イベント-2418-JP最中のSCP-2418-JP
アイテム番号: SCP-2418-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2418-JPは左足首にGPS機能付きのタグを取り付けて、1km2×200mの生物収容セクターに収容してください。収容セクターは常に湿原と森林を模した環境を整えられなければなりません。担当職員は定期的に食用の木の葉/草/樹皮と水分を供給し、SCP-2418-JPの健康状態を一定に保ってください。SCP-2418-JPが所望する物体は、収容違反を誘発すると考えられるものでない限りは与えることが許可されています。
イベント-2418-JPへの干渉はその一切が認められていません。イベント‐2418-JPで建設された建造物は定期的に全潰して収容セクターにスペースを作ってください。
説明: SCP-2418-JPは異常性を有するアメリカビーバー(Castor canadensis)です。姿形や遺伝子面では通常個体との差異は見受けられません。SCP-2418-JPは学生程度の知能を有し、文字/言葉などは有していませんが、他個体/他生物とジェスチャーによる意思疎通を行うことが可能です。
SCP-2418-JPの異常性は、SCP-2418-JPが日常的にイベント‐2418-JPを行う点にあります。イベント-2418-JPはSCP-2418-JPがSCP-2418-JP-Aを用いて建築を行う行動です。建造物によって異なりますが、その期間はおよそ1ヶ月〜2年の歳月を要します。これは人間による建築速度と比較すると非常に速いといえますが、それはSCP-2418-JPがイベント-2418-JPの際に最低限の休憩しか取らないことによると考えられます。またSCP-2418-JPは目についたものをSCP-2418-JP-Aで加工するなどで建材として建築に用いる習性があります。
SCP-2418-JP-Aは当該アノマリーが作製した異常性を有する木製の工具です。SCP-2418-JP-Aは未知の加工技術で作製されており、その全てがモチーフとなった通常の工具と同様の挙動を見せます。また電気工具がモチーフになったSCP-2418-JP-Aも電気エネルギーやそれを代替するエネルギーが存在しないにもかかわらず、元となった道具と同様の挙動を見せます。
イベント‐2418-JPにおけるSCP-2418-JPの建造物は竪穴式住居から高層ビルなど、その種類は多岐にわたります。なおそれらすべてが建築理論上非常に理にかなった状態で建築されていることが判明しています。また水上/水中における建築に関しては人間の建築学理論を十分に上回ることが確認されています。
以下はイベント‐2418-JPに関する実験です。
実験記録-2418-JP
対象: SCP-2418-JP個体43匹
実施方法: 収容室にいくつかの物品を放置し、その後の様子を観察する。
結果: 実験開始直後、SCP-2418-JPの一個体が地面に木の枝を用いて簡易的な設計図を書きだしました。その後全個体で1時間弱のコミュニケーションを取り合いました。以降SCP-2418-JPはSCP-2418-JP-Aを巣から取り出す;巣内に用意されていた建材を持ち出す;放置した鉄パイプや木材を外装材として利用する;瓦数枚をモチーフにして、石板を加工するなどして必要枚数の瓦を用意する;繊維製品を内装として用いるなどの行動が見受けられました。また特筆すべき点として、SCP-2418-JPは静音ドリルを観察やSCP-2418-JP-Aを用いるなどして静音ドリルの構造や原理を理解し、静音ドリルをモチーフにしたSCP-2418-JP-Aを1時間程度で作成しました。また同じ挙動がスマートフォンでも見られましたが、内部の電子基板などを内装に用いるだけにとどまりました。最終的にSCP-2418-JPは二階建ての一軒家を建築しました。なお完成直後、SCP-2418-JP同士で建造物の完成を祝っている様子が確認されています。
分析: 一連の流れで、SCP-2418-JPは分業を行なっているところが確認されました。またSCP-2418-JP-Aの利用者も個体ごとに決まっていることが判明しました。これらの分担方法は自然界においても違う形で見られるものであるため、非異常性だと断定します。しかしこの分担方法が建築理論学上理にかなった形であることは着目すべきです。なお本実験における建築期間は4か月程度であり、これはSCP-2418-JPが人間よりも体格が小さいことを考慮しても、異常な建築速度だといえます。またSCP-2418-JPが建築を行っている間、平時よりも脳の処理速度が上がっていたことが報告されています。このことからSCP-2418-JPは建築中に知能が上昇していると予想されます。
発見経緯: SCP-2418-JPはアメリカ合衆国の株式会社”BEAVER COMPANY”の調査の際に、数体のSCP-2418-JPの遺体とともに発見されました。
調査の結果、当該企業においてSCP-2418-JPの存在は”BEAVER COMPANY”の社長であるロイ・フォレスト氏(以下はフォレスト氏と表記)のみが認知していました。他の雇用者は事務職員としてのみ活動していて、フォレスト氏からはSCP-2418-JPの存在を伝えられておらず、SCP-2418-JPの存在を全く認識していなかったことが判明しています。
SCP-2418-JPの存在が財団によって確認されたのち、フォレスト氏に対する尋問/インタビューが行われました。以下はフォレスト氏に対するインタビュー記録です。
対象: フォレスト氏
インタビュアー: レイク博士
<録音開始]>
レイク博士: それではインタビューを開始します。
フォレスト氏: [数秒間の沈黙]……ああ。
”
レイク博士: 貴方が会社で利用していたあのビーバーについて、その全てを子細に伝えて下さい。
フォレスト氏: [数秒間の沈黙]……俺があいつらに出逢ったのは5年くらい前のことさ。そのときの俺は、大手土木企業に設計士として10年くらい勤めていた。俺の家は湖の近くで、その湖を眺めながら写真を撮るのが俺の日課だった。[数秒間の沈黙]ある日、いつも通り写真を撮っていると、一匹のビーバーが湖から出てきて俺のカメラをひったくって湖の中へ持って行っちまった。それを返してもらおうと思って湖の中に潜り込んだんだ。そしたら俺は妙なものを見た。
レイク博士: 妙なものですか?
