クレジット
タイトル: SCP-2379-JP - 必要最低限の偶像
著者:
katata
作成年: 2024
アイテム番号: SCP-2379-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2379-JPの出現地域である長野県██市██村は財団の監視下に置かれています。SCP-2379-JPの出現時期には██村周辺を標準地域隔離手順に従って封鎖し、周囲の上空から撮影された写真及び映像は適宜介入・編集する事でSCP-2379-JPの存在が一般社会に露呈する事を防いで下さい。
また、SCP-2379-JPは日本各地に伝わる『羽衣伝説』との間に見られる多数の共通点から未発見個体が存在する可能性が高いと判断されており、フィールドエージェントによる捜索が続けられています。
説明: SCP-2379-JPは白い着物を着用した人型実体です。現在まで出現したSCP-2379-JPは全て同一個体であると結論付けられており、共通して20代前半のモンゴロイド系女性の外見をしています。SCP-2379-JPは外部からの呼び掛けや接触に対して手を振る・微笑むなどの反応を示しますが、会話の試みには成功していません。
SCP-2379-JPの出現及び地表への到達は、毎年2月12日~17日の期間内に長野県██市██村上空のランダムな地点にて以下の過程を経て進行します。
| 事象2379-JPの進行過程 |
内容 |
| 1 |
██村の上空が直前の天候状態に関わらず晴天となる。 |
| 2 |
高度約300mの地点が黄金色に発光し始め、██村内の人間は微弱なウメ(Prunus mume)の匂いを認識する。 |
| 3 |
光が着物を纏った女性の形状に収束し、強く発光したSCP-2379-JP実例へと変化する。 |
| 4 |
実体化したSCP-2379-JPが足元に薄紫色の雲を生成し、その上を歩く事で██村への移動を開始する。この時発生した雲はSCP-2379-JPの通過後に霧散する。 |
| 5 |
SCP-2379-JPが高度約150m地点に到達した段階で放出される光が弱まり、実体の外見を明瞭に観測する事が可能となる。 |
| 6 |
SCP-2379-JPが高度約100m地点に到達した段階で村内の人間が認識するウメの匂いが増大し、発光するウメの花弁が上空から降り始める。これらの花弁は地面に触れると即座に崩壊・消失する。 |
| 7 |
SCP-2379-JPが高度約50m地点に到達した段階で周囲に█羽のメジロ(Zosterops japonicus)が集まり、SCP-2379-JPの移動速度に合わせて囀りながら飛行する。 |
| 8 |
SCP-2379-JPが地表に降り立ち、ウメの匂い及び花弁の発生が停止する。 |
地表到達後のSCP-2379-JPは██村内を徘徊し、以下の条件が満たされた民家に侵入します。
- 戸口が施錠されていない。
- 室内が清潔に保たれている。
- 室内に神棚が置かれており、塩を盛った杯が供えられている。
- 玄関先にウメの花と注連縄、12本の破魔矢が飾られている。
- SCP-2379-JPの存在を知る人間が滞在している。
侵入後のSCP-2379-JPは地表到達から24時間が経過するまで民家に滞在し続け、最終的に肉体が同体積のウメの花弁に置換されて崩壊・消失します。調査の結果、残留した花弁には異常性が見られませんでした。また、SCP-2379-JPに対する暴行、強引な拘束、及び確保を目的とした接触は実体の瞬間的な崩壊・消失を招きます。
SCP-2379-JPは財団製の人工衛星が撮影した上空写真に写り込んだ事で発見されました。付近のサイトから現場に急行した機動部隊はSCP-2379-JPの収容を試みましたが、実体が即座に消失したため失敗しました。その後の聞き込み調査によって、SCP-2379-JPは村内で『天女様』として信仰の対象となっており、村民達が当該実体に関する一連の事象を伝統行事として違和感無く受け入れていた事が明らかとなりました。
SCP-2379-JPの性質上財団施設への輸送・収容が困難である事、信仰の一環として『SCP-2379-JPの存在を村民以外の者に伝えてはならない』という規則が設けられ、SCP-2379-JPに関する情報が外部に伝達されにくい環境が形成されていた事、及び財団に発見されるまで村内でSCP-2379-JPの自己収容状態が長年に亘り維持されていた事実を鑑みた結果、██村住民への記憶処理は実施されていません。
以下は██村住民へのインタビュー記録の抜粋です。
対象: 里中 喜一氏(43) 飲食店経営
インタビュアー: エージェント・白鳥
付記: インタビューは「対象が経営する飲食店の取材」の名目で閉店後に行われている。また、店内にはSCP-2379-JPが滞在し、対象に提供された食品及び酒類を摂取していた。
<記録開始>
[重要度の低い会話のため省略]
エージェント・白鳥: この店は普段地元で作られたお酒を売りにしているとの事ですが、本日は提供しなかったのですか?
