インタビュー記録.2330-JP.1
インタビュアー: 姫川カウンセラー
対象: 輿水研究員
インタビュアー: それでは、インタビューを開始します。
対象: はい。
インタビュアー: では早速本題に入りましょう。孤立区域内部で何が発生したのでしょうか。
対象: 色々ありました、本当に。
インタビュアー: なるべく具体的にお願いします。断片的で良いので。
対象: すみません。いまだに整理がついていなくて。[深呼吸]あの中で、私は本当に孤独でした。助けはなく外は凶暴なオブジェクトがうろつき回っていたんです。
インタビュアー: あの中とは、あなたが回収されたシェルター内部のことですか。
対象: そうです。あそこには、複数の財団職員がいました。私はSCP-2330-JPを連れてそこに避難しました。まさか、彼女を連れて行ったことで、ああなるとは思ってなくて。
[10秒の沈黙]
インタビュアー: 大丈夫ですか?
対象: え、ええ。大丈夫です。あの中で、私たちは小規模な自治組織を作りました。その方が適切に運営することができると思ったのです。定期的な会議で、私たちは食糧や水分の分配、あとは同時に避難してきたDクラス職員の処遇などを決めました。
[4秒の沈黙]
対象: ある会議で私はSCP-2330-JPの隔離を提案しました。その時、私は他人を信用していなかったので誰にもSCP-2330-JPの異常性を開示しませんでした。この中にもしあの収容違反を画策した人物がいたらと思うと怖くて怖くて仕方なかった、私はおかしくなっていたんだと思います。SCP-2330-JPを隔離しようと思ったのも彼女を危険人物から遠ざけるためです。
[4秒の沈黙]
対象: ですがそんなことでは提案が受理されるはずもありません。最終的に、私は勝手にSCP-2330-JPの隔離を行いました。シェルターには仮の収容房が併設されていたので隔離自体は簡単でしたが、それがいけなかった。
インタビュアー: いけなかった、とは。
対象: それが全ての始まりでした。SCP-2330-JPの仮収容から十数日後、私はSCP-2330-JPの仮収容室の鍵がなくなっているのに気がつきました。私は皆を糾弾しました、何故こんなことをしたのかと。誰も答えなかった。その時にはもう手遅れでした。私はSCP-2330-JPとは別の収容房に入れられました。
インタビュアー: 収容房に?突然すぎませんか。
対象: 本当に唐突でした。初めは私も何が起きたかわかりませんでした。そしてさらに驚いたことなんですが、彼らは収容房に入れた私にこう語ったんです。「よくあの聖水を秘匿していたな」と。
インタビュアー: はい?
対象: 私も驚きました。何を言っているんだと。彼らはSCP-2330-JPの尿を聖水として崇めていたんです。そしてそれと同様にSCP-2330-JPを崇めていました、無限に聖水を恵んでくれる神であると。おかしいと思いましたか?私もそう思っていました。
[対象の発声が次第に早く、大きくなって行く]
対象: でも違ったんですよ。私は彼らにSCP-2330-JPの尿を飲まされました。彼女の尿は甘美で、芳醇で、なんとも言い表せない味だったのです。
インタビュアー: 輿水博士。
対象: 姫川さんも一度飲んでみると良いでしょう。あれを飲んで私は救われたんですよ。SCP-2330-JPの尿のサンプルは保管されているはずです。飲んで下さい、絶対後悔しませんから。
インタビュアー: 輿水博士、発言を停止して下さい。
対象: [数十分に渡るSCP-2330-JP及び、 SCP-2330-JPの尿を称える発言]
インタビュアー: インタビューを中断します。
補足: 輿水博士には沈静剤が注入され一時的な沈黙状態に陥りました。経過観察後問題がが見られなかった場合、インタビューを再開します。また、複数のDクラスに保管されていたSCP-2330-JPの尿のサンプルを飲用させたところ、全てのDクラスが全くの無味であると回答しました。SCP-2330-JPになんらかの変化が発生したと考えられていますが、詳細は不明です。
インタビュー記録.2330-JP.2
インタビュアー: 姫川カウンセラー
対象: 輿水博士
付記: 前回のインタビューから3時間経過している。輿水博士は比較的落ち着いているように見える。
インタビュアー: 輿水博士、大丈夫でしょうか。
対象: はい。はい。大丈夫です。
インタビュアー: それではインタビューを再開します。
対象: ええ。先ほどは失礼しました。
インタビュアー: いえ、慣れていますので。最初の質問ですが、どのようにSCP-2330-JPと接触したんですか。
対象: SCP-2330-JPと再開した時ですね。あれは、隔離されてから2,3日経過した頃でしょうか。隔離されていた間、私はずっと食糧を与えられていませんでした。私に与えられていたのはSCP-2330-JPの尿だけでした。
インタビュアー: それを飲んでいたと。
対象: はい。ああ、本当に初めてSCP-2330-JPの尿を飲んだ時は酷いものでした。2日でした、私がSCP-2330-JPの尿を飲まずに耐えられたのは。でも、彼女の尿を飲んだ時、本当に、救われたんです。いくらでも飲めました。2日ずっと飲まずにいた聖水を全て飲み干しました。とても幸せな時間でした。そして、飲んだ後、私は収容房から解放されました。私は、その時初めて彼女と会ったんです。とても、とても神々しかった。目に入れても痛くないとはこういうことでしょう。
インタビュアー: なるほど。 それからあなたはどうしたのですか?
