補遺: 2020/12/3、財団脳科学部門の研究の副産物として、偶然にSCP-2614-JPと同様の効果が短時間のみ得られるミーム無効化エージェント(SCP-2614-JP´と呼称)が作成されました。以下はSCP-2614-JP´に暴露した被験者に対するインタビュー記録です。
インタビュー記録2614´-2
対象: D-2491
インタビュアー: 蓼石研究員
付記: このインタビューはSCP-2614-JP´の効果が消失したことを確認したのちに行われたものである。
<録音開始>
蓼石研究員: これより被験者D-2491に対するインタビューを始めます。D-2491、あなたはSCP-2614-JP´に暴露したとき、どのような感覚を覚えましたか?
D-2491: なんというかこう、強い麻酔のせいで急に意識が遠くなるような感じだった。でも眠ったり気絶するのとはなんか違う。目は開いたまま、目の前のものがどんな形でどんな色をしてるのか急にわからなくなっていくみたいな。気分の良くないもんだぞあれは。
蓼石研究員: そうですか。しかし、映像記録を見る限りでは、あなたは実験中全くそのようなそぶりを見せていませんよ。
D-2491: は? いや、ううん、確かに……。
蓼石研究員: どうしました?
D-2491: あ、いや、確かに俺はアレを見た後さっき言ったみたいなことになったんだけど、今思い出してみるとその間の記憶もちゃんとあるんだよ。あんたにつまらん質問をいくつもされたのも覚えてる。でも、なんか変なんだ。具体的に何が変なのかはわからないけど。
蓼石研究員: それは気になりますね。また何か思い出したら教えてください。では暴露状態から脱するときには何か感じましたか?
D-2491: ああ。ものすごく言葉にしづらいんだが、なんというか徐々に周りのものに色が付いていくみたいな、そんな感じだった。いや、白黒だったっていうわけじゃなくて、それまで白黒すらわからなかったのが、その、色が色としてわかるようになっていくような……ああクソ、うまく表現できねえ。まあつまり最初と逆のことが起きたわけだ。あ、あと色だけじゃない。机の触り心地とかアンタの声の感じとか、そういうのもわかっていく感覚があった。
蓼石研究員: なるほど。興味深いです。その後、何か変わったことはありましたか?
D-2491: 終わってしばらくは頭がぼんやりして、時々色とか感触がわかりにくいことがあったな。それ以外は普通だ。
蓼石研究員: そうですか。ありがとうございました。ではこれでインタビューを—
D-2491: あっ、ちょっと待ってくれ。イカレてたとき何がおかしかったのか少しわかったかもしれない。
蓼石研究員: そうですか。お聞かせください。
D-2491: さっき俺はお前の質問がつまんなかったって言ったよな?
蓼石研究員: はい。
D-2491: でもあれよくよく考えてみると、素面に戻ってからしかそんなこと思ってないんだよ。
蓼石研究員: はあ。しかしD-2491、あなたは暴露後の問診では非常に退屈した様子でしたよ。
D-2491: え? いやそんなはずは……。
蓼石研究員: ボールペンを取って手持ちぶさたにクルクル回していたのを覚えていませんか?
D-2491: [5秒間の沈黙] ああ、確かに覚えてる。でも退屈だなんて思ってなかった。これだけは確実に言える。適当な言い逃れにしか聞こえないかもしれないが、事実としてそうなんだよ。
蓼石研究員: そうですか、ではあなたは問診中どんな気持ちでしたか?
D-2491: えっと、あー…… [約10秒間黙って考え込む] わから……ない。思い出そうとしても、気持ちも感覚も何も出てこねえ。空っぽだ。でもじゃあなんで俺はあんな……。 [3秒間沈黙] それにアンタの質問もそうだ。アンタには俺がちゃんと話を聞いてるように見えたかもしれないけど、ほんとはアンタの話の意味なんて何も理解してなくて、それどころかその後自分がした話も……な、なんだ、これ。俺は何を—
蓼石研究員: 少し精神的に不安定になってしまっているようですね。今日のところはこれで終了とします。ありがとうございました。
<録音終了>
このインタビュー記録およびSCP-2614-JPの既知の異常性から、SCP-2614-JPの持つ真の異常性は意識論的致死性ではないかという仮説が提唱されています。この仮説によれば、SCP-2614-JPを認識・理解した人間は、その時点で自身の主観的意識およびクオリアを不可逆的に喪失し、意識を有さないものの物質的/行動的な側面からは通常の人間と全く同一な"哲学的ゾンビ"と呼ばれる存在となります。
既に財団ミーム部門と意識論部門の共同研究によって異常ミームが人間の主観的意識に感染する因子であることが示唆されており、SCP-2614-JPによって生じるミーム汚染耐性は、この異常性によって異常ミームの感染先である意識が失われていることが原因であると考えられています。
現在この再評価に基づき、SCP-2614-JPの管轄組織をミーム部門から意識論部門に変更し、SCP-2614-JPの特定および収容を優先度クラスεプロジェクトに再分類することが検討されています。
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