アイテム番号: SCP-2530-JP
オブジェクトクラス:
SCP-2530-JP-1:Keter
SCP-2530-JP-2:Safe
SCP-2530-JP-3:Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2530-JP-1はその性質上、単体での安定した保管が不可能です。SCP-2530-JP-3以外を使用した保管は行わないでください。実験を行う際は上限を10mlとしてSCP-2530-JP-3から採取し、紙容器を使用します。実験後の容器は速やかに焼却してください。SCP-2530-JP-1に汚染された土壌は掘削除去し、熱処理された後に元の場所へ戻されます。SCP-2530-JP-1の影響を受けた可能性のある職員は、速やかに検査し、必要であれば1週間の間、隔離された状態で生活します。
SCP-2530-JP-2はサイト-8141の低危険度物品収容ロッカーに収容され、定期的に使用しなくてはいけません。使用する際はSCP-2530-JP-3と収容室の安全性が確認された上で、担当職員が移動させてください。
SCP-2530-JP-3はサイト-8141の標準的人型収容室に収容されます。またSCP-2530-JP-3の収容室には台所と一般的な調理器具のある個室が併設されており、セキュリティクリアランス2以上の担当職員に解除権限があります。どちらも床に二重にしたブルーシートを設置し、劣化具合によって交換を行います。SCP-2530-JP-3の収容室に繋がる全ての排水管は焼却炉や熱処理施設に直結していなければいけません。
SCP-2530-JP-3は深刻な軽度の心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患っているため、心理カウンセラーによるカウンセリングを1日1回3日に1回実施してください。担当職員がSCP-2530-JP-3と接触する際は、収容室の外に1名の警備隊員を同伴させてください。
SCP-2530-JP-3は収容に対する協力的な態度と生命維持の必要性により、SCP-2530-JP-2を使用し、"料理"して摂食する事が許可されています。使用の際は担当職員監視のもと、許可した物品のみを提供してください。その他に1日3回分、担当医師の調合した栄養剤を支給します。"料理"の内容はその都度記録され、異常な変化があった場合は監督スタッフに報告されます。実験目的以外で一般的な食品をSCP-2530-JP-3に与えることは決して許可されません。
説明: SCP-2530-JP-1は未発表の酵母菌です。非食品の物質を分解する性質があり、80℃以上の高温で失活します。 SCP-2530-JP-1の異常性は動植物には影響せず、人間が摂取した際に発揮されます。
SCP-2530-JP-1は対象の胃に到着する事で増殖し、非食品の物質を消化する酵素を生成します。SCP-2530-JP-1を摂取した人物は凡そ6時間後、本来の食生活とは無関係に、非食品の物質を食料として欲するようになります。この衝動の強制力は低く、一般的な食事を続ける事で、最長でも1週間程度で解放されます。前述の食生活を継続した場合、3〜4週間程度で消化酵素はSCP-2530-JP-1が生成するものと入れ替わり、一般的な食材は消化不可能な体になります。SCP-2530-JP-1を含んだ消化液の分解速度は、摂取した人物に依存します。また、金属など通常は歯で噛み砕けないものを摂食する場合、それを噛み砕くのに充分な咬合力が瞬間的に発生しています。これを可能にする理屈と、瞬間的な咬合力の限界は判明していません。
SCP-2530-JP-1による危険性の低い症状は以下が挙げられます。
- 腸内に空気中の窒素からアミノ酸を生成する菌が発生。
- 対象の内臓器官に尖った物質や毒性のある物質への耐性。
- 排泄物が水気を含んだ砂岩のようになる。また摂取した物質に関わらず、毒性が検出されない。
SCP-2530-JP-1の存在する土壌は建造物の倒壊や地盤沈下の危険性があるため、2019年2月から全国的な土壌調査と掘削除去が開始されました。現在2020年1月の状態で██つの都道府県での汚染が確認され、調査は未だ継続中です。現在財団が保管しているSCP-2530-JP-1のサンプルは、SCP-2530-JP-3の消化液に含まれるもののみです。
