SCP-2519-JP
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アイテム番号: SCP-2519-JP Level 3/2519-JP
オブジェクトクラス: Euclid Classified

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SCP-2519-JPと類似のプレートアーマー

特別収容プロトコル

SCP-2519-JPはSCP-2519-JP-Aと共に標準人型収容房で収容されます。収容違反が発生した場合、一時的な意識喪失を引き起こすミーマチックエフェクトの使用が推奨されます。

説明

SCP-2519-JPは15世紀後半にヨーロッパで用いられたプレートアーマーに類似する形状1を有する半透明の鎧であり、外部から加えられた運動エネルギー及び化学エネルギー、致死性ミーム、現実改変に対して著しく高い耐性を有しています。SCP-2519-JPは基本的にSCP-2519-JP-Aの体を覆うように存在しており、SCP-2519-JP-Aの行動に応じて消失/出現する様子が観測されています。知性の有無および反応の明確な基準は不明です。SCP-2519-JPをSCP-2519-JP-Aから除去する試みは現在まで成果を上げていません。SCP-2519-JPは少量のアキヴァ2を放射しています。

SCP-2519-JP-Aは自身を黒木 神夜(Kuroki Miyo)3と呼称する人型実体です。外見的特徴として、金髪と黒髪が地毛として混在する頭髪、碧色と黒色のオッドアイが挙げられます。SCP-2519-JP-AはSCP-2519-JPの存在を認識していないかのように振る舞います。

SCP-2519-JPは「殺人事件の容疑者が奇妙な鎧を身に着けている」という警視庁公安部特事課からの連絡を受け派遣された回収チームによりSCP-2519-JP-Aと共に確保されました。SCP-2519-JP-Aが精神的に衰弱していたため、回収は困難を伴うことなく完了しました。


補遺.2519-JP.1 > インタビューログ


対象: SCP-2519-JP-A

インタビュアー: 八木 九路研究員

実施日: 2021年12月26日


<記録開始>


八木研究員: こんにちは。SCP-2519-JP-A。事件について話してもらえますか?

SCP-2519-JP-A: (視線を合わせずに)は、はい。

八木研究員: 辛そうですね。もう少し時間を空けてからでも大丈夫ですよ。

SCP-2519-JP-A: いえ。話せます。話させてください。

八木研究員: 分かりました。お願いします。

[SCP-2519-JP-Aが呼吸を整えるとSCP-2519-JPが消失する]

SCP-2519-JP-A: あれが起きたのはルーシーと一緒に私の家へ帰る途中でした。彼女はクラスに馴染めなかった私と仲良くしてくれた唯一の友達なんです。あの日はお互いの両親が家を空けるから、私の家でクリスマスパーティーをする予定でした。

私の家は表通りから外れた木立の中にあります。昼間でも暗くて人通りも無いので、帰る時はいつも走っていました。だけど、ルーシーの前でそんな情けない姿は見せたくなかったんです。私がつまらない意地を張らなければ良かったんです。家まであと数メートルという所で、木の陰から男の人たちが出て来て私たちを取り囲みました。恐怖で固まってしまった私をルーシーは後ろに庇ってくれました。男の人たちは棍棒とか槍みたいなものを持っていて、何をされるのか、攫われちゃうんじゃないかって、怖くて。

八木研究員: 男の人たちと言うのはこのような顔をしていましたか?

[八木研究員が被害者グループの写真をSCP-2519-JP-Aに見せる]

[SCP-2519-JP-Aが頷く]

SCP-2519-JP-A: 間違いありません。

八木研究員: 分かりました。ありがとうございます。続けてください。

SCP-2519-JP-A: はい。ただ、そこからは記憶が曖昧で、すみません。気が付いた時には周りの地面が赤黒いち、血で染まっていて、男の人たち、なのかはわかんないんですけど、周りで人が倒れていました。それで、眼の前にはルーシーが、真っ赤で、わたし、死んじゃうと思って、う、ああ(涙を流し嗚咽する)

[SCP-2519-JPが出現する]

