SCP-2414-JP
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SCP-2414-JP

アイテム番号: SCP-2414-JP

オブジェクトクラス: Euclid Neutralized

特別収容プロトコル: ████山へ進入可能な全ての道を封鎖し、カバーストーリー「土砂崩れによる通行止め」「熊頻出による立ち入り禁止区域」を同時展開してください。SCP-2414-JPを中心とした半径300mには鉄製のフェンスを設置し、四人以上の監視員を常駐してください。

説明: SCP-2414-JPは██県████山の中腹に存在する山小屋です。一般的なものと同様に丸太を用いて建築されており、外見上は非異常のものと大差ありません。

SCP-2414-JP内部の照度は不明な要因によって0.1 μlx以下で維持され続けており、懐中電灯といった光源を使用しても発された光が直ちに周囲に吸収され、全く照らすことが出来ません。また、SCP-2414-JPへの入室は後述するSCP-2414-JP-1の許可が必要であり、許可の無い入室の試みは唯一の出入口となる扉が完全に小屋と固定されることで阻まれます。

SCP-2414-JP-1はコーカソイド系の男性で、見かけ上は80代のように見えます。身長は170 cmほどで、毛髪はなく、顔や手に多くの老人性色素斑が散在しています。殆どの場合に於いて、SCP-2414-JP-1はSCP-2414-JPの周辺に存在する倒木の上に腰掛けています。

SCP-2414-JP-1は周囲の人間(以下、対象)をSCP-2414-JPへと入室するように促します。この際、SCP-2414-JP-1は不明な基準によって何らかの選定を行っており、時には入室を希望する対象を拒否する場合もあります。入室を許可する対象は最大で一名までであり、同時に二人以上をSCP-2414-JPへと誘致したケースは確認されていません。対象がSCP-2414-JPに入室した後、続いてSCP-2414-JP-1もSCP-2414-JPへと入室し、その後扉が自発的に閉まります。

SCP-2414-JP及びSCP-2414-JP-1は、当時休暇中であった大崎博士によって偶発的に発見されました。大崎博士は趣味のハイキング中であり一般的なルートから隠れるように位置していたSCP-2414-JPと、登山時と下山時で一切様相が変化していないSCP-2414-JP-1に違和感を抱いたため、SCP-2414-JP-1との接触を図りました。その結果SCP-2414-JPの異常性が露呈し、大崎博士を通じて財団の知るところとなりました。

以下は当時の大崎博士とSCP-2414-JP-1の初期接触記録です。

補足: この記録は大崎博士が持つ私用の携帯電話を用いて記録されました。


[記録開始]

[大崎博士が落ち葉や枯れ枝を踏みしめ、パキパキと音が鳴る]

大崎博士: あー、こんにちは、ご老人。今日は最近では珍しい暖かな気温で過ごしやすいですね。

SCP-2414-JP-1: 若造が儂に何の用だ?

大崎博士: 私が山を登りきってから降りる今まで、貴方の姿勢がピクリとも変化しなかったものですから、何か体調を崩しているのかと心配になってお声がけさせていただいた次第です。

SCP-2414-JP-1: 心配だと?……まぁ心配か。一応、ありがとうと言っておくよ。こうハッキリと会話できていることから、老いぼれが今にも死にそうで動けなくなっているといった選択肢が、おまえさんの頭の中から消えることを願うよ。

大崎博士: 気を悪くしたのであれば謝ります。申し訳ないです。

SCP-2414-JP-1: いや、謝る必要など無い。寧ろお礼を言いたいくらいさ。儂はとある人を探していてね。

大崎博士: 誰をでしょうか?

SCP-2414-JP-1: この小屋の中に入ってくれる人をさ。ほら、ここに……

[SCP-2414-JP-1がSCP-2414-JPの扉を開ける。扉は軋み、甲高い音が鳴る]

大崎博士: この山小屋、不自然な程に暗すぎませんか?何も見えない、真っ暗。陽の光が一切差し込んでいないのはいくら何でも……

SCP-2414-JP-1: そうさ、暗くないと意味が無い。何も見えず、何も分からない。おまえの腹ん中みたいにな。分かるのは壁と床の確かさだけさ。おまえさんは、ただ壁を伝いながらぐるぐると回ればいい。若造なら先の見えない中で紐を辿るのは得意だろう?ましてや登山家なら!

