クレジット
タイトル: SCP-2611-JP - Yoko Takatoの著者ページ
著者:
crow_109
作成年: 2021
アイテム番号: SCP-2611-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-2611-JPは非異常のUSBメモリに保存されたテキストデータの状態でサイト-8159の低危険度オブジェクト収容ロッカーに保管されています。万一の喪失に備えて、テキストデータの完全なコピーが保管エリア-59の異常デジタルデータバックアップシステムに保存されています。
研究のためにSCP-2611-JPの内容を分析する試みは、担当する上席研究員の管理下で、SCP-2611-JP-1~11を各々独立したシステムにコピーすることにより行われます。同一システムへ複数のテキストをコピーする行為、あるいは紙等のアナログメディアへの印字は、オブジェクトの異常性質が完全に解明されるまでは推奨されません。SCP-2611-JP各種テキストの担当研究者は、必要な分析が終了した後に、レベルA記憶処理と一週間以上のカウンセリングを受けることが義務づけられています。カウンセリングの結果に問題がなければ、研究者は再びSCP-2611-JPへの研究を再開することが出来ます。
POI-2611-JPの捜索は、機動部隊し-9"志々蟲"が各GOI対策チームと連携しつつ実施します。SCP-2611-JPに特徴の類似した異常オブジェクトを発見した場合、速やかにSCP-2611-JP研究チームへ報告するとともに、関係者を拘束した上で必要な尋問を行って下さい。
説明: SCP-2611-JPは、「高遠 洋子たかとお ようこ」を自称するアマチュア小説家の執筆した全十一編の怪奇小説(以下SCP-2611-JP-1~11)と、オブジェクト全編を読破することによって引き起こされる一連の異常現象の総称です。
SCP-2611-JP-1~11全編を読んだ人間は、ベクター不明の超次元的面積力が全身に発生する異常性を獲得します。面積力の作用方向はランダムですが、力の発生点が踵部分から開始し、その後人体の上部へ向けて移動、最終的に頭頂部へ到達する事は全被害者に共通しています。この面積力は1,000N~10,000N程度の近接作用圧力として表現され、異常性の発生からおよそ10秒以内に被害者の肉体を不可逆的に破壊します。
異常な圧力の作用に開始点と終点以外の共通項が無いにもかかわらず、全てのSCP-2611-JP事象において、
- 被害者の肉体が原型を留めていること
- 被害者の肉体が一見して異常と分かる形態に変形されていること
- 被害者が肉体の変形により致命傷を受けていること
の三点が共通していることは特筆に値します。特に2と3が両立している点については、被害者の絶命が異常性喪失のトリガーとなっている可能性が示唆されますが、Dクラスを用いた実験により、非異常のいかなる外力をもってしても異常性による肉体の変形を阻止することは不可能であると立証されたため、更なる追加実験は現在保留されています。財団による実験を含めたSCP-2611-JP事象の主要なリストは、[被害者一覧-2611-JP]を参照して下さい。
SCP-2611-JPが所謂怪奇小説の体裁を取っていることから、財団霊的実体部門によるテキストの調査が実施されましたが、分析の結果、SCP-2611-JPそれ自体には霊的/超常的実体及び現象を指嗾する効果は認められず、実験においても霊的/超常的実体の出現等は認められませんでした。しかしながら、SCP-2611-JPの文章の一部には平安末期に民間の験者が用いた和歌呪術や謡曲呪術との著しい類似性が見られること、実験に使用したDクラスの霊的実体が何れも死亡直後に消滅しており分析不可能であったこと等から、SCP-2611-JPの異常効果はテキストそれ自体には内在せず、テキストを認識/記憶/理解した知性体の脳が何らかの異常な霊性効果を発揮するための呪術的信号であるとする見解が有力視されています。
尚、実験に使用されたDクラスの多くが、SCP-2611-JPの内容を「非常に面白い」「続きを読まずにはいられない」と評しましたが、SCP-2611-JP研究チームの報告によれば、これらの事象はSCP-2611-JPの異常効果が齎したものではないと結論づけられています。
POI-2611-JPについて: 高遠 洋子(以下POI-2611-JP)は2017年6月に、かつてインターネット上に存在した会員制創作コミュニティ「怪々奇談かいかいきだん」へユーザーとして登録、以後約2年に渡ってSCP-2611-JP-1~11を自作の怪奇小説として同サイトへ断続的に投稿していました。付設された掲示板や専用のチャットアプリケーションにも度々姿を現しており、同サイトに登録している他のアマチュア作家や自身の作品のファンと積極的な交流を行っていました。
