SCP-2602-JP
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SCP-2602-JP

アイテム番号: SCP-2602-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-2602-JPの入口は封鎖されます。SCP-2602-JP内部への進入には担当職員3名からの許可が必要です。一般社会において、SCP-2602-JPは財団フロント企業の所有施設として扱われます。

財団ウェブクローラ(Farewell)はインターネット上を監査し、SCP-2602-JPに関する言及の記録と削除を行います。

説明: SCP-2602-JPは███県██市に存在する図書館です。SCP-2602-JPを構成する建築素材や外観に異常な点はありません。利用者の減少を受けて████年に閉館されています。開館期間中に異常性が見受けられなかったことから、SCP-2602-JPの異常性は閉館後に生じたものであると推測されています。

SCP-2602-JPの内部に人(進入者と表記)が進入することを契機として、SCP-2602-JPの内部構造は変容します。SCP-2602-JPの内部空間は異常に拡張され、最果てにあたる壁はたどり着けなくなります。これに伴い、本棚や読書用のテーブル・椅子、書籍検索機なども増加します。これらの物品は非異常です。経路は不明ですが電力も供給されており、外部から電波を受信することも可能です。なお、内部での移動にかかわらず、GPSなどの発信機の位置情報は図書館の入口地点を示します。

SCP-2602-JP内部の気温は19℃ほどであり、湿度も55%を維持しています。内部では常にハム音が生じていますが、進入者はこれに対して不快感を示しません。SCP-2602-JP内に存在する限り、進入者は食事や睡眠、排泄などの生理的行為を行う必要がなくなります。SCP-2602-JP内部では「古紙の香り」と形容可能な匂いが確認可能です。これらを含む非異常の要因により、進入者は精神的に落ち着いた状態となります。なお、SCP-2602-JPからの退却は進入地点に存在するドアから自由に行うことが可能です。

SCP-2602-JP内部に所蔵されている本(SCP-2602-JP-1に指定)は全て無題であり、表紙も無地です。ページ数も実例ごとに異なっていることが確認されています。しかしながら内容は進入者の記憶や経験に基づくもので統一されています。SCP-2602-JP-1を閲読した人物は、そこに書かれている内容の記憶、経験を追体験します。しかしながら、SCP-2602-JP-1を持ち出すことはできません。裏表紙に貸し出し用バーコードが付属していますが、これをスキャンしても表示されるのはエラーコードのみです。そのため、記憶、経験を追体験可能なのは進入者のみとなります。

進入者は時折、SCP-2602-JP内部の不明な地点から風が吹いているという報告を行います。多くの場合において進入者は風を無視して内部探索を続けますが、稀にその場で立ち止まる事例が確認されています。その場合、SCP-2602-JP内では「エンプティ・イベント」と呼称される異常現象が発生します。エンプティ・イベントが発生した場合、進入者は強制的にSCP-2602-JP内から退却させられます。エンプティ・イベントによって退却させられた進入者が再度SCP-2602-JP内部に進入することは不可能です。

SCP-2602-JP内に滞在できるのは1人までです。同時に2人以上の人が滞在することはできません。内部に人が滞在している間、SCP-2602-JPの入口、もしくはそうと見なされる箇所は全て施錠、固定されます。壁を破壊して内部に進入することは、SCP-2602-JPの有する破壊不能性により失敗に終わっています。同時に2人以上の人を進入させようとする試みは、どちらか片方のみが内部に進入するという結果に終わります。


補遺2602-JP.1: 発見

████年より、インターネット上で「不思議な図書館」という都市伝説が拡散されるようになっていました。都市伝説の内容には共通して「見かけ以上に広い内部空間」と「自分の思い出が書かれた本」に関する言及が含まれており、これらの言及対象は共通の図書館であると推測されていました。その後の調査により、SCP-2602-JPの存在が特定され、財団の管理下に置かれました。

インターネット上にはSCP-2602-JP内部に進入したと思われる人物らの書き込みも残されていました。その内容は「立ち止まっていたら図書館から追い出された」というものが大半でした。