SCP-2530-JP-2は包丁(以下SCP-2530-JP-2-a)とまな板(以下SCP-2530-JP-2-b)のセットです。「GEP」のアルファベットが入ったロゴマークが特徴ですが、このマークは何れの法務局にも商標登録されていません。材質は一般的な木材や金属等に酷似していますが、粒子の構成に違いがあり、正確な材料は不明です。SCP-2530-JP-2-aは食品や生物を切断できず、食品や生物以外の無機物を切断できる事が確認されています。SCP-2530-JP-2-bは端側に四角い非貫通の窪みがあり、内側には表面に軟性のある35℃程度に保たれた空洞が存在します。ここにはSCP-2530-JP-3が使用した際に出る破片を投入しています。破片は凡そ6時間程度で泥水状に融解し、毒性は検出されません。SCP-2530-JP-aによってSCP-2530-JP-2-bを切断する事はできていません。またSCP-2530-JP-2群はSCP-2530-JP-1を含む消化液に耐性を持っていますが、それ以外の強度は一般的な包丁やまな板と変わりはありません。これらの性質からSCP-2530-JP-1とSCP-2530-JP-2は、何らかの関連性があると考えられています。 SCP-2530-JP-2群は██県██町内に存在する洋食レストラン「エンザイム」(以下レストラン)から8組が回収されています。
SCP-2530-JP-3は20歳のアジア系男性であり、確保場所であるレストランで料理人として働いていました。 SCP-2530-JP-3はみどりのだいちプロジェクトによる、長期的な実験の被験者であったと推察されます。SCP-2530-JP-3の体はSCP-2530-JP-1の影響を受けており、回復の見込みはありません。胃腸に約██箇所の裂傷、気管の怪我などの痕がありますが、それらは全て収容以前のものであり、収容後は特筆すべき負傷は起きていません。また鳩尾から下腹部にかけて、伸縮性の高い人工皮膚が移植されています。確保後のインタビューで、元々異食症を抱えていたことが明らかになっています。SCP-2530-JP-3は5年間に捜索願いが出されていた男子中学生と、名前や出身が一致しています。収容当時のSCP-2530-JP-3は重度の栄養疾患 を抱えていました。担当医師の調合した栄養剤を支給してからは、体調が安定しています。
SCP-2530-JP-3は収容当時、財団に対して恐怖心を抱いており、萎縮した態度を取っていました。現在は自分の担当職員に対して好意的な反応を見せており、指示にも比較的協力的です。一人でいることにストレスを感じ易く、時々会話や食事を共にできないか頼んで来ます。
SCP-2530-JP-3は一般的にコックコートとコック帽と呼ばれる衣類を好んで着用します。これらはSCP-2530-JP-3を確保した際に身につけていた衣類であり、この服装で"料理"を行うことはSCP-2530-JP-3のPTSDを軽減することに効果があります。SCP-2530-JP-3が"料理"に好んで使う物品は以下の通りです。
- アルミニウム合金、人工ビスマス、ガラスの破片
- 綿、古紙類、フジ(Wisteria floribunda)の木材、ヒイラギ(Osmanthus heterophyllus)の木材、その枯れ葉
- 水(特に必ず摂取する)
SCP-2530-JP-3に対するインタビューを元に食事を用意する試みは、SCP-2530-JP-3にとっての「飲食可能な味」に達した物が作れなかったため、断念されました。
発見経緯: ██県██町では以前より、ガードレールやコンクリートの原因不明の劣化が起きている情報があり、財団の注目を引いていました。2019/1/24、前述したレストランから警察宛に「店に来た客が暴れている」との通報があり、その後現場に駆けつけた警官隊員が暴れていた男性を鎮圧し、付近を捜索していた財団エージェントが調査に加わりました。店内には通報したSCP-2530-JP-3以外の店員は確認出来ず、SCP-2530-JP-3からの事情聴取を行う過程で、地下に放棄された研究施設を発見しました。
その施設ではSCP-2530-JP-1に関する研究資料、及びSCP-2530-JP-3を含む実験記録が発見されました。これらの資料には厨房で回収したSCP-2530-JP-2と同じロゴマークと共に、みどりのだいちプロジェクトと書かれていました。SCP-2530-JP-3は自分は地下への立ち入りを許可されておらず、この場所の詳細は分からないと発言しています。開いたままの棚や卓上に不自然に空いたスペースがあり、見当たらない店員によって持ち出された後と思われます。
また、暴れていた男性(本名 田中██)はSCP-2530-JP-1の影響を受けていましたが、体質変化が完全ではなかったため、2週間の隔離の後、記憶処理を行った上で解放しました。
