
ルイジ・スキアヴォネッティによる幽体離脱の様子を描いたイラスト(1808年)
アイテム番号: SCP-2446-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2446-JPに関する情報は、財団が流布したカバーストーリーによって都市伝説/創作として無力化されています。民間研究者が行うSCP-2446-JP及び幽体離脱体験の研究は財団により注視/介入され、発信される情報の無力化が実行されます。この民間研究者は財団により雇用されます。
SCP-2446-JPに関する情報はサイト-8104が集積します。
説明: SCP-2446-JPは臨死体験を経験した人物が獲得する不明な記憶です。所謂「幽体離脱」と呼称される体験談であり、臨死体験中に認識するスピリチュアルな記憶が典型的な事例です。長年、財団は幽体離脱に関する体験談を科学的観点から否定していましたが、獲得した複数の情報から精査を要する情報群と評価を更新しています。
SCP-2446-JPは身体器官に重大なダメージを受け、瀕死状態に陥った人物が獲得します。性質上、瀕死状態からそのまま死亡した場合はSCP-2446-JP実例を確認できないため、瀕死状態から回復した事例でのみ確認可能です。蘇生時点で大脳の記憶系にSCP-2446-JPの内容が記憶されており、蘇生した人物は覚醒直後からSCP-2446-JPに関する証言が可能です。そのため、蘇生した人物の大脳新皮質は、短時間で異常に活性化していると予想されています。
SCP-2446-JPは多くの場合、その人物が知覚困難であるはずの記憶です。SCP-2446-JP内容はその人物が幽体離脱の体験中にとった行動によって変化するため、主張される内容は多岐に渡ります。以下はSCP-2446-JPに於ける典型的事例です。
- 瀕死状態の自身を病室内の中空から俯瞰していた記憶がある。
- 自身へのお見舞いに訪れた親族の様子を記憶している。
- 自身に医療措置を施した医師の人相/人数を記憶している。
- 隣や上階の病室に入院している人物の人相/情報を記憶している。
- 天井や壁をすり抜け、空中を自由に移動していた記憶がある。
これら記憶の証言を検証した所、その人物が瀕死の状態だった間に発生していた出来事を正確に言い当てており、幻覚や妄想による証言ではないと結論付けられています。何れも瀕死状態で意識を喪失している人物が入手可能な情報でない点は特筆すべきであり、中空から俯瞰する記憶や、壁や天井を通り抜けた記憶の存在から、記憶の獲得は物理的作用を無視した異常な手段で行われているものと考えられています。
補遺1: 歴史記録上のSCP-2446-JP
財団が所持する歴史記録には、15世紀のポーランド王国にてSCP-2446-JPと思われる事象が発生したという報告が存在します。
カトリック教会所属の異端審問官"スタニスワフ・ザイモイスキ1"は、黒ミサ参加の容疑をかけた女性を拷問し、瀕死に追い込みました。
ザイモイスキは女性の手当を教会所属の医師に命じ、その間に同様の容疑で連行した男性を尋問しています。この男性はザイモイスキの捜査に協力的であり、先に拷問された女性が黒ミサに複数回参加していることや、異端的教義に傾注していることを証言しています。
ザイモイスキの拷問は苛烈であり、女性は瀕死のまま死亡するかと思われましたが、医師の手当により奇跡的に回復/蘇生しています。瀕死の人物が回復した事例は当時の医療技術の水準を加味すると極めて希少な事例だと評価できます。この際、女性は男性の証言に反論を述べており、その内容は男性の証言を実際に傍聴していなければ反論が不可能なものでした。結果的に女性はこの反論自体が魔女的であるとして処刑されています。
記録の年代や当時の宗教的背景から情報の正確さに疑問は存在するものの、この15世紀の記録は、幽体離脱体験を医師立ち合いのもと確認することに成功した最古の記録であると考えられています。
補遺2: 民間によるSCP-2446-JP関連実験

ダンカン・マクドゥーガル
20世紀頃になると医療の発達により患者が瀕死状態から回復するケースが増加し、SCP-2446-JPと思われる報告も増加しました。19世紀から20世紀の医師である"ダンカン・マクドューガル2"は、幽体離脱体験を科学的に検証する実験を実行しました。