フォレスト氏: 水中都市……そうとも言うべき光景がそこにはあった。あいつらが生活する空間は、俺がよく見る建築模型なのかと最初は疑ったが、近づけば近づくほど、それが本物の家なんだとわかった。俺がそこに入ろうとしたのは好奇心ゆえだろう。だがその時は家に入れさせてはもらえなかった。けれど、俺は何度も湖に潜った。それを目に焼き付けるためにシュノーケルと酸素ボンベを買ってまで、俺はあれを眺めようと思ったんだ。
レイク博士: どうしてでしょうか?貴方がそれを見て何かを得れるとは思いませんが。
フォレスト氏: 何かを得るだとかそういう話じゃねぇんだよ。……設計士だからかな。あの家を見た瞬間、綺麗だって思ったんだ。確かに、木や石やガラクタなんかで作られた紛い物とも言うべき家だったが、それでも一目見てわかるほどに構造が美しかったんだ。大学や現場で学んだ建築学理論の基礎を極限まで鍛え上げた……そんな構造だったのさ。
レイク博士: なるほど。続けてください。
フォレスト氏: それを続けて二週間くらいたったころ、数匹のビーバーが俺の家にやってきた。俺はびっくりしながら見つめていると、あいつらは身振り手振りをし始めた。最初は全くわからなかったが、段々とあいつらの言いたいことがわかったんだ。『家に入ってもいいですよ』的な意味だったかな。[数秒間の沈黙]それからは流れるような日々だった。あの湖中の家に入らせてもらった日。家具まで人間大の大きさだったことに驚いた日。沢山の家を設計したのも作ったのもあいつらだって知ったときはもっと驚いた日。あいつらが建築する現場を見てワクワクした日。完成したときにあいつらと一緒に笑い合った日。……俺が設計士だってことを明かせば新しい建築理論を聞いてきたりして……とても充実した日々だった。[数秒間の沈黙]けれど、それがあの日変わった……変わってしまったんだ。
レイク博士: あの日?変わってしまった?……詳しくお教え願えますでしょうか?
フォレスト氏: 俺はあいつらともっと仲良くなりたくて。あいつらに多くの建築物を……特に俺が設計した建物を見てほしかったんだ。だから俺は、溜まるだけ溜まって使っていなかった大金をはたいてキャンピングカーを買ったのさ。たくさんのビーバーを乗せて車を走らせてしまえば、密猟者と間違えられてもおかしくないからな。[数秒間の沈黙]……そう。俺はただあいつらと一緒にドライブをするだけ。それだけのつもりだったんだよ。けれど、車を走らせてから3時間くらいたったころかな。あいつらの中でも一番老いた……とはいってもベテランみたいな感じのビーバーが不調になったんだ。車を運転をしている俺のもとにそいつが連れてこられた時には、手足を痙攣させて、歯と歯を合わせてギシギシと言わせていた。
[フォレスト氏が水を飲む]
フォレスト氏:………明らかに異常だった。何とかしてやりたいと思ったが、俺は獣医じゃない。適当な判断もできないから、ビーバーが入れるかどうかは知らなかったけれど、動物病院に行こうと思った。[数秒間の沈黙]そうだな。俺は事態を暢気に考えすぎていたのだろう。……あれは突然の出来事だった。運転している後ろでバタバタと倒れる音を聞いた。俺はすぐにキャンピングカーをとめて様子を確認したよ。そしたら、他のやつらも倒れてたんだっ!手足の痙攣もあった。めまいや頭痛もあるようだった。……訳が分からなかった。原因のわからない出来事に人間が出会うとこうも足が竦むのか、何も考えられなくなるのか、ということを教えられたようだった。パニックになった俺は、咄嗟に脇道へとそれて、近くにあった森の奥へと向かっていった。……此処で休憩をして、治らないようだったら、腹をくくってこいつらを動物病院へと連れて行こう。たくさんのビーバーを連れた俺は奇異な目で見られてしまうだろうが、背に腹は代えられない。そう言い聞かせながら森の奥深くへと進んでいったんだ。
フォレスト氏: このあと、俺はキャンピングカーを手ごろな場所にとめて、あいつらが休憩できるように扉を開いたんだが、その後どうなったと思う?