POI-2611-JPは登録当時、東京都内の高校に通う15歳の少女と自称していましたが、財団による調査の結果、全てのアクセスは発信元不明のIPアドレスから行われており、また日本国内に存在する「高遠 洋子」と称する人物のうち、POI-2611-JPの特徴と一致する人物は存在しないことが明らかとなりました。POI-2611-JPが年齢/性別その他の属性を偽っていた可能性、国外あるいは財団の調査を免れた要注意団体へと逃亡を試みた可能性も踏まえ、財団は機動部隊し-9"志々蟲"を結成、広範な捜索と関連情報の収集に当たっています。
POI-2611-JPがSCP-2611-JPを作成した動機は、現時点で不明です。補遺1も参照してください。
収容経緯: SCP-2611-JP現象は2019年6月6日、POI-2611-JPがSCP-2611-JP-11を「怪々奇談」サイト上に投稿した同日0時0分から約38分後に全国で散発的に発生し始めました。これはSCP-2611-JP全編を読んでしまったサイト閲覧者が異常効果に曝露した結果と考えられており、全国各地のエージェントから報告を受けた財団収容チームが同日11時にSCP-2611-JP-1~11をウェブ上から完全に削除するまでの間、61名の被害者がSCP-2611-JPの異常効果に曝露したことで死亡しました。被害人物の関係者には適宜インタビューと記憶処理が実施され、各々の状況に応じたカバーストーリーを適用しました。被害者の遺体は調査の後、必要に応じて整形や焼却の措置が施されています。
「怪々奇談」はメンテナンスを口実として財団により一時的に閉鎖され、関係人物の調査が行われましたが、POI-2611-JPを除きSCP-2611-JP現象発生に関わっている人物は存在しないと結論づけられました。POI-2611-JPへはカバーストーリー「サイトからの退会と作家引退」を適用しました。「怪々奇談」は事件発生以降も財団監視下で運用が継続されていましたが、2020年12月、運営者の個人的な都合により閉鎖されています。
補遺1:インタビュー記録2611-JP
対象: 田島 俊之たじま としゆき氏
インタビュアー: エージェント・城丸
付記: 主にPOI-2611-JPのサイト上での活動を調査する目的で実施されたインタビュー。対象の田島氏は「たじまゆきお」のペンネームで活動していた「怪々奇談」の常連アマチュア作家だったが、2018年夏頃より執筆活動を休止していた。
<録音開始,2019/6/19>
(前略)
エージェント・城丸(以下Agt): つまり、当初から高遠さんの作品は評価が高かったと。
田島氏(以下対象): そりゃそうですよ。サイト内ではいつも月間PV数トップ、サイト外でもその出来の良さが話題になるくらいでしたからねえ。最初にボイスチャットで喋ったときは、本当に若い女の子の声でしたから二重にビックリでしたよ。プロフの「十五歳女子高生」はギャグじゃねえか? って専らの噂だったんで[笑い]。
Agt: それだけのクオリティの高さだった、ということでしょうか。
対象: それもありますが、とにかく知識量が物凄くて。面白いストーリーを作るだけなら知識がなくてもある程度は何とかなりますが、彼女の場合、主なテーマが所謂民俗学や土着信仰でして。僕も一応、似たようなテーマを扱ってたんで、聞きかじりや付け焼き刃ではない、きちんと取材して得た情報のバックボーンがあることはすぐに分かりました。
Agt: 田島さんは高遠さんより先にサイトに作品を投稿していますが、彼女が田島さんの作品に影響を受けたということはないのでしょうか。
対象: いやあ、それはないでしょうね。残念ながら、僕の作品が彼女より高い評価を得たことは一度もありませんから。まあ、年の功って奴でしょうか? このネタは以前別のホラー作家も取り上げてたよ、とか、このネタはちょっと危な過ぎるんじゃない? とか、下書き段階でアドバイス的なことをしたことはありますが。彼女の独創性とリアリティは、僕にはとても真似できなかった。ああいうのを天才って言うんでしょうね。
対象: ニュービーの子達に、僕の作品の方が「彼女のパクリだ」って言われたりとか。こっちが先に投稿してんのに。いや別に、罵詈雑言の類いはいちいち気にはしてないんですが、正直、僕なんかがここで書かなくてもいいんじゃないか? という気になってきて。で、昨年の夏に長男が生まれまして、余計に執筆どころではなくなってきたので、いい機会だと思って筆を折っちゃいました。今のところ、サイトへの復帰は考えてないですね。
Agt: なるほど、貴重な情報をありがとうございます。最後に一つ、ご質問していいでしょうか? 「危な過ぎる」とは、具体的にどういったことでしょうか?