[大崎博士はズボンの上から緊急連絡用発信機のボタンを押下する。この時点で財団へSCP-2414-JP及びSCP-2414-JP-1の詳細な場所とこの会話が共有される]

大崎博士: 貴方は何者なんですか?

SCP-2414-JP-1: おまえさんが決めただろう?老いぼれとな!でもな、あぁ、儂の名前など儂さえも忘れてしまった。儂の名前は忘れているが……。まぁいい。それで、おまえさんは入ってくれるのか?入ってくれるよな?

大崎博士: ご老人、申し訳ありませんが私はその中に入る勇気などありません。ですが、代わりといえばなんですが、近いうちに私の部下がその中へと入室することになると思います。

SCP-2414-JP-1: 何を言ってる?ここには儂とおまえさん以外に誰がいる?重要なのは変わらずして今。ぼうぼうと生えるこの草たちも、どっしりと腰を下ろしている大木も、お前が小屋に入るべきだと言っている。なぁに心配はいらない、少しの間だけさ。なぁ?

大崎博士: 申し訳ありませんが……

SCP-2414-JP-1: いやちょっと待て。おまえさん、本当に資格が無いかもしれないな。

大崎博士: 資格?

SCP-2414-JP-1: うん、うん。やっぱりそうだ。おまえさんがこの小屋に入ることはない。まだ間に合うと言えば間に合うが……。

大崎博士: よく分かりませんが、私は何か条件を満たしていないのでしょうか。私としては大変助かりますが。

SCP-2414-JP-1: 今どき珍しいなぁ、おまえ。笑っちまう!笑っちまうくらいだ。とにかくおまえさんじゃ何も育たない。じゃあな、若造。全ての深緑はおまえに帰れと囁いているぞ。

[風が吹き葉擦れが鳴る。それを除けば大崎博士が落ち葉を踏みしめる音しか聴こえない]

[記録終了]

財団はSCP-2414-JP-1との初期接触後、応急的な特別収容プロトコルを施し、SCP-2414-JP及びSCP-2414-JP-1の異常性解明を目的とした実験が計画されました。なお、SCP-2414-JP及びSCP-2414-JP-1に関する情報は財団データベースや公的機関に記録されておらず、SCP-2414-JPの建築時期といった事前情報は一切収集できませんでした。

以下はSCP-2414-JP内の探索を目的とした調査記録です。

補足: 調査は███博士がD-18830にインカムで指示する形で行われました。また、D-18830には標準的な記録機器の他にGPS、携行食、懐中電灯、暗視装置、自爆装置を携帯させています。

また、D-18830には現時点で判明しているSCP-2414-JP及びSCP-2414-JP-1に関する情報を全て説明していますが、接触時にはあくまでも何も知らない一般人を装うように指示しています。


[記録開始]

[D-18830が枯れ枝を踏みしめ、パキパキと音が鳴る]

D-18830: 山登りなんて小学生以来だよクソ。足場は悪いし草はうぜぇしでダルすぎる。……もう少ししたら右か?

[しばらくして、D-18830がSCP-2414-JP-1を発見する。SCP-2414-JP-1はSCP-2414-JPの前に転がった倒木に腰掛けている]

D-18830: はぁ、やっと見つけた。今から接触するぜ。……おーい!じいさん、ちょっと聞きたいことがあるんだが。

SCP-2414-JP-1: うるさいぞ、若造。ピーナッツのように儂に耳がついてないとでも思っているのか?それともおまえさんは炭鉱夫なのか?

D-18830: 何訳分かんねぇこと言ってんだ。ちょっと山頂までの道を教えて欲しいんだけど、いいか?

SCP-2414-JP-1: 道なりに進めばいいだろう?ここらは獣道も無いから安心しろ。産まれたての子犬でも登ることはできるさ。

D-18830: あーそうかい、ありがとな。で、じいさんはこんな所で何してんだ?