レイク博士: ビーバー達が新鮮な空気を吸った、とかでしょうか?
フォレスト氏: そうだよな。いくらあいつらが普通のビーバーと違うからって、そんな感じだと思うよな。………だが、全く違ったんだよ。
[フォレスト氏が机を叩く音]
フォレスト氏: ……家づくりさ。あいつらは家を作ろうとしてたんだっ!こんなところに作ったって、ただただ労力の無駄でしかないっていうのにっ!体調不良のせいで体力が大幅に削られてるっていうのに!……俺はそれを引きはがそうとしたが、それも意味がなかった!ああそうだ、俺は無力だった。[数秒間の沈黙]……かろうじて一匹だけは捕まえることに成功したが、俺が引っぺがす前は元気に木材を運んでいたっていうのに、俺が抱えてからはガタガタと体を震わせて、俺に「やらせてくれ」って伝えるかのように力なく俺の指を嚙んでいた。キャンピングカーに入れる頃にはぐったりとなっちまって、建築現場の方に戻してもフラフラしているだけで……ついには、その日のうちに死んじまった。[数秒間の沈黙]それで、俺はようやく気付いたのさ……あいつらは本能的なワーカーホリック。建築をしていないと本当の意味で死んじまうんだ。
[フォレスト氏が何度も机を叩く音]
[数秒間の沈黙]
フォレスト氏: ヒントならいくらでも在った。あいつらの数よりも明らかに多い家とか、その代表例だったのさ。でもそんなことを言っても何も始まらねえ……だから、あいつらが傷つくのを見たくなかった俺は、二年前、独立してBEAVER COMPANYを起業したんだ……。あいつらがストレスで死んじまわないように、あいつらが色々な建物を建てることができるように、誰かの見世物になんてされないように……
[ここでレイク博士の通信機に連絡が入りました]
レイク博士: だから貴方は法に手を出してまであのビーバー達を逃がそうとしたのですね。……貴方が雇った密輸人は日本の領海で発見されました。勿論、あのビーバーもです。
フォレスト氏: [罵声]……あんたらが一体何なのかは知らないが、あいつらを酷使しようものなら俺は本気で許さねえぞ[罵声]!
レイク博士: その点に関しては安心してください。あのビーバーの保護が我々の目的ですから。
<録音終了>
終了報告書: フォレスト氏はSCP-2418-JPの性質をおおよそ理解していると判断されたため、SCP-2418-JP担当職員として財団に雇用されました。なお輸送により長時間建築を行っていなかったことでSCP-2418-JPの健康状態が悪化したため、SCP-2418-JPは日本支部での収容が行われました。なおSCP-2418-JPがBEAVER COMPANYで建築していた建造物は調査が行われましたが、異常な点は見受けられなかったため、調査は打ち切られています。
SCP-2418-JPの性質について: SCP-2418-JPは長時間建築を行わない;建築を妨害される;建築から離れさせられるなどの状況に陥ると極度のストレス状態となり、死に至る場合があります。
収容に支障をきたす恐れがあるため、SCP-2418-JPに対する持続的なストレスの緩和は早急に取り組まなければならない問題です。SCP-2418-JPの性質上、人間におけるワーカーホリックの治療方法を導入したとしても問題解決には至らないと考えられます。そのため、SCP-2418-JPをストレス状態にさせない最も効果的な方法は継続的にイベント‐2418-JPを行わさせ続けることであると断定し、現在の特別収容プロトコルが制定されました。
補遺: 20██/██/██にSCP-2418-JPに対する特別収容プロトコルの改善を打診していたSCP-2418-JP担当職員であるロイ・フォレスト研究員が、SCP-2418-JPの収容違反を引き起こそうとしたため、記憶処理を受けて解雇されました。同職員の声明文の一部を以下に抜粋します。
あいつらに建築を持続的に行わせることには同意しよう。だが、拷問を受ける囚人のように、作らせ、壊し、また作らせて、壊す。そんなことは認められない。認めるわけにはいかない。
お前たちにとっての保護とは何だ?ケージに入れた犬か?水槽の中の熱帯魚か?ホルマリン漬けされた実験用マウスか?
少なくとも俺は、異質なものを隣人として受け入れる慈愛から来るものだと思っていた。もっとも、それは、馬鹿げた勘違いだったみたいだがな。