里中氏: そうですね。本日は天女様が居られますから。酔っ払って何か粗相をしでかす事の無いように、今日ばかりは皆も我慢するんです。
エージェント・白鳥: 天女様……というのは、あちらの女性の事ですか?
[カウンター席に座り、店員のお酌を受けるSCP-2379-JPをエージェント・白鳥が指し示す。SCP-2379-JPの周囲には空になった13本の徳利が散乱している。]
里中氏: ええ、彼女が天女様です。綺麗な御方でしょう?天女様はこの村に幸せを齎して下さるんです。今日みたいにお越しになった日は縁起が良いってんで、ウチに来る客も多くて。お陰で今日は忙しい1日になりましたよ。
エージェント・白鳥: それで、彼女にだけはお酒を提供していると?
里中氏: はい。もうすぐ天女様がお還りになる頃なので、今はウチで用意出来る最上級の酒を召し上がって頂いてるんです。幸い天女様もお気に召したようで[SCP-2379-JPが空になった皿を里中氏に差し出す]
里中氏: ああ、ハイハイ。すみませんが、少し失礼しますね。
[SCP-2379-JPが里中氏に提供された料理を受け取り、摂食する]
エージェント・白鳥: [沈黙]………すみません、彼女にお話を伺う事は出来ますかね?
里中氏: いやー、それは難しいでしょう。天女様はもうそろそろお還りになる時間ですから。
[SCP-2379-JPが箸を置き、椅子の上に正座する。直後にSCP-2379-JPの肉体が無数の花弁に変化しながら崩壊・消失する]
エージェント・白鳥: ………えっ?
里中氏: いやぁ、今年も無事天女迎えを終えられました。ありがたい事です。[両手を合わせる]
エージェント・白鳥: 今のは一体?
里中氏: 天女様がお還りになられたんですよ。貴方が見た通りです。
エージェント・白鳥: 還ったとは、何処に?
里中氏: 可笑しな事を聞きますね?天女様が還る場所と言ったら、天以外には無いでしょうに。
<記録終了>
付記: 後に里中氏の自宅及び当該店舗に設置した監視カメラを回収した結果、SCP-2379-JPが里中氏の実子と共に家庭用ゲーム機「████████」を用いて遊ぶ、店内で行われた宴会に参加する等の行動を取る様子が確認されました。SCP-2379-JPの振る舞いが一般的な成人女性のものと完全に一致しており、消失時を除いて異常な点は見られなかった事は特筆に価します。
対象: 飯塚 智子氏(34) 事務員
インタビュアー: エージェント・白鳥
付記: 対象は█年前に██村へ移住しており、それ以前はSCP-2379-JPの存在を認知していなかったと主張している。
<録音開始>
[重要度の低い会話のため省略]
エージェント・白鳥: 飯塚さんがこの村に移住したのは最近であるとの事でしたね。
飯塚氏: ええ、仕事の都合で█年前に。初めは私達家族みたいな余所者がやって行けるのか不安でしたけど、割とすぐ馴染めたんでよく意外がられるんですよ。
エージェント・白鳥: そうですか。ところで、この村では『天女様』という女性が信仰されているようですが、それについて貴女はどうお思いですか?
飯塚氏: いやー、実物を始めて見た時は腰を抜かしましたよ。だってトリックも無しに女の人が空から歩いて来て、しかも目の前で花びらになって消えたんですよ?。……まあ、こんな話を信じろって言う方が無茶だと思いますけど。
エージェント・白鳥: [数秒沈黙]……確かに、かなり奇想天外な話ではありますね。
飯塚氏: 証拠を見せれば貴方にも信じて貰えるでしょうけどねぇ。天女様が来る時と帰る時は写真や動画を撮っちゃいけない事になってるんです。失礼にあたるからって。それ以外の時は大丈夫だし、天女様も結構ノリノリで応じてくれるんですけど。[SCP-2379-JPの写真を差し出す]
エージェント・白鳥: ありがとうございます。
飯塚氏: [数秒沈黙]………天女様が意外と普通の女性で驚いてます?