八木研究員: 辛いことを思い出させてしまって申し訳ありません。今日はもう終わりましょう。

[八木研究員が退出する]

[SCP-2519-JP-Aは10分間嗚咽し続けた]


<記録終了>



補遺.2519-JP.2 > SCP-2519-JP-Aの逮捕に繋がった殺人事件について

検死解剖の結果、被害者の死因は共通して全身打撲および失血性ショックあるいは内臓破裂であることが判明しました。外傷から考えられる凶器の候補として以下が挙げられています。

  • 広い横幅を持つ長柄の鈍器
  • 先端が円錐形の長柄武器

事件現場からは条件を満たす物品が発見されておらず、警察に偽装した職員による捜索が継続しています。外傷周辺に付着していた未知の粘液に関する分析が行われています。遺体が着用していた衣服/所持していた物品は悪魔実体からの干渉を阻害する宗教的処理が施されていました。SCP-2519-JP-Aの証言中に見られる"ルーシー"なる人物の遺体は発見されていません。過去に発生していた飾城学園生徒連続失踪事件との関連性は不明です。


補遺.2519-JP.3 > 聞き取り調査

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飾城学園

飾城学園においてカバーストーリー「失踪者の特徴および犯人に関する情報収集を目的とした警察による聞き取り捜査」を適用し全校生徒および教員に対するインタビューを実施しました。取得された情報を以下に表示します。

  • "ルーシー"は本名をルシール・シバルリー4と言い、1年前に留学生として学校に編入された。当初は下級生、同級生、上級生と分け隔てなく交友関係を築いていたが、不明な時期からSCP-2519-JP-Aと行動を共にする姿が頻繁に目撃され、他の人物との交流を控えるようになった。
  • SCP-2519-JP-Aは以前広い交友関係を持っていたが、ルシール・シバルリーが編入してきた時期と前後して周囲との交友を断絶し、言動も著しく変化した。
  • SCP-2519-JP-Aの両親は健康上の問題を理由に1年前から姿を見せておらず、自宅へ教員が訪問した際はSCP-2519-JP-Aが応対していた。

補遺.2519-JP.4 > 家宅捜索

SCP-2519-JP-Aの自宅は荒廃した状態で、料金の未払いにより電気・水道・ガスの供給を停止されていました。以下は発見された物品リストの抜粋です。リストの完全版は申請によって閲覧できます。

番号 物品 備考
#01 オカルト理論/技術書 検証の結果、全ての理論/呪文/儀式は正確性を著しく欠いている事が判明。 ​
#02 魔法陣 地下室の内壁、床に複数人の血液を用いて描かれていた。非異常。
#03 「夜のお姫様」と題された児童書籍 著者欄には黒木夫妻の氏名が記載されている。裏表紙部分に「愛する[判読不能]へ」と記載、判読不能部分は塗りつぶされている。
#04 不妊治療に関する書籍 N/A
#05 2本の麻縄 皮膚片が付着していた。
#06 男女1組の人骨 裏庭の簡易的な墓石の下から発見された。
#07 黒木夫妻と不明な若年女性の写真 女性はSCP-2519-JP-Aと顔立ちが似通っているものの黒髪と黒目であり、現在のSCP-2519-JP-Aと比較していくらか幼い外見である。
#08 幼児の誕生を祝うメッセージカード 黒木夫妻は過去に通院歴があり1人の子供をもうけていた事が判明した。幼児の外見的特徴に対する言及の内容が#07の不明な女性に該当する事から、女性は黒木夫妻の実子である可能性が高い。

以下は発見物に関するインタビューログです。


対象: SCP-2519-JP-A

インタビュアー: 八木 九路研究員

実施日: 2021年12月27日


<記録開始>


八木研究員: あなたの家から見つかった物について幾つか質問させて頂いても大丈夫でしょうか。

SCP-2519-JP-A: 大丈夫です。

[SCP-2519-JPが消失する]

八木研究員: ありがとうございます。まずご両親についてですが、オカルト趣味に没頭していた覚えはありますか。

SCP-2519-JP-A: 2人とも夢中でした。私の血を魔法陣を描くのに使ったり、変な名前の神様に何度も「取り換え」をお願いしたり、今でも夢に出てきます。

八木研究員: そのことで彼らを恨んだりはしませんでしたか。

SCP-2519-JP-A: 恨んではいません。ただ悲しかった。私は望まれた筈なのに最後まで受け入れてもらうことが出来ませんでした。

八木研究員: そうですか……分かりました。ありがとうございます。次の質問ですが、「夜のお姫様」という絵本に心当たりは?