財団はSCP-2602-JP内部に進入したと思しき人物らを特定し、インタビューを実施しました。その結果、その人物らの記憶に欠落が見られることが明らかとなっています。これらの内容から、財団はSCP-2602-JPの内部で発生する異常な現象(後にエンプティ・イベントに指定)に記憶欠落の要因があるとして調査を実施しました。詳細は補遺2602-JP.2を参照してください。

補遺2602-JP.2: 調査記録

████年██月、Dクラス職員を用いたSCP-2602-JPの内部調査が実施されました。

内部調査にあたり、担当のDクラス職員(D-2602-1)には最低限の食料とマイク付き小型カメラが支給されました。実験担当チームはD-2602-1に対し、エンプティ・イベントが発生するまでらSCP-2602-JP内部に留まるように指示を出しています。

内部調査ログ2602-JP.1


<記録開始>

SCP-2602-JP内部にD-2602-1が進入する。

D-2602-1: 中はとにかく広いですね。建物の見た目よりも広いと思います。端なんかとてもじゃないけど見えないです。

D-2602-1が深呼吸する。

D-2602-1: えっと、じゃあ、探索を開始します。

D-2602-1がSCP-2602-JP内部を移動する。

D-2602-1: 空調はついてるんですね。閉館されてるって聞いてたので、てっきり電気とか設備は死んでると思ってました。

本棚と読書用のテーブル・椅子、書籍検索機が一定の間隔で配置されている。変わり映えのない光景が続く。

D-2602-1: 本棚、テーブル、機械……。ずっとこればっかですね。

D-2602-1が駆け足で移動する。1分36秒後、駆け足をやめ、徒歩で移動するようになる。

カメラが本棚を映す。無地の背表紙が並んでいる。本の厚さは実例ごとに異なっている。

D-2602-1: 読んでみます。

D-2602-1がSCP-2602-JP-1を手に取り、その場でページを捲る。

D-2602-1: えっと、これは。

D-2602-1がSCP-2602-JP-1のページを捲る。

D-2602-1: 私の、記憶?

D-2602-1はSCP-2602-JP-1のページを捲り続けている。

D-2602-1: やっぱりそうだ。小学生の頃の記憶が書かれてる。懐かしいなあ、よく近所の駄菓子屋に行ってたっけ。

D-2602-1が頭を押さえる。

D-2602-1: 何、これ。

D-2602-1がその場に座り込む。SCP-2602-JP-1のページはD-2602-1によって捲られ続けている。

D-2602-1: すいません、なんか、なんか変な光景が。 [嗚咽] 本に書かれてることが、映像として頭の中に流れ込んできます。少し色褪せてる思い出が、さながら古本屋で見つけた雑誌のように、ずっと。

D-2602-1は依然としてページを捲り続けている。その様子は極度の集中状態にあるかのように見受けられる。

1時間19分後、D-2602-1はSCP-2602-JP-1の全てのページを捲り終えた。SCP-2602-JP-1が床に落ちる。

D-2602-1: [過呼吸] 映像が、止まった?

D-2602-1が床に落ちたSCP-2602-JP-1を見つめている。

D-2602-1: 今のがその、異常な現象ですか?

司令部から「違う」との返答が返される。

D-2602-1: そう、ですか。

D-2602-1が立ち上がる。

D-2602-1: 再開します。

D-2602-1が移動を開始する。暫くして、D-2602-1が本棚から無作為的にSCP-2602-JP-1を取り、傍に設置されていた椅子に座ってそれを読む。D-2602-1は「脳に映像が流れ込む」異常な体験を報告するが、読書は継続している。

