SCP-2596-JP
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SCP-2596-JP (画像中央)

アイテム番号: SCP-2596-JP

オブジェクトクラス: Keter Safe

特別収容プロトコル: SCP-2596-JPの収容はその規模や異常性から、一般社会への露呈を防止することにのみ注力がなされます。

国内の主要な天文台や大学などのSCP-2596-JPを観測可能な設備が常備されている場所にはCクラス職員を常時配置し、許可された人物以外がSCP-2596-JPを認知した場合には、Aクラス記憶処理を施してください。

説明: SCP-2596-JPは██県██市内上空に位置する恒星です。1790年代に作成された資料にて多く言及されており、一方でそれ以前の言及が皆無であることから、当該年代付近で突如出現した、もしくは観測可能になったと考えられています。

SCP-2596-JPの異常性は発せられる恒星光にあります。一般的に、光源から発される光は光源を中心に全方位へと均一な光度で広がりますが、SCP-2596-JPの恒星光は発散角がちょうど██市を包むよう、極めて局地的に照射しています。よって、SCP-2596-JPや地表に到達するまでの光を██市外で観測することは不可能です。しかしながら、理論上最小の恒星であるとされるEBLM J0555-57Abであったとしても、その光束が██市のような狭い範囲へ限定的に照射された場合、当然██市が受光する光エネルギーは膨大となり到底人間が生存できる環境にはなり得ないため、SCP-2596-JPが「意図的に」光束を調節している可能性や、██市以外にSCP-2596-JPの恒星光を受光している箇所が地球内外に数百箇所存在する可能性が指摘されています。

SCP-2596-JPは肉眼上ではやぎ座デルタ星と凡そ同等の規模1および光度2を保持しているように見受けられますが、先述した異常性により異なる三地点から観測する三角測量や恒星の色と見かけ上の光度の関係を利用する分光視差は不可能なため、地球との正確な距離が不明であり、SCP-2596-JPの構成要素に関する情報は殆ど判明していません。

また、SCP-2596-JPは恒星であり少なくとも地球の重力圏内には存在しないにも拘わらず、あたかも衛星であるかのように地球を中心に公転しています。そのため、██市から観測されるSCP-2596-JPは例え真昼であったとしても、常に同位置に留まり続けているかのように見受けられます。この特異性により、SCP-2596-JPは度々██市の民間伝承のモチーフとして起用され、郷土文化に強く根付きました。

SCP-2596-JPの特異な性質の1つとして、SCP-2596-JPの恒星光に人間に対する精神影響性が含まれることが挙げられます。これは受光した人間の行動を変化させるほどの強制力は存在せず、ただ精神的安定性を補助するのみであり、その性質だけ見れば人間が太陽光を浴びた際に分泌するセロトニンに類似しています。しかし、██市の自殺者数の少なさや街の発展速度の速さ、治安の良さなど、単体では非異常性の範囲を逸脱するとまではいかないものの、他の市と統合的に比較した際には差異が明確に現れるため、二次的な露呈リスクが存在することは確かです。

収容: 当時(1938年)、財団が認知している天体系オブジェクトはごく少数であり知見が乏しかったこと、単純な技術力の不足により使用する薬剤や機器の性能が比較的粗悪であったことから、SCP-2596-JPに対する収容方法の確立は非常に難航しました。以下に提言された特別収容プロトコルおよび██市民へのインタビュー記録を一部抜粋します。

特別収容プロトコル: ██市民全員に選択的Aクラス記憶処理を施す。

結果: 実施。記憶処理剤の精度が低く、SCP-2596-JPに関する記憶を市民から消去しきれなかった。通常のAクラス記憶処理剤を使用することは██市民や周囲の他市民の混乱を招く可能性がある。

特別収容プロトコル: ██市民全員を██市外へと移住させ、今後██市での一般人の居住を禁止する。

結果: 未実施。SCP-2596-JPの露呈リスクは高いもののあくまでも低危険度のオブジェクトであるため、当該オブジェクトのために数万人を移住させるのはあまりにも費用対効果が得られないと考える。