対象: あー、[5秒沈黙]なんて言うんですかね。民俗学とか都市伝説とか扱ってると、その、「本当に危ないネタ」にたどり着くことがあるんですよ。時々。
対象: よくある、「読んだら呪われる」とか「見たら死ぬ」系のネタは100%嘘です。だってそんなもの、噂話としてネットで流通するわけないじゃないですか。仮に本物だとしたら、「この話を読んだら本当に誰々が死にました!」って報告で溢れかえってるはずですよ。「本当にあった呪いの映像」とかね。なら投稿したお前はなんで生きてるんだよ! っていう[笑い]。
対象: でも、「本当に危ないネタ」はそれとは違う。小説のネタにする・しない以前に、自分に身の危険があるから誰にも言えない、とか、専門家のお祓いが必要になる類いのそれです。僕は霊感がないし、こんな小説を書いてきてなんですが、霊とか呪いの類いもそこまで信じてるわけじゃないんですよ。実際、悪霊に襲われたりした経験もないですし。
対象: ただ、そんな僕でも、実際に話を聞いた方とかプロの霊能者の方から、「悪いこと言わないから調べるのはやめとけ」とか「絶対に書くな」って忠告される類いの話が幾つかあったんですよ。それも、ネットやその手の書籍では一切情報がない、「あ、これは本物だな」って直感できちゃう類いのやつが。で、過去に一度、彼女がそれとそっくりなネタを小説で扱ってたことに気付いてしまって。
対象: こっそり聞いてみたんです。「元ネタはこの話ですよね? 僕も聞いたことありますけど、専門家の方から絶対に書くなと忠告されましたよ。本当に大丈夫ですか?」って。
Agt: そうしたら、彼女はなんと?
対象: [頭を掻く]くすくす笑われて、こう言われましたよ。「最後まで読めば解りますよ」ってね。
<録音終了>
終了報告書: 対象が指摘した箇所は、SCP-2611-JP-6の一節であり、安土桃山時代の[削除済]伝承と描写の一部が合致していることが財団の調査により判明した。対象が情報元と明言した自称霊能者は既に非異常性の要因にて死亡しており、追加の調査は現在保留中である。
対象 奈倉 理恵なぐら りえ氏
インタビュアー: エージェント・城丸
付記: 奈倉 良和なぐら よしかず氏の元妻、理恵氏へのインタビュー。良和氏は熱心なPOI-2611-JPのファンであり、投稿直後の6月6日午前0時44分にSCP-2611-JPの異常性へ曝露、全身骨折の為死亡した。対象へはA’クラス記憶処理とカバーストーリー「心臓発作による突然死」を適用済みであるが、情報収集のため、あえて事件に関する記憶の大部分を残存させている。
<録音開始,2019/6/25>
(前略)
エージェント・城丸(以下Agt): 良和さんは頻繁に「怪々奇談」を話題に出されていたのでしょうか。
奈倉氏(以下対象): ええ。私が怖いのはイヤだと言っているのに、何かにつけて新作がどうだとか、この新人がどうだとか言っていましたね。私も最初は抗議していたんですが、別に実害があるわけでもないし、夫の数少ない趣味の一つだったので、そのうち諦めて聞き流すようになったんです。
Agt: 高遠さんの作品は、頻繁に話題に出ていましたか。
対象: そうですね。彼女は凄い、将来は大作家だ、といつもベタ褒めしていました。直接話してみたいとか言い出したときには、自分でモノを書いているわけでもないのにやめなさいよ、と怒りましたけど。本当、女子高生相手に年甲斐もなく……でも、男性が中心の文芸サイトで若い女の子が活躍しているというのは、私としても不愉快な話題ではなかったので、はいはいと言って聞いていましたね。