エージェント・白鳥: い、いえ。決してそんな事は……
飯塚氏: [笑う]ああ、すみません。別に責めてる訳じゃないですよ。前に天女様がやって来た時に私もそう思いましたから。
エージェント・白鳥: やって来た、とは……飯塚さんのお宅にですか?
飯塚氏: ええ、娘が7歳の時に一度だけ。当時は「幸福」って奴を貰えるかと期待したんですけどね。普通にテレビ見て、私達家族と一緒にご飯を食べて、次の日にはそのまま還ってしまいました。私が家事をしてる時に娘と遊んでくれたりはしたけど、神様らしい事は特にしてくれなかったですね。
エージェント・白鳥: 『天女様』が去った後、何か貴女やご家族の身に良い事が起きたりなどは?
飯塚氏: そういうのも無かったですね。ああでも、お迎えの作法を尋ねた事が切っ掛けで近所の人達と仲良くなれたんで、そこはありがたく思ってます。
エージェント・白鳥: 成る程。本日のインタビューは以上になります、ありがとうございました。
飯塚氏: いえいえ、此方こそ。
<録音終了>
対象: 畑山 元長氏(54) 村役場職員
インタビュアー: 源博士
付記: インタビュー当時、源博士は民俗学者に身分を偽装していた。
<記録開始>
源博士: それでは、この村で信仰されている『天女様』について教えて下さい。
畑山氏: 分かりました。天女様は毎年この時期になると村へ降りて来る御方です。きちんと準備をして天女様をお迎え出来た家では、その年に良い事が起こると言い伝えられています。
源博士: 準備……と言いますと、玄関先で拝見した飾りなどがそうなのですか?
畑山氏: ええ。何故かは分からんのですが、ああやって飾り立てた家でないと天女様はお越しになられんようでして。なので、村では毎年この時期になると皆揃って破魔矢やら梅やらを用意する訳です。
源博士: 成る程。随分と熱心な信仰が根付いているのですね。ところで、『天女様』はどのような恩恵を授けて下さるのですか?
畑山氏: え?……いやいや、そう簡単に幸せが訪れるなら世話ないですよ。御伽噺じゃないんですから。
源博士: はい?つまり、天女様とやらを拝んでも何も御利益は無いと?
畑山氏: まあ全く得しない訳じゃないですよ?少なくとも神社と花屋は儲かりますし。後はそうですねぇ、天女様がお越しになった時はご馳走を用意するので子供らが喜ぶのと、我々大人も何となく縁起が良い気分になれます。
源博士: [数秒沈黙]……………それだけの理由で、村の方々は天女様を拝んでいると?
畑山氏: いや、それだけでも別に良いじゃないですか。準備だって其処まで手間や金が掛かる物でも無いし、毎年やって来るのに今更無碍にしたら悪い事が起こるかもしれないし。何より長年続いてきた伝統行事ですから、そう簡単に辞められませんよ。
源博士: 失礼しました。
畑山氏: それに貴女も見たでしょう?この村は山に囲まれてて何にも無いし、最近は子供の数も減って年寄りばっかりだ。天女様をお迎えするのはそんな我々にとっての数少ない楽しみでしてねぇ。何と言うのでしょう、日々の味気無い生活に張り合いが産まれるんですよ。そういう意味では、天女様は我々村人達の心を救って下さっている訳です。
源博士: 成る程。つまり、天女様をお迎えする事自体に意味があって、恩恵の有無は関係無い……という事でしょうか?
畑山氏: まあだいたいそんな感じですかね。少なくとも、私はこの行事を毎年楽しんでますよ?そう言えば4年前は向かいの家に天女様が入らしたので、その時撮らせて頂いた写真が有るんです。天女様に興味があるならお見せしましょうか?
源博士: ええ、是非お願いします。
<記録終了>
補遺: 後に行われた調査の結果、██村では住民同士のトラブルの発生件数が不自然な程少ない事が判明しました。しかしながら、██村住民を対象とした検査では彼等が精神影響を受けた痕跡は確認されておらず、これは共通の対象を信仰するが故の同族意識に起因する物であると推測されています。
ページリビジョン: 2, 最終更新: 27 Feb 2024 07:40