SCP-2462-JP
評価: +62+x
blank.png

アイテム番号: SCP-2462-JP

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: SCP-2462-JPの影響下にある一般人は難病治療に伴う入院の名目で財団サイトに無期限に拘留されます。拘留されている人物の一般社会への復帰を目的とした研究が継続されています。精神負担を軽減するため、希望者は健康被害が生じない範囲で雨天時の外出が許可されます。

説明: SCP-2462-JPは特定の人間に恒久的に影響を及ぼす異常であり、雨天時において降雨現象以外に対する知覚能力の消失をもたらします。異常性の起源・原理は解明されておらず、発生時期も不定です。既知の対象には以下のような共通項が見られます。

  • SCP-2462-JPの発生時点で、年間降水量が極度に少ない地域に居住していなかった。正確な基準は不明。
  • 雨に対してネガティブな印象を持つ。外出が困難になるなどの即物的な理由でなく、雨天時に憂鬱な気分になるといった抽象的な理由による場合が多い。
  • 自身の現状、将来、置かれている環境について悲観的・虚無的な意見を持つ。
  • 精神障害を患った経験が無い。

対象のいる場所に雨が降っている間、対象の知覚能力は徐々に鈍化します。鈍化の速度は雨量と正の相関関係にあり、最終的には一切の知覚能力が消失します。この影響は降雨ないしそれに伴う現象のみを例外とします。視覚は事実上完全に失われ、対象が知覚可能なものは雨音、雨水、ペトリコールなどに限定されます。対象が降雨範囲から脱することでこの影響は緩やかに回復します。しかし、SCP-2462-JP自体の除去・抑制には成功していません。

SCP-2462-JPを何度も経験した対象は、しばしば自身を雨に晒すことに強い執着を示します。これは雨水以外に対しての触覚の喪失に伴う心理的帰着であり、異常な精神影響ではないと結論付けられています。このような対象は降雨が継続する限り屋外に留まるようになる傾向にあります。特記事項として、多くの事例において、この段階に至っても対象の雨に対するネガティブな印象は変化していません。

上記の行動は高い確率で低体温症の発症ないしそれによる死亡を引き起こします。現在、多くの地域で雨天時に多発する変死事件のうちの相当数にSCP-2462-JPが関係しているものと推測されています。

補遺: インタビュー記録

インタビュアー: 五林研究員

対象者: 白須光雄(当時26歳、男性)

付記: 対象は当インタビューの約2か月前、雨天時に低体温症によって病院に搬送された際、SCP-2462-JP被影響者であることが判明し拘留された。対象者には、SCP-2462-JPは原因不明の難病であり、財団サイトはその治療のための医療施設であると説明されている。


[対象者は財団サイトの共用スペースのベンチに座り、外の景色を眺めている。天候は曇りである。五林研究員が彼に近付く]

五林研究員: こんにちは。調子はいかがですか?

対象者: ああ、こんにちは。大丈夫ですよ。病気のほうは変わりないですけどね、体調には問題ないです。

五林研究員: それは良かった。こういう仕事だと体を壊しても無茶して平気に振る舞う人もいるので、つい心配性になってしまいます。雨に当たりすぎて風邪でも引いたら大変ですから。

対象者: ハハ、やっぱり医者ってそういう人多いんですね。いや、こっちこそいつも洗濯物増やして申し訳ないです。五林さん達に引っ張られないと戻るのもままなりませんし。

五林研究員: 仕事ですので。しかし、皆さん雨に当たりたがるのは、私からすると少し不思議ですね。何も見えず、触れず、雨音しか聞こえないから怖いというのは分かりますが。

対象者: ああ、なんて言うんですかね。経験しないと分からないと思いますけど、宇宙に生身で放り出される感じですかね。とにかく、何もないんです。世界と自分との境目が分からなくなって、全部が均一になる、みたいな。

五林研究員: なるほど、それは不安でしょうね。だから雨に?

対象者: はい。雨に当たると、ここに世界との境界があって、その内側に自分がいるって確認できるので。目も耳もどうにもならなくて、能動的にどうこうできるのは触覚だけですから。でも、なんだろうな。最近はちょっと違うんですよね。

五林研究員: 違う?

対象者: 雨が降ってない日のほうが不安になるんです。感覚ははっきりしてるのに、なにか曖昧なんですよ。いくら晴れの日に自分の体をしっかり確認できるといっても、屋内で雨音を聞いているときの暗闇と同じなんじゃないかと──

五林研究員: 雨水によって実感できるものこそが本当の自分の形なのだ、と?

対象者: そう、そうです。晴れていると、自分の形に確信が持てなくて、輪郭がぼやけていくような──自分が存在するってこと自体が、なにかの間違いのように思えるんですよ。僕ら以外には分からないと思います、この自分自身に対するよそよそしさ、煩雑さは。

五林研究員: 病気によるストレスで、なにか心に変調が起こっているのかもしれませんね。

対象者: そうかもしれません。でも、違うんです。なにも考えずに雨に当たってるときの自分だけが正しい自分なんだって、そういう確信があるんです。雨粒が肌に当たる感覚と寒さだけが、自分の存在を実感させてくれるんです。自分は今ここに立っていて、寒さと惨めさで思いっきり拳を握りしめていて、寒くて仕方ないけど、この寒さがある限り、自分はここにいられるんだ、と。五林さんみたいな、没頭できる仕事とか居場所とか、──自分を見つけてる人には、分からないかもしれませんけど。

五林研究員: そうですか。聞かせてくださってありがとうございます。

対象者: いえ、すみません長々と。同じような話、多分もう何人からも聞かされてるでしょ?

五林研究員: そうですね、皆さん似たことを仰います。その感覚を理解できないことがもどかしいですが。

対象者: できないほうが良いですよ、絶対。

[対象者が立ち上がり、五林研究員はそれに付き添う。天候は小雨に変わっている]

対象者: 結構降りそうですね。

五林研究員: 感覚はまだ無事ですか? 部屋まで戻るならご一緒します。もう少しの間、話し相手になりましょうか。

対象者: いや、大丈夫です。ちょっと外に出てくるだけなので。五林さんは、早く戻ったほうが良いですよ。寒くなってくるでしょうから。

[対象者は壁に手を付きながら裏庭の方向へ向かう。窓の外には既に裏庭へ出た人々が立ち尽くし、無表情で空を眺めているのが見える]

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。