Agt: なるほど。良和さんが亡くなられたのは、丁度彼女が最後の作品を投稿した日でしたが。
対象: はい。[10秒沈黙]すみません、ありがとうございます。駄目ですね、大分心の整理をつけたつもりだったんですけど。心臓疾患があったわけでもないのに、夜中にホラーなんか読んで興奮したせいだ、と思ったことはありました。でも、大好きな作品を読みながら死ねたんだから、ある意味幸福な最期だったのかもしれません。
Agt: 辛い質問で申し訳ありませんが、最期に良和さんと言葉を交わしたのはいつでしょうか。
対象: 死亡推定時刻が確か……0時45分くらいでしたので、ああ、刑事さんの方がお詳しいですよね。ごめんなさい。本当に亡くなる直前なんです。0時丁度位だったと思います。私が、先に寝るからね、と居間でパソコンに向き合っていた夫に話しかけたんです。
対象: そしたらあの人、ニヤニヤしながらディスプレイを指さしてきて。大体察しがついたので、またか、という顔をして見てみたら、やっぱり高遠さんの新作でした。「一連のシリーズの最終作なんだ」って、興奮気味に言っていましたね。
Agt: 内容については何か言っていましたか?
対象: まだ読み始めたばかりだったようですので……ああ、思い出しました。ちょっと不思議なことを言ってましたね。「タイトルに仕掛けがあった」って。
Agt: 「仕掛け」とは何だったのでしょうか?
対象: さあ……具体的には言っていませんでしたが、最期に笑って一言、こう呟いていました。「なんて悪趣味なホラー作家だ」って。
<録音終了>
補遺2:SCP-2611-JP-1~11タイトルリスト
番号 |
作品タイトル |
作品投稿日 |
備考 |
SCP-2611-JP-1 |
十一話・何が登川を壊したか? |
2017年6月13日 |
初投稿作品/沖縄が舞台と見られる |
SCP-2611-JP-2 |
十話・麻生村の蝶と火よ |
2017年8月20日 |
九州が舞台と見られる |
SCP-2611-JP-3 |
九話・堀口村興亡史 |
2017年9月22日 |
九州が舞台と見られる |
SCP-2611-JP-4 |
八話・讃岐富士の麓で |
2017年11月4日 |
四国が舞台と見られる/翌年3月に一部改稿 |
SCP-2611-JP-5 |
七話・福島祟祟祟祟祟祟祟祟多 |
2018年2月1日 |
広島県が舞台と見られる |
SCP-2611-JP-6 |
六話・(中津) |
2018年3月18日 |
関西地方が舞台と見られる/[削除済]に酷似した呪術的記述あり |
SCP-2611-JP-7 |
五話・芝浦賛歌 |
2018年7月5日 |
関東地方が舞台と見られる/約11万字・全作品で最長/過激な暴力描写あり |
SCP-2611-JP-8 |
四話・野々市岐路 |
2018年9月6日 |
石川県が舞台と見られる |
SCP-2611-JP-9 |
三話・所口村連続怪死 |
2018年12月29日 |
東北地方が舞台と見られる |
SCP-2611-JP-10 |
二話・夕張と賀茂 |
2019年3月3日 |
北海道が舞台と見られる |
SCP-2611-JP-11 |
一話・りわお |
2019年6月6日 |
[削除済] |