幽体離脱体験は大衆により、瀕死となった人物が霊魂となって身体から脱出することで知覚できる臨死体験と解釈されていました。ダンカンは、霊魂という非科学的な概念を科学的に検証するため、以下のような実験を行いました。
- 自由に身動きのとれない重症の結核患者を用意する
- 結核患者の体重を計測する
- 結核患者が死亡した後、再度体重を計測する
- 結核患者が死亡する前後の体重を比較する
この検証で結核患者の体重が死亡前より死亡後の方が軽量だった場合、何らかの物質が死亡に際して体外に脱出していることが示され、霊魂の存在を間接的に証明することが可能です。結果的にこの実験では結核患者の遺体が生前より約21 g軽量化しているという事象が示され、ダンカンは霊魂の実在を主張しました。
この実験結果は財団を含め多くの団体の注目を集めましたが、約21 gという数値が精密に計測された結果であるかは懐疑的な意見が多く、有力な実験結果とは評価されませんでした。ただし、この実験を21世紀時点での財団が再度実践した所、ダンカンの実験結果と近似した実験結果が示され、検体の死の前後で体重に21.891 gの差異が確認されています。
補遺3: 財団監督下でのSCP-2446-JP発生事例

搬送時のエベン・アレグザンダーの脳のCTスキャン。細菌性の髄膜炎により大脳全体が腫脹している。
財団フロントの医療施設にてSCP-2446-JPが発生しました。民間人脳外科医"エベン・アレグザンダー3"は2008年に細菌性髄膜炎で財団フロントの医療施設に搬送されました。搬送時点で意識不明に陥っており、財団の医療措置によって回復しています。エベンはこの際にSCP-2446-JPを獲得しており、以下のような記憶の存在を訴えています。
- この医療施設の地下には不明な施設があり、そこに大量の医師や研究者が控えていること
- 自分が受けた治療は脳外科医の自分が知るものではなく、遥かに高度なものだった
- 自分は死後の世界まで辿り着いていたが、高度な医療処置で連れ戻された
- 死後の世界には死亡した妹がいた
エベンが示唆した地下施設及び高度な医療技術は財団由来のものであり、情報は厳重に管理されています。民間人であるエベンが通常の方法で財団施設/技術を認知することは考えにくく、エベンの証言に財団研究部は関心を示しました。
また、エベンの大脳は細菌性髄膜炎により腫脹しており、脳機能に重大な障害が発生していたと推認できます。この状態の大脳が新たに記憶を蓄積できるとは考えにくく、実際に地下施設や医療措置を目撃していたとしても証言することは困難です。この事象からSCP-2446-JPは、視覚や聴覚など人間の身体機能を用いて獲得された記憶では無い上、大脳の正常な機能で記憶されたものではないと考えられています。
エベンの来歴について、財団により調査が実行されましたが、経歴自体に異常な点は発見できませんでした。ただし、来歴調査において特筆すべき点が発見されており、エベンが示唆した妹は、エベン自身が存在を認知していなかった妹だと判明しました。エベンの両親はエベンが誕生した時点では両者共に高校生であり、エベンは保護団体に預けられた後に養子に出されています。エベンの妹は両親が経済的に安定した後に誕生した人物であり、1997年に事故死しています。SCP-2446-JP獲得以前のエベンはこの背景を認知しておらず、妹の存在を証言したことは異常な事象です。
エベンの証言は何れも異常な内容であり、財団が幽体離脱体験を異常な事象として再評価した原因となりました。
補遺4: 実験

D-762と不可視物質。
財団研究部はSCP-2446-JPに関する研究を進めていますが、有力な研究成果を報告できていません。この経過を受け、財団研究部はDクラス職員を利用した研究を計画しました。