補遺2530-JP.1: 以下はレストランから回収された資料の抜粋です。完全版は回収資料2530-JPを閲覧してください。
抜粋元の資料の表紙には「ゴミ問題解消計画とその経過」と書かれていました。
皆さんも知っての通り、地球は深刻なゴミ問題を抱えています。このまま人間がゴミ問題に対して適切な対応策を出さないでいれば、自然は地上も地底も侵され続けるでしょう。この大きな問題を解決する為に始まったのが本計画なのです。
今回開発した酵母菌は人間をターゲットにしていますが、ありがたい事に、2名の協力者を得て試験を行うことが叶いました。どちらも今の食生活に疑問を抱えた者たちです。皆さんも親切にしてくださいね。
本計画が成功することで、新しい仲間の加入も視野に入ることでしょう。人間が生きる中で、食事は日常的な楽しみになっています。物が食べられなくなるのは嫌だから断ったけれど、食事が続けられるのなら……その上、自然を守る事にも繋がるのなら……我々の仲間に加わってくれる人間は増えるに違いない。私はそう信じています。
どうか我々の計画が新しい食生活と、新しい仲間の加入に繋がりますように。
みどりのだいちプロジェクト
技術開発本部 非生物分解特化部リーダー セキタニ
素晴らしい……術後2ヶ月にしては、彼らの体はよく動いている。これからの効率が楽しみだ。
最初のうちは体重の5分の1以上の重量は食べさせないように。
試験協力者
壱井 瞳…病院に潜入していた仲間曰く、過食症だそうです。自分の容姿へのコンプレックスから、苦しい思いをしていたようですね。仕事のない休日にお声掛けさせていただきました。
試験の経過は順調だったのですが、内臓強度の確認中に、食べ過ぎでお腹を壊してしまいました。今は胃袋を小さくする事で、少量の食事で満足出来るようになっています。予定外の事ではありましたが、この経験は山砥くんの試験に役立つでしょう。
山砥 公明…病院に潜入していた仲間曰く、幼い頃からの異食症だそうです。両親の理解を得られず、苦しい思いをしていたようですね。全寮制の高校に入学するのを切っ掛けにお声掛けさせていただきました。
何度か怪我をすることもありましたが、試験の経過は良好で、最終的に彼の体重と同程度の食事を行える程に丈夫になりました。ただ消化効率は人並みの域を出なかったので、生きたゴミ箱を作る案は保留になりそうです。自分で料理を作りたいと言っているので、██町のレストランに連絡を取りました。
日時: 2019/1/24 21:15
記録場所: レストラン店内。通常21時を閉店時間としている。
記録媒体: 店内に設置されていた防犯カメラ
<映像再生>
(省略)
[21:15:10] (店内はカーテンが締め切ってあり、カウンター席の反対側にある調理場で食器を片付けているSCP-2530-JP-3と、同じコックコートを着た別の店員が映っている。店の扉が開いて田中氏が入店し、SCP-2530-JP-3を見つけるとカウンター席に向かう)
[21:15:12] SCP-2530-JP-3: ああ、いらっしゃいませ。今日は早いですね、何を食べたいですか?(作業の手を止め、調理場から出て来る)
[21:15:15] (田中氏がSCP-2530-JP-3の胸を殴り、SCP-2530-JP-3が倒れる)
[21:15:20] SCP-2530-JP-3: 田中、さん?(体を起こす)
[21:15:22] (動揺した様子の店員が調理場奥の扉を開け、しきりに肩書きらしきものを叫びながら足音が遠退く)
[21:15:24] 田中氏: (SCP-2530-JP-3を見下ろしている体勢)なぁ料理人さん。最近貴方の料理を食べ始めてから、やけに木片や新聞紙が美味しいんですよ。それから今日の昼間、家で釘を見つけたんすよ。それ、俺……食べれちゃったんです。美味しいと思えちゃったんです。流石におかしいだろ?(数秒黙る)これってどういう事なんすか。
[21:15:40] SCP-2530-JP-3: (手を前にして静止のジェスチャーをし、少し後退っている)それは……貴方が僕と同じ悩みを抱えていると言っていたので、力になれたらと。そう思って作ったのですが。
[21:15:50] 田中氏: ああ……確かに俺は貴方に異食症だって打ち明けたよ。他に話せる人も居ないから正直ここは居心地よかった。一昨日のプラスチックみたいな見た目の創作料理も歯切れ良くて美味しかった。でもですよ、あんたあの料理になんかやってるんだろ? じゃなかったら、釘なんて食べて無事なわけ、ない!