D-2602-1が読書を終了する。本をテーブルに置き、椅子から立ち上がる。

D-2602-1: 読書って楽しいんですね。

D-2602-1が移動を再開する。

D-2602-1: 昔は本が嫌いだったんです。特に夏に読むやつは読書感想文書かなきゃだし最悪でした。

D-2602-1: こんなに読書が楽しいって、もっと早く知りたかったな。

D-2602-1が本棚から無作為的にSCP-2602-JP-1を取り出し、読書を開始する。以降72時間に渡り、同様の行為が繰り返される。

司令部がD-2602-1に対し、食事について問う。

D-2602-1: そういえばしてませんね。でもお腹空いてませんし、別にしなくていいんじゃないですかね? 本読むの楽しいから読み続けたいし……トイレもする気になりませんし、眠たくもないです。だからまあ、もう少し読み続けますね。

D-2602-1はその後、1572時間に渡って読書を行った。これにより、観測可能な範囲のSCP-2602-JP-1は全て読み終えたことになる。

D-2602-1が移動を開始する。

D-2602-1: じゃあ、次は何を──

D-2602-1が足を止める。

D-2602-1: 博士。どこか、窓が空いてたりしませんか?

司令部は「そのようなことは確認されていない」と返答を返す。

D-2602-1: じゃあ、これはなんなんですか。

D-2602-1の髪がなびく。

D-2602-1は立ち尽くしている。

D-2602-1: ちょっとこれは……やばいですね。

D-2602-1が本棚に掴まる。空間の奥から風が吹いていることが確認される。

D-2602-1: うわっ。

D-2602-1の眼前を1冊のSCP-2602-JP-1が飛んでいく。該当するSCP-2602-JP-1はそのまま飛翔を続け、カメラの観測範囲から外れた。

無数のSCP-2602-JP-1が飛んでいる様子が記録されている。

D-2602-1: 何これ何これ何これ。

風速が20m/sを超える。

D-2602-1: 博士! 一体何が起きてるんで──

D-2602-1が頭を押さえ、その場に倒れ込む。

D-2602-1: [嗚咽] 本、読んでないのに [不明瞭な発言]。記憶が捲られ [不明瞭な発言] ページが [不明瞭な発言] 本が閉じて──

風速が50m/sを超える。SCP-2602-JP内のテーブルと椅子が飛ぶ。次いで書籍検索機が浮き、最終的には本棚も接地面を離れた。

D-2602-1が昏倒する。右手にはSCP-2602-JP-1を握っているが、風によって吹き飛ばされてしまう。D-2602-1の身体も吹き飛ばされ、空間の奥の方へと流れ着く。

宙に浮く無数のSCP-2602-JP-1、本棚、テーブル、椅子、書籍検索機が記録されている。

風によって吹き飛ばされた本棚がこちらに迫る。

映像と音声が途絶する。

<記録終了>

映像途絶から数時間後、SCP-2602-JP外部の入口付近で倒れ込んでいるD-2602-1が確認されました。D-2602-1は駆けつけた実験担当職員により回収され、適切な処置を受けた後に意識を覚醒させました。D-2602-1の身体に負傷はありませんでした。

マイク付き小型カメラの破損は、吹き飛ばされた本棚との衝突によって引き起こされたものであると断定されました。

D-2602-1は過去の記憶の一部を欠落していました。欠落したとされる記憶群に規則性や共通項は見受けられませんでした。実験後に行われたインタビューにて、D-2602-1は以下のように答えました。

何かを忘れてしまったということはわかります。でも、忘れた記憶が何なのか、大事なことなのかそれともどうでもいいことなのかわからないんです。それがどうにも気になって仕方なくて、なんだか心が落ち着きません。まるで喉に刺さった小骨が取れないように、ずっと頭の中に「忘れてしまった」という実感だけが残り続けています。

実験以降、D-2602-1は欠落した記憶を想起する試みを繰り返しています。ですが、その試みが成功した例は確認されていません。

SCP-2602-JPの実験担当チームはエンプティ・イベントによってもたらされる風が進入者の記憶欠落を引き起こしていると推測しました。しかしながら、どのように記憶の欠落を引き起こしているのかが不明であるため、再度の調査が予定されています。

D-2602-1は偽造記憶を植え付けたうえで別業務に配置されました。以降、D-2602-1がSCP-2602-JP関連業務に割り当てられることはありません。

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