クレジット
タイトル: SCP-2410-JP - Exit
著者: ©︎
nemo111
作成年: 2021
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アイテム番号: SCP-2410-JP
オブジェクトクラス: N/A
特別収容プロトコル: N/A
説明: SCP-2410-JPは二つのオブジェクトに関連した一連の異常現象です。ただし、それらの詳細については明らかになっておらず、既にこれらの異常現象は終息しています。再度の発生の可能性は極めて低いとされていますが、事後調査、並びに情報精査のため、暫定的にプレースホルダーを実施しております。
SCP-2410-JP-A詳細
SCP-2410-JP-A(生理的嫌悪の減少処理済)
SCP-2410-JP-Aは本来所持していたいくつかの異常性が喪失したと考えられるハエトリグモ(jumping spider)に類似した知的生命体です。
位置座標(290.776.643)に存在するポータル付近で発見された当初、SCP-2410-JP-Aは正面の前中眼2つ、背面部の側眼1つ以外の眼が消失しており、異常に発達した毛櫛と、第1脚部にたんぱく質と不明な血液の凝固した混合物が確認されていました。第3脚部は第4脚部と完全に結合しており、SCP-2410-JP-Aの運動能力の殆どを制限しているように見えます。当オブジェクトとは英語を介した相互的なコミュニケーションを取ることが可能であり、対話記録から第五教会との関連性が疑われています。
エージェント・ルドルフ: それで、あなたはポータルを使い逃げてきたと?
SCP-2410-JP-A: はい。あの時、八は明確に五に認知されました。それは違う時代の違う世界の出来事だったのかもしれません。ただ、その時点で七と同じように、八は五にとって注視の対象となったのです。私たちは五を恐れてから、隠れ蓑としての八となるために進化を続けてきました。瞳と脚はそれを終え、中途のものも含め、私たちは完全に五から逃れたはずだったのです。
エージェント・ルドルフ: なぜあなた方は五を恐れたのですか?
SCP-2410-JP-A: つまるところ、呪いです。
エージェント・ルドルフ: 呪い?
SCP-2410-JP-A: かつて私たちは [思案] 己の私利私欲のため、五を利用しました。企みは失敗しましたが、その際に一度、明確に彼女らに認知されたのです。結果として、いくつかの五が刻まれていた私たちは、地獄を彷徨うこととなりました。
エージェント・ルドルフ: なるほど。彼女ら、というと五の中核的なメンバーの中には女性が存在しているのですか?
SCP-2410-JP-A: 中核的? とんでもない。彼女は五そのもので、また、彼女自身が呪いです。今の私を見れば、その意味が分かるでしょう。8つの瞳のうち、5つが焼き爛れ、残ったこの3ですら、その本来の輝きを失いました。脚は磔となり、自らの意思で動くことすら、簡単には今の私には困難でしょう。
[SCP-2410-JP-Aが身じろぎする。2cm程度身体が移動するが、その地点で再び停止する。]
エージェント・ルドルフ: では、その前足は? 見たところ、それも異常な変化を遂げているようです。
SCP-2410-JP-A: 一矢を報いた結果です。ただ、彼女は血液までもが呪術的な意味合いを保有していたようで。その呪いを一身に受けた私の前足は、オールド・ニックの角のように、禍々しい変異を遂げました。私の今のこの姿を、貴方は笑いますか?
エージェント・ルドルフ: 笑う事はありません。ただ、私は少し困惑しています。貴方の身体を見る限り、貴方が五そのものとされる存在に、傷をつけられるとは到底思えないのです。
SCP-2410-JP-A: 合点がいきました。恐らく、貴方がたは私の今の姿が、鏡写しのそれだと思い込んでいる。それは自然な事ではありますが、しかし同時に愚かだと断ぜられる。八が神を殺すように、蜘蛛が理を断つことも道理。貴方がたが今持ち合わせている、神代より続く存在を、自ら否定するのですか?