SCP-2414-JP-1: ハハハ、あまりにも雑すぎるぞ若造。嘘を編む時は相手に最大限バレないよう、話の変化は穏やかな川のように、ゆっくりと方向を変えるべきだ。

D-18830: ……ちょっと何言ってるか分かんねぇな。じいさんはここで何やってんのかって聞いてんだ。

SCP-2414-JP-1: まぁいい。儂もその方が都合が良いからな。で、何をやっているかだって?そんなの決まってる。家を守ってるだけさ、いつものようにな。それで、おまえさんはこの家に寄っていくのか?

[SCP-2414-JP-1がSCP-2414-JPの扉を開ける。内部は依然暗闇で確認できない。D-18830はインカムでSCP-2414-JPへの進入を指示される]

D-18830: じゃあちょっくら休憩させてもらうとするかな。でもよじいさん、これじゃ真っ暗すぎてどう寛げばいいのか分かんねぇよ。照明とか無いのか?てかそもそも今は昼だろ。なんでこんなに暗ぇんだ?懐中電灯もほら……全く意味がねぇ。

SCP-2414-JP-1: 意味の無い問いは意味の無い時間を噛み締めるだけだ。なぜ暗闇かなど明らかだろう?全てを見通すためだ。

D-18830: 答えになってねぇよじいさん。とりあえず入るぞ。……なんか、なんか妙に湿度が高い。それに……獣くせぇ。

[D-18830に装着された暗視カメラを含む全ての映像機器は、D-18830が扉を通過した時点で機能不全になる。ただし赤外線カメラだけは、一瞬だけではあるものの、機能が完全に停止する前に2つの熱源がSCP-2414-JPの奥側に存在するのを記録した]

SCP-2414-JP-1: そりゃあ獣道が無かったからな。いいか?おまえさんはここの角から真っ直ぐ歩けばいい。壁を伝ってな。床の確かさを足裏で読み取りながら、一歩ずつ。そうすれば、孤独は孤独ではなくなる。指標が見つかる。

D-18830: つまり?

[SCP-2414-JP-1がD-18830の肩を叩く]

SCP-2414-JP-1: とにかく歩け。まずはそこからだ。トントントン。

D-18830: ただ真っ直ぐ歩けばいいんだな?……やっぱ暗すぎて何も見えねぇ。

[D-18830が歩を進めるたび、ミシミシと床が軋む音が鳴る]

D-18830: 湿度高ぇ。気味が悪ぃしもう帰りてぇよ。……良いか?

[███博士がD-18830の申し出を拒否する]

D-18830: だろうな。流石に早すぎるか。

[D-18830が歩を進める。ミシミシと音が鳴る。反対方向の角まで辿り着いた時、何かと衝突する]

D-18830: うおっ、なんだ?何かとぶつかったぞ!……腕が折れたかもしんねぇな、こりゃ。

[ミシミシと床が軋む音が鳴る。また、不意にD-18830の間近から声が聞こえる。それはSCP-2414-JP-1のものではなく、声質だけで判断するならば若い男性のもののように思える。以下、不明(男)と呼称する]

不明(男): これはこれは勇敢なる若人さま。あの親父にこのような、海底に沈んだ牢獄みたいな小屋に閉じ込められたのでありますね?なんと可哀想なことでしょう!

D-18830: だ、誰だお前!それ以上近づくんじゃねぇぞ?俺の身体に触れた瞬間殴り殺してやるからな。

不明(男): おお!わたくしの小汚い身分で貴方さまの身体に触れようなどと、そんな驕った考えはこれっぽっちも持ち合わせておりません!そもそも、貴方さまは役目を果たしております。

[ミシミシと床が軋む音が鳴る]

D-18830: 役目とは、なんだ?

不明(男): わたくしに触れることであります。わたくしは行きますが、貴方さまはまだここにいてくださいまし。それでは。

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イメージ図-1

[ボールが跳ねるような、一定間隔で床を蹴る音が鳴る]

不明(男): 堅物な親父は歯車になる。一人では回れないサビサビの歯車!願いを込めて目を閉じても所詮無駄なことだと分かっているのさ。何故かって?それは金貨さえも実らないと知っているから!なんて憐れな親父と息子でしょう。私は面白いがために回ります。それそれいけいけトントントン。

D-18830: どういうことだ?俺はここにいりゃいいのか?