[SCP-2519-JPが出現する]

SCP-2519-JP-A: その話はあまりしたくありません。ただ、敢えて言うならばあれは受け取り手を失った贈り物です。私が両親の望む通りであったなら贈られるはずでした。

八木研究員: なるほど、では裏庭に埋められていた人骨についてお話しいただけますか?

SCP-2519-JP-A: 両親です。私が起きた時には2人とも、既に息は有りませんでした。たぶん限界だったんだと思います。遺書は読まずに燃やしました。何が書いてあるかなんてわかり切っていましたから。

八木研究員: ふむ。では、この写真の女性に見覚えはありますか?

[SCP-2519-JP-Aに対し回収品#07が提示される]

SCP-2519-JP-A: わたしが、成れなかったものです。成らなきゃいけなかったものです。成ってあげなきゃいけなかったのに、私は[嗚咽]成れませんでした。廃材の継ぎ接ぎが、人間になんて成れるわけ無いのに。どうすりゃよかったんだよ。

[SCP-2519-JP-Aの状態から更なる質問は有意な返答を期待できないと判断された]

八木研究員: 今日はここまでとします。お疲れさまでした。


<記録終了>


備考: 発見されたオカルト書籍に記されたマーキングなどから、黒木夫妻は異常な手段を用いて子供を得ようとしていたと考えられます。しかしながら書籍の購入履歴はこれらが第一子の出産後に購入されたことを示しており、なぜそのような手段を用いる必要があったのかは不明です。黒木 神夜の存在から目的が達成された可能性は高いものの、発見された書籍の内容からして魔術的な手段での目的達成は不可能です。また、黒木夫妻の第一子の行方は判明していません。

以下は「夜のお姫様」の内容です。可読性のため一部の表現を変更、台詞部分を殆ど省略しています。

ある国の王様と王妃様は初めて生まれた我が子を流行り病によって失い大変悲しんでいました。そんなある日、お城に妖精がやってきました。王様と王妃様に助けを求められた妖精は、何本かの赤い花と引き換えに2人にもう1度子供が出来る魔法を掛けても良いと言います。ただし、妖精は2人に「子供の幸せを決して邪魔しない」と約束させました。その後間もなくして生まれた女の子を2人は大層可愛がり、城中にお姫様の事を吹聴して回りました。

成長したお姫様は美しい黒髪と黒目を持つことから夜姫様と呼ばれるようになりました。彼女は大変優しい性格でお城のみんなと仲良しでした。ある日、外国から王子様と護衛の騎士団がやってきました。騎士団の団長は夜姫様に一目ぼれしてしまい、暇を見つけては彼女の元を訪れます。お城の人々は2人の仲睦まじい様子を祝福していましたが、王様と王妃様は2人の仲を許しません。彼らは王子様と婚約させるために夜姫様と騎士団長の仲を引き裂きましたが、彼らに子を授けた妖精との契りを破ったことで夜姫様は見るも悍ましい怪物へと変わってしまいました。王子様は恐怖のあまり逃げ出し、怪物はそれを追いかけます。

王子様を守るため、騎士団が怪物を取り囲みました。騎士団長は怪物を手に掛けるその瞬間までずっと夜姫様に呼び掛けていましたが、怪物はそのまま息絶えました。息絶えた怪物を抱きしめ泣き叫ぶ騎士団長の涙が体に触れた時、光が怪物を包み込みます。光が晴れるとそこには夜姫様が横たわっていました。夜姫様は目を覚まし騎士団長を抱きしめ返しました。夜姫様を助けた騎士団長は王様と王妃様に認められ、2人は片時も離れることなく末永く幸せに暮らしました。