特別収容プロトコル: SCP-2596-JPを、遠方に位置する軍事施設の信号灯から発せられる光であるとカバーストーリーを流布する。

結果: 実施。ある程度は効果的であったものの、戦前からSCP-2596-JPが存在するとの疑念が██市民から多く挙げられ、対応に苦戦した。

[省略]

特別収容プロトコル: 日が沈むたび、██市上空全体を巨大な黒い布で覆う。

結果: 棄却。

特別収容プロトコル: ██市民全員を限定的なEクラス職員とし、SCP-2596-JPに関する一切の情報に箝口令を敷く。

結果: 未実施。██市はSCP-2596-JPの精神影響性により活気があるため、他の市との商売取引が多く情報漏洩のリスクが著しく高い。このような他者の善性を前提としたプロトコルは極力避けるべきである。

 

日時: 1946/01/14
インタビュアー: 藤原研究員 (Cクラス職員 29歳)
対象: 矢部 昇 (██市民 33歳)

補足: このインタビューは██市民が現時点でどれほどSCP-2596-JPを意識しているかを明確にする目的で実施されました。記録の可読性を高めるために、文章を一部修正しています。


[前略]

インタビュアー: この瓦礫の山を片付けるの、本当に骨が折れるなぁ。

対象: しょうがねぇや。正月だからって少し休んでもうたんだから、遅れを取り戻さなきゃならん。ほれ、そっち持ってくれ。

インタビュアー: はいはい、手伝いしたら質問に答えてくださいよっと。

対象: あれか? さっき言ってた「動かない星」ってやつの話かい?

インタビュアー: 聞こえてるじゃないですか! さてはアレですね、私に手伝って欲しいからってワザと聞こえないふりをしたんでしょう?

対象: [笑う] いいじゃねぇか、質問に答えてやんだから。星、星なー。まぁ知ってるけどよ、だから何だって感じだな、正直。

インタビュアー: おや、そうですか。てっきりその珍しさから何か信仰でもあるのかと思いましたけれど。

対象: いやいや無い無い無い。確かにな、あの星さんはワシらがちっせぇ頃に聞かされた昔話っつーかホラ話っつーかによく出てきよったけどよ、別にそれだけだわ。おめえさんアレかい? 都会の方の博士さんかい?

インタビュアー: いや、違いますよ。そんなお金持ってませんって。僕が博士だったなら真っ先に履物を新調しますよ。

対象: 確かに、博士にしてはちょっと小汚いか! [笑い] おい、そっち持ってくれ。せーのっ!

インタビュアー: ……っと、失礼な方ですね。

対象: いや、待てよ? 信仰なら一つあるかもしれん。

インタビュアー: おや、なんでしょう?

対象: ほらアレだ、「お星様が見てる」ってやつ。そっちでは「お天道様」っつーんだろ? 人道を反れることはしちゃいかんみたいな。子供の躾に使うぐらいだが。

インタビュアー: なるほど、まぁ信仰と言えば信仰に入りますね。

対象: だろ? [沈黙] まぁ、天皇さま……様付けして良いんだっけか? 天皇さんも人間になっちまったから、もうあの星くらいしか縋るものしかないかもしれんな。アメリカに隷属しろ言われたらどーするよ。それが敗戦国の末路だとは理解してるがね。

インタビュアー: ……どうにかなるでしょう。人間、前を向いていれば。

対象: そりゃそう! 考えるだけ無駄か。

インタビュアー: それこそ人道を反れてさえいなければ、人間としてある程度は幸せに過ごせると思いますよ。日本人はこれくらいでへこたれません。ここよりもっと都会の方ではもう新しい建物が建っているらしいじゃないですか。やっぱり、最後の芯が強いんですよ、私達って。だから、天皇や星に縋る必要なんてないんです。自分の足で歩いていきましょうよ。

対象: [沈黙]

インタビュアー: ……矢部さん?

対象: 「星に縋る活はやめて欲しい」ってか?

インタビュアー: マジでしょーもないっす。早くそっち持ってください。

対象: [笑い] おめぇさんそりゃ冷たいよ! まぁ「論」ではあるな。

インタビュアー: ガチでつまんねぇ!

[記録終了]

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