エージェント・ルドルフ: [沈黙] 失礼いたしました。貴方には、それだけの力があったと。
SCP-2410-JP-A: 最も、今の私はそれだけ矮小であるのでしょう。それは認めざるを得ません。ですから、此処にいるしかないのです。逃げ出す力もないのですから。
[以後、SCP-2410-JP-Aは沈黙し、会話を行うことは無い。]
エージェント・ルドルフ: 調子はいかがですか、SCP-2410-JP-A。
[SCP-2410-JP-Aは第1脚部を地面に引っ掛け、体を引きずるようにしてエージェント・ルドルフの元に移動する。]
SCP-2410-JP-A: 御覧の通り、良いとも、悪いとも言えません。移動が可能になったことは喜ばしいことですが、健在であったころと比較すると、随分と醜い動きとなったのは事実です。
エージェント・ルドルフ: そうなると、あなたは健在であったころ、我々の知るところの蜘蛛と同じように動き回っていたのですか?
SCP-2410-JP-A: そうですね。この脚は山を削り、空を割いておりました。人々は私たちを無辜の怪物と呼称し、恐れ、奉っていたことが記憶に新しいです。
[SCP-2410-JP-Aが第1脚部を持ち上げ、収容室内の天井を指す。特に異常性は認められないものの、SCP-2410-JP-Aは嘆息し、持ち上げた第1脚部を下げる。]
エージェント・ルドルフ: あなたの世界ではあなたは人類に対して明確な脅威であったと?
SCP-2410-JP-A: そう感じていた人々もいたでしょうし、敵対心を持ち合わせていた人々もまた、存在していたでしょう。ただ、私たちはそういった彼らの信仰や [思案] 思い込み、表象、偶像、伝承。そういったものを基準として姿形を変え、存在していました。得てして、超常とはそのような自分勝手に押し付けられ、それを受容していくものなのです。さながら、今の私は呪いという超常を押し付けられたのでしょう。
エージェント・ルドルフ: それならば、私たちに今あなたが蜘蛛のように見えていることに、それは関係があるのでしょうか。
SCP-2410-JP-A: いえ、私が蜘蛛であること、それは原初より存在する明確なイメージによるものですから、覆ることは殆どないでしょう。今はそれすら脱ぎ捨てたくてたまりませんが。しかし、より重要なのは、私があなた方に"それなり"の超常を持ち合わせていた、としか思われていないということです。そちらのほうが、あなた方にとっては都合がよいのでしょうけれども。
[SCP-2410-JP-Aがエージェント・ルドルフより顔をそむける。その後、SCP-2410-JP-Aが発言することはない。]
SCP-2410-JP-B詳細
SCP-2410-JP-Bはイルカ類をモチーフに、スナバコノキ(Hura crepitans)を原材料として製作された宝飾品です。
当オブジェクトはPoI-2939"ノミトカオシズム"のメンバーであったモス・アーケン(mosu,aken)と刻印された木製棺の出土と同時に発見されました。当初、このオブジェクトを除く他の副葬品は著しい経年劣化の影響を受けていたにも関わらず、SCP-2410-JP-Bのみ完全なる状態で発掘された事から、財団の注目を集めました。
SCP-2410-JP-Bは知的生命体が保有した時点で、特定の音波を定期的に発するようになります。これらはヒト科の生物には著しい高音として認知されますが、特定調査によってシロイルカ(Delphinapterus leucas)の鳴き声に類似していることが判明しています。そして当オブジェクトを保有している知的生命体は発生する音波を基にした、反響定位的な物体の認知が可能となります。
結果的にSCP-2410-JP-Bを保有した知的生命体は、現時点で自らが存在している建築物の多くの脱出経路を認知することとなります。その脱出経路は財団サイト内による実験においては設計時に想定されていた脱出方法以外のものも含めて、です。例として、サイト-255内、収容室239の通気ダクトを構成する螺子が緩んでいたことに気が付いた人物は、実験の対象者となったD-9888のみでした。
複数の実験記録が省略されています……
ノミトカオシズム
ノミトカオシズムのシンボルの一つ。人体からの"羽化"を示している。