財団の虚構学者は上記の物語を核とした虚構災害5が発生している可能性を指摘しています。


補遺.2519-JP.5 > 「鉄槌計画」によるサイト-8199襲撃について

2021/12/27: サイト-8199は要注意団体「境界線イニシアチブ6」の戦闘部隊「鉄槌計画」の構成員による襲撃を受けました。迅速な対応により被害は小規模に抑えられ、襲撃グループは全員が捕縛されました。以下はグループの指揮官に行われたインタビューのアーカイブです。


対象: PoI-8121

インタビュアー: Agt.甘味屋

実施日: 2021年12月28日


<記録開始>


Agt.甘味屋: さて、聞きたいことは色々あるが、まずは何の目的でここに来たのか教えて貰おうか。

PoI-8121: それはこちらの台詞だ。我々の仲間を攫うとはどのような了見あってのことだ?

Agt.甘味屋: 何を言っているのかさっぱり分からねえな。

PoI-8121: とぼけるでない。敬虔なる信徒たちがここに監禁されているのは分かっているのだぞ。

Agt.甘味屋: どこの誰がおたくらにそんなホラを吹き込んだのか教えてくれ。

PoI-8121: (数刻の沈黙)鉄槌計画のメンバーは体にGPSが埋め込まれている。極秘任務を帯びた部隊が██████7で消息を絶った。GPSの信号が途切れる寸前、最後の座標はここを示していた。

Agt.甘味屋: GPSの信号だけで私たちを襲ったって言うのか?そいつは根拠として弱すぎやしねえかな"狼"さんよ。素直に本当のことを話してくれた方がお互い楽だと思うがね。

PoI-8121: 貴殿らのように人を化かすのは専門外でな。仲間を返還すると約束するならば真実を話してやっても良いぞ。

Agt.甘味屋: 口約束で良いのか?

PoI-8121: 構わん。だが部隊の指揮官であるマスティマは代々ローマ教皇の護衛を勤めてきた由緒ある一族の出身だ。本部がそう易々と諦めるとは思えん。さらに言えば彼女は鉄槌計画のメンバーに留まらず多くの羊飼いや律法学者にも慕われていた。奪還作戦が今回で終わりとは思わないことだ。

Agt.甘味屋: そもそも私たちはあんたが言う「信徒たち」とやらを捕縛した覚えがない。これは事実だ。取引に応じてやりたいのはやまやまなんだが、交換材料が分からなければ話にならない。

PoI-8121: インタビューすれば所属ぐらいは話しているだろう。

Agt.甘味屋: そもそもここ4日以内、このサイトでイニシアチブと関連する事案は何も起きていない。あんたらを除けばだが。他に思い当たるのは身元不明の遺体が幾つか運ばれてきたくらいだな。

PoI-8121: ……その遺体の顔を見せてくれるか。

Agt.甘味屋: 確認を取るから少し待っててくれ。

[冗長な箇所を省略]

Agt.甘味屋: これが運び込まれた遺体の写真だ。

[PoI-8121が写真を確認し、十字を切る]

PoI-8121: 間違いない。マスティマの部隊員たちだ。

Agt.甘味屋: なんというか、その──。

[PoI-8121が首を横に振る]

PoI-8121: 最悪を想定して覚悟はしていた。しかし、それが現実となった時に訪れる痛みは如何ともし難いな。

[PoI-8121はため息を吐いた]


<記録終了>


備考: 境界線イニシアチブとの正式な交渉の結果、SCP-2519-JP確保の切っ掛けとなった殺人事件の被害者は境界線イニシアチブの構成員であったことが判明しました。遺体はアキヴァ感知/識別技術に関する情報と引き換えにイニシアチブへ譲渡されます。構成員の統率役であるマスティマ・シーリングの行方は判明していません。


