Foundation Collective
維持され続ける意識
▶ FC Local Area Network への接続に問題なく成功しました。貴方は夢の中にいます。
夢イメージ抽出に基づき描画されたSCP-2320-JP-S。
アイテム番号: SCP-2320-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特殊収容プロトコル: SCP-2320-JPは半径7mの球を完全に覆うことの出来る規格に調整された防水収容室に保管されています。収容室は外部からの観測が不可能な状態になっており、SCP-2320-JPを観察する場合には認識災害除去済みのカメラ映像を通す必要があります。室内にはスクラントン現実錨が備え付けられ、ヒューム値の変動による外部への影響を遮断します。
SCP-2320-JPの潜在意識に関連して発生する夢事象への対応はファウンデーション・コレクティブ(FC)によって行われます。現在、FCによる本オブジェクトに対する収容活動は「プロトコル・フィフティー/フィフティー」を中心としています。詳細は補遺を参照してください。本件に関する情報収拾のため、主要なオネイロイ・ネットワーク上における、「神話」「神格」に関連する事象および、"Imaginanimal"への言及を調査する偵察睡眠が定期的に行われます。
説明: SCP-2320-JPはナイルワニ(Crocodylus niloticus)のミイラです。外見的には明らかに死亡しているように見えるにも関わらず、その潜在意識は残存しており、現在点において"トライアル・コート(Trial Court)"あるいは単に"コート"または"法廷"と呼ばれるコレクティブの領域が存在します。また、SCP-2320-JPのシャドウ(SCP-2320-JP-S)は夢界において現在も活動中であり、当該コレクティブに属しています。このコレクティブ内で発生する夢事象の影響が、現実空間上のSCP-2320-JPの肉体を通じ、異常現象を引き起こします。
"トライアル・コート"は多くのシャドウ/オネイロイにとって「裁判の傍聴席にいる夢」であり、SCP-2320-JP-Sは常に証人席に存在しています。現実時間で100日に1度、「裁判」が行われます。この際、被告席にはGoI-8189("トリスメギストス・トランスレーション&トランスポーテーション")に由来するオネイロイが、原告席にはGoI-6636("Imaginanimal")に由来するオネイロイがそれぞれ現れます。その後、シャドウ/オネイロイまたは夢界実体が陪審員席に6体、裁判官席に1体の合計7体現れ、裁判官席の実体によって開廷が宣言されます。
「裁判」の内容はSCP-2320-JPの帰属に関連するものであり、原告と被告の主張は以下の通りです。
原告の主張: SCP-2320-JPは「ワニの概念」であり、被告はSCP-2320-JPの実存/概念知性との交流を不当に妨害し、労働に従事させている。SCP-2320-JPは解放されるべきである。
被告の主張: SCP-2320-JPはエジプト神話由来の神格"セベク"であり、GoI-8189の社員である。原告の主張は支離滅裂なものであり、棄却されるべきである。
双方の主張が述べられた後、証拠品や証言の検討を経て、陪審員席の実体の多数決が取られ、最後に裁判官席の実体によって閉廷が宣言されます。この時、多数決の結果によってSCP-2320-JPの肉体およびその周囲に異常現象が発生します。以下は多数決の結果と発生する現象の対応表です。
原告の獲得票数 |
被告の獲得票数 |
発生する現象 |
6 |
0 |
未発生のため不明。 |
5 |
1 |
SCP-2320-JPが認識災害性を獲得する。視認した場合、「ワニに噛まれた」という虚偽記憶(痛みは伴わない)と、ワニに対する復讐心が発生する。 |
4 |
2 |
SCP-2320-JPが認識災害性を獲得する。視認した場合、「ワニに噛まれる」という不合理な恐怖心が生じる。 |
3 |
3 |
異常な現象は発生しない。 |
2 |
4 |
SCP-2320-JPを中心とした半径7mの範囲内で、ヒューム値の乱れが発生する。この乱れは不完全な神格降臨事象に付随して発生するものと類似したパターンを示す。 |
1 |
5 |
SCP-2320-JPを中心とした半径7mの範囲内で、ヒューム値の乱れと、断続的な現実改変が発生する。現実改変によって生成された水がSCP-2320-JPを包み込む。 |
0 |
6 |
未発生のため不明。 |