[吸盤が地面に吸い付くような、一定間隔で床を歩く音が鳴る。これは前述の床を蹴る音よりも間隔が狭い]

[D-18830の反対方向(つまりSCP-2414-JPを俯瞰した際の左下)から声が聞こえる。声質だけで判断するならば、若い女性のもののように思える。以下、不明(女)と呼称する]

不明(女): 残念なことに目を開けたとて依然暗闇は続きます!盲目は貴方たちでした。ここはサメの腹の中でも何でもない、ただの寂しい侘しい山の小屋。それでもここから出られない。何故かって?外に出てしまったら背けるべき輪郭まで浮き出てしまうから!なんて愚かな親父と息子でしょう。私は前足のために回ります。それそれいけいけトントントン。

D-18830: もう一人いるのか?分からないが、とにかく気味が悪い。早いところ帰還したいが、お偉い様方はそう易々と帰してくれないだろうなぁ。なぁ?

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イメージ図-21

[███博士は充分な記録が集まった場合もしくはD-18830が危害を被ると判断した場合には即時帰還命令を下すことをD-18830に約束する。また、D-18830が安全に帰還できるようできる限りのサポートを行うことも同様に約束する]

D-18830: けっ、嘘つくんじゃねえよ。こんな首輪付けといてよぉ。

[ミシミシと床が軋む音が鳴る]

D-18830: ……この音はなんだ?誰かが歩いて鳴らしているものじゃなさそうだが。これは……中央から聴こえるのか?恐らくそんな気がする。俺は、俺はいつまでここに居ればいいんだ?

[十数秒間の間、ごく僅かに床が軋む音が断続的に鳴る。D-18830はこれに気が付かない]

D-18830: 静かだ。

[静寂が数十秒間続く]

D-18830: あのジジイやさっきの男は俺に何をさせたいんだ?目的がまるで分からない。暗闇の山小屋を壁伝いに歩かせて人に触れたところで、何が変わるって言うんだ?

[中央の軋む音とは違う、踏みしめるような音が段々とD-18830に近づく]

D-18830: ちょっと待て、これは足音か?誰かが俺の方に向かってくる。……逃げた方がいいか?おい、判断しろ!

SCP-2414-JP-1: 儂から言わせて貰うと、できる限り居て欲しいがな。

D-18830: うおっ!じいさんか。いきなり話しかけないでくれ。ビビるじゃねぇか。

SCP-2414-JP-1: この調子で歩んでくれ。今度は左方向に、だ。またあの外道な獣の肩を叩け。

D-18830: 小屋を回ればいいってことか?

SCP-2414-JP-1: 頼むぞ。……それでも儂はもう一度、この手で包みたかったんだ。それそれいけいけトントントン。

[D-18830が左方向へと真っ直ぐ歩む。床が軋む音が木霊する]

D-18830: なんなんだあの掛け声は。あと獣……だっけか?まさか人じゃねぇのか?分かんねぇ。とりあえずもうそろそろ端に着くはずだが。あぁ、いた。

不明(男): ようこそおいでくださいました!この小さな檻の奇妙なルールはお分かりになられましたか?そうです、光を照らし照らされた月日のように、ぐるぐると回ればいいだけなのです。右足の次は左足を、左足の次は右足を前に出すだけ。私の肩に手を当てるだけ!さて、掛け声は?

D-18830: それそれいけいけトントントン?

不明(男): 素晴らしい!それでは私は先へと急ぎます。邂逅と決別は不可逆であり、それに逆らうのは草花や海原と同じでは無いのは明らかでしょう?

