アイテム番号: SCP-2506-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: 民間でのSCP-2506-JP実施を抑制するため、ロシア国内のメディアやインターネット上では意図的に改変された儀式手順の流布・拡散活動が行われます。新たに実施者が発見された場合、聴取・検査・記憶処理が適宜実行されます。
説明: SCP-2506-JPは、ロシア██連邦管区内の一部地域で流布されていた儀式的行為の一種です。その儀式手順は、"実施者が寝室内の鏡の前に5000ルーブル紙幣を任意の枚数置いてから睡眠を行う"という非常に簡潔なものであり、儀式を知る民間人の多くからは"紙幣の数を倍にする古いおまじない"として認識されていました。
儀式過程での睡眠時、実施者の約15%程度は異常な夢見を経験します。この夢中の情景描写は、薄暗い灯りで照らされた室内環境で構成されており、共通して不明な人物と"ロシアンルーレット"に興じるという以下のような展開で進行します。
- 夢の開始時点で、実施者はカウンターテーブルの前に立っており、対面位置には不明な人型存在(以下、対戦相手)が確認できます。この際、両者ともに全身を古いスノーウェアで覆っており、互いに相手の容姿等の身体的特徴を判別・確認することは困難な状態であると報告されます。
- しばらくした後で、新たな人型存在(以下、進行役)が入室し、テーブル上に回転式拳銃を置きます。続けて進行役はコイントスを行い、付録1にて後述する未解明な法則性に基づいて、実施者か対戦相手のどちらかに拳銃を差し出します。
- 差し出された側は銃口をこめかみに向け、統一性のない様々なタイミングで引き金を引きます。ここで銃弾が発射されなかった場合、進行役は一度自身の方へと拳銃を引き寄せ、シリンダーを回転させた後で先ほどと逆側に拳銃を差し出します。
- その後、このやり取りは対戦相手が銃弾を引き当て、死亡・敗北するまで繰り返されます。留意点として、現在までに実施者側がロシアンルーレットで敗北したケースが報告されていないことは、注目に値すると考えられています。
- 決着後、進行役は拳銃を回収するとともに、対戦相手の死体を引き摺りながら退出し、そこで実施者は覚醒します。
上記覚醒に伴ってSCP-2506-JPは終了し、覚醒後の実施者の半数は自身が睡眠前に用意していた紙幣の数が、倍に増加している事実に気付きます。この紙幣の増加現象は未知の要因で発生すると知られており、プロセス解明には至っていません。
一方で、覚醒後の実施者のもう半数には紙幣の増加現象が発生せず、軽度の記憶混乱と現実酔いに酷似した症状が診断されます。しかしながら、これら症状は最短でも数日程度で解消され、それ以外の点で身体的・精神的な異常は確認されません。
発見: SCP-2506-JPと関連するロシア国内の伝承・流布は、少なくとも19██年時点から存在していたと知られています。その一方で、その出自・起源は現在まで発見されていません。また、財団の認識下において、SCP-2506-JP過程が最後まで実施されるケースは未だに年間で15件に上り、公式に記録される累計数は████件になります。
なお、上述されている通り、現在までに夢中でのロシアンルーレットによって実施者側が敗北したという報告例は未発見であることから、SCP-2506-JP現象に併発した以下のような未発見の異常性の存在も提言されています。
- 実施者が敗北した場合、記憶影響等の作用によって実施者は自身が勝利したと誤認識し、それを覚醒後に報告している。
- 実施者が敗北した場合、現実改変等の作用によって実施者が存在したという事実自体が消失している。
- 実施者が敗北した場合、反ミーム等の作用によって実施者が第三者から認識されなくなっているか、あるいは自身が敗北したという情報伝達自体が成功しなくなっている。
しかしながら、現時点までに実施されたあらゆる調査の結果からは、現実改変の発生や反ミーム的性質が付与されたことを示唆する一切の証拠を発見できておらず、依然として調査・検証の試みが継続されています。
付録1: 複数回の調査・検証の結果より、"コイントスの結果"・"ロシアンルーレットの順番"・"儀式後の紙幣増加の有無"の3要素に、以下の法則性の存在が確認されました。その一方で、3要素の明確な因果関係の有無および、進行役が如何なる法則性からロシアンルーレットの先攻・後攻を決定しているのかについては、未だに未解明の状態です。
コイントスの結果 | 実施者の順番 | 紙幣増加の有無 |
---|---|---|
表 | 先攻 | 増加あり |
表 | 後攻 | 増加なし |
裏 | 先攻 | 増加なし |
裏 | 後攻 | 増加あり |
付録2: 以下は、民間でのSCP-2506-JP実施者より得られた供述群からの一報告例です。
日付: 20██/██/██
対象者: ████・███
インタビュアー: ███研究員
付記: ███氏によるSCP-2506-JP実施に伴って紙幣の増加は発生しておらず、代わりに軽度の現実酔いと記憶錯誤の症状を示していた点に留意してください。
<ログ開始>
インタビュアー: お加減はいかがですか?
対象者: 先生、おかげさまで、吐き気や記憶の混乱は大分マシになりました。自分の家の場所や、家族の顔や名前なんかがすぐに浮かばないなんてことも、もうありませんよ。
インタビュアー: それはよかった。では今日は改めて、貴方が経験した夢についてお聞きしたいのですが。
対象者: あの、それは重要なことなんですか?
インタビュアー: ええ、もちろん。貴方を治療するための、より大きな手助けとなるはずです。
対象者: 分かりました。あー、夢の中で気が付いた時、私は見知らぬ小屋の中にいました。外からは吹雪の音がして、ランプか何かの光が忙しなく揺れていましたのを覚えています。そこで私はスノーウェアで顔を覆って素性を隠し、同じような格好をした見知らぬ人物とロシアンルーレットをしているようでした。
インタビュアー: なぜロシアンルーレットをすることになったのか、理由は分かりますか?
対象者: 夢での出来事ですので、流石に理由までは。ただ、自分も相手も、真剣であったことは分かります。なんとなくですが、私の方は特に。まあ、命を賭けているわけですから当然ではありますが。正直なところ、驚くほどの金を払うと言われただけならば、絶対に勝負を受けることはないと思いますね。
インタビュアー: 私も同感です。併せてですが、その際の状況はどのようなものでしたか?
対象者: なんというか、自らのこめかみに銃口を向けてから引き金を引くまでの、荒くなる呼吸と酷く張り詰めた感覚の続く時間が、嫌に生々しかったですね。それに、やっと相手がハズレを引き当てて銃声が響いた時の気分、あれは嬉しいのか恐ろしかったのか、なんとも言い表せませんよ。
インタビュアー: なるほど。では、貴方が勝利した後の話を続けてください。
対象者: 銃声の後、進行を務めていた人物は、倒れた対戦相手を出口へと引き摺っていきました。そこで、私はズレたスノーウェアの隙間から対戦相手の顔を始めてみたのですが、それが不気味な見てくれで。
インタビュアー: 不気味とは、どのようにですか?
対象者: その、顔がなかったんです。顔の凹凸がまるでない、紙やすりか何かで綺麗に磨かれたみたいに。
インタビュアー: その描写を見た夢の中の貴方は、どのような心証であったか説明できますか?
対象者: あー、えっと、実は別に何も。恐怖心もなく、ただ勝利した安堵感だけを覚えていました。そのためか、私も自分の顔を覆っていたスノーウェアを外して、いつの間にか壁にかかった鏡を見つめて、笑顔を浮かべてしまっていたんです。夢の中の私は、勝ったことが余程に嬉しかったのでしょうね。
<ログ終了>