[21:16:15] SCP-2530-JP-3: えっ? あの、そういうものを食べられるようになりたいんじゃ……ないんですか?
[21:16:25] 田中氏: は? そりゃそうっすよ。本来食べ物じゃないんだから、進んで食べたいわけないじゃないすか。
[21:16:35] SCP-2530-JP-3: そんな……じゃっ、じゃあ……そんな。僕は、ただ、僕と同じような人が、少し幸せになれたらと思って(鼻声になり、俯く)
[21:16:40] 田中氏: (数秒思案する仕草をしている)ああ、あの時はよく分からんで聞き流してたけど、もうすぐ望んだ胃袋が手に入るって、そういう事か。(屈んで胸ぐらを掴もうとしているように見える)
[21:16:48] SCP-2530-JP-3: ひっ(反射的に踵を返し、調理場奥の扉に駆け込んで扉を閉めている)
[21:16:53] 田中氏: (SCP-2530-JP-3の駆け込んだ扉のドアノブを回し、扉を叩いている)おい、ちょっと! 開けてくださいよ。俺の体は元に戻るんだろうな? なぁ!何とか言ったらどうなんだ!
(以降田中氏は手近な椅子で扉を殴る等していたが、約5分後に警備隊員が店内に乗り込んで来ている)
<再生終了>
付記: 田中氏は事情聴取の際、SCP-2530-JP-3とは異食症の悩みを共有しており、閉店後に特別メニューを出してもらっていたと述べている。
補遺2530-JP.2: SCP-2530-JP-3に対するインタビュー記録になります。緑山薬剤師はSCP-2530-JP-3の担当カウンセラーです。
(これはSCP-2530-JP群収容後、SCP-2530-JP-3への最初のインタビューになります)
緑山薬剤師: はじめまして、SCP-2530-JP-3。私は緑山、君のカウンセリングを担当する者です。よろしくお願いしますね。
SCP-2530-JP-3: 緑山さん……ええと、はい、よろしくお願いします。
緑山薬剤師: 早速ですが、君は元より異食症だったと聞いています。そのようなものを食べるようになったのはいつ頃からですか?
SCP-2530-JP-3: いつ頃かっていうのは……僕も母さんに聞いただけで詳しくは思い出せないんですが、昔からだったそうです。
緑山薬剤師: 思い出せる限り一番古い記憶で構いませんよ。
SCP-2530-JP-3: あの、ええと……どうしてそんな事を?
緑山薬剤師: 平たく言えば、君の事をよく知る為です。傷付ける為ではない事は、私が約束します。話し難ければ日を改める事も出来ますが。
SCP-2530-JP-3: いえ、あーー……大丈夫です。思い出せるのは幼稚園の頃ですかね。僕が誤ってネジを飲み込んで、父さんが、こう(後頭部を叩く動作をする)叩いて吐かせた事があったんです。でもその時は何でそうされたのかわからなくて。だって僕は自分で口に入れたんですよ? 食べられると思ってなかったら、そうはしないじゃないですか。
緑山薬剤師: なるほど。普段の食事の味はどうでしたか?