補遺.2519-JP.6 > 日誌

SCP-2519-JP-Aの自宅付近からUSBメモリが回収されました。以下はメモリからサルベージされたテキストデータの抜粋です。

記録者: マスティマ・シーリング、部隊コード-"慈愛の鉄槌" 指揮官


日付: 2021年4月10日

私はマスティマ・シーリング、現在はルシール・シバルリーと名乗り飾城学園に潜入している。私の任務は学園の関係者に擬態した悪魔の特定だ。悪魔の特定が完了し次第、セーフハウスで待機している部隊員たちと共に討伐を行う手筈となっている。学園が女子校である事、実年齢からかけ離れた特異な容姿を持つことから単独での潜入任務となった。本日より生徒と接触を開始し目標を捜索する。

任務との関りが薄いものの、個人的に記録しておくべきだと感じたことを此処に記載する。

記録者: マスティマ・シーリング、部隊コード-"慈愛の鉄槌" 指揮官


日付: 2021年5月10日

それらしき存在は未だ見つからず。交友関係を広げ情報網の確立には成功した。これでより効率的な捜索が出来るはずだ。

思い悩んでいる様子の生徒を見つけたので手を差し伸べた。名前を黒木 神夜と言うらしい。最優先するべきは任務だが、教えを実践することも忘れてはならない。母はいつも弱きを助けよと仰られていた。

記録者: マスティマ・シーリング、部隊コード-"慈愛の鉄槌" 指揮官


日付: 2021年6月10日

未だに悪魔は見つからず。生徒と教員ほぼ全員との接触を果たし、学園内の情報網はこれ以上拡張できないほどに広がった。仲間たちから財団や連合の影は今のところ見つからないと報告が来た。最大の懸念はなんとか回避できたようだ。

黒木さんの悩みは深刻だ、放置するわけにはいかない。両親と良好な関係を築いていた私では彼女の悩みを解決する事は難しいかもしれない。それでも悩みを打ち明けられる相手がいるだけで助けになると知っているから、彼女の話し相手になりたい。父はどれほど長くとも私の話を最後まで聞いてくれた。

記録者: マスティマ・シーリング、部隊コード-"慈愛の鉄槌" 指揮官


日付: 2021年7月10日

悪魔の捜索は依然として成果をあげられていない。あれらは私たちの発する神聖な気配を忌み嫌うため、体調を崩した人物や、私の事を嫌っていると噂のある人物を当たってみたがどれも空振りだった。本能的嫌悪に抗えるとなると、それなりの知能と実力を持った悪魔がいることを想定するべきだろう。

あんな場所に痣を付けるなんて余りにもむごい。他人へ相談する事を困難にする方法があるとは知っていたが、現実で目にするのは初めてだ。暴力が与える痛みは体だけに留まらない。黒木さんが負った心の傷は想像を絶するものだったはずだ。彼女の頼みで頭を撫でたが、あれほど安らいだ表情を見るのは初めてだ。妹や弟がいればこんな気持ちだったのかもしれない。

記録者: マスティマ・シーリング、部隊コード-"慈愛の鉄槌" 指揮官


日付: 2021年8月10日

失踪者たちの交友関係に関する調査を開始した。全員との交友を持つ生徒/教職員がいれば、その人物が悪魔である可能性は非常に高い。久しぶりに部隊員たちと直接顔を合わせることが出来た。未だに確たる結果を出せていない私を辛抱強く励ましてくれた彼らのためにも頑張らねば。夏休み期間という事もあり、調査に割り当てられる時間が増えたのは幸いだ。

黒木さんは大丈夫だろうか。何とかしてあげたいとは思っても、潜入任務の最中に目立つことは出来ない。今はただ彼女の無事を祈るしか出来ない自分があまりに不甲斐ない。

記録者: マスティマ・シーリング、部隊コード-"慈愛の鉄槌" 指揮官


日付: 2021年9月10日

あと1人分だというのに調査が滞っている。神夜と過ごす時間を増やし過ぎたのが原因だろう。だが彼女の味方になってやれるのは私しかいない。調査が終われば彼女と一緒に居てあげることは出来ないのだ。ならば、せめて今この時だけは彼女の傍に居てあげたい。我が家に伝わる聖騎士の鎧、あれを身に着けた父の姿は今でもこの目に焼き付いている。私も父のように、あの鎧のように彼女を護ってやれれば。この身には過ぎた望みだ。