[ボールが跳ねるような、一定間隔で床を蹴る音が鳴る]

D-18830: ……アイツの肩、やっぱり毛並みがあった。

[D-18830とSCP-2414-JP-1、不明な男女は前述の移動をただ続けていく。D-18830は終わりの見えない、変化のない現状に焦燥を抱く]

SCP-2414-JP-1: それでも儂はもう一度、あの子に梨を食べさせたかった。それそれいけいけトントントン

D-18830: じいさん!俺は一体いつまでこのサークルゲームを続ければいい?俺だって暇じゃねぇんだ。そうだ、山頂に行かなくちゃならねぇんだ。

[ミシミシと床が軋む音が鳴る]

SCP-2414-JP-1: そうだな若造。おまえさんは充分に栄養を与えてくれた。儂としちゃまだまだ回っていて欲しいが、おまえさんがそう言うなら仕方がない。出口は分かるか?灯火を感じる方へ進めば出られるさ。

D-18830: 灯火なんて言われてもこの暗闇にそんなものは存在しねぇ。連れて行ってくれよじいさん。

SCP-2414-JP-1: おまえさんの世界なのにおまえさんは帰られないのか?家に嫌われた家主は大変だな。こっちにこい。足音で儂の場所は分かるだろ?それとも子供みてぇに手を繋がんと駄目か?

D-18830: 馬鹿にすんなよジジイ。手は繋がなくていい。

[D-18830はSCP-2414-JP-1の足音を辿りながら扉の方向へ帰ろうとする。2人はSCP-2414-JPの縁に沿って歩く]

[扉へと向かう途中、███博士からSCP-2414-JPの中央に進むよう指示される。D-18830は若干の戸惑いを見せるが、指示に従う]

D-18830: まぁじいさんの足音は離れていても割と聴こえるからな。目印は見失わねぇ。それに首輪を爆発されてもかなわねぇし。……今から真ん中へ行く。

[D-18830が中央方向へと真っ直ぐ歩む。SCP-2414-JP-1に気づかれないよう、床の軋む音が最小限になるよう努めている。しばらくの後、D-18830が何かと衝突する]

D-18830: 痛ってぇ!……何だこれ。硬い、ザラザラした何かがある。引っ掻くとボロボロと崩れるぞ。脆い瘡蓋のような……。これは、木か?割と細いな。バスケットボールくらいの太さだ。

SCP-2414-JP-1: おい若造。

D-18830: おぉうわっ!……あー、すまねぇじいさん。迷っちまってよぉ、やっぱ手を繋がねぇと駄目だわ。

[ミシミシと床が軋む音が鳴る。それは中央──つまり木から聴こえる]

SCP-2414-JP-1: 儂の息子に触るな。

D-18830: あ?

[重厚な金属が高速で振られた時のような重く鋭い音と、小枝が折れた時のような高く小さな音が同時に鳴る。遅れて排水溝が溢れかえった時のような水音。D-18830のバイオセンサーは「否」を出力する]

[記録終了]

D-18830のバイオセンサーが「否」を出力した数秒後、突如SCP-2414-JPの扉が開き、D-18830の死体を引き摺ったSCP-2414-JP-1が現れました。SCP-2414-JP-1はD-18830の死体を目前に放り投げると、発見当時と同じように倒木へ腰掛けました。D-18830は頭部と身体が切り離されており、回収後の検査によって、斧のような重量のある鋭利な刃物で切断されたことが判明しています。また、状況からSCP-2414-JP-1がD-18830を斬殺したと結論付けられました。

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イタリアカサマツ(参考資料)

死体回収後、D-18830の手の爪の間からはイタリアカサマツ(Pinus pinea)(以下、松)の樹皮が検出されました。これにより、中央の樹木は松であると推定されています。

その後のDクラス職員を用いた複数回の内部調査結果から、SCP-2414-JP-1が対象に対して敵対的になるトリガーは中央に位置する松への接触であることが確定しました。松へ接触した対象は例外なくSCP-2414-JP-1によって斬殺されています。一方で松へ接触せずにSCP-2414-JP内を周回し、退出時も素直にSCP-2414-JP-1の指示に従った対象は全員生還しています。このことから、SCP-2414-JP-1は対象に対して積極的な害意を抱いてはいないと推測されています。

また内部調査を重ねる毎に対象が報告する松の大きさが増大しています。増大率と内部調査実施のスパンが比例していないため、対象がSCP-2414-JP内で何らかの条件を満たし、松が"成長"したと考えられています。なお、内部調査で度々記録されている「床が軋む音」は"成長"によって松と床板が擦れた音である仮説が有力視されていますが、SCP-2414-JPの異常性からその"成長"する瞬間は記録できておらず、確証は得られていません。