陪審員席の実体の中には、必ず被告/原告に投票する個体がそれぞれ1体以上存在するため、6対0の状態が発生したことはありません。裁判官席の実体による「全会一致で無ければ判決は出せない」との発言が確認されており、6対0の状態が発生するまで「裁判」は繰り返されるものと考えられています。
補遺: 「プロトコル・フィフティー/フィフティー」概要
プロトコル・フィフティー/フィフティーは、多数決の結果を3対3の状態にすることによって、現実におけるSCP-2320-JPの異常性を発現させないことを目的としています。陪審員席の実体を可能な限りトライアル・コート内から排除し、ファウンデーション・コレクティブの職員由来のシャドウで置換します。現在、本プロトコルによって、SCP-2320-JPの異常性の発現はほとんど抑制されています。
以下は、プロトコル・フィフティー/フィフティー実施時の夢界探査ログの1例です。
探査ログ
日付: 20██/██/██
記録者: 水上博士
<記録開始>
[水上博士が夢界に進入すると、トライアル・コートの傍聴席に出現。水上博士は黄色いビデオカメラの形態を取っている。傍聴席には疎らにオネイロイ/シャドウ群が確認できる。]
裁判官席の実体: では、開廷します。まず原告側から、主張をお聞かせください。
原告席の実体: はい。証人席の彼はワニです。より厳密に言えば人の抱くイメージたるワニ。私たちと同じくね。であるからして、人間と楽しく交流する事ができます。しかし被告は彼を不当に労働に従事させている。お仕事は楽しくないでしょう?我々は彼の解放を求めます。
裁判官席の実体: 楽しい交流というのはどのようなものでしょうか?詳しく説明していただけますか?
原告席の実体: ええ、裁判官殿。ちょうど貴方のようなハンマーで叩くのです。ワニの来訪に人間さんたちはパニック、ハンマーで殴ります。いえ、痛くはありません、エンタメとしての闘争の真似事…ちょうどプロレスのようなものですな。
裁判官席の実体: なるほど、それはそれは…楽しそうですな。
原告席の実体: あるいは映画なんかに出演してもいいですね。いつの時代も劇場は常にヒール役を求めていますとも。かつてはオオカミやキツネでしたが、いまやサメやワニの時代です。
SCP-2320-JP-S: ああ、ウサギさん。私を助けてワニを救おう。悪いワニを倒して皆を救おう。
原告席の実体: もちろん。この裁判、私たちが勝つとも。
裁判官席の実体: では次に被告側の主張をお聞きします。
被告席の実体: 主張ですか? この裁判の早期終結ですよ、裁判官殿。僕は企業の経営者で、非常に多忙な身なのです。このやり取りも何回目だか……先ほどのワニワニパニックの件ももう10回くらい聞きましたよ。
裁判官席の実体: 本当に申し訳ありません。ですが、これは必要な事であるとご理解下さい。その上でもう一度ご自身の主張を述べていただけますか?
被告席の実体: 彼はセベクという名です。断じてただのワニではありません。エジプトの偉大なるナイルの象徴にして、恐怖の化身、そして我が社の従業員です。原告の主張は明らかに支離滅裂で、到底容認しがたいものです。むしろ業務妨害でこちらが訴えたいほどですよ。
SCP-2320-JP-S: 助けてください社長。信じています。
被告席の実体: もちろんだとも。"ナイルの美味しい聖水"プロジェクトにいくら投資したと思ってる。それにここで負けたら、その邪悪なウサギの次の標的は副社長かもしれない。
裁判官席の実体: それでは双方ともに自身の主張の根拠となる証拠を提出願います。
[以下、意味性のある夢を見ることはできないため省略。この間にFC職員によって陪審員席の実体が5体置換された。]
FC職員: 水上博士、陪審員のうち5体の置換に成功しました。裁判の内容は無意味性の強い混濁夢ですが、そろそろ終了しそうです。6体目の排除には間に合いません。指示をお願いします。
水上博士: 陪審員席で置換されていない実体は、過去7件の裁判にて原告側に投票しています。ですから、原告側に2名、被告側に3名投票してください。
FC職員: 了解です。
裁判官席の実体: それでは投票を行います。陪審員の皆様、厳正なる判断をお願いいたします。
[投票結果は被告側3、原告側3であり、プロトコルの実行に成功。]
裁判官席の実体: む、今回も決着は付きませんでしたな。それでは次回の裁判でお会いしましょう。これにて閉廷です。
被告席の実体: 畜生、最近悪夢ばかり見るんだ。セベクの崇拝者達はもはやどこにも存在しないのか?神は死ぬのか?
原告席の実体: こっちこそ、ワニが死にそうだってのに!酷い話だよ。
<記録終了>