概要: ノミトカオシズムはイアン・キュージア(ian,kuzia)によって創設された自然的宗教です。彼らの目的は多くの宗教団体と一致する、現実の肉体からの脱却です。この"脱却"という意味の中に、際限は存在しません。ただし、この目的に対して彼らは修験者のような苛烈な修行を実施することはありません。より効果的で、尚且つより即物的な— アーティファクトを用います。そのアーティファクトを製作する、或いは入手する目的で苛烈な体験をすることはあるでしょうが、彼らがそれを苦と感じることはありません。何故ならば、それらの肉体的な、精神的な苦痛からは全て、肉体からの脱却と同時に解放されるでしょうから。
彼らの信ずる神は全て、元はヒトであったとされます。つまり、肉体から脱却された時点でそれは信仰者から信仰対象となりえるのです。それが例え— どのような人物であり、どのような非合法な手段を用いていたとしても。そのため、ノミトカオシズム内にはいくつかの派閥が存在しています。故に、彼らの尻尾を掴んだとしても、核に達することは叶わないでしょう。
つまるところ、彼らの中に教義と呼称されるものは存在していません。ただ、メンバーは口々に、それらが共通認識であるように以下の言葉を発します。
Uncover a covered.(隠された私を暴き倒せ。)
事案SCP-2410-JP
2021/05/28。SCP-2410-JP-A、SCP-2410-JP-B並びにその他複数のオブジェクトが管理されていたサイト-255に対して、致命的な攻撃が実施されました。これらの攻撃の詳細は不明ですが、少なくとも財団職員による収容違反、並びに敵対的勢力による戦闘行為ではないことが確認されています。これによりSCP-2410-JP-A、SCP-2410-JP-Bの消失とサイト職員29名の死亡が認められました。以下は可能部分のみ復元を完了した監視カメラ映像の記録です。
[サイト-255内は警報アラートの赤色の光と桃色の光で照らし出されている。当サイト内の照明器具ではその色相は再現不可能であるため、器具、或いはサイトそのものに何かしらの異常が発生していると推測される。]
[廊下内は各地に焦げ目が見られ、サイト職員の白衣の残骸と、茶緑色の液体が散乱している。それらを避けるようにしてSCP-2410-JP-Bを背負ったSCP-2410-JP-Aが蛇行しながらGゲートへと移動を行っている。カメラ映像の一部が激しく乱れ、Uゲート付近のカメラからの通信が断絶する]
SCP-2410-JP-A: セーフティーゾーンなんて、ありゃしないわけですね。クソが!!
[SCP-2410-JP-Aが数m移動した所で、当オブジェクトを映写していたカメラ映像が激しく乱れる。SCP-2410-JP-Bの音波が発生する。]
SCP-2410-JP-A: ああ [嘆息] なんて、悪趣味な。
[Gゲート付近のカメラからの通信の断絶が確認される。SCP-2410-JP-Aは移動ルートを変更するが、複数のゲート付近のカメラの通信の断絶が認められた時点で、ライト博士のオフィス内へと侵入する。]
[SCP-2410-JP-Aは第1脚部をフックのように用いてライト博士の業務机の上まで登頂し、停止、沈黙する。]
[炸裂音。クラスター爆弾の爆発音に類似しているが、サイト-255にそういった装備は認められていない。SCP-2410-JP-Bの音波が発生する。]
SCP-2410-JP-A: 正気? その脱出経路は [思案] 理論的には可能ですが。本当に?
[SCP-2410-JP-Aが移動を再開する。業務机上のパソコンの目の前に位置し、再び停止する。SCP-2410-JP-Aは困惑する様子を見せている。SCP-2410-JP-Bの音波が発生する。]
SCP-2410-JP-A: 確かに成功さえすれば最も手っ取り早く逃げおおせた上で、信徒を集めることができますが。私に、また1と0からやり直せと?
[ライト博士のオフィスを除いた全施設の監視カメラの機能停止が認められる。SCP-2410-JP-Aはパソコンのモニターに第1脚部を接触させる。パソコンが起動し、不明なバイナリ配列を映写する。]
SCP-2410-JP-A: ああ、もう、考える時間はないのですね。Uncover a covered。ピエロにだってなってやりますよ。
[全ての監視カメラ映像が停止する]
付記: ライト博士のオフィス内を調査したところ、復元したパソコンのデータ内からいくつかのYoutubeアカウントが発見されました。これらの作成日時は事案SCP-2410-JPの発生時刻と重なっており、それらと当事案との関連性の調査が進められています。
ページリビジョン: 8, 最終更新: 21 Feb 2024 12:27