なお、SCP-2414-JP-1が行うSCP-2414-JPへの進入を希望する対象に対する選定基準や不明な男女の正体については依然明らかとなっていません。今後の調査ではこれらの不明点を解明することが主な目的となっています。

事案1: 16回目の内部調査中に、松からの軋む音がこれまでに記録されたそれよりも明らかに大きくなり、多くの木材が破壊されるような音が立て続けに確認されました。異常事態を感知した担当職員はSCP-2414-JP内に滞在していたDクラス職員へ即時帰還命令を下し、Dクラス職員はこれに従いました。

Dクラス職員がSCP-2414-JPを退出した直後、SCP-2414-JPの屋根が崩壊しました。SCP-2414-JPの建端より大きく樹冠が露呈していた状況から、松が樹高を伸ばし"成長"したことで突き破られたと考えられています。

一連の異常事態が収束した後に、事後調査としてDクラス職員にSCP-2414-JP内への進入を指示しました。SCP-2414-JPの扉はSCP-2414-JP-1の許可を得ていないにも拘わらず容易に開き、また、内部の原因不明な暗闇も完全に解消していました。また、中央に位置する松は小児体格の人型状にくり抜かれていました。

SCP-2414-JP内からは以下のアイテムが発見されました。

  • 錆びた斧
  • 幾つかの薪の束
  • 狐と猫の動物毛
  • 頭蓋骨を陥没させた白骨死体(体格からSCP-2414-JP-1だと推測される)
  • 録音機器

SCP-2414-JP内で発見された録音機器は事案発生時のDクラス職員が所持していたものです。SCP-2414-JP外へと脱出する際に誤って落としたものと思われます。録音機器は常時起動しているため、担当職員は事案発生時の内部の状況が記録されていると考え、これを厳重に保管・移送し、財団施設の記録試聴室で再生させました。

以下は、当該録音機器に記録されていた内容の書き起こしです。

[省略]

[中央からバキバキと複数の木材が破壊されるような音が鳴り続ける。異常事態であるのを察知したD-██████は███博士に、SCP-2414-JPからの退出を懇願する]

[███博士はD-██████に即時帰還命令を下す。D-██████は扉を直ぐには発見できなかったが、現場で指揮を執っている███博士の大声を指標として扉を探し出し、結果成功する]

[突如、何かと衝突するような鈍い音が記録される。これはD-██████が録音機器を誤って落とした際に発生したものであると思われる]

[指揮を執る███博士の肉声と松がSCP-2414-JPを破壊する音を除けば、SCP-2414-JPはほぼ無音になる]

SCP-2414-JP-1: やっとこの牢獄から抜け出せたんだな、おまえと儂は。今日を誕生日としようか?

[従来の調査記録で記録された不明な男女とは違う新たな人物が、SCP-2414-JP-1の言葉に返答する。声質だけで判断するならば、変声期前の男児のもののように思える。以下、SCP-2414-JP-2と呼称する]

SCP-2414-JP-2: おじいさん、どうしてあんなヤツらの言うことなんて聞いちゃったの?僕がアイツらに散々酷い目に遭わされたのは知っているでしょ。何を奪われるか分かったもんじゃないんだ。僕だって、おじいさんに迷惑を掛けてまで生き返りたい訳じゃない。

SCP-2414-JP-1: それでも儂はな、おまえに帰ってきて欲しかったんだ。確かにこれは儂の我儘なのかも知れん。でもな、人間の子供のような生活をさせるとお前に誓ったクセに、満足に生かせてあげられなかったのは許せなかった。

SCP-2414-JP-2: 嬉しいけど、やっぱり悲しいよおじいちゃん。死人は生き返らせちゃダメなんだ。それがまかり通るなら、今頃この世は骸骨共のパーティ会場になっているはずさ。

SCP-2414-JP-1: その通り。おまえは儂の轍を辿るんじゃないぞ。この山を抜けて、広い海に出て、色々なことを学び、成長するんだ。それこそ御伽噺のように!儂みたいに、息子を働かせて楽をしようといった腐った性根を持ってはいかんよ。