記録者: マスティマ・シーリング、部隊コード-"慈愛の鉄槌" 指揮官


日付: 2021年10月10日

失踪者たちの交友関係に関する調査が終了した。これから1人ずつ接触を図る。洗礼済み十字架を肌に当てれば人と悪魔の判別は容易だ。どれほど賢い悪魔でも誤魔化すことは出来ない。

最近神夜の姿を見かけない。おかげで確認は手際よく進んでいるが大丈夫なのだろうか?折に触れ話を聞いておこう。

記録者: マスティマ・シーリング、部隊コード-"慈愛の鉄槌" 指揮官


日付: 2021年11月10日

悪魔の疑いがある者たちへ十字架を触れさせたが結果は全員シロだ。こうなると学園外の人物を疑わねばならないのか?どちらにしろ一度本部へ帰還し報告書を提出する必要がある。

神夜から呼び出しの手紙を貰った。こんなことは初めてだ。

記録者: マスティマ・シーリング、部隊コード-"慈愛の鉄槌" 指揮官


日付: 2021年12月23日

自分の愚かさに反吐が出そうだ。あんなに長い時間を共に過ごした相手の身内すら疑うことを忘れていた。いや、むしろ長く共に過ごしたからこそかもしれない。心のどこかで彼女の周りに疑いの目を向けたくないと思っていたのだろう。その結果がこれか。彼女自身に罪は無くとも、異教の悪魔を見逃すわけにはいかない。本当か、本当に彼女は討伐されなければならないのか。

両親の犯した悍ましき罪の咎がなにゆえ子に降り掛かるのか

部下たちに事実を伝えれば彼らは神夜を討とうとするだろう。説得は難しいかもしれないが、何も伝えず神夜と逃げるのはもっと悪手だ。説得に失敗したその時は命を懸けてでも騎士としての使命を果たす。護るための術を私は持っているのだから。

以下は日誌の内容に関するインタビューログです。


対象: SCP-2519-JP-A

インタビュアー: 八木 九路研究員

実施日: 2021年12月31日


<記録開始>


八木研究員: インタビューを開始します。ルシール・シバルリーについてお話しいただけますか?

[数刻の沈黙]

SCP-2519-JP-A: 分かりました。良いでしょう。

八木研究員: ありがとうございます。それではまずルシールとあなたの関係について教えてください。

SCP-2519-JP-A: たった一人だけの友達。最初からそう言っているでしょう?

八木研究員: 記録と証言を精査した結果、あなたは彼女の転入直前に周囲との交友関係を一方的に断絶したようですね。唯一の友人となるよう意図的に行動したのではないですか?

SCP-2519-JP-A: それは……アイツら、私を生んだくせに「お前なんて娘じゃない」とかほざいた奴らの書いた筋書きと私の状況がそっくりだったのが気に入らなかったからぶっ壊してやっただけ。ルシールが転入してきたのは偶然よ。

八木研究員: 筋書きと言うのは「夜のお姫様」ですか。本のあらすじにはこうありました。"彼女はお城のみんなと仲良しでした"。あなたは自分の状況と本の内容が似通っているのをよしとしなかったわけですね。

SCP-2519-JP-A: 考えてもみてよ。私は相手の事を何も知らないのに、学校中の誰もが自分に馴れ馴れしく話しかけてくるのよ?もっと気味が悪いのは急に絶交したのに誰も何も言わない事だわ。陰口の1つすら言ってこないなんておかしいでしょ。

八木研究員: そうですね、あまり良い心地はしないでしょう。

SCP-2519-JP-A: ルシールだけは普通に接してくれたから友達になったの。結局は彼女にも裏切られたけどね。

八木研究員: 彼女との間に何があったのですか?