SCP-2530-JP-3: (数秒黙る)昔から、母さんの料理はそんなに美味しく感じられなかったんです。勿論母さんとしては大好きなんですよ? でも年々美味しくないっていうか、食べ物を食べている気がしなくなって……なんて言うんでしょう。動物っぽい油の臭いが口や鼻に広がって、いろんな味が混ざり合うのに吐きそうになるんですよ。実際に、は、吐いてしまった事も、ありました。
緑山薬剤師: そうでしたか、普段の食事はどうしていましたか。
SCP-2530-JP-3: とにかく水で流し込んで、隠れて戻していましたね……ご飯を吐いたら母さんは僕を病院に連れて行くし、父さんは冷めた顔で何が不満なんだって問い詰めてくるから、たっ食べなくちゃいけなくて。ほとんど噛まずに水で流し込んでました。(次第に涙を溢し始める)父さんがそんなもの食べちゃいけないって、母さんが何かの病気じゃないとおかしいって、なっ、泣きながら食べさせようとするもんだから、食事自体も怖くなってったんです……何を食べて生きたらいいんだろうって、そんなことばっか考えてたんですよ。栄養ゼリー飲みながら、ずっと!
緑山薬剤師: 落ち着いてください、SCP-2530-JP-3。少し休憩を取りますか。
SCP-2530-JP-3: すみません、あ……ごめんなさい、まだ大丈夫です。話せます。
緑山薬剤師: では、続けますね。君を確保した際に見つかった地下の研究施設……あそこから見つかった資料にあった、みどりのだいちプロジェクトについて教えてくれますか。
SCP-2530-JP-3: GEPのことですか?
緑山薬剤師: そうとも書いてありましたね。
SCP-2530-JP-3: ええと……初めて会ったのは高校生になった頃ですね。僕は自然保護団体だと聞いています。それとは別にお医者様をしている人も居るらしくて、僕を診たこともあるって……それから、もし良かったら、本当に好きなものを食べられる体に変われる方法があるって言ってくれたんです。今考えると大分、いやかなり無用心なんですけど、その話に乗っちゃったんですよね。でも、あの時は本当にその事で悩んでいたので……。
緑山薬剤師: なるほど。その後はどうなりましたか?
SCP-2530-JP-3: ええと……(10秒程考える)はっきりとは思い出せないです。ただあの場所では僕の好きなものを食べていいって言われて、それができるようになって、本当に嬉しかったんです。もっと自分のペースで食べれたら、本当に。(顔を伏せる)日に10kg近いプラスチックやら紙屑やらを食べさせられて。日が経つほどその量が増えました。20kg、40kg、年々食べる量は多くなっていきました。あれは何歳だったんだっけ?今と同じくらいの身長になった頃には、口から喉へ管を通されて、胃に直接流し込むような生活でした。胃が裂けてくれたらどんなに楽かと、そういうことを考えていた気がします。ああ……そうです、胃が裂けたりすると治療の為に1ヶ月くらい休めるんですよ。あの時間が一番、ご飯が美味しかったなぁ。料理もさせて貰えたし……。それが治ったらまた、ゴミがどばどば流し込まれて、胃が膨らみ続けて、お腹が鬱血して紫色になるのが恐ろしくて恐ろしくて……。……食事って、ただ口に入れて胃に流すことじゃないでしょう? 作業じゃないですよね。
緑山薬剤師: ええ。
SCP-2530-JP-3: そうですよね。食事って本当は、落ち着くものだと思うんです。作業だったら、地獄ですよ。
緑山薬剤師: ええ。ありがとう、研究所の事はもう結構です。では、あのレストランでは何を?
SCP-2530-JP-3: ああ……試験が済んだって事で、レストランで働かせて貰えるようになったんです。作ったものは僕は食べられないけど、お客さんが食べる様子を見られるのが嬉しくて……人間らしい事が出来て、楽しかったんですよ。僕と似た悩みの人が居ることをGEPの先輩に話したら、僕が飲んだのと同じものを料理に混ぜたらどうかって、協力してくれて……。やっぱりいい人達なんだなって、いい事が出来てるって、思ってたんですけどね。
緑山薬剤師: いい事、ですか。
SCP-2530-JP-3: だって彼なら、同じものを好きな人なら、一緒に食卓を囲めると思ったんです。でも違いました。(顔を上げる)僕と同じ好みを共有してくれる人なんて、居なかったんですね。……いや、違くて。好みの共有とか、そんな事まで望まないけど。好みを否定されずに、急かされもせずに、ただ
(再度顔を伏せ、20秒程鼻をすすって黙っている)
SCP-2530-JP-3: 誰かと食事がしたかったんです。