SCP-2414-JP-2: そんなこと言わないでおじいさん。僕にとっておじいさんは、世界で一番大好きな人なんだ。例えおじいさんと一緒に過ごすことでパウンドケーキやビスケット、ウエハースのような、ううん、世界中の、全てのお菓子が無くなってしまうとしても、僕はおじいさんを選ぶよ。約束する。

SCP-2414-JP-1: ハハハ、ありがとう。……もうすぐ暗闇が晴れる。おまえと決別しなきゃならん。儂がおまえの足枷になってはいかんからな。

SCP-2414-JP-2: そんな、やめてよ!おじいさん、一緒に行こうよ!

SCP-2414-JP-1: 儂はな、手を汚しすぎた。このままごとみたいな回り道で、この小さな小さなおまえと儂の家で、すっかり迷いきってしまった。儂だって愛しい息子と離れ離れになるのは悲しい。でも、これが最善なんだ。分かってくれ。

SCP-2414-JP-2: 僕、おじいさんに何もしてあげれていないのに。こんなにカッコイイ顔も、器用な手も、スラッとした足も、自信に満ちた胸も作ってくれたのに!

SCP-2414-JP-1: そうか、じゃあ一つ頼んでもいいかい?

SCP-2414-JP-2: なぁに、おじいさん。

SCP-2414-JP-1: 肩を叩いてくれないか?おまえさんがこの家を出て行ってから、親子らしいことにずっと憧れていたんだ。

SCP-2414-JP-2: うん、分かった。分かったよおじいさん。……それそれいけいけトントントン。

SCP-2414-JP-1: 天才的な肩たたき具合だ!おまえは本当に良い子だよ。

SCP-2414-JP-2: へへ、僕、上手でしょ。トントントン、トントントン、トントントン……

SCP-2414-JP-1: あぁ、本当に上手だ……。

[毛布が沈むような軽い音が継続的に鳴る]

SCP-2414-JP-1: いつまでもいつものように健やかであるようにな。自分の看病のやり方も知らないだろう?

SCP-2414-JP-2: 僕がそんな軟な身体をしている筈がないでしょ!おじいさんは昔から心配性なんだって。

SCP-2414-JP-1: おまえは昔からそそっかしいところがあるからな。ドブに落ちた回数なんて片手で数えられん。

SCP-2414-JP-2: いいや、そんなことないもんね!あっても二回くらいだよ。

[ミシミシと床が軋む音が鳴る]

SCP-2414-JP-2: この木偶の坊!なんで反応しちゃうかなぁ。

SCP-2414-JP-1: ハハハ、おまえの片割れは嘘だと言っているぞ。一周回って純粋な子だ。

SCP-2414-JP-2: そりゃ一周"廻った"からね!

[SCP-2414-JP-1とSCP-2414-JP-2の笑い声が響く]

SCP-2414-JP-1: 久しぶりに笑ったな、儂もおまえも。……もう手を止めていいぞ、疲れただろう?

SCP-2414-JP-2: まだまだいけるから!トントントン、トントントン、トントントン。

SCP-2414-JP-1: やめなさい。おまえは良い子じゃなかったのかい?

SCP-2414-JP-2: だって、だって!

[静寂]

SCP-2414-JP-1: 頼む。太陽は顔を出すべきだ。

SCP-2414-JP-2: ……うん、ごめんね。おじいちゃん、今までありがとう。

SCP-2414-JP-1: 可惜夜のその先で会えることを夢見て。さようなら我が息子、大嫌いだぞ。

SCP-2414-JP-2: さようなら、大嫌いでした!

[バキバキと一際大きな破壊音が轟く。SCP-2414-JPの屋根が崩壊し、松の樹冠が完全に外部へと露呈する]

[記録終了]

事後調査の結果、SCP-2414-JPは完全に異常性を喪失していることが判明しました。これを受け、SCP-2414-JPのオブジェクトクラスはEuclidからNeutralizedへと変更されました。なお、SCP-2414-JP-2に関する情報は上記の録音記録を除けば、一切得られませんでした。

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