SCP-2519-JP-A: 彼女は時々電話で誰かと話していたの。何を話しているのか聞いても教えてくれなかったわ。だから盗み聞きしちゃった。全部は聞こえなかったしよく解らない言葉もあったけど、私の名前と一緒に「悪魔」やら「討伐」やら「潜入」やら言っていれば、何を企んでいるのか想像がつくわ。ルシールは、いいえ。マスティマ・シーリングは私を油断させるために取り入って来たのよ。せっかくだから洗いざらい教えてあげたわ。

八木研究員: なるほど。次は事件について聞かせていただきます。

SCP-2519-JP-A: あら、それについては初日にお話ししたと思うのだけれど。

八木研究員: あらゆる視点から調査を行った結果、被害者たちを殺害可能だったのはあなたをおいて他にないと我々は判断しました。

SCP-2519-JP-A: どうしてそうなるのかしら?

八木研究員: 決定的な部分のみ伝えます。あなたに提出して頂いた毛髪と被害者たちの体に残っていた未知の液体を検査したところ、同じDNAが検出されました。

[SCP-2519-JP-Aはため息を吐いた]

SCP-2519-JP-A: でもねえ、あれは正当防衛だったわ。あのままじゃ殺されていたのは私の方だったもの。余りにも本の筋書き通りでムカついたわ。

八木研究員: 「夜のお姫様」の終盤ですね。妖精の契りが破られたことで怪物と化した姫が騎士団に討たれる場面。あなたは自分を騎士団に囲まれた怪物だと考えた。

SCP-2519-JP-A: 討たれた怪物は騎士団長の愛が起こした奇跡でお姫様へ戻るけど、私は最初から怪物だもの。殺されたらそのまま死んじゃうわ。さて、そろそろ潮時かしらね。

[SCP-2519-JP-Aの後頭部に亀裂が走り隙間から粘着質の液体に覆われた触腕が出現する]

[SCP-2519-JP-Aが拘束を破壊しつつ立ち上がる]

[八木研究員が扉に向かって走り出す]

SCP-2519-JP-A: さよなら。

[触腕が八木研究員に向かって伸長する]

[八木研究員から1mの地点で触腕が停止、落下する]

SCP-2519-JP-A: は?

[触腕はSCP-2519-JP-Aの体表付近に出現したSCP-2519-JPを境目に切断されている]

[SCP-2519-JP-Aは困惑した様子で周囲を見回し、多方面に触腕が伸長するもののSCP-2519-JPを越えることは無い]

SCP-2519-JP-A: なにこれ、なんでこれ以上伸ばせないの。何かに突っかかってる。どういうこと。

[八木研究員が室外へ退避し機動部隊の出動を要請しつつインタビュー室の閉鎖機構を起動させる]

[周囲を見回していたSCP-2519-JP-Aが前方上方を注視し始める]

SCP-2519-JP-A: [唸り声]まだ私の邪魔をするのか!

[室内のアキヴァ濃度が急激に上昇する]

不明な音声: みよ。大丈夫。

SCP-2519-JP-A: 何が──。

[SCP-2519-JP-Aの前方上方に人型の発光体が出現し徐々に降下する]

不明な音声: 誰にもあなたを傷つけさせない。だから。

SCP-2519-JP-A: やめろ。来るな!

[SCP-2519-JPが後ずさる]

不明な音声: あなたも誰かを傷つけなくて良い。

[発光体がSCP-2519-JP-Aを抱擁する]

[発光体が光度を急激に上昇させ消失する]

[SCP-2519-JP-Aが床に倒れ込む]


<記録終了>


備考: 到着した機動部隊はインタビュー室の床で気絶した状態のSCP-2519-JP-Aを発見しました。監視カメラが記録した人型の発光体とアキヴァ濃度の上昇に関する詳細は不明です。

職員の予想に反し、覚醒したSCP-2519-JP-Aは収容の突破を試みませんでした。遠隔式インタビューに対しSCP-2519-JP-Aは「今は誰とも話したくない」とのみ返答しました。追加のインタビューは保留されています。

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