆されています。

追跡調査の結果、全員に共通して趣味嗜好・性格の変化が生じていることが確認されています。これを再度の記憶処理を用いて従来の状態に戻す試みは失敗しています。

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