補遺2で前述したダンカン・マクドューガルの実験にて、正体不明の不可視物質が人体から約21 g分脱出していることが明らかになっています。また、補遺3の事案でSCP-2446-JPの獲得は大脳を介さずに行われている可能性が示唆されており、この不可視物質がSCP-2446-JPの獲得と関連を持つ可能性が指摘されています。この可能性の検証するため、Dクラス職員を仮死状態に移行させる実験が計画されました。出現することが期待される不可視物質を各種撮影機材を用いて観察し、ラングミュア波を照射することで得られる反応から物質を検分します。
実験の結果、Dクラス職員の口腔から煙状の物質が脱出していく様子の撮影に成功しました。この物質は自律していたものとして評価されており、不明な作用で実験室の中空を不規則に旋回しました。更に、この実験ではラングミュア波を照射された当該物質が不明な電波を反射しているのが確認され、財団研究部は実験終了後に電波の解析に成功しています。この電波はDクラス職員の母国語で構成された暗号音声であり、実験対象となったDクラス職員が不明な方法で出力した音声だと考えられています。以下はその記録です。
実験記録-2446-JP
実験対象: D-762
担当職員: ジャクソン研究員
<再生>
[D-762に薬品が投与され、D-762が仮死状態に移行する]
[撮影機材FがD-762の口元で微量の発光体の撮影に成功するが、明瞭な状態ではない]
[ラングミュア波の照射が開始される]
[D-762の口腔から煙状の物質が立ち上る様子が確認される]
音声: え、なんだこれ。
音声: 俺が寝てるのか? 周りのこいつらは……、何してるんだ?
[煙状の物質が研究室内を不規則に旋回する]
音声: これは…..、もしかして、俺、死んでる?
[煙状の物質の挙動が激しくなる]
音声: おいおい! しっかりしろよ! 起きろ起きろ。うわ、これどうしたらいいんだ。
[煙状の物質の観測を確認した研究員が実験を終了させるためにD-762の覚醒措置を行う]
音声: おお。誰だか分からないがよろしく頼むぜ。……大丈夫だよな?
[研究員がD-762へ仮死作用への拮抗阻害剤を投与]
[電気ショックでD-762が覚醒]
音声: あー良かった。生きてた生きてた。
[D-762が実験台から起き上がる]
音声: ん? えーっと。
音声: あれ? これどうなってるんだ?
[D-762が周辺を見渡しながら上半身のストレッチを行う]
音声: いやいやいや。じゃあ俺が今どうなってるんだよ。どうして───
[煙状の物質が床方向に急加速する。床を透過し、そのまま追跡困難な地中に消失]
D-762: [うめき声] 覚醒措置って電気ショックかよ。痛てぇなぁ。
<終了>
煙状の物質の追跡には成功していません。D-762の体重は実験前から21.891 g減少したままになっており、煙状の物質が再度D-762に取り込まれた可能性は否定されています。煙状の物質にはD-762の人格が存在していたと評価されており、煙状の物質が地中に消失したことで、覚醒したD-762の人格に連続性が存在しない可能性が疑われましたが、実験後に行われたD-762への各種人格検査の結果、人格の連続性が証明されています。
D-762は繰り返し上記実験に利用されましたが、その度に21.891 g分の不可視物質が脱出しています。実験全件において不可視物質がD-762の人格から出力されていると評価される暗号音声を発しており、覚醒措置後は地中に消失する部分まで一致しています。蘇生と仮死状態を繰り返した場合でも毎回不可視物質の脱出が観測されることから、不可視物質は蘇生される度に大脳の情報を元に体内で生成されていると考えられています。
財団研究部は、不可視物質は人体が限界を迎えた際に体外に脱出する性質を持った、大脳の機能を代行する物質であると予想しています。しかし、その場合、地中に消失した不可視物質内の人格/記憶はそのまま排出されたままになっていると考えられ、消失した不可視物質が知覚/記憶したSCP-2446-JPを、その人物が覚醒後に所有している事態は明確な異常です。覚醒後の人物がSCP-2446-JPを獲得するメカニズムについては、これまで様々な仮説が提言されてきましたが、実験結果により何れも否定されており、議論は混迷しています。
現在、財団研究部は、上記実験と平行して臨死体験以外での幽体離脱体験の報告を検証しています。民間巷説では気絶時や就寝時にも幽体離脱体験は報告されており、財団研究部は情報の収集を進めています。