対象: もちろん、彼女のことを信奉しました。幸せな時間だった。私は今も、彼女のことを考えています。しかし、幸せな時間は終わるものです。ある日財団本部から通知が届きました、もう数日で救助が行えると。それを聞いて我々は死ぬことを決意しました。当然です。我々は聖水のない人生はもう信じられなかった。救助されれば彼女と引き離されることは必死でした。そんな人生を送る位なら、我々は死んだ方がマシだと。
[6秒の沈黙]
対象: そこからは直ぐでした。我々は彼女の尿を飲むことをやめました。そうすれば、彼女はより多くの聖水を恵んでくださる。彼女の周りに我々は密集しただ耐えました。苦痛でした、ですがその先に待つ幸福の前には些細なことでした。我々誰1人欠けずに忍耐を続け続けました。1日後、女神は我々に大量の聖水を授けられていました。これなら、聖水に溺れることで死ぬことができる。皆が順に聖水に顔を沈めていきました。私も顔を沈めました。とても幸せな時間でした。
インタビュアー: しかし、あなたは今生きているではないですか。
対象: 私は思い出したんです。私は女神、彼女の…。
[10秒の沈黙]
対象: SCP-2330-JPの担当職員です。財団職員です。シェルター内でSCP-2330-JPは明らかに新たな異常性を発現させていました。SCP-2330-JPが新たな異常性を示したなら私はそれを解明しなければなりません。だから生きなければならなかった、死ぬわけにはいけませんでした。
インタビュアー: それでは何故彼女を殺したのですか。
対象: 彼女はずっと苦しんでいました。財団で収容されている間はほぼ自由がなく、シェルター内部では祀り上げられていました。彼女はずっと苦痛だったと思いました。私は彼女のことを救いたかった。だから、殺しました。そして、私は彼女の最後の人間性を見ました。苦しんでいたんです。
[4秒の沈黙]
対象: 私は女神が苦しんでいる様を見て、あの女神ですら生きているんだと安心しました。もちろん女神は死にました。そして、死んだ後、女神は私に最後の恵みを与えました。死後の弛緩によって、聖水を恵んでくださったのです。それは少量でしたが、逃すわけにはいけなかった。私は彼女の下半身に潜り込みました。私は女神の流す最後の尿を接種しました。とても美味しかった、これで私は女神亡き後も生きていけると感じました。あれは紛れもなく聖水でした。だって、彼女は死した後に私に救いを施しました。これを奇跡と言わずなんと呼ぶのですか。死した後に奇跡を起こした彼女を聖人と言わずなんと呼ぶのですか。聖人によって施されたあの水を聖水と言わずなんと呼ぶのですか。
インタビュアー: インタビューを終了します。
補足: 発言内容よりインタビュー中の輿水博士は錯乱状態にあったと考えられます。この後も輿水博士に複数回のインタビューを行いましたが、同様の結果に終わりました。輿水博士から新たな情報を得られる可能性は限りなく低いと判断され、輿水博士はCクラス記憶処理を施された後に解放されました。