アイテム番号: SCP-2503-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2503-JPを発生させる事が可能な設備を持つ機関は財団の監視下に置き、財団職員以外の人物が発生の危険を伴う実験を行わないよう注意してください。監視対象となる機関の一覧は付属文書Aに記載されています。また、財団職員がSCP-2503-JPを発生させ得る実験を行う場合はセキュリティクリアランスレベル3以上の職員の許可が必要です。
説明: SCP-2503-JPは科学実験の過程において絶対零度に近い温度1を発生させた際、その実験の実施者に聞こえる音声です。SCP-2503-JPはやや低い男性の声であり、英語で「よくやったGood job」「その調子だYou're doing great」といった文言を発話します。1K以上の温度帯でのSCP-2503-JPは小さく、聞き取ることは困難ですが、より低温2を発生させる実験においては非常にはっきりと聞こえる事が分かっています。SCP-2503-JPはこちらからの問いかけには反応を示しますが、その内容は「自分の声が聞こえているようで嬉しい」「この調子でやってくれ」といったものに終始し、自身の出自や目的、低温科学に関する知識について述べる事はありません。また、SCP-2503-JPを聞く事が可能なのは実験の当事者のみであり、録音は不可能です。

カメルリング・オネス博士
SCP-2503-JPの最初の発見例は1908年のオランダにおけるもので、当時低温研究の第一人者であったカメルリング・オネス博士がヘリウムを液化させる実験中に観測しました。当初オネス博士の主張は幻聴と捉えられましたが、類似の実験を行った複数の科学者が同様の主張をしたため財団への通報・収容プロトコルの策定に至りました。その後、より低温を発生させる実験ほどSCP-2503-JPがはっきりと聞こえる事が明らかとなり、そのような実験を停止する必要性が議論されましたが、低温に関する研究は人類にとって有益である事から停止の判断には至りませんでした。
1990年代にレーザー冷却3が発明され0.1mK未満の温度帯が実現されると、SCP-2503-JPは以前と異なる内容を発話しました。その内容は「未知の世界まではもうすぐだ」というものです。「未知の世界」とはボース=アインシュタイン凝縮4ではないかと予想されていましたが、1990年代に米国の研究者が1μK未満の温度帯を実現しボース=アインシュタイン凝縮を実証した際も発話内容は変化しませんでした。
2019年、財団の研究チームが約10nK5の温度帯を作り出すことに成功しました。その際SCP-2503-JPは「ここまで来られるとは思わなかった」「あと一息だ」等といった内容を発話し、実験の主任担当だったワイマン博士は「上機嫌であるように見え、これまで以上に会話に協力的だ」と報告しました。ワイマン博士はベテランの財団職員であり、異常存在との会話経験が豊富であった事からインタビューを試み、過去の対話では得られなかった情報を引き出しました。以下はその抜粋です。
インタビューログ2503-24:
インタビュアー: ワイマン博士
対象: SCP-2503-JP
ワイマン博士: 今日の君は、ずいぶん上機嫌そうに見えるな。
SCP-2503-JP: そうかな。でも、それは君も同じじゃないかい。未知の世界へ、また1歩近付けたのだからさ。
ワイマン博士: その未知の世界とは何だね?以前から何度も聞いているが、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか。
SCP-2503-JP: 聞く必要があるかい?どうせ、もうすぐ自分の力で見る事ができるのに。
ワイマン博士: そうかな。レーザー冷却が実用化されてマイクロKの壁が破られたのは1995年の事だが、人類は未だにナノKを下回る温度を作り出せていない。私ももう年だからね6。生きている間にこれ以上の成果を出せるかどうか。
SCP-2503-JP: 弱気な事を言うなよ。まあ気持ちは分からなくも無いし、教えてあげたくもあるんだけど、実は僕も知らないんだ。
ワイマン博士: 知らない?
SCP-2503-JP: そうさ。物質が絶対零度に辿り着いた時、どうなるかなんて僕にも分からない。
ワイマン博士: 辿り着いた時?ちょっと待て、どういう意味だ。
SCP-2503-JP: どういう意味って、そのままの意味さ。物質の温度が絶対零度になった時、どうなるかなんて誰も知らないさ。だから、やってみようとしてるんだろ。
ワイマン博士: 絶対零度とは理論上の概念であって、物質がそこに辿り着く事は無いはずだ。
SCP-2503-JP: なに?
ワイマン博士: 熱力学第三法則、高校生でも知っている科学の基本じゃないか。君はそれを覆すと言うのか。
SCP-2503-JP: いや、ちょっと待って。無いの?
ワイマン博士: 我々の科学ではそうなっている。
SCP-2503-JP: なんで?
ワイマン博士: 物質は断熱膨張によって内部エネルギーを放出する事で温度を下げるが、無限に膨張する事が無い限り絶対零度には…いや、待ってくれ。君はそんな事も知らないのか?
SCP-2503-JP: 絶対零度にはならないのに、なんで一生懸命温度を下げる研究をしてるの?
ワイマン博士: ナノKの世界でBECが確認されたように、低温にはまだまだ未知の現象が隠されている可能性があるからだ。
SCP-2503-JP: BEC?
ワイマン博士: 95年に実証されたボース=アインシュタイン凝縮Bose–Einstein condensationだよ。あの時、君もいただろう。
SCP-2503-JP: いたけど、難しい話はよく分からないよ。
ワイマン博士: …。
上記インタビューの後、SCP-2503-JPの発話内容が変化しました。会話に応じる事は無くなり、「科学者は難しい事ばかり言って嫌いだ」「どうせ僕の事を高校生以下だとか言って馬鹿にするんだろう」などと